眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#48 閑話 父上と母上

「はい、ここだぞ。」

「あぁう、っあ!」

 アインズの指差すところにナインズが謎の言葉を返しながらペタリとアインズの承認印をつくと、おぉー!と守護者達から拍手が上がった。

 アインズの執務室は今日も大賑わいだ。

 

「あぁー!お前は本当に賢いなぁ!!」

 

 アインズがグリグリと頭に顔を埋めると、ナインズは嬉しそうにきゃいきゃい笑った。

「アァー!!!!オボッチャマ!!早ク爺ト訓練ヲ!!爺ハ強イデスゾ!!」

 爺がソファに座るアインズとフラミーの前に身を投げると、ナインズはポンっとその頭にアインズの印を捺した。

 

「っあ!ナインズ、だめでしょう!」

 フラミーが印を取り上げようとすると――「フラミー様!!」

 アルベドの絶叫にぴたりと止まった。

 

「は、はひ…すみません…。」

 躾が悪いと叱られる気がする。しかし、ナインズはようやくハイハイを始めたばかり。

 まだ殆ど言葉もわかっていない。

 

「私も!!承認印欲じい"でず!!」

 

「…そ、そうですか。」

 ナインズは守護者達の額や頬、服にまで捺印しまくった。

 皆はぁはぁと息を荒くし、幸せそうにアインズの執務室に転がっている。

「なんか教育に悪い気がするんですけど…。」

「…そうですね。」

 アインズとフラミーは苦笑した。

 

 守護者の転がる執務室でナインズは覚えたての言葉を今日も叫ぶ。

「あんま!あんま!」

「可愛いなぁ。たまにはパパって呼んで欲しいんだけどなぁ。」

アインズはでれでれとナインズの頭を撫でた。

「あんま!あんまー!」

「ふふ。按摩じゃなくてまんま、だろ?」

「あんま!」

ほわほわと眺めながら按摩を求める息子をマッサージしていると、フラミーも笑った。

「可愛いですよね。でも私もぱぱーって言って欲しいなぁ。あんまはもうやめさせたいけど、中々うまく行かないですね。」

「ん?やめさせるほどですか?」

 フラミーが何故まんまと言おうとするのを嫌がるのか分からずアインズは首を傾げた。

 

「だって、息子にアインズ様なんて、ちょっとね。」

 

 困ったように笑うフラミーの言葉にアインズの顔はさっと青くなった。

 

「えっ!?九太!俺はお父さんだぞ!?守護者みたいな事を言うんじゃない!」

 

 ナインズはぽかんと目と口を開けた後、顔をぐちゃっと中心に寄せ、への字にした口をゆっくり開いた。

「っう…うああぁああぁ!!」

「あぁあ。」

 突然大きな声を掛けられたナインズが泣きだすと、フラミーはやれやれとナインズを抱き上げた。

「お父さんは怒ったんじゃないのよ?パパか父上って呼んでほしいだけなの。」

 

 フラミーの不思議な――常闇以来しばらく歌っていた鼻歌を聞くとナインズはすっと落ち着いた。

「よしよし。」

「うんま。」

「私もフラミー様じゃないでしょ?お母さんだよ。」

 アインズはまさかアインズ様とフラミー様なんて呼ばれようとしているとは思いもせず、頭を抱えた。

 

「ど、どうしたら……。」

 

 そして思いついた。

 目の前に転がる判子だらけの守護者達を呼ぶ。

 

「お前達、起きなさい。大事な話がある。」

 よろよろと起き上がった守護者達は恍惚としていた。

 

 

「今日からナインズが私達をお父さん、お母さんと呼べるようになるまでナザリックの者全員――私達をお父さん、お母さんと呼ぶように。」

 

 

 アルベドは鼻血を出すと再び倒れた。

 シャルティアは身を抱くとぶるりと震えてよだれを拭い、コキュートスの大顎はガチガチと音を立てる。

 アウラとマーレは目玉がこぼれ落ちてしまうのではないかと言うほどに目を見開き、デミウルゴスは頭を抱えた。

 

