「キュータ、昨日どうだったの?」
昼休み、応接室でエルミナスに問われる。ナインズは仮面の向こうで笑った。
「結構良かったみたい。今日も行く気になってくれたから」
「じゃあ成功だね。サロンで友達ができて学校も来る気になってくれるといいね」
「本当にね。でも、まだ友達ができるって言う感じではないかなぁ」
そうこう言いながらナインズが仮面を外して一郎太に渡すと、エルミナスは背筋を伸ばした。
隣にだらしなく座るリュカよりも背筋を伸ばしたエルミナスの方が小さい。
エルミナスとイオリエルは一年生の頃の身長とほとんど変わらないままなので、あんなにお兄さんに見えていたと言うのに、ある時から弟のように見えるほどになって来てしまった。
ナインズの隣にぴたりと座るオリビアは、二人が何の話をしているのか分からずに首を傾げた。
「キュータ君、サロンって?」
「ほら、昨日言ったでしょ。サラのサロンに行くから先に帰るって。えーと、なんて言ったっけな。うーんと……」
一郎太が横から「知的交流会」と言うとナインズはそうそう、と頷いた。
「知的交流会。皆で本読んだりするみたい。友達と本読むのって楽しいよね」
それを聞くと、オリビアの隣にいたアナ=マリアが顔を覗かせる。
「………キュータ君、私とまた知的交流会、する?」
「あ、それならさ。アナ=マリア。今日僕と一緒にサラのサロンに行かない?」
「………良いの?」
「うん、来て欲しい。ある子に愚かな人ばっかりじゃないって教えてあげたいから」
「………嬉しい」
アナ=マリアがポッと頬を染め、オリビアが「私も!!」と大きな声を出すとロランとリュカが苦笑を交わす。
ナインズは「オリビアは絶対来るって分かってたよ」と迫るようなオリビアの髪を撫で、オリビアは上機嫌そうに頷いた。
「ね、キュータ君。僕らも行っていい?」
「もちろん。ロランも本とか好きだもんね。でも、僕らってリュカも行く?」
「んー、俺は良いかな。そういうの苦手だし。オーレとトマとキャッチボールしに行くよ」
「そうだよね。あ、カイン。昨日カインの弟見たよ。カインそっくりだった!」
「ふふ。クロードはもうサラトニク様にメロメロですからね」
「如何にもカイン様の弟君らしいです!」
「チェーザレ!怒るぞ!」
皆楽しげに笑うと、昼の用意をした神官達が配膳を進め始めてくれる。
神官の中には馴染みのお父さんも。
「レオネ、レオネも一緒に行きなよぉ。そのサ、ロ、ン」
レオネパパは相変わらずだ。ナインズがリラックスできると言う理由で大神殿から派遣されて来ている。
「誘っていただいてもいないのに行くなんて言ったら失礼じゃありませんこと!お父様は静かになさっていてくださいませ」
「あたしも誘われてない。オリビアとアナ=マリアばっかり」
レオネと共にぷくりと頬を膨らませるイシューは一年生の頃より多少男っぽさが抜けていた。今でももちろん男勝りで、大好きな飴をしょっちゅう舐めているが。
「そしたらレオネとイシューも行こうよ。でも、多分うるさくすると執事の人に怒られるよ」
「キュータさん、わたくしそんなに煩くありませんわ!」
ナインズはレオネパパに出してもらった昼食に口を付けると笑った。
「レオネはちょっとうるさいよ」
レオネパパの背中にはガーンという文字が浮かび、粉々になって消えた。
「だからさー、キュータ。あたしはレオネほどうるさくないだろー」
「ははは。そうだね。イシューの方が静かかも。でもレオネがうるさいのは良いことだよ。レオネの声聞いてると元気出るもん。」
「もう!一体何ですのー!!」
「レオネ、
「イオ!私は好きで煩くしてるんじゃありませんことよ!」
「やれやれ。少しは
首を振るイオリエルはこの中で一番年上だが、一番小さい。
だが、イオリエルは今の状況にとても感謝している。小さいと言うのは得する事が多い。
