眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#68 閑話 護衛の皆さん

 その日八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)はフラミー当番も含めてアインズの執務室に集まっていた。

 アインズによって開かれた転移門(ゲート)をまず七匹が潜る。

 そしてすぐ様転移門(ゲート)から顔を出した。

 アインズはいつもと変わらずそれをチラリと確認してからフラミーととある死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と共に転移門(ゲート)をくぐり、後を追うように更に七匹の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)も着いて行った。

 

 支配者はフラミーもいる時はきちんと向こうの安全確認が取れるのを待ってくれるが、支配者だけでトロールの年齢巻き戻し実験などに牧場へ行くときには確認作業を待たずしてすぐさま足を踏み入れてしまうのが八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達の密かな悩みだ。

 

 転移門(ゲート)の先はアインズとフラミー肝いりの街、エ・ランテルの光の神殿だった。

 神々の降臨に居合わせた礼拝客は途端に熱気を帯びた。皆熱心に祈りを捧げる中、進む支配者二人は涼しげで実に優雅だ。

 神殿で待っていたセバスが二人を迎え、必要以上に人間達、亜人達が支配者二人に近付く事を許さない。

 不可視化している八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達はいつでも不敬者の首を落とせるように、脚に格納している刃を出す準備は万端だ。

 最古の森ではアインズに非常に褒められたし、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達のやる気は燃えるようだ。

 

「さぁ、こちらでございます。」

 セバスが二人に話しかけると「道はわかっているぞ?」「ふふ、私とっても久しぶりなんですよね」と返事が返る。

 

 エ・ランテルは今でもフラミーの神でありながら森妖精(エルフ)の冒険者に扮装してここで暮らし、街を守ったと言う話が非常に人気で、特に光の神殿前の広場にはよく吟遊詩人(バード)が来て子供達にその話を聞かせている。

 街はザイトルクワエに破壊されてしまい作り直しとなったが、フラミーがプラムとしてモモンと回った場所や店には人の足が途絶える事はない。

 プラムの足跡を辿る者は非常に多く、旧エ・ランテルの頃から使っている冒険者組合の掲示板などはちっちゃな人気スポットだ。

 そんなものを見てどうするんだと冒険者達は観光客にいつも笑うが、どこか誇らしげなのは気のせいではないだろう。

 ちなみにその昔プラムに絡んだチンピラ紛いの冒険者は、今回航海に出て、牢屋に閉じ込められ、無事に帰ってきた。

 彼らはいつもの宿の一階で、航海中の事や隣の大陸で起きた大スペクタクルを航海に出なかった冒険者達に散々話したらしい。

 もちろん奈落の主(アバドン)の事も。

 五ヶ月後に神都から開通すると言う噂の、隣の大陸への道――鏡に皆が思いを馳せた。

 地図を作りに行き、未知を既知とし、我らが神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国を知らぬ者を探しに行ける日を心待ちにしているのだ。

 航海で行くのは片道二、三ヶ月がかかるし、相当にコストもかかるので海路の発達はまだもう少しかかりそうだった。

 ちなみに冒険者達は今回の航海の報酬は、生活に必要な最低限しか受け取らなかったそうだ。

 何の役にも立てなかった、これは依頼を遂行していない、と言うのが彼らの言い分だった。

 どこの都市の冒険者組合長もそんな冒険者達を連れて飲みへ繰り出したらしい。そして、皆で帰りに神殿に受け取らなかった分の報酬の返却に行き、神官たちにそれはそれは褒められた。

 

 

 光の神殿を後にすると、エ・ランテルには木枯らしが吹き、街をゆく人々はどこかメランコリックな雰囲気だった。

 しかし、二人の神の降臨はこの街の人々を熱狂の渦に叩き込んだ。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達は百レベルのセバスが先導者だからと言って気を抜いたりはしない。

 とは言え興奮している人々も、流石に神に触れようとしたりはしない。

 その程度の身の程も弁えられていない者はこの国にはいないだろう。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達は「異常なし」のサインを次々と送り合う。

 口に出すとここにいる事がバレるし、支配者には普段は空気に徹しろと言われている。

 アインズとフラミーに付く八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)はそれぞれ七匹づつで、十五匹いるうち、一匹は必ず休みを取らされる。

