ベージュ一色の大地に、エメラルドグリーンの透き通ったオアシスはあった。
オアシスの周りにはこれまでの砂だけの世界が嘘のように青々と植物が育っていた。
水辺はかなり広大で、壷のような形をしている。街に丸く囲まれているが、砂浜のようになっているのは半分だけで、もう半分は砂と同じ色をした硬い岩盤に囲まれている。長い年月を掛けて侵食された岩盤は、まるでオアシスに向かって迫り出すような形をしていた。
同時に百人でもニ百人でも泳げそうな巨大なオアシスは、おそらくこれまで発見されているどのオアシスよりも大きいだろう。
そんな命の恵みの中に、人影は五つ。
鍛えられた張りのある体の上を、無数の小魚が撫でていく。
「――んっ」
無意識のうちに漏れたと思われる極楽の声は、くすぐったさと心地よさの狭間だ。
小魚達は古い角質を食べるために執拗にせまり、どんな部位であろうとお構いなしに舐め回していた。
「はぁ――」
胸、腹、腕、脚、――そして腰。
脇や胸の谷間の微妙な部分まで入り込む。
「――あぁ」
再び声が上がる。先ほどよりも大きな声は、もう魚が集まってくれない仲間達を振り返らせた。
「こういう時体が大きいと徳ね。もう食べ終わっちゃったみたいで全然寄ってこないわ」
すいすいと泳ぐラキュースに、全身に魚が付いているガガーランが手を挙げる。
「お前ももっと良く食って体をデカくすることだな。戦士の基本だ。見ろよ、うじゃうじゃ寄ってきてるぜ」
「……食われすぎて体がなくなっても知らんぞ」
どこか不満があるような声を発したのは、マントと手袋を外し、陸で仁王立ちしているイビルアイだった。仮面も外そうとしたところ、双子が念のためにそれは着けておいた方が良いと言ったので、仮面はつけっぱなしだ。
「お前が入った時、体が見えなくなるほどびっしり群がられてたもんな。やっぱり死んでるからたくさん食べれると思ったのかな?」
「ええい!理由は知らん!!そんな小魚達は嫌いだ!!」
そう、オアシスに皆でせーので入った時、イビルアイの体の周りに魚が殺到したのだ。まるで獅子の檻に生肉を放り込んだような光景だった。
気持ちがいいどころか、気色が悪く、イビルアイは急いでオアシスを上がった。
すると、全員のところに魚はもやもやと散っていき、お腹いっぱい皮膚の表面を舐めて消えていった。
ただ、ガガーランだけはでかいためいつまでも舐められている。
一方、もう魚が寄ってこないティアとティナはまるで温泉に浸かっているかのようにじっと座っていた。
「魚の方はイビルアイが好き」「髪の砂を落とせただけ上等」
「何が上等だ!くそー!!」
一人沖で憤慨し、じたばたすると若干の砂埃がたった。
「ねぇイビルアイ、私のインナー放り投げて!洗うから!」
「私たちの服も」「なんなら足袋も」
イビルアイは手近にある全員の汗臭いインナーや洗える物をオアシスに向かって放り込んだ。
「っち、日焼けのしすぎでズタボロになっても知らんぞ!」
「これが終わったらもう上がるから大丈夫、大丈夫!」
「干してやるから私の分も洗え!」
追加で放り込まれたイビルアイのマントと二の腕まである長い手袋は、一度
全員がそれぞれアイテムを受け取ると、洗濯タイムは始まった。
イビルアイは脱いで置かれている全ての鎧もそっと水に付けると、木に紐の端をきつく結びつけた。
「…これだけ乾燥して晴れていればすぐに乾きそうだな」
紐がずり落ちてこない事を確認すると、イビルアイはオアシスに向かって手を伸ばした。
「おい、放れ」
砂と汗にまみれた服をざぶざぶと洗い、よく絞ってはイビルアイに放り投げ、イビルアイが紐に袖を通す。
全ての装備を通し終わると、紐のもう片方も木に括り付けた。
手袋だけは岩の上に直置きだ。
「さぁ、そろそろ飯の時間だぞ。というかもう飯時から随分経ってるけどな」
全員が名残惜しいような顔をし、下着姿の体に濡れた遮光服だけを羽織ってオアシスから上がった。
「はぁー!涼しくなったわ!やっぱり砂漠の冒険はとんでもないわねぇ」
「本当になぁ。水を生み出せる
「いや、冒険者が多い"雨の起源"のオアシスには
「なるほどな。そりゃあ皆オアシスのそばまでしか探索できねぇわけよ」
やれやれ、と若干の疲労を見せながら、一行はせっせと日除けを張った。オアシスと反対側にある街のある側に目隠し布を垂らすことを忘れない。
日除けの真下ではない場所に焚き火を組み、オアシスを眺めながら料理をした。イビルアイ以外は皆遮光服しか着ていないが、あまり気にしていない。
本日の料理はゴリゴリ乾燥パンのキノコソテー乗せ。それから、オアシス取れたて魚の塩焼き、水辺に成る実、エリュエンティウで買った
ここで採った実は毒に反応する指輪を当てることで食べられるか確認済みだ。
