眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#147 島の誇り

 ユラドは旅人達を先導して歩いた。その隣を漁師頭のウルボリが行く。

 胸を張り、自分こそがこの村一番――いや、この島一番の男であると後ろを付いてくる衆に背中で語る。

 なんと言ってもユラドは鳥猟師。鳥猟は許された者にしかできない特別な仕事で、毎年決まった人数がなれるわけもなく、非常に倍率の高い仕事だ。

 若くしてこの地位に付くためには並大抵の努力では叶わない。

 

 島に渡ってくる鳥の数を大まかに把握し、前年の雛の数の記録と今年渡ってきた若い鳥の数の確認をしたり、その年の売却額の決定、密猟の監視など、やらなければいけないことは体を使うことだけではない。

 筆学所の成績、思想、歴史への理解などを必要とするこの島一番の仕事だった。

 

 つまり、ユラドは頭脳明晰、少壮気鋭のスーパーエリートだ。

 

 日焼けした体はガッチリと引き締まっていて、見目も麗しい方だと思っている。漁師や猟師は生成りの麻のシャツを着ることが推奨されているので、ユラドも例に漏れず生成りの麻のシャツを着ている。

 その背中には遠くからでも誰だか一目でわかる――万が一事故にあったとしても一目でわかる――、刺青(いれずみ)が彫られていて、シャツから透けて見えていた。

 心の中で「どうです。この背中」と旅人たちに問いかける。

 先程旅人に無遠慮に話しかけた恥ずかしい奴――隣家に住む出来損ないのラビ・テランバードとは大違いなはずだ。

 

(……それにしても美しいな)

 

 この旅人――名をプラムと付き添いの者に紹介された――は、絵でも見たことがないほどに美しかった。

 プラムが特別美しいのか、それとも島の外にはこんな女がたくさんいるのかユラドには想像も付かない。

 

 プラムは物珍しそうにキョロキョロとあちらこちらを見ては感嘆していた。

 島では全く珍しくないものも「ははーん」「なるほどねぇ」という様子から、彼女の暮らす島とのギャップを感じた。

 そして、たったそれだけの仕草があまりにも可憐だった。

 少し動くたびにかぐわしい匂いが漂ってくる。

 

「プラムちゃん、もう少し歩いたらこの村の村長の家だぜ」

 ウルボリが振り返ると、プラムは「あら?」と首を傾げた。

 その姿も可憐だった。

「この村、って言うことは島の中にいくつか村があるんですか?」

「あぁ、このカライ島には六つの村があるんだ。四つは海に面した漁村で、一つは島の真ん中にある農村で、一つは湖を囲んだ村だな」

 

 ウルボリが簡単に説明する。スラスラと会話をする様にユラドは僅かに嫉妬した。

 軽く振り返り、自然に会話に参加する。

「ここはホーチャ村です。二千人くらい住んでるって言われてますよ。一番近い隣の漁村はネイソー。農村も近いですよ。そっちの名前はヨギーです」

「結構住んでるんですね!村長さんに会った後どこに行くか悩んじゃいます」

 結構住んでいる、ということはプラムの住む島はもっと人口が少ないのかもしれない。島に当たり前にあるものも珍しがるほどなのだ。

 

 プラムの後ろでパンドラズ・アクターという黒ずくめの男が手元にメモを取る。この男は細いがその実、肉体はかなり鍛え込まれているだろうと思えた。

 それから、ドラゴンロードと名乗った鎧を着た者が悠然と辺りを見渡す。

 本当に御伽噺から出てきたような三人だ。こんな鎧を着込んで暑くないのだろうか。それに、プラムの服装はあまり船旅向きではないように思える。

 

(……いや、召使が二人もいるのだから、プラムさんは優雅な格好で十分なのかもしれない)

 

 プラムは真っ白い肌だというのに、背中が大きく開いたワンピースを着ていた。白地にブルーの刺繍が細かく施されていて、相当贅沢な品に見える。

 丈が足首まで隠れるような長さなので、ユラドの感覚的にはドレスに近いかもしれない。その上には白いレースの羽織ものを掛けているが、こちらもやはり背中が大きく開いている。

 日焼けで背中がボロボロになってしまわないのだろうかとか、その靴でたくさん歩いては足が疲れないのだろうかとか、泳ぎにくそうな格好で船に万一水が入ったらどうするのだろうかとか、ユラドの疑問は尽きない。

