眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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Lesson#22 開戦と出発

 早朝、大神殿。

 

「騎馬王、これでまた群れに帰っちゃうんだね」

「は。草原に来ていただければ、またいつでもお会いできましょう。登校前だというのに、わざわざお見送りいただきありがとうございました」

 ビーストマン州で息子(クルダジール)の率いる群れと合流する騎馬王は、草原の統治者であるナインズ・ウール・ゴウンに微笑んだ。

「ううん。騎馬王が冬だけじゃなくてずっと神都にいてくれれば良いのに」

「なによりも嬉しいお言葉です。ですが、私の生きる場所はやはり草原なのです」

 冬の間、聖典の卵たちのために大神殿にいた騎馬王は、この春が深まる日までナインズと毎日のように顔を合わせていた。

 

 ナインズが騎馬王との別れを惜しむ傍ら、騎馬王が神都からいなくなることを喜ぶ者もいた。

 

「キ、キュータ様!騎馬王を引き止めたりしては可哀想じゃ!」

「うん。イオリの言う通りだよね。……騎馬王はそのために綺麗な草原を守ったんだもんね」

「――いえ、コキュートス様や殿下、それから数えきれない英霊が守った草原です」

 大きな馬体を伏せさせている騎馬王の瞳は幸福に彩られている。

 

 漆黒聖典、陽光聖典、並びに紫黒聖典の姉達の中、聖典見習いであるイオリエル・ファ・フィヨルディアは内心で悪態をつく。

此方(こなた)は回復するのが仕事だから八足馬(スレイプニール)になんて乗れなくても良いというに……!)

 ――よくない。聖典として共に動くならば他の隊員の移動手段についていけなくては話にならない。

 だが、その手にはたっぷりの魚の目ができていて痛々しかった。少女がそう思ってしまうのも無理はないかもしれない。

 体が小さなイオリエルに八足馬(スレイプニール)の騎乗は荷が重い。

 まだ飛竜(ワイバーン)訓練のほうがマシだ。

 優しいティトと、よちよち歩きの愛らしい娘を連れたネイアが教えてくれる。

 イオリエルが一人で関係のないことを考え始める中、ナインズの面持ちはとても暗かった。

 

「ねぇ、騎馬王。騎馬王は、世界から戦争なんてなくなって、哀しみに嘆く者が一人でもいなくなって欲しいって言ってたよね?」

 それだけで、ナインズが何を言いたいのか騎馬王には良くわかった。

「――その通りです。今回のラクゴダール共和国の件は残念ですが……」

「僕、やだな……。イオリみたいにお父様とお母様がいない子が増えるのも……。またジェンナ君みたいな……シャグラ・ベヘリスカさんみたいな事が起きるのも……」

「私も胸が痛みます。ですが、脅かされていたと感じ続けてしまった旧小国郡に住む者達の共和国への不信はもはや止められません。そして、旧小国郡に商人達を殺されてきた共和国も、友好国でありながら敵対国を取り込んだ神聖魔導国へ不信感を募らせている。奪われ、裏切られ、ある日心が戦争へと向かってしまえば、それは何者にも止めることはできません」

 騎馬王の実感のこもった言葉に、ナインズは俯くことしかできなかった。

「……殿下、心優しき我が君。あなたはどうか、優しいそのお心のままに」

「……ツアーさんにもそう言われるけど、僕……悲しい気持ちになるくらいならリアちゃんみたいになりたかった」

 アルメリア・ウール・ゴウン。

 騎馬王は幾度も会ってきた少女に視線を送る。

 ナインズと共に遊びにきては美しい草原を見渡し、年相応に笑っていたはずだが――。

 真っ白な服を着て駆け回り、大きく育ったバオバブに頬を寄せ、まだ子供の多頭水蛇(ヒュドラ)に口付けを送る。わたる風に歌い、自らが摘んだ花の切り口に優しい魔法をかける兄に頭を下げる。空を往く人鳥(ガルーダ)達に手を振り、母の胸に飛び込んでは白き翼に埋もれて眠った。

 心から自然を愛し、命の繋がりに感謝していた。

 

 ――だが、この春に神都で会った彼女は、芽吹きを凍てつかせるような別人の目をして人間達を見ていた。

 呆れ、嫌悪、不快、怯懦、不信――。

 多くの負の感情が彼女を包んでいるようだった。

 

 アルメリアは手を繋ぐナインズを見上げた。

 

