眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#44 閑話 中庭の決闘

「…まじか。」

 アインズはナインズと鏡を覗き込んでいた。

 

「フラミーさんあの格好で魔法なしで戦うのか…?」

 番外席次が相手では今のままでは負けるだろうとアインズは思った。

 アインズのモモンモードと違い、鎧などを魔法で作ってまとっている訳ではないので、身体能力は存分に発揮できるだろうが――なんと言ってもフラミーの右手にはいつもの白い杖、そして左手にはスカート。

 ドレスの裾を踏まないように、フラミーの片手はスカートを摘んでいるのだ。

 

 幸いあの木刀のデータ量ならフラミーはダメージを受けないはずだが――「…しかし…心苦しいな…。」

 アインズは鏡の中を見ると頭をわしわしと掻いた。

 フラミーが木刀で叩かれる姿を落ち着いてまともな精神で見ていられる気がしなかった。

 フラミー狂の男は真夜中の冷蔵庫のモーターのように「うーんうーーん」と声を上げた。

 

「あんま。」

 ナインズはそんなアインズを見上げると呟いた。

「…そうだな…ママだな…。……ママが叩かれ――ママ!?」

 ナインズの唐突なるママ宣言にアインズは思わず顔を覗き込んだ。

「あんま。」

「す、すごい!!九太!!じゃあ、俺は!」

 ドキドキと自分を指差していると、ナインズは「あー」といつもの喃語を口にしてから再び「あんま」と言い、アインズへの興味を失った。

 鏡の中でネイアが弓を引き絞る姿を真似るようにわたわたと手を動かした。

「……パパは無理か…。いや、こうしちゃおれん!フラミーさんにママって聞かせてあげなきゃな!」

 アインズはナインズが鏡に気を取られている間に着替えに向かった。

 ナインズは鏡一杯にフラミーが写ると、きゃいきゃい嬉しそうな声を上げ、鏡の中の人を呼んだ。

「うんま!」

 

+

 

 ネイアが訓練用のただの棒の矢を二本ニンブルへ放つと、クレマンティーヌは木刀を手に、いつものクラウチングスタートのような構えから疾走する。

 後を追うように駆けるレイナースへ振り向きもせずに叫んだ。

「レーナ右!!」

「わかってる!!」

 フラミーを守る者を着実に減らし、番外席次と共に孤立させたい。

 相手は神とは言え魔法詠唱者(マジックキャスター)なのだ。今回魔法は使わないのだから、番外席次とぶつければ勝てるかもしれない。

 自分達の力を見てもらい、有用性を示し、また旅に連れて行ってもらうのだ。

 

 ニンブルが放たれてきた矢を連続で二本弾く。激風の名に恥じぬスピード感だ。

 しかし、武技を使う暇を与えないように、同じく速さを名に冠する"疾風走破"クレマンティーヌは一も二もなく切り掛かった。

「早いですが――光神陛下の比ではないですね!!」

 紅茶をもらい上機嫌のニンブルはクレマンティーヌの木刀を止めた。

 木刀を止めた手には、衝撃の後にじぃんとした感触が広がる。

「あったりめーだろ!」

 しばし木刀を打ち込みあう。

 二人の額には既に真剣な汗が浮かんでいた。

「あんた、それで本気ならこのクレマンティーヌ様には勝てないねー!」

 嘲笑うように告げるとクレマンティーヌは軽々とニンブルから離れた。

「間合いを取る方のセリフとは思えませんね!」

 

 クレマンティーヌは持っていた木刀をニンブルの肩口目掛けて思い切り投げ付けた。ニンブルが木刀に気を取られているうちに、先に弾かれていたネイアの訓練用の矢を二本拾う。

「剣を手放すなんてもう降参ですか?」

 ニンブルは投げられた木刀を余裕を持って弾き飛ばした。

 棒二本に持ち替えたクレマンティーヌは、放たれた矢のようにニンブルの懐に入っていた。

「ゲームオーバーはそっちなんだよぉ!私の得意武器はこっちだっつーの!」

 手加減をやめ、スティレットに見立てた棒を思い切り――穴を開けるつもりで脇腹へ向けて猛スピードで振るう。

 クレマンティーヌは久しぶりの血の匂いを想像し、三日月のように口をパカリと割り笑った。

 しかし、「――ッキャ!」

 ネイアの声に一瞬後方を確認すると、ドスリと刺さるはずだった棒は宙を切った。

 クレマンティーヌが気を取られた隙にニンブルは見事に避けていた。

「っちい!」

 甘くなったものだとクレマンティーヌは自分を心の中で叱責した。

 

