眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#49 蛮国

 アインズは執務室のナインズプレイコーナーでナインズの小さなあんよに靴下を履かせていたが、駆け込んできたアルベドの報告を聞くと己の耳を疑い硬直した。

 

「アインズ様!!生死の神殿の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)より入伝です!!ローブル聖王国の港湾都市リムンに、我が国の幽霊船に乗った上位森妖精(ハイエルフ)達が!!攻撃を受けています!!」

 

 アインズはアルベドからどうするかと問われる声が遠く離れた場所から聞こえて来るように感じた。

 攻め込んだことはあったが、攻め込まれた事は初めてで一瞬頭が真っ白になった。

「あんま?」

 ナインズが自分を呼ぶ声にハッと我に帰る。

 

「アルベド、お前はシャルティアとデミウルゴスを呼べ。私はフラミーさんを呼ぶ。」

「か、かしこまりました!!」

 アルベドが急ぎ伝言(メッセージ)を飛ばし始める横で、アインズは不穏な空気を察知し泣きそうになっているナインズの頭を撫でた。

「ナインズ。お前はいつか我が国を背負う男になるだろう。それまでに私はこの世を平和へ導くと誓おう。」

 ナインズ当番に視線を送り、後を任せる。

 ナインズはここ幾日も支配者休業のアインズと二人で過ごしたので父が離れて行くのが嫌なのかハイハイをしてついて行こうとした。

「ダメだ、お前はここにいろ。」

 アルベドの作ったフラミーぬいぐるみを抱かせると、大人しくなった。

 

 アインズ当番と共にドレスルームへ行き神器級(ゴッズ)アイテムへ久々に袖を通す。

(上位森妖精(ハイエルフ)。どれ程の力を持つんだ。聖王国には死の騎士(デスナイト)も置いているはずだと言うのに。)

 アインズはメイドに服を整えられると歩きながら人の身を燃やし、死の支配者(オーバーロード)としての姿を取り戻した。

 こめかみに触れ、コキュートスが近頃手に入れた沈黙都市周辺集落の視察へ出ている支配者バトンタッチ中のフラミーを呼び出す。

 フラミーに伝言(メッセージ)を送るのも久しぶりだった。

 伝言(メッセージ)は非常に便利な連絡手段ではあるが、フラミーが何かをしていては邪魔になるだろうとあまり使わない。

 伝言(メッセージ)は必ず受けなければならないと言う強迫観念がかなり強い。

 リアルでも既読機能の付く連絡手段に辟易していた者は多かったが、送られて来るときは相手が誰だか分からない為、非通知の絶対応答義務のある電話だ。

 

『はい。私です。』

「フラミーさん。俺です。忙しい所申し訳ないんですけど、ローブル聖王国に上位森妖精(ハイエルフ)が攻め込んで来ていて――」

 アインズは言いながら遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を取り出し、聖王国の様子を見た。

 鏡の中には出航時に冒険者を見送った港が蹂躙されていた。

 煙があちらこちらから上がり、人の命を守る事を厳命されている死の騎士(デスナイト)が瓦礫の下から怪我人を運び出していた。

 聖騎士達が召喚した天使を空へ上げて行く。

「――ッチ。無理のない範囲で聖王国の死傷者の救助をお願いしたいんで、一度ナザリックに戻って来てもらえませんか?」

『回復と蘇生ですね。私、先に向かいます。コキュートス君と漆黒聖典、陽光聖典も一緒ですし。』

 アインズはそんな危ない、と言おうと思うがなんとか飲み込む。

 フラミーは決して弱くはないし、アインズにフラミーより信頼できる者などいない。

「――分かりました。俺は紫黒聖典を神都に迎えに行ってから向かいます。」

『わかりました。じゃあ、先に行ってますね。』

「お願いします。」

 アインズは転移門(ゲート)を大神殿に開いた。

 