「お兄ちゃま、リアみたいになりたいです?」

「うん、なりたいよ。リアちゃんはすごく強いから……」

「お兄ちゃまの方が強いですよ!」

「はは、ありがとう。でも、力じゃなくて気持ちはリアちゃんの方がずぅっと強いよ」

「そうです?」

「うん、そうだよ」

「ふふふ。じゃあ、リアはお兄ちゃまの気持ちを守ります!」

 

 兄妹は美しかった。

 ナインズは心から嬉しそうに微笑んだ。

 

「リアちゃんはとっても優しいね」

「はひ!」

 

 だが、アルメリアに言わせれば共和国など――いや、その周辺の小国達も含め、皆不要物。

 何かを美しく保つために存在しているわけではない下賤。

 歯車の一部にもなれない俗物。

 

 美しいばかりだと思っていたが、極めて冷徹な子だった。

 

「さ、キュー様。そろそろ行かないと」

 一郎太が一歩踏み出すと、ナインズは騎馬王を名残惜しげに見上げた。

 騎馬王の帰還式はこれからナインズが登校している間に行われ、ナインズが下校するより前に草原へ出発する。

「じゃあ……騎馬王、またね」

「はい。またお会いできる日を楽しみにしております。どうか胸を張って。次もまた一段と大きくなられたお姿をお見せください」

「騎馬王、気をつけて帰るんですよ。草原を頼みます」

「は。お任せください。アルメリア殿下も、どうぞお気をつけて」

 

 先頭をナインズと一郎太が歩き出し、その後ろをアルメリア、二郎丸、クリスが続く。

 クレマンティーヌとレイナース、そして番外席次はそっとイオリエルの背を押した。

「イオももうガッコー行きな」

「キュータ様のおそばにいるのはあなたの一番の任務よ」

「そ、そうじゃな!此方も行ってきます!」

「今日も下校したら訓練よ。イオリエル、忘れないようにしなさい」

「はい!絶死絶命様!」

 

 神殿の外は春の雨が降り出していた。

 見上げればひっくり返ってしまいそうなほどに大きな扉を出たナインズは小さなため息を吐いた。

 

「――キュー様、仕方ないよ。キュー様なりにできることは全部やったんだから」

「そう、だね。でも、僕はどうしても分からないんだよ。お父様にもどうしてこうなっちゃうのって何度も聞いたけど、よく考えてみなさいって。アルベドや兄上にも聞いたけどやっぱりよく分からない。皆で仲良くしようって言うんじゃダメなのかな」

「うーん。ま、大人の世界ってややこしいもんですよ」

「……一太は人ごとだなぁ」

「はは、俺は陛下方の決めたことが間違ってるってあんま思えないですから」

 一郎太がおどけて見せると、二郎丸がすぐ後ろでくすりと笑いを漏らした。

 

「二の丸、なんだ?」

「いやー?いち兄は何も考えてないだけじゃないかなって僕思って!」

「考えてるに決まってるだろ!……給食のこととか。ははは!」

「いち兄、ナイ様に呆れられちゃうよ!」

「こら!キュー様だろ!」

「っキャー!」

 二郎丸は濡れた石畳に軽いひずめの音を鳴らしながら駆け出し、一郎太もその後を追って駆け出した。

 

「やれやれ、一太も丸も元気いっぱいです」

「じろちゃんはアリー様がご一緒だから嬉しくって元気になっちゃってるんですよ!」

 アルメリアの隣でクリスが顔いっぱいに笑顔を作る。

 クリスもアルメリアが二日続けて登校するとは思ってもいなかったので、思わず浮き足立ってしまいそうだ。

 ――だが、教室に入ることには少しだけ不安もあった。

 昨日アルメリアが帰った後、クラスでは「殿下はちょっと怖い」「神様の子供ってやっぱり少し違う」と噂されていた。

 

「クリス?どうかしたんですか?」

「あ、いえ!どうもしませんよ!」

「そうです?じゃあ、私はお兄ちゃまの気持ちを守ってきます」

 

 アルメリアがナインズの手を繋ぎに行くと、クリスはとぼとぼと皆の後ろを歩いた。

 もし教室に入った時におかしな目で見られれば、アルメリアはきっと傷付くだろう。

 人間を軽蔑しているとはいえ、生まれてこの方自らが歓迎されない場所など一つもなかったはずなのだから。

 クリスは小さな小さなため息を吐いた。

 

