眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#96 雑話 豊穣の源

「ルーンの魔法陣…。」

 パンドラズ・アクターは地面を撫でふーむ、と口に手を当てて声を上げた。

「どう?何か分かった?」

 様子を見ていたアウラが線や絵を踏まないようにしながら駆け寄り、覗き込む。そこは消されたり誤って踏んだりしないように縄を張り囲ってあった。

「わかりません。魔法探知(ディテクト・マジック)で見たところ、魔法が発動したと言うのは分かるのですが…私が同じものを地に書いても何も起こりません…。」

「じゃあフラミー様とソリュシャンがどこに行ったかは、やっぱり分かんないね…。」

「…わかりません。」

 手を強く握り込んだのか、パンドラズ・アクターの四本指の中からギュッと音が鳴った。石を投げ込まれた水たまりのように顔が一瞬揺らめく。

「……ソリュシャンが一緒だから大丈夫だよ。アサシンズだっているしさ。」

「…そうですね。」

 少しも大丈夫だと思っていないような口先だけの返事だった。事実パンドラズ・アクターはソリュシャンではレベルが低すぎると思っている。

 そうしていると、二人に大きな陰が落ちた。

 揃って空を見上げると、金色の竜が一頭降りて来た。その向こうで訪れた時よりも高くなった日がキラリと照りわたった。

「み、皆さーん!こ、ここが、えっと、どこだか分かりました!」

 マーレの竜(カキンちゃん)の背からは持ち主のマーレとコキュートスが顔を出した。

「マーレー!コキュートスー!おかえりー!」

 カキンちゃんが少し離れたところに着陸するため大きく羽ばたこうとすると、パンドラズ・アクターは身を翻し、ぶくぶく茶釜の姿になった。

「<ウォールズ・オブ・ジェリコ>!」

 その前に堅固な壁を生み、重要な証拠であるルーンの魔法陣に砂埃が積もったり、風で形が崩れたりしないようにした。

 カキンちゃんは風を巻き起こしてズズン…と音を立て着地した。

「あ、あの、すみません!」

「パンドラズ・アクター様、申し訳ありません。」

 マーレと揃ってカキンちゃんがパンドラズ・アクターに頭を下げる。アウラも弟の短慮に頭を下げた。

 それはいつもの守護者同士のやり取りよりも余程きちんとしていて――まるで、ぶくぶく茶釜本人にするかのようだった。

 パンドラズ・アクターはすぐに変身を解き、無駄に華麗な動きで立ち入り禁止区域から出た。

「いいえ、魔法陣は無事なのでお気になさらず。それより、ここは一体どこでした?」

 カキンちゃんの背からコキュートスがその巨体に似合わぬ身軽さで降りると、マーレもすぐにそれに続いて地図を取り出した。

 

「えっと、こ、ここがビーストマン州なんですけど、ここから北西に上って行った先です。だ、だから…あ、あっちに見えてる海はカルサナス州が面してる海みたいです!」

「マダ私ト聖典モ手ヲ付ケラレテイナイ場所ダ。」と、コキュートスが地図を指差す。「カルサナス州ノ冒険者ガ辛ウジテ地図ヲ作ッテイタノガ幸イシタ。地形カラ場所ノ確認ガ取リヤスカッタ。」

 カルサナス都市国家連合は、去年の夏に一部が連合離脱を果たした。神聖魔導国に併合された二都市と神聖魔導国硬貨を巡った経済戦争が起こっていたが、この春遂に全ての都市国家が音を上げ、晴れて神聖魔導国の一部――カルサナス州へと併呑された。

「この大陸の北の果てですね…。」

 

