「じゃあ、お世話になりました」
ナインズが頭を下げると、エルミナス以外の友人達が頭を下げる。
仕事に行ってしまったエルの父親以外の、屋敷にいる全ての人が見送りに出てきてくれていた。
「ナ――キュータ様、エルミナスをまたよろしくお願いいたします」
エルの母は地面に膝と頭を付けて深くお辞儀した。
「僕の方こそ。エル、またよろしくね」
「ありがとう。よろしくね」
二人が握手を交わすと、エルの母は感激したように笑った。その目からは今にも涙が溢れてしまいそうなほどだ。
「じゃあ、母上。私は夕方には帰ってきます」
「分かったわ。気をつけてお見送りしてきてね」
まだ時刻は昼過ぎ。
これから城に行って、そのままナインズ達は神都に帰るので荷物を全てまとめている。
エルはこのまま夏休みの終わりまで最古の森で過ごすので、城の見学を終えたら実家に帰ってくる。
「殿下、また絶対いらして下さいね!!」
アリマトからの熱い視線に、ナインズは頷いた。
「うん、ありがとう。エルの事お願いします」
「もちろんです!」
イヴォニンももちろんだと声を上げる。
「殿下もご友人方も、お気を付けて。またお会いできる日を楽しみにしています」
キルエルと握手を交わし、ラウドミアも全員と握手した。
「一郎太君、次は君の弟も連れて来てよ。私は君達から学ばなければいけない事がありそうだから」
「へへ、二の丸も喜ぶよ。ラウドミアも元気でな!弟大事にしろよ!」
「うん……本当だね。本当の意味で、大切にできるようになる為に頑張るよ」
「お前ならできるよ!じゃあな!」
一郎太とラウドミアの手が離れると、ナインズは鞄を持った。
「皆さんさようなら。また冬に遊びに来させて下さい!」
「お待ちしております。いつでも是非」
皆、さよーならーと手を触り合ってエルミナスの屋敷を後にした。
来た時と同じように
帰りはナインズはロランと二人で座った。
「ロラン、自由研究完成した?」
「ほとんど完成したよ!昨日の夜遅くまでやったしね。後はお城のことを書いたら出来上がりなんだぁ」
「すごいね!僕は帰ったらメモをお花を貼ったノートに書き写さなくっちゃなぁ」
採れた場所や匂い、エルの教えてくれた追加情報は全部メモ帳に書いてある。ナインズの最古の森の花図鑑はまだもう少し完成しそうにない。
「時間足りなかったもんねぇ。次はもっと長くいられると良いよね。あ、でもキュータ君はあんまり長くいられないかな?」
「ううん。平気だと思う!次は一週間とかいたいなぁ」
「良いねぇ!それだけ長くいたら、僕は最古の森から家に手紙出そうかなぁ」
「あ、いいなぁ。僕も手紙出したいけど……ナザリックってどこにあるんだろう?」
なんと息子は自宅の場所を知らなかった。
アルメリアと地表部から外に出て花を摘んだり、兎を追いかけたりして遊んだ事もあるが、少なくとも郵便屋さんや
「お空にあるんじゃないの?」
「ううん。地面の中にあると思う。第三階層までは廊下みたいになってて、第四階層は地底湖だから」
「わぁ!!神の地の話って初めて聞く!!それでそれで!!」
「んーと、第五階層は雪の降る世界で、第六階層は森とか原っぱとかがある世界で――」
「オレが住んでんだぜ!」
先頭で窓に張り付いていた一郎太はいつの間にかエルが一人で座っていたナインズの前の席に膝をついて、背もたれから見下ろしていた。
「そうそう!第六階層、良かったら今度皆遊びに来てね。第六階層までなら多分遊びに来られると思うから!」
話を聞いていた皆が身を乗り出してナインズを覗き込んだ。
「か、か、か、神の地に俺らのこと入れてくれんの!!」
「も、も、ももももしかして!!もしかして!!陛下方もいるんですか!?」
リュカもカインもあまりの興奮に唾が飛びそうだった。
「うん!お父さまとお母さまに聞いてみるね!」
うおおぉー!!と声変わりしていない雄叫びが馬車に響き渡る。
だが、一郎太がそれに水をさした。
「でも、アリー様が外の奴ら入れるなって言うんじゃないですか?」
「……それは言うかも」