 

「島、どう回ろうかなぁ……。面白いもの、少しでもたくさん見たいけど……」

 プラムがうーん、と悩ましげに声を上げると、ユラドは思考の海から上がった。

「何日かかけて全ての村を回ってみては?」

「できればそうしたいんですけど、実はあんまり長居もできなくて」

「そ、そうなんですか?せめて、せめて一週間くらいはどうです?」

「んー、いられても三日ですかね。それ以上はちょっと。でも、また戻ってきますから!」

 たった三日。ユラドは高速で頭を回転させた。自分が狩りをする姿は絶対に見て欲しい。明日は隣の島で猟の予定があるし、それは外せない。

 隣でウルボリも「どこをどう回るか……」と手を顎に当てて考えた。

 

 男が二人で考え事を始める中、パンドラズ・アクターはふと足を止めた。

 

「おや、プラム様ご覧ください。珍しい花が咲いております!」

 パンドラズ・アクターが示した先、道端には赤海月草が花をつけていた。

 茎と葉はほとんどたんぽぽと同じだが、花に当たる部分が赤いクラゲの植物だ。

 ぷるぷるとした傘からは大きな口腕が花弁のように垂れ下がり、傘の縁には細かい触手がたくさん生えている。

 

「わぁ、本当に珍しい!可愛いですね!」

「あ!!」

 摘んでみようとでもいうのかプラムが手を伸ばすと同時に、ユラドは焦ってプラムの手を取ろうとした。

 が、ユラドがプラムの手を阻止するより先に、バチュッと気持ちの悪い音が立つ。

 赤海月草はウルボリによって無事に踏み潰されていた。

「ほ……」

 この綺麗な白い手に何かあっては夢見が悪い。

 同じことを思っているのか、ウルボリも明らかに安堵のため息を吐き出していた。

 

「失礼。それはどう言った意図でしょう。プラム様が摘もうとした花を踏み付けるなんて、あまりにも不敬です」

 

 プラムとウルボリの間にパンドラズ・アクターが立ち塞がった。

 驚くほどに怒っているのが感じ取れた。

「おっと、すまねぇな。赤海月草に触るとかぶれちまう。たまに触手を伸ばして刺してくることもある。刺されると痛いし、何より毒があるんだ」

「――そうでしたか。お気遣いありがとうございます」

 途端に怒りは霧散したが、まだ少し何か言いたげだった。

「プラムちゃんの島には赤海月草はないのかい?」

「赤海月草なんてないと思います。変わった植物ですし、いくつか取って帰りたいなぁ」

「いやぁ、やめた方がいんじゃねぇかなぁ。有毒植物だし、せっかく根絶できてるんだとしたらそっちの島の迷惑になっちまう」

「そっかぁ……」

 ユラドはまたひとつギャップを感じた。たまに漂着物が来るが、この島の外など大して興味もなかったというのに、今では外の世界を見てみたいと強く思っている。

(……ラビ・テランバードもこういう気持ちだったのか……?)

 だとしても、魔法がどうのこうのというのはあまりにも突飛だ。

 

 ウルボリとプラムのやり取りを見ていたユラドは「そうだ」と声を上げた。

「水海月草はそっちにありますか?」

 プラムが横に首を振るのを見るとユラドは嬉しそうに人差し指を立てた。

「ヨギー農村の方に水海月草が群生してるところがありますよ。近くに住んでるおばばが解毒薬になるからって一生懸命増やしてるんです。水海月草は害がないし、見に行きますか?ねぇ、おやっさん」

「うん、いいんじゃねえか?」

「わ、見に行きたいです!そっち持って帰ろうかな」

 

 観光パーティーのひとまずの行き先が決まり、緩やかな登り坂を行った。

「それにしても、カライ島が交易を持ってるような他所の国にも、あの海月草ってあるんですか?」

 プラムからの問いに、ウルボリとユラドは今までで一番いい笑顔になった。

「プラムちゃん、君達がこのカライ島に初めてきた他所の人間だ!」

「えっ?じゃあ、皆さんこの島から出たことがないってことですか?そう言えばさっき島の外から来たはじめてのお客って言ってましたけど……てっきり観光客はってことかと」

「ははは!正真正銘、はじめての来訪者だ!」

「でも、ちょうどこの向こう側に無人島がいくつかあるんで、狩りにも行くし、島を出たことがないってことはないすよ」

「な。皆大抵そこには行ったことがあるもんな。まぁどれもちっちゃい何もない島だから、たまに家族でキャンプに行くか、鳥猟師が鳥を獲るくらいしかやることはねぇ所さ。あぁ、もちろんそこにも海月草は生えてるしな」