昼食をサッと取ってしまうと、イオリエルはくすくす笑いながら食事を取るナインズのそばに行った。
「なぁ、キュータ様。此方、甘いのもう少し食べたいんじゃが」
「――ん?僕のもう少し食べる?」
「良いのか!」
「良いよ。たくさん食べて大きくなるんだよ」
頭をぽふぽふと撫で、ナインズは食べかけのゼリーをすくった。
イオリエルは子供の顔をして口を開けた。
「あーん!」
「はい、あーん」
女子達は絶望的な顔をし、イオリエルはもらったゼリーを頬張って幸せそうに笑った。放課後は基本的に紫黒聖典寮で忙しく過ごすので、学校にいる間しかナインズと関われない。
ナインズは父と母を失ったイオリエルに甘いところに加え、妹のような顔をされるとそれに乗ってしまう。
「イオちゃん!もうイオちゃんは四十七歳でしょ!!」
「じゃが、
「キュータ君!!」
「お、オリビアも食べたいなら言ってよ……」
器ごと差し出されてしまうと、オリビアは頬を膨らませた。
「やだ!あーんじゃないとやだ!」
「えぇ……?オリビアは子供じゃないでしょ」
「子供だもん!!まだ八歳だもん!!」
「僕と一緒じゃない」
「そーだそーだ。それならオレなんて七歳だぞ」
一番体が大きい一郎太が言うとナインズはゼリーを一口掬った。
「一太、食べさせてあげようか!」
「え?オレは良いですよ。ナイ様の分取れないもん」
「はは、僕はイシューに飴もらうから良いよ。一太は弟だもんね」
一郎太はナインズの向こうに座るオリビアからの激しい圧力に角の根本を掻いた。
譲って欲しいと瞳に書いてあるが、譲るなら結局ナインズのゼリーは減る。
なので――「じゃあもらお」
ぱくん、と食べた一口はとても大きく、スプーンを持つナインズの手ギリギリまで口に入ってしまった。ポッキーゲームならチューしているくらいだ。
「おいしい?」
「うん、普通です。オレが食べたのと同じ味」
当たり前の感想だ。
ナインズはおかしそうに笑った。
「ははは!それはそうだね!ははは!」
そして、ヒョイっと飴がイシューから投げられて来るとナインズはそれを受け取って口に入れた。
三十レベルともなると、魔法職を多く取っていても殆どの物がよく見える。
「イシュー、ありがとー」
「へへ」
ただ、棒付きの飴を食べたままだと仮面を被れないので舐め終わるまでここを出られない。
食器を神官達が下げていってくれると、ナインズは軽く頭を下げた。
皆わいわいと変わらずにお喋りをしていて、ナインズはこの光景に深い喜びを感じた。
友達は良いものだと口酸っぱくアインズに言われてきたが、まさしくその通りだ。
(……エゴでも良い。リアちゃんにも仲間ができるようにしてあげたい)
アルメリアが登校拒否だと言うのは男の子達しか知らない。
男の子たちは一年生の夏と、二年生の夏の二度第六階層に泊まりに来ていて、アルメリアの極寒の視線を食らっているので、アルメリアの外嫌いを理解している。
他の子達はナインズ同様アルメリアが身分を伏せているのか、または忙しくて来ていないと思っている状況だ。
赤毛のミノタウロス――二郎丸と言う分かりやすいアイコンを皆何度か見かけていて、いつもクリスと二人でいるので、最初の頃はクリスがアルメリアなんじゃないかと言われていた。
だが、セバスの娘と言うレッテルも豪華なので、その勘違いはすぐさま解消された。
ナインズは後でサラトニクに
学校が終わると、サラトニクが友人達を「今日もサロンに来ないか」と誘っていた。
いつも前日までにサロンの招待状をくれるので初めてのことだ。今日のサラトニクはとても上機嫌。いつもニコニコしているが、いつにも増してご機嫌だ。
マァルは昨日渡せなかった手紙をまだ制服のローブのポケットに入れたままにしている。
ユリヤが聖歌の鼻歌を歌いながら鞄を背負う横で、マァルはサラトニクの側へ行った。