 後方ではレイナースの援護射撃を行なっていたネイアが尻餅をつき、その前にニンブルが弾き飛ばした木刀が突き立っていた。

「先輩!すみません!!」

 クレマンティーヌの本当だよと言う悪態が響く。

 

 レイナースは援護射撃を失い、バジウッドに武技を使わせる隙を与えてしまったが、大上段からの一撃をお見舞いした。

「っく…重爆、腕を上げたな!!」

 バジウッドの言葉にレイナースは笑う。

「当然よ!でも――バジウッドは変わらないわ!!」

「こっちはおっさんなんだ!弱くなったと言われない分、褒め言葉だと思うさ!!」

 二人の力は拮抗していた。

 まるで懐かしい訓練を思い出すように技を繰り出し合う。

 しかし、番外席次に放り投げられたナザミが二人に突っ込むと、そんな時間も終わりを告げた。

 

「さぁフラミー様!!お相手願います!!」

「ふふ、がんばろうね!」

 番外席次は僅かな緊張を持ちながらフラミーへ渾身の一撃を送る。

「っだぁりゃぁぁああ!!」

 風を生み出しながら木刀が迫ると、フラミーは開戦前に使った速度を早める悪魔の諸相の効果を存分に使いながら、身を翻らせた。

「だめ、もっと速く攻めてくれなくっちゃ。っさぁ頑張って!」

「は、はい!!」

 番外席次が打ち込むたびに突風が巻き起こる。

 フラミーはスカートを持ったまま全ての攻撃を避け続けていた。

 避ける、逃げるだけはフラミーの得意分野だ。

 フラミーの体は今羽のように軽い。自分のスピードが増している分、周りのものが遅く感じるのだ。

 

「すげぇ…。」

 バジウッドの呟きにレイナースは胸を張った。

「フラミー様は素晴らしいでしょ。」

「すごいですね…。あんな動き…一体どうやって倒すんですか…。」

「まーむりだね。神様は偉大っつーこった。」

「でも番外席次さんもすごいですよ!」

「……しかり。」

 フラミーと番外席次以外は観戦モードに入ってしまっていた。

 フラミーはスカートを持ち、まるで踊るようにひらりひらりと番外席次の攻撃を避け続けていた。

 

 番外席次の攻撃から重さが減り、その額に汗が、そして顔に疲労が浮かぶ。

 隙を見つけてはフラミーは全力で杖を振るった。

 しかし、流石に番外席次には当たらなかった。

 弱いとはいえ九十レベルの近接職だ。

「疲れてきちゃいました?」

「ま、まだいけますっ…!」

 フラミーは真正面から瞳を覗き込んで来る番外席次に眩しさを感じた。

 以前エリュエンティウへ行く時に見た愛を知らない瞳ではない。

 愛を知り、友情を知り、誰かの為に強くなりたいと願うようなものだ。

(やっぱりお友達って良いものだなあ!)

 フラミーはナインズを外の学校に通わせてやりたいと思った。

 アインズにもまだ相談できていないが、ナザリックの外なんてとんでもないと言うだろうか。

 いつの間にかカルサナスへアンデッドを送り終わったデミウルゴスがハラハラしたような顔で観戦している。

 守護者も外の学校なんて反対する気がする。

(でも…ナインズの為だから、ちゃんと皆に相談しないとね。)

 フラミーは避けながら決心すると、よし、と声を上げた。

 このお遊びはここまでだ。

「<完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)>。」

 呟き、杖を放り捨てる。ユグドラシル以来初めて使う魔法だ。

 

 雰囲気が変わった事に気が付いた番外席次は腕で額の汗を拭った。

 フラミーは落ちていた棒切れを拾った。ネイアの放ったものだ。

 光のようなスピードで駆け出す。

 

 いつの間にか増えていた神官達のギャラリーはフラミーの疾走を捉え切ることはできなかった。

 ただ、煌めく翼が天の川のような軌跡を作っただけだ。

 

 番外席次は避けきれないことを悟ると目をギュッとつぶった。

 

 そして、額をコン、と叩かれる。

「惜しかったけど、これで三騎士チームの勝ちですね。」

「…ふ、ふらみーさまぁ。」

 フラミーはいたずらそうに笑うと戦士化を解き、棒を放り捨てた。

 紫黒聖典は番外席次に寄り、健闘を讃え頭をぐしぐしと撫でた。

 神官達やジルクニフ、カベリア達から拍手が上がる。

 

