「ソロン・ウデ・アスラータ。ウデの民か。君のいう事が真実ならば軍を動かすことはやぶさかではない。しかし、万一それが偽りで我々がここを出ている間に都市を襲われたりしては困る。我々にそれを信じさせるだけの何かを君は持ってきたかな。」
大将のウェルド・グラルズは城壁の改修工事の様子を見に行っていた
斜陽に照らされる部屋には隊長、副隊長クラスの者達が詰めていた。
「煌王国に身一つで
「ふーむ。どうしたものか。」
ウェルドは軍師のロッタに問うような視線を送る。
「グラルズ閣下、この者の城壁での言葉は真に迫るものがありました。都市には私が残りましょう。全隊を連れて行くわけでもありませんし、万一罠だったとしても都市は守れるでしょう。」
「お前が残ってくれるなら安心だな。では一個中隊を連れて行く。」
「お言葉ですが中隊を三個はお連れになった方がよろしいのでは。」
「三個だと?」
ウェルドの驚愕も当然だ。三百人近い軍隊を連れて行くことをロッタが推しているのだから。
「はい。向こうで
ストレートな言葉にウェルドは苦笑した。
「ではロッタ、軍の準備をしろ。私は煌王陛下に出兵の許可を得て来る。」
「かしこまりました。お願いいたします。」
ウェルドは立ち上がり王の下へ向かった。
ここ王都は最大の脅威である
それに、有能なロッタが残ってくれると言うのだ。
安心して出られる。
とは言え――(複数のアンデッドに人間が使役されているなんて事が起こり得るんだろうか…。真実ならば、アンデッドは生者への憎しみを抑えられるだけの知能がある…。)
それに、何人もの人間が使役されていると言っていたが、その人間はどこから誘拐されて来たのだろう。
少なくとも煌王国や近くの獣人と人が暮らす国から人間が消えるなどの話は聞かない。
疑問は尽きないが煌王の部屋の前に着くと、ウェルドは一度思考をやめた。
扉を叩き、名乗ればすぐに入室を許可された。
入れば、煌王とその娘が二人いた。
「グラルズ、このような時間に珍しいではないか。どうかしたかな。」
信頼を感じる声音だ。
肩に触れる髪とたっぷり生える髭は黒に近い茶色で、瞳は力強い輝きを持ち、肉食獣のような印象を与える。
「は。煌王陛下に出兵のご許可を頂きたく参りました。」
ウェルドは
「お父様、それでしたら罠でも真実でもついでに近くの
そう提案したのは五姉妹の長女、マリアネ・グランチェス・ル・マン・アリオディーラ。
十七になったばかりの彼女は絶世の美女だと評判だが――その性格は苛烈だった。
この国には王子が生まれていないため、順当に行けば婿取りをして女王になるだろう。
「お姉さま、そのような事をしては
腹違いの妹、フィリナ・グランチェス・ラ・マン・アリオディーラはマリアネよりも美しくはないが、まだ十三歳と幼い。
彼らは気位が高いし、人間を奴隷として扱う為極力関わり合いを持たないようにしているが、
入国は断らない。いや、断れないのだ。
先天的に魔的な能力を備えている彼らに、
ここ、アリオディーラ煌王国は半島を領土としていて、半島の入り口には蓋をするように最古の森が広がっている。最古の森には
最古の森とは反対側の半島の端にはヴィジランタ大森林が広がり、
それらに囲まれる人間にとってはどちらも目の上のタンコブだ。
「ふふ、
マリアネの目はまるで蛇のようだった。
「正論だ。それに、もしアンデッドがいれば、同じ敵を持つ事で深まる絆もあろう。」
煌王の頷きにフィリナは何かを言いたそうにしたが、それ以上何かを言いはしなかった。
「グラルズよ、聞いた通りだ。アンデッドは居れば当然皆殺し。奴隷にされている人間は、知らせに来た
「は!承りました!では、これにて御前失礼いたします。」
ウェルドは無抵抗の民の虐殺は好かないが、人類の未来の為には時にそう言うことも必要だと知っている。
少し前にはビジランタ大森林に棲む
こう言う地道な積み重ね無くして弱小種族の人間が生き残る道はない。
ウェルドが部屋を去ろうとすると、煌王は「そうだ」と思い出したように声を上げた。
「グラルズ、
足を止め示された物が何かを考え、すぐに思い至る。
「ロッタですか。よくやっております。」
「そうか。しかし、あまり
