「あちぃ……。暑すぎるぜ……。」
ガガーランの顎を汗が伝う。
蒼の薔薇の足元にはベージュのトカゲ達が何匹も這い回って一行を見上げていた。ちらほらと枯れかけのような草も生えている。
「肉の鎧は脱げない。」
「肉のサウナは戦士の最終進化形態。」
双子がギリギリ全員に聞こえる程度の音量で言う。
「おい!お前ら何か旅に出てから妙に俺にきつくないか?なぁ!」
「何も変わってない。テントで一緒に寝ると馬鹿力で抱きしめられて脇腹が痛くなるから迷惑なんて思ってない。」
「筋肉の側が一番安全なのは理解してる。」
「それなら――」
「……三人ともそれぐらいにして。言い争うと余計暑苦しいわ。」
「っちぇ。」
「りょーかーい。」「おっけーい。」
淡々と感情を込めずに言うので、可愛らしさと言うものがまるでない。
「ラキュース、良いからさっさと地図を描いてくれ。招かれざる客が来そうだ。」
イビルアイの視線の先には地面がもこもこと膨らむ不可解な現象が起きていた。それは真っ直ぐこちらを目指してきているようだった。
「筋肉の出番?」
「砂漠初の獲物の登場ってとこだな。ここはひとつ、お手並み拝見といくか。」
身を伏せて通り過ぎるのを待つと言う選択肢を破棄したガガーランはゆっくりと
何の異論もないようで双子もそれぞれクナイと手裏剣を取り出し身構えた。
「私は念のためにラキュースのそばにいるから、何かあれば呼べ。」
「そいつは心強いな。しかし、イビルアイ!今回お前の出番はなさそうだぜ!!」
その言葉を皮切りにガガーランと双子は動く地面の盛り上がりに向かって駆け出した。
同時に相手も向かってくるスピードを大きく上げた。
「おらぁ!!姿見せろや、弱虫野郎!!」
両者が接触しようというところでそれは姿を表した。
砂とほとんど同じ色をしたその体は立ち上がるとガガーランがイビルアイを肩車したくらいはある巨体だった。この立ち上がった身の下、見えていない砂の中にはその倍近い長さの体が続くことは容易に想像がつく。
一つの丸く空いた口にはおびただしい数の鋭い歯が生え、噛みつかれようものなら容易に人間の体をすり潰して引きちぎってしまいそうだ。
目は完全に退化しているため、特に足音と声の大きなガガーランに向かって強く反応しているようだった。
「――
ガガーランはつるりとしたその体に向け
「オォォォォォ――!!」
重く深い一撃が
その瞬間――「砕けや!!」
「オオォォォォォ!!」
ゴムのように硬い表皮から鮮血が吹き上がる。
「お前の肉片は次の魔物との遭遇時に使わせて貰うぜぇ!」
この辺りの魔物は食事のために生き物を襲う。次にエンカウントする魔物には
「お前らは体半分くらいなくても生きていけるだろ!そら!これで最後だ!!これで逃げ出せ!見逃してやる!!」
二撃目は見えて居る腹の中心へ。血液が数滴ガガーランの顔に飛び、
「オオオオオオ!!」
「ッ――な、なんだぁ!?」
ガガーランは即座に後方へ飛び退り、間合いを離した。
新しく開けた穴からは人間の子供サイズの
「うぇ。」「これは酷い。」
「
子供達はわずかな間だけその場でぐねぐねと動くと、すぐに地の這い方を学んだと見え、一斉に三人へ殺到した。
「畜生が!にょろにょろ系は嫌いなんだよ!」
「さっきまでノリノリだったのに。」
「ガガーランも人間の感性を持ってたんだ。」
「何を驚いてんだよ、おめぇら!俺はか弱いお嬢さんだろ!!」
「そろそろ
「パワーアップっていうより、そりゃ種族が変わってんぞ!」
「じゃあ、クラスチェンジ。」
明るい掛け合いをしつつ、三人の手は休まずに動いていた。
ティアは子供達を足止めするために
親
「オオォォォ!!」と言う叫びと共に、丸い口からは粘着質な唾液が飛んだ。
巨大で一気に飛びかかってくると、ガガーランは子供を三匹ほど踏みつけ飛び上がった。巨体でありながら身軽な動きで
無数の歯がパキパキと音を立てて割れていく。
