もう嫌だ。
もう死にたい。
もう耐えられない。
泥沼の心の中を必死にもがく。
ナツは、里の皆に、食われた皆の遺品を持ち帰ることを一つの道標にして今まで生きてきた。と、いうことを思い出した。
自分がどれだけの時間をこの集落の檻の中で過ごしたのかは、もはや分からない。
だが、皆の遺品は壊された。
誰かの服一つだけが悪くなったりしないように毎日毎日違う服を着た。何が何だか分からなくなってからも、体が違う服を着ることを覚えていた。
今になって、ボロ切れに成り下がった布を見ると、全ては色褪せ、薄くなって今にも破れそうだった。
雑巾の方がましなような有様だ。
ナツは悟った。
トラ吉や皆が生きているなら、いつか助けに来てくれると信じてきたが、皆もうナツは死んだと思っているだろう。
布がこんなに色褪せて、薄くなって。
それだけの年月が経ってしまったのだ。
里に帰れば、この間、雲を食べたと言っていたカツ太が生きているだろうし、トラ吉だって生きている。
もしかしたら、皆もっと不老不死になって、ナツの祖父母も、皆いるかもしれない。
だが――母の顔すらもうおぼろげだ。皆の顔ももう忘れてしまった。
なんなら、自分がどんな顔をしているのかもよくわからない。
嫌でも時間の経過を思い知らされた。
今はあれから一体何年が経ったのだろう。
最初から不老不死の雲なんか食べたくなかった。
こんな場所で不老不死なんかになりたくなかった。
同胞を殺し、貪り食う野蛮な生き物の中で飼われるなんて。
同胞の肉を喰らい、殺される様を目の前で見せつけられて生き続けるなんて。
――そう言う気持ちを思い出した。
ずっと忘れていた。
長らく聞くこともなかったトラ吉の名前を聞くまで、忘れていたのだ。
仲良くしてくれる優しいオオカミさん達。
私には牙も爪もないのに、こんなに良くしてくれる。
幸せだ。
そう思ってしまっていた。
ナツ本人は自覚がないが、長い時間孤独と恐怖に彩られた十数年間は、ナツの精神を破壊するには十分だった。
ストックホルム症候群に陥った彼女は、
そう精神を変容させなければ、もはや死ぬしかなかっただろう。
生きるための、ある種の生存戦略。
ナツはそうやって自らを偽り、今日まで生きながらえてきたのだ。
だが、正気に戻る――その時は唐突に訪れた。
ナツは気を失ったように眠り、同胞の目玉や脳みそを食わされた日のことを夢の中で何度も見せられた。
知っている者もいた。
知らない者もいたが、見かけたことがある者もいた。
皆生きたまま逆さにつれて血を抜かれ、痛みにもがき苦しみながら死んでいった。
そして、皮を剥がれ、骨を砕かれ、肉を裂かれ、全ては食べられてしまった。
もしくは、その辺に皮を剥がれた状態で打ち捨てられ、全身にウジが沸いていた。
耐えられない。
もう耐えられない。
夜明け前、ドレヴァンが心配そうに檻を覗き込んだ。
「ナツ、大丈夫か?食事を持ってきたぞ?」
この虫籠のような家にそっと食事を置いていく。
ナツは寝たふりを続けた。
「どうだ、ドレヴァン」
「あぁ、サイオーバ。まだ寝てるみたいだ」
「夜中に起きたから疲れたんだろう。そっとしておいてやろう」
二人はごそごそと檻の中で何かをした。
早く出ていけと心の中で祈る。
「服はどうする」
「気に入っていたんだ。勝手に捨てない方がいいだろう」
そう一言二言交わし、二人はすぐに檻を出ていった。
日が昇りだし、
ナツはようやく布団から顔を出した。
「……なんでよ」
ナツの視線の先には、三食分の豪華な食事と、二回のおやつ。
さらに、修理されたタンスと、新しい鳥籠。
襲撃された昨日の今日で集落中の家が復興しきっていないことなど見ればわかる。
皆悪魔達に家中めちゃくちゃにされたのを直しきれていない。なのに、ナツのタンスと鳥籠は一番に直してくれた。
ナツは頭を掻きむしった。
もはや、顔も覚えていない同じ
だが、こうして同胞の仇に飼われ優しくされ続けることも堪らない。
ナツは決めた。
飼っている鳥のピスケが入る新しい鳥籠を開け放つ。
ピスケは鳥籠から外を眺め、右へ左へ首を傾げていた。
「……行って。自由に生きて」
ナツがピスケを籠から取り出し、空へ向けて飛ぶことを促す。
手の上で数度跳ねたピスケはついには翼を広げて飛び立った。
――が、すぐに籠に戻ってしまった。
「な、なんで。自由なのよ?あんたにも親や兄弟くらい……」
ピスケはナツをまっすぐ見ていた。
「……私を親か兄弟だと思ってくれてるの……」
籠から出てきたピスケはナツの肩に飛び乗り、調子良さそうに座り込んだ。