食事を始めると、話題は自然と
「――あの娘、随分ガガーランを畏れていたようだが…呪われた兵士とは一体なんだったんだろうな」
「さぁ…。エリュエンティウではそういう話は聞かなかったわよね?」
「全く聞かなかったな。口調から言って、現れれば
「どういう事なのかしらね。今夜少し話を聞かせてもらいたいけど…」
ラキュースの言葉に、「でもなぁ…」とガガーランが答える。
「少なくとも、俺たち人間種との関係は良いもんじゃなさそうだったな。
「その行為を正当化するわけじゃないけど、大王国があったって言ってたし、きっと怖かったんでしょうね。天空城から都市守護者が出てきてくれるエリュエンティウの中心街はいいけれど、冒険者や商人はいつ襲われるか分からないし…。都市守護者が出て来られない――イビルアイの言うところの魔法の檻の外にいた人達は抵抗し切れないわ。都市中心部だって、もし都市守護者が出て来てくれなくてエリュエンティウを奪われたりしたら、砂漠の民は行き場を失って死ぬしかないもの。一番近い人間種国家はスレイン法国だったけれど、スレイン法国と砂漠はスルシャーナ様絡みで相当仲が悪かったし」
「そうだな。しかし、エリュエンティウと異種族との戦争の話は聞かなかったな。攻め込まれたこともないのに、攻め込まれるかもしれんと恐れたか」
「ほとんど同じ姿形をしてるのに、よくやる」
焼き魚をむしゃむしゃ食べていたティアが呟く。蒼の薔薇はゴブリンの子供ですら、殺すことを躊躇してしまうのだから。
「ほんど同じ見た目、と言っても人間から見れば驚異だろうな。蠍人《パ・ピグ・サグ》の持つ毒は同じくらいの大きさの生き物が食らえば、よくて神経麻痺からの運動障害、最悪の場合は死に至るはずだ」
「…あのおじさん、五人程度なら何かあっても戦えば勝てる勝算がある雰囲気だった」
ティナも二本目の魚の串焼きに手を付けて言った。
「となると、もし生かして帰すなーなんて話になりゃ、危険なのはこっちだな」
「あぁ。最悪転移して逃げることになるかもしれん。その時には冒険者組合から神都に連絡を取ってもらおう。」蒼の薔薇ともなれば、本気を出してしまえば
「そうね。宵切姫様に賭けましょう。それにしても…綺麗な人だったわね。あの真っ直ぐな青黒い髪。絹糸みたいだったわ。エリュエンティウの人達も殆どが黒髪だったけど、あそこまで綺麗な人はいなかったわよね」
全員から同意の声が上がる。
そして――「……誰かあの姫の尾を見たか?」
「尾?」
イビルアイからの突然の問いに、ラキュースは尾を見た者がいるか、仲間達を見渡して確認した。
しかし、誰も尾を確認しなかったようだった。
「あぁ…尾だ。家に入っていく時にちらりと見えたんだが、毒針が切り落とされていた。尾の先の膨らんだ部分ごとな。口だけの賢者が残した手術という手段で丁寧に縫合してあったようだから大切にはされているんだろうが……何かきな臭い気がしてな」
「事故で切れちゃって、回復魔法を使える人がいなかったからとりあえず手術をしたのかしら?」
「……わからない。しかし、尾の先を失うほどの事故にあって何故他の場所に傷がないのか……少し気になる。切断面はまだ新しかったんだ。多分……失ったのは昨日今日だろう」
宵切姫はたっぷりとした長いサルエルパンツを履いていたが、暑いためか上半身の露出はかなり多かった。上からガウンを羽織った寝巻き姿で、足と胸以外の部分はおおよそ見えていた。それに、痛みをかばって歩く様子でもなかった。
そこから推測される答えは――
「……まさか、誰かに切られたの?」
「恐らくな。まぁ、
「…………そう。後で回復魔法を掛けようか聞いても良いわね」
「あぁ。好感度も上がるしな」
痛みが少ないからと言って、人の体の一部を落とすなどぞっとする話だった。
この日照りの中、背筋が冷たくなる感触に襲われると双子は立ち上がった。
「そろそろ服を着る」
「遮光服はもう乾いた。服もきっと乾いてる」
いつの間にか全員食事は済んでいた。食べながら長いこと話し込んでしまったせいで、どれの味もよく覚えていなかった。
「――そうね。私はもう一度だけ泳ごうかしら。食器を洗うついでに」
「ラキュースが泳ぐなら俺も泳ぐかな。また汗かいちまったぜ」
「少し泳いで気が済んだら、仮眠を取るぞ。
「分かったわ!仮眠する場所、作っておいてね!」
「ティアとティナはどうすんだ?いくか?」
「もう十分楽しんだ」「寝不足だからテント張る。あの虫め」
ティナからは明け方に襲来した
一行は二チームに分かれ、それぞれの仕事に取り掛かった。
そして虫除け団子を焚いて一足先に双子とイビルアイが寝ていると、ラキュースとガガーランも仮眠を始めた。