「えぇ!?じ、じゃあ……やっぱりダメ?」
リュカは握っていた拳を下ろした。
「リアちゃんは気まぐれだから、ご機嫌な日なら良いかも!朝にリアちゃんの機嫌が良い日に誘うね」
何日と約束できないのが大変もどかしいが、皆憧れのナザリックに踏み入れられる可能性に瞳を輝かせた。
「うわぁ!楽しみだなぁ!殿下のご機嫌がいい日がありますように!!」
ロランが嬉しそうに足をプラプラさせると、エルは残念そうに笑った。
「私はここにいるから、難しいそうだなぁ……。良いなぁ、皆」
「あ、そっか。夏休み明けにする?それか、最古の森にお母さまに
ナインズがあっけらかんと言い放つと、エルは身を乗り出した。
「無理!!それは流石に無理だよ!!キュータ!!君にとってはお母様かも知れないけど、私にとっては神なんだよ!!」
「で、でもお母さまはよくクラリスやサラトニクを迎えに行ってくれるし――」
「クラリス様は州知事の子でしょ!!サラトニクさんはどなた!?」
「サラは――」
ナインズが説明しようとすると、カインが人差し指を立てた。
「サラトニク。サラトニク・ルーン・ファールーラー・エル=ニクス。エル=ニクス様の御子息だね。ファーロード――帝王の称号をまだ持たないお方」
「その子も州知事の子じゃないか!!キュータ!!私は単なる子供で、王族上がりとは訳が違うんだよ!!」
「え、エル。身分なんてないって――」
「そう言う問題じゃないよ!!身分制度がなくても生まれってものはあるの!!」
「そんなカインのお母さまみたいな。はは」
「ハハ、じゃない!!皆平等は平等だけど、特別な人はいるの!!」
「えぇ?矛盾してるよぉ」
「矛盾してない!!」
エルは珍しくぷんぷんと鼻を鳴らし、一郎太は愉快そうに笑い声を上げた。
「ハハハハ!面白ぇー!エル、お前本当面白いなー!」
「面白くない!!」
「これじゃ、夏休み開けじゃなきゃだめそーだな!」
子供達は笑ったが――同じ馬車に乗り合わせた
目的地に辿り着くと、エル以外は重たい鞄を引き摺るようにして
神殿は城とほぼ隣り合っている。
七人は城へまっすぐ向かった。
城へ続く巨大な階段を登って行くと、番をしている
「――失礼ながら、御尊名を伺っても宜しいでしょうか」
アルバイヘームからナインズが今日来ることをきちんと聞かされている故の低い物腰だった。
ナインズは仮面を外し、「ナインズ・ウール・ゴウンです。タリアト君に会いに来ました」と告げた。
「殿下、いらっしゃいませ。お荷物をお運びいたします」
「ううん。僕は平気です。そんなに重たくないから」
「い、いえ。そう言うわけにもいきませんので、どうか私達に運ばせてはいただけないでしょうか?」
食い下がってくると、ナインズは「仕事を任せてやる事も時には必要」と言うアインズの言葉を思い出し、鞄を差し出した。
「……じゃあ、お願いします。でも、重たかったら僕が代わります」
「ありがとうございます!」
番の
城の中には人を上の階へ乗せて行く籠があるので、それで楽に上がって行く。
多くの
いつもフラミーと来る時に出る部屋に案内されると、番達は荷物を置いて一度下がって行った。
「エルのお父さま、見なかったね?どこで働いてるんだろ?」
ナインズが手近なソファに座って言うと、一郎太はその隣に座った。そして、ナインズが外したまま手に持っていた嫉妬マスクを預かり、ズボンのお尻部分に挟み入れた。
「アラ様に聞いたら分かるんじゃないですか?」
「そうだね。後で挨拶に行こうね」
同意を求めるように友人達を見ると、五人は借りて来た猫のように大人しくしていた。
「……皆どしたの?座らないの?」
「あ、アラ様のお城で勝手に座れないよ」と、エル。
「森の王様のお城でリラックスなんてできないよー!」
ロランが声を上げ、ナインズは一郎太と目を見合わせた。
「大丈夫だよ。タリアト君は怖い人じゃないし」
「……キュータ、俺見た目大丈夫?」
リュカは両親に一番良い服を二つ持たされたし、初日に着てきたのも一番良い服だった。理由は殿下に情けない格好を見せないようにというものなので、おかしな格好なわけがない。
