眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#151 島の背

「え?……えー?うん?えーっと……?魔法が存在しないって、どう言う意味ですか?」

 プラムが言うと、いよいよもって会場にいる者たち全員が何かボタンを掛け違えているようなおかしな感覚に陥った。

 

「どうもこうもあるもんかい。まさかあんたも魔法を信じてるくちだったとは思わなかったね。もしかしてあんたの島の宗教かい」

 ソーセージを何本も皿に乗せたおばばが戻り、ペッとソーセージの薄皮を吐いた。皮も食べられると言われたが、初めて食べる物なのでどうもイマイチ飲み込みにくい。

「いや、宗教とかじゃ――」プラムはそこで言葉を切り、口の中でモゴモゴと何かを言ってから、再び言葉を続けた。「――いや、確かに宗教の一種は一種なんですけど……」

「そんなことだと思ったよ。だけどね、この島にはそんな宗教はないんだよ。魔法なんてつまんないこと言ってないで早く正気にお戻りよ」

「ちょ、ちょっと待ってください。誰か一人くらい魔法を使える人はいないんですか!?本当に誰一人!?」

 プラムは辺りを見渡した。そんなものが存在するなら猟師も漁師もいらない。

 横断幕を持ってきた子供達は多くが混乱していた。が、幼い子供たちはワクワクしていた。

「……い、いないの……?」

「プラム様、田舎では魔法詠唱者(マジックキャスター)がいないというのはよくある話です」

 パンドラズ・アクターが平然と言い放つ。

 田舎と言われて気を悪くしないものはいない。特に、この島にはプラムがすごいすごいと喜び驚くものがたくさんあったのだから。カライ島から見れば、あんなくだらない物で喜ぶプラムの方がよほど田舎者だとしか思えない。

 

「……確かにカルネ村だって魔法を使える人なんて一人もいなかったですもんね……。でも、島には外の人間は私達が初めてだったって言うのに……。あの子はどうして魔法の習練なんて……」

 プラムの瞳には困惑の色が浮かんでいた。

 正直、困惑しているのはこちらの方だ。

「はぁ。厄介な宗教のある島となんて、あたしゃ関わり合うのはごめんだね。魔法なんてそんなもんまやかしだよ。ほら、チビたちはもう行った!!バカみたいな夢を見るんじゃないよ!!」

 

 おばばがしっしと手を振るが、子供達は動くことはなかった。

 

「……最初に会った時もあの子、魔法のことを聞きたいって……」

 

 プラムはぽつりと呟き、パンドラズ・アクターを手招いた。

 

「ズアちゃん、さっきここを離れた少年、あの子を探します。あの子はわざわざ島民をかき分けてまで私に話しかけに来ました。あの子には魔法があると言うことに対して、何か確信めいたものがあった……。そう、存在すると言うことを前提とした雰囲気があった。だからこそ、私達はここに魔法が存在しないなんて思いもしなかったんだから」

「は、おっしゃる通りかと。ただ、生命探知系の特殊技術(スキル)を使おうかとは思いますが、目印のないひ弱な人間です。少々お時間を取らせてしまうかもしれません……」

「構わないです。私も魔法の痕跡を探します。もしあの子がこの島でたった一人の魔法詠唱者(マジックキャスター)だとしたら、何かに魔法をかけたことがあるかもしれないですし。それでダメなら――足で探しましょう」

「かしこまりました」

 

 プラムとパンドラズ・アクターの会話は、まるで本当に魔法が使えるかのような、信じられないものだった。

「お、おいおい。嘘だろ?いくらそう言う宗教だって……そんな非現実的な……」

 ウルボリが言うと、プラムは自分の長い髪を払いのけ、「嘘じゃないですよ」と笑った。

 そして、プラムはそっと空を指し示した。

「――<魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)><魔法探知(ディテクト・マジック)>」

 

 一体何が起こったのかと皆がキョロキョロと辺りを見渡す。

 本当に魔法があるのだとしたら、何かすごいことが起こったはずだ。

 

 ――が、とくに何も起こらなかった。

 

 あれだけ大仰な掛け合いな後だったので、とても間抜けだった。

 ひそひそと人々の話しあう声が広場に響く。そのひそひそ話は、何か恥ずかしいものを見せられた時のような、胸にちくりと何かが刺さったようなものだった。

 

