眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#99 雑話 お迎え

 フラミーは妖精王の後を追い、里の出口である茨の隙間から外を確認した。

「あ、あれは…。」

 妖精王の喘ぐような声が聞こえる。

 里の外にはアインズが一生懸命作っていた屍の守護者(コープス・ガーディアン)と、巨体に三つの犬の頭部を持つ地獄の門番(ケルベロス)。どちらも遠くにいる為、まだ小さかった。

 フラミーは目を細めると呟く。

 

「……ナザリックの戦力…?」

 

 だとしたら、傷付けたくない。向こうから連絡はないが、これは確認する必要がある。そう思っていると、後をついてきたソリュシャンが頷いた。

 

「確かにナザリックの者の気配がいたします。アインズ様のお迎えではないでしょうか?」

「そうなのかな?でも、それならどうして連絡がこないんだろう?」

「…わかりかねます。兎に角一度アインズ様へご連絡いたしましょう。」

 

 ソリュシャンが巻物(スクロール)を取り出そうとすると、フラミーはそれを止め<伝言(メッセージ)>と唱えた。巻物(スクロール)がもったいないし、などと考えながら仕事に精を出したであろう偉い支配者へ繋ぐ。

 すると、こめかみに触れていない方の手にある手首の"N(二イド)"が光り、伝言(メッセージ)は発動せずに散った。

「え………?これ、何なんですか!」フラミーが妖精王に振り返る。

 妖精王はこんな時に一体何だとでも言うような視線だ。

 

「里に入る生き物には必ず付けているルーンです。踊り死ぬ前に里の外の仲間と連絡を取らせないようにしているんですが、もちろんフラミーさまに輪舞(ロンド)をかけるつもりはありませんよ!それが何か?」

 

 足がなくなるまで踊らせて殺してバロメッツの肥料にすると言う話を聞かされたが――フラミーは慌てて手首を擦った。

 

「そう言う大事な事は早く言ってください!あれはうちの国の僕です!」

「え、えぇ!?フラミーさまの国は一体…。」

「きっと私達を迎えに来たんです、だから――」

 

 そう言った時、地獄の門番(ケルベロス)の三つの頭部が一斉にオォーン…――と遠吠えを上げた。戦闘開始前のモーションだ。

「あ、来ちゃう!」

 フラミーはごしごしと腕を擦るがルーンは消える事なく鎮座し続けた。二つの巨体は軽やかさすら感じる動きで走り出す。

 

「これいつ消えるんですか!連絡取らないと!」

「刻印から十二時間はそのままなので…消えるまでまだ十時間はあります!皆、フラミーさまに刻まれたルーンを消すルーンを!」

 

 妖精(シーオーク)達がフラミーの周りに魔法陣を描き出すが、突き進んでくる巨大な竜巻を目にしたように手が震え、うまく魔法陣を描けないようだった。

 

「………いい、行きます!おにぎり君、行こ!」

「メェ!」

「ソリュシャンとアサシンズはルーンを消してもらってて下さい!」

「かしこまりました!」

 

 尻を振るように体を震わせたおにぎり君は小さな体で向かってくる仲間へ向けて駆け出した。

 フラミーも浮かび上がると二体へ向かって飛んだ。

 

+

 

「父上!フラミー様が茨の中から出て参りました!」

 

 ぬーぼーの姿で茨を眺めていたパンドラズ・アクターの報告に、アインズは己の生み出した魔法の椅子から腰を上げた。

 

「周りには何がいる?」

「…フラミー様のおにぎり君が。」

「………おにぎり君?何故だ。ナザリックにフラミーさんが戻ったり転移すれば知らせるようにオーレオール・オメガに厳命させたはずだ。おにきり君を一体どうやってナザリックから連れ出すことが出来る。それともオーレオールに伝えていないのか?――デミウルゴス。」

 

 オーレオール・オメガは普段ギルド武器や転移門の管理をしている。それを指示した防衛指揮官であるデミウルゴスに振り返ると、控えていたデミウルゴスは姿勢を正した。

 