 二人がネーと全く可愛くなく声を上げる中、ドラゴンロードはそっとプラムに近付いた。

 ユラドには聞こえない声量で何かを伝えているようだ。

 顔すら鉄兜に覆われているため、話の内容は想像もつかない。

(……この島の悪口じゃないことを祈るしかない……か)

 わざわざユラド達に聞こえないようにされると、悪い想像も浮かんでしまう。

 

 内容はその実――

「フラ――プラム、楽しんでいるところ悪いんだけれど、少し向こうで何か問題が起きたらしい。宵切姫がダイからの急ぎの手紙を持ってきた」

 ダイとは誰だろうとフラミーは思ったが、とりあえず頷いた。

「あら、じゃあ向こう行ってきます?」

「ああ。そうさせてもらえると助かる」

「そしたら用事が終わるまでここで待ってますね」

「別に僕のことは放っておいて行ってきても構わないよ」

 そうは言われても空っぽの鎧に誰かが話しかけたりすると厄介なことになりそうなのでフラミーは首を振った。そんな物を引き連れている冒険者はさぞかしすごいと思われかねない。それに、盗まれたりでもすればどうなるか分からない。

「――いえ、ここにいたいんです」

「そうかい。悪いね」

「良いんですよ」

 

 ツアーは適当にそこら辺に生えている無害そうな小さな花を摘むと、そっとフラミーに渡した。

 

「ほら」

「はは、ありがとうございます。でも、沈黙都市でも言ったけどお花ならなんでも良いわけじゃないんですよぉ」

「そうかい?でも君は嬉しそうだよ」

「そりゃないよりは嬉しいですよ」

 

「そうだと思ったよ」とでもいうように手をひらりとふり、ツアーは近くの木陰へ行き座った。鎧が動きを止める。完全に意識が切り離されたようだった。

 

「休憩ですか?」

 会話が終わるのをじっと待ってくれていたユラドがウルボリの肩越しに鎧を覗き込むと、パンドラズ・アクターが頷いた。

 基本的にフラミーからの問い掛けをフラミー自身が行うことには何も思うところはないが、こうしてフラミー意外でも答えられるような質問や、名乗りなどはパンドラズ・アクターが行っていた。

「はい。長旅の中鎧も着ていて疲れてしまったようです。少しここで待っても?」

「構わないですよ。おやっさんも別に良いっすよね?」

「もちろんだ。俺ん家が近いから水でも持ってきてやろうか?なぁ!ドラゴンロードの兄ちゃん!」

 

 ウルボリが鎧に向かって声をかけるが、鎧はぴくりともしなかった。

「……やれやれ、もう寝ちまったか?疲れてるようには見えなかったが、相当疲れてたんだな。――俺は水を持ってくる。ユラド、頼むぜ」

「っす!」

 ウルボリがその場を離れて歩いていくと、フラミーとパンドラズ・アクターは目を見合わせ、なんとか我慢していた物を「ぷっ」と小さく吹き出して笑った。

「ははは、ツアーさんのことあんな風に呼ぶ人、きっと世界中でウルボリさんだけですよ。ね、ズアちゃん」

「ふふふ、全くでございますね。これは父上にもお見せしたかったです」

「ドラゴンロードさんってそっちの島じゃそんなに偉い人なんすか?」

「そりゃーもうとっても偉い人ですよ!上から数えた方が早いくらい!」

「そんなツアー兄さんに護衛させてるプラムさんって……」

「あ……うーんと……あはは〜」

 

 フラミーは適当に笑って誤魔化しながら、視線を彷徨わせた。

 

 その視線にはすぐに島民たちが映った。

 ここまで、ずっと遠巻きに島民たちが様子を見続けていた。

 初めての島外の人間ではこれも仕方のないことなのだろうと割り切り直す。何より、皆割と質素な服を着ているというのに、フラミー達の格好は目立ちすぎている。

 