アダマンタイト級冒険者のメイン武器は強固だった。
すぐに口の中から
「――ッピギャアアオオオ!!」
キンっと耳の奥が痛む。
ティアとティナに群がってきていた子供達はすぐに親
そして、動けるものは母の元へ懸命に這い、傷を負った親
辺りには親
「――帰ったのか?」
「突然下から出てきたらすごく嫌。」
三人は数分身構えたが、離れた場所に
「ひゅー。まさか子供が出て来るとは思わなかったな。結構殺しちまった。ま、この先の戦いを避けるための盾がたくさん手に入ったと思ってありがたく使わせてもらうか。」
「そうしよう。」「それにしても、
「卵胎生?」
「体の中で卵を孵化させる。」
「そういう事か。まぁ……この日照りの中じゃ子供なんか飯にありつけずにすぐに死にそうだもんな…。」
ガガーランは眩しそうに空を見上げた。
「あ、血。」「ほんとだ。」
「ん?怪我したか?」
「私達じゃない。ガガーランの遮光服に着いてる。」
双子が指さした所には思ったよりも血がついていた。
「――俺のじゃなさそうだ。後でイビルアイに綺麗にして貰うか。心配かけたな。」
「全然心配してない。」
「なんて言っても、ガガーランの血は青い。赤い血は
「だから!種族が変わってるっつーの!!」
噛み付くような返事をすると、ガガーランは死体を入れるための"ドワーフの革袋"を開いて子供の死体を放り込んだ。死体が生臭い匂いを放つ。
「これだけありゃあ、きっと囮としては使い切らないな。冒険者組合に持って行ったら麦酒代くらいにはなりそうだ。」
「準備運動して麦酒代も稼ぐ。」「またお茶漬けを食べられる。」
魔物の肉片は組合に提出すると相手の強さに応じた報酬を払ってくれる。
残る瀕死の子供達はなるべく痛みがないように介錯してやり、三人はすっかり子供と親の飛び散った肉を回収した。
ラキュースとイビルアイの方も製図が終わったようでこちらに手を振っていた。
「お疲れ様!皆怪我はない?」
「思ったより歯応えがありそうだったじゃないか。」
「イレギュラーはあったけど、まぁまぁだな。」
「気持ち悪かった。」「正直この袋も持ちたくない。」
双子は誰か代わりに持ってくれと言わんばかりに袋を差し出した。
が、ラキュースもイビルアイもすぐに背を向けた。
「さて、次のマップ作成に行くぞ。この辺りの地図はガバガバだから歩いて確認と修正をしなきゃならん。シャキシャキ行かないと日が落ちる。」
「そうね。野営する場所も探さなくちゃいけないし。」
「……鬼ボス。」「……鬼リーダー。」
双子はぶつぶつと文句を言いながら二人の後に続いた。
まだ日が沈むには少し早いくらいの時間から、一行は野営の準備を始めた。
辺りの空気はわずかに温度を下げ始め、流れた汗を風が撫でるたびに体が冷えて行く。
「ようやく涼しくなって来たわね。」
「ここからは一気に冷え込むぞ。下手をすると氷点下まで行くかもしれん。」
砂漠には湿度がほとんどないため、夜になると遮るものがなく一気に温度が空へ逃げて行く。うまく魔物から逃げ切ることができたとしても、この寒暖差で命を落とす旅人、冒険者は数知れず。
双子は黙々と安全地帯の作成を行なっていた。
テント設置場所を囲むように、四点に木の棒を差し込み、
普段であれば黒い絹糸を結びつけて、鈴を吊るす鳴子方式の警戒網を作るところだが、砂漠ではそうも行かない。音を頼りに獲物を探す魔物が多いため、音が鳴る方法はむしろ多くの魔物を誘き寄せることになり、命取りだ。同様の理由で今日は<
なので、近くを何かが通ると光るタイプの人感センサー式
これの弱点は眠りが深すぎると気付かない可能性がある事と、鳥や猫程度の生き物でも反応して光ってしまう事だ。
対して強みは空からの襲撃にも対応できる事と、鈴を避けられるような脳のある敵にもきちんと効果を発揮する事だ。――ただ、森にはとても向かない。風に木が揺らされるたびに光る。