「いえ、オーレオールにはその様に申し伝えてあります。念のため確認を取りますので暫しお待ちください。」

 アインズが顎をしゃくるとデミウルゴスは即座に伝言(メッセージ)を送り、二、三言やり取りをするとそれを切った。

「――失礼いたしました。やはり、オーレオールはフラミー様のご帰還や転移はなかったと。」

「一体どう言うことなんだ…。おにぎり君に見える幻覚か?」

 

 アインズが赤い瞳の灯火を細める。パンドラズ・ぬーぼーは首を振った。

「いえ、あれは幻覚ではありません。確かに実体を持っております。」

「ますます分からんな。アウラ、お前の目から見てもフラミーさんの周りにはおにぎり君しかいないか。」

 アウラは特殊技術(スキル)の<空の目(スカイアイ)>を発動し、ピンク色の色艶の良い唇をキュッと結んだ。二キロ程度の距離なら監視もお手の物だ。

 

「――はい!確かにおにぎり君しかいないみたいです!」

「………怪しいな。ここまで一切フラミーさんとの連絡が取れず、探索魔法も効かなかったと言うのに、突然森が現れ、フラミーさんも姿を現した。罠か……?もし罠だとすれば致死の罠である可能性が高いな…。」

 

 不思議そうな顔をしたシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレにアインズは続ける。

 

「我々――アインズ・ウール・ゴウンがPKをするときに取った手段が現状によく似ている。我々も相手のギルドメンバーの者を囮におびき寄せて、まんまと食いついて来たものをPKしてきた。襲い掛かって来たものは確実に殺したのだ。この方法を取られて一番最悪なのは囮も死ぬ可能性が非常に高いと言うことだ。」

 

 双子から息を吸い込んだ悲鳴が上がる。

 アインズも叫びたい気分だ。相手はフラミーの力を封じ込めるだけの存在であり、どうやってか不明だが玉座の間に置かれた世界級(ワールド)アイテムに守られるナザリックからおにぎり君を連れ出し、おにぎり君の力も抑え込める存在なのだ。

(下手をすれば世界級(ワールド)アイテム所持者か…。)

 己の心を落ち着ける為にもアインズはアウラとマーレの髪を撫でた。

「お前達、この場所の隠蔽と探知への対策は十全だろうな。」

「は、はい!」「もちろんです!!」

 二人のいい返事に頷く。

「よし…。この罠を張った時に我々が一番恐れたのが何だか分かるか?」

 双子から返事はない。少々の時間悩んだデミウルゴスは指を一本上げた。

 

「囮と同等か、囮よりも少ない数で奪還隊が来る場合でしょうか?」

「その通りだ。流石だな。」

 

 デミウルゴスが頭を下げると、後ろにいたパンドラズ・アクターの不満そうな無表情が見えた。私だってわかってましたよ、父上という声が聞こえて来るようだ。

「デミウルゴスの言った通り、少数で来られると伏兵がいる可能性を考慮しなくてはならなくなる。罠が仕掛けた側への罠になるのを警戒してな。」

 守護者全員に理解の色が浮かぶ。シャルティアは手元のメモにきちんと全てを書き留めた。

 

「だから、あの僕達二体以上をお出しにならない訳でありんすね。」

「そうだ。地獄の門番(ケルベロス)は第十位階の召喚魔法で呼んでいるし、屍の守護者(コープス・ガーディアン)も私のお手製だ。あの力は守護者にも匹敵しよう。行く行くはあれを大神殿に一体配置するんだからな。不足はあるまい。」

「大神殿に、でございますか?わざわざそれは…?」

 

 デミウルゴスが不思議そうにする。

「まだ気が早いが、ナインズの学校通いが始まったら毎日ナザリックから大神殿の一室へ転移の鏡をくぐり、そこから登校させる。大神殿に設けるナインズの部屋の為のスペシャル守護者だ。」

 それを聞いた守護者達は目を見合わせた。

「登下校を省略して学校から直接転移門(ゲート)一発で友達と遊ぶ約束もできずに帰ってくると言うようなことがないようにしてやらねばな。下校時間と言うのは大切な時間だ。」

「お、お待ち下さい!ナインズ様を神都に!?」

 デミウルゴスが信じられないものを見るような目をする。

 アインズは咳払いをした。骨の体のためにそれは真似事だ。

 

