雲が素早く流れていく。
空の高いところはかなり風が強いようだ――と思わされるが、ここはナザリック地下大墳墓、第六階層。アウラとマーレの守護する地だ。
空はブループラネットの生み出した偽物の空だった。
その湖畔に、双子とフラミーはいた。
どこからか男性使用人によって持ち出されてきた――無駄に広い十二人がけのL字のソファと、ソファに対して明らかに小さいテーブルが置いてあった。
フラミーは双子にぴたりと挟まれ座っていた。
「ぶくぶく茶釜様のお写真ですか!?」
フラミーは興奮するアウラに優しく頷いてさらりと髪を撫でた。
「そうなの、気に入ったのがあれば二人にあげようと思って」
十三冊あるうちの古いフォルダーを開くと、そこには日付順に大量の写真が入っている。
写真は六つ切程度の大きさのため中々の重さだ。
「あ、あの、その!よ、よろしいんですか?」
良いも悪いも良いに決まっていると二人に微笑めば、眼前に広がる湖の端っこで
「そういえば、ここで暮らしたり出入りするようになった人達はどう?」
「うーん、少し目障りです!」
「ぼ、ぼくは、皆面白いなって思います!でも、別にいなくても良いです!」
「ふふ、そっかぁ」
フラミーはアルベドが
「そう言えば、トカゲは家を守ってくれるっていえ言い伝えがあってね、えーっと、家トカゲ?違うな。えーと……なんて言ったっけなぁ……」
ブツブツしゃべっていると、後ろから声がかかった。
「ヤモリですよ、フラミーさん」
フラミーが思い出そうと悩んでいるうちに、気付けばアウラとマーレはソファから降りて膝をついていた。
「あ、アインズさん」
顎を上げて、真上を見上げる。
アインズは両手をフラミーの肩にポンと乗せると、肩を揉みながら双子に顎をしゃくり、元に戻るように指示をした。
「ブループラネットさんが確かそう言ってました。――……凝ってますねお客さん」
「そうでした、ヤモリ。そのヤモリっていうのはトカゲの仲間でね、家を守ってくれるんだから、あんまり邪険にしちゃダメだよ、二人とも」
はーい!と行儀よく声を上げる二人に微笑ましい気持ちになる。
「でも家を守るならあたしたちの方が強いし実績もあるよね!」
「そ、そうだよね。あの蜥蜴より強いもんね!」
「うーん、確かに〜」
「そのヤモリって、蜥蜴は蜥蜴でもドラゴンなんじゃないですか!」
アウラが瞳を輝かせると、フラミーは苦笑した。
「え〜、ドラゴン……そうかなぁ」
「きっとそうですよ!そうじゃなきゃ、至高の御方々の家をお守りするなんてとてもできないですもん!」
リアルにドラゴンはいない。だが、フラミーはヤモリなどという生き物はまったく見たことがないので、どんなビジュアルかも知らない。
「……まぁ、とにかくきっと強そうなんだよね」
「そうだと思います!」
「そうか……?」
アインズは疑問を口にしたが、そうだそうだと双子は盛り上がった。
「そうですかねぇ?」
「……どうでしょうねぇ?」
二人はドラゴンはありえないと流石に思っていた。
他愛もない会話をしながら、アインズの骨の指はゴリゴリとフラミーの肩を揉んだ。
「あーアインズさん、そこいいっすね〜。羽の根元の方もお願いしていっすか〜」
フラミーは中年のくたびれたサラリーマンのような雰囲気を漂わせつつ、アウラとマーレの背中のあたりに開きっぱなしにしていた翼をわずかに持ち上げた。
「いいっすよ〜。お客さん、この辺ですか?」
「あー効きます。上手ですねアインズさん」
しばらく身を任せ過ごすと、フラミーは振り返った。
「そろそろ代わりましょうか?」
「あ、いえ。俺は凝るものないんで」
「ははは、ですよねぇ。言ってみただけです」
「ははは、ですです」
上がる支配者達の笑い声にアウラとマーレはお食事権は大正解だったと思った。
しかし、続くフラミーの言葉にアインズは固まる。
「あースパ行きたいなぁ。それで全身マッサージとか……いいなぁ〜」
「え……」
「え?」
フラミーが軽い疑問を口にするのと同時に、アウラが片膝をソファに乗せるように体をフラミーに向けた。
「フラミー様!あたしがマッサージしますから行きましょうよ!!スパリゾート、ナザリック!!」
「わぁ良いね!今夜行く?」
「ちょちょちょちょ!フラミーさん!!そんな教育に悪い真似やめて下さいよ!!」
え?何?と疑問に思いながら、アインズへ体ごと振り返り、まずいことに気がついた。
はっと口を開け、若干顔を青くする。
「そうですよ!!女児に何見せる気ですか!!」
まるで
「やばい、もはや当たり前のようについてて忘れてました!!」
