エ・ナイウル、光の神殿。
まだ咳は響いているが、患者の劇的な減少から神殿は落ち着きを取り戻し始めていた。
「――クラスカン様。病の広がりの試算より、随分患者が少ない気がしませんか?」
ラライは累計罹患者数と罹患者数の試算が書かれている資料を眺め、連日の人数の減少を確認した。
「そうだね。陛下方のご慈悲のおかげだ。一時はどうなることかと思ったけれど、本当に良かった。」
応えたジーマの顔には安堵が浮かんでいる。
この光の神殿に勤める神官達が本来の神官業務も行えるくらいにまで事態は収束してきた。
国中から集まってくれた高位の神官達は、もうこの神殿の神官が治癒に携わらなくとも大丈夫だと、殆どの治癒作業を受け持ってくれているし、魔力が尽きれば掃除や、この一週間溜まった仕事も手伝ってくれている。
神官達にとって全ての神殿は自らが働くべき場所であり、信仰と忠義を果たすべき場所なのだ。
一番最初に駆け付けてくれたモルガーはこの神殿にいる若い神官に、治癒魔法を使えるようにさせようと魔法の手ほどきまでしてくれているし、神官達の団結力は並みのものではない。
特に目を見張るべきは、聖ローブル州の神官団だ。彼らはスレイン州やザイトルクワエ州よりも近かった事もあり、神官団の中では一番に駆け付けてくれた。そして、他の州の神官達とは違い、まるで訓練された軍人のようだった。
聖ローブルからは、かつて聖王であった現州知事のカルカ・ベサーレスと、聖ローブルの神官団団長であるケラルト・カストディオまでもがこのエ・ナイウルに集結している。
カルカはまだ二十歳と若年であるにも関わらず、第四位階まで操る超高位神官だ。ケラルト・カストディオも同じく第四位階まで――いや、本当は第五位階まで操るそうだが、神への贖罪としてその魔法を行使する事はないらしい。
カルカが第四位階魔法で召喚する
「一度罹った人が二度発症する事もないですし――まさしく光神陛下のご慈悲による所ですよねぇ。」
「本当だね。神王陛下の試練を乗り越えた人に祝福を下さってる。」
ジーマとラライがうっとりとしていると、ブフッと誰かが馬鹿にしたような笑い声を上げた。
なんて不遜なんだとそちらをちらりと確認する。
ここは宗教の自由を約束された神の国。無理に信仰しろとは言わないが――少なくとも一国の王と王妃を笑うような真似は咎めても許されるだろう。
二人の視線の先には、長身の怪しい男と、赤ん坊を愛しげに抱いている女がいた。
男は黒いローブを身に纏い、フードを目深に被っていて、更には顔を隠すように奇妙な面を着けていた。
同じく女もフードを目深にかぶっていて、顔がよく見えない。もしかしたら老婆と言う可能性もあるが、背筋がピンと伸びているので乙女のような気がした。裾は地面に擦る程に長い。
どちらも目を見張る上等な服だ。人間ではないのかもしれない。評議国の亜人や旅行で見物に来た者達なら仕方がない。
ジーマはコホンっと咳をすると、二人へ近付いた。
――ふと、ゾクリと背が震える。
周りで祈りを捧げている無関係そうな六名が自分を見ていることに気が付いたのだ。祈りを捧げていた金髪の令嬢、観光客らしい
そして、女に抱かれた赤ん坊までも――。
まるで、全員がせーの、と声を掛け合ってからこちらを見たような、示し合わせた行為のような、奇妙な不気味さがあった。
ここは、本当にジーマが愛してきた神殿なのか。
本能が何かを訴える。闇が迫ってくる。喉が無性に渇き、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「――クラスカン様?」
ラライが自分を覗き込むと、ジーマはハッと我に帰った。辺りはいつもの明るい神殿だ。
「――あ、あぁ。ラライ君。」
「すごい汗ですよ。いくら高位の神官の皆様が来てるとは言っても常に祭服を着てらしては身体に触ります。神殿長だって暑さは感じるんですから。」
ジーマは顎を伝った汗の存在に気がつくと、慌てて拭った。
そうしていると、ラライがジーマの隣から不審な二人に声をかけた。
「――そこのお二人、陛下方をお笑いになるような事はお慎み下さい。」
