眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#85 外伝 魔皇の誕生

 第六階層闇妖精(ダークエルフ)の双子に与えた巨大樹。

「フララも何かNPC作ったら?」

 ぶくぶく茶釜――ピンク色の肉棒(スライム)は突然そう言った。

 膝――と認識されてるいる辺りの曲がっているところにアウラが座っている。

「そうそう!フラちゃんより後から入った人達も作ったし、皆一人ひとつは作ってるんだよぉ!」

 餡ころもっちもちもその膝にエクレアが座っている。フリッパーをフリフリと動かし、腹話術のようにそう言った。

「そうそう。最初にモモンガさんから聞いてるだろうけど、ルールだしね!一レベルなら枠増やすための課金も大した額じゃないよ!」

 マーレを抱く半魔巨人(ネフィリム)のやまいこも笑顔アイコンを出した。

 テーブルに置かれる飾りの茶器を眺める肝心のフラミーはあまりピンと来ていないような雰囲気だ。

「ん〜そうですねぇ〜。モモンガさんとは相談したんですけど、なんか、あんまりうまく浮かばなくって。」

「ははーん、なるほどね。一般メイドや領域守護者だって何だって良いんだよ!」

「まだ地表部は専属いないしねぇ!おかえりなさいするNPCとかどうかなぁ!」

「第十階層だってアルベドは配置されてるけど、あれは第十階層の守護者なわけでもないし!」

 三人はあれこれと提案すると、声を揃えて立ち上がった。

 

「「「何を作るか決める旅に出よう!!」」」

 

+

 

「フラミーさん、ようやくNPC制作ですか〜!じゃあ、私がAI作成担当しますよ。」

 円卓の間にいたヘロヘロは笑顔のアイコンを出して柔らかそうな手を振った。その身はコールタールのように黒く、ドロドロとしている。

「わぁ、ありがとうございます!でも何を作るか決まってなくって。」

「それならメイドをお勧めしますよ。ねぇ、ク・ドゥ・グラースさん、ホワイトブリムさん!」

 ヘロヘロにそう言われた異形達は頷いた。

 この三人は四十一人いる一般メイドを三分の一づつ作った。

「やっぱり一般メイド?」

 やまいこは隅に立つ一般メイドに視線を送った。

 

「いえ、一般メイドはせっかく綺麗に四十一人揃ってるんで。フラミーさん。餡さんの作ったメイド長(ペストーニャ)の専属補佐とかどうですか。執事助手のエクレアなんて物もいるくらいですしね。」

 ク・ドゥ・グラースは餡ころもっちもちが抱っこしているペンギンを示してそう言った。

「何にしてもメイドがお勧めだよ!!メイド服は決戦兵器ですから!!」

 続けたホワイトブリムのアバターの瞳の奥にギラリと光が灯った――ように、女子四人は幻視した。

「…ホワイトブリムさんの話は長くなりそうだ。ここに弟がいなくて良かった。」

 ぶくぶく茶釜が引き気味にそういうのも仕方のない事かもしれない。彼は「メイド服が俺のジャスティス」と言うような謎の男だ。

「ああ…新しいメイドのための衣装…!フラミーさん!一緒に最強のメイド服を考えよう!うーん、どんなのがいいかな。…シンプルなメイド服もいいが、様々に装飾されたメイド服も最高だよな…。つまりはメイド服は何をしても最高だということ。メイド服こそ人類史上最高の発明だ!ビバ、メイド服!!さぁ、メイド服を作ろう!!」

 ホワイトブリムが早口に言うと、やまいこは巨大な手を顔に当ててやれやれと首を振った。

「…メイド服を作るんじゃなくてNPCを作るんだって言ってんのに…。」

 しかし、フラミーは熱心にホワイトブリムの言う事をメモした。

「メイド服は最強…と。」

「…次行こ!!次!」

 茶釜の宣言で女子は円卓の間を後にした。

 円卓の間ではしばらくメイド談義と、互いが作った一般メイドを褒め称え合うと言う紳士のスポーツが開催された。

 

