眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#28 閑話 知ったかぶりの支配者達

 ナザリック地下大墳墓、第九階層。

 

「あ、待ってください。そう言えばあの日は何の用だったんですか?」

 アインズがソファを立とうと中腰になったフラミーに声をかける。時刻は深夜。既にフラミーは寝る時間だ。

「そうでした!アインズさんにもらったこのローブあるじゃないですか」

 そう言いながら、フラミーは無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)より紺色のローブをズルリと取り出した。 

 見慣れた豪華すぎる机の上にローブを広げ、背中のあたりを指差す。

 

「これ、ここの背中の辺り、切ってもらっちゃおうかなーっていう相談だったんです。どう思います?」

「いいんじゃないですか?少なくとも俺は着ないですし、フラミーさんが使いやすいようにするのが良いと思いますよ」

「もったいなくないですか……?」

「全然……?」

 想像より軽い返事に、フラミーはうーむ、と悩むように唸った。

「何が気になるんですか?もうユグドラシルのアイテムは手に入らないから?」

「あ、いえ。そうじゃなくて……せっかくだから、大事に使いたいと思って。初めてアインズさんがくれたものですし」

 フラミーが感慨深げにローブを眺めていると、アインズは何やらごそごそと空中を探り――出てきたのはフォルダーだった。

「はは。フラミーさん、俺が初めてあなたにあげたのはこれですよ」

 そう言うと、何年も前のスクリーンショットを探すそぶりもなく、迷いなく取り出した。

 そこにはもうずっと使っていないネックレスを貰って、笑顔モーションを出すフラミーと、今とは全然違う装備に身を包むモモンガ、そして当時から最強だったたっち・みーの姿があった。

「あ……これ……」

「懐かしいですよね」

 フラミーは写真になっているスクリーンショットをアインズから受け取ると、じっと視線を落とした。そして、視線を泳がせてからアインズへスクリーンショットを返した。

「――んん、アインズさんはわかってないです!それもそうですけど、ローブは直接貰ったものだから違うんです!一先ず、背中を切るかは保留にしようかな。じゃっ、私もう寝ますね!趣味なので!」

 どこか早口に言い切ると、フラミーは部屋を立ち去った。

 

「そうか、確かにそれもそうか」

 ふふと僅かに笑いが漏れるアインズだった。

 

+

 

(まずい……!まずいです、まずいです……!)

 ネックレスの存在を忘れていたフラミーは慌てていた。確かにこのローブは直接もらった物なので特別だが、それはそれとして、あのネックレスはどこにやっただろうか。

 無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)に入っているのか、ドレスルームの何処かにしまったのか、あのネックレスに関する記憶がほとんどごっそり抜けていた。

 

 フラミーは自室に戻ると、今日のフラミー当番のフォスに泣きついた。

「フォスさん、私のこのくらいの結構長いネックレス見ませんでした?つけるとおへそくらいまで来る長さで、金色で、トップはひし型の魔鉱石がついてるやつなんです!」

 フォスはこれぞメイドの腕の見せ所と言わんばかりにフンと荒い鼻息を出すと、胸に手を当てて堂々を宣言した。

「わたくしフォスは、そのネックレスがどこにあるのか知っております!!」

「おお……!さすが神様!フォス様!女神様!良かった、良かったぁ!!」

 そんな畏れ多いと言うフォスの後ろからフラミーは抱き着き、ご機嫌で改めて尋ねた。

「それで、どこにあるんですかっ!」

「はい!アインズ様のドレスルームのっ――っきゃっ!?」

 フラミーはフォスを抱きしめたままソファーに横向きに倒れた。

「うぅ……なんで……なんでそんな所にぃ……」

 

 フラミーは文字通り泣いていた。

 

+

 

 アインズは懐かしくなって、アインズ当番にそのネックレスを出させていた。

「わー懐かしいな……。フラミーさん、俺が金欠だった時貰った物なのに悪いけど良かったらこれを売ってくれって、わざわざ返してくれたんだよなぁ」

 紺色のベルベットの張られたアクセサリートレイに乗っているそれをアインズはまじまじと眺めた。

 