不審者は一度顔を見合わせると「ハハ…」と困ったような笑いを漏らした。
「すみません。ただ、えーと…一度病気に罹った人がまた病気にならないのは、免疫なんじゃないですか?」
男が答える。ジーマは聞いた事もない言葉に、君は知ってるか、とラライへ視線を送る。軽く首を振られる事で、ラライも知らない言葉だと言うことが分かった。
「…貴方の国では病に二度かからない御加護をそのように?」
冒険者達は次々と新たな大陸を探しに行っているのだから、もしかしたら別の島の者かもしれない。そちらはまだ冬――もしくは夏が来ない場所なのだとしたら、この二人のおかしな格好や信仰心の低そうな様子に納得もいくというものだ。
「…ま、まぁ。そんなところです。うん。うんうん。免疫は加護の名前です。では、私達はこれで。」
二人がそそくさと神殿を後にしていくと、白金の冒険者もその後に続く。
あれは護衛だったのかとジーマとラライが思った――その時、二人は慌てて辺りを見渡した。
「え……え!?」
「いつの間に!?」
周りで祈りを捧げていたはずの五名が消えていた。
まるで幻でも見ていたようだ。
ジーマは己の頬をつねると、痛…と小さく漏らした。
「ク、クラスカン様…。あの噂、ご存知ですか…?」
ラライの顔はわずかに青くなっていた。
「あの噂…。」
「そうです…。僕はずっと、そんな事を陛下がされる訳がないと思っていました。だって、神殿の不出来を告げて直させた方が、未来と世の中のためだと思ってましたから…。」
ジーマも全面的に同意し肯く。
「私もそうだと思うよ…。それに…もしいらしているのなら
「で、でも…もし…もしもですよ?もしも…さっきの二人組が――。」
ラライはそれ以上の事を言わなかった。
しかし、ジーマには続く言葉がわかった。
――さっきの二人組が神々で、街へ救いを齎しに出掛けた所だとしたら?
だとしたら、加護の名前も知らない神官達を笑ったのかもしれない。
二人はそれ以上の言葉を交わす事なく仕事に向かった。
「こちらでございます!」「こちらでございます!」
アインズは不可視化している
一度も来たことがない街だった為、神殿に勤める
正直言って、いい体験だった。現地の者達が建てた建築物というのは見応えがある。全て人の手で作られたものだと思うと、つい感動して見入ってしまった。
これなら、国中の神殿に遊びに行き、その周りを散策して食べ歩きなどもしてみたい。
この港町も中々見所がある街だ。
果てしなく広がる海からは波打つ音や、ウミネコのミャアミャアと言う声、そしてすぐ隣を歩く「ふふ、うふふ」と言うフラミーの上機嫌そうな笑い声。
「いや〜、文香さんの御加護はすごいなぁ〜。」
アインズの言葉に、フラミーは途端に困ったようにひぃーんと声を上げた。
「どう考えても私じゃないですよぉ。」
「ははは。俺もそう思いまーす。」
アインズは神官達が免疫と言う言葉を知らないことを学んだ。あまりにも自分たちの常識とズレているが、魔法一発でなんでも治ればそう言う知識が蓄積されることもないのだろう。リアルだって十九世紀までそんな言葉はなかった。
ならば――この世界にそんな知識を与える必要はない。
魔法で治るのだから、今後疫病が発生しても今回と同じようにすれば良いだけの話で、余計な知識は不要だ。
もし天然痘などの超有害ウイルスが発生した際にはシャルティア、マーレ、ペストーニャで根絶すればいい。
二一三八年のリアルでは、多くのウイルスが撲滅や完封されており、ワクチンも物凄い量だった。とは言っても、ワクチンは生まれた時に打たれるのでアインズとフラミーに打たれたときの記憶はまるでないのだが。
代わりと言ってはなんだが――リアルは病気にかかる心配は減ったが、汚れた空気のせいで人々は肺を壊すリスクを負っていた。フラミーの転職前の職業がガスマスク製造工場と言うのも納得の世情だろう。
「外はやっぱりいいですねぇ。」
アインズは感慨深げに街を見渡し、嫉妬マスク越しに大きく息を吸った。
「はひ!とっても良いです!それに、偽物もワクワクします!」