モンスターが出る心配はしていないが、念のために<
木陰にタープを張り、その下にさらにテントを建てたため、想像よりはずっと快適に眠ることができた。
ぐっすり二時間ほど寝ていると、五人はテントの外からの騒めきに目を覚ました。
テントの外から差し込む光は真っ赤な夕暮れの色をしていた。気温も幾分か下がり、ある程度過ごしやすくなっている。
「ふぁ…ふぅ。結構寝たな」
「そうね。片付けをして、防寒着に着替えたほうが良さそうね」
「うし、起きるか。おい、ティア、ティナ。起きろ」
「んん…もう少し…」「虫め……」
「しゃーねぇ。後少しだからな」
「んー」
「うー」
双子が抵抗するのを放っておいて、三人は片付けの準備を始めた。敷物を残しておけば寝ていられるし、屋根がなくなれば嫌でも起きる気になるだろう。
そして、テントを出て目隠しの日除けをはずすと――遠巻きに老若男女、数え切れない
普通の親子のような者達、戦士や兵士のような出立ちの者達、僧か神官のような者達。屈強な者、痩身の者、太った者、愛嬌のある者、強面の者。
様々な人々がいた。
「……起きるのを待っていたのか?」
「…待って。あれは……」
全員が鼻を覆い、渋面だった。
「――虫除け団子が効いてんだ。やべぇ!」
ガガーランは慌てて燻る虫除け団子へ駆け寄り、ガントレットを嵌めた手でそれを回収した。
水辺に持っていって水を掛けると、ぷしゅぷしゅと音を立てて火は消えた。
「ほ……」
辺りにはまだ虫除け団子の臭いが充満していたが、涼しい風が数度吹くとそれも薄まった。
随分臭いがなくなると、
「――宵切姫様」
話し合いをしようと言う雰囲気を感じ、ラキュースは武器を持たずに宵切姫の下まで駆けた。
「おはようございます。良い夕暮れですね」
「おはようございます、宵切姫様」
「皆さんが寝ている間に集落の皆で話し合いをしました。回答としては、ここで過ごしていただいてもいい、です。ただし、地図を作るのは皆様のことをよく教えて頂いてからです」
「ありがとうございます。集落の皆様にご納得いただけるまで、きちんと私達が何者なのかを話させていただきます」
「あぁ、言い方が悪かったですね。お話いただきたいことは厳密には皆様の事ではなくて、地図をお持ち帰りになる皆様のお国のことですの。言いにくいのですが……昼の間、監視を何人か立てさせていただいていたので、あなた達に関してはこのララク集落に害を及ぼす存在ではないと言う事がもうよく分かっております。地図を作らないで待っていると言う約束を守っていただいていたことも」
「…あ、あはは。そ、そうでしたか」
それを聞いたラキュースは、何故双子が泳がずにああもジッと水に浸かっていたのかを理解した。食事の後にもう一度泳がなかったのも監視に気が付いていたから。更に言えば、イビルアイの仮面を取ることに反対したのはアンデッドだと監視に勘付かれないため。
何故教えてくれないんだと言う感情と、教えられれば監視を意識した行動を取ってしまい、監視からの信頼を得ることはできなかっただろうと理解する理性がない混ぜになる。
双子はもっと寝たがっていたが、恐らくずっと半覚醒状態で襲われないか警戒していたため、もしくは一人づつ交代で眠っていたために睡眠時間が不足していたのだろう。
優秀な仲間を持てたことに感謝しつつ――ラキュースは下着姿で蛙のようにすいすい泳いでいた昼間を思い出し頬を赤くした。
「すみません、覗き見するような真似をしてしまって」
「き、気にしないでください。こちらも…気にしませんから…。はは、ははは――はぁ…」
笑いは若干のため息となり消えた。
「良かった。それで、私も皆さんのお国のことを聞きたくはあるのですけれど、実は今日は三十年に一度の宵越しの祭りが開かれる夜なんです。一晩皆で神に感謝を捧げるので、これから祭りを始めるための儀式をしなくちゃなりません。申し訳ないのですが、儀式と祭りが終わってから長老衆と摂政会の面々にお話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?私は同席できませんが」
この場の味方である宵切姫がいないのは痛手だが、背に腹はかえられないだろう。
「――それはもちろん構いません。三十年に一度の機会に立ち会えたなんて、むしろ光栄です。儀式とお祭りは見させていただいても?」
「良いですよ、ぜひご覧になってください。そうそう、聞けば皆様は昼行性の生き物だそうですね。眠くなってしまったら、気にせず休んでくださいね。まぁ、少し賑やかかもしれませんけれど。――それじゃあ」
宵切姫は優しい笑顔を見せると、幾重にも重ねて着ている美しい衣装を引きずって人々の輪の中へ戻っていった。