ナツの目頭に熱いものが浮かぶ。
「……おしまいまで、そばにいてくれる?」
ピスケはチュンチュン鳴き声をあげた。
ナツはピスケを肩に乗せたまま、引き裂かれた服を一つ一つ集めた。
へたった服達は強い力が掛かれば破れてしまいそうだと言うのに、なぜ今まで気が付かなかったのだろう。今日までずっと、頭の中にもやがかかって、霧の中を生きているようだった。
ナツはボロボロになった服から、糸を一本づつ抜いて束にした。
太い太いロープになると、それで髪をくくり、数度深呼吸する。
思い返しても碌でもない人生だった。
たった六つの晩。家で親兄弟と寝ていた。
家の裏に立つ
あの時厠になんか行かなければ――何度そう思ったか知れない。
だが、後悔しても過去は変わらないし、もう戻ることもできない。
ここで生き続けるしかない地獄にどれだけの未練があるだろう。
ナツはここに囚われ、初めて檻の扉へ向かった。
良い
扉は、錠前を掛ける部分があるが、もはや錠はかけられていなかった。
外に手を出し、外にだけあるノブを捻る。
ほどほどに手入れがされている檻は何の抵抗もなくキ……というわずかな音だけを上げて開いた。
ドレヴァンは昔は確かにこの扉に錠をかけていたと思う。
ナツの心が閉ざされ、ナツの全てが上書きされた頃。
朝までナツと語らう
子供の
ナツの檻は、普通の家と何ら変わりなく、皆自由に出入りのできるものになっていた。
自由を与えられるナツが出ていかない事を、
ナツは六歳の時以来、初めて檻を出た。
肉付きの良い足は恐怖からガクガクと震え、檻によって線が引かれていない景色に涙した。
そばで草が揺れる。
ナツは転げるように檻に戻り、蹲った。
ただの鳥だった。
全てを取り戻したナツには、血祭りにあげられる恐怖が鮮明に存在した。
自由があるというのにまた檻に戻った自分を、ピスケに重ねてまた泣いた。
だが、ナツは決めたことがある。
やらなければならないことがある。
再び震える足で檻を出た。
ピスケはナツの側をとことこと両足で跳んで歩いた。
檻から離れれば離れるほど不安感は強くなった。檻のことを心の底から家だと思っているのだ。
本能が囁く。
家に戻って休もう。
あそここそが私のいる場所。
少し寝れば気持ちも落ち着くよ。
ナツは必死に本能の甘い呼びかけに蓋をし、数々の同胞が小さな籠のような檻に詰め込まれ、手足を落とされて飼われていた倉庫へ向かった。
倉庫の入り口にかかる動物の皮を暖簾のように手で押し除け、小さな体で音もなく侵入する。
中は鼻がもげるほどに血生臭かった。
ヌークの肉がいくつも吊り下げられている。
悪魔達はここも襲ったようで、辺りは散らかり切っている。
お目当てのものを探す。
あの日、あの時、あの場所で見たアレを。
ナツは銀色に輝く巨大な包丁を手にすると、それに映る自分の顔を見た。
「……大人みたい」
お姉さんの顔になった自分をはっきり見たのは初めてだ。
飲み水に映る顔はいつもゆらめいていたから。
ナツは自分の体ほどもあるような巨大な包丁を手に、ピスケを従えて倉庫を後にした。
そして、檻から一番近い
この家の
ナツはこれまで引きずっていた包丁を必死の思いで肩に担ぎ上げ、そうっと家の中へ入った。
初めてみる
木のウロのような家なので、決して広くない。物をあまり多く持たない生き物なのか、散らかされていた割にはある程度の水準まで片付けられていた。
だが、床に置かれたままの物もあるので、それを蹴ったり踏んだりしないように極めて精神を集中して気を付ける。
ワンルーム状の家は、一番奥で母親と子が寄り添って寝息を上げているのが一目で見えた。
そのままナツは二人へ近づいた。
コナツ人形を幸せそうに抱きしめて眠る子供。
まだナツと話すと言っては、母親にもう寝る時間だと引きずられて帰って行っていた。
よく友達に、ナツの一番そばに暮らしているのは僕なんだと自慢しては嬉しそうにしていた。
ナツは子供――チェキータから視線を動かす。
そして、持ってきた包丁を両手で握り、高く振り上げる。
目指す先は、チェキータに腕枕をして眠る母親の首。
ナツは母親がよく持ってきてくれた花の匂いを思い出していた。
母親が「うん……」と声を上げた時、その匂いがしたから。
ナツは母親のことが好きだった。
振り上げたまま、包丁を下ろすことができない。
なんと言っても、チェキータのことを生む前、まだこの母親が乙女であった頃。
よくナツのところに恋の相談に来たのだ。ナツは恋を知らないが、幸せそうに好きな人について語る姿を今でも覚えている。