 潜った先は平和ないつもの大神殿で、神官達は嬉しそうにアインズへ頭を下げた。

 跪こうとするのを手で押しとどめる。

「大至急で紫黒聖典を呼べ。隣の大陸からお客さんだ。ローブル聖王国が攻め込まれている。」

 神官達は一瞬驚愕に目を見開き、レイモンが大急ぎで紫黒聖典を呼びに行った。

転移門(ゲート)はこのままにしておく。紫黒聖典が着いたら潜るように言え。先は戦場ではなくナザリックの私の部屋だ。」

 アインズはそう言い残すと再び自分の部屋へ戻った。

 それを言うためだけならそれこそ伝言(メッセージ)でも良いのだが、神官達は伝言(メッセージ)を嫌う。

 三百年前にガテンバーグという人間種国家に悲劇が起こった為だ。

 この国は伝言(メッセージ)による情報網の構築を行った魔法詠唱者(マジックキャスター)を主軸とした国家だった。

 ガテンバーグは伝言(メッセージ)を信頼しすぎたことで、たった三つの虚偽の情報を受け取ったことによって内乱に陥り、そこにモンスターや亜人などの侵攻が重なり滅んだ。

 他にも不貞の情報を受け取り妻に手を掛けたら、それが嘘だった、と言う悲劇も吟遊詩人(バード)達は語る。

 その為に、伝言(メッセージ)を信頼しすぎる者は愚か者と言われている。使用したとしても、必ず別のルートでも情報を得なければいけない。

 フールーダですら伝言(メッセージ)では一々自分と証明する為の何かを伝えなければいけないので、それくらいなら出向いたほうが早いのだ。

 ただ、神殿間の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)による<伝報>は受け手も送り手も神に生み出された者が行っている為、疑う者はいない。

 

 アインズの部屋にはシャルティアとデミウルゴスが到着していた。

「アインズ様、シャルティア・ブラッドフォールン御身の前に。」

 シャルティアがボールガウンを摘まみ、片足を引くように頭を下げると、デミウルゴスもそれに続き頭を下げる。

「デミウルゴス。御身の前に。」

「よく来たな。アルベドから現状は聞いたな。」

「「は。」」

「よし。上位森妖精(ハイエルフ)は生け捕りだ。どう言うつもりなのか聞きだす。私の、この――アインズ・ウール・ゴウンの名の下にいる者達を蹂躙した罪は重い。分かるな。」

 言葉は冷静だが、アインズからは焼け付くような憤怒が立ち昇りだした。

 守護者達は喉が張り付いたように声を出せなくなった。

「この、皆で付け、私達を育んだ"アインズ・ウール・ゴウン"を侮る不埒者共め。たとえ、知らなかったと言えども許されるはずがない!」

 断言し、ふっとアインズの怒りは緩んだ。

 死の支配者(オーバーロード)の身により感情が抑制される。

 そのタイミングで、バタバタと転移門(ゲート)を潜る足音が四つ。

「神王陛下!紫黒聖典、御身の前に!!」

 大慌てで来た様子の四人は僅かに髪型が崩れている。

 すぐさま膝をついたが、初めて見るアインズの部屋をソワソワと軽く見渡した。

「来たな。お前達はフラミーさんの聖王国民の救助をサポートしろ。必要時には上位森妖精(ハイエルフ)の殺害も許可する。」

「「「「は!!」」」」

「デミウルゴス、シャルティア。お前達は上位森妖精(ハイエルフ)の確保と尋問だ。魔眼や呪言でどう言うつもりなのか吐かせろ。場合によっては私の記憶操作(コントロールアムネジア)でも確認する。」

「「は。」」

 それぞれの良い返事を聞くとアインズはふと起動したままの鏡の中に視線を戻した。

 

 ふと、魔法の力で浮かんでいる様子の者が写り込む。

 雪のように白い肌に森妖精(エルフ)よりも長い耳、限りなく白に近い金色の髪。

「…これが上位森妖精(ハイエルフ)…?」

 呟くは番外席次。森妖精(エルフ)の血を引く彼女は他の者と違い、自分に近しい何かを感じているのかもしれない。

「っあ!フラミー様!!」

 鏡に映ったフラミーが上位森妖精(ハイエルフ)に何かを告げた。

 

 アインズは口の動きをじっと見た。

「……ぎゃく…さつ…なんか…しらない……。」

 デミウルゴスが口に合わせて呟くと部屋の者達は目を見合わせた。

 

+

 

「虐殺なんか知らないですよ!!うちの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は絶対にそんな事しません!!」