女の子達が「いきたぁーい!」と声を上げる中に、遠慮がちに参加する。
「い、いきたい」
サラトニクは女の子達に頷いた。
「もちろん、皆来てね。是非サロンに来る知らない子とも仲良くして欲しいんだぁ」
それはあの子のことだろうか。
女の子達がキャー!と喜ぶ声を上げるが、マァルはあの女の子のことで頭がいっぱいになった。
可愛いのに、自分勝手。
サロンに来てるのに自分が知ってる事を人に教えてくれないケチンボ。
「――じゃあ、私は先に行くね!皆好きな時にサロンに来て!あ、制服でね!」
サラトニクは準備があるとでも言うように部屋を駆け出して行った。
その後にクロードと、クロードのお付きのエリオが付いて行く。
そう言えば、普通の貴族上がりの子達は大抵従者を連れているが、サラトニクは屋敷にこそ執事やメイドを置いているのに学校にはそう言う存在を連れて来ていない。
あれほど高貴な身なのに何故なのだろうと思っていると、ユリヤが鞄を差し出してくれた。
「行こぉ。エル=ニクス君のサロン!」
「うん!ありがと」
あまり早く行きすぎると、準備中かもしれない。
二人は時間を潰す為に大神殿の前庭で遊んでから行くことにした。
今日は手土産を持っていないが、花を摘んで行くのだ。花壇の花を勝手に取るのは良くないので、遊歩道に自生する花をいくつか摘んでいく。
小さな花束を二つ作ると、二人は手を繋いでサラトニクの屋敷に向かった。
「どっちの方が綺麗だと思う?」
マァルが見せたのは――向日葵のようなタンポポ、ふわふわのタンポポの綿毛、紫色の小さなスミレ、ラッパのような形をしたヘクソカズラなど様々な色の花束。
「えへへ、マァルのも綺麗だねぇ!」
ユリヤが見せたのは――真っ白な白詰草一色の花束。
ユリヤの方は少し寂しい印象だが、どちらも美しかった。
やっぱり、草よりも花は綺麗だ。
「引き分けだね!」
「本当だねぇ」
野花を握ってサラトニクの屋敷の敷地に入ると、メイドのおばさんが二人を案内してくれた。
「もういっぱい来てますか?」
聞くと、おばさんは頷いた。
「えぇ、何人かもういらしてますわよ」
ちょうど良い時間に来られて良かった。
そう思いながら、玄関へ向かっていると――ふと庭の方にサラトニクを見付けた。
「あ!サラ――」
呼ぼうとしたが、マァルは言葉を切った。
サラトニクが一人でいるのだと思っていたのに、隣には眼鏡をかけたあの女の子がいた。
サラトニクはとても幸せそうにその子と何かを話していて、マァルは眉を顰めた。
側には庭師と蝶を指差す子供達がいて、その中にはクリスと二郎丸もいるのに、女の子とサラトニクは離れたところで過ごしている。
すると、ユリヤが「エル=ニク――」と大きな声を出し掛け、後ろから二つ花をひょいと取られた。
二人はまたあの嫌いなジェニかと振り返った。
「ちょっとぉ!」「返してよ!」
二人で振り返ると、花を両手に持っているのは――恐ろしい仮面をした男の子だった。
慌てて二人は口を塞いだ。
「お花、あんまり握ってるから萎れ始めてるよ。一太、持って」
そう言い、隣にいたミノタウロスに二つ花束を持たせると、彼はローブから授業用の
まるで先生が使う
「二人とも、手を出して」
マァルとユリヤは恐る恐る両手を出した。
「――<
二人の手の上にはふわりと白い綺麗な紙が生み出された。
今日授業でゼロ位階の製紙魔法をやったばかりだ。二人は目を輝かせて――ナインズ殿下を見上げた。
「で、殿下!ありがとうございます!」
「これで包んであげますぅ!」
ナインズは首を振ると、今度は鉛筆を取り出した。
そして、紙が乗るマァルの手をそっと取ってくれた。
「わ、わ、わぁ」
温かく、滑らかな肌にマァルの心臓は高鳴った。こんな簡単な事で二人目の好きな人ができてしまった。
