眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

340 / 426
Lesson#5 本と悪口

「キュータ君!行こ!」

 鞄を背負ったオリビアが言うと、最後の授業で使った算盤(ソロバン)と教科書を鞄にいれ、ナインズは頷いた。

「うん、行こう!僕、地の小人精霊(ノーム)見るの初めてだなぁ」

「ちっちゃくって可愛いのよ。じゃあ、私アナ=マリア誘ってくる!」

 オリビアはそのままぱたぱたとアナ=マリアの下へ駆けた。

「キュー様、まっすぐ帰らないし、お荷物お持ちしましょうか」

 一郎太が言うとナインズは笑った。

「自分で持つから大丈夫。ありがとう、一太」

 エルとアナ=マリアも帰る支度ができると、五人は学校を出た。

 歩きながら一郎太は算盤で肩をトントン叩いていた。

「あぁあー。計算全然わかんないなー」

「はは、一郎太は算盤がすごく苦手なようだね。隣で見ててハラハラしたよ」

 エルが笑うとアナ=マリアが呟く。

「……でも、算盤は口だけの賢者が伝えた道具。ミノタウロスでも苦手な人、いるんだ」

 一郎太がぎくりと肩を揺らす。

「け、け、賢王が伝えたものだって使えないミノタウロスはいるの!仕方ないの!オレもオレなりにやってるの!」

「……そうなんだ」

「はは、アナ=マリア。一郎太はこう見えてすごく頭いいんだよ。文字も沢山書けるし、今はまだちょっと算盤だけ苦手なんだ」

「ですよねー!キュー様」

 一郎太がナインズの肩を組むと三人は笑った。

 大神殿とは逆の方向にいくらか歩いていくと、女子が二人で前を歩き、男子は後ろを三人で歩き始めた。

「それにしても、エルはなんでも出来てすごいよなぁ。算盤も字も魔法もなんでもできるだろ?」

「私は多分皆よりずいぶん年上だからね。まだ背は小さいけど」

「そう言えばエルって今いくつなの?僕は六歳」

「オレは今年の夏で五歳!」

「あ、一郎太はキュータの一つ下だったんだね。……私の歳は皆には秘密だよ?」

「「もちろん!」」

 ナインズと一郎太が声を合わせると、エルは前の二人に聞こえないようにこっそりと告げた。

「今年で二十四歳だよ」

「え!!」と、ナインズは大声を出してしまい、慌てて口を塞いだ。「そ、そんなに大人なの?」

「大人じゃないよ。上位森妖精(ハイエルフ)は長命だから子供の時代も長いんだ。子供のうちは体も小さい。私は人の血が濃いタイプのハーフだから、耳も短いし、普通の上位森妖精(ハイエルフ)より成長も早いんだけどね。僕の場合は人間の感覚で言うと四歳に一度歳をとる感じかな」

「え、じゃあさ。オレ達が六年生になっておっきくなる頃、エルはまだ小さいまま?」

「多分ね。今は二人よりちょっと背が高いけど、三年生くらいになったらもう二人の方が大きくなるんじゃないかな」

「うわ〜そうなんだぁ。エルってすごいね」

「はは、何が?」

「自分が大人になるまでの未来をちゃんと見てる感じする!すごいよ!」

 ナインズが言うとエルは照れ臭そうに頬をかいた。

「そう、かな」

「うん!でも、僕達のこと子供だなって思わない?」

「思わないよ。ようやく気兼ねなく話せる同い年の友達ができたなって思ったくらい。普通の上位森妖精(ハイエルフ)達の中に入ると、皆私と同じくらいの背の大きさでも四十五歳とかだからね」

「うわ。大人ぁ」

「私もそう思うよ。最古の森にいた間は、なるべく周りの子供と差が出ないように精一杯背伸びしていたからね。皆驚くくらい色んな事を知ってたんだ」

「だからエルはそんなに落ち着いてるんだ!」

「はは、落ち着いてるかな」

「落ち着いてるよ!憧れちゃうなぁ」

「――私はキュータに憧れるよ。君、人の事、生きてるだけでも褒めるだろう?」

「え!そんな事ないよ〜」

 三人で笑っていると、女子が二人少し先で手招いていた。

「キュータくーん!ここだよー!」

 ヒソヒソ話をするためにいつの間にかゆっくり歩いていたらしい。

 三人が駆け寄ると、オリビアとアナ=マリアの前のガラス窓には共通文字でこう書かれていた。

 ――装幀。掛け替え、新調、何でも承ります。

 その文字の向こうには、美しい刺繍の布カバーを作っている地の小人精霊(ノーム)がいた。カバーは完成してから本に貼るので、まだただの布だ。

 窓辺には沢山の装幀の見本があり、どれも煌びやかだった。

 革の装幀の本は背表紙に等間隔に凹凸の線がある。本を綴じる背バンドが浮き上がっているのだ。教科書も全てが革表紙なのでこのぼこぼことしたコブがある。この線を枠のように見立て、綺麗に文字を収めるのは装幀屋の腕の見せ所だろう。