そして、つい見てしまった尾先は――切り落とされ、止血のためだと思われるリボンがキツく結ばれて、傷口は縫合されていた。白っぽい肉が微かに見える様は痛ましかった。
宵切姫が人の中に入り見えなくなると、人々はその後に続くように立ち去っていった。
ラキュースはそこでようやく仲間に振り返った。
「これから三十年に一度のお祭りを始める儀式をするんですって。見ても良いそうだから、急いで片付けて行きましょう」
「あぁ。聞こえていた。陛下方へ感謝を捧げる祭りは全部出たいくらいだ!」
イビルアイの鼻息が荒い。
「それより、もっと注目するべき点がある」
テントの中からはいつの間にか双子が出てきていた。
「注目すべき点…?」
「宵切姫さんは三十年に一度の祭りと言っていた」「今年は三十年に一度の大竜巻が起こると冒険者組合も言っていた」
「…この祭りは竜巻発生を喜ぶ会か?」
「詳細を見なきゃダメね!皆、やるわよ!」
一行は急ぎ片付けを済ませると、人々が消えて行った方へ小走りで向かった。
いくつもの松明が焚かれ、舞台の上には今にも産気づきそうな妊婦が五名と宵切姫がいた。
『――皆様!ついに三十年に一度のこの時がやって参りました!!明日、この中から新しき宵切姫は産まれるでしょう!!』
両手を広げてそう叫んだ宵切姫は女王然としていた。
「新しい宵切姫が生まれる…?よくわからない祭りだな」
イビルアイが首を傾げると、ラキュースが軽く小突き、「しっ」と人差し指を口元に当てた。
『夜を越せ、宵を切れ!光を超え、風を呼べ!
妊婦達が服を脱いで腹を出すと、宵切姫は赤黒い塗料でその腹にひとつ紋様を書き込んだ。
『私の血と力は、今、次の宵切姫に継がれました!今日の夜明けと共に私は去りますが、次も良い姫が生まれてくることでしょう!!』
イビルアイは妊婦の腹に塗られた液体をじっと見ると呟いた。
「本当に血だ。それに、毒が混ざっているのか…?皮膚から吸収するとまずいぞ」
「ま、まさか。大丈夫でしょ…?」
「そうだと良いが……」
蒼の薔薇の心配をよそに、
ただでさえ赤い花は、夕暮れに晒されて一層赤く輝いた。その様に目を奪われていると、ふと昼間に会った宵切姫の父親と母親が感涙を流している姿が目の端に映った。
舞台から降りて行く宵切姫の顔は実に誇らしげであり、それに続く妊婦もまた、誇らしげであった。
「どうやら大丈夫そうだな。にしても、宵切姫は出家するようだな。――もしくは、大竜巻を呼ぶ張本人か」
「だとしたらラッキーね。――あ、お祭りが始まるみたいよ」
儀式が終わり、宵越しの祭りが始まると豪勢な食事がいくつも運ばれて来た。
煌々と焚かれた巨大な儀式用の炎の周りを人々が歌い、踊り、回って行く。
食事をとりながら座って眺めている者もたくさんいるため、蒼の薔薇もそれに倣って座って共に眺めた。
小さな太鼓を叩く人、柄の付いたタンバリンのような物を鳴らす人、蛇のような形をした長い笛を奏でる人。
踊りは手首同士を合わせ、バツ印にした手を鳥のように羽ばたかせて、腰を蛇のようにくねらせた異国情緒にあふれたものだった。時折腰につけている布を取って回しては竜巻のように舞った。
全員がたっぷりしたズボンを履いているが、踊って脚を上げる時にズボン裾が上がり、足首が少し見える。
しかし、そんな事でいちいち驚きはしない。
手拍子をし、持ってきていた
「お姉様方!良かったらお姉様方も召し上がってください!」
大皿一杯に食事をとってきてくれた落夜が差し出す。皆思わず破顔した。
「落夜ちゃん!ありがとう。でも、良いのかしら」
居させてもらえるだけ有難いというのに、食事まで貰っては悪いのではないかと思った。
しかし、蒼の薔薇の隣に座る
「お食べよ、旅の人間さん」
「今宵は砂漠に住む全ての人が
五人は互いの顔を見合わせると隣に座る者達に深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。それじゃあ、いただきましょっか」
「そうだな!落夜もありがとな!」
「いえ!ねぇお姉様方、お姉様方の事落夜にも教えて下さい!」
落夜は五人のすぐそばに座ると瞳を輝かせた。
「良いぜ。俺達は神聖魔導国の冒険者なんだ。世界中の未知を探して日夜冒険に出てる!」
「はぇ〜!落夜はララク集落を出た事がないんですよ!皆さんはたくさん歩けるし強いんですね!」
「あぁ、そうだ。私達は冒険者の中でも一番の冒険者である称号を持っているからな」
鼻高々にイビルアイが答える。
「じゃあ、じゃあ呪われた兵士も倒しちゃうんですか!」
「落夜ちゃん、その呪われた兵士って一体なんなの?」
ラキュースの問いに答えたのは、務めが終わった様子の宵切姫だった。