 つまり十五日に一度は休まなければいけないのだ。

 こっそりと一匹紛れ込み護衛していたら支配者にこっぴどく叱られ、終いには全員連帯責任で休暇を言い渡され絶望したのは記憶に新しい。

 それ以来休日は直属の上官であるコキュートスの住まいの大白球(スノーボールアース)の護衛を雪女郎(フロストバージン)と共に行う事にした。

 スズメバチの巣をひっくり返したような形をしている大白球(スノーボールアース)のてっぺんから第五階層を見渡し警護するのだ。

 それは休暇にならないだろうと支配者は言ったが、「ここから粉雪を見るのが趣味です」と答える事でなんとか切り抜けたとか。

 

 

 セバスは今日も手を繋ぐ仲睦まじい二人の支配者を連れて冒険者組合へ向かった。

 冒険者組合の扉は開けられており、やはりここでも八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達は先に建物に入る者と、殿(しんがり)を勤める者の半分に分かれた。

「陛下方!お待ちしておりました!さぁ、こちらへどうぞ。お部屋にお通しいたします。」

 中では相当恐縮している様子の冒険者組合長プルトン・アインザックが支配者達とセバスを迎えた。

 周りには冒険者達が自分達の組合長へ羨望の視線を送っている。

「邪魔するぞ。」「お邪魔します。あぁ、なんだか懐かしいなぁ…。」

 アインズに連れられるフラミーは四年ぶりの組合を感慨深げに歩いた。

 建物は真新しいが、中の備品は全て旧冒険者組合から持ってこられたものだし、受付嬢達とも多少交流があったのだ。

 フラミーは懐かしの受付嬢に手を振り、受付嬢達は勢いよく頭を下げた。

 一行は応接間に通され、アインズは迷わず真っ直ぐに上座へ向かった。

 フラミーもその隣を目指す。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)はアインズが腰を下ろそうとしたソファに糸のほつれを発見し、ぴっと高速でその糸を切って床に捨てた。

 神を座らせるには相応しくないソファだが、この世界はナザリックのような素晴らしい物に溢れているわけではないことを八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達はもうよくわかっている。

 そしてナザリックが如何に神聖で特別な場所なのかを日々再確認してはその背を震わせるのだ。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)がわらわらと天井に上がると、セバスと死者の大魔法使い(エルダーリッチ)はアインズとフラミーの後ろに控えた。

 

「それで、陛下方がお揃いでいらっしゃるなんて…冒険者のことで話があるというのは一体どうされたのでしょう?もしや冒険者は役立たずだから、解散…とかでしょうか…?」

 アインザックの額には不憫なほどに大量の汗が光っている。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達は心の中で「そーだそーだ!」「役立たず!」「少しはお役に立て!」と罵倒した。

 しかし、思慮深き支配者の答えはまるで違う。

「いや、冒険者なんだがな。もう聞いただろうが、実はこのイグヴァルジをうちでもらう事になった。」

 控えていた死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は胸を張った。

 役立たずは役に立てる者に変えられたのだ。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達は物音ひとつ立てずに盛り上がる。

「あぁ、他の"クラルグラ"の者達に聞きました。なんでも、共に航海に出た死者の大魔法使い(エルダーリッチ)殿達の遺志を継ぐため御身のおそばで生きることを選んだと…。」

 下等生物にしては中々見所があるやつだ。

 うんうんと頷く八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達を残して話は進んだ。

「"クラルグラ"にも、冒険者組合にも悪いことをしたな。」

「いえいえ。とんでもございません。冒険者組合としても特別冒険者自身の決定や転身に口を出すような事もありませんので、陛下はどうかお気になさらずに。陛下方に仕えたいと思う者も後を絶たないでしょう。最近では光神陛下にお仕えできると言う詐欺もあった程でしたし。」

「――え?なんですか?それ。」

 謎の飲み物に口を付けようとしていたフラミーは顔を上げた。

 アサシンズも共になんだ?と首を傾げる。そんな中、アインズは知っていたのか、特に訝しむような事もなく、ちらりとフラミーの様子を確認した。

「いえ、何でも光神陛下がメイドを求めているという宣伝をして、高額のメイドレッスン料を取るとか。いざ会場にいくと、そこでは何もやってない、なんて言うありきたりな――」