 ただし、布で閉じてある本の背表紙はつるりとしている。小説などはこれが多く、カバーの付け替えはできない。大切にとっておく必要がある教科書のような技術書の類は長く持っておくために取り外し、交換ができる皮装幀が多いのだ。

 地の小人精霊(ノーム)は一度ちらりと子供達を見ると顔をおまんじゅうのようにくしゃりと寄せて笑い、どんどん刺繍を施して行った。

「……あれ、何のお話だろう」

 アナ=マリアが言う。ナインズはガラスに張り付くようにして中を覗いた。

「えーと……ツアレニーニャ…かな?ん?ツアレ?」

 読んでから、それはクリスの母の名前だと思った。

「……ザイトルクワエ州の守護神様と結ばれたツアレニーニャ。素敵なお話」

「そうなの?」

「……キュータ君、読んだ事ない?」

「ないなぁ。結構本は読んでる方だと思うんだけど。こぶ取りじいさんとかさ」

「……小太りじいさん?初めて聞いた」

「あれ?有名な話だと思ってたけど、マイナーだったんだ」

 ナインズは少し自分はずれているかもしれないと認識を改めた。

「あ!見て!」

 オリビアが声を上げると、店の奥から山小人(ドワーフ)が出てきて、革をプレス機のようなものに挟み、一気にそれを下ろした。

 プレス機から出てきた革には見事な模様の溝が付いていた。それを持って窓辺に来ると、金色のインク壺を開け、とても細い筆で溝の中に少しづつ文字と模様を書き込んだ。

「……すごいね」

「うん、すごいねぇ」

 ナインズは最古図書館(アッシュールバニパル)にある本達もこれほど繊細な手作業で生まれたのかと想像した。

 五人は飽きるまでその様子を眺めた。

「どう?なかなか良かったでしょう?」

「また見に来たくなっちゃうなぁ。とっても面白かったよ!」

「ふふ。いつでも一緒に帰ってこようね。そうだ!皆、良かったらうちに寄って行って!隣だから!」

 隣の店のドアに付いている窓には「フィツカラルド書店」と書かれている。

 中を覗くと、娘の帰宅に気付いている様子の夫婦が手を振ってくれた。

「せっかく来たから見せてもらうね」

 五人が店に入ると、優しそうな店主達が迎えてくれた。

「いらっしゃい。オリビアのお友達ね」

「……おばさん、おじさん、こんにちは」

「はい、こんにちは。アナ=マリアちゃん」

「お父さま、お母さま!こちらがエル様、キュータ君、一郎太君よ!」

「――まぁ、三人ともオリビアから聞いているわ」「オリビアにこんなに男の子のお友達ができるなんて思わなかったなぁ。仲良くしてやってね」

 エルが代表して父親と握手を交わした。

「こちらこそよろしくお願いいたします。少し本を見させていただきます」

「えぇ、どうぞ」

 五人は面白そうなものがありそうな書棚を探してバラバラに動き出した。

 ナインズは買ってみようと思っている本の名前を頭の中で唱えた。

(ツアレニーニャ、ツアレニーニャ)

 そうして探していると、そっと一冊の本を差し出された。

「……キュータ君、ツアレニーニャ、読んでみて」

「あ、ありがとう。探してたんだ」

「……お金ある?……私が持ってる本を貸してあげてもいいよ」

「おかね…?」ナインズは耳なれない言葉に一瞬首を傾げ、すぐに理解した。「あ、お金か!多分買える!ありがとね!」

 ナインズはツアレニーニャを受け取るとレジへ向かった。

「お願いします!」

「はぁい。七千ウールだけど、オリビアのお友達だからね。六千五百ウールでいいわよ。お金あるかな?」

 思ったよりも高い。

 ナインズは持たされている今月のお小遣いが入っている財布を開いた。

(六千五百…六千五百……。足りるはずだ)

 一万ウール紙幣が一枚だけ入れられている。まだ一度も使った事はない。

 ナインズは初めての買い物にドキドキしながら一万ウール紙幣を出した。

「はい、じゃあ一、二、三。三千ウールと、五百ウールのお返しね」

 お札と硬貨を受け取りながら、ナインズは指折り数えた。算術をパンドラズ・アクターに習っている。

 ナインズは納得するとお金をしまった。

「おばさん、ありがとうございます」

「いいえ。またお買い物にきてね」

「はい!」

 優しそうなお母さんだった。

 ナインズは紙袋に本を入れて貰うと、袋ごと鞄の中にしまった。

 初めての買い物がうまく出来た事を早く帰って皆に話したかった。

 そうしていると、一郎太が山盛りの本を持ってきた。

「あれ?一冊七千ウールくらいだとすると…五冊で……えーと……」とぶつぶつ言っていると、エルが耳打ちした。

「三万五千だよ?一郎太、そんなにお金ある?」

「げ!な、ない!くそー。ナイ様のお話見つけたから買おうと思ったのに」

「――え?なぁに?」

 ナインズはそんな事聞いたこともない。

 一郎太は残念そうに本を戻しに行った。

「えーと、ナイ様が夏草海原を統治されているお話とー、ご誕生された時に開かれた祝賀会のお話とー、神の子はいかにして生まれるのかってやつとー、ナインズ殿下の福音って本とー、殿下から学ぶ不完全という完全ってやつ。でもオレ五百ウールしか持たされてない」