 パンドラズ・アクターが唸っていると、側に見知った転移門(ゲート)が開いた。

 秘宝の帰還を期待して転移門(ゲート)の周りに集まる。しかし、そこから出てきた足は――

「お前達、どうだ。」

 骸のアインズだった。もちろん支配者の到着も喜ばしいが、主人の行方が知れないのでどうしても残念な気持ちにはなる。

「ここの位置は掴めましたが、依然フラミー様の行き先は不明です。父上、そろそろもう一度伝言(メッセージ)を送ってみてはいかがでしょうか。」

「…そうだな、その後にこの場所の詳細を教えろ。――<伝言(メッセージ)>。」

 

+

 

 ビリエの家から出たフラミーの手首の"N(束縛と欠乏)"が赤黒く光り、チリリと燃えた。

 

「あぁ〜!腰疲れたねぇ!」

「フラミー様、今ビリエに付けられた印が何か…。」ソリュシャンは心配そうにフラミーの手を取った。「国に入る為に必要と言っていましたし、もう消してしまいましょう。」

 ハンカチを取り出してフラミーの手首を拭こうとすると、フラミーはパッと手を退けた。

「あ、これアインズさんに見せてあげたいからとっておきたいんです!」フラミーは軽く手首をさすった。

「これは余計な真似を。申し訳ございませんでした。」

「いえいえ、ありがとうございます。じゃ、取り敢えず腰を伸ばしに行きましょうか!」

「そうでございますね!」

 

 二人は外で待っている八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)に軽く挨拶をすると、来た道ではない方へ適当に歩き出した。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)は大量の妖精達が勝手にポイニクス・ロードに触れないように守るのに忙しい。フラミーがハントした鳥の羽を抜かれるような事は断じて承服しかねるのだから。

 

 ズンズン進むフラミー達の後をビリエ隊の妖精(シーオーク)が追う。

 途中、鳥が歌う声に耳を澄ませ、咲いている花を摘んだ。ソリュシャンの髪に花をさし、姉妹のような姿だった。

 再び広大なバロメッツ畑に差し掛かり、ぅめーぅめーと鳴き声を上げるバロメッツの間を進む。最初に通ってきたところはポイニクス・ロードの御神輿のせいで大騒ぎなので敢えてそちらには近寄らないようにした。

 スイカのような大きさの赤い実がなる株からはどことなく甘そうな香りがした。

 

「はー半端に食べたせいかお腹空いてきましたねぇ。」

 出してもらった軽食はつま先で摘むよりもどれも小さかったのだ。

「アインズ様からのご連絡はまだでしょうか?」

「まだです。今日はズアちゃんにも呼ばれてますし、結構やることあるみたい。連絡が来たら一回向こうに戻りましょうね。」

 

 今日やらなければいけない仕事が全て終わったら、伝言(メッセージ)が届く約束だ。そうしたら、フラミーが迎えの転移門(ゲート)を開き、本日のお楽しみ、ピクニックランチだ。

「フラミーさま!良ければバロメッツの実を一口召し上がられますか?」

 妖精(シーオーク)達が嬉しそうに飛ぶと、ソリュシャンは近くに成っている赤い実に触れた。

「いい案ですわ。フラミー様、お味見されてはいかがでしょうか?」

 

 フラミーが返事をする間も無く妖精達は「少々お待ちください!」と言うと、遠巻きに様子を見ていた妖精(シーオーク)を手招いた。隊の者達は男も女も皆髪を一つにくくっているが、その妖精(シーオーク)は短い髪の毛を二つになんとか結んでいて、やはり毛糸で編まれたワンピースを着ていた。

「なにー?呼んだ?」

 すぃんっと飛んでくると、周りの妖精(シーオーク)達を見渡した後、フラミーとソリュシャンを見上げた。

「こんにちは。農場主さんですか?」と、フラミー。

「農場主ではないけど、ここら辺の九区画は私が面倒見てるバロメッツだよ!」

「エシル、実をあげて!」「フラミーさまとソリュシャンは大事なお客様なの!」

 わさわさと妖精(シーオーク)達が農家に群がる。

「んー、その銀色の髪と金色の髪を一束づつくれるなら、実を一つ分けてあげてもいいよ!」

 フラミーは自分の髪を掬い上げると困ったような顔をした。

 周りの妖精(シーオーク)達から大ブーイングが起きている。しかし、訳の分からない人が自分の育てている作物――乃至は家畜――を突然くれと言ってきたら、見返りを求めるのが普通だろう。