 子供たちの集まりとフラミーの目が合った。

 ナインズと同じくらいの子から、ザリュースの息子たちのザーナン、シャンダールと同じくらいの子、アウラ達程度に見える子達と様々だ。

 子供の集まりは男子三名、女子四名だった。後は、子供というには少し大人びた女子が一名。

 フラミーは子供の輪に向かって軽く手を振った。

 子供達は互いを見合わせた後、おずおずと手を振り返した。

 

「ふふ、可愛い。おいでおいで」

 

 フラミーが手招き、島の大人達が「せっかくなんだから」と子供達の背を押した。

 大人の許可が出ると、子供達は一斉にフラミーに駆け寄った。

「皆さんこんにちは」

「こ、こんちゃー!」

「せっかくだから、神聖魔導国の美味しいものあげよっか」

「お、おいしいもの?」

「うん。甘いよ〜!」

 

 そう言ってフラミーはそっと琥珀色をした親指の先ほどの塊を取り出した。

 これはナザリックの物ではなく、神聖魔導国で普通に売られている飴だ。

 フラミーから飴玉を受けとった少年は繁々と手の中の宝石を眺めた。

「こんなに硬いのに、食べられるの?」

「口の中でコロコロ舐めるんだよ!」

「なめる……」

 若干疑いの目を残しながら、恐る恐ると言う様子で少年が口に入れた。

 周囲の子供達が――そして周りを取り囲む大人たちが――ジッと少年の反応を窺った。

 

「――う、うまぁ!!あまい!本当に甘い!!」

「良かった」

 フラミーは満足げに笑うと、他の物欲しげな子供達にも何の変哲もない飴を配った。

「皆もどうぞ。神聖魔導国はこれが十個も入ってたった百二十ウールで売られてるんだよぉ」

 いい所でしょう、とアピールをすることを欠かさない。子供達はフラミーの言っていることが何だかわからないようだったが、皆大急ぎで飴を頬張り、飴玉よりも瞳をまんまるくした。

「と、トウキビより甘い!」

 

 大人たちも欲しそうにしているが、大人たちにまで配るとキリがないのでフラミーは無視することにした。

 

+

 

 ツアーは竜の身で宵切姫から受け取った手紙を急ぎ読んでいく。宵切姫はじっとツアーからの指示を待った。

「――アインズと連絡を取る必要がある。今すぐに」

「はい。では、闇の神殿へ――」

「いや、いい。僕はまたあちら(・・・)に行く。フラミーにアインズとの取次を頼むよ」

「かしこまりました。紅榴の竜王(グラナート・ドラゴンロード)様へのお返事はいかがなさいますか?」

「ダイには僕の決断が間に合わなくて悪かったと書いてくれ。心がこもった様子で頼むよ」

「心がこもった様子で、ですね。お任せください!」

「頼りにしているよ。それじゃあ」

 宵切姫はツアーが頭をそっと下ろして目を瞑ると、頭を下げてから楚々とした動きで部屋を後にした。

 廊下に出ると、薄い唇は無意識に動いた。

「たよりに……」

 己の忠誠と、歩んできた道が間違いでなかったことを確信すると、目頭が熱くなった。

 

 一方意識を鎧に戻したツアーは怒りを収めるように鎧の額を数度トントンと叩いた。

 身体も入っていないため何の意味もない行動だが、あちらで特大のため息をついては宵切姫に「蜃気楼を生み出す吐息」だのなんだの言われるのでそれを我慢した結果がこれだ。

 さっと辺りを見渡すと、フラミーが子供に囲まれていた。

「……やれやれ」

 木陰を抜け出してフラミーの下へ向かった。

 

 ツアーが近くまで来ると、パンドラズ・忍者がそっとフラミーに耳打ちをする。

「プラム様、ツアーが」

「ん。――ツアーさん、もういいんですか?」

「あぁ。フラミー、悪いんだけどアインズに繋いでくれないかな」

「フラミーって……。じゃなくて、アインズさんにですか?今は勝負中だけど……出るかな?」

「最悪邪悪なアルベド君やデミウルゴス君でも構わないよ」

「はは、邪悪ね。いいですよ。でも、ちょっとここじゃいくらなんでも、ね」

 そう言ってフラミーが見渡したのはたくさんの子供達だ。子供達はツアーを見上げ、カッケー!と声を上げている。

「……落ち着くところへ移動しよう」

「はーい。――じゃ、私たちもう行くね」

 子供達は心底残念そうな声を上げるが、この島初めての旅人の邪魔をしようとする者はいなかった。

 