「平気だよ?そういえば制服じゃないリュカのこと今回初めて見たなぁ。そう言う格好も似合うね」
「ありがと――ってそうじゃない!」
わちゃわちゃとあれこれ言っていると、ノックが響いた。
「はーい、どうぞー」
入って来たのはアルバイヘームだった。
「殿下!」
「タリアト君!」
二人は取り敢えず友情の抱擁を交わした。
「ご昼食は取られましたか?」
「うん!エルのお家で食べた!」
「それは良かった!では、早速ご案内しましょう!」
「はーい!僕、この部屋といつものバルコニーのある広間みたいなところ以外に行くの初めて!――皆、行こ!」
ナインズに手招かれ、皆直々に案内してもらえるのかと思いながら部屋を出た。
「タリアト君、ここにシャルパンティエさんっている?エルのお父さまなんだけど」
「はて、どうでしょう。随分人数がいるので、私も全員は把握していません。少し調べさせましょうか」
「うん!エルにお父さまの働いてるところ見せてあげたい!」
「かしこまりました。――<
アルバイヘームはよく見慣れたポーズでどこかと連絡を取り合った。
「調べるように言いました。すぐに返事が来るでしょう」
「タリアト君、ありがとうございます!」
「いえいえ。これしき」
二人で先頭を歩いていると、一郎太がアルバイヘームを見上げた。
「タリアトさんって、女?男?」
「ん?ふふ、私は男だよ」
「じゃあ、偉いからお嫁さんいるんですか?」
「……いないね。残念ながら」
「へー!カイン、偉くてもお嫁さんいない人もいるみたいだぜ」
アルバイヘームは苦笑いしていた。
「一郎太君、なんで突然お嫁さんなんだい?」
「昨日、ナイ様がクラスの誰をお嫁さんにするかって話になって、ナイ様はお嫁さんいらないって言うから!でも、カインは身分のある人は結婚しなきゃいけないって言ってたんです」
「それは一理あるね。私もいつか素敵なお嫁さんを貰って、立派な子供を持ちたいと思っているよ」
「へー!じゃあ、カインが言ってたことは本当なんですね!」
カインはえへんと胸を張り、腰に手を当てた。
その隣で、リュカが疑問を口にする。
「じゃあアラ様は好きな人ができるの待ってるんですか?」
「そうとも言えるけど、違うとも言えるね。私は好きな人はもういるからね」
それを聞いて一番に反応したのはエルだ。
「で、ではアラ様はそろそろご結婚なさるのですか?」
「そうだったら良かったけど、その人には別に好きな人がいたんだよね」
「あ、し、失礼致しました」
「良いよ。恋というものはああ言うものかと知るまで、妻を娶る事はこの最古の森を守るための手段でしかないと思っていたけど……今は手段としての結婚はあまり考えられないね。まだ失恋中と言ったところかな」
「よほど素敵なお方だったのですね……」
「最古の森全土が恋に落ちるほどの人だったよ」
「でも、いつかは御子をお持ちになろうとお思いなんですよね?」
「そうだね。それが百年後になってしまうか二百年後になってしまうかは解らないけれど、そう思っているよ。彼女より素敵で力もあって、美しい人なんて二度と会えないと言うのが皮肉だね」
ナインズは分かったような顔をして頷いた。
「恋って、辛いものなんだねぇ」
「ふふ、そうだね。でも、殿下といると紛れますよ」
「本当?嬉しいなぁ!」
その瞳に映るだけでアルバイヘームは幸福だった。
ナインズの向こうにフラミーを見ていると、線が繋がってくる感覚に人差し指でこめかみに触れた。
「――そうか。わかった」
手短に
「シャルパンティエの働く場所が分かったよ。行こう」
円陣でも組むようにナインズが手を重ね、その上に一郎太も手を重ねる。
「皆、手当ててね」
ナインズに触れる事も、アルバイヘームに触れる事も憚られ、皆一郎太に触れた。
「――<
視界が切り替わると同時に子供達は生まれて初めての転移に歓声を上げた。
――辿り着いた場所の大人達は目を丸くしていた。
「やぁ、シャルパンティエはいるかな」
「こ、これは――アラ様!殿下とエルミナスも!!」