 

 とはいえ――

「髪はあげられないです。」それに、別にそこまでして食べてみたいわけでも、そんなにお腹が空いているわけでもない。

「でしたら、私の髪を二束与えましょう。妖精(シーオーク)、それでフラミー様にその実をひとつ献上なさい。」

「銀色も欲しかったけど…仕方ないね!それで手を打つよ!」

「え!いいですよ!そんな!ソリュシャン!!」

「いえいえ、お気になさらず。」

 ソリュシャンは正面で分けている自分の髪を掴むと手の中にいつの間にか取り出していたナイフでざくりと切り落とした。

 

「きゃぁー!!やってしまったぁー!!!」

 

 フラミーは叫び声を上げるとハラリと落ちた数本を拾おうと地面に膝をついた。

「さぁ、これで実を。」

「ありがとー!好きなのとっていいよ!」

 二人が契約を成立させている間にフラミーは落ちている輝くソリュシャンの金糸をかき集めた。

「ではあちらのものをひとつ――フラミー様?」

「ソリュシャンの体がぁー!!」

 フラミーが相当に狼狽えた声を上げていると、同時に妖精(シーオーク)達も「っきゃー!!」と叫んだ。

 ソリュシャンの髪は一本一本が痛みにもがく様にギュイギュイと奇天烈な鳴き声を上げて蠢いていた。ソリュシャンは一直線の前髪ができ、切られて残ったところがさらりと眉にかかった。

 

「ソリュシャン!!すぐに治してあげるからね!!」

「あら、痛みはありませんので大丈夫でございますわ。それに――」さっと前髪を弾くと、同時に短くなった前髪は元の長さを取り戻した。「長さも元に戻ります。」

 受け取った妖精(シーオーク)の手はふるふると震えている。

「こ、こ、こ、こんな気味の悪い髪の毛は初めて見た!」

「女の子に髪の毛切らせてそんな言い草ったらないですよ!」

「や、やっぱりこんなのいらなーい!」

 妖精(シーオーク)はひゃ〜!と声を上げて掴んでいたソリュシャンの蠢く髪の毛を押し付けるように返した。ソリュシャンが受け取りそびれた髪が散らばる。フラミーは「こら!」と声を上げるとそれも丁寧に一本づつ拾った。

 

「ソリュシャンごめんね、ごめんね、こんなになっちゃって。」

「いえ!フラミー様、あとは自分で回収しますので、お立ちください!」

 

 ソリュシャンが落ちた髪に触れると、それはすぐに体に取り込まれていった。人間としてのこの姿は所詮擬態に過ぎないため、髪の毛も全てソリュシャンの神経の通る身体(・・)の一部だ。

 

「あぁ…良かった…。」

「ご心配をおかけいたしました。」

 

 そう言ったソリュシャンの顔は紅潮し、透き通るような空の瞳は嬉しそうに細められた。

 

「もうやめてくださいね。女の子なんだから髪は大切にしてください。それに自分の体を切らせたなんて、アインズさんにもヘロヘロさんにも私怒られちゃいますよぉ。」

「まぁ、そんな。」

 

 フラミーがほっと息を吐くと、周りの妖精(シーオーク)達はソリュシャンの髪の毛を何度も撫でつけた。

「申し訳ありません!」「ごめんなさーい!!」「本当にすみません!!」

 髪をせびった妖精(オーク)は想像とは違うやりとりに気まずそうに二人を見上げた。

 