「アインズ様――いえ、…ち、ち、父上様……。」

 デミウルゴスのいつもと違い弾力のない声に何かと視線を向ける。

「わ、私は…フラミー様を………お母さまとは……お呼びできません……。」

 それを聞くと、フラミーはこてりと首を傾げた。

「あら?アインズさんはお父さんでも私はダメですか…?」

「フラミー様…申し訳ございません…。これには深い訳が…。」

「むぅ…。私、貫禄ないからなぁ。」

「いえ!そう言うわけでは…。」

 アインズはちょっとこれは可哀想かとデミウルゴスに手を振った。

「あぁー…良い。お前はフラミーさんの事は引き続きフラミー様と呼んで良い。」

「恐れ入ります。父上様。」

 

 アインズはうむ、と頷くと少し考える。

 呼べと言っておきながら、いざデミウルゴスに父と呼ばれると恥ずかしかった。

「…やっぱりやめておくか…?」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 アルベドはがばりと起き上がると鼻血をササっと拭いた。

「お、お待ちください!!お父様!お母様!デミウルゴスは役立たずですが、私たちはきちんとお呼びできます!!」

 何の躊躇いもなくそう言う娘にアインズは笑った。

 

 デミウルゴスはフラミーへの想いの形故に母と呼ぶ事は出来ないだろうがアルベドはアインズを父と呼んだのだ。

 この娘から向けられる愛の形には常々悩まされていたが、アインズはこれなら大丈夫だと思――「それにしてもお父様の子種から生まれる子から見たらお父様はお爺様?それともお父様なのかしら?」

 

 アルベドの不穏な発言にアインズは眉間を抑えた。

 このサキュバスにとっては、近親者も何も関係ないらしい。

「…アルベド、千回言っているが、私はお前とそう言う関係になるつもりはない。ナインズの前で教育に悪いことを言うとまた減点するぞ。」

 アルベドはふるふると首を振った。

 

「まだ四百七十八回目でございますわ!」

 

四年間でそれだけ言っていれば充分言っている。

「…数えるな。まったくフラミーさんしか嫁にしないと何度言えばわかるんだかなぁ…。」

「何も私も妃になろうと言うんじゃありませんわ!私はただお慰めするだけでも良いのです!」

「…はぁ。お前、少しはデミウルゴスを見習え。」

 

 フラミーは困った様なため息を吐くアインズの頭を撫でた。

「アインズさん、ありがとね。」

「あぁ、いや。当然の話ですよ。」

 

 アインズがフラミーに顔を寄せると、フラミーの膝に座っていたナインズの手がぺたりとアインズの口についた。

「あんま!」

「…九太、お母さんにちゅーさせてくれ…。」

「あんま!」

「九太でも邪魔すると怒るぞ。お仕置きされたいのか?」

 大人気ない父がナインズを猛烈にくすぐり始めると、フラミーは毎日失恋させられているアルベドに向き合った。

「アルベドさん、ごめんね。」

「いえ!とんでもございません!!もちろん私は初めてをアインズ様に捧げた後はフラミー様のお子種を頂――」

 全てを言わせる前にアインズはビッとサキュバスを指差した。

「アルベド!減点!!」

 アルベドはきゅうと小さくなった。

 

「全く不敬な統括でありんす。誰でも良いみたいな発言は御方々を失望させるだけでありんしょう。妾は骨の身の父君一筋でありんす。」

 シャルティアは鼻高々だったが、それを見るアウラの瞳はじとりとしていた。

「シャルティアー…。結局それじゃお父様とお母様を煩わせてるじゃん。」

「あの、僕も、えっと、その、ちゃんと男らしくなったら、お母様をお嫁さんにします!一筋です!」

 マーレの唐突なる宣言にフラミーは頬を緩めた。

 