「……え?何?」

 プラムが戸惑いの声を上げる。何も起こらなかったことに驚いているのかもしれない。

 空を飛べると信じ切ったキウイが崖から飛び降りたかのような哀れさを感じた。

「……ほれ見ぃ。いい加減魔法ごっこはおよし」

 おばばが言う。

 プラムはおばばの言うことに返答する事もなく、パンドラズ・アクターを見た。

「……うーん、あっちの事は後で調べるとして……ズアちゃん、そっちはどうです?」

「――難しそうです。やはり個人の特定ができていないうえに、同程度の強さの島民の反応が大量にあるので……。至高の四十一人のうちの一柱の姿を模していながらご期待に沿った結果を得られず申し訳――」

 と、パンドラズ・アクターが言っている横で、ずっと座っていたリュウオウが立ち上がった。

 

「動き出すよ」

 

 その言葉は妙な迫力があった。

 

 ユラドは一瞬、島全体が無音になったように感じた。

 音が戻ったことを認識したのは、狩猟島から一斉に大沖太夫が飛び立ったからだ。ユラドたちのすぐそばにあった木からも小鳥や虫が一斉に飛び立つ。

 

 風が生まれるのではないかと思うほどに激しい羽音に包まれながら――次の瞬間、己の目を、耳を、頭を疑った。

「お……おい……」

「な……」

「あれって……え……?」

 今この時、まともに状況を理解し、正しく対処できる者はいなかった。いや、もはや何が正しい対処なのかすらわからない。

 

 なぜなら、狩猟島が動いたからだ。

 動いた、という他に言葉が思いつかない。

 

 ザァ……と猛烈な滝を生み出し、巨大な虹を()に掛けながら、狩猟島は顔を持ち上げた。

 女達は悲鳴をあげ、男達は呆然と島を見上げた。

 狩猟島は、信じられないほど巨大な海亀の甲羅だった。

 あまりの事態に呼吸をすることも忘れかけたユラドは、逃げ出していく山猫達が足の間を駆け抜けたことで我に帰った。

 

「魔法の痕跡の発生源」

 

 その声の主にゆっくりと振り返る。

 プラムは落ち着き払って島を見上げていた。

 

「ま、まほうの……?」

 

 同じ言葉を繰り返す。

「こ、こんなの!こんなの幻だ!!夢に決まってる!!夢だ、夢!!」

 取り乱す誰かの声すら遠く感じた。

 

 島はユラドの方へ視線を向けた。巨大な瞳はどんな湖よりも大きく、その口は山すらひとのみ(・・・・)にしそうだった。

 

 ――オオオオォォォォオオオオオ。

 

 狩猟島が声を上げる。鯨よりも低く、果てしなく遠くの海まで届くようだった。

 皆耳を塞ぎ、女子供はしゃがみ込んで叫んだ。

 岩肌そのもののような皮膚には、いつまでもいつまでも水が流れていた。

「ど、どうする!どうする!?」

「どうするもこうするも、どうしようもねぇだろ!!」

 村長達が慌てていると、我に帰ったおばばが叫ぶ。

「あ、ありゃ海神(わたつみ)だよ!!ここで宴をやってるのに感謝のお供えがなかったってお怒りなんだよ!!昔から海に感謝を捧ぐのは祭りの宴の前だって決まってる!!今すぐ海神にお供えをしなきゃならん!!」

 おばばの言うことはその通りとしか思えなかった。

「そ、そしたら急いで今年の巫女の準備を!!」

「ミミルとユクモがちょうどいるからあの子達に!!」

 

 村長達は大慌てで行動を始めた。

 どうか神罰が降る前に間に合いますように。

 突然わけを話されて目を白黒させる姉妹は泣きそうになっていた。

「し、食事をありったけ運ぶぞ!!狩猟島――じゃなくて、海神へ渡る港へ!!」

 我に帰った男達が宴の食事を集め始める。

 

「二人はあれ、気付いてました?」

 そんな周りの喧騒も聞こえないように、プラムが護衛の二人に尋ねていた。

「は。午前中、島に接近した際にお伝えしようかと思ったのですがタイミングを逃しました。失礼いたしました」

「君達がアレ――アスピドケロンに気が付かれる方法で存在を看破しなければ、オキアミでも食べてゆっくり島になって行ったんじゃないかな。どう見ても怯えてるよ」

 

 海神と呼ぶに相応しい狩猟島が怯えているようには見えなかった。

 島民の誰一人として賛同している様子はない。

 皆必死で供物の用意をしている中、ユラドはこの旅人達の非常識な様子に苛立ちすら覚えた。

 