「……この話はフラミーさんを取り戻したらじっくり行なおう。さぁ、フラミーさんがじきに地獄の門番(ケルベロス)達に接触する。動きがあれば、まずは私が単機で出よう。鬼が出るか蛇が出るか……。」

「――父上!!」前方を見ていたアインズの視界が真っ黄色に染まる。「フラミー様を拐いし敵と戦う必要があることは存分にわかっております!ですが、何故わざわざ単機でなどと!確かに少ない奪還隊の方が相手の警戒心は引き出せますが……相手が姿を現せばこれだけ守護者が集まっているのですから、数で押し潰せばよろしいではないですか!!」

 

 一息に言い切れば、守護者達はその通りだと息巻いている。

 

「………お前の言いたいことは分かるが、そうしない理由は三つある…。」三つ……と復唱されるとアインズは続けた。「一つ目はルーンと言う未知の力を相手が使うと言うことだ。ユグドラシルから持ち込まれた力に間違いはないが、それの持ち得る力がどれほどの物かまるで想像も付かない。」

「アインズ様、デアレバ尚ノ事――」

 コキュートスが何かを言いたげにするが、アインズは手を上げて遮った。

 

「………いや、想像も付かないと言うのは語弊があったな。フラミーさんを抑え込む力だ。この中にフラミーさんより回復や持てるバフの数が優れていると自信のある者は。フラミーさんに防げなかった魔法を防げる自信がある者はいるか。」

 アウラとマーレは二人で揃えばもしかしたら…と少し呟くが、それでは少数の奪還と言う最初の条件を満たさないし、もしかしたらと言う曖昧な答えは支配者への返答として相応しくないだろう。

 

「一番期待できるのは私だ。始原の魔法もあるからな。それから、二つ目は相手がプレイヤーで、あの茨がギルドホームだった場合を考慮する必要がある。そうであれば、ナザリックのような隠蔽工作にも頷ける。もしプレイヤーがフラミーさんを拐い、囮とするならば、理由は一つしかない。――私をおびき寄せるためだ。」

「それでは相手の思う壺でありんす!!」

 シャルティアに笑って見せる。

「お前から戦略への突っ込みを受ける日が来るとはな。メモの成果か?頑張っているじゃないか、シャルティア。」

「あ、あいんず様…。誤魔化さないでおくんなまし…。」白蠟じみた頬がぽっとさくらんぼのように染まり、シャルティアは切ないような目をした。

「ははは、すまん。しかし、今までも言ってきたようにプレイヤーとの戦いは必ず自らの手でする必要があると私は思っている。だから、な。」

 

 フラミーが地獄の門番(ケルベロス)の前に降りたのが見えるとアインズはいつでも出られるように立ち上がり、自らの魔法で生み出した椅子を消した。

「――そして最後の理由は……自分の妻くらい、自分の手で救いたいじゃないか。私はいつでも迎えに行く、そう約束しているんだから。」

 アインズの笑ったような雰囲気を受け、守護者はそれが死出の旅路ではないと確信した。

 

+

 

 フラミーは見上げるほどに巨大な地獄の門番(ケルベロス)に手を伸ばした。

 

「ワンちゃん、アインズさんは近くにいるの?」

 

 黒き猛獣は肯定も否定もしなかった。ただ、フラミーの手のひらにツン、と鼻を触れさせただけだ。

 隣にいる人骨の集合体めいた屍の守護者(コープス・ガーディアン)は恭しげに膝をついた。

「……………。」

 暴力の権化のような姿からは想像が付かないような動きで手を差し伸べられる。

 

「あの、お迎えですよね?私今伝言(メッセージ)送れないんです。アインズさんに私は無事だから、お昼ご飯にしようって伝えてください。近くにいるんでしょう?」

 

 フラミーは屍の守護者(コープス・ガーディアン)の巨大な手に乗るとそれに座り、おにぎり君も続いた。

「……………。」

「どうしたの?」

 二体は辺りを見渡すと妖精の里へ向けて歩き出した。

 茨の入り口まで来ると、フラミーに巨大な影がさした。

 