エルの父が転ぶように机から立ち上がり、駆けてくる。
「エル君が君の働いているところを見たいそうだから連れて来たよ」
「あ、あ、ありがとうございます」
「君は偉いね。率先して人間との関係を良いものにしようとしているのがよくわかる。そうでなければ、エル君は殿下を連れて家には帰って来たりしないだろう。エル君が確かに君に恩義を感じ、虐げられていないと思えばこそできる行動だ」
「い、いえ……殿下には足りぬとお叱りを受けたばかりで……」
「ふふ、それは私もそうさ。皆で協力して何とかして行くしかない。さて、働きに戻って構わないよ」
「お、恐れ入ります。わざわざ愚息の願いをお聞き届けいただきありがとうございました。殿下も、また会う日までお元気で」
「はい!また冬に遊びに行かせてください!」
「いつでも歓迎いたします」
さて、次に行こう――と皆が踵を返そうとすると、ナインズはエルの肩を叩いた。
「エルはもう少しここにいたら?お父さまのお仕事、もう見られないかもしれないよ?」
「あ、殿下……。ですが、私はそう父の事は知らないので……」
大して知らないのであまり興味もない。母は父とエルミナスの関係が終わってしまわないように父の下で働いてくれているし――冷たい言い方だが生きるために必要な人だとは思っている。
エルミナスも、いつかは母との別れが来ると理解している。その時の後ろ盾を失ってはいけないのだと、イオリエルが両親を亡くした話を聞いた時に強く思った。
だが、どれだけ父から優しくされたとしても、エルミナスの中には「奇妙だ」と言う感想ばかりが生まれてしまっている。
「――エル、知らないなら知らなきゃいけないよ」
ナインズがまっすぐ見つめると、エルは少し目を泳がせた。
「……で、でも……私が父のことを知っても……」
「お父さまのことをエルがよく知らないなら、お父さまだってエルのことをよく知らないんだと思う。でも、知らないことって怖いことじゃないんだよ。僕のお母さまはね、この世のことが全部解っちゃったら、つまんないよってよく言ってる。知らないことは楽しいことなんだよ。たくさん誰かのことを知れるのは幸せなことでしょ?」
エルミナスはなんと答えるべきか分からなかった。
その時、アルバイヘームがエルミナスの頭を撫でた。
「何かを知る時は、気に入りの本のページをめくるみたいにワクワクするものさ」
「アラ様……」
「あ、これは受け売りだよ。ねぇ、殿下」
「はは!そうだね!」
フラミーを知る二人が笑い合うと、エルミナスはこの夏の自由研究の題材を決めた。
「では……私はここで、少し父のことを見させていただきます。父のことを知ってみようと思います。皆は好きな場所を見に行ってください」
アルバイヘームは頷き、全員に通達する。
「――君達、シャルパンティエの息子がここでしばらく見学する。よろしく頼む」
了承の意を示す声が返る。
ナインズ達はその部屋を後にした。
城のあちらこちらを見ながら、ロランは自由研究の為に一生懸命城のことを書き連ね、リュカはアルバイヘームが使える魔法の多さにひっくり返り、カインは間近で見る王だった存在に目を輝かせ、チェーザレは口を開けて城の中を見渡しては「この棟だけでもカイン様のお屋敷より大きい」と言って小突かれた。
貴重な時間を過ごし、子供が見て面白いような場所を粗方回ると、アルバイヘームは子供達に振り返った。
「皆、最後に皆に見せたい場所があるんだけど、良いかな。面白くないかもしれないけど」
子供達は勿論だと声を揃え、皆でエルを迎えに行った。
エルの父が働く場所に戻ると、エルは父や父の同僚に囲まれて――どこか緊張したような雰囲気もありながら――幸せそうに笑っていた。
その時間を崩すのは気が引け、エルの事は誘わずに一行はアルバイヘームが最後に見せたいと言った場所へ向かった。
辿り着いた場所は、城の隣に建つ塔だった。塔の中心には一本の巨木があり、塔を支える柱として機能している。
ロランは自由研究のためにそれもせっせと描いた。