「アスピ……そういう名前なんですねぇ。うーん、あそこにそんなのがいるって分かってたら――まぁ同じことしてたか。仕方ないね。話してわかってくれるでしょうか?」

「老いが進むと言葉を忘れる生き物だから……どうだろうね」

 ドラゴンロードが肩をすくめる。

「それじゃあ、一応一発殴る気持ちでいた方が良さそうかなぁ」

「んやまいこ様の教えですね!」

「ふふ、その通り!まずは一発殴ってみる!」

「……そのとんでもない教えの一人が君達と一緒に来てなくて良かったよ」

 笑ったプラムの手が何もないはずの空間に滑り込んだかと思うと――白いタツノオトシゴが絡まる杖を取り出した。

 それはプラムが持つせいか、酷く神聖なものに見えた。輝く白、タツノオトシゴが抱く海の色を湛えた宝石、まるで海の中の一瞬を切り抜いてきたかのような細緻な彫刻。

 その一瞬の出来事に気が付いた者がどれだけいただろう。

 海神に目を奪われる者、供物を集める者、選ばれた二人に少しでも巫女にふさわしい格好にさせようと躍起になる者達の中、ユラドは確かにその瞬間を目撃していた。

 

「興奮し始めてこの島めちゃくちゃにされたら困りますし、行きましょうか」

 

 プラム達が出発すると同時に、供物を持った人々も港へ向かって移動を始めた。

 

+

 

 ラビは会場を後にし、狩猟島へ出るときに使われる港を訪れていた。

 今日はもう誰もここにくる用事はないはずだと選んだ場所だったが、今は誰でもいいから、とにかく人に会いたかった。

 

 ラビの目の前では巨大な海亀がじっくりと息を吐き出したところだった。

 口がわずかに開き、また閉じる。

 それだけで地鳴りが起きそうなほどに、とてつもない大きさだった。

 

 先ほどまではたった一人、寄せては引いて行く海を眺めていた。

 破られた静寂は亀が滴らせ続ける大量の滝によって戻る事はない。

 腰を抜かして島を見上げていると、浜に向かって人の声が近付いてくるのが分かった。

「だ……誰か……誰か……」

 か細い声を出しながら、尻を引き摺りながら下がる。

 道の向こうからは、先ほどラビを笑った島の者達と、旅人達が現れた。

 ミミルとユクモは筆学所で見た時の服の上に、祭りの時の装束を掛けていて、島民は皆宴で食べていたご馳走を抱えていた。

 

 くらげおばばと村長、ラビの知らないおじさん達が一番前に踊り出る。

 そして、くらげおばばが手を目一杯空に向けて伸ばした。

「海神よぉ!!鎮まりたまえぇ!!供物ならたんとある!!巫女が今こそ届けよう!!どうか、どうか鎮まりたまえぇ!!」

 

 これで亀は狩猟島に戻ってくれるのかと、ラビはすがるように亀を見上げた。

 空にすら届きそうな巨大な顔から表情を読み取る事はできない。真っ直ぐにこちらの方を見つめているようだが、巨大すぎてどこを見ていると正確に捉えることもできない。

 

 そして――オオォォォォオオオオォォォ!

 

 先ほどよりも大きな声で亀が鳴く。

「ひ、ひぇぇぇ!!だ、だめかぁぁ!!」

 おばばが情けない声を出し、頭を抱えてしゃがみ込む。

 周りの島民達は「だめじゃねぇか!」「おばばがこうすれば良いって言ったのに!!」「どうすんだよ!?どうすんだよ!!」とパニックになり始めていた。

「そ、それでも供えるしかねぇ!!」「ユクモ、ミミル!!そっち持て!!」「早く!!」

 

 ラビは周りのパニックに当てられ、逆に冷静になった。

 泣き出してしまっているミミルと、震え上がるユクモが見えると、「あぁ、あの時もっと練習して、<小音(スモールサウンド)>が使えてたら……」そう思った。

 そうしていたら、二人の耳に入る音を少しでも小さくしてあげられたのに。

「<浮遊板(フローティング・ボード)>を使えてたら……」

 そうしたら、重さを感じずに皆を乗せて走って逃げられたのに。

「攻撃魔法を一つでも使えてたら……」

 そうしたら、きっと両親や友の暮らすこの島を守ったのに。

 

「あぁ……違う……!」

 

 違う、そうじゃない。

 何故この後に及んで、まだ魔法なんて。

 生まれてこの方ずっと魔法について考え続けてきたせいで、生命の危険に瀕し、思考がこれまで繰り返されてきたパターンへ回帰している。

 ラビは頭を目一杯振った。

「違う、違う違う違う……!!そうじゃない!!そうじゃなくて――」

「そうじゃなくて、もっと良い魔法が他にある?」

 ふと気付くと、ラビのすぐ隣には旅人がしゃがんでいた。白い不思議な杖を地面に突き立て、抱えるようにしていた。

 嬉しそうに笑い、夕暮れに沈む黄金の太陽を宿す瞳が細められる。

 