「フラミー様、お疲れ様でございました。」

 杖を拾ってきたデミウルゴスは跪いてそれを捧げた。

「デミウルゴスさん、ありがとうございます。どうでした?」

「使わないのは攻撃魔法だけだと仰ったのですから、もっと色々バフをお掛けになっても宜しかったのではないでしょうか。このデミウルゴス、少しばかり肝が冷えました。」

 杖を受け取ると、胸に手を当て跪くデミウルゴスを立たせようと、手の平を天に向け差し伸ばした。

「また心配かけちゃいました?」

「いつも心配です。――目が離せません。」

 デミウルゴスは困ったように笑い、伸ばされた手の平に口付けた。

「っ…デミウルゴスさんって本当にあつい…。」

「申し訳ありません…。」

 フラミーに手の平を握らせるとデミウルゴスは自分で立ち上がった。

 デミウルゴスのフラミーを見下ろす視線に周りにいる者達は「おや?」と首を傾げた。

 

「っんん、私も肝が冷えたな。」

 現れた声の主を見るとフラミーは頬を緩めた。

「アインズさん、それにナインズも!」

「フラミーさん頑張ってましたね。」アインズはフラミーに微笑むと、周りの神官やジルクニフへ視線を送った。「――お前達、楽にしていいからな。」

 神の子を抱く神の登場に、周りにいた者達は皆慌てて膝をついた所だった。

「頑張っちゃいましたよぉ。ね、バジウッドさん、ニンブルさん、ナザミさん。」

「「「は!」」」

「やれやれ、仕方ない人だな。なるべく魔法を使わない戦闘なんて控えて下さいよ。俺とデミウルゴスの胃に穴が開く前に。」

 アインズはナインズを抱いたまま、片手でフラミーの顔を固定して口付けた。

 デミウルゴスが見るなと言うように手を振り、それぞれ皆視線をさまよわせる。

「でも、一発も食らわないなんてすごかったですね。俺、ちょっとフラミーさん見直しちゃいましたよ。」

「強いでしょう!安心してしばらく任せてくださいね。」

 

 アインズの休暇はまだ続くらしい。

 

「ふふ、ありがとうございます。ああ、そうだ。ナインズ。さっきのフラミーさんに聞かせてあげなさい。」

「さっきの?」

 アインズがナインズのふくふくのほっぺをつつくと、ナインズはアインズの服を掴み胸に顔を埋めた。

「ん?どうしたんだ?ナインズ?」

「ナインズ、半年ぶりのお外で知らない人ばっかりだから怖いのかな?帰ったら聞かせてね。」

 フラミーがナインズの後頭部とアインズの頬にキスすると、アインズはデレリと顔をゆるめた。

「はは。そうか。ナザリックの者達は平気だから人見知りしないのかと思ったが…ナインズも慣れない場所は怖いんだな。」

 

 神々のほのぼのとした光景に神官と紫黒聖典は祈りを捧げた。

 

 その後お茶会は終わり、神々がナザリックへ帰るとカルサナスの二人、バハルスの者達も解散となった。

 紫黒聖典と三騎士はまた合同訓練をしようと約束をした。

 

 魂喰らい(ソウルイーター)の引く馬車にすっかり慣れてしまったジルクニフは馬車の中で三騎士に文句を垂れていた。

 いや、主に紫黒聖典に――結果的にでも喧嘩を売ったバジウッドに文句を垂れていた。

「全くフラミー様を戦わせて。せっかくカルサナスを捧げてデミウルゴス殿からある程度評価を改めて貰ったと言うのに。お前達のせいでまたバハルスの地位が下がりでもしたらどうするんだ。」

「まぁ、でも光神陛下も楽しんでらっしゃったみたいだし良いんじゃないすか?」

「お前の気楽さが羨ましいものだ、バジウッド。ところで――ニンブル、お前のそれはなんだ。」

 ニンブルの手の中には小さな紙袋があった。

「え…?えーと…。実は――」

 

 馬車には特大の雷が落ちた。

 

+

 

「え?ジルクニフさんから?」

 後日フラミーの下にはジルクニフからお茶会とニンブルへの土産の礼として、わざわざセイレーン州に買い付けに行かせた高そうなドレスが届いたらしい。




ジルジル、部下に恵まれない…!!

そして本日のフラミー様の戦闘スタイル頂きました!

【挿絵表示】

©︎ユズリハ様です!

次回#45 航海の終わり

11/2に良いものもいただきました!!

【挿絵表示】

↓↓↓こういう流れの後らしいですよ!良いねぇ!!↓↓↓
御身「本日は11月2日。良いタイツの日だそうです」
フララ「うん…そうだね…でも、もう寝るだけなのに」
「本日、仲良くしても良いですか(隠語」
「えっ、え、あ、ハイ…そんな改まって…」
「その際、これを着て頂けませんでしょうか(ズァッ」
「………えっ…」
「このタイツを履いて、仲良くして頂きたく…(ズアッ」
「その熱意怖い!!」
「お願いします!!!!」
「やだーー!」
「お願いします!!!!!!!!!!」

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