アインズは執務室のナインズプレイコーナーでナインズの小さなあんよに靴下を履かせていたが、駆け込んできたアルベドの報告を聞くと己の耳を疑い硬直した。
「アインズ様!!生死の神殿の
アインズはアルベドからどうするかと問われる声が遠く離れた場所から聞こえて来るように感じた。
攻め込んだことはあったが、攻め込まれた事は初めてで一瞬頭が真っ白になった。
「あんま?」
ナインズが自分を呼ぶ声にハッと我に帰る。
「アルベド、お前はシャルティアとデミウルゴスを呼べ。私はフラミーさんを呼ぶ。」
「か、かしこまりました!!」
アルベドが急ぎ
「ナインズ。お前はいつか我が国を背負う男になるだろう。それまでに私はこの世を平和へ導くと誓おう。」
ナインズ当番に視線を送り、後を任せる。
ナインズはここ幾日も支配者休業のアインズと二人で過ごしたので父が離れて行くのが嫌なのかハイハイをしてついて行こうとした。
「ダメだ、お前はここにいろ。」
アルベドの作ったフラミーぬいぐるみを抱かせると、大人しくなった。
アインズ当番と共にドレスルームへ行き
(
アインズはメイドに服を整えられると歩きながら人の身を燃やし、
こめかみに触れ、コキュートスが近頃手に入れた沈黙都市周辺集落の視察へ出ている支配者バトンタッチ中のフラミーを呼び出す。
フラミーに
リアルでも既読機能の付く連絡手段に辟易していた者は多かったが、送られて来るときは相手が誰だか分からない為、非通知の絶対応答義務のある電話だ。
『はい。私です。』
「フラミーさん。俺です。忙しい所申し訳ないんですけど、ローブル聖王国に
アインズは言いながら
鏡の中には出航時に冒険者を見送った港が蹂躙されていた。
煙があちらこちらから上がり、人の命を守る事を厳命されている
聖騎士達が召喚した天使を空へ上げて行く。
「――ッチ。無理のない範囲で聖王国の死傷者の救助をお願いしたいんで、一度ナザリックに戻って来てもらえませんか?」
『回復と蘇生ですね。私、先に向かいます。コキュートス君と漆黒聖典、陽光聖典も一緒ですし。』
アインズはそんな危ない、と言おうと思うがなんとか飲み込む。
フラミーは決して弱くはないし、アインズにフラミーより信頼できる者などいない。
「――分かりました。俺は紫黒聖典を神都に迎えに行ってから向かいます。」
『わかりました。じゃあ、先に行ってますね。』
「お願いします。」
アインズは
潜った先は平和ないつもの大神殿で、神官達は嬉しそうにアインズへ頭を下げた。
跪こうとするのを手で押しとどめる。
「大至急で紫黒聖典を呼べ。隣の大陸からお客さんだ。ローブル聖王国が攻め込まれている。」
神官達は一瞬驚愕に目を見開き、レイモンが大急ぎで紫黒聖典を呼びに行った。
「
アインズはそう言い残すと再び自分の部屋へ戻った。
それを言うためだけならそれこそ
三百年前にガテンバーグという人間種国家に悲劇が起こった為だ。
この国は
ガテンバーグは
他にも不貞の情報を受け取り妻に手を掛けたら、それが嘘だった、と言う悲劇も
その為に、
フールーダですら
ただ、神殿間の
アインズの部屋にはシャルティアとデミウルゴスが到着していた。
「アインズ様、シャルティア・ブラッドフォールン御身の前に。」
シャルティアがボールガウンを摘まみ、片足を引くように頭を下げると、デミウルゴスもそれに続き頭を下げる。
「デミウルゴス。御身の前に。」
「よく来たな。アルベドから現状は聞いたな。」
「「は。」」
「よし。
言葉は冷静だが、アインズからは焼け付くような憤怒が立ち昇りだした。
守護者達は喉が張り付いたように声を出せなくなった。
「この、皆で付け、私達を育んだ"アインズ・ウール・ゴウン"を侮る不埒者共め。たとえ、知らなかったと言えども許されるはずがない!」
断言し、ふっとアインズの怒りは緩んだ。
そのタイミングで、バタバタと
「神王陛下!紫黒聖典、御身の前に!!」
大慌てで来た様子の四人は僅かに髪型が崩れている。
すぐさま膝をついたが、初めて見るアインズの部屋をソワソワと軽く見渡した。
「来たな。お前達はフラミーさんの聖王国民の救助をサポートしろ。必要時には
「「「「は!!」」」」
「デミウルゴス、シャルティア。お前達は
「「は。」」
それぞれの良い返事を聞くとアインズはふと起動したままの鏡の中に視線を戻した。
ふと、魔法の力で浮かんでいる様子の者が写り込む。
雪のように白い肌に
「…これが
呟くは番外席次。
「っあ!フラミー様!!」
鏡に映ったフラミーが
アインズは口の動きをじっと見た。
「……ぎゃく…さつ…なんか…しらない……。」
デミウルゴスが口に合わせて呟くと部屋の者達は目を見合わせた。
「虐殺なんか知らないですよ!!うちの
「この者もアンデッドに
「違う!!私は、私は――」
フラミーは何と名乗るのが正解かわからず一瞬悩んだが、胸を張り、続々と増える
「――私はフラミー!この神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国を治める者の一人!武器を置き戦闘行為をやめなさい!」
コキュートスは空を見上げていた。
周りでは聖典達が人々の救助と、空から降り注ぐ魔法を弾き返している。
聖騎士団と神官団はフラミーの身を守ろうと周りに天使を寄せた。
「蛮国の主よ、今すぐアンデッドより人々を開放せよ!そうしなければ――貴様の命はここで尽きる!!」
「な……。良いよ、できるものならやってみせなさい。私達は絶対に何も手放さない。引かない。世界のために、未来のために。」
フラミーの金色の瞳に睨まれた
ゾクリと震える体は、逃げ出せという本能からの訴えだ。
呼吸を忘れ、陸にあげられた魚のように口をパクパクと動かす。
「み、見た目に惑わされるな!清浄に見えても相手はアンデッドの総指揮官だ!!全員やれ!!」
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フラミーに向かって大量の魔法が放たれると、聖王国民と聖典、聖騎士達は悲鳴を上げた。
その身の周りであらゆる色の爆発が起きる。
もうもうと立ち込める煙を前に
一瞬感じた激しい力は気のせいだったのかもしれない。
事実今、煙の中からはあの恐ろしい力は感じないのだから。
しかし、煙から地に落ちていく影が無いため
「……おい、なんだ……。」
誰かが気づいた。
地上の者が陛下と叫ぶ。
煙が風に流され、見えた影は二つ。
「あ…あれは……。」
煙が晴れた場所には、相対していた無傷の女王と、この世から全ての光を消し去るような存在。
眼窩には燃える炎を宿す――死の権化。
「つまらん児戯だ。……よくも私の最も大切な者にふざけた真似をしてくれたな。」
白く細い指が
「いくぞ?――生け捕りだ。」