「――え?」

 

 その正体は振り上げられた屍の守護者(コープス・ガーディアン)が片手で握る両刃斧(バトルアックス)が作る影だ。

 魔法は間に合わない。このままでは茨の壁が破壊されてしまう。

 杖で少しでも受け流すことだけを考え、ありったけの筋力を総動員して屍の守護者(コープス・ガーディアン)の手の中から立ち上がる。

 前衛として生み出されたアインズ渾身の一体。フラミーの杖には重すぎる衝撃が加わり、何とか茨から逸らすことができた両刃斧(バトルアックス)がそのまま大地を叩く。

 地割れを巻き起こすような音が辺りにこだまする。フラミーは凄まじい力に叩きつけられ、まるで引きずられるように大地に膝をついた。

「っあぅ!!重い……!」

 フラミーは伝わって来た衝撃からじん…と痺れた手で杖を地につき、立ち上がった。

 ガーディアンはフラミーに当たると理解したところで力を弱めてくれたようだった。本気でぶつかってくるようならば、相手を傷付けずに戦うなど舐めたようなプレイスタイルでは決して勝てない。

 膝を付いてしまい土がわずかについたローブを屍の守護者(コープス・ガーディアン)が優しくはたいてくれ、申し訳なさそうに頭を下げた。

 顔には地獄の門番(ケルベロス)の大きな舌がべろりと触れる。

 

「二人とも、やめて下さい。ここはもううちの領土に――」なると言ってもらっていない。あと少し、あともう少しだったのに。「とにかく、攻撃しないで。」

 ガーディアンと地獄の門番(ケルベロス)の戸惑いを感じる。

 二体はそれぞれどうするべきか悩んでいるようだった。しかし、それも束の間だ。

 それぞれに命令を帯びてここに来ているのか、二体の鋭い視線は茨へと戻った。

 再びガーディアンが地に突き刺さった両刃斧(バトルアックス)を持ち上げる。

 

「――<完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)>!!」

 

 フラミーの体に力が漲る。持ち上がりかけた両刃斧(バトルアックス)へ杖を思い切り叩き付ける。

 その隣で地獄の門番(ケルベロス)は三体の口にそれぞれ黒炎を―― <獄炎(ヘルフレイム)>を溜めていた。対象に燃え移るまでは可愛いような火だが、あれを放たれれば里は瞬時に炎に覆い尽くされ、燃えかすも残らずに焼失するだろう。

 確かな繋がりを感じるおにぎり君へ思考で命令を送り、おにぎり君は屍の守護者(コープス・ガーディアン)の手の中から地獄の門番(ケルベロス)へ向けてジャンプする。

 黒い子山羊の方が地獄の門番(ケルベロス)よりやれることは少ないが、レベルは高いはず。

 おにぎり君の触手が胸へ向けて振られると、メキリという音と共にケルベロスの体が大きく後退させられる。

 四本の足が踏ん張り、地面に引っ掻き傷のような痕跡を残す。

 銀色の草がまばらに生えるその場所に、爆風のような土煙が吹き上げられた。

 二体は決してフラミーとおにぎり君を傷付けるつもりはなさそうだった。

 追撃はない。

 フラミーは杖を下ろした。同時に戦士化が解ける。

 

「フラミーさん…まさか精神支配か……?」

 

 その声の主は土煙の中から現れた。

「――アインズさん!良かった!」

 フラミーが駆け寄ろうとするとアインズは一瞬身構えた。

 

「アインズさん…?」

「フラミーさん、今のあなたの状態を確認させて下さい。場合によっては流れ星の指輪を使います。いや、必要ならば二十(・・)のうちの一つだって使いますよ。」

「そんなもの…どうして?」

 アインズはフラミーの手首に付くルーンへ指をさした。

「――ここで何があったんですか?それは?」

「あ、これはこの茨の向こうにある里に入るのに付けなきゃいけないルーンで、描かれたら伝言(メッセージ)が送れなくなっちゃったみたいです。さっき気づきました。珍しいものだから、あなたが見てみたいだろうと思ってとっておいたら…こんな感じに…。」