 一郎太はぷんぷんと鼻を鳴らした。

 一冊づつ本棚に戻しながら、「父者のけちんぼ」とぶつぶつ悪態をついた。

 ナインズは夏草海原は確かにコキュートスと見守るように言われているし、誕生日には祝賀会を開いてもらっているので、最初の二つに関しては良いだろう。何を書かれているのかは気になるが。

 だが、それよりも残りの三冊の内容は想像もつかない。

 ナインズは一冊を手に取り、開いてみた。

「……ナインズ…殿下は、えーと……神々と違い、決して……ん…と…完全な存在ではないという……。それは生きま…生き物達のフカン…?ふ…不完全性を……お許す…お許しに……なる……グゲン?」

 共通文字はナザリック文字より苦手なことに加え、内容はちんぷんかんぷんだった。

 ナインズはこれは何だと少し不愉快に思いながら本を戻した。

 神と違い完全な存在ではないとはどう言う意味だろうか。

 侮辱だろうか。

「あ、キュー様?」

 ナインズは先に店の外に出た。

 装幀屋を眺める。

(……僕はどうせ何も出来ない)

 一郎太も店を出てくるとナインズの顔を覗き込んだ。

「ナイ様?どうしました?」

「……僕はお父さま達と違ってフカンゼンだって。悪口書かれてた」

「え!帰ったら言いつけてやりましょう」

「……うん。でも、そんな事書けないくらい僕だって何でもできるようになってやる」

 ナインズは絶対に位階魔法を覚えてみせると手を握り締めた。

「もう何でもおできになるじゃないですか」

「できない!……でも、できるようになる」

 一郎太が背を撫でていると、店の中から三人も出てきた。

「キュータ君、装幀屋さんお気に入りになったでしょう!」

「――うん。面白いね。オリビア、今日はどうもありがとう。装幀屋さんも見られたし、本も買えてすごく良かった」

「ううん!そうだ、学校の近くまで送ってあげようか!」

「いや、大丈夫。一郎太とエルもいるし。あ、アナ=マリアの家はどっち?」

 アナ=マリアは学校とは反対の方を指さした。

「……あっち」

「夕方になってきてるから、送ろうか」

「……嬉しい。でも、大丈夫。いつもの道だから」

「そっか。気を付けて帰るんだよ」

「……ありがとう。それじゃあ、さよなら」

 アナ=マリアは頭を下げると先に一人で帰り始めた。

「――じゃ、僕たちも行こう。オリビア、また明日」

「うん!じゃあねー!」

 ナインズが歩き出すと一郎太とエルも手を振って後に続いた。

「――ねぇ、エル?」

「ん?どうかしたかい?」

「僕に位階魔法教えてくれないかな……。僕、どうしても早く魔法使えるようにならないといけないの……。でも、お父さま達の教え方は難しくて……」

 エルは数度ぱちくりと瞬きをすると、大きく頷いた。

「いいよ。もちろんだとも。私もいつもそばに居てくれるキュータの役に立ちたかったんだ」

「エル……ありがとう」

「少し学校に寄って行かないかい?校舎裏の池で練習をしてから帰ろう」

「うん!」

 一郎太はナインズの様子をみると微笑み、走り出した。

「じゃ!学校まで競争ー!」

「え!一太!またずるいことしてー!」

「えぇ!?わ、私は走れるかな」

 エルはひいひい言いながら走り、二人はグングン速度を上げて行った。

「は、はやい…!普通の人間とミノタウロスって…あんなに足速いんだ…!」

 なんとかエルが校門にたどり着く頃には、ナインズも一郎太もすっかり呼吸を落ち着けていて、普通に話していた。

「はぁ、はぁ!ふ、ふたりとも…!は、速いよ…!」

「エルは体力ねぇなー!やっと弱点見つけた!」

 一郎太はおかしそうに笑った。

「じ、弱点だらけだよ…。はぁ…ふぅ…」

 息切れしているエルの背を撫でてやり、呼吸が落ち着くのを少し待った。

 三人は校舎の裏まで行き、クラリスに教えられた池のほとりに腰を下ろした。

 適当な大きさの小石を拾って、それをトントンと杖で叩く。

「よく想像するんだ。石が温まるところを。石の下に火が燃えてるイメージを作るといいよ」

 ナインズは言われた通り、おいてある石の下に火があるようにイメージする。

「それだけ燃えていれば熱くなるはずだよね?さぁ、私と一緒に唱えてごらん。――<温加(アドウォームス)>!」