「――よし。後はあれだけ。」
最後の
ガガーランの手のようにでかい蜘蛛は体のほとんどが黒いというのに、その背は赤い斑点がついていた。
「あのサイズ、虫避け団子でも効くかな。」
「くさいけど一度焚いてみよう。」
「オッケー。」
「イビルアイに火貰わなきゃ。」
野宿が多い冒険者にとって虫避け団子は必須アイテムだ。蚊や蟻程度なら可愛いものだが、毒蛾や毒蜘蛛、毒蠍、蜂に虻、毒毛虫と天敵は多い。
虫除け団子は八時間程度かけてじっくりと燃えてくれるため一晩は持つ。
「イビルアイ、火。」
「待て、今焚き火を起こす所だ。」
その辺の枯れた草を集め、それを覆うように持ってきた薪を乗せる。
「――<
極少ない力で放った魔法だが、火の玉は薪に向かって一気に飛び、薪を一つ弾き飛ばした。
枯れた草にうまく引火し、焚き火は少しづつ大きくなった。ちなみに弾かれて燻る薪はすぐにラキュースが放り込んだ。
「で、今日の晩御飯はどうする?」
「干し肉とジャガイモの煮物、その辺の草添え。」
指さされた草は、本当にその辺の草らしく、砂漠にちらほらと生えている、ほとんど黄色い草だった。なんなら、今着火剤の代わりに使った草だ。
小さなトカゲ達がもしゃもしゃと食べているのを何度となく見かけた。
「…イビルアイに任せると必ず干し肉の煮物になる。」
「じゃあお前達も何か良いもんを作れ。」
「あ、それなら出発前にエリュエンティウでお米を買ったから、リゾットもしましょうよ!ドライトマトとキノコもあるの!」
「ナイス、鬼ボス。」「流石、鬼リーダー。」
双子は少しだけ嬉しそうな表情をすると持っていた虫除け団子に火を着けた。
「やっぱりくさい。」
煙がモヤっと出始めると、少し離れたところにいた暫定毒蜘蛛はちょこちょこと離れていった。
「効いてる。でもここは近すぎる。」
「あの辺に置いてくる。鬼ボスのリゾットがおかしな味にならないようにティアは見てて。」
「任せると良い。私の料理の腕は天下一品。」
「それは気のせい。」
「……私の料理の腕も天下一品なんだけど。」
ティナはそそくさと焚き火のそばを離れ、それと入れ違うようにガガーランが輪に入った。
「
「あぁ。ちょっとばかしヌルヌルがついてやがったけど、砂でうまく落としたぜ。」
「さて、俺はパンでも切るか。」
イビルアイは魔法で水を生んで鍋に注いでいた。日中の活動の間はいつどれだけ魔力を使うか分からないため魔法で飲料水を生んだりはしないが、一日の終わりにはこうして魔法で水を生む。
魔力は常に余裕を持っておいた方がいいため、飲料水は全員が持てるだけたっぷり持って来ている。
「イビルアイはいつもの煮物か。ん、手が空いたからジャガイモ剥くぜ。」
「頼む。」
「…こりゃ随分芽が出てるな。」
もくもくと食事の用意を始め、煮物とリゾットを火にかける頃には、辺りは夕暮れに染まり始めていた。
「――砂漠って言うのは随分太陽が大きく見えるもんなんだな。」
地平線に近付く太陽は街や山で見るときの何倍も大きく見えた。
「綺麗だけど、なんだか不気味ね。」
「まったくだな。」
「ラキュース、暗くなる前に今日描いた地図を繋いで狂いがないか確かめた方がいいぞ。」
「ん、そうね。チェックと仕上げはティアとティナに任せるわ。」
ラキュースはポシェットから書きかけの地図を取り出し、双子に渡した。
地図のチェックも終わり、夜の帳が下りる頃には食事が出来上がった。
それぞれの皿に取り分けると全員が胸の前で手を組んだ。
「――光神陛下、今日の糧に感謝いたします。」
「うし、食おうぜ!」
わいわいと食事を始めると、イビルアイはつぶやいた。
「……作っている時は何も考えなかったが……ジャガイモの煮物にリゾットにパンって…今日は随分何というか……主食系が揃ったな。」
「たくさん歩いたからな!暑かったし!さ、食え食え!」