「えぇ!?私、もうメイドなんていりません!」

「フラミーさん、分かってますから。今裁判にかけてますよ。」

「全く不届きな者もいたものです。陛下方の名を語るとは。何でも都市国家連合の田舎の出の者らしいですね。あそこはどうも好きませんな。」

 支配者達の力を知らない田舎者の存在にアサシンズはシャキンと刃を出し、力むように体を上下に揺すった。

 わさわさと音が立つとアインズは軽くコツン、と肘おきの部分を骨の指で鳴らし、アサシンズは途端に鎮まった。

「そう言うな。もうじきあそこも全てが我が国へとなる。生まれや育ちで差別をするなよ。」

「む…それはもちろんでごさいます…。」

「さて、そろそろお暇しよう。今回冒険者組合には迷惑をかけた。今後もよろしく頼むぞ。」

「は!!そこまでお送りします。」

 アインザックが立ち上がると、アインズは憤慨するフラミーを抱えて転移門(ゲート)を開いた。

 ナザリックに戻るときも八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)は二手に分かれ、転移門(ゲート)の先の安全確認を怠らない。

「いや、気にするな。今日はここから帰る。このままエ・ランテルにいるとうちの妃がパトロールしかねん。」

 アインザックが思わずふっと漏らした笑いは決して何かを馬鹿にした為ではなく、ズーラーノーン事件から人々を守るためにわざわざ街に潜入してくれた女神らしい様子に心をほぐされたためだ。

「もう!パトロールなんてしませんよ!ちょっと見て回ってみるだけです!」

「それがパトロールっていうんですよ。私のかわいい妃はそこの所をあまり分かっていない。」

 アインズがフラミーの鼻をちょいと触ると、アインザックはなんとなく気恥ずかしそうに視線を泳がせた。

「――セバス、お前はどうする。共にナザリックに戻るか?それとも今日はこのままエ・ランテルにいるか?」

「は。共に戻らせて頂きます。今日はスクロールを受け取る約束がありますので。」

「そうか。ではな、アインザック。」

「はっ!」

 アインザックはその場で深々と頭を下げた。

 それはナザリックの守護者がするようなものだった。

 アインズは鷹揚に頷き、フラミーはアインザックに「じゃあ、また」と手を振りながら転移門(ゲート)をくぐっていった。

 

 ナザリックにアインズとフラミーが戻ると、一般メイドから男性使用人、その側で掃除をする天空城で拾ってきた双子猫も喜びのオーラを撒き散らした。

 そんな中、アインズはどこかに行きたげにうずうずするフラミーの頭をくしゃりと撫でた。

「――エ・ランテル、そんなにパトロールしたいんですか?」

「探知阻害して、幻術かけていきますから。おねがぁい。」 

「絶対バレますよ。困ったな。」

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達が何度も頷くと、フラミーはぷくりと頬を膨らませた。

「だって…私の名前が使われて詐欺なんてやなんですもん。」

「解ってます。一応法治国家の建前として裁判にかけてますけど、詐欺グループはニューロニスト行きに決まってますから安心してください。」

「むぅ…。他にたくさん私の名前を使って詐欺する人がいたら?」

「いませんよ。皆俺達を――」アインズはフラミーの耳に口を寄せた。「神様とか言ってんだから。」

 NPC達にそれを聞かせては可哀想だろう。

 彼らだってアインズ達を心の底から神様だと信じているのだから。

「はぁ。本当に"イワシの頭も信心から"ですねぇ。」

 喋る支配者達はフラミーの自室に入った。

 中で遊んでいたナインズはパッと両親へ振り返り、ナインズ番を支えに立ちよたよたと数歩進んだ。

「まんまぁ!ぱっぱぁ!」

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)も部屋に入ると同時に目礼した。

 挨拶の相手はナインズの護衛についている――アインズがなけなしの小遣いで召喚した――八十レベルを超える忍者系モンスターであるハンゾウ五体だ。ハンゾウもアサシンズ同様不可視化している。

「ナイくんもお母さんが詐欺の口実にされるなんてやだよね?」

 フラミーがナインズを抱き上げると、ナインズはアインズに手を伸ばした。

「ぱっぱ、ばぁ。」

「九太はあんまり気にしないみたいですよ。ほら、気分転換しましょう。」

 ナインズを抱いてむくれるフラミーをアインズが抱き上げるマトリョーシカスタイルになると途端に三人の姿はかき消えた。

 

「ア、アインズ様!フラミー様!」「御方々を捜せ!!」「第六階層が怪しいぞ!!」

「ナインズ様!!」「ナインズ様から離れることは許されない!!」「急げ!!」

 

 途端に残された八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)とハンゾウの慌てる声が響く。

 よくある事だ。この護衛達は実に簡単に振り払われてしまう。

 

 この後彼らはアインズ達を探し、これでもかとナザリックを駆け回る。

 それを見るNPC達は皆大いに彼らを応援し、協力する。

 ナザリックの日常であった。




しゅき、あさしんず❤️

次回#69 閑話 図書館と執事

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