(……この世界じゃアクセサリーの着用数制限はないみたいだし、何か効果付け足してまたフラミーさんに返すか)

 アインズはアインズ当番に少し出ると言い、鍛冶長の下へ出かけた。

 もし寝てたら悪いなーと思いながら。

 

 当然のように起きていた鍛冶長は大喜びでそれを引き受けた。

 

+

 

 次の日の朝、フラミーの顔は青かった。

「あれ?フラミーさんよく眠れなかったんですか?」

 アインズの後ろに控えるアルベドが深々と挨拶をするのに手を挙げて答えつつ、フラミーは頷いた。

「あーいえ、うーん。はい。よく眠れませんでした……」

「珍しいですね。自分に回復魔法かけたらどうです?」

「いえ、これは戒めなので……」

 ふふふふふ……と不気味に笑うフラミーの様子にアインズは首をかしげるが、この後玉座の間でどうやってエ・ランテルを手に入れるか発表するという課題を前に、フラミーにあまり構っている余裕はなかった。

 

+

 

「エ・ランテルだが、私は漆黒聖典を派遣する事を宣言する」

 アインズは以前から温め続けてきた案をついに発表した。

 

 今エ・ランテルは帝国と王国の戦争の真っ只中だ。

 まずは無事に戦線を乗り越えてエ・ランテル都市内に入れる者達でなければいけない。あそこには今フル装備のガゼフ・ストロノーフがいるのだ。

 あのクレマンティーヌが自分とガゼフは同等の強さだと言っていた。

 漆黒聖典にはクレマンティーヌを大きく超える力を持つ者達がいるため間違いないだろう。

 陽光聖典も一度ガゼフを倒していることもあるので期待できるが、帝国の兵もいるとなると、前回とは違って四方八方から攻撃を受けることになるので一抹の不安は残る。

 森妖精(エルフ)との戦争から帰った火滅聖典や、人間の隠れ里を守っていた土塵聖典、今も諜報活動に精を出す水明聖典と風花聖典ではガゼフに――クレマンティーヌに勝てそうにない。

 更に言えば、この四色聖典はもう国外活動をさせる予定はなかった。

 

 戦線を乗り越え、エ・ランテルに入った漆黒聖典達には明らかに神聖魔導国の者達が瓦礫の撤去や復興支援をしていると分かるように活動させ、隙を見つけて街を乗っ取らせるのだ。

 あれだけの強さがあれば、容易に乗っ取り行為もできるだろう。

 

(うんうん、中々論理的に導き出した結果だぞ。俺も結構できるじゃん!)

 アインズは心の中でふふふと笑った。

 

「漆黒聖典……でございますか……?」

 だが、アルベドの雰囲気がそれは不正解だと物語っていた。

 助けを求めてデミウルゴスを見ても、顎に手を当て、なにやら考え込んでいる。

 

 情けないがフラミーに視線を送れば、びくりと肩を震わせて、ふぃと視線を逸らされてしまった。

 誰か助けてくれ……そう思っていると、デミウルゴスが難しそうな顔をして手を挙げる。

 泣きたい気持ちで顎をしゃくって促せば――

「失礼かとは存じますが、後学のためにも漆黒聖典を送る理由をお聞かせ願えませんか?」

 最悪の質問が届いてしまった。

「デ、デミウルゴス、そしてアルベドよ……。お前達にはわからぬか……」

 胃がしくしくと痛む。こんな痛みは幻だと思っても、それでも胃が痛む。

 二人は揃って深く頭を下げた。

「「はっ!!申し訳ございません!!」」

 その声は玉座の間の中を軽く反響した。

 反響が聞こえなくなると、デミウルゴスが続けた。

 

「アインズ様の深遠なるお考えに達することができない我々をお許しください。そして、どうかこの哀れな守護者達に挽回の機会を……!」

 大切な友人の子供達が非常に辛そうにしている。特にデミウルゴスを製作――いや、創造したウルベルト・アレイン・オードルとアインズは非常に仲が良かった。ウルベルトはフラミーをギルドに連れて来た大悪魔で、フラミーもウルベルトを時に師匠と呼びよく懐いていた。