「何の参考にもなんなかったねぇ。」

 餡ころもっちもちの苦笑混じりの声にフラミーは首を振った。

「いえ!ペストーニャの補佐の最強メイドって言う道がちょっと見えました!」

「…いや、メイドはやめよう。ボクはあの中にフラミーさんを送り込みたくない。個人的に。」

「やまちゃんに同感。次はまともそうな人のところ行こう。」

 やまいこは戦闘メイド(プレアデス)のユリを作った時の苦労を思い出した。

 

+

 

 叩きつけるような雪が降る第五階層。

「っくそー。また負けた。」

「建御雷さん、良い勝負でしたよ。」

「いや。たっちさん、俺はちっとも満足してませんよ。――それで、なんだっけ?フラミーのNPC製作?」

 そう言って刀を鞘に収めた武人建御雷とたっち・みーは女子四人が待っていたコキュートスの家である大白球(スノーボールアース)に入った。

「はい!何作ろうか決まらなくって。」

「フララに助言ちょうだーい。あ、メイド以外で。」

 すかさず茶釜は手をあげた。

「せっかく作るならやっぱり強さの頂点を目指したらどうだ?」

「百レベルって事ですか?」

「そうだ、フラミー。もしコキュートスに並ぶNPCを作るって言うなら俺がかわりに百レベル分課金してやってもいいぞ。」

 フラミーはぷるぷると首を振った。

「いえ!作るとしたら一レベルでも百レベルでも自分で課金しますから!」

「そうか?ま、俺から言わせればそんな所かな。たっちさんはどう思います?」

「そうですね。どこに配備するかとか、何レベルにするかとか、細かい事は取り敢えず見た目を決めてから考えるので良いと思いますよ。」

 たっち・みーはセバス・チャンを製作した時に大して設定を書き込まなかった。

 もしかしたら、NPC作成にそうこだわりを持っていないのかもしれない。

 先程のメモにフラミーは「百レベル」「とにかく作ってみる」と書き足した。

「たっちさんのセバス・チャンはそうやって作ったんですか?」

「えぇ、あまりよく考えないでボディーから作りましたよ。私は変身できる種族ならなんでも良かったんですけど、あまのまさんに格好いいベルトの基盤となるベルトの製作を頼んだら、革の黒い普通のベルトを渡されちゃいましてね。もうそれの似合う職業にさせました。年も取らせて。」

 フラミーは首を傾げた。

「ベルトって、革の黒いベルト以外にどんなのがあるんですか?」

 フラミーがメモを手に、そう聞いた瞬間、フラミー以外の全員が立ち上がった。

「よくぞ聞いてくれました!フラミーさん!私の本当に求めていた格好いいベルトと言うのは服を固定するためのベルトではなく、服の上から装着して――」

「あぁ〜!そろそろ次の人の意見も聞きに行かなきゃいけないねぇ?」

「そうそう!約束してるからさ!!えーっと、次はウルベルトさんだから!遅れると怒られちゃうなー!!」

「じゃ、ボク達はこれで!二人ともありがとう!ほら、フラミーさん行こ!」

 三人はフラミーの腕をムンズと掴むと転移した。

「やれやれ。ウルベルトさんじゃ仕方ありませんね。彼は我が儘な体質ですし。」

「そ、そうですね…。じゃ、俺もこれで――」

「いやいや、待ってください。せっかくですから、本当に格好いいベルトを――」

 

 建御雷は特撮変身ヒーローのベルトについて小一時間熱く聞かされた。

 

+

 

 ウルベルトを言い訳にした一行は第七階層を進んでいた。

「はぁ…フララ。たっちさんにベルトの話はやばいよ。」

「はぁ〜うまく脱出できて良かったねぇ〜。」

「ボクは建さんが心配だよ…。」

「ははは。でも、参考になりそうでしたよ。」

 フラミーの気楽な笑いに女子三人は絶対参考にならないと心の中で突っ込んだ。

 

 赤熱神殿に入り、ウルベルトがよく自分の魔法に加えるオリジナル詠唱を考えているデミウルゴスの玉座へ向かった。

 ウルベルトは若干気恥ずかしくなるようなロールプレイを良くするが、強さは本物であり、物理最強のワールド・チャンピオンと対になる魔法最強のワールド・ディザスターのクラスを有している。