「皆様は呪われた兵士をご存知ないのですね」
宵が訪れると、宵切姫の青黒い髪は夜空に溶けそうに見え、月に照らされる褐色の肌は砂漠と同じ色になった。
「宵切姫様。呪われた兵士って一体何なんですか?」
「それは――」語ろうとした宵切姫に、落夜の興奮した声が重なった。
「宵切姉様!とっても素敵だったわ!落夜も宵切姫になれたら良いのに」
「ふふ、落夜は宵切姫にはなれないけれど、あなたも素敵な女性になるのよ」
なる!と意気込む落夜の頭を撫で、宵切姫は話を戻した。
「失礼しました。ええと、呪われた兵士のことですよね」
「えぇ。なんなら、神聖魔導国の冒険者組合で討伐隊を編成しましょうか?」
「まぁ、それはとっても有り難いお申し出ですけれど……でも、呪われた兵士の事はきっと、どんな強者でも倒す事はできません。全ての始まりは大帝国ディ・グォルス崩壊から始まった事だと聞いています」
その帝国の名を聞くと、イビルアイは微かに反応を見せた。
「皆様はこのディ・グォルス砂漠にかつて遊牧民がいた事をご存知ですか?」
「私は知っている。
「その通りです。これは、その
宵切姫は繊細な声で歌うように語り出した。周りでは音楽が鳴り響く。
蒼の薔薇は聞き漏らさないよう集中した。
ある見張り兵が歩哨に立っていた時のことです。月夜の綺麗な晩だったそうです。
キャンプの外から、兵を真っ直ぐに視界に捕らえて進んでくる男が一人。
兵は上半分が夜色で、下半分が砂色のマントを着ていたので、近付いて来る男がよく自分の存在に気が付いたものだな、と少しだけ不審に思いました。
男はすっかり近くまで来ると「ついに見つけた。君のような人は初めてだ…」そう感激したような声で言ったそうです。
男は自分を流浪の剣士だと名乗り、遊牧民の大司教様に会いに来た、と、そう言いました。
「しかし、もうそれも必要ない。君ほど素晴らしい人に出会えたのだから。なぁ君、もっと強くなりたくはないか」
兵はもちろん、今より余程強くなりたいと思っていたので、「なりたいとも。いつか部族一の男になるのさ」――そう答えました。
男は言いました。
「じゃあ、僕が君にひとつ、最強の武技を教えてあげよう」
「最強の武技…?」
「あぁ、使いこなせるのはごく一部。どうだい?君ならきっと、それができると思うんだ。何せ、
兵は重なる甘言にすっかり気を良くし、深く考えずに教えて欲しいと答えたのです。
「じゃあ、教えてくれよ。まずどうしたら良い?」
男は自らの腰に佩いている剣を外すと、それを兵に渡しました。
「この剣を使ってくれ。これは魔法の剣だから、武技が出やすいんだ。それを一気に振りかぶり、<残光暴撃>と言ってみてくれ」
「この剣を…?」
兵は剣を受け取り、鞘から抜くと剣を一閃しました。
「<残光暴撃>!!」
それは剣に反射した月光が尾を引くような姿だとも、輝く星屑が落ちたような姿だとも言います。
光の衝撃波は離れたところにある木を真っ二つに切り、消えたそうです。
オアシスでよく育ったその木はとても太く、ズズン…と重たい振動を響かせながら倒れました。
「お見事、お見事」
剣を渡した男は機嫌良く両手を叩きました。
「こ、こんな武技…初めてみたよ」
兵は一度魔法の剣を鞘に戻すと、自らの剣を引き抜きました。
「<残光暴撃>!!」
先ほどとまったく同じように剣を振るったと言うのに、剣からはたった一筋の光も漏れ出る事はありませんでした。
兵は自分の剣を鞘に戻すと、男の魔法の剣が無性に欲しくなりました。これさえあれば、この砂漠の覇者になることすら容易い――と。
「………なぁ、あんた。この剣を良かったら俺にくれないかな」
それを聞いた男は兵をじっと見つめました。
「も、もちろんタダとは言わない!俺の持ってる剣と――えっと、それから、有り金を全部渡すとも!これは
兵は息を呑み、男の返事を待ちました。
しかし、男は静かに首を振りました。
「これは人に
「そ、そうか…。それはそうだよな…」
「えぇ。残念ですが。それでは、私はこれで。武技はお伝えしましたので」
男が兵に持たせた魔法の剣の柄に手を伸ばします。
兵は軽く辺りを見渡しました。
そして、誰もいない事を確認すると――次の瞬間、兵は魔法の剣を引き抜き、男のことを渾身の力で切り付けました。
「っ<残光暴撃>ぃぃ!!」
正面から背骨まで断ち切る、一切の容赦のない一撃だったと、のちに兵自身が語ったそうです。
血が吹き出しましたが、運良く兵自身にはかかりませんでした。
「――ふ、ふはは!ふははははは!!やった!やってやったぞぉー!!」
そう声を上げたのは兵ではなく、切られたはずの男でした。
男は自らの血に溺れながら嬉しそうに笑い、その場に上下二つに分かれて崩れ落ちました。兵を捉える瞳には憎悪や憤怒の色はなく、ただただ嬉しそうに、とても不気味に笑います。