 

 アインズは自分の情けなさに目を覆った。

「なんという……」

 

 呟いた声に守護者達が口々に至高の支配者の足下にも及ばない我が身を罰してくれと嘆いた。

 アインズは自分が情けなくて何も言えなかった。支配者として一度言ってしまった漆黒聖典派遣を今更「やっぱりやめます」と言う訳にもいかなかった。

 一定まで自分の愚かさを罵る気持ちが膨れ上がると、アインズの焦りはスッと消えてなくなった。

 すると、隣にいたフラミーが口を開いた。

「皆、今はまだその意味がわからないと思いますけど、その時が来たら分かるんだと思いますよ。アインズさんの言う通り、漆黒聖典に行ってもらいましょう」

 フラミーの言葉は天啓のようだった。

 情けないと思いながら、顔の前からゆっくり手を退け、アインズは守護者達を見渡した。

「そういうわけだ……。各員自分の目で学ぶように……」

 

 そうして漆黒聖典の派遣は決まった。

 

+

 

 珍しくフラミーの自室に集まると、アインズはソファに崩れた。

 

「アインズさん大丈夫ですか?」

「もーダメです……」

 

 アインズとフラミー、それぞれの当番のメイド二人が焦った様子で近付いてくる。

「アインズ様。大致死(グレーターリーサル)を使える者をお呼びしますか?」

 だらしなくなり始めていたアインズは少し身なりを整え、そちらを向きもせずに答えた。

「いや、いい。こちらの話だ。悪いが二人は少し――そうだな。隣の部屋で控えていてくれ。用ができたら呼ぶ。あぁ、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)もだ」

「し、しかし……」「お側にお仕えしなくては……」とメイドや八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達が食い下がったが、なんとか追い出すことに成功した。

 

「あ、フラミーさんすみません。人の部屋なのに勝手にあっち行ってろとか言って……」

「いえいえ、本当支配者が堂に入ってきたじゃないですか」

 はははと疲れたように笑うフラミーに、そうかと疲れの理由に思い至った。

 

「フラミーさんも、支配者というか、至高の人で疲れますよね。わかります」

「あ、いえ。私は、伸び伸びやらせてもらってますから。アインズさんのおかげで」

「俺のおかげ……」そう言われるだけで少し滅入った気持ちが和らぐようだ。

「そうですよ。アインズさんが頑張ってくれるから、私、とってもナザリックの居心地いいですもん」

 絶対支配者として君臨することは、ナザリックだけでなく、ギルメンを――フラミーを守る一つの手段なのかとアインズは思った。

 フラミーはしょっちゅう支配者業を手伝いましょうかと言いに来るが、一度も受け入れた事はない。

 

 この人のためにできる事ならば、この疲労にも目を瞑ろう。

 アインズはよし、と心の中で声を上げた。

「フラミーさん、これあげます」

 よっと背もたれから上体を起こし、無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)のスリットからリボンのかかった小さな箱を取り出した。

 アインズは開けてくださいと告げてフラミーの手の上に箱を乗せると、フラミーはまじまじとそれを見た。

「こりゃなんですかい?」

「ははは、何。警戒しないで下さいよ。ただの懐かしいものです」

 フラミーはするりとリボンを引き、そっと箱を開けると、中にはまた箱が入っていた。

 赤紫に染められた皮で包まれてたその箱は、真ん中に金で"le souvenir"と書かれている。

「あ、アクセサリーボックス。かわいいですね。る…すーべにる?」

「フランス語で思い出、らしいです」

 はぇ〜と声を漏らし、フラミーが箱を開けると、中にはあのネックレスが入っていた。

「あっ!これ!!」

 興奮するフラミーにしてやったりとアインズは思った。

「そう、それ、俺あの後結局売らなかったんですよ。だから、昨日鍛冶長に頼んで……多分この世界じゃ無意味なんですけど、気前よくドロップ率アップの効果を――って!うわ!」