 ナインズの頭の中をルーンで起こせる火がよぎる。

「<温加(アドウォームス)>!」

 石は温まる事はなかった。

「もー!ルーンはダメなのに!」

「ルーン?」

「なんでもない!もう一回やる!」

 日がどんどん傾き、赤くなり始めていた空はいつしか紫色になり始めていた。校舎の屋根にイツマデが止まり、イツマデ!イツマデ!と鳴き始める。早く帰れのサインだ。

「――今日はこのくらいにしよう」

「……うん」

「大丈夫。すぐに使えるようになるよ」

 エルが肩を叩き、ナインズは立ち上がった。

「帰ろっか。たくさん付き合ってくれてありがとう、エル」

「気にしないで。私は嬉しいんだから」

 三人が校舎裏から校門へ向かう途中、ナインズは振り返った。

「――キュー様?」

「……誰かが僕らを見てる」

「え?」

 エルがキョロキョロする中、一郎太はナインズが見る方へ威嚇するように声を上げた。

「誰だ!!」

 その声はびりびりと大気を揺らし、何人かのクラスメイトが姿を見せた。

「…そんなに怒らなくても良いじゃないか」「カイン様、い、行きましょう」

 不服そうに呟く子供達の声。その声は絶対に忘れないと記憶した、ナインズを侮辱したあの声だ。一郎太は二人をジッと睨みつけた。

「一太、行こう。君たち、驚かせてごめん!」

「っちぇ。行きましょう」

「一郎太、抑えて抑えて」

 校門を出ると、三人は手を振り合い、エルは学校の裏にある寮へ帰って行った。

「また明日ー!」

「じゃあねー!」

「気を付けて帰れよー!」

 エルの背が見えなくなると、二人も歩き出した。

「なんだかすっかり暗くなっちゃったね」

「本当ですね。今日も面白かったなぁー!」

 二人は初めての買い物の思い出を胸に留めた。

 同時にナインズは今日の悪口を書かれていた本の内容を思い出し、石を蹴った。

 大神殿へ向かい、永続光(コンティニュアルライト)の照らす遊歩道を行く。参拝を済ませた人々が帰り始めている。

 それと同時に、夜の大神殿を見ようと集まる人々もいる。

 二人は神官通用口に入ると、たくさんの神官に迎えられた。

「ナインズ殿下、おかえりなさいませ」

「最高神官長さん、ただいまぁ」

「今日、学校でお友達に何か手を挙げられたと、クラリス・ティエール嬢がこちらへ報告にお立ち寄り下さいました。お怪我はありませんでしたか?」

「光の神官長、イヴォン・ジャスナ・ドラクロワです。治癒をいたしましょうか」

 ナインズは笑うと首を左右に振った。

「はは、クラリスは大袈裟だなぁ。大丈夫、ぶつかられただけだから。それに一太がすぐに連れ出してくれたし、なんともないよ!」

「それはようございました。治癒室にいる神官は殿下の事をわかっておりますので、何か困ったことがあればいつでも治癒室へいらして下さい」

「はぁーい。じゃあ、皆また明日ね」

「はい。お気をつけてお帰りください」

 話を切り上げ、二人は階段を上り屍の守護者(コープス・ガーディアン)の待つ部屋へ向かった。

「あ、ナイ様の髪が」

 一郎太に指をさされると、鏡を潜る前にナインズは自分の髪を確認した。

「あ…元に戻り始めてる」

 黒い髪は色が薄くなり始めていて、目の下の亀裂もじわりと浮かんできていた。

 朝六時にフラミーが魔法をかけてくれ、今はちょうどそれから十二時間だ。

「――魔法が解けそうだ。知らなかったなぁ…」

「本当ですね」

 二人は屍の守護者(コープス・ガーディアン)から温度耐性の指輪を受け取り、しっかりとそれを装備したのを見せてから鏡を潜った。

 潜った先は灼熱の第七階層。万一何者かが鏡を潜ったとしても、潜った者はタダでは済まないだろう。

 さらに鏡を奪われた場合は一時的に対になっている鏡を溶岩に放り込む手筈になっている。奪い返すまでは潜った者を殺す気概にあふれていた。

 出迎えの悪魔達が「おかえりなさいませ」と声を揃えて迎えてくれる。

「皆、ただいまぁ」

「じゃ、ナイ様また明日〜」

「うん。一太も気をつけてね〜」

 二人の向かう階層は第九階層と第六階層なので別の方向だ。

 一郎太はまだあまり慣れない溶岩地帯を手のひらサイズの真っ黒な悪魔に案内されて帰って行った。ちょこちょこと足元を四匹程度が走り、尾に火がついている一匹が空を飛んで先導した。