「ねね、ごめんね。人間だと思ってたから。まさか体なんて思ってなかったんだ。」

「ソリュシャンは捕食型粘体(スライム)なんですよぉ…。髪の毛でも切らせたら体を切ることになっちゃうんです。」

「かまいませんわ。痛みはありませんし。ともかく、あなたが返してきたとは言え約束は約束ですし、バロメッツの実はひとつ頂きますわよ。」

 

 ソリュシャンが手近なバロメッツの実をひとつ切り落とそうとすると、髪をせびった妖精(シーオーク)はその前で腕を広げた。

「あっ、待って待って。」

「…何か。」

「それより、こっちの方が美味しいよ。」

 隣の株のはち切れんばかりの実を叩く。一瞬ソリュシャンの瞳から光が失われそうになったが、笑顔と共に光は健在だ。

「そうでございましたか。ではそちらを。」

 実を支え、チュンっと音を立てて手刀で落とす。

妖精(シーオーク)さん、これって――」フラミーが訪ねかけると、妖精(シーオーク)はぴっと手を出した。

「私はエシルって言うの!あなた達は?」

 フラミーが答えようとすると、付いてきている妖精(シーオーク)が代わりに答えた。

「こちらは、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国のフラミー・ウール・ゴウン魔導王妃陛下!」「それから従者のソリュシャン!」「エシルいい加減にしてよ!」「国賓だよ!!」

「えー!知らなかった。フラミーさまもごめんなさい。」

 エシルがぺこりと頭を下げるとフラミーは首を振った。

「ソリュシャンが良いって言うから良いですよ。」

「ありがとうございます!」パッと顔を明るくすると、実の周りをくるりと飛んだ。「――えっと、ソリュシャン。この向きにぐるっと一周切って、左右に割ってね!」

 

 ソリュシャンは実を手に持ったまま辺りを軽く見渡した。

「……その前に――フラミー様に立ってお待ち頂くのもよくないわ…。でもおかけいただく場所がありませんわね。私が椅子になるのが良いかしら…。」

 ソリュシャンの呟き声を聞き、フラミーは慌てて首を振る。

「椅子なら――」

「え!フラミーさまはソリュシャンに座るの?」

 エシルの驚きが混じったような声が飛ぶ。周りの妖精(シーオーク)達の瞳にはあるのは戸惑いの光だ。

 

「座りませんよ!!」

 

 たしかに例えば下半身だけ椅子に擬態したりもできるのだろうが、フラミーは女の子に座るような女だと思われた事に少し頬を膨らませた。

 ではどうしましょう、と言うソリュシャンの横で、畑の間の道に指を突きつける。

「<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>。」

 魔法の発動と共に、そこには真っ白なテーブルセットが鎮座した。椅子は二脚で、日の光を反射して輝いた。

 

「フラミー様は位階魔法が使えるんだぁ!」

「そうですよ。さ、ソリュシャンも座ってくださいね!」

 

 恐縮しながらソリュシャンが席につき、フラミーはソリュシャンに座らずに済んだことに安堵した。テーブルに頬杖を付き、赤い豊潤な実に視線を戻す。

「それでは今度こそ。」

 赤い実にぷつりとナイフが入る。カツン、と硬い物にぶつかる感触に種――仁の部分かとぐるりと刃を入れていく。ポタポタと豊潤な香りが立ち込める赤い汁が滴った。

 

「わぁ、ほんと美味しそう!」

「楽しみでございますね!」

「へへへ、そう言われると嬉しいなぁ〜!毎日ちゃあんと面倒見てきたもんね。」

 

 一周刃を入れると、それをパカリと開き――二人は瞬いた。

 まるで妊娠中の羊の腹を生きたまま割ったような具合だった。中には成長中のまだ毛も生えていない真っ赤な血濡れの仔羊が入っていて、ナイフが骨を撫でた痕があった。だらだらと赤い果汁が滴り、開かれたばかりの仔羊は()から切り離されたことに気が付いたのか時折ぴくぴくと痙攣した。果肉の中は数えきれない血管のような管が走っている。

 