 子供達が惜しそうにフラミーから離れるのと入れ替わるようにユラドとウルボリが近付いてきた。

「じゃあ、おばばの所に行きますか?」

「はい!お願いします!」

 ユラドが胸を張って先導する。

 早く<伝言(メッセージ)>を、とツアーが焦れていると、隣にはウルボリがついた。

「ドラゴンロードの兄ちゃん、水だぜ。まぁ飲めよ」

「いや、僕はそう言うものは必要ない。それから、僕のことは白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)と呼んでくれ」

「ぷ、ぷら……何?ドラゴンロードじゃダメか?」

 水筒を肩から下げるウルボリは数度瞬いた。

 

 一行はどんどん海から遠ざかった。

 それと同時に、このパレードを取り囲む人数は増えた。

 

 海のそばに暮らすもの達は船の到着の噂を聞いていたが、海から遠ければ遠いほど、その情報がまだ届いていなかった。

 

 それゆえ――。

「プラムちゃんって言うのねぇ!島の外は大変でしょう?」

「はは、まぁ大変ですね」

「もーずっとここに暮らしたらいいわよ!」

「そーだそーだ!なぁ?パンドラズ・アクターの兄ちゃんと、そっちのドラゴンロードとかいう兄ちゃんもここに暮らしたらええ!」

 野次馬が集っていた。

 ウルボリが野次馬を抑え、ユラドが先導する図式だ。

「……失礼。皆様、プラム様にあまり近付きすぎないよう願います。お下がりください」

 パンドラズ・アクターがウルボリに抑えきれない人々の前に立ち塞がる。

 

 すると、フラミーに話しかけていた人々はパンドラズ・アクターに迫った。

 

「変わった服だなぁ?」「どんな顔しとるんだ?」「島の外の人間は色白なんだろ?」「すごい布だなぁ」

 

 島外の物ならなんでも珍しい人々は見境がなかった。

「私は白色(・・)ではありません。それに、我が神々より許可を得ていないので顔もお見せできません」

「神?そういう宗教かぇ?」

 至高の存在の姿を模している今、勝手に顔を晒すことなどできるはずもなかった。パンドラズ・アクターは伸ばされてきた手を華麗に避けると、ささっと乱れかけた装備を直した。

 

「――ほら!!皆散った散った!!明日には村長達やお偉方も集めて歓迎会をやるんだから、その時に見にくりゃいいだろ!あんまり迷惑かけるとカライ島の品位が疑われるぞ!!」

 

 ウルボリが大声を上げると、皆不満そうにしたがなんとか解散させることに成功した。

 フラミーは港に到着してウルボリが最初に今夜の歓迎会について話していたことについて考えた。

(普通の冒険者だから、普通にお話しして普通にご飯食べればいいんだよね。その後、普通に、うちの国を見てみませんか?って誘ってみる。今回はここまででいいよね……?)

 何も神様が併呑までする必要はないのだ。

 ここ三年、冒険者達が新たな国家や集落を見つけて神殿機関と行政機関が出張って手に入ったところはたくさんある。手に入ったとは言っても、友好国止まりではあるが。

 

 一行がやっとたどり着いた場所は透き通った水海月草が一面に咲き乱れていた。

 いや、水色のぽよぽよが所狭しと並んでいた。

 透き通ったクラゲの花は空と地上の境界線を見失わせた。浮かぶ雲がクラゲに映り込み、まるで鏡面だった。

「海みたいに見えますね。綺麗だけどなんだか面白い」

 風が吹くたびにたぷんたぷんと水袋が揺れるような音が鳴る。

 足元の一輪――一匹をパンドラズ・アクターが摘んで差し出すと、フラミーはそっと受け取り太陽に透かした。

 顔にはクリスタル越しでもできないような複雑な光が落ちた。

 