 玉座の前に着くと、実に重々しく扉は開いた。

 

「誰ですか。無粋ですね。」

 魔皇モードのウルベルトはソファタイプの大型の玉座に座らせているデミウルゴスの隣に掛けていた。

 デミウルゴスを挟んで、反対側にはモモンガ。

 そして玉座の前に胡座をかいていた、黄金の輝きを翼から落とし続けるペロロンチーノ。

 ペロロンチーノを生贄に異界の魔王達を呼び出したような光景だった。

 

「ッゲ、姉ちゃん。」

「あ、フラミーじゃん。」

「皆さんどうしたんですか?」

「モモンガさん、ウルベルトさん、ペロロンチーノさん、こんにちはぁ。」

 フラミーが頭を下げると釣られて三人も「こんにちは〜」と頭を下げた。

 途端にほのぼのとした雰囲気だ。

「フララにそろそろNPC作ってもらおうと思ってさー。でもうまく思い浮かばないって言うから意見聞きに来てみたわけよ。」

「え!じゃあ俺めっちゃおすすめあるよ!!エロ系モンスターが足りないって思ってたんだよねー!!」

「弟、黙れ。」

 途端にペロロンチーノがしゅんとする中、ウルベルトはフラミーを手招いた。

 

「それなら丁度いいところに来たな、フラミー。見てな。」

 そういうと、ウルベルトはまるで魔法をかけるようにデミウルゴスの光沢のある赤い肌を日焼けしたような色へと変えて行く。

 同時にこめかみの辺りから生えていた、ヤギを思わせる鋭い角は吸収されるように消えていき、漆黒の巨大な翼もその背にメリメリと収納された。

 待たされていた一本の王錫は玉座のそばに浮かべられ、王が着るような真紅の豪奢なローブは赤いストライプのスーツへと着せ替えられた。

 

 デミウルゴスは大きく姿を変貌させた。

 

 そして静かに目を閉じているデミウルゴスのまぶたを上げさせた。

 そこには理知的な赤色の瞳があった。

 ウルベルトは長い爪をその目に入れ――瞳を取り出すと無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)に仕舞った。

 続いてモモンガの手の中にあった二つの美しい宝石を受け取る。

「フラミー、NPCの製作は人の真似をするな。自分の相棒を作るつもりでやれ。皆そうやって唯一無二のNPCを作ってきた。」そう言いながら、輝く宝石をデミウルゴスの虚となった眼窩に納めて行った。「――どうだ?」

 フラミーは新しい瞳を与えられたデミウルゴスを覗き込んだ。

 赤熱神殿の薄暗い玉座の間を照らす、ぼうっとした光を反射させる宝石の瞳はフラミーを夢中にさせた。

「綺麗…。」

「そうだろ、お前は気にいると思ったよ。」

 ウルベルトは笑顔のアイコンを出し、デミウルゴスに丸い眼鏡を掛けてやった。

「よし、これでこいつは今度こそ完成だ。それで、他に聞きたいことは?」

「いえ!やっぱり私、もう一回自分で考えてみようと思います!」

 フラミーも笑顔のアイコンを出すと、今日一日付き合ってくれた友達三人に頭を下げた。

「皆さんありがとうございました!とっても参考になりました!私、行きますね!」

「結局殆ど参考になる人はいなかったけど、なんか一つでも参考になったなら良かったよ。」「俺の意見も参考にしてね〜。」

 ぶくぶく茶釜と、羽交い締めにされるペロロンチーノはそう言った。もちろんペロロンチーノにダメージはない。

「フラちゃんのNPC楽しみにしてるねぇ!」

 抱いているエクレアのフリッパーを振る餡ころもっちもちも笑顔のアイコンを出した。

「ボクも楽しみにしてるよ!フラミーさんならすごい素敵なの作ってくれそうだ!」

 やまいこも満足げにそう言った。

 

 フラミーは自室へ飛んで行った。

 

「じゃ、俺百レベル分課金しようかな。」

 モモンガは今月の給料は…と指折り数えた。




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