眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

277 / 307
#87 外伝 無課金同盟

「モモンガさんって童貞だよね?」

 モモンガは持っていた自分の杖を落とした。

 杖はふわりとその場に浮いた。

「ペ…ペロロンチーノォ!!」

 あるべき場所にギルド武器の収まる円卓の間にモモンガの声が響く。

 そこでダラダラと過ごしていたメンバーは皆モモンガを見ていた。

「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!!」

「えぇ…違うんですか?おかしいなぁ。」

 ペロロンチーノが鼻が鈍ったかなと首を傾げていると、ウルベルトはにひにひと怪しい笑いを漏らした。

「どうみても童貞だろ。モモンガさん、童貞隠し力もっと磨かないと。」

「ウルベルトさん…俺はそんなに童貞っぽいですか…。」

 人生史上いつでもいい人止まり、それ以上の進展を見せた事がない生粋の童貞はガクリと肩を落とした。周りのギルメン達からの生温かい慰めの言葉がさらに傷をえぐる。その場に女子達がいなかった事だけが救いだ。

 モモンガは仕事は営業職だし、別に人と話すのも何の問題もないし、顔も普通。本人は下の部類だと思っているが、中の中だろう。身長も百七十七センチと決して小さいわけでもない。身なりにもちゃんと気を使っている。

 ただ、この男。鈴木悟はとにかく鈍かった。

 一度職場の女性から食事に誘われて出かけ、普通に「おいしかったですねーじゃあまた明日ー」と割り勘で解散したら翌日女性陣から総スカンを食らったのも記憶に新しい。「二次会に誘うのが普通でしょ」だの「あの子あんなに勇気出したのに」だのと女性特有の団結力で色々言われ、反省した鈴木は「すみません…なんか俺、そう言う目で見られてるなんて思いもしなくて…」と謝りに行った所最低宣言を食らった。

 また別の話であれば、ヴァレンタインに好きですと書かれたカードの入ったチョコをサッと渡して去った人を追って「間違えてますよ!」と慌ててそれを突き返した。「危なかったですね。」と綺麗な笑みで言われた女性は帰ってから泣いたが、鈴木はそれを知らない。

 にぶちんだった。

 

「何かこう、ぷんぷん臭うんですよねぇ〜。童貞くささが。」

 ウルベルトは骸骨をじっくりと眺めた。

「…どうしたら良いんですか、それって…。」

「ほら、俺を見習って下さいよ。どうです?俺は童貞っぽいですか?」

 ウルベルトが事もなげにそう言うと、ペロロンチーノはじっと見てから答えた。

「うーん…童貞!!」

「はぁ!?俺は童貞ちゃうわ!!」

 ペロロンチーノが童貞と同定していると、円卓の間の扉が開いた。

「お?無課金同盟がまた三人揃ってる。」

 いつもの女子組を引き連れて来たぶくぶく茶釜がそう言うと、「無課金童貞ちゃうわ!!」とウルベルトは脊髄反射で答えた。

「えぇ…一体なんなんですかぁ…?」

 フラミーの引いた声にウルベルトは「あ…フラミンゴ…」と短く声を漏らすと、咳払いした。

「ンンッ、無課金同盟はもう組んでないって言ったんだよ。モモンガさん、ペロロンチーノ、行こう。」

「…ですね。」「ほほーい!」

 旧無課金同盟は円卓の間を後にした。

 

 地表部に出ると、三人は中央霊廟の屋根の上に上がった。

「フラミーさんってまじで処女膜から声出てますよね〜。」

 ペロロンチーノの発言を聞くとモモンガとウルベルトは一瞬惚け、杖をフルスイングした。

 0ptとダメージが二つ出ると二人は不機嫌そうにドサリと座った。

 ぶくぶく茶釜に後で言いつけようと決める。

「ったく。お前は童貞膜から声出てるぞ、ペロロンチーノ。」

「えぇ?童貞膜って…。俺自分で前立腺刺激したことあるんですけど尻には膜なかったですよ。」

「ったりめぇだろ!!尻に膜なんかあったらどうやってうんこすんだよ!!」

「って言うかほんとにどんなことにチャレンジしてるんだよ…ペロさん…。頭痛くなるわ…。」

「えへえへ、技術の発展は最初に軍事、次にエロと医療に使われるのだ。これはエロの偉大さを物語っている!と言うわけで俺がどんな事やってるか知りたいっすか?モモンガさん。」