何だろうと首をひねるアウラに、顔を青くしたり赤紫にしたりしながらフラミーは伝えた。
「わ、私はちょっとね、女の子に見せられないような体なんだった……。ごめんねアウラ」
「え?何でですか?フラミー様はとってもお綺麗なのに!」
天真爛漫な太陽から目を背けると、そこにはマーレが同じく首を傾げていた。
「あ!えと、その!じゃあ、僕とならどうですか?」
「あ……マーレならギリギリセーフかな……?」
肩揉みをやめたアインズもL字の短い方のソファに座りながら、「いやそっちもアウトなんじゃ……」と呟いているのが聞こえた。
「うう……ですよねぇ」
フラミーが悲しんでいると、後方の少し離れた所でパラソルの下、お茶を淹れたり食後の軽食を出す為に控えていた犬頭のメイド――ペストーニャがアインズの下に跪き来訪者を告げた。
「ご歓談中失礼いたします。デミウルゴス様がいらっしゃいました。あ、ワン」
アインズがちらりと斜めに座るフラミーを窺うと、フラミーは悲しいような不満なような、自嘲するような表情をして、訳もわからぬ双子に左右から慰められていた。
その向こう、ペストーニャが控えていたパラソルとワゴンのそばに、この晴天に暑苦しいスリーピース姿の悪魔がにっこりと控えていた。
「ふむ、通せ。ただ、双子とフラミーさんは休暇だということを伝えるのを忘れるな」
頭を下げてデミウルゴスを呼びにペストーニャが戻っていく。
替わりに現れたデミウルゴスはすぐさま跪いた。
「アインズ様、お忙し――」
「良い良い、デミウルゴスよ。私も今は休んでいる。して、あれは成ったか?」
「は。エイヴァーシャーの邪王、デケム・ホウガンから取れた皮が中位魔法を込めるのに耐えましてございます」
「そうか!よくやったぞデミウルゴス。お前にも何か褒美をやらねばならんな」
「いえ、それには及びません。このデミウルゴス、御方々のお役に立つことこそ――」
頭を下げ辞退しようとするデミウルゴスを手で押し留めた。
「そう言うな。お前は実に良くやってくれている。何が欲しいか言ってみなさい」
アインズは父親気分だ。が、言ってから気がついた。
趣味の椅子作りに使う骨が欲しいと言われたら困る、と。
しかし悪魔の願いは想像以上に困るものだった。
「それでは……今お話になっていた、アインズ様、フラミー様が、マーレと共に今夜行くスパリゾートナザリックに私もお供させては頂けないでしょうか」
ワクワクといった雰囲気で尾を振る守護者に、アインズもフラミーも固まった。
「ちょっとデミウルゴス!あなたみたいな男がいたらフラミー様が入れる訳ないでしょーが!」
アウラがブーブー言うが、こればかりは正論だ。
「しかし、アインズ様とマーレと入るのであればフラミー様は恐らく水着で……」
「だーかーらー!デミウルゴスはどうなの!マーレは子供だし、アインズ様は絶対的支配者だし、何より骨でいらっしゃるからフラミー様が入れるんでしょ!この!あほすけべ!!」
フラミーは意外とおませなアウラの頭に手をポンとのせると愉快そうに笑い始めた。
「はははは。ありがとうね、アウラ。――デミウルゴスさん、私は今は誰ともお風呂には入らないつもりなんです。マーレもごめんね。でも、プールなら入れるかなぁ」
楽しそうに笑うフラミーにアインズはほっとした。
「じゃ、いつかウォーターパークなざぶーんいきましょうね」
「行きたいでーす!アインズさんは溺死体に見えそうですけどね!」
「うわー、ほんとですね」
「フラミー様、すけべなデミウルゴスは置いていきましょーね!」
「か、かわいそうだよ。お、お姉ちゃん」
和やかに笑っているが、デミウルゴスはすけべ呼ばわりされた事を訂正せずには居られなかった。
「フラミー様、私は決して助平心で言ったわけではありません。先ほどのアインズ様との会話で、
アインズは慌ててバサリと立ち上がると、跪いたままのデミウルゴスのスーツの首根っこをつかみ、
「え?」と一言残し、呆然と猫のように引き摺られていく叡智の悪魔の姿にアウラは大笑いした。
「デミウルゴスのすけべー!すけべだからアインズ様にお叱りを受けるんだ!!」
「そ、そんなこと言っちゃデミウルゴスさんが可哀想だよ、お姉ちゃん」
フラミーを挟んで姉に止めるように言うマーレはチラリとデミウルゴスを見ると、ははっと結局笑い出してしまうのであった。
幸い、ダラダラと大量の脂汗を流すフラミーに二人は気付かなかった。
なんで生やしちゃったんでしょう。
これじゃあ楽しい女湯話が書けない…!
フラミーさんがアルベド、シャルティアと過ごすエッチなお話しかかけませんね!?(書かない