伝言(メッセージ)どころか、探知系の魔法も軒並み弾かれましたよ。こっちからの連絡も取れなくて、ずっと皆であなたを探してたんです。」

「…ずっと皆で…?」

「ずっと…。」

「あぅ…ごめんなさい…。」

「良いですよ。ちょっと小言じみて俺こそすみません。――それで、敵はあれの中ですか?」

 

 フラミーと一定の距離を保つアインズは茨の向こうへ視線を送った。

 

「敵じゃないんです。火の鳥を捕まえたら妖精が現れて、火の鳥をほしいって言うんで、羽を分けてあげる約束をしてました。ここの暮らしの生活必需品みたいなんです。それで、うちに降るように説得してました…。」

 

 フラミーが申し訳なさそうにしていると、アインズは構えた杖を下ろし、少し警戒したような足取りでフラミーに近付いた。

「……迎えが触れたらボンッなんて言うのはよくやった事だけど…いつものフラミーさんみたいだ。」

 そう呟き、フラミーに向けてアインズが腕を広げると、フラミーはおずおずと近付いて行きその中に収まった。

 

「勝手なことしてごめんなさい…。役に立てると思ったんです。」

 アインズの体から緊張が解けていく。

「良かった。何ともないみたいで。いつも充分役に立ってますよって、聖王国の帰りにも言ったじゃないですか。」

 

 フラミーはあの帰りの馬車を思い出したのか、アインズを見上げると幸せそうに微笑んだ。

 

「優しいんですね、鈴木さん。」

 アインズは昔の呼び方にふふと笑いを漏らした。

「なんせ、少しだけお兄さんですからね。」

 懐かしむような穏やかな笑いを二人で上げ、笑いが自然と引いていく。

 

「それより、体は大丈夫ですか?痛いところはないですか?屍の守護者(コープス・ガーディアン)に少し引きずられちゃってたみたいですけど。」

「ちっとも!ただ、私が地獄の門番(ケルベロス)を少し傷付けちゃいました。」フラミーはおにぎり君の渾身の力で殴られ、痛みを覚えている様子の地獄の門番(ケルベロス)に回復魔法を掛けた。

「そんな事は気にしないでください。…はー…何年か寿命が縮んだな…。」

「アンデッドなのに寿命ですか?」

「寿命ですよ…。人間でもあるんですから。」

 そう言い、人化すると困ったように笑ってフラミーの頬を撫でた。

 

「じゃあ、聞かせて下さい。俺のこの体の寿命を短くした大冒険について。」

「はひ!あのね、最初はナイ君が火の鳥を見つけて――」

 フラミーはここに来てからの事をひとつづつ語り、アインズは身振り手振り話す様子を幸せそうに見守った。

 

 そうしていると、妖精達が少しづつ茨から顔を出し、楽しげなフラミーに誘われるように茨から出てきた。

 

 アインズはこれが妖精(シーオーク)かと自分の周りに座り、共にフラミーの小さな劇を観覧する生き物を確認した。

 自分達の出番もあるとノリノリで参加していく。アインズはそっとこめかみに触れた。

 

「――私だ。フラミーさんはまるで何ともなかった。脅かして悪かったな、お前達もこちらに来るといい。」

 伝言(メッセージ)を切ると転移門(ゲート)を開く。

 

 守護者が続々と転移門(ゲート)を潜って来る――と言っても、格好のついた様子ではない。皆が一塊になって現れた。急ぎすぎたのか全員が倒れ込み、元気なフラミーを見上げて目をぱちぱちさせた。

「「「「ふ、フラミー様ぁ!!」」」」

 守護者達は感激している様子だが、この小劇場を閉幕させるのは惜しい。

 アインズは人差し指を口に当てた。

「ここで何が起きたのかを説明してくれている。お前達も黙って見てなさい。」

 見たこともない小さな羽虫をかき分け、守護者は静かに座った。

 

 そうして、フラミー劇場が終わると地獄の門番(ケルベロス)は体を起こし、三つの頭を空にあげた。

 折り重なるような遠吠えを上げる。銀色草のまばらな原野と、妖精達の森、風に乗ってどこまでも響き渡り、妖精達がワァー!と小さな拍手と歓声を上げて閉幕した。

 