「知りたくないわ!!」

 モモンガがキッパリと言い切っていると、ふと遠くで戦闘音がした。そちらを見るとチカチカと魔法が光っている。

「…ん?この辺に珍しいな。おい、ペロロンチーノ、確認しろ。」

「やれやれ、せっかく楽しいオナニストトークしようって言うのに。どっこいしょ。」

 ペロロンチーノはふざけた奴だが、爆撃の翼王とすら呼ばれるプレイヤーだ。

 製作しているシャルティア・ブラッドフォールン同様に本人のキャラクターも強さを追求し、強いスキル構築や職業(クラス)構成に多くの時間を割いて来た所謂ガチビルドである。

 超長距離弓に特化したキャラメイクは最長二キロからの攻撃すら容易だ。

 沼地は視界が開けているため、ペロロンチーノは立ち上がるとスキルを使い音のする方を確認した。

「ペロさん、どうですか?」

「また侵攻だと厄介だな。モモンガさんせっかくレベル取り戻したばっかだってのに。モモンガ玉使うようなことは避けたいな…。」

「ま、またレベルは上がりますから気にしないで下さい。それにしてもモモンガ玉って名前すっかり定着しましたね。」

 モモンガとウルベルトの真剣な声音にペロロンチーノもまた真剣にうなずいた。

「女冒険者達がツヴェーク狩りをしてます。異形にもみくちゃにされるめちゃかわ女冒険者。異種姦も胸が躍りますね。」

「…モモンガさん。こいつ、ツヴェークの群れの真ん中に落とした方がいいんじゃないすか?」

「ギルド投票しますか。俺は賛成ですよ。」

 若干の冷たさでそう話していると、ペロロンチーノは閃いたとばかりに一度スキルを解除した。

「そうだ!!モモンガさん、ウルベルトさん!!俺良いこと思いつきました!!」

「却下。」

「ろくでもないこと思い付かないで下さい。」

「あぁーん!冷たい冷たい!聞いてよ!何って聞いてよぉー!」

 いやんいやんと首を振りながらそう言う鳥にモモンガは渋々尋ねた。

「…なんですか。良いことって。」

 瞬間ペロロンチーノは真面目な調子に戻った。

「よくぞ聞いてくれました!あの冒険者達ナンパして、俺たちの童貞くささを消しましょうよ!!」

 やはりろくでもないことだった。

「…勝手にして下さい。」

「はい!じゃ、まずは俺からっすね!」

「え?――ちょ!待っ!!」

 モモンガの制止も聞かずにペロロンチーノはナザリックを飛び出して行った。

 その後には黄金の煌めきが線を引き、無駄に神々しかった。

「……行きます?」

「行きますか…。」

 一瞬で小さくなって行った背を二人も飛行(フライ)で追った。

「――ん?確かにちょっと可愛いかも…。」

「――多少可愛いっすね。」

 二人はペロロンチーノの後を追いつつ、見えてきた女子達に若干リアルの顔の頬を緩めた。

 男の全てのツボを押さえたような出立ちだ。

 一人は薄桃色の髪に真紅の瞳、ベレー帽をかぶって白いニーソを装備したきゃわきゃわロリスタイル。

 一人はオレンジの髪に丁度いい大きさの胸、露出が程よい魔法詠唱者(マジックキャスター)スタイル。

 一人は黒髪ポニーテールに碧い瞳、大きなリボンを付けた学生スタイル。

「…あれはペロさんだな。モモンガさん、どっちが良い?」

「……何乗り気になってんですか。」

 ウルベルトはそれを無視して再び尋ねた。

「どっち?」

「…俺はこっちの子がいいです…。」

「だと思った。」

 二人がごにょごにょと喋っていると、先に冒険者達の下にたどり着いたペロロンチーノは白ニーソに声をかけた。

 