「まぁ!なんて美味しそうなんでしょう!!」

「でしょー!!」

 

 ソリュシャンとエシルの嬉しそうな様子とは裏腹に、フラミーはこれは生では食べたくないと思った。ただ、グロテスクなものには不思議なくらい耐性がある。

 

「フラミー様はどのくらい召し上がられますか?」

「私は――」まるで食べたくないが、せっかくソリュシャンが体を切ってまで手に入れてくれた物だし、生産者やくれると言い出した部隊を前にいらないとも言いづらい。それに何より、元貧困女子は決して「お残し」を許さない。食べ物を粗末にする事はフラミーのポリシーに断じて反する。

「えっと、一口下さい。」

 そこそこの勇気が必要だった。

「まぁフラミー様。一口でよろしいんですか?」

「…後でアインズさんとお昼食べる時に入らないと困りますから。」

「それもそうですわね。では、この生きた仔羊の良いところを――」

 ソリュシャンが仔羊にナイフを向けると、エシルが口出しした。

「ねね、そこは生じゃ食べられないよー?」

「あら…それは残念ですわね。」

 フラミーは人知れず安堵の息を吐いた。

「仔羊はソリュシャンが食べて下さいね。私はこっちの、果肉にします。」

 

 フラミーが手を出すと、ソリュシャンは一口より多いくらいの果肉を切り取り、その手に渡した。

 受け取った果肉を口に放り込む。ソリュシャンもあんっと大きすぎる口を開けると、残りを口――体に入れた。

 二人はそれぞれ咀嚼し、目を合わせて笑った。

「面白い味。なんだか桜でんぶみたいな味みたいですね。でも美味しい。」

「こちらは蟹のような味がしますわ。家畜の羊とは少し違うようでございますね。」

 魔法のテーブルセットの上で恋人同士のように過ごしていると、エシルはテーブルから飛んで離れた。

 ポシェットからナイフを取り出し、ソリュシャンが切った所に『L』と刻み込む。

 

「エシルさん、その字は何ですか?」

「これー?これはねー、L(ラーグ)って言って水や流れ、豊穣の源を司る文字なんだよ!切っちゃったところが腐ったり傷んだりしないようにしてあげてるの。Q(イング)の形にバロメッツを植えてるでしょ。Q(イング)は豊穣の文字だから、それの力を流し込んで強める事にもなるって言うわけ!」

 フラミーも自分の杖で地面に文字を書く。

「……これで魔法になるんですか?」

 エシルは首を振った。

「魔法がこもってないねぇ。"豊穣の源よ"って言いながらちゃんと実りをイメージして書いて見たら?ルーンは意味や力の流れを理解してないと魔力が解放されないから。」

 フラミーはファンタジーだなぁと思った。

 

 今度はきちんと「豊穣の源よ…」と呟く。フラミーにとって動物が実る豊穣――。

 それは大量の生命が奪われる事で、黒い仔山羊達が生まれ出ずる黒き豊穣が最も近しいだろう。

 しっかりイメージを固め、再びL(ラーグ)を地面に描く――。

 すると、文字はじっくりと歪に変形していった。

 

「あら〜…。」

「ダメだったね。私も一日一個までしか刻めないけど、フラミーさまは才能あるかもよ。魔法の意味がまだあんまりよく分かってないのか崩れちゃったけど、崩れたのは魔力がちゃんと乗った証拠だもん。」

「才能?」

「そそ!妖精(シーオーク)も子供の頃から一生懸命練習と勉強をして、その中で皆成長していくの!って言っても、ほとんど皆使えないんだ。ルーン魔術師としての特性がある子は少ないの。使えるとこうやってバロメッツを育てるのを任せて貰えたり、国の外にポイニクス・ロードを追いかけに行くのを任せられたりするんだぁ。いわばエリートだね!」エシルはへへん、と鼻の下をかいた。「そんな訳だからさ!どんなに勉強をしても使えない子達もいるのに、フラミー様みたいに始めて書いてルーンに魔法が篭もるのはすごいくらいなんだよ!」