「と、いうわけで――妖精王様、もう一度聞かせて下さい!」

 アインズの隣に座っていた緑髪のおかっぱは浮かび上がった。

「フラミーさま。厳しく命を奪う冬から、どうか僕達をお守り下さい。僕達はフラミーさまの物になります。春を総べたもう金の瞳の君!」

 フラミーはわぁ!と両腕を広げ、飛びついた何人もの妖精(シーオーク)を抱きしめて笑った。

「皆さんよろしくお願いします!」

 妖精(シーオーク)達は終わらぬ春の訪れに歌い、踊り出す。その円にはやはり、ぽこぽことキノコが生え、キノコには短い足が生えて輪になって踊った。

「フラミーさん、お手柄じゃないですか。」

 アインズは明るくファンタジーな光景に目尻を下げた。

「私、アインズさんの役に立った?」

「いつでも。でも、今回は大手柄です。」

 フラミーは一層嬉しそうに笑うと、そばに寄ったシャルティアと、ちゃっかり者のパンドラズ・アクターと手を取って踊った。双子はバロメッツをどこに植えようとコキュートスを交えて話し合っている。

 そうしていると、ソリュシャンと火の鳥を担いだ八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)、更に多くの妖精(シーオーク)が茨から出てきた。

 

「アインズ様!!」

「ソリュシャン、中々面白い冒険をしたようだな。」と、アインズが少し虐めるように言うと、静かにフラミーの踊りを眺めていたデミウルゴスが続ける。

「何のための護衛、戦闘メイド(プレアデス)なのかよく考えて欲しいものですね。今回はフラミー様に何もなかったから良いものを、里に入る前に一言連絡をしておくべきだったのでは?フラミー様は些事を言いつけたりしませんし、ご自身でそう言ったことをされようとしますが、それを汲み取り先回りするのが僕としてのあるべき姿でしょう。」

「申し訳ありませんでした!!」

 ソリュシャンは何も言い返せないというような雰囲気で頭を下げた。

「待て待て、デミウルゴス。まさかルーンに力があると知らないうちに書き込まれたのだ。それに、私から仕事が終わり次第連絡をすると言っていたのだから、フラミーさんもソリュシャンも邪魔にならないよう気を使ってくれたのだろう。お前の憤りも理解できるが、まぁそう言うな。」

「しかし…。」

 納得行っていない様子だった。

「今回の一件で最も責められるべきは私だ。たった二時間程度連絡が取れないからと言ってみっともなく大騒ぎをした。許してほしい。」

 アインズが二人に頭を下げるとデミウルゴスは顔を青くした。

「と、とんでもございません!!アインズ様のご心配は当然のこと!!お、おやめください!!」

 二人が慌ててアインズを止めようとし、アインズは相変わらず謝られることに慣れていない守護者に苦笑する。

 デミウルゴスが自分の言葉でこうも頭を下げさせてしまったと、これ以上は腹を切りかねない気がする。

「…謝罪を受け入れてくれたと思っていいのかな。」

「もちろんでございます!!」

「感謝しよう。」

 三人のおかしなやり取りが終わると、妖精王が踊りの輪から抜けてゆっくりとアインズのそばに飛んだ。

 

「魔導王さま、僕達がフラミーさまを帰さないと言ったせいでこんな事になってしまって申し訳ありません。まさかこんなことになるなんて…。」

「妖精王…オーベロン。次はないと思え。本来ならば監禁の罪で罰するが、フラミーさんの所有物となったことに感謝するんだな。――デミウルゴス、末長い援助とフラミーさんが交わした約束を基に併呑の手続きを進めてくれ。お前に任せたい。」

「かしこまりました!」

 

 その後妖精の隠れ里は隠されたままに併呑された。

 ポイニクス・ロードは無事に第七階層へ連れ帰られ、アインズは小さな街をフラミーと共に見て歩いた。

 

 その後二人はおにぎり君が踏み抜いたルーンの結界の補修をしばらく観察したらしい。




滅ぼされなくて良かった!
御身とフララを戦わせたかったけど…仕方ないねぇ

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