 ラビは、まさか魔法があるというならこの状況をなんとかしろと言われているのかと顔を真っ青にした。

「……そ、そうじゃなくて……ま、魔法なんて……」

「魔法なんて、当てにならない?」

「ち、違う。そうじゃなくて……」

「そうじゃなくて?」

「魔法なんて、本当はなくって……」

「本当に?そう思うの?」

「そんなのあったら……だって……おかしいって……」

「どうして?魔法はあるんだよね?」

 

 ラビはもはや泣きたかった。

 いや、泣き始めていた。気が付かぬうちにその頬には涙の跡がいくつも残り、思い切り首を振った。

「魔法なんてない!魔法なんてないんだよ!!僕がおかしかったんだよ!!」

 

 旅人が、うーん?と少し悩むそぶりを見せた時、狩猟島は再び鳴き声をあげた。

 ――オオォォォォオオオオォオォォ!!

 体の向きを変えようとしているのか、足踏み一つで巨大な波が起こった。

 山ほどの高さもある波はまるで海が盛り上がったかのように驚異的な質量をもって浜へ向かった。

 後数十秒で波がここに到達すれば、生きて明日を迎えられる者は一人もいない。

 そして、ラビの育ったホーチャ村や、ほど近いネイソー村、クラゲ畑のあるヨギー農村の家は全て流されてしまうだろう。

 突然時の流れが遅くなったように感じた。

 親達に苦労と心配ばかりかけて、まだ何一つ返せていないのに。間違いに気がついたばかりなのに。

 謝ることすらできていない。

 おしまいだ。

 

 ラビが絶望感に支配されそうになると、それまで少しも狩猟島のことを気にせずにいた旅人が立ち上がり、海へと対峙した。

 

「おかしくなんてない。魔法はある。君、知ってるんでしょう?」

 

 背中越しに言われる。

 死が迫る中、旅人も必死なのかもしれない。

 だが、そんなものを癒す言葉を選べるはずもなく、ラビは思い切り首を振った。

 

「な――ないよ!!だから僕にはどうすることもできないんだよ!!フラミーも、アインズ・ウール・ゴウンも、存在しないんだから!!」

 

 ラビは魔法学の書で読んだ――いや、妄想した神達の名前を思い切り叫んだ。

 肩で息をする。

 旅人はきょとん、と、した顔で振り返っていた。

 

「――失礼ですが、フラミー様と、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下です」

 

 ラビの肩を、旅人の護衛の黒尽くめがポン、と叩く。

 旅人は苦笑混じりの顔をした。

 

「うーん、参ったね。これは私よりアインズさんの方が得意な分野だなぁ。……なんて、私に得意なことなんてほとんどないけど」そう言い、フッと息を吸い込んだ。「――<魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)>・<地割れ(クラック・イン・ザ・グラウンド)>!!」

 

 旅人は向かってくる大波に向かって杖を差し示した。

 その瞬間、ラビ達の正面の水面が広範囲でゾビッと奇妙な音を立てて大幅に下がった。

 まるで水槽の底が抜けたかのように周囲の水が流れ込んでいく。

 一瞬の間を持って大波が到着するも、海底が地割れを起こしトラバサミのように大波に食らいついた。

 波は砕け散り、台風のような猛烈な飛沫がラビ達に降り注いだ。

 

「冷たくて気持ちいい。さて、――<兎の尻尾(バニーテール)>」

 ピョッと音を立てて丸いふわふわの尻尾が旅人についた。

 そして、旅人はグッと膝を曲げると、バサッと毛布を振るような、帆船の帆を張った時のような、巨大な羽音のようなものを残し――飛び上がった。

 

 海を往く蛸のように優雅に旅人は空へ上がっていく。

 未だ砕かれた大波の飛沫が降り注ぎ続ける中、太陽の光が明滅する。

 

 腰を抜かして見上げていると、ラビの隣にいた旅人の護衛が顔を覗き込んだ。

 

「あなたは、どこで魔法の存在を――いえ、フラミー様達の名を知ったのですか?」

 

 ラビは射抜かれるようにじっと見つめられた。

 

「あ、い……あ…………」

 

 言葉が出なかった。

 呼吸すら困難なこの状況で、どうやって思考し言葉を紡げというのだろう。

 

 必死に自分を取り戻そうとしていると、海の底から、空の彼方から声が響いた。

 