兵は途端に気味が悪くなりました。急いで魔法の剣を鞘に収めます。そして自らの腰に剣を括り付け、砂を男にたっぷりとかけました。
これですぐにミイラになるはずです。
兵はほくそ笑むとその場を走って逃れました。
別の場所の見回りに行くふりをするためです。
少し進むと、聖職者達が月夜の儀式を行っているのが見えて来ました。
ここでアリバイを作ろう。そう決めた兵は聖職者達に近付いていきました。
すると、聖職者達は何を思ったのか突然兵に襲いかかりました。
兵は儀式中の聖職者だと思いましたが、実の所、聖職者に扮する野党だったのです。――そう、その時は、そう思いました。
早速新しく手に入れた剣と武技で偽聖職者達を真っ二つに切り裂いてやりました。
全員を殺せた兵は、他にも野党がいてはこれから儀式を行う本物の聖職者達が襲われかねないので一度仲間達の下へ戻りました。
大人数で辺りを確認した方が良いと思ったのです。
「おいおい、少し気が早いぜ?」と、兵は言いましたが、仲間だと思っていたはずの兵達は一気に兵に襲いかかって来ました。
気でも狂ったかのように、一心不乱に斬撃を繰り返して来ます。
そして、兵は自らの身を守るために武技を使いました。
兵はふと、一つのことが頭をよぎります。
「――まさか、野党だと思った聖職者様達も、何かがあって気が触れてしまったのでは」と。
兵は慌てて聖職者の
そして、その先で起こったことは――先程の兵用の
つまり、目を覚ました全員が兵を襲ってきたのです。
そこまでくると、ようやく兵にも事態が飲み込めて来ました。
周りは狂ったのではなく――狂わされたのだと。
そして、狂ったのは向かって来る者達だけではない事もじわりと理解できました。
仲間を殺すくらいなら、殺される方がマシだと、その時の兵には全く思えなかったのです。
拳を振り上げられると、どうしても生き延びたいと思わずにはいられなくなり、剣を振るいたくてたまらなくなりました。
ここでも兵は狂って向かって来る聖職者達を一人残らず八つ裂きにしました。
兵は戦いが終わると途端に冷静になり、目の前で起きたことに震え上がりました。
そして、こうなってしまった思い当たる節は一つしかなかったので、血塗れの剣を持って、あの男の下へ向かいました。
靴の裏は血でぐっしょりと濡れていたので、何度も転びそうになりました。
それでも、走ります。
そして男を埋めた場所を剣でザクザクと掘り返すと――つい先程殺したばかりのはずの男はもうすでにミイラになって死んでいました。その顔の安らかな事。
あれほど吹き上がったように見えた血は一滴も出ていません。
しかし、その刀傷は確かに兵が付けた者でした。
「そんな……」
そこでようやく兵は気づいたのです。
この者は自らのかかった呪いを押し付けられる第三者を探していた事に。
今更後悔しても仕方ありません。
恐ろしくなった兵はせっかく奪い取った剣をミイラの隣に埋め、再び仲間達の下へ戻りました。
大司教様に助けを求めようと決めて
「大司教様!大司教様!!」
「おや?こんな時間にどうかしたかね?」
そう言って
「ま、まさか魔物が!?」
違う、自分がやったと言おうと思ったものの、その罪の重さに耐えかねた兵は素直に罪を告白することができませんでした。
「ち、ちが…いや…そうです!!皆殺されてしまいました!!」
「な、なんと…!今他の兵を呼んでこよう」
大司教は一緒に兵に来てもらおうかと思ったようでしたが、震え、顔を青くする兵を見ると、戦力にはならなそうだと思い優しく肩に手を置きました。
「君はここで寝ていなさい。医者を呼んであげよう。後のことは私と仲間たちに任せて」
「ありがとうございます……ありがとうございます……!」
兵は泣きながら何度も頭を下げ、震える体を抱いて大司教様の
そして、目が覚めたとき――。
兵の手にはあの剣がしっかりと握りしめられていたのです。
すぐそばには眠る大司教様とお医者様。
兵は剣を
そして再び目が覚めたとき、その剣はまた兵の手の中にありました。
兵は恐ろしさに叫びました。
剣は持ち主が殺され、次の欲深い者が奪い取ることでしか渡らない呪いの剣だったのです。
叫び声に目を覚ました大司教様は兵の背をさすりました。
「大丈夫かね?まだ魔物は見つかっていないが、きっと大丈夫だ。
兵は、大司教様が狂わない様子に、まさかやはり皆がただ狂っただけかと一瞬思いました。
しかし、それも束の間。
目覚めた医者はメスと言う手術道具を引き抜くと兵に向かって一気に駆けてきました。
大司教様は驚き、目を丸くします。
兵は命惜しさにお医者様を真っ二つにしました。