「くすぐったいけど我慢してね」
そう言うと、不思議な文字を紙に書き始めた。
「――
黒い線で書かれたはずの線は光を放った。
「一太、そっち貸して」
「へーい」
くったりと首を垂れる花束を紙の上に置き、くるくると茎の部分を巻いていく。
巻かれた花はじっくりと頭を持ち上げ、萎れ始めていたと言うのに、また美しく咲いた。
「うわぁー!すごい!すごいです!」
「はは、すごくないよ」
笑い、ユリヤの手を取り同じ文字を書き、同じように花の茎を包んでくれた。
「――さぁ、これで良い。命は大切に。自分より弱ければ尚のこと、そっと優しくしてあげるんだよ」
「はぁい!」「はい!」
二人が良い返事を上げていると、ふと、マァルは庭の女の子と目が合った。
昨日話したので、一応手を振ってみようかとすると――女の子はどうでも良いとばかりに顔を背け、芽吹きはじめの木を眺めた。いつの間にかサラトニクはいなくなっていて、一人ぼっちになっていた。
「あの子って誰なんだろうねぇ?」
ユリヤが言うと、マァルは肩をすくめた。
「分かんない。どこかのクラスの子なんだろね」
「仲良くしてあげてね。あの子にも、そっと優しく」
ナインズが言うと、マァルは恐ろしい仮面を見上げた。
「殿下?」
何か、意味のありげな言葉だと思った。大人が言いにくい何かを言おうとするときのような雰囲気だ。
そうしていると、玄関から執事を連れたサラトニクが駆け出して来た。
「ナインズ兄様!一郎太兄様!いらっしゃいませ!」
「はは、サラ。良いのに」
「い、いえ!そう言うわけには。ご案内いたします」
「できれば僕よりも、ね」
含みを持った言い方だ。ナインズ殿下よりも優先するべき人などこの世に陛下以外にはいないはずなのに。
「で、ですがナインズ兄様……」
サラトニクも困ったようにすると、ナインズはサラトニクの頭を何度か撫で付けた。
「ありがとね。――あぁ、サラ。今日は僕の友達も連れて来たんだよ」
そう言って道を譲るようにすると、ナインズと一郎太の後ろにはたくさんの三年生がいて、皆「こんにちはー」とサラトニクに頭を下げた。
「ありがとうございます!皆様も中へどうぞ!マァル君とユリヤ君も」
サラトニクに先導され、いつものサロンへ向かう。
サロンの中には確かに何人かが勉強をしていて、良い時間に来られたようだ。
殿下と三年生達は本棚に向かって行くと、サラトニクはその背に頭を下げ「じゃあ、ご自由に――」と、マァルとユリヤに微笑んで外へ向かった。
二人は花束を持って来たのだ。
せっかく魔法で元気にしてもらったのだから、渡さなくては。
二人はサラトニクの背を追った。
サラトニクはまた庭師のいる輪ではないところへ向かって行く。
誰もいない方だ。渡すなら今!そう思い、二人は走った。
「エル=ニクスくーん!」
「サラトニク君!」
「――ん?どうしたの?二人とも」
サラトニクは足を止めて振り返ってくれた。
「これ、摘んできたの!お土産!」
「綺麗でしょぉ」
二人が差し出すと、サラトニクは笑顔で受け取ってくれた。
「わぁ、ありがとう。綺麗だね。嬉しい」
マァルとユリヤはキャァと声を上げた。
「ふふふ!ね、エル=ニクス君。マァルはねぇ。お手紙書いたんだよぉ!」
ユリヤが言うと、マァルの顔はカッと赤くなった。
「私に手紙?」
「そぉ!ねぇ、マァル」
「う、うん。書いたんだけど、ね。えへへ」
もじもじとポケットの中で手紙をいじっていると、サラトニクはマァルに手を伸ばした。
「ありがとう。読ませて」
マァルは畳んだ手紙をサラトニクにギュッと押し付けるようにすると、恥ずかしくなってユリヤの腕に抱きついた。
「――かわいいって言ってくれてありがと。サラトニクくんもかわいいよ。またあそぼうね」
サラトニクがそれを読むと、ますます恥ずかしくなる。