「じゃあ、私もお勉強したらもう少しよくなるかな?」

「なるかもね!魔力がちゃんとあったんだから!」

 フラミーは嬉しそうに微笑んだ――が、現実的に考えてみる。

 

 そもそもルーン魔術師としての特性がない者が多いと言うのは、魔法詠唱者(マジックキャスター)として開花できる者が少ないと言うことと同様だろう。

 ルーン魔術が使えるのはルーン工匠と同じようにルーンに繋がる何らかの職業(クラス)が必要だと言うのは明白だ。フラミーは既にそれとは無関係のレベルを百持っているので新たにルーン魔術をきちんと覚えることは難しいかも知れない。

 既に取得しているものがたまたまルーンを描くことに繋がっていて、まぐれで魔力を宿らせることができたが、魔法として発動させるのは奇跡――そんな所だろう。何せユグドラシル時代、ルーンはただの飾りで実際に力を持ってはいなかったのだから、フラミーがルーンに繋がる職業(クラス)を持っているはずがないのだ。

(一瞬舞い上がっちゃったけど、望み薄かなぁ…。)

 フラミーが考え事をしている間に、ソリュシャンはでっかいバロメッツの実を食べて妊婦のように膨らんでいた体をすんっと細くした。

 すると、畑の向こうからビリエの声がした。

 

「フラミーさまー!皆ー!!」

 ビリエはフラミーの前でキキーッと立ち止まった。

「妖精王が是非王樹にお越し下さいとのことです!」

「はぁい。」

「じゃあ、フラミーさま、またねぇ!」ぺこりとエシルが頭を下げる。

「あぁ、エシル!農場の皆にフラミーさまへ差し上げるバロメッツの株か種実を準備するように言っておいて!」

「へ?なんで?」

「良いから!寒い冬が来るのが嫌ならそうして!」

 エシルは「よく分からないけど任せておいて〜」と言うとくるりと背を向けてそれぞれ自分たちのバロメッツの世話をしている仲間達の下へ飛んだ。

 

「さあ、フラミーさまとソリュシャンは王樹へご案内いたします!」

 ビリエに案内されるままに進み、途中ポイニクス・ロードを見張っていた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)と合流し、家になっている木々の間を抜けて、あちらの切り株を曲がって、こちらの花畑の脇を通って、斜面を登り詰めた。

 その先には輪状に生えたサンザシの中心に巨木が立っていて、やはりそれにも扉が付いている様が見て取れる。サンザシの円の半径は十メートルはあり、数えきれないほどのサンザシが植わっている。巨木の脇にはフラミーよりも大きいくらいのキノコが寄り添うように生えていて、その向こうには湖があり、雲が分かれて春の日が現れると、きらきらと美しく輝いた。

 

「ここが国の中心で、妖精王の木です!」

「立派な良い木ですね。これもルーンで生かしてるんですか?」

「そうです!木が大きい分、たくさんルーンを刻んであるのでああやってキノコもおっきく育っちゃいました。」

 あはは〜と笑う様子は大して気にしていないようだ。巨大キノコの傘は赤かったり、ピンク色だったりして、その上には沢山の妖精(シーオーク)達が登ってこちらを見ていた。

 

 フラミーとソリュシャンがサンザシの円に入り、続いてポイニクス・ロードを背に乗せた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)が円に入ると、木についた大きな扉が開かれた。

 キノコに乗っていた妖精(シーオーク)達が竪琴を引いたり、花のラッパをパンパンパンと吹き鳴らし、褒め歌を歌い、緑色の髪が美しい青年の妖精(シーオーク)が出てきた。

 青年はフラミーとポイニクス・ロードを見ると嬉しそうに目を細めた。




いや〜平和だな〜!

次回#97 束縛と欠乏

ちゃっかり都市国家連合陥落を言い切る!

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