そうして、朝になり目を覚ました遊牧民達は次々と狂って兵へ向かっていき、兵は来るものを切り捨てました。
その間、兵はずっと「殺したくない!殺したくない…!!でも死にたくないんだよぉ!」と泣いていたそうです。
大司教様と、大司教様に近づかないように言われた者を除く、人口の九割超の遊牧民を殺し終わると、兵は自分の身に起きた事を大司教様に話したそうです。
大司教様は身内すら殺した兵を哀れに思いましたが、自らが呪いに引き寄せられないだけで呪いを解く方法はついぞ分かりませんでした。解呪の魔法を持っていたというのに。
一度は呪いにかからない大司教様が剣を預かったこともあったそうですが、やはり剣は朝になると兵の下に戻っていたそうです。
こうなれば、いつ呪いが強まって兵に手を上げ殺されてしまうか分からないため、大司教様は「呪いを解く研究をしてくる」と言い、残った一割にも満たない遊牧民を連れて
そこで
それに、大司教様が身に付けている魔法の装備はどれも超一級品。世界と等価と言われる至高の額当てもしていたのです。
大司教様のことを偽物だと疑う
そうして、大司教様は
兵が今もどこかで生き延びているのか、それとももう死んでしまったのか、誰かに呪いが渡ったのか――知っている者は一人もいません。
このお話は昔々のお話ですが、兵に最初に剣を奪わせた男はどう考えても、最初からミイラになっていたのですから――きっと、兵は今もミイラの姿で砂漠を彷徨い歩いているのでしょう。
だから、皆さんも気をつけてください。
このディ・グォルス砂漠を行くとき、見知らぬ男が近づいて来たら、何も見なかったふりをして一目散に逃げるよう。
――長い昔話が終わりを告げる。
全員が今の話の真偽を確かめるように視線を投げ合った。
「え…と……。最初に剣を持って来た男の人は…一体どこから来たんでしょうね?」
最初に口を開いたのはラキュースだった。
「大司教様は今は亡き大帝国ディ・グォルスが滅亡した時の怨嗟を吸い上げた剣が、当時の大帝国の兵士長を惑わせたのではないかと仰ったそうです。兵の言った場所を掘り起こし、慰留品を確認した結果です」
「…だから全ての始まりは大帝国ディ・グォルス崩壊から、と言うわけですね」
「そういう事です」
「……宵切姫、それはただの御伽噺ではなく、真実なのか…?」
「真実であると思います。呪われた兵士は、当時ララク市にも出没したことがあるそうですから」
「なに!?」
「そ、その時の被害は……?」
「それほど大きなものではなかったと聞きます。とは言っても、遊牧民に比べれば、という程度ですが。兵を襲いたくてたまらないと思っていたはずが、家の中でふと我に帰り、自ら立ち去る兵の後ろ姿を見たという人がたくさんいたのです。きっと兵は探していたのでしょうね。狂わずにいられ、尚且つ呪われた剣で自分を殺してくれる人を」
「……諦めて帰ったか。その呪いの剣は所有者に人を殺させるために周りの人間を狂わせているようだな…。とすると、剣そのものに何か思惑があるのかもしれん」
イビルアイが悩むような声をあげる。
「剣そのものに思惑ですか…?そのようなことが…?」
「あぁ。魔法が宿ってしまった物の中には、意思や自我が芽生えるものがある。ごく稀にだがな。そう言う物はインテリジェンス・アイテムと呼ばれるんだ。特に剣は血に触れる機会が多いからインテリジェンス・アイテムになり易い。インテリジェンス・ソードと言う括りがあるくらいだ。ん?待てよ……。――もしかしたら、次に呪われた兵士に出会う人間は殺されないかもしれん」
「どういう事なの?イビルアイ…」
「確証のない仮説の話だという事を念頭において聞いてくれ。まず最初の男――この男はミイラになっていたんだろう。ミイラ、つまりアンデッドだ。最初に暗闇の中で兵の事を簡単に認識出来ていた事からもそれは明らかだと私は思う。アンデッドは
「それは私達でも想像が付くわ」
「問題はここからだ。剣には呪いの力があると言うのが思い込みだとしたら?」
全員があり得ない、というような表情をした。
「それじゃあ、周りの人が兵に襲いかかる理由が分からないわ」
「まぁ聞け。剣が持つのは呪いの力ではなく、人を操る精神支配系の魔法を持つだけだったらどうだ、と私は思ったんだ。それの方が余程現実的じゃないか?確かにこの世に呪いは存在するし、所持者の思考を乗っ取るようなアイテムもある。だが、持たない周りの者にまでそれが波及すると言うのはあまりにも強力すぎる。もし呪いを持っていたとしても、それは手放せないと言う一点のみだと私は思う」
「おい、待てよ。イビルアイ、それもやっぱりおかしいぜ。アンデッドに精神支配は効かないはずだろ?それなのに――あ…」