 フラミーの目からはポロポロと涙が落ちていった。

 

「なん!?ああ!勝手に効果つけ足しちゃダメですよね!?あああ、わ、わかります!!すみません!すみませんでした!!」

 しどろもどろなアインズに、フラミーはゆっくりと首を左右に振った。

 

「私、本当はこれどこにやったか忘れてたんです。だのに、分かったみたいな嘘ついて、アインズさんは大切に持っててくれたのに。嘘吐きの知ったかぶりでごめんなさい」

 そう言って泣くフラミーを、アインズは少し羨ましいと思った。

 よっこいせと腰を上げて、向かいに座っていたフラミーの隣に腰を下ろす。

 

「俺も、漆黒聖典に決めた理由、本当は滅茶苦茶で、皆にそれらしい事言って、フラミーさんに嘘の片棒担がせて……いつも知ったかぶりしてんです。俺も涙が出てたら、多分毎日泣いてますよ」

 アインズの困ったような雰囲気に、フラミーは呆けたようにそちらを見た。

「アインズさんって、超級の策士じゃなかったんですか……?」

「うわ!何言ってるんですか!やめて下さいよ。そんな訳ないじゃないですか」

「そうだったんだ……。私、デミウルゴスさんやアルベドさんには大失敗しか浮かばないけど、アインズさんには見えてるのかな、閃いたのかなって思ってました……」

「そんなわけないじゃないですか。勘弁してくださいよ〜。はは」

「アインズさん、ぷにっとさん達とよくすごい作戦思いついてたから」

「それはぷにっとさん達がすごかったんですよ〜」

 

 とんだ勘違いに頭をかいていると、フラミーは濡れた睫毛でアインズを見上げた。

「ねぇ。アインズさん、私もやっぱり働きます……。一緒に」

「それは良いですって。あなたはあなたで忙しいでしょう。ね」

「忙しくなんて――」

「良いから良いから」

 アインズは言いながら、もう止まったフラミーの頬に残る涙の跡を親指でグイと拭いて、忘れられてしまっていたネックレスに視線を戻した。

 それに気付いてか、フラミーはネックレスを箱からスーっと取り出した。

 

「これ、今度は忘れないようにちゃんと着けておきます」

 ネックレスを首に何重にもクルクルと巻いて、チョーカーのように付けると、魔法の装備のそれはピタリとフラミーの細い首に隙間なく着いた。

「長いネックレス、リアルじゃよく引っ掛けて切っちゃって……トップ失くしちゃったりとかしたんで、戦うこともあるかもしれないですし、こうしておきます」

「ネックレス、そんな着け方あるんですね」

「私はオシャレさんなので」

「はは、俺二十四時間三六五日同じ服だ」

 

 ふふっと笑うフラミーはまた申し訳なさそうな顔をした。

「アインズさん。本当、忘れててすみませんでした」

 ぺこりと頭を下げるフラミーに、アインズは慌てて手を振った。

「そんな、頭あげてください。良いんですよ。ヘロヘロさんも言ってました。まだナザリックがあったんだーって」

「え……?」

「でも、俺が維持してくれてたお陰でーって、言ってくれたんですよね。俺、その時良かったって思いました」

 フラミーは黙って話に耳を傾けた。

 

「フラミーさんもそれの事忘れてたけど、でも、維持してる誰かや、覚えてる誰かがいれば、また思い出してもらえるんだって、俺はもう知ってますから」

「アインズさん……」

「これじゃ墓守ですかね」

 アインズは恥ずかしげにポリポリと頬をかいた。

「墓守だっていいじゃないですか。前も言いましたけど、私も一緒に守りますよ。――どっちか一人が覚えていれば良いなら、きっと楽勝ですね」

 ずれ掛けていた二人の感覚が、またピタリと合った気がした。

 

 隣の部屋から聞こえてくる和やかな笑い声は、まるで優しい歌のようだと、メイドもアサシンズも思った。




アインズさんは性欲の8割を失って女子との距離感狂ってますね。
フラミーさんも生えてるせいで男子との距離感狂ってますよね。
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