「――命短キ哀レナ者タチヨ……。我ガ父ノ背ニ生キ、我ガ背デ狩リ、幸福ノ内ニアッテ尚、何故我ヲ見出サントスル……」

 

 狩猟島の前には、何かが浮かんでいた。

 目を凝らしてもその点が何なのか見えなかったが、大沖太夫が飛んでいると思うような馬鹿はいなかった。

 しばしの間を持ち、狩猟島は目を細めた。

 

「――ソウカ」

「――ソノ通リ」

「――我モマタ島ヘト変ワロウ」

「――我ガ父ガソウダッタヨウニ」

 

 いくつもの間を持ちながら、狩猟島はじっくり話し、そして最後は顔を深くまでおろして最後の言葉を紡いだ。

 

「――フラミー様ノ仰セノママニ」

 

 ラビはその名にハッと息を呑み、狩猟島の顔はそのまま海へ潜った。顔が海に浸かったところには巨大な渦が巻き、いつしか消えた。

 狩猟島の目の前にあった点はこちらに向かいはじめ、次第に大きくなり、姿をはっきりと認識させた。

 

 信じられないほど多くの翼を背に、白かったはずの肌を夜明けの菫色に染めて、旅人は先ほどとは全く異質なものとなり、空から降りた。

 

「話せばわかる人でした。もう大丈夫ですよ」

「た、たび……あの……」

 

 呆然とする島民の間を涼しい顔で進む旅人は、真っ直ぐラビの前に辿り着いた。

「私の魔法、どうだったかな?」

「え、あ……えっと……」

「凄すぎて神様みたいだった?」

 ラビはぶんぶんと必死に頷いた。

「ふふ、そうです!私は神様なんです!」

 旅人は両手と翼を広げて笑みを浮かべた。

 黒尽くめのお付きがワー!と盛大に拍手していた。

 

「……あの……あなたの名前……」

「知ってるでしょう?私の名前」

「じゃあ……本当に……光の神のフラミーなの……?」

 

 ――この本は、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国発足以来、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下と、神聖フラミー魔導女王陛下の力の一端を幅広く記し、国民、並びに友好国国民の生活をより豊かに、安全なものへとすることを目的とした書である。神々は神聖魔導国と、光と闇、生と死を統べる正統なる支配者であり、この世の全ての力は二柱より出し、二柱に帰すものである。

 

 ラビは魔法学の書の前書きを思い出した。

 旅人は嬉しそうに笑って頷いてくれていた。

 

「フラミー様、です」

 黒尽くめが咳払いをする。ラビは自分の頬をつねった。

 

「そんな……夢なの……?」

「夢じゃないですよ。私は確かにフラミーです。あなたは?」

「ぼ、僕はラビ……。ラビ・テランバード」

「そう、ラビ君。魔法はあるかな?」

 

 ラビはゆっくりとその問いに頷いた。

 

「ま、魔法は……ある。あるよ……!」

「そうですね。ラビ君、よく魔法の存在に気が付いたね。誰も使える人がいなくて、心細かったでしょう」

「っ……。はい……はい……!」

 気付けばラビはまた泣いていた。腕で目元を抑え、鼻水を垂らして泣いた。

 

「<小音(スモールサウンド)>も、<浮遊板(フローティング・ボード)>も、確かに存在する魔法だよ。これはどこで知ったの?」

「ま、魔法学の書を……前に拾ったんです。でも、外の字は僕にしか読めないから、だから、誰も信じてくれなくて……。あ、あの、他にも色々。エ・ナイウルのワインのラベルや、トーノチームとかいう画家の絵とか、マーヨの手鏡とか、後は、楽霧っていう落款の押された茶碗とか、後は、後は――とにかく、たくさん!あの、これって、魔法ですよね……?」

 フラミーはふむ、とわずかな時間思考した。

「ラビ君だけがうちの国の字を読めるとすると、生まれながらの異能(タレント)かも知れないですね。魔法とはまた違うものだけど、魔法の一種って言えるかもしれない。――良い力を持ってるね」

 

 嘲笑われ続けたラビの胸に、大きすぎる感情がつかえる。

 そのまま感情は波となって喉から飛び出して行った。

 

 狩猟島へ続く港には宴に来ていなかったたくさんの島民達も集まっていた。

 

 逃げ出して行った鳥達が何事もなかったかのように狩猟島へ戻っていく。

 皆雛を狩猟島の背に置いて行ったのだ。

 

 人も鳥も獣も、我が子の無事を抱きしめた。




亀じゃ背中もଳଳଳଳくらげだらけなわけだよ……!!

これは男爵のせいいっぱい( ;∀;)つ
【挿絵表示】

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