「ガガーランも気付いたようだな。その通りだ。そもそも、最初の男はアンデッドになってしまった時点で呪い、ではなく魔剣からの精神支配から逃れることに成功していたんだ。しかし、男にはそれがわからなかった。人を殺してしまうことに辟易し、人に近付かなくなっていたんだろう。なんなら、自分が死んでアンデッドになっていることにも気付かなかったのかもしれない。兵も男がミイラだと気付いたのは砂を掘り返してからと言うくらいだ。一方魔剣は次の生きた所有者を探していたが、魔剣にできる精神支配は殺意や暴力などの思考、それから"死にたくない"という当たり前にある願いへのアクセスだけだった。だから、気長に次の所有者に出会える時を待っていたんだ」
蒼の薔薇の周りには、いつの間にか多くの
「――そんなタイミングで、どうやってかは知らんが大司教が解呪魔法を持っているかもしれない事を男は知ったんだ。そして最後の希望を胸に遊牧民の下へ向かった。ところが、驚くべきことに一番最初に出会った男がたまたま狂乱の呪いに掛からなかった。いや、魔剣が精神支配をしなかったんだ。しかし、剣はただ捨てたり渡したりするだけでは自分の下に戻ってきてしまう事は解っている。男はわざと武技を教えると嘘をついて魔剣を持たせた……。魔剣を渡された男はすぐに魔剣の精神支配に侵され……そして、元の持ち主を切り殺した。後は、恐らく話の通りだろう」
音楽すら止まった宵越しの祭りの中、イビルアイは拳を握りしめた。その仮面にはチラチラと炎が生み出す影が踊った。
「魔剣を持ったものは恐らく自殺したりはできんのだろうな。魔剣も寄生する宿主が死んでしまっては次の持ち主に出会える可能性がぐんと下がるし、人を殺すことができなくなる。もちろん、そんな精神支配はアンデッドになれば関係のない話だ。だがどうだ?何十年も死なないように侵され、全ての抵抗が無意味だった時、人の精神は再び抵抗しようと思うだろうか」
「思わねぇだろうな。特に、最初に持ってた奴の死に様を見てる以上、人に奪われて、人に殺されなきゃダメだって言う思い込みもある気がするぜ」
「その通りだ。しかし、何年前の話だか知らんが…兵士が寿命で死に、アンデッドとなっていれば――」
「魔剣は次の所有者を探し始める……」
「そういう事になる。だから、次に会う者は殺されない。但し、自分以外を殺してしまうことになるだろうがな」
街の中に危険はないというのに、辺りは妙に血生臭いような気がした。
しん、と静まった祭りは炎の弾ける音だけが響いていた。
「――ま!!そうだとしても、ここは大丈夫だろうな!あの砂嵐はアンデッドだって潜る事はできやしない!それに、これは勝手な憶測だしな!」
イビルアイの明るい声が響くと、あたりからは安堵の吐息が漏れ、ようやく街の時間は動き出したようだった。
話を聞いていた
「イ、イビルアイさんは魔法やアンデッドの知識をたくさんお持ちなんですね。はは、なんだか…明日街を出るのが恐ろしくなってしまいました」
宵切姫が青い顔をして笑った。
「何?街を出るのか…。それは……確かに……少し不安だな……」
再び暗い雰囲気が漂うと、落夜が勢いよく立ち上がった。
「宵切姉様!この人間のお姉様たちは壁の外をたくさん冒険できるくらい強いのよ!それも、一番の冒険者なんだって!だから、宵切姉様の儀式の警護をお願いしましょうよ!」
「落夜…でも、もし呪われた兵士が現れたら、この方達のお話では精神支配されてしまうのよ?いくら強くても……」
そう言う宵切姫の表情を見ると、蒼の薔薇はニッと得意げな顔をした。
「宵切姫様、安心して下さい。私達の中の、このイビルアイは精神攻撃への完全耐性を――あるアイテムによって獲得しているんです。しかも超凄腕の
宵切姫の瞳はパッと明るく輝いた。
「まぁ!よろしいんですか!あ、でも…特に何もお礼はできないと思うのですが……」
「宵切姫、私達はお前に恩返しをしようと言っているんだ。集落から追い出されそうになった時、お前が口添えしてくれたことを忘れていないぞ」
イビルアイの言葉に仲間全員が頷く。
「嬉しく思います…。ですが、それのお礼にはあまりにも危険すぎるような気がいたします」
「じゃあ、明日道中でこの砂漠のことを教えてくれ。お前の知っている全てをな。私達冒険者はそう言う知識で食っているようなものだ。これでお釣りが来る」
宵切姫は出会ってから、最も美しい顔で笑った。
「でしたら、是非!行き先は、かつて遊牧民が建て、今は
その晩、
蒼の薔薇は深夜になると祭りから離れ、オアシスのほとりで寒い寒いと文句を言いながら眠りについた。
宵切ちゃんの旅立ちだ!
過去一長いお話だった!
次回#136 狂った価値観
16日0時の予定です!書き上がるかな?