「ははは。文香さん、そんなに偽物に会うの楽しみなんですか?」
フラミーはえへへぇと目尻を下げた。
「全然神様らしくない私がどんな風に見えてるのかすっごく興味ありますもん!」
「なるほど、そう言う事ですか。それなら俺の偽物もいないかなぁ。」
支配者らしい偽物がいたら、大いに参考にしたい。
「悟さんの偽物はいるじゃないですか!」
「へ?そうなんですか?」
「ふふ、いますよぉ!」
アインズが首を傾げると、フラミーは少し離れたところをついてきているツアーにちらりと視線を送った。
「――皆あなたのこと、スルシャーナさんだって言うでしょ。」
「あ、ほんとですね。でも、神様の立ち位置乗っ取ったのは俺だから……スルシャーナが俺の偽物なのか、俺がスルシャーナの偽物なのかは難しい所ですね。」
目を見合わせ、二人は和やかな笑い声を上げた。
ただ、目を見合わせるとは言っても、アインズは嫉妬マスクを被っているのだが。
一方フラミーは魔導学院に潜入したときの顔――つまり、
正式名称、嫉妬する者達のマスクはクリスマスイブの日の十九時から二十二時の間、二時間以上インしている事で入手することが出来る呪いのアイテムのため、フラミーも持っているが、アインズのもう一つの顔であるモモンフェイスと違ってこの顔には何の身分も名前も付いていないので平気で顔を晒して歩いている。
流石に赤の他人の顔を使うのは気が引けるし、かと言って一から人間の顔を作れるほど想像力も逞しくない。
フラミーは顔を隠したところで皮膚の色を変えなければならず、結局幻術が必要なので、こんな感じだ。
そんなどこからどう見ても怪しい二人は海沿いの道から一本、また一本と道を曲がり奥へ奥へと進んで行った。
フラミーの偽物はこの辺りにいるらしい。
なんでもない平凡な家が立ち並んでいる。どれも漁師の家なのか気持ち広めの庭で、大きな曳網を干していたり、イカが干されていたりする。
光の神殿に勤める
重篤な状態で神殿から連れ出されていった者の名前を、神官達の作成している名簿から割り出し、街の警らを行う
そして、それらが連れて行かれた先を調べ――怪しい区域を割り出し、虫けらの巣を突き止めた。
「ふふ、いよいよですよ!」
「気を付けてくださいね。ヴィクティムも頼むぞ。」
「
フラミーに抱かれるヴィクティムはぴこりと手をあげた。幻術でナインズが赤ん坊だった頃の姿になっているので、あまりにも愛しく懐かしい。
アインズはヴィクティムを数度撫でてやると、フラミーに向けて立て続けに魔法を発動させる。
――<
――まるでこれから戦にでもいくような量の魔法だった。
「はへ?」
魔法に身を包まれ、数度発光したフラミーは不思議そうにアインズを見上げた。何かが起これば時を止めツアーを盾にして即時退避なので戦闘準備は不要だ。
「ここに蔓延してるのがどんな病気かわかりませんから、一応掛けさせてください。妊娠中は免疫も落ちますし。異常状態避けです。」
百レベルクラスの異常状態への満遍ない耐性をすり抜けられるウイルスがいるのかは謎だが、念には念を入れる。
「ありがとうございます!じゃあ、私も――」
そう言ったフラミーから同じだけの魔法が返される。アインズの場合人化を解けば瞬時に病ともおさらばだ。
しかし、二人は仲睦まじく笑い合い、路地へ進んだ。
二人の事を民家の屋根の上から見守っていたアウラとマーレは向かう先に危険がないかを一足先に確認する為、小走りで移動を始めた。そのまま屋根伝いに走っていく。
屋根から屋根へ飛び移る度にマーレはスカートを押さえ、アウラは伸ばしている髪が乱れすぎないように気を遣った。
一方、地上を行く部隊は<
それから夫婦の設定のアルベドとデミウルゴス、変装しているシャルティア、そして動く鎧だ。
過剰戦力達は付かず離れず、時に先回りし、時に後方確認をし、ぴたりと二人のそばで活動していた。
アインズ達が人の流れに乗って進んでいくと、一軒、行列ができている家があった。
列があったら並ばずにはいられない。日本人の悲しい習性に後押しされながら列に並ぶ。
「はー!ワクワクしますねぇ!」
