眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#3 忠誠の儀

 ギルドの紋章を頂く転移の指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を起動させ、二人は第六階層にある闘技場へと続く薄暗い廊下に移った。

 廊下の向こう、闘技場に守護者達がいる事を二人は確認した。良くも悪くも全員揃っていることに緊張感が増す。

 アルベドは敵対しないという事が既にわかっているため、最強の盾役として活躍してくれる事をつい期待してしまう。

 どうやって気づいたのか、ふと全員の視線がこちらへ向いた。

 

 すると、その中から一人の少女が猛スピードで接近してきた。

 二人は身構えながら、話し合いの時に上がった「アルベドは敵対しないとしても、何かあった時に味方もしない状況の方があり得る」と言う話が何度も頭をちらつく。

 

 すぐに距離はつまり、キキキーッと急ブレーキを踏むように立ち止まると十歳ほどの少女は口を開いた。

「モモンガ様!フラミー様!あたし達の守護階層である第六階層へようこそおいで下さいました!」

 真夏に咲くヒマワリのように眩しい笑顔を見せたのはオッドアイの闇妖精(ダークエルフ)、この第六階層を守るアウラ・ベラ・フィオーラである。

 そのすぐ後ろを奇妙な走り方で追ってきた少女の影がモモンガの腕に抱きついた。

「ああ!私が唯一支配できない愛しの君!そして、フラミー様!一月ぶりの御降臨、心よりお喜び申し上げんす!」

 一息に言い切ったその少女は第一、第二、第三階層を守護する真祖(トゥルーヴァンパイア)、シャルティア・ブラッドフォールンだ。

 フラミーは固まり言葉が出なかった。

(NPCはゲーム内の記憶を持っているの……?)

 

 モモンガがどう感じたか探ろうと視線を向けるも、馴れ馴れしいとアウラに叱られるシャルティアの様子を少しだけ嬉しそうな雰囲気で眺めていた。その横顔は、一月ぶりという言葉に違和感を感じた様子はなかった。

 むしろ――その通り、とでも言うようだ。

 

「君たち、御方々の御前だよ」

 気付けば近くまで来ていた三つ揃えの赤ストライプのスーツに身を包んだ男が口を挟む。その声は引き込まれるような張りのあるものだった。

 第七階層《溶岩》を守護する叡智の悪魔、デミウルゴスだ。

 

「行きましょうか。フラミーさん」

 支配者然とした声音でモモンガが言うも、腕にまとわりつくシャルティアの存在のせいかあまり格好がついていない。

 フラミーはうなずいた。

 アウラ、シャルティア、モモンガ、フラミーと横に並んで進むと、前にいたデミウルゴスは横にずれることで支配者達へ道をあけた後、フラミーの斜め後ろから付いて来た。

 

 危害を加えられる様子がない事に気持ちが緩む。

 モモンガさんは人気者だなぁ、と考え――斜め後ろを無言でついてくるデミウルゴスにすぐに意識を向けた。どことなく裏切りそうな風体な気がする。

 何か話した方が良いのかとデミウルゴスに振り返ると、目が合いニコリと微笑まれる。

 少し笑って会釈を返し、結局なにも言葉を交わさぬまま歩いた。

 

 前方はちょうど、アウラの双子の弟である第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレが客席より闘技場へ飛び降りたところだった。

 すぐ下では第五階層《氷河》を守護するコキュートスが待っていた。

 翻ってしまったスカートを撫で付け、そそくさとコキュートスに駆け寄ると二人で並んで早足でこちらへ向かって来た。

 アルベドも優雅な足取りでこちらへ近付いて来ると、全員がある程度近くに寄り、立ち止まったのを確認し、統括然とした声を上げた。

 

「それでは皆、至高の御方々へ、忠誠の儀を」

 

 聞いたことのないチュウセイノギというものに、モモンガもフラミーも自分達はどうしたらいいのかと内心焦る。

 が、二人が何かを言う隙なくアルベドを一歩前にして守護者達は横一列に並んだ。

 一人一人が名乗りを上げ、皆一様にこうべを垂れて跪く――。

 もはや先程までの柔らかな雰囲気は霧散していた。

 

 最後にアルベドも名乗りを上げると――

「至高の御身に我らの忠義、全てを捧げます」

 全員揃って再び恭しく頭を下げた。

 

 モモンガはどうしたらいいのか分からず、――誰も頭を上げていないのをいいことにフラミーの方を見た。

 対してフラミーは紫色の顔を青くしたり赤くしたりしていた。

 あまり無様なところを見せてはいけないと思うも、何をどうしたらいいのか解らないモモンガは思わず絶望のオーラと黒き後光を背負ってしまった。

 フラミーが絶望のオーラから感じた波動に弾かれたようにモモンガを見ると、モモンガは頷いた。

 少し冷静さを取り戻したフラミーを確認し、モモンガが告げる。

 