こんなに恥ずかしいなら大好きだとも書いておけば良かった。
「ありがとう。素敵な手紙。マァル君もまたサロンに来てね」
「う、うん!来るね!」
「良かったねぇ。マァルぅ」
ユリヤが言ってくれると、マァルは何度も頷いた。
ユリヤもサラトニクを好きなのに良いのだろうかと思うが、ユリヤはたくさん好きな人がいるので良いようだ。
「――サラ、ルーンが消える前に早く水に浸けてやるのですよ」
ふと、誰もいない場所から声がした。
マァルとユリヤは「あれ?」と首を傾げ、キョロキョロと辺りを見渡し――いつからまたそこにいたのか、少女が花壇に腰掛けていた。サラトニクのすぐ隣だ。なぜ今まで気付かなかったのだろう。
「そうですね。じゃあ、二人ともありがとう。お花を飾って来るね」
サラトニクは花と手紙を手にサロンへ戻って行った。
サラトニク君をサラと呼ぶなんて。マァルは羨ましくなった。
女の子は草から隣の草へ渡ろうと顔をいっぱいに持ち上げる緑色の芋虫を指に乗せた。
気持ち悪くて、マァルは心の中で「うわぁ」と呟いた。
その隣にユリヤがひょいと座る。ユリヤはおっとりしていて女の子らしいと言うのに、虫は意外にも平気だ。二年生にお兄さんがいるからかもしれない。
「こんにちはぁ。芋虫さん可愛いねぇ!」
女の子は芋虫の乗る指を見下ろし、頷いた。
「可愛らしいです」
「その芋虫さんねぇ、あの蝶々になるんだよぉ!」
指さした先にいるのはひらひらと飛んでいる白い小さな蝶だった。
「知っているのです。お前は蕾ですね」
蕾?とマァルは首を傾げた。それはもちろんユリヤも同様だ。
「蕾?私はユリヤって言うんだぁ。ユリヤ・マッテオ・マンテッリ。あなたはぁ?」
名前。そうだ、この子は何と言うのだろう。
マァルもユリヤの隣に座り、答えを待った。
「ハナ」
「ハナちゃんって言うんだぁ!私のクラスにねぇ、ハンナちゃんって子がいるんだぁ。ハナちゃんは何組なのぉ?」
ハナは渡ろうとしていた草の上に芋虫を返してやると、空を眺めた。
その視線の先に蝶がひらひらと飛んでいく。
そして、待てど暮らせど何組だと言う問いに答えは返らなかった。
「ハナちゃん、お庭屋さんのお話聞きに行こぉ」
「私はここに居るのです」
ぷぅ〜んとおかしな音を立ててミツバチがハナの側に飛んで来ると、マァルはそれを払った。
「あ、危ないよ。刺されるよ」
すると、ハナは立ち上がり、払っていたマァルの手首を掴んだ。
「やめろ」
また怒っていた。
「何で?危ないって言ってるのに」
「これは巣に近付いたり攻撃したりしなければ刺さないのです。もしこの子が傷付けば、この子はお前を刺します」
マァルは自分を守るために言ってくれたのかと笑った。やっとお友達になれそうな気がした。
「わかった!ありがと!」
「勘違いするな、人の子。お前を刺せば、この子は死ぬことになるのです。ミツバチは針とお腹の中が繋がってるから、刺すと死ぬのです」
「へぇ〜!知らなかったぁ」
ユリヤが嬉しそうに手を叩くが、マァルは悲しくなった。存在を無視されたようで悲しい。
「……ハナちゃんは人よりハチの方が大事なんだ」
「お前は命の何も理解してはいないのです」
「してるよ!」
「していない」
ハナはマァルのことを突き飛ばすように握っていた手首を離した。
「下がれ」
「やだ!ちゃんと教えてって昨日も言ったじゃん!」
「ハナちゃん、私も知りたいなぁ」
ユリヤが言うと、ハナは溜息を吐いた。
「蕾、お前のために話してやります」
「私、ユリヤだよぉ」
「良いですか、蕾」
ユリヤの訂正も聞かずにハナはユリヤを蕾と呼んだ。
「お前が摘んできた花は誰が咲かせたのか考えるのです」
ユリヤは首を傾げた。
「道に生えてた奴とって来たよぉ。花壇のはダメだってお母さんが言ってたからぁ」