 ナインズも小さな悪魔の後を進み、第九階層に向かう。

「……ねぇ、聞いて。僕本に悪口書かれてた」

 ナインズが呟くと、真っ黒な悪魔達は振り返り、白く光る目を何度も瞬いた。

「フカンゼンで何とかって。やんなっちゃうよね」

 悪魔達がぶんぶんと頷く。

「僕も早く位階魔法使えるようになりたい。君のその飛ぶ力は位階魔法?」

 飛んでいた悪魔は一度頷き、キー!と鳴き声を上げた。

「いいなぁ。そんなにちっちゃくても位階魔法が使えるんだね。僕も明日は絶対魔法を使えるようになるんだ」

 足下をはちょこまかと走る悪魔達はナインズを元気付けるように靴をぺしぺしと何度も叩いてくれた。

「よーし!頑張るぞお!」

 意気込むナインズが第七階層から姿を消すと――小さな悪魔達は寄り集まった。

 キィキィと鳴き声を上げ、急いでデミウルゴスの神殿へ走る。

 神殿のそばにいる憤怒の魔将(イビルロード・ラース)を見つけると、その燃え盛る手に触れた。

 すると、炎は悪魔達の身に燃え移り、ッボン!と音を立てて悪魔の体は大きくなった。

 黒く燃え上がる体には赤い仮面が掛けられ、仮面には縦に二つ見開いた目が描かれていた。目の下にはまるで亀裂のような笑みを浮かべた口があった。

憤怒の魔将(イビルロード・ラース)、デミウルゴス様にお目通りを」

「デミウルゴス様は今第九階層にナインズ様のことでお話にお出になっている。言伝を頼まれよう」

 黒い炎の悪魔はそれを聞くと頭を深く下げた。

「ナインズ様は本に悪口を書かれていたと仰いました。書いた者を即刻処刑するべきかとご報告にあがりました」

「何?分かった。デミウルゴス様がお戻りになった時お話ししよう。もしかしたら、第九階層で既にお聞きになっているかも知れん」

「お願いいたします」

 悪魔の炎は一気に燃え上がり、仮面を包み込むと――元の小さな体に戻った。

 キー!と愛らしい声をあげると、明日の朝ナインズを出迎えるために悪魔達は駆け足で第七階層の入り口へ向かって行った。

 

+

 

「悪口だと?」

 アインズは自分の部屋に鞄を下ろしてきたナインズがむくれる様子に瞬いた。

 フラミーの部屋には今アインズ、フラミー、フラミーの膝の上にアルメリア、アルベド、デミウルゴスが揃っていた。

「うん。オリビアのお家は本屋さんだから、今日本屋さんに行ったの。そこで初めてお買い物した。"ツアレニーニャ"って本。でも、一太が買おうとした僕について書かれてる本には僕がフカンゼンで何とかって書いてあったの」

「一郎太は買ったのか?私が確認してやろう」

「買えなかった。本って七千ウールもするんだね。"ツアレニーニャ"は六千五百ウールで売ってもらったけど。一太は五百ウールしか持ってなかったから」

「ふぅむ、そうか。では調べさせよう。本屋の名前はなんだ?」

「フィツカラルド書店。僕、もう怒ったもん」

「それは私も怒ってしまうな。よく出版が許されたものだ。神殿機関の検閲は無能か」

 アインズは手元のメモにフィツカラルド書店、ナインズ、不完全と書きつけ、アルベドに渡した。

「アルベド、どの僕を使っても構わん。調べさせろ」

「かしこまりました。急務で調べさせます」

「うむ。それから、ナインズ。お前今日喧嘩をしたんだって?」

 尋ねると、フラミーの前に座っていたデミウルゴスが立ち上がる。

「アインズ様、喧嘩ではございません。一方的にナインズ様を下等生物が突き飛ばしたのでございます」

「かとー生物!」フラミーの膝の上で翼の毛繕いをしていたアルメリアが顔を上げた。

「……まぁ待て。その呼び方はやめろ。アルメリアが最近真似をしているだろう。で?何があったんだ?」

 ナインズはどうしてそんな事を父やデミウルゴスが知っているのかと顔を赤くした。あんな恥ずかしい姿を知られていると思うと、辛かった。

 ナザリックに生まれた存在なのに、コキュートスにたくさんの事を教えてもらったのに、簡単に突き飛ばされてしまったのだ。

「な、何もないもん」

「ん……?もしかしてお前が何かやったのか?」

「やってないもん!」

 ナインズがフラミーの部屋を出ようと踵を返すと、アルメリアを抱いたフラミーが立ち上がった。

「ナイ君、ナイ君おいで」

「……僕、何もやってないもん」

「ナイ君は皆にそっと優しくしてあげられるって分かってるよ。おいで。こっちのお部屋でお母さんとリアちゃんとお話ししよ」

 ナインズはちらりとアインズを確認し、フラミーと共に親の寝室に入った。

「ナイ君痛いところはない?」

「ない…」

「お友達も誰も痛いところはなさそうだったかな?」

「ないよ…。僕は皆に優しくしてるもん」

「良かった。ナイ君はとっても優しいもんね。でも、本当に嫌だと思った時、やめろって言うことは悪いことじゃないんだよ。本当は喧嘩をするのだって悪いことじゃない。しないに越したことはないけどね」