「この者もアンデッドに魅了(チャーム)を受けているぞ!!」

「違う!!私は、私は――」

 フラミーは何と名乗るのが正解かわからず一瞬悩んだが、胸を張り、続々と増える上位森妖精(ハイエルフ)達に宣言する。

「――私はフラミー!この神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国を治める者の一人!武器を置き戦闘行為をやめなさい!」

 コキュートスは空を見上げていた。

 周りでは聖典達が人々の救助と、空から降り注ぐ魔法を弾き返している。

 聖騎士団と神官団はフラミーの身を守ろうと周りに天使を寄せた。

 

 上位森妖精(ハイエルフ)は透き通る空のような瞳に憎しみを宿した。

「蛮国の主よ、今すぐアンデッドより人々を開放せよ!そうしなければ――貴様の命はここで尽きる!!」

「な……。良いよ、できるものならやってみせなさい。私達は絶対に何も手放さない。引かない。世界のために、未来のために。」

 フラミーの金色の瞳に睨まれた上位森妖精(ハイエルフ)達の背を強烈な恐怖が駆け上がった。

 ゾクリと震える体は、逃げ出せという本能からの訴えだ。

 呼吸を忘れ、陸にあげられた魚のように口をパクパクと動かす。

 上位森妖精(ハイエルフ)達はその瞳をまるで天から地へ渡った稲妻のようだと思った。

 

「み、見た目に惑わされるな!清浄に見えても相手はアンデッドの総指揮官だ!!全員やれ!!」

<魅了(チャーム)>、<正義の鉄槌(アイアンハンマー・オブ・ライチャスネス)>、<束縛(ホールド)>、<炎の雨(ファイアーレイン)>、<緑玉の石棺(エメラルド・サルコファラス)>、<聖なる光線(ホーリー・レイ)>、<呪詛(ワード・オブ・カース)>、<恐怖(フィアー)>、<(ポイズン)>、<傷開き(オープン・ウーンズ)>、<盲目化(ブラインドネス)>、<衝撃波(ショックウェーブ)>、<混乱(コンフュージョン)>、<石筍の突撃(チャージ・オブ・スタラグマイト)>、<聖なる照準(ホーリー・フォーカス)>、<輝きの光線(シャイニング・レイ)>、<魔力吸収(マジックドレイン)>――。

 フラミーに向かって大量の魔法が放たれると、聖王国民と聖典、聖騎士達は悲鳴を上げた。

 その身の周りであらゆる色の爆発が起きる。

 もうもうと立ち込める煙を前に上位森妖精(ハイエルフ)達は口元を緩めた。

 

 一瞬感じた激しい力は気のせいだったのかもしれない。

 事実今、煙の中からはあの恐ろしい力は感じないのだから。

 しかし、煙から地に落ちていく影が無いため上位森妖精(ハイエルフ)は気を抜けない。

「……おい、なんだ……。」

 誰かが気づいた。

 

 地上の者が陛下と叫ぶ。

 

 煙が風に流され、見えた影は二つ。

 

「あ…あれは……。」

 上位森妖精(ハイエルフ)の搾り出すような声も流されて行く。

 

 煙が晴れた場所には、相対していた無傷の女王と、この世から全ての光を消し去るような存在。

 眼窩には燃える炎を宿す――死の権化。

 

「つまらん児戯だ。雑穀はいいとしても……よくも私の最も大切な者にふざけた真似をしてくれたな。」

 

 白く細い指が上位森妖精(ハイエルフ)達に向けられる。

 

「いくぞ?――生け捕りだ。」




次回#50 聴取

あぁ〜いいよいいよ〜煙の中から登場しちゃうのいいよ〜!
usir様に土煙の中から夫婦いただきましたぁ!!

【挿絵表示】


11/8のあらゆるフラミー様をいただきました!©︎ユズリハ様です!
え!?すごすぎるよ今日!!
↓いい歯の日、フラミー様が妖精さんみたい…キャワイイ…

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↓いい泡の日、裏のウルベルトさんと2人転移時空ですね!

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↓いい皮膚の日、同じく裏のウルベルトさん時空ですね!

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↓いいオッパイの日、裏の全員転移時空ですね!

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↓いいオッパイの日②、本編時空ですね!マーレ、目覚める!

【挿絵表示】

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