「蕾、お前が今日摘んだ花は去年ミツバチや蝶が花粉を運んだから存在できたのです。この子達がそうしてくれなければ、この世には花壇の花しか存在しないのです」
マァルにも、ユリヤにも難しかった。
「お前達は花を美しいと言う。だが、花は土や虫が育てているのです。見ろ。ミツバチが踊る向こうに実がなる姿が見えるだろう」
指差すところにはぷんぷんとミツバチ達がお尻を振りながら飛んでいる。
「命とはそう言うことなのです。後は自分たちで考えるのです」
マァルとユリヤは目を見合わせ、そして同時に首を傾げた。ちんぷんかんぷんなのだ。
ミツバチが命を育てるという事は光神陛下のお使いという事だろうか。そんな話は一度も聞いたことがない。
考えていると、ハナは二人に手を伸ばした。
マァルが手を取ろうとすると、マァルとユリヤの間から出て来た手が先にハナの手を取った。
「サラ、さっき言っていたお前の花壇を見せて欲しいのです」
「はい。まだ皆小さい葉っぱですが」
サラトニクがハナの手を引く。
ハナは相変わらず一つも表情が変わっていなかった。
「良いのです。お前はハナのミツバチです」
「ありがとうございます。そうだ、カーディオに鉢を用意させます」
「サラの花をくれるです?」
「差し上げます。私の一番大事にして来た子を」
「サラ、礼を言います。ありがとぉ」
ハナは嬉しそうに笑った。初めてこの子が笑うところを見た。
その笑顔はまるで世界中を恋に落とそうとするような、小悪魔的な美しさがあった。咲いたばかりの花でも、これほど人の心を惹き付けるだろうか。どうしても目を離せない。
マァルとユリヤは見惚れてしまって、まだ冷たさが残る春の風が吹いた事に気が付きもしなかった。
手を繋ぐ二人が庭に消えていくと、寒さにぷるりと身を震わせた。
「サラ、お前のサロンには愚か者しかいないのですか?」
鉢を持ってきたカーディオを眺めながら、アルメリアが尋ねる。
「申し訳ありません。皆が愚かじゃなくなるようにサロンを開いているのですが」
「お前は本当にミツバチですね。でも、あれは咲くかも分かりませんよ?」
「丁寧に育ててやればいつか実をつけます」
「そうでしょうか……」
「はい。そうでなければ、光神陛下が生み出されるはずがないのですから」
「……それはそうです。お母ちゃまは間違いません」
カーディオが丁寧に土を入れた鉢を受け取ったサラトニクはアルメリアの手を引いて花壇の端にしゃがんだ。
「アルメリア様、今年私が差し上げようと思っていた花はこちらです」
指さされたのは、一株から細長い葉っぱがいくつもぴんぴんと伸びてる植物だ。
「いつ咲くのです?」
「ここの気候なら夏までには。アルメリア様、これはアルメリアです」
「これが?」
アルメリアが咲く浜辺には毎年夏頃にフラミーに連れて行かれる。そこで海に花を捧げるのだ。
「初めて草だけを見たのです」
「ふふ、そうでしたか。きっと綺麗に咲きますよ」
「じゃあ、またリアの寝る部屋におきます。綺麗に咲いたら……今度は、リアがサラにあげます」
「よ、宜しいのですか?」
「……お前の近くにアルメリアを置いて下さい」
サラトニクは顔を赤くすると頷いた。
「置かせて下さい……」
カーディオは胸を押さえて悶えた。
あぁ〜〜〜ん!!!!もう〜〜〜〜!!!!
ちびっ子ロマンスぅ〜〜!!!!
ロマンス書きたいけど、年末なので眠夢は今日から少しお休みをもらうんだ!
突然復活するので、皆さんまた来年もよろしくお願いいたします!
復活の日にはツイートするので、久々にTwitter貼っときやす!
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男爵
眠夢とは関係ないもだもだ話もよろしくお願いします!
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