「――チャン」

「あ、は、はい!」

 突然の呼びかけに軽く肩が跳ねる。

 クリスの隣にはいつの間にかイオリエルがいた。森妖精(エルフ)の彼女の見た目は幼い。クリスの背の方が少し高いくらいだ。

「其方も大変じゃな」

「い、いえ。何がですか?」

「無理せずとも良い。……此方も学校など行きとうなかった。人間達など、すぐに死ぬ脆弱な生き物じゃ。関わり合うだけ無駄……」

「え……?フィヨルディアさん……?」

「――と、此方も思っておったからのう。不敬かもしれんが、姫殿下のお気持ちはよくわかるんじゃ」

「そうなんですか?初めて知りました。フィヨルディアさんは毎日キュータ様と登校してらっしゃったので」

「そんなふうに思っておったのは此方がまだ一年生だった頃じゃ。チャンが知らないのも無理はないのう」

 雨が傘を跳ねる音が二人の間に響く。

 クリスは恐る恐るイオリエルに尋ねた。

 

「……もし、久しぶりに登校した次の日、クラスの皆が自分を怖がっていたら……どう思いますか?」

「それは肩身が狭いのう」

「そう、ですよね……」

「じゃが、皆が怖がっても味方でいてくれる誰かがいたら、それはすごく嬉しいことじゃな」

 クリスは敬愛するアルメリアの背を眺めた。

 

+

 

「――今回の件、いくらなんでもやり方というものがあるだろう。アインズ」

 

 ナザリック地下大墳墓、第九階層。

 ――フラミーの自室。

 子供達が登校する前にアルメリアの力を確認したツアーが腹立たしげに言う。

 

「いきなり呼び出して悪かったが……そうは言っても花ちゃんは昨日突然登校し始めたんだ。大目に見て――」

「僕はそんな話をしているんじゃない。共和国の事だ。アインズ、あちらは降伏をする準備もある。それをわざわざ焚き付ける必要はないだろう!」

「あー……。それは勝手に国民達が戦争に乗り気になっていることだからなぁ。仕方あるまい」

「……フラミー、君はどう思う」

「生き物はどうしたって戦いを忘れられないんですねぇ」

「それが君の答えか」

「…‥何かおかしかったです?」

 

 当然、ツアーは神聖魔導国の中で噂されるアインズとフラミーの神話全てをまるっと信じているわけではない。

 例えばこの世界を作り出した神々であるとか、この世界の生き物全てを作り出した神々であるとか――。

 この二人は確かにこの世界に渡ってきていて、この世界を未知の場所だと定義している。ナザリックをはじめ、別の場所で別の世界を作ったことがあったとしても、この世界はこの世界だ。

 神聖魔導国にこの二人が箱庭を維持するために都合のいい神話が溢れていたとしても、それは嘘を多く孕んでいる。

 だが、それはそれとして、フラミーが確かに生を司る神だとしたら、「生き物は戦いを忘れられない」というのは実に神らしく身勝手な感想ではないだろうか。

 ツアーは久しぶりに頭が痛くなった。

 

「ツアー。そもそもお前が東陸の存在を早く教えてくれていればもっと違う未来になっていたとは思わんか?お前がもう少し世界征服について前向きに考えて、協力的でいてくれれば話がおかしな方向へ進むこともなかっただろう」

「……そういうことかい。アインズ」

 

 要するに、今回共和国を侵攻するように世論を仕向けたのはツアーへの見せしめのため。

 この世界をもっと早く開示し、東陸と呼ばれるようになった向こう岸とのパイプ役に徹さなかったことへの警告。

(では、これからダイと共和国がどう動こうがこの戦争は必ず起こる。そして、完膚なきまでに叩きのめされる……)

 ツアーが竜の身で大きすぎるため息を吐く。

 それと同時に、部屋の隅で控えていたアルベドとデミウルゴスが良い笑顔を作った。

 

「……アインズ、もし僕が高位の身分を持っている国を一つ紹介したら、共和国に対する姿勢を緩めてはくれないか」

「何?私は構わないが……お前ともあろう男がどうした。いつもの"僕は世界征服には反対"と"邪魔はしないけれど、手伝いもしないよ"はいいのか」

「今回は共和国にいる竜王達との関係もあるからね」

「ほう?まぁ、国民達が踏みとどまってくれれば、という但し書きはつくことになるが、約束しよう。あまり凄惨な戦争にはならないよう気を付けると」

「助かるよ」

 