「煌王陛下、恐れながら彼女は魔法の才にも軍師としての才にも溢れております。代わりになるだけの者はおりません。」
ウェルドはロッタこそ大将に相応しいと思っているが、心苦しくも彼女は大将の補佐、軍師の位置より上には上がれない。
まだ若く、純粋な人間よりも寿命の長い彼女にはまだまだ先もあるというのに。
「分かった分かった。あまり表舞台に出しすぎないようにだけしてくれれば良い。国民感情もあるのだ。」
「は。」
その後、夜の帳が降りた街を大量の部隊が出て行った。
戦争でもあるのかと噂する街の者達に、隊の者達は口々に「アンデッドが人間を使役している」と言って向かう。
イグヴァルジは月も沈む真夜中に、大量の金属鎧を着た者達の足音を聞くと身を起こした。
オリハルコン級の者達はすでに起きて戦闘態勢になっていた。
「おい、起きろ。何かが近付いてくる。」
「…ん…ん?なんだ、この音。」
「わからん。しかし――平和の使者じゃない事は確かだな。」
次々と冒険者達は身を起こし、それぞれの武器に手を掛けた。
「皆さん、抜剣せずにまずは様子を見ましょう。アインズ様は平和的にと仰いました。」
イグヴァルジも当然神の言うことに逆らうつもりはないが――しかし、武勲は上げたい。
(頼む、戦いを仕掛けてきてくれ。)
そう思いながら敵だと思われる足音が正体を見せるのを待った。
そして、姿を見せたのは――何人いるかわからない程の武装した人間。
「……血生臭いな。」
隣のテントにいたモックナックが呟く。
イグヴァルジは静かに頷いた。
「あぁ…これは――死の臭いだ。」
神聖魔導国の冒険者は悟った。
奴等は死を運ぶ軍勢だと。
屈強な者が一歩前へ出た。
その者は小さく「本当にいやがった」と呟いた。
そして続けて口にした言葉に全員が目を向く。
「――アンデッドよ!!よくも
その手の中には濁った緑の瞳を覗かせ絶命している女の
前髪が眉の上で切り揃えられていて、恐怖に歪む表情がよく見て取れた。
「…神王陛下…光神陛下…。」
誰かが悼むように神々の名を口にした。
哀れな最期を迎えたであろう
「光神陛下…どうか、この修羅の地にも生の祝福を…。」
冒険者達は剣の柄に触れたまま、神々へ祈りを捧げた。
「アンデッドよ!!今こそ正義の鉄槌を!!抜剣!!」
屈強な者が剣を抜くと、周りの軍勢も一斉に剣を抜いた。
どうするべきかと皆が
「待たれよ。我々はこの大陸に来て初めて
冒険者達はオォと歓声を上げた。
流石神に使わされている
こちらは潔白故に魔法的手段を使われても痛くも痒くもないが、それを言い切れると言うのはそれだけ冒険者達への信頼に溢れている証拠だろう。
「アンデッドに精神魔法は効かん!!信じられるはずもなかろう!!さぁ、奴隷達よ、今こそおぞましきアンデッドを討つ時だ!!アリオディーラ煌王陛下はお前達がどこから来た者だとしても救いの手を差し伸べて下さる!!」
「奴隷?」
冒険者達は数度互いを見合った。
その困惑をどう思ったか分からないが、軍は一気に
「
オリハルコン級の者の声に皆が動き出す。
「我々は平和の使者として神魔大陸より来た使節団である!!話し合いを!!」
冒険者達は心苦しいが、人間達と剣を合わせた。
「お前達人間だろ!!アンデッドなんか守ってどうしたんだ!?」「奴隷達は
揉み合っていると、ついに一人の冒険者が斬り付けられ――国旗にその血がかかった。
冒険者達の頭には一気に血が上った。
「俺達の仲間によくも!!」「な!?陛下方の旗に!!」
口々に忠誠と航海の家族を傷付けられたことへの怒りを叫ぶ。
そして、これまで冷静に語りかけていた
「――人間共が!!神聖なる旗によくも!!死を!!二度と覚めぬ死をくれてやる!!」
決死の戦いは夜明けまで続いたらしい。
アルベドが事態に気付き、
次回#48 閑話 父上と母上
まずは皆さんお待ちかねのユズリハ様謹製の勢力図です!
【挿絵表示】
おぉ〜!隣の大陸が見えてきましたね!
それから、11/5にいい男の日もらいました!!
本編未登場のギルメンとフラミー様のきゃっきゃうふふがうふふですねぇ!
多分裏の全員転移時空でしょう!
【挿絵表示】
そしてフララコスベータも!
https://twitter.com/dreamnemri/status/1191741075725012993?s=21