上へ上へと登り、皆が肩で息をするほどに上まで登ると、ようやく頂上にたどり着いた。
頂上はワンフロアで、たくさんの花が置かれていて美しい場所だった。
それに――「わぁー!綺麗な景色!」
ナインズは駆け出し、最古の森を見下ろした。皆もそれに続く。
「すごく良いところだね!」
「そうでしょう。こちらには、最古の森の英雄が眠っているんです」
「英雄?」
こてりと首を傾げる。
子供達は皆英雄譚が大好きだ。どんな話を聞けるのかと、ワクワクしながら待った。
ちなみに、ナインズはモモンと言う英雄の話が大好き。ナザリックのメイドが一番聞かせてくれる英雄譚だったし、会った事はないがモモンはナザリックにいるらしい。
「――英雄です。この最古の森を命を賭けて守った男がいました。シャグラ・べへリスカと言う名で、私は毎日必ず日が昇る前にここに来ます。そして共に美しき最古の森の夜明けをみるんです」
「へぇー!すごい人だったんだね!」
「自らの命を惜しみもせず、知らぬうちに犯した罪を――いや、犯させられた罪を被って死にました」
その話は子供達の聞きたい英雄譚とは違った。
リュカがそれをストレートに口にする。
「悪もんやっつけれなかったんですか?英雄なのに」
「あぁ、そうだね。悪者は神が裁いてくれたからね」
「さっすが陛下方ー!」
「だけど、悪者を遥かに凌ぐ脅威から彼はこの森を守ってくれた……。皆、どうかこの名を忘れないでほしい」
アルバイヘームは隅に置かれる墓石の前にしゃがむと、<
「――アラ様?」
ふと、後ろから聞こえた子供の声に皆がそちらを見る。
「――ジェンナ。来ていたんだね……」
「アラ様も……このようなお時間に。そちらは?」
「……ナインズ・ウール・ゴウン殿下と、そのご学友だよ」
「で、殿下……」
ジェンナと呼ばれた少年はナインズよりもいくつも年上のようだった。
ただ、大人や青年と呼ぶには幼なすぎる。
その胸にはいっぱいの花が抱き抱えられていた。
「ジェンナさん、はじめまして」
「……はじめまして。父の墓に来て下さったのですね」
「父の――じゃあ、君は英雄のシャグラ・べヘリスカの息子?」
ジェンナは静かに頷いた。
「私達をお許しいただいた事、深く感謝しております……。まさか、こうして裁かれた父の墓に殿下がいらして下さるなんて……夢のようです……」
ナインズの脳裏に電撃が走った。
裁かれた悪者。悪者を遥かに凌ぐ脅威。裁かれた英雄。
ここに眠る者が誰なのかナインズはハッキリと理解した。
ナザリックに居れば、望まずとも耳に入る数々の情報が噛み合って行く。
――シャグラ・べヘリスカは人間に騙され、聖ローブル州で罪のない多くの人々を手に掛け、最後は全てを償うためにアインズによって命を奪われた人。
ナインズはジェンナへ駆け、その体をぶつかるように抱き締めた。
「ご、ごめん……本当にごめん……。ごめんなさい……ごめんなさい……」
「殿下……そんな、何故殿下がお謝りになるのですか……」
「君のお父さまが……僕のお父さまのせいで……僕、僕は……僕は……」
「父一人の命で全てを許していただいたのです。父は陛下方に手を挙げ、神聖魔導国の街を破壊しました……。だと言うのに……父の死に顔はとても安らかで……慈悲深き処遇には心から感謝しております……」
「……そんな……そんな…………」
抱きつき、震えるナインズにジェンナは笑った。ジェンナの方が大きい。例えるなら、十二歳と六歳だ。
ジェンナはナインズの背を優しく撫でた。
「殿下がお優しい方で良かったです。ありがとうございます。父もきっと喜びます」
父を殺した男の息子。
それが何も知らずに父の墓に来ているなんて、ナインズだったら耐えられない。
ナインズは生まれて初めて父のやることに疑問を抱くと同時に、恐ろしさを感じた。
「どうか、どうか僕を許してください……。僕は……君になんて謝れば良いか……。本当にごめんなさい……」
「とんでもありません。先ほど申し上げたように、感謝申し上げております。そして、今日こうしてお会いできた事にも感謝しております。私のような者と口をきいて頂けるなんて……身に余る光栄でした」