「本当?楽しみに――」

 全てを言わせる前にデミウルゴスは慌てて口を挟んだ。

「フラミー様!マーレももう子供ではありません!」

 アインズはどう見てもまだまだ子供だろうと心の中で突っ込む。マーレはいつもと変わらぬ愛らしい顔をしていた。

 

「まったく煩い男でありんすねぇ。マーレ。あの男は敵でありんしょう?」

「あ、あの。でも、デミウルゴスさんは昔、時が来たら僕に子作りの声をかけてくれるって、その、言ってくれたんで、多分応援してくれるとは思うんですけど…。」

 

 アインズはやはりナザリックは、こと子育てにおいては最弱集団だと再認識した。

「…デミウルゴス。お前もたまに教育に悪いな?」

「父上様…。私はこの世界に来た時、ナザリック強化に力を入れようと思っていただけで…。」

 

「デミウルゴスさん、マーレで繁殖実験なんてやめてくださいね。」

 

 アインズとデミウルゴスはびくりと震えた。

「それはもう、もちろんでございます。繁殖実験など、ナザリックの者では決して行いません。」

「フラミーさん、繁殖実験なんてもう忘れましょう?俺が悪かったですから。良い子だから、ね?」

 

 フラミーはナインズを抱えるとにこりとナインズに笑いかけた。

 君は繁殖実験の成果じゃないよとでも言うような雰囲気だ。

「うんま?」

「フラミー様じゃないでしょ?お母さんって言ってごらん?お、か、あ、さ、ん。」

「おま?」

「ふふ、そうそう。上手だね。」

 

 微笑むフラミーの傍でアインズとデミウルゴスが苦笑を交わしていると、コキュートスが胸をドンと叩いた。

 

「オ母上、オボッチャマ!爺デスゾ!!」

「いー。」

「オオ!オボッチャマ、ソノ通リデス!!」

 感動しているコキュートスの傍からぴょこりと埴輪が顔を出した。

「ンンンンナインズ様、私は兄上とお呼びください。」

「あー?」

「…兄上でございます。」

 がっかりした様な雰囲気だ。

 

「言えるか。それよりお前、いつからいたんだ。」

 アインズがポコンとパンドラズ・アクターを叩くと、ナインズはおかしそうに笑った。

 パンドラズ・アクターは斜めになってしまった帽子をきちんとかぶり直すと再び口を開いた。

 

「今です、父上。至急お耳に入れたいことが。後追いで出航した死者の大魔法使い(エルダーリッチ)から統括殿に伝言(メッセージ)が繋がらないと私に連絡が。」

 

 アルベドは小さくなっていじけていた。床に何かを指でくりくりと描き続けている。

 

「そうか。それで、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)はなんと?お前のその様子では何かが起きたんだろう。」

「は。上位森妖精(ハイエルフ)と人間に襲われていると。すぐに絶命したようで、通信は切れました。」

 

 体の芯を失っていたような守護者達はシャキリと背筋を伸ばし、瞳には剣呑な輝きが宿った。

 

「敵は上位森妖精(ハイエルフ)か。面白い。我が使節団をことごとく殺しおって。」

 アインズの瞳の奥で炎が上がる。

 

「ところで、何故皆様私とナインズ様の父上を父と呼んでいるんですか?不敬ですよ。」

 パンドラズ・アクターは全守護者を敵に回した。 

 

 その後お父さんお母さんと呼べ作戦は破棄された。




ズアちゃんww
死者の大魔法使い(エルダーリッチ)さんはこれで全滅ですなぁ!

次回#49 蛮国

11/7のイラスト頂きました!見た時「おっほ」と声が上がってしまいました。おっほほ!
いいお腹の日だったそうです!
https://twitter.com/dreamnemri/status/1192455281059352576?s=21
皆はどのお腹が良かったかな!
カラーはこちら!

【挿絵表示】

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