「………でも、僕は皆よりたくさん力があるから我慢したほうが良いんだよね」

「……そうだね。ナイ君も、一郎太君も、多分あの学校で飛び抜けて強い。もしかしたら先生でも敵わないくらい」

「……僕、強くない。オリビアがキングのこと気持ち悪がってもやめなって言えない。オリビアは本当に優しくていい子だから、なんて言ったらいいか分かんないの」

 ナインズは帰ってきて着替えたローブを握りしめるとジワリと瞳を潤ませた。

 大きくなってきたと言うのにフラミーの腹にへばりついていたアルメリアはフラミーから降りると、ナインズの頭を撫でた。

「にいに、よしよし」

「…ありがと、リアちゃん…」

「そんなこともあったんだね。誰かを嫌う人を見るのはナイ君も嫌だよね。そしたら、一緒に良いところ探そうって誘ってみたらどうかなぁ?」

「…探してくれるかな?」

「探してくれるよ!オリビアちゃんは良い子だもん。でも、もしかしてオリビアちゃんに突き飛ばされちゃったの?」

「ううん、オリビアは違う…。エルは魔法を使えるから、皆がエルと話をしたいの……。でも、僕はエルとご飯食べる約束してるから、エルを誘ったの……。そしたら、誰かがぶつかって転んだ……。それで…それで……エルを独り占めするなって皆が……。だから……僕、気をつけるねって言った。でも、でも……僕、何だかやだったよぉ…!やだぁ!」

 ナインズはふわぁーんと声を上げて泣いた。

 アルメリアが抱きしめて背を撫でる。

 フラミーは百レベルの豪腕で二人を抱き上げるとベッドの上に座った。

 フラミーの膝の上にナインズ、ナインズの膝の上にアルメリアだ。アルメリアは小猿のようにナインズにぴたりと張り付いた。

「ナイ君は強かったね。そんな酷いこと言われて、気をつけるねなんて普通言えないよ。本当に偉かったね」

「うぅぅ…。ぼく、お外好きだけど、本に悪口書かれるし、ぼくやだぁ。うわぁぁん」

「やだったね。辛かったね」

 フラミーは悩んでいた。

 物理的にも立場的にも力があるから、皆に優しくするように言ってきたし、彼は誰にでも優しく接するようになった。

 優しくできるための勉強もずっとして来た。

 だが、力と知識、彼の中に生まれ始めている責任感に反して精神はまだ六歳児だ。

 人間関係のいざこざの解決方法も、喧嘩の仕方一つも知らない。何かを嫌だと言う方法も知らない。

 この場所で、誰もがナインズを至高の存在と扱って来たため、ナインズと喧嘩をするのはアルメリアだけだ。

 アルメリアを可愛く思っているナインズはすぐにアルメリアに謝る。それを優しくする方法だと信じている。

 今のままの決まり事を貫き通せば、感情を外で爆発させた時にナインズはものすごく傷付くだろう。もしくは、傷つけられっぱなしで帰って来る。

 

「――ナイ君、自分が嫌だって思った時には、これからは嫌だって言うんだよ。その結果、誰かを傷つけることになってしまっても良い。ちゃんとたくさん自分の言いたいことを言うの」

 

 そう言って許してやることしかできない。

 フラミーを育てたのは孤児院の先生達だ。ナインズのように母親の膝の上で泣いたこともない。だから、そんな時に何を言ってやれば良いのかよく分からなかった。これがフラミーなりの全力だった。

 子供の頃、何も持たない自分を慰めて記憶の片隅にある歌を歌って過ごした。良い子でいればもしかしたらお母さんが迎えに来てくれたり、誰かが新しいお母さんになって愛してくれたりするかもしれないと言う打算の中、誰かと衝突する事を避け、いつも小さくなっていた。

 不器用にでも笑って自分が悪かったからと誤魔化して、傷付いても仕方ないやと何でもかんでも諦めてきた。だが、ナインズにもその辛さを感じさせる必要はないはずだ。

 フラミーにも正しい喧嘩の方法はいまだにわからない。人と喧嘩をしたことなどたった一度しかないから。

 ――フラミーはドラウディロンに痛いところを突かれた時、アインズと本気で喧嘩をした。

 あの時フラミーが思ったのは、人は言いたいことを我慢するだけでは、誰かと深く繋がり合うことなどできないということだ。

 誰かを傷つけてしまったとしても、自分の心を守ることはそれほど悪いことではないはず。

 