 アインズの言葉に嘘はない。これがアインズの望むことだったのだ。

 ツアーはまた負けたな、と思いながら机の上のペンを手に取った。

 察したデミウルゴスに差し出される紙に簡易の地図を書いていく。

 位置的、規模的に最も被害が小さくなると思われる国への航空路だ。ツアーは飛んで行ったことしかないので潮の流れに乗れる良い海路は分からない。

 代わりに気流は書き込んでおく。

 完成したものをペラリとアインズとフラミーが座る方へ向ける。

 二人は地図を覗き込んだ。

「……これはまたアバウトは地図だな」

「そうかい?僕なりに真面目に書いたつもりだけどね」

「竜王のスケールってすごいんですねぇ。どこでもひとっとびだから」

 

 もう少し何か書き方がないか考え、ツアーが追加情報を書き込もうとすると、アインズとフラミー、二人は同時にツアーの鎧の手を止めた。

 

「これでいい」「これがいいです」

「……そうかい?」

 

 二人は嬉しそうに地図を手に取った。

「これくらいの方が旅に出る甲斐がありますよ!全部正解が載ってる地図なんかつまんないです」

「懐かしいなぁ。こうやって唐突に発生した期間限定クエスト消化するために皆寝る間も惜しみましたよね」

「ふふ、そういえば神曲クエストの時、モモンガさん途中で寝落ちしたってペロさんが大騒ぎしてましたよね」

「あ〜ありましたねぇ。二晩目は流石にきつかったなぁ。確かあの時フラミーさんはウルベルトさんとタブラさんのチームにいましたよね。合流した時頭かくんかくんってなってたな。ははは」

「朝も早かったですししんどかったです〜!でも、結構あの時活躍したんですよぉ。私のおかげでうまく行ったくらい!」

 

 えへん、とフラミーが胸を張る。ツアーはなぜ疲労を無効にしなかったのだろうと思ったが、アインズにもフラミーにも超常的な存在ではなく、今を生きる者らしい感覚を捨てないでいてほしいため余計なことは言わなかった。

 

「それはウルベルトさんに誇大広告だって怒られちゃうんじゃないですか?」

「師匠もよくやったって言ってたのでセーフです!」

「はは、そうでしたか。じゃあ、今回もたくさん活躍してくれるといいな〜」

「しますよ〜!!なんなら、私一人で行って見つけちゃいますよ!」

「えー?じゃあ、俺も一人で見つけちゃいますよ?」

「競争します?」

「どっちが早くツアーのこの地図の場所に辿り着けるか?」

「はい!」

 

 アインズは一瞬一緒に行こうと誘いかけたが、たまにはこういうゲームも悪くないと考え直した。なんなら、ギルメンとこういう遊びをするのはいつでもウェルカムだ。実に何年振りだろうか。

 特に、ナインズが学校に通うようになってからのフラミーとこの世界で過ごす日々は刺激が不足していた。

 アインズは一度「ふむ」と声をあげ、久々にギルドマスターとしてルールを発表することにした。

 

「じゃあ、手段はユグドラシル時代と同じようにフルで魔法を使っていきましょう。何日も出かけたりすると子供達が寂しがりますし、子供たちが学校に行ってる間だけの冒険ですよ」

「きゃー!良いですねぇ!ログイン時間に制約があるのがすっごいユグドラシルっぽいです!」

「ははは、ログイン時間、かぁ」

 何年も聞いてこなかった言葉に強い懐かしさを感じてしまった。

 当時の記憶たちは、まるでつい昨日のように全てを思い出せるというのに。

 

「いつスタートしましょうか!」

「それはもちろん今すぐ!――と言いたいところですが、まずはパーティー編成をしてからです。竜王とか変なものに絡まれないように、フラミーさんはツアーを連れて行ってください」

 それから、ツアーを見張るための護衛も一人いた方が良いだろう。

 最もアインズが信用でき、同じ気持ちでフラミーを護ってくれる者。

 ――「パンドラズ・アクターもセットで付けましょう」

 あまり大人数で仰々しくなるのはいただけない。神様だと取り囲まれるような旅はまっぴらごめんだ。

「はぁい。ズアちゃんとツアーさんですね。ツアーさん、いいですか?」

 フラミーがソファの上で足をぷらぷらさせながらツアーを見上げる。

 ツアーはひらりと手を振った。

「僕は別に構わないよ。むしろ、君たちどちらかには着いて行きたいと思っていたくらいだから」

「監視です?」

「まぁ、そうなるね。もしくは道案内かな」

「道案内はルール違反ですよ。これはゲームなんですから」

「……そうかい」

「よし。それじゃあパンドラを呼び出して――」と、アインズが行動を開始しようとすると、フラミーが言葉を遮った。

「アインズさんの護衛は?」

「え?俺ですか?俺は始原の魔法ありますから」

「アインズさんも一応護衛連れて行ってください。ダメですよ。一人でフラフラ出歩いたりしちゃ」

 