「本当ですねぇ。でも、咳をしてる人が少ない…か…?」
「あら?確かに…。さっき神殿にいた人達はあんなに皆咳してたのに。」
病気を治してもらうと言うにはピンピンしている者が多いようだった。
中には咳き込む者もいるが、皆大きな荷物を抱えていて、どちらかと言うとレジャーにでもいくような雰囲気だ。
「…ふーむ。」アインズは唸ると、前に並ぶ子連れの女性に声を掛けた。
「すみません、この列って、フラ――えー…と、光神陛下にお会いできるって言うあれですか?」
女性はアインズに振り返ると、一瞬その仮面にギョッとしたような顔をし――すぐに我に帰って頷いた。
「そうですよ。あなた達は初めてですか?見た所、お元気そうですけど。」
女性はアインズ、フラミー、幻術を掛けてあるヴィクティムをまじまじと見ると、少し迷惑そうな顔をした。
「――もしかして、名付けを頼まれにいらしたんですか?光神陛下は本当に困っている人以外の来訪は断っておいでですよ?」
すると、ヴィクティムが二度、「
世界の自動翻訳によって咳をしている風に聞こえるが、怪しい。あまりにも怪しい。
(…これって本当に天使の言葉とされるエノク語なのか?なんかもっと別の言葉を喋ってる気がするんだが…。――おっと、まずいまずい。)
思考を切り替える。
「――んん。この子はあまり症状が出ていないんですけどね、こうして咳をするようになったんです。まだ幼いから心配で。なので、こうして陛下にお会いしに来ました。」
「そうでしたか…。すみません。」そう頭を下げた女性は世界翻訳に慣れすぎているのか、特に何か違和感を感じたようではなかった。「――実は今日もあったんですよ。てんで健康なのに、ただそのご威光に触れたいと自分勝手な事を言ってここに並んでた人が。」
「なるほど。ちなみに、奥さんと――」
「――僕は?何歳?」
ヴィクティムを抱くフラミーは女性のスカートの影に隠れるようにしている少年に尋ねた。
「む、むぅー。」
少年は唸ると、パーにした手をふらみーに向けた。
「ふふ、五歳かぁ。ちゃんとお母さんと並んで偉いねぇ。」
「え、えへへ。僕偉い?」
「偉いよぉ。とっても偉い。」
少し照れると、少年はヴィクティムを覗き込んだ。
「この子は何歳なの!」
「この子は――ん……と……ゼロ歳かな。」
「へぇー!これゼロ歳なんだ!」
「うん、ゼロ歳だよ!」
「お姉ちゃんの赤ちゃんも光神へーかに治してもらえるといいね!」
「ほんとだね。ふふ。私、すっごく楽しみ!」
二人が話を始めると、母親がアインズの先程の問いに答えた。
「昨日この子を治していただいたんです。漁師だったこの子の父親が海難事故で他界してしまって。日中は私が忙しく働いているせいで、中々神殿に連れて行けなかったんです。」
アインズも父親を亡くし、母親が女手一つで育ててくれた。似た境遇の少年に、ほんの少しだけ自分を重ねる。
「そしたら昨日の夜、あんまりこの子が苦しそうにしてたもので、神殿に駆け込んだんですけど……神官様達には今は魔力がないと断られちゃって…。少ししたら症状を和らげる魔法を使える天使が巡回に来るとは言われたんですけど――その時に陛下のお噂を耳にして。陛下はすぐに治してくださいました。だから、私たちは今日は信仰を示しに来ているんです。ね、ロジェ。」
「うん!あのね!僕ね!すっごいね、もうね、やばかったんだけどね!光神へーかに治してもらった!」
「そうでしたか。ちなみに、信仰を示すと言うのは?」
「…まぁ、お二人は何もご準備になってないんですか?」
母親に心配するような視線を向けられる。
「と、言うのは?」
「いえ。きちんと信仰を示すだけの証拠をお出ししないといけませんよ。どれだけ大切なものを出せるのか、命と金品どっちが大切なのか、光神陛下はそうお尋ねになりますから。」
話しながら、列は少しづつ進んでいく。
「それは、例えば私の命を差し出す代わりに、この子を救って欲しいと言うのではどうなんですか?」
アインズがヴィクティムの頭を撫でると、ヴィクティムは再び「
