「モモンガさーん。すみません、うちの舎弟の悪魔見習い見ませんでした?」
ウルベルトは朝からフラミーを探してナザリックをうろうろしていた。そしてたどり着いたモモンガの自室。
昨日、家がある程度近い人だけが集まった小さなオフ会にフラミーは居なかったので、そこで言おうかなと思っていた言葉を握りしめていた。小さな会なら来るかもしれないと思っていたのに当てが外れた。
「あ、ウルベルトさん、おはですー。昨日は盛り上がりましたね〜。フラミーさんは今日はなんか女子メンバーで遊ぶとか言ってましたけど、
「送りました〜。繋がらないんですよねー。その女子会どこでやってるか知ってます?」
「第六階層のいつもの場所じゃないですか?いなかったら…うーん、茶釜さんの自室ですかね?」
「なるほど!モモンガさんに聞いたらきっと分かると思いました!ありがとうございます!」
笑顔のアイコンを出すとウルベルトは、頭を下げ第六階層へ向かって行った。
モモンガは「フラミーさんの行き先なんて、ウルベルトさんの方が余程よく知っているだろうに」と苦笑しながら立ち去る背に手を振った。
「まぁ、ウルベルトさんかモモンガさん、それか姉ちゃんに聞けばフラミーさんの居場所はわかるってイメージはありますねぇ。」
その様子を見ていたペロロンチーノがそう言うとモモンガはそうかなぁと呟いた。
「それより、ねぇー、モモンガさぁん。」
「何ですか?」
「エロ系モンスターをあんあん言わせに行きましょうよぅ。」
「またサキュバスと触手のコンボですか?」
「だめぇ?」
ペロロンチーノは妙に甘えたような声を出した。
「うーん、まぁ良いですよ。やる事もないですしね。」
「っおぉ!!流石我が同志!!そんじゃ、俺準備して来ます!準備済んだら円卓集合で!他に誰か行きたい人いるかもしれないし!」
ペロロンチーノは笑顔のアイコンを出すと即座に準備に駆け出した。
その背を見送ると、モモンガも少しスカしてから行動を開始した。何となくエロ系モンスター討伐に飛びつくように準備を始めては恥ずかしい気がしたためだ。誰も見ていないが、気分的に一拍置いた。
「触手狩り行くとペロさんわざと触手に捕まりがちだからなぁ。」
普段は使わないためしまっておいているポーションを取り出し、モモンガは円卓の間へ向かった。
円卓の間に入ると、中は賑わっていた。
「昨日楽しかったよー、フララも来ればよかったのに。」
茶釜が卑猥な見た目の体をくねらせると、フラミーはそれが何を模しているのか解っているのか解っていないのかよしよしと頭を撫でた。
「でも私お酒本当弱いんですもん。」
「フラミーさんはすぐ寝ちゃうタイプだもんね。こないだボクの膝で寝始めた時は何か新しい扉が開かれそうだったよ。」
やまいこは昔、女の子の後輩に本気で告白されたことがあるため、そういった女同士の恋愛は勘弁してほしいと思っているのだが、ついそんなことを言ってしまった。
「やまちゃん、冗談でも危ないこと言うとフラちゃんが女子会にも来なくなっちゃうよぉ。」
餡ころもっちもちが若干の危機感を抱いている隣で、茶釜はフラミーにその身を擦り付けた。かなり危険な絵面だった。
「もし帰れなくなったら私がおんぶしてあげたって良いよ。何もしないから!本当に何もしないから!」
この見た目で言われて何もされないと思う女子はいない気がする。
フラミーが汗のアイコンを出しているのを見るとモモンガは笑いながら部屋に踏み入れた。
そして、ウルベルトはもうフラミーと話せたのだろうかと少し気になった。
「フラミーさん、無理することないですよ。」
「あ!モモちゃん!」「フラミーさんの保護者!」
「ははは。保護者ってなんですか。」
女子の楽しげな声に迎えられると、フラミーはモモンガに手を振った。
「モモンガさん!昨日楽しかったですか?」
「楽しかったですよ。フラミーさんもいつか来れたら良いですね。帰り道が心配なら俺、送りますよ。」
モモンガがフラミーの隣に腰掛けると、茶釜はしっしと手を払った。
「保護者でもそれはダメ。」
「モモンガさんは人畜無害そうだけど、その時はボク達に任せてよ。」
「はは、それは心強――」
モモンガが応えようとすると、円卓の間には待ち人が現れた。
「モモンガさーん!おっ待たせぇーい!エロ系モンスターあんあん言わせに行きましょーう!」