 デミウルゴスとアルベドが大いに頷く。そして、デミウルゴスはアルベドの視線を避けるように、アインズへ向かって数歩近付いた。

人差し指でくいっと眼鏡を上げる。

「国家の侵略、腕がなりますね。お供にはぜひ、この叡智の悪魔――デミウルゴスを」

 もちろんそれをただで見過ごすアルベドではない。

「アインズ様。御身の持つ智は――いえ。全てはとても守護者風情の届くものではありません。であれば、フラミー様の仰る通り護衛としての面を重要視するべきかと。お供には、ぜひ最強の盾たる私めをお連れくださいませ」

「もちろん私達守護者では端倪すべからざる御身の頭脳には到底及びません。ですが、そのお考えを正しく理解し、一手でもお手伝いするには多少の知恵は必要でしょう」

「あら、デミウルゴス。それなら私にもできると思うのだけれど。叡智の悪魔と呼ばれるあなたと並ぶほどには、私も叡智の悪魔を自負しているのだから。くふふ」

「アルベド、それはウルベルト様に対していささか不敬ではありませんかねぇ。ウルベルト様の御手により、そのようにあれと、私は生み出されたのですよ」

 二人の間に火花が散り始めると、フラミーはアインズが守護者を指名してくれて良かったと心底思った。伝言(メッセージ)でパンドラズ・アクターへ連絡を取りつつ。

 

「――僕としては、二人とも対象の国を穏便に取り込んでくれるとは思えないし、もう少し穏やかな者を連れていくべきだと思うよ。デミウルゴス君に至っては侵略と明言しているし。百年後には世界を任せて良かったと僕に言わせてみせてくれるんだろう。アインズ、邪悪じゃないコキュートス君はどうだい」

 ツアーの言葉に知恵者二名は明確な敵意を向けた。

「ツアー、あなたは黙っていてくれる?そもそも穏便に取り込むも何も、全ては至高なる御方々がお決めになることよ」

「アルベドの言う通りですね。そもそも私達は悪魔ではありますが、いたずらに人を殺したり嬲ったりしたい訳ではないのですよ。私達は常に合理的な行動を心がけておりますので。無益な行いはなるべくならば避けたい。つまり、君が差し出した国が御方々、引いてはナザリックと神聖魔導国に対して利用価値を示せるなら――穏便かつ泰平なる併合が約束されますとも」

 

 胡散臭い。

 

 ツアーの視線は二人を信用しているようではない。

 だが、どんな話し合いをしようともアインズが連れて行く護衛は決まっている。

「二人とも、児戯はそのくらいにしておけ。私は何も一人しか連れて行かないとは言っていない。アルベド、デミウルゴス。二人とも出発の準備を整えろ」

 二名は子供のような純粋な喜びを一瞬だけ見せると、すぐさま膝をついた。

「かしこまりました。守護者統括、アルベド」

「――ならびに第七階層守護者、デミウルゴス」

「「御身の護衛、併呑プランの策定、各部署との調整。処理すべき案件全てを見事やり遂げることを誓います」」

 

 そこまでやってくれとは言っていないが、アインズはそこまできっとやってくれるよね、と信頼しきっていた。

 

「期待しているぞ」

 

 魔王と配下の就任式の隣では、到着したパンドラズ・アクターがフラミーから今回の役割を命ぜられていた。

 

「そう言うわけですから、出発は弍式さんの姿でお願いします!これは競争ですからね!」

「っは!!かしこまりました!!」

 アインズは自分のパーティの暑苦しさと、ほのぼのとした雰囲気の二人の間に流れる温度差で風邪をひいた。

 

「ずるい……。全てがずるい……」

 

 なんと言っても、弍式炎雷はクラン時代に未探索ダンジョン『ナザリック地下墳墓』を発見したクラン――ナインズ・オウン・ゴールにおける最初の九人の一人にして、ギルド――アインズ・ウール・ゴウンの初期メンバーの人物だったから――。

 

「先に国を見つけた方が勝ち!負けた方は勝った方の言うこと聞くんですからね!」

 フラミーがびしりとアインズを指差す。

 アインズの中に猛烈な闘志が湧き上がった。

 

「お前達、行動を開始せよ!!」




なんかアニメでファンクラブ神官長達の顔が見れたっていうじゃないですかー!!
男爵も早く奴らの顔をインプットしなければ……!!

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