「……でも、僕が何か言って、もし喧嘩になっちゃって誰かが僕を叩いたら?もし僕が思わず叩き返したりしちゃったら……その子、死んじゃうんでしょ……」

 フラミーは少し悩んだが、覚悟を決めた。

「……大怪我をするか死んじゃうかもしれないね。でも、ナイ君だけが溜め込んで我慢する必要はないんだよ。言い返すことでもし喧嘩になっちゃって手を挙げられたら、ナイ君だって自分を守って良いの。自分や誰かを守るために力を使っちゃうことは悪くない。だから、衝突を恐れないでちゃんと自分の思うことを言ってごらん。もし話し合いの中で喧嘩が始まっちゃったときに、力を使って誰かを傷つけたり、殺したりしちゃっても、お母さんはナイ君を責めたりしない。極端な話どけど、人間達を絶望の中に叩き込んで、神都を何も残らない更地にしても良い。お母さんはお友達と喧嘩した時、神都じゃないけど、そうしようとしたんだから」

 ナインズは驚きに目を向いた。

「そ、そんな…なんで……?」

「お母さんが悪――」悪かったと言おうと思ったが、フラミーは首を振った。「お友達がお母さんを傷付けたから。お母さんはとってもとっても傷付いたの。もう、何もかもを破壊して、全てを無かったことにしたかった。それに、お母さんの傷を誰かに押し付けたかったの。理解して欲しかったの。誰も何も手に入れられないともがき苦しむ中の――絶望の死を与えたかった」

「お母さまが…?」

「そう。お母さんが。まだナイ君が生まれる前のお話し」

「そ、それでどうなったの…?」

「お母さんは十から三十レベルまでの悪魔を二二四体喚び出した。それから、八十レベルの魔将を六体。その子達にも同じ魔法を使わせた。七人がかりで悪魔を喚んだの」

 ナインズは指折り数える。

「七人が二二四体だから…全部で一五六八体の悪魔…?」

「そう。すごいね。どうしてすぐに分かっちゃったの?」

「へへ…兄上とお勉強したから」

「ナイ君は本当にすごいね。お母さんはすぐに三桁の掛け算なんてできないよ」

 嬉しそうに笑い、ナインズは少し鼻をすすった。

「それで、その悪魔はどうしたの?地上の人間をたくさん殺したの?」

「うん、たくさん殺した。外の皆には秘密だよ?」

「わぁ……」

「ふふ。だからね、ナイ君がもし力を使った結果として誰かが傷付いたとしても、お母さんだけはナイ君の味方だよ。もしもの時にはお母さんがその人間を治してあげる。もし死んじゃったら生き返らせてあげる。何人でも、何回でも。何百人だって生き返らせてあげる。あなたの為にこの世の全ての奇跡を使ってあげる。だから、怖がらないで自分が思うことをたくさんお話しして、たくさん皆とぶつかってごらん。どんなことになっても大丈夫。ナイ君には仲間もお友達もたくさんいるんだから」