 こういう時間はいつぶりだろうと目を閉じる。

 次の瞬間、ツアーからの嘆願が届いた。

「フラミー、そろそろ<伝言(メッセージ)>をお願いできるかな。急ぎの用なんだ」

「――そうでしたね。人も随分減りましたし、連絡してみます」

 ユラドとウルボリは遠くでこのクラゲの庭の持ち主らしい老婆と話をしていた。

「<伝言(メッセージ)>」

 アインズへ繋ぐ。コール音はするが、やはり出る様子はない。

「――アインズさんじゃなくてもいいんですよね?」

「構わないよ」

 続いてデミウルゴス。

『――はい。デミウルゴス』

「あ、デミウルゴスさん?すみません。私です」

『フラミー様。いかがなさいましたか?あ、申し訳ありません。少々お待ちください』

「はーい」

 フラミーは伝言(メッセージ)中に保留のように待たされることは滅多にない。幾秒もせずにデミウルゴスの声は戻った。

『――お待たせいたしました。アインズ様が、こちらの様子の偵察と聞き出しはズルですからね、と仰っております』

「はは、しませんよぉ。代わりにこっちのことも教えませんからねー!」

『ふふふ。お伝えいたします』

 デミウルゴスが復唱していると、ツアーが軽く咳払いをする。早く自分の伝えたいことを伝えさせてくれという催促だ。

「えーっと、ツアーさん。それでなんでしたっけ?」

「――悪いね。アインズに、共和国への仕打ちを今すぐに停止してほしいと伝えてくれ。僕が教えた国が本当にあるか確認が取れていないという現状は理解する。だが、確認が取れていないのは君たちのゲームのせいであって僕やダイに責任はないはずだ」

 フラミーは数度瞬いてから、同じことを繰り返した。

 

+

 

「――だそうです。これは、あれですね?」

「……あぁ、あれだろうな」

 フラミーとやりとりをするデミウルゴスの言葉に、アインズはとりあえず相槌を打った。

 そして、少々の時間をもって「アレ」の意味に思考が追いつく。

 この数年でアインズの支配者力も上がった。

 思い出したのは、こんなに良いチャンス(・・・・・・・・・・)は中々ないと思ったことだ。

 というのも、共和国を土台に各階層守護者には今までにない新たな都市攻略作戦について立案するように伝えていたのだ。

 デミウルゴスとアルベドが優秀すぎるため、他の者たちの頭脳戦の経験をさせる場面が中々なかった。

 シャルティアの立てた案が確かそろそろスタートするはずだ。それがいったい何日だったのかアインズは覚えていない。が、ツアーの怒りはおそらくそれが原因だろう。

 シャルティアはフロストドラゴンを使った投下作戦を立案していた。時に運輸関係を任せているシャルティアだからこその発想だろう。これを基盤に後々空挺を組織として作り上げる予定だ。海は潮の流れだのなんだのがあり航海士が必須だが、空挺を作れればもう少し大陸間の移動と輸送は手軽になるはずだ。

 して、わざわざ空輸した魂喰らい(ソウルイーター)を五百メートル上空から投下。その後、立ち上がった魂喰らいがオーラを展開することで大量虐殺を行うという作戦を立てていた。

 

「確か、昨日シャルティアから報告が上がっていたわね?」

 当たり前のように話の内容を掴んでいるアルベドがデミウルゴスに尋ねる。

 デミウルゴスはすぐさま頷いた。

「えぇ、確か投下した魂喰らい(ソウルイーター)が屋根にぶつかったとかなんとか」

「無様な光景ね。大体、更地じゃないのだから無作為に落とせば屋根にぶつかる可能性ぐらい浮かばないのかしら」

 デミウルゴスとアルベドが正論を言い放つが、アインズも屋根にぶつかる可能性には正直思い至っていなかった。落下ダメージについては考えていたが、当たり前のように魂喰らい(ソウルイーター)は道に降り立ち颯爽と駆け回るだろうと思っていた。

 そうとは口が裂けても言えない支配者は「ふむ」と声をあげて二人の会話を制した。

「――失敗もあったからこそいいのだ。シャルティアにとって素晴らしい経験値になっただろう。次は細部にも思考を巡らせることができよう。これでいいのだ」

「は。流石アインズ様」

「アインズ様は最初からこの結果がお分かりになっていたからこそ、アウラやマーレ、コキュートス達の案より先にシャルティアの案を採用されたのですね?」

「……その通りだ」

 

 アインズは広い空を見上げた。




こここここんばんは〜〜〜〜!!!!

子爵が1歳半を超えてガンガン喋るようになってなんかもう男爵疲れ果ててますよ〜〜〜。
脳みそが終わってるせいで誤字チェックしてても目が滑ります!
でも次の話はもう少し早めにあげたい!!4000字くらいで短くても早く上げたい!!
えーん、また無心でトリップしたいよ〜。
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