途端に女子の視線が極寒のものになった。アバターの顔は変わらないはずなのに、空気がガラリと変わった。
「……前言撤回。モモンガさんも指定有害物。」
「いやーモモちゃん引くわぁ。」
「モモンガさんって…。フラちゃん気をつけようねぇ。」
モモンガは鈴木の体が凍り付いていくのを感じつつ、表情など変わりもしないと言うのにフラミーの顔色を恐る恐る確認した。
「ふ、フラミーさん、違うんですよ…?」
「モモンガさん!サキュバス達を集団転移させて触手へのハメ技でひぃひぃ言わせたりましょう!」
「弟、黙れ。」
「えぇ〜!」
フラミーはふぃっと視線をはずし、モモンガの隣を立った。
「あの、私行くとしてもちゃんと一人で帰れます。」
「あ、ふ、フラミーさん…。」
モモンガはこの世の終わりのような声を出した。
そして部屋には大音量で声が響いた。
「あ!!フラミー!!モモンガさん!!」
その場の全員が思わず耳を押さえてウッと声を上げた。ヘッドセットから聞こえる音が問題なためにアバターの耳を塞いでも何の意味もなさないが、脊髄反射だ。
「ウルベルトさん、もしかしてまだフラミーさんに会えてなかったですか?」
「師匠…声でかいなり…。」
モモンガが振り向くと羊は怒りのアイコンを出していた。
「会えてないっすよ!それよりフラミー、お前
「え?そうなんですか?」
フラミーの泣きアイコンを見るとウルベルトは消えた怒りアイコンを再び出した。
「ありゃ、また保護者だ。」
「ぶくちゃん、こっちは保護者じゃ可哀想だよぉ。」
「ぶくちゃんはやめて!!」
女性陣の言葉に軽く耳を傾けながら、ウルベルトに怒られるフラミーを見て、仲が良い二人だと鈴木はほんわかした。そして先ほどのやり取りは忘れてくれと祈る。
それにしても、モモンガは保護者認識だと言うのに、ウルベルトは保護者じゃないなら何なんだろうか?
この胸の疼きは――。
モモンガは何も言わずに師弟コンビを眺めた。
「ちょうど良いところにウルベルトさん!今からモモンガさんとエロ系モンスターぐちゃぐちゃにする会を開くんですけど、参加しませんか!」
「しねーよ!ペロロンチーノ!――じゃなくて、フラミー。ちょっと話があるんだけど。」
フラミーはこてりと首を傾げた。
「ほひ?なんですじゃ?」
「…お前たまに老人になるの何なんだ。…茶釜さん、餡ころさん、やまいこさん、女子会中悪いけど、ちょっとフラミー借りて良い?」
「はいはーい。別に私は構わんよー。」
「ボクも良いよ。でもちゃんと返してくださいね。」
「ウルベルトさんがんばってねぇ〜!」
ウルベルトは女子に軽く頷くとフラミーに手を差し伸ばした。
「フラミー、綺麗なもん見に行こう。」
「遠出ですか?」
「いや、すぐそこ。」
フラミーがその手に手を置くと「<
モモンガは骨の眉間を押さえてため息を吐いた。
「じゃ、モモンガさん!行こ行こ!」
「………ペロさん、一発殴らせてください。」
ゴッと杖でペロロンチーノを殴ったが、ダメージは0ptだった。
「あ、ここ懐かしい!」
フラミーはウルベルトと共にたどり着いた洞窟の入り口で声を上げた。それはフラミーがウルベルトに昔々綺麗な場所があると教えられたダンジョンだった。
「だろ?行こうぜ。」
二人は進んだ。
以前と違い、フラミーのレベルも上がって洞窟は難無く進むことができた。
最奥にたどり着くと、相変わらずキノコや苔が緑に発光している。
「どうだ、今見たら大して綺麗でもなんでもなかっただろ。」
「ううん、とっても綺麗ですよ。初めて来た時の事たくさん思い出しましたし!また一緒に来れて良かったです。」
フラミーが笑顔のアイコンを出すとウルベルトはリアルの顔をゆるめその様子を見た。
「なぁフラミー、お前昨日来なかったじゃん。」
「すみません。ちょっと行こうかなーとも思ったんですけど、ね。」
「いや、別に無理することはないけどさ。」
ウルベルトは少し悩んでから続けた。
「――なぁフラミー。俺、お前ことすごく気に入ってんだけど…。」
それ以上を伝えるのはゲームの中では良くない。もし伝えるならリアルでだ。本当は昨日来ていれば帰り道とかで言いたかった。
「私も師匠と遊ぶの楽しくって大好きですよ!」
ウルベルトはリアルの後頭部を照れ臭そうにかいた。
「あのさ、じゃあ今度良かったら二人で飲みに行かない?」