 フラミーにつん、と頬を押されると、ナインズは頷いた。

「……本当に困ったら、力を使っても良い」

「うん。ナイ君は全員の命を握ってる絶対者だよ。でも、殺しちゃったら、きっとナイ君もとっても傷付くからね。なるべくそうならないように出来るといいね」

「うん!口喧嘩する!」

「ふふ、そうだね」

 優しくしろ、人を傷つけるな。

 そう言われ続けてしまったナインズはほんの少し、優しさの呪縛から逃れることができた気がした。

「今度ドンってされて、エルを独り占めするなって言われたら、うるさいって言ってやる」

「ナイ君に、言えるかな?」

「言えるよ!うるさい!うるさい!!」

 数度うるさい、うるさいと言っていると、アルメリアがいいことを思いついたとナインズを見上げた。

「にいに!かとー生物は黙ってろって言えばいいです!」

「リアちゃん、下等生物は違うでしょ」

「でもかとー生物です。皆言ってます」

「じゃあ、サラトニク君やクラリスちゃんも下等生物なの?」

「サラとクラリスは見どころがあります」ふふんと鼻を鳴らす。「見どころのないかとー生物がにいにを虐めたら、リアちゃんがやっつけます」

「はは。ありがとう。僕、なんだか大丈夫な気がして来た。リアちゃんは本当に優しいね」

 三人でよく似た顔をして笑っていると、扉がノックされた。

「誰か来たね。ナイ君、入れてもいい?」

「良いよ!」

「どうぞー」

 扉がゆっくり開くと、アインズが部屋を覗いた。

「九太、お前の本の内容がわかったぞ?」

 猫撫で声だ。

 ナインズはアルメリアを下ろし、フラミーの上から退いた。

「僕の悪口書いたやつ、僕許さないもん!本気出したら殺せるもん!」

「……あ、うん。そ、そうだな。お前は殺傷能力のあるルーンを使えるからな。だけど、悪口じゃなかったよ。お前のことを、生き物全員の希望だって書いてた」

「……なんで?」

 嘘つけと言うような目つきだった。

「今影の悪魔(シャドウデーモン)に確認に行かせたんだが、同じものが大神殿の書庫にあったらしくてな。借りて来てくれたぞ。読んでやるから、おいで?」

 おいでおいでと手招きされると、ナインズは泣いて腫れた目のままアインズの下へ行った。

 フラミーもアルメリアを抱っこし直して寝室を後にする。

 アインズがソファに座ると、アルベドがその本を差し出した。

 人の体を呼び出し、魔法のモノクルを眼窩に挟むと、アインズはコホン、と咳払いをした。

「まず、題名はナインズ殿下から学ぶ不完全という完全――だ。わかるか?」

「わかんない」

 やっぱり悪口だ。

 ナインズはアインズの隣に座り、手の中の本をじっと睨みつけた。

「まぁ、ややこしいタイトルだもんな。えー…――始まり。ナインズ殿下は神々と違い、決して完全な存在ではないと云う。それは生き物達の不完全性をお許しになる具現だ。光神陛下は間違いを起こさないが、生き物を完璧な存在となるようにお作りになることはない。一見矛盾して聞こえる話だが、不完全であるという事が罪ではないと、ナインズ殿下という存在が我々に教えてくれている。守護神様達が完璧な状態で生み出される一方、ナインズ殿下はそうではなかった。完全な存在になるように目指し、研鑽を積む事こそが、命を磨くと云うことなのだ。いつかナインズ殿下も完全なる存在におなりになるだろう。その時にこそ、私たちという不完全な存在が、どのようにでも成長し、完全なる存在になれるという証明になるのだ。不完全は完全の前途でしかない。つまり、不完全は完全であるとも言える。神々は決して、我々に乗り越えられない試練をお与えにはならない。ナインズ殿下は全ての生き物の希望だ。この本は全章に亘って神と神の子の完全性、そして不完全性について事細かに紐解いていく。――と、前書きはこんな感じだ。わかるか?」

 ナインズはもごもごと言われた言葉を反芻した。

「――悪口じゃない?」

「あぁ。悪口じゃないぞ。ナインズが生まれて来てくれて良かったな〜って話だ」

 念のためデミウルゴスを見上げる。

「悪口ではありません。ですが、下等せ――失礼いたしました。人間の分際でナインズ様を推し計ろうというのは不敬かもしれません」

 続いてアルベドを見上げる。

「御身が色々なことを学ばれて、少しづつ大人になって行くことを喜んでいるのです。どんどん素晴らしい存在になっているということが、国民達にもわかるのでしょう」

 最後にフラミーを見上げた。

「ナイ君はたくさんの人に望まれて生まれて来たんだよ」

「……僕、すごい?」

「すごい!」

「僕って、もしかしてとっても愛されてる?」

「愛されてる!」

 ナインズはへへへ、と笑うとアインズの隣から立ち上がった。

「その本、来月のお小遣いで買う!」

「買ってやっても良いぞ?内容は置いておいて、本は勉強になるからな。今日一冊本を買ったそうだが、その分の小遣いをまたやろう。皆とパンや果物を買ったりするかもしれないだろ?」

「後三千五百ウールあるから平気!皆でパンくらい買えるし、皆週に五百ウールくらいしかお金もらってないんだってぇ」

「そ、そうだったか。いや、分かっていたぞ?分かっていたが、お前には必要だと思っていただけだ。ここには外の本や外の物は非常に少ないからな。小遣いはまた欲しくなったら言うんだぞ。来月になる前に私の財布から出してやるからな」

「来月買えるまでは、大神殿の書庫で読むから平気!」

「それもそうだな。じゃあ、明日これを最高神官長か闇の神官長に返しておいてくれ」

 アインズは本をパタリと閉じると、ナインズに抱かせた。

「へへ、僕のこと褒めてるご本!」

「あぁ、褒めてるご本だ。お前は私より、余程すごい男になるよ。私にはわかる」

「頑張ります!」

 ナインズが言うと、その腹はグゥ〜と空腹を訴えた。

「――さ、ご飯にしようね!アルベドさんとデミウルゴスさんも良かったら今日は一緒に食べて行って下さい」

「ありがとうございます。ご一緒させていただきます」

「はい!ご相伴(しょうばん)に預からせていただきます!」

 その返事と共に、廊下からは今夜の食事がメイド達によって運び込まれて来た。

 週に半分はNPCの作る食事を取らなければ、料理長以下料理に携わるNPCが泣く。

 メイド達は執務室の隣にあるダイニングルームへ続く扉を開けた。

 守護者が座るための椅子を二つ出し、皆席に着いた。

 ナインズは、その日の食事を不思議といつもよりおいしく感じた気がした。




殺しても良いよって言ってもらえて、ナインズ君は良い子でいなきゃいけないって言う責任感と思い込みから少し逃れることができたかな〜〜

次回Lesson#6 ルーン魔術とミノタウロス
いつも通り明後日です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。