「そんな事はいけません。そう言う事を言った人はたくさんいましたが、命を粗末にするなんて信仰が足りないと陛下は仰います。お父さんの気持ちは分かりますけどね。陛下は命の神なんですから、いけませんよ。」
アインズがなるほど、十分正統性を感じるこじつけだと頷く隣で、フラミーは困ったように笑っていた。
そして――「くぉんの下等生物がぁああ!」という聞き覚えのある女の声と、凄まじい勢いで何かが破壊された音がが聞こえ、一瞬地面が揺れた。しかも、すぐそばから謎の冷たい空気が発生し、何もない場所からガチンガチンという音まで鳴る。
列を成していた者達を一分ほどの沈黙が支配した。
「君達はおかしいとは思わないのかい?」
静寂の中、その言葉は妙に響いた。
「おかしい…?」
女性が敵意を持った顔で視線を向ける先――。アインズが振り返ると、ツアーが腕を組んでいた。
「おかしいだろう。フラミーは君達を何の見返りもなく生き返らせた事があるのに。」
「信仰を形にした結果、私達が勝手に金品を持ってきているだけです。命でお支払いはできないですから。それより、陛下をそんな風に呼び捨てにするなんて、あなたこそおかしいですよ!!」
列が騒めきを持つが、ツアーは何も感じていない様子だった。
「陛下を信じていないなら、迷惑なだけですから帰ってください!」
「そうかい。偽物の神に膝を折る時間があれば――」
「おい、ツアー、お前やめろ。」
アインズが止めに入るように鎧の肩に手を置くと、女性はツアーをドンッと突き飛ば――せなかった。壁のようなツアーは一ミリも動かずに女性を見下ろしている。
「出ていきなさいよ!!あなたも!!」
何故かアインズまで指をさされる。ギャラリーがそうだそうだと怒りに飲まれていく。
そして「摘み出せ!!」と言う言葉が響いた瞬間、アインズとツアーに手が伸びる。
「ッチ、行くぞ。」
「やれやれ。全く過激だね。」
アインズはフラミーも連れて行こうかと思ったが――フラミーを敵視している者はいない。
会うのが楽しみだと明言していたし、病気にかかっている赤ん坊がいることを配慮しているようだった。
アインズは冷たい空気が肩に触れると、冷気に向かって声をかけた。
「守れ。」
何もない空間からガチンッと硬質な音が鳴る。アインズでもパンドラズ・モモンガの<
屋根の上には双子。
もし知恵者達が危惧するように竜王が裏で糸を引いていたとして、アウラの<
フラミーに心配するような視線を向けると、何故か挑戦的な目をしていた。
アインズにはそれがなんと言っているのかわかる。
(――任せてください!!)だろう。
アインズはツアーを引っ張り路地を抜けた。
「……おい、ツアー。」
「なんだい。」
「盾は喋るんじゃない。おかげで列を追い出されただろうが。」
「そんなおかしな格好をしているからだろう。顔を出して行けば皆君達をオシャシンで見た事があるんだから、すぐだ。評議国の者は僕が拘束する。」
「お前はフラミーさんの楽しいお散歩を台無しにするつもりか。顔を出せばお散歩はそこで即時終了だ。それに、どう言う手でフラミーさんを騙っているのかこの目で調査して再発防止に勤めた方がいいし、裁判的に考えても現行犯逮捕が望ましいんだ。」
「裁判ね。君がフラミーを騙った相手にそんな物を受けさせる気があるなんて驚きだよ。」
「もちろん最初から有罪確定の出来レースだ。だがな、私が定めた法を私が破ってどうする。」
「それは――すごく好感が持てるね。君なら法は破るために存在するとか言うかと思ったのに。」
「……お前は私をなんだと思ってるんだ。」
――魔王。
ツアーの言葉を無視すると、アインズはふぅ…と息を吐いた。
「ま、大方正解だがな。さて、フラミーさんの側に戻るには――」
アインズは辺りをキョロキョロと見渡し、屋根から行こうかなぁと考えていると、ツアーが親指で一本隣の路地を示した。
「裏から行こう。庭から侵入すれば問題ない。庭には倉庫があったから、その裏で生垣を飛び越えればいい。」
「……俺よりよっぽどお前の方が悪者なんじゃないか…。」
「
「………それは頼もしい事で。」
二人は路地裏に向かった。