「面を上げよ。」

 

 ザッという擬音が聞こえそうなほどによく揃った動きで全員が顔を上げた。

 真面目な顔をして立っているだけで精一杯のフラミーに比べ、玉座の間の時と同じように――モモンガは守護者達へ様々な質問を投げかけた。精神が昂るたびに押し留められるように気持ちは凪いだ。

 モモンガ様と呼ばれるのがこんなにモモンガさんに似合うなんて――とフラミーが内心感心していると、更に戻ってきたセバスを交えて話し合いは続いた。

 

「それでは最後に、お前たちにとって私とフラミーさんはどのような存在だ。シャルティア」

「美の結晶。まさにお二人はこの世界の宝でありんす」

 

「コキュートス」

「モモンガ様ハ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対支配者ニフサワシキオ方カト。フラミー様ハモモンガ様ヲ支エル何ニモ代エ難イ()デス」

 

「アウラ」

「慈悲深く、深い配慮に優れたお方々です!」

 

「マーレ 」

「あの、と、とっても優しい方達だと思います!」

 

「デミウルゴス」

「深謀遠慮に優れた方で、まさに端倪すべからざると言う言葉はモモンガ様のために存在するかと。そしてフラミー様はリアル世界と我らの世界を行き来する次元を超える力をお持ちの方です」

 

「セバス」

「モモンガ様は最後まで残られた慈悲深きお方です。そしてフラミー様は例え一時的にナザリックを離れられても、必ずお戻り頂けると安心してお戻りをお待ちできるお方です」

 

「アルベド」

「私どもの最高の支配者と、そして最高の主人であります。そして、私の愛しいお方々!」

 

「……なるほど。各員の考えは充分に理解した。フラミーさんはどうかな」

 突然振られ、少しぼーっとし始めていたフラミーは今更ながらに第六階層に来てからまだ一度も言葉を発していないことに気が付いた。

 

「あ、えっと……皆……なんて言うんでしょう……」

 

 躊躇いがちに出る言葉に、守護者は自分達の何かが気に入らなかったのではないかと、恐ろしい想像が黒雲のように胸いっぱいに広がっていくのを感じた。

 このまま、またリアルに行かれてしまうのではないか。

 それも、モモンガを連れて。

 

「その……皆……すごいです……。そう、すごいです!素晴らしすぎますよ。はは、ははは!私達、ねぇ、モモンガさん。私達、ここで生きていくんですね!」

 

 小さかった声は徐々に大きくなり、笑いが溢れ、輝くような瞳でモモンガと守護者をとらえた。

 

 その裏の無い真っ直ぐな言葉の意味を、その場にいた全員が、そう。

 モモンガも含めた全員が噛み締めた。

 

 ――ここで生きていくんですね。

 

 モモンガは動かぬ骨の顔で笑った。

「そうですね!――それでは私とフラミーさんは円卓の間へ行く。各員今後とも忠義に励め!」

 転移の指輪の力を解放し――モモンガの視界はいつもの円卓の間へと移った。

 一拍遅れてフラミーも現れると、二人は顔を見合わせ、モモンガは興奮気味に口を開いた。

「え、なに。あの高評価!あいつら、まじだ!」

「本当凄すぎますよモモンガ様!」

「ちょ、様なんでやめてくださいよフラミー様!」

「モモンガさんこそ!」

 朗らかに二人で笑いあい、そして笑い声は一人分になる。

 モモンガの沈静化を合図に、二人は守護者たちの感想を言い合った。




モモンガ:あ、今日はフラミーさんインしてたんですね!
フラミー:おはようございます!モモンガさん早いですね!
モモンガ:フラミーさんこそ!何時からいたんです?
フラミー:3時間くらい前から…笑
モモンガ:え?ほとんど夜じゃないですか!
フラミー:へへ。私、まだ弱いんで装備欲しいなーって思って。
モモンガ:言ってくれたら協力したのに!狙いのものは出たんですか?
フラミー:ひーん、でませーん。
モモンガ:それじゃ、そっち行きますよ!
<ヘロヘロさんがログインしました>
ヘロヘロ:おはです〜。
モモンガ:おお!丁度いい所にヘロヘロさん!
フラミー:おはおはです〜!
<ウルベルト・アレイン・オードルさんがログインしました>
ウルベルト:おはっすー。
ウルベルト:あれ?皆どこか行くんすか?
フラミー:私の装備を取りに行くのに付き合ってもらう所です!
ウルベルト:フラミーの装備か!お前もっと悪魔らしい格好しなきゃダメだぞ。よし、俺も行きますよ!
モモンガ:流石悪魔師匠〜!

こういうやり取りあったら楽しいですよね(//∇//)


2019.05.01 すたた様、誤字修正ありがとうございます(//∇//)

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