ウルベルトが控えめにお誘いしてみると、フラミーは汗のアイコンを出した。
「すみません、私お酒ダメなんですよね。――あ、でもあまのまさん達がよくやってるバフ料理とバフ飲料食べる会みたいなのならいつでもいいですよ!」
フラミーはムンっと両腕の筋肉を見せるようなポーズを取った。
「そう…だよな。いや、お前はそう言うって分かってたよ。引きこもり娘だからな。はは。」
ウルベルトはもう少し時間が必要そうだと確信した。しかし、ウルベルトには時間がない。やらなければいけない事が――リアルで大量に積み重なっている。
「…フラミー、アドレスだけじゃなくて電話番号も交換しておこう。」
「はーひ!良いですよ!」
二人は互いの情報を交換した。皆大抵何時にインすると言う連絡を取り合う為メールアドレスは持っている。――ユグドラシル最終日にはそれでモモンガは皆に連絡を取った。
「――お前、まだ今もくそったれな世界に感謝してる?」
フラミーは笑顔のアイコンを出した。
「ここで生かされてるうちは。」
「そっか。」
この世界をぶっ壊してやると言ったらフラミーは笑うだろうか。
誰もが平等に生きることを許される世界に変えてみせると言ったら喜ぶだろうか。
「じゃ、戻ろうか。付き合わせてごめんな。」
「いえ!とっても楽しかったですよ!」
二人はダンジョンを昔のように歩いて戻った。
「そう言えば俺、こないだ翼が二つしかないサタン見かけたんだよな。」
「はぇ〜課金してわざわざ減らしたんですかね?」
「いや、俺もおかしいなと思って調べたんだけど、翼が三つあるサタンの方が珍しいみたいだった。この三つ目の翼ってなんなんだろうな?」
ウルベルトはフラミーの翼をつまみ、様子を見た。
「これで見慣れてましたけどね?」
「まぁ…わざわざ熾天使になった後に苦労して弱くなるサタンになる奴は少ないし、まだ良くわかんない事もあるんだろうな。この肌の色だし。」
フラミーの菫色の頬をぽにっと触るが、当然お互い感触はなかった。
「私はこの色好きですよ。」
「ん、俺も。なんかお前らしいよ。」
二人は笑った。
その中の一つ、
曰く「
そして
種族変更イベントも聖書とフレーバーテキストに則ったようなものだった。
まず極悪のカルマ値や、天使種族モンスターの一定数以上の討伐等が前段階として必須条件となる。
そして
課金して装備枠を増やしていない場合、指輪は右手に一つ、左手に一つのため、フラミーはギルドの指輪と様々な耐性を持つことができる指輪を着けている。
余談だが、アインズだけが使える超位魔法<
ウルベルトが女子会にフラミーを返しに円卓の間に戻るとモモンガとペロロンチーノはもう出掛けていた。
「ほんじゃ皆も女子会邪魔して悪かったな。」
「いいえ、また行きましょうね!」
ウルベルトは女子達に手を振られ、円卓の間を後にした。
「さて、エロ系モンスターぐちゃぐちゃ会はどこでやってんのかな。」
ウルベルトは旧無課金同盟の友人達に連絡を取った。
そこへ向かいながらウルベルトは茶釜に見せてもらった女子オフ会の写真を思い出していた。
写真の端に映り込んでいた、机に伏して幸せそうに寝ていたお団子頭の人は小さそうで、割と痩せていた。
腹一杯これでもかと液状食料じゃない物を食べさせたら、少しは太るだろうか。背も伸びるのだろうか。
ウルベルトはこれじゃそれこそ保護者だと頭を振った。
保護者としてだとか、貧困女子を助けたいとか、ウルベルトはそういう偽善が大嫌いだった。
まっすぐ下心がある男は自分のスタンスをきちんと確認し直し、いつかもう一度フラミーを誘おうと決めた。
ただ、ユグドラシルというゲームが終わる瞬間、現実世界で彼はある人物と対峙している。それも両者ともに悪として――しかし、それはまた別の、決して語られる日の来ないお話し。
ウルベルトさん、転移後フラミーさんにメールや電話しても繋がらないなんて嫌ですよ(´・ω・`)
そしてユズリハ様の人ンズ様と人ベルトさんとフラミーさんです!
【挿絵表示】
次回#90 外伝 引退
*ルシフェル Wikipedia
堕天使の長であるサタンの別名であり、魔王サタンの堕落前の天使としての呼称である。
天使たちの中で最も美しい大天使であったが、創造主である神に対して謀反を起こし、自ら堕天使となったと言われる。