「明日はキノコはソテーにしましょ。お米買ったからつい食べたくなっちゃったけど、考えてみたらパンはお米より嵩張るから先に食べたいし。」
「そうだな。明日の献立はもう少し計画的に行こう。」
「だけど、リゾットうまいぜ。ありがとな。」
炎が照らす中、蒼の薔薇は破顔した。
世界の色が変わる頃。
「宵切姉様、起きてる?」
「まぁ、落夜。どうしたの?まだ起きているわよ?」
落夜は宵切の部屋に入ると、薄絹の張られた寝台へ駆けた。
「ねぇ、宵切姉様。明日一番に姉様の髪を梳るのは落夜にやらせて欲しいの。明後日には姉様はお発ちになるでしょ?」
「優しいのね。嬉しいわ。そうしたら、明日一番は落夜にやってもらおうかしら。」
「うん!きっと早起きして来るから、待っててね!」
「えぇ、待っているわ。だから、今日はもう遅いからお部屋にお戻りなさい。」
「はぁい。」
落夜は部屋を出るとき、もう一度姉のいる寝台へ振り返った。
「――宵切姉様?」
「なぁに?」
「…ここをお出になっても、どうか落夜を最後まで忘れないでね。」
「当然よ。落夜のこと、いつまでも、いつでもちゃんと想っているわ。あなたを見守っている事を証明するために、風になってあなたに会いにきてあげる。風が二度ひゅん、ひゅん、と吹いたら、それは私があなたを見守っている証拠よ」
「ひゅん、ひゅん、ね!わかったわ!」
「忘れちゃダメよ。それじゃあ、さ、もうおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
落夜が立ち去り、静まり返った自室で、宵切は自分の素晴らしき栄誉に胸をいっぱいにした。
「あぁ、神様…。ようやくあなたの下へ行ける……。宵切は待ちきれません……。」
光が差し込む窓から外を眺め、明後日の出発に思いを馳せる。街の外には風が真横に向かって吹き荒び、遠くまでは見えない。
かつては大王国だったこの地も、今では集落程度の大きさになってしまった。大王国と呼ばれていた時代は、宵切が生まれるよりも遠く遥か昔だ。
魔物の襲来、人間の策謀、砂漠の呪い、多くの危機が彼らの数を著しく減らして来たのだ。
しかし、今ではこの地はこうして神の力に守られている。――厳密には、神の力を借りている
(美しき我が
宵切姫は機嫌良く黒々とした尾節を左右に振った。
その瞳は明後日訪れる出立への期待に輝いていた。
翌日、日が登る前に目覚めたティナは自分に張り付く肉の塊を押しのけた。
「……腰が砕ける。」
「…ん…なんだよティナ〜。」
「筋肉お化けが。」
「ッチ、なんだよ…。さみぃから仕方ないだろ。」
「まだそっちにティアがいる。私は虫除け団子が消えてないか確認して来る。」
「ん、ありがとよ。」
ティナは靴を履くと、まだ眠る仲間を踏まないように気を付けてテントを出た。
「………極寒。」
テントの中も決して暖かかったわけではないが、外は想像を超える冷えだった。
雪が降ってもおかしくないような気温だ。
ティナは宇宙というものを知らないが、宇宙にまで手が届きそうなほどに空は澄んで、地上の熱は遮るものなく宇宙へ放射されている。
「………匂いがしない。」
虫除け団子の臭いがしない。ティナはずず…と鼻を啜った。
寒くて鼻水が垂れそうだ。
仕方がないので目視で虫除け団子を確認するべく、設置した場所へ向かう。
ある程度近付くと、虫除け団子がきちんと燻っているのが見て取れた。
「…よしよし。」
テントへ引き返す。
――その時、ティナの背後の
「オォオオオォォォオオ!!」
カッと眩い光に包まれると同時に猛烈な血生臭さが当たりに充満し、腹に二つの大きな傷を持つ
「――ちっ!」
足音がするのを待ってた様子の
ドリルのようにティナに向かって突っ込んで来る。大きさと勢いは一丁前だが、スピードは今ひとつだ。
ティナが避けるのと同時に
「オオォォォオオォー!!」
「ティナ!無事ね!」
「無事!!」