「そこのロリっ子ぉ!可愛いねぇ!俺と超高級バフ飲料でお茶しなぁい?めっちゃ防御力上がる奴でさ!」

 必死に戦っている女冒険者は答えた。

「あぁ!?バフ飲料だけ置いて消えやがれ、鳥野郎!!」

 図太い声はネカマの証だった。

 ロリ好き男の全てのツボを抑えたような存在は女ではなかった。

 ペロロンチーノは頭上にタライが降ってきたような衝撃を受け、硬直した。

 モモンガとウルベルトはプフッと笑い、「やっぱ童貞の好みは違うわ」「分かり易すぎですよね」と二人陰口を叩きながら、その後ろに降り立った。

 ロリっ子を嗜めている二人の顔がこちらへ向いたところで満を辞して口を開く。

「お嬢さん、レベリングなら手伝って差し上げましょうか?もしよろしければ綺麗なものもお見せしますよ。」

 ウルベルトはシルクハットを軽く上げてどこかで聞いたことのあるセリフを言った。それは一度女子、フラミーで成功体験がある言葉だ。

「このままだとどんどんツヴェーク増えちゃいますしね。結構厄介でしょう?」

 モモンガもゲームのため、気負わずに言ってみる。

 

 ――しかし「何がお嬢さんだよ、いてぇな。綺麗なもの?見たいなんて言うと思ってんのか?」「やっぱ童貞ほいほいスタイルはすげぇや。あんたらこの可愛い俺らに貢いでくれんの?」残りの二人も自分達とそう歳の変わらなそうな男の声だった。

 

 ウルベルトとモモンガも硬直した。

 そして、ウルベルトはぽつりと呟く。

「<魔法詠唱者の祝福(ブレス・オブ・マジックキャスター)>。」

 モモンガも続く。

「<無限障壁(インフィニティウォール)>。」

 それは戦いの始まりを意味するゴングだった。

 二人の怒涛のバフ掛けが始まると、ペロロンチーノもショックからなんとか立ち直り、その体にタスキに掛けていたゲイ・ボウを引き絞った。

 

「――信じてたのに!!俺たち!信じてたのに!!」

 

+

 

「おや?あんな所で戦闘なんて珍しいですね。」

 大量の口が集合したような頭部を持つベルリバーと共に、一狩り済ませて帰ってきたぷにっと萌えは遠くに光る戦いの様子に目を細めた。

 ベルリバーはアインズ・ウール・ゴウン設立時、モモンガがギルドマスターになる事を渋っている時にメールを送った三人の人物のうちの一人だ。「モモンガ以外がギルド長になった場合ギルドが二つに割れる。」と簡潔に記されたメールにモモンガは立ち上がる。ベルリバーはモモンガがギルドマスターにならないなら、モモンガと一緒に別のギルドに行くつもりすらあった。

 

「モモンガがあんな風に熱くなってるなんて本当に珍しいな。」

「あ、戻ってきますよ。」

 二人は戻ってきた三人から清々しいオーラを感じた。

「あ、ベルリバーさん、ぷにっとさんお帰りなさい。」

「モモンガ、また敵襲?」

「えぇ。――奴らは俺らの敵でした。」

 大侵攻後以来落ち着いていたと思っていたが、やはりこのアインズ・ウール・ゴウンには敵が多いようだ。

「また来るようなら、戦争に向けて防衛線構築しますか?このゲームでは結構PKが大手を振ってますからね。普通、ここまでPKが許された、もしくはPKすることを推奨されているゲームってないですよ。」

 ぷにっと萌えがそう言うと、ウルベルトはゆっくりとかぶりを振った。

「あいつらは二度とこの沼地に足を踏み入れる事はない。」

「それはそれは。ウルベルトさんがそう言うなら問題はなさそうですね。しかし――たまには戦争も楽しみたいところですが。」

 くつくつと笑う植物系モンスターのぷにっと萌えから葉が舞う。

 四人が邪悪に笑っている中、ペロロンチーノは遠い目をした。

「しかし――失ったものも大きかった。」

「――そうだな。」

「――二度とこんな悲劇は繰り返しちゃいけないですね。」

 三人の向こうに壮絶な戦いを垣間見たベルリバーとぷにっと萌えはごくりと唾を飲んだ。




この三人やっぱりバカだ

次回#88 外伝 皆のお勉強会

鈴木さんの見た目って、フギン先生の描かれた奴的にはイケメンですよね〜!
中の中にしといたけど!!

そして裏の大整理を行いました。なんて言っても年末は大掃除!!
章ごとにちゃんとIF世界を分けた、えらい( ;∀;)大変だった…
ちょっと早いですが、日本出ちゃったりとするので12/21から正月休みを貰います!
過去編締めておでかけだぜ!
あらぬ時間に裏のif時空上げたりするかもしれません。かもかも。

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。