そんなはずがない。
ナインズはジェンナから離れ、涙の溜まる瞳で見上げた。
「ジェンナさん……僕……」
「はは、泣かないで下さい。父の事はアラ様がこの国で一番美しい場所に眠らせてくれました。良かったら、この花を一つ父に手向けてやって下さい」
保存魔法が掛けられている様子の花は瑞々しく、今切られたばかりのようだった。
「……僕にはそんな資格は……」
「私がそうして頂きたいのです。どうか、わがままをお聞き届け下さい」
ナインズは震えそうになる手で花を受け取った。
一郎太や友人達も一輪づつ受け取る。
花畑のようになっている塔の頂上で、ジェンナはそっと花束を父の墓の前に置いた。
「父上。今日、ナインズ・ウール・ゴウン殿下が見えました。殿下はお優しくて、私の痛みに涙して下さる方です。私は今の最古の森が好きです。アラ様も、雨を降らせて下さる光神陛下も、世界に秩序をもたらす神王陛下も、皆大好きです。方法は間違えてしまったかもしれませんが……父上の作った新しい時代は何物にも変え難い素晴らしいものです」
一郎太が声を殺して泣く。一郎太が思い出したのは――自分の父が命を絶ったと言う、ミノスの母のことだ。ミノスは子供ではない。だが、一郎太もミノスと、ミノスの母の事を初めて聞いたとき、この世に食べる以外に必要な殺生なんてあるのかと暫く悩んだ。
――その答えは、未だ出ない。
一郎太はナインズの背に、あの日の自分の苦悩を見たようだった。
「……シャグラ・ベヘリスカさん……。本当にすみませんでした……。僕はもっと早く来なきゃいけなかった……。知らなきゃいけなかった……。ごめんなさい……。どうか、安らかに……お休みください……」
花を一輪墓石の前に置いたナインズはその場で跪いて泣いた。
アルバイヘームは一つ涙を落とし、それと同時に、たまたまジェンナが来てしまうという残酷な運命に目を閉じた。
――もっと違う出会い方をしたかったですね。
脳に焼きついたあの日のフラミーの声が聞こえるようだった。
ナインズを避けるように、皆花を手向けると、アルバイヘームは一度感傷に蓋をした。
「……さぁ、殿下。そろそろお帰りになる時間です。エル君を迎えにいきましょう」
「……タリアト君、ジェンナさんを……どうか……」
「ジェンナは城に登用すると約束しています。必ず、シャグラ・ベヘリスカの子に幸せを与えると誓います」
「タリアト君……ありがとうございます……」
立ち上がったナインズはアルバイヘームに両手を伸ばし、アルバイヘームはそれに応えるようにナインズを抱きしめた。
「ナインズ殿下……。私達は許されざる罪に手を染めました……。それをお許しくださる全てに感謝を……。いつか神王陛下と光神陛下の下に世界が統治される時……私達のような不幸な者は生まれなくなると、私は信じております……」
「それが成される前に……多くの人が泣かなきゃいけない世界なんて……」
「生きる者に痛みは付き物……。時に泣いたとしても、いつか笑える世界が来ると思えばこそ痛みにも耐えられます……。その世界に君臨するのは、きっとあなたです」
「僕、何もできないよぉ。ごめんなさい、ごめんなさぁい」
ナインズの泣く声に、カインは酷く動揺した。
何かを持つ者の責任と言うものの想像を絶する重さに、掛ける言葉を持たない。
子供達は静かに先に塔を降りて行った。
しばらくすると、照れ臭そうに笑うナインズが降りて来て、子供達は何も見なかったようにナインズを迎えた。
その後、エルは皆を見送り、父と家に帰ったそうだ。
ナインズはこの夏、ナザリック中が心配するほどに多くを学び、体を鍛えたらしい。
この日感じた疑問と恐怖は、後に大人になったナインズとアインズの大喧嘩を引き起こすが、それはまだまだ先のお話。
うううーーーーん!!!
ろくちゃいにはハードだよ!!!
シャグラ君、もう生き返らせてやったってよ!!!
パンサー君も生き返らせてほしい!!!(まだ言ってる
次回はとりあえずかけてないですだよ!