「下がれ!腹をすかせてるだけの可哀想な奴だと思ってガガーランは見逃したようだが、ここで腹の子もろとも私が息の根を止める!!――食らえ!<
テントから滑り出てきたイビルアイの右手から白い靄が放たれた。
魔法を正面からまともに浴びた
「ゴギョギョギョキョ!!ギョオォォオオ!」
断末魔を上げ、巨体は地に倒れ伏した。
倒れた腹の下からは無数の「キョオォオ!」「ォォオオ!!」と子供達の絶死の鳴き声が続き、そしていつしか静かになった。
「……助かった。皆、ありがとう。」
ティナがぺこりと頭を下げる。皆安堵に一息ついた。
「とんでもない目覚ましだったな。」
「俺が逃したせいだ。悪い。」
「誰も怪我してないから気にしない。命が半日は伸びたんだから、少しは子供を砂漠に放せたと思う。
「………俺は魔物じゃねぇ。」
笑い合っていると、遥か地平から太陽が昇り始めた。あまりの眩しさに瞳孔が小さくなる目を細めた。
「今日も一日暑くなりそうだな。」
「本当ね。――さ、これだけ大きな死体は片付けきれないから、ジャッカルが寄って来る前に移動しましょ!」
「もう少し寝たい…。」
「文句言わないの。」
「鬼ボス……。」
ぶつぶつと文句を言いながらも手際良く片付けを進めていく。
ガガーランとイビルアイは念の為に
転がっている巨体の腹にナイフを入れ、ゆっくり切り裂いていく。次々と死んだ子供がこぼれ落ちた。
「――うわ…尻尾の方は全部子供じゃねぇか。」
「この調子なら全部死んでいるな。人間を襲う癖が付いたら危ないところだったが。」
「やれやれ、こんなに執念深い種族だとは思いもしなかったぜ。」
「まったくだな。――ん?待て。」
イビルアイが
ぐちゅり…と嫌な音を立ててイビルアイの手は肉の中に埋もれていった。
「なんだ……?」
引き抜いた手には――冒険者プレートがあった。それはまだ
「……食われた奴がいたか。親が食べたものが子の下まで届いているようだな。他にも食われた奴がいないか確かめる。」
そう言い、イビルアイは更にもう片手を肉の中に差し込む。中を探るたびに血がぶちゅぶちゅと弾け、仮面に跳ねた。
イビルアイの両手は肩まで肉の中に入っていた。
「今助けてやるからな…。死んだことも知ってもらえないなんて…家族のところに帰れないなんて…寂しすぎるもんな……。」
「イビルアイ…。」
ドロドロと内臓と死んだ子供を掻き出し、取り出せた冒険者プレートはなんと十二枚にも及んだ。
村にいればかなりの強者と評されるような
「既に人を襲う癖がついてる個体だったようだな。」
「受胎期はな…。仕方ない――なんて言いたかねぇけど、仕方ないな…。」
「あぁ…。こいつらも生きるために必死なんだ。だが、それと同じくらい私達も生きるのに必死だ。」
ガガーランは両手を胸の前で組み、心の中で「神王陛下、後をお願いします」と祈りを捧げた。
祈りが終わると、次は両手の平を合わせ直す。プレートは全てエリュエンティウ市の冒険者組合に所属する者達だったためだ。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。」
「――仏教か。そうだな、彼らに合った弔いをしてやろう。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。」
この砂漠にはこんな生き物がうようよしている。未だにエリュエンティウ市近辺に冒険者が集まらないのは、やはり不意の危険が通常よりも多すぎるためだろう。
ただ、スレイン州までの道には等間隔に
「さて、私達もキャンプの片付けを手伝うか。」
イビルアイは自らの体に何度も<
「そうだな。それにしても、腹減ったなぁ。」
「ふ、少なくとも食事はここを離れてからだな。」
二人はテントの片付けを行うラキュースの下へ向かった。
一行は野生動物達が群がって来る前にその場を遠く離れ、朝食を取った。
諸行無常…盛者必滅…