なんなら、彼女が生まれた日に彼女の両親がナツに彼女を見せに来てくれたことも。
そして、彼女の両親がまだ幼子でナツの牢の周りを駆け回っていたことも。
――そこまで思い出し、ナツは包丁を下ろした。
ドチュッと音を立て、血が飛び散る。同時に、ピスケは飛んで逃げて行った。
チェキータ――子供の
昼間は明るすぎる。
瞳孔がキュッと小さくなり、子供は自分の隣に転がる、母親の生首と血をピューピュー吹き出す胴体を見た。
「あ……え?え?え?え?え?おか――」
次の瞬間、子供の首が飛んだ。
日中やることがなかったナツが精を出したことといえば、筋トレと食事とピスケの世話。それから、集落の
子供の顔は驚愕の形のまま床に落ちた。
ナツは嬉しそうに笑い、再び包丁を肩に担ぎ上げた。
アインズとフラミーは宿屋の窓から持ち込まれたマジックアイテム達を見下ろした。
美しい絨毯が敷かれ、その上に五つのアイテムが並んでいた。
パンドラズ・アクターが一つづつアイテムを手にしていく。
一つ目は光を放つ不思議な骨。
「――こちらは、光苔だけを食べ続けた偏食のヌークが死ぬと取れる骨のようです。光り続けるマジックアイテムなので冒険者達は喜ぶでしょうが、不老不死とは無関係です」
「そうか。次」と、アインズ。
パンドラズ・アクターは骨をちゃっかり自分のスペースにしまってから、二つ目――真緑の石を手にした。
「こちらは良い森に稀に生まれる魔石の一種のようです。魔法の力は宿していますが、マジックアイテムというほどではありませんね。
複数個手に入れるのは難しそうですが、と言葉を付け加え、こちらは元の場所に戻された。
持ち帰ったデミウルゴスの悪魔は恥いるように指先をちょんちょんと合わせた。
「次だ。次」
アインズの催促により、パンドラズ・アクターは三つ目のアイテム――と言うより、一枚の羽を手にした。
「こちらは……ほう」
まじまじと羽を見つめる様に、まさかついにとアインズはごくりと喉を鳴らした。
「こちらは、<
「ほう?<
アインズが身を乗り出す。<
「飛空挺計画には使えそうか?」
「は!それは難しいかと思います!」
「何故だ。せっかくの良いアイテムだというのに」
「こちら、<
アインズはがくりと肩を落とした。
そうなのだ。この世界では物が自然とマジックアイテム化する事がある。
騎馬王の矛などはその筆頭だが、あれほど意味も価値もあるマジックアイテムは自然にはそうそう生まれない。
冒険者達はどんなマジックアイテムでも大喜びをして魔術師組合に鑑定に行くが、本当に役立つ一攫千金のアイテムは中々出会えない。
「……次」
アインズが促すと、パンドラズ・アクターはあんなものをどうするのか、羽をやはり自分のスペースにしまった。
四つめは枝だ。
見た目は極めて地味で、全く期待できない。
結局、森の中で自然とマジックアイテムになるようなものはこの程度なのだ。
「こちら、装備すると魔力が三上がる杖でございます」
「……そうか」
「これは魔杖を作る者達に素材として渡せば相当喜ばれます。冒険者達には良い
いわゆる、冒険者が発見できていたらいい収入になる物ではある。
「適当に売って神殿の資金にしてやれ」
「かしこまりました」
パンドラズ・アクターは腰からしっかりと頭を下げて「さて……」と、最後のアイテムに正面から向き合った。
「……これは大きいですね」
最後のアイテムは高さがアインズの背ほどもあり、幅と奥行きはフラミーが両手を目一杯広げたくらいある。
とにかく大きな箱だった。
パンドラズ・アクターはまず鑑定をした後、そっと扉を開けた。
中からは冷気が漏れ出た。
「こちら、マジックアイテム、冷蔵庫でございます」
「その、ようだな」
悪魔達は森の中の誰かの冷蔵庫を強奪してきたらしい。中はわずかに汚れていて、つい先ほどまで使われていた雰囲気がひしひしと感じられた。
「……やれやれ。これは返さねばなるまい」
人のものを盗るなと言わなかったので、悪魔達はきちんと仕事をしてしまった。いや、これがもし不老不死の霧を生み出すアイテムだったら、人のものだろうがなんだろうが強奪してきて正解なのだが。
だが、ここまで徹底してモノを探せる悪魔達だというのに、肝心の不老不死のアイテムは見つけられていない。
フラミーはパンドラズ・アクターの説明が一通り終わると、部屋の隅でもじもじしていた悪魔を呼んだ。
「それで、どうかしたんですか?あなた」
ちょいちょいと手を触れば、悪魔はフラミーの足元へスライディングして駆けつけた。
「ギェギェギェ。ギョ。ギョーギョ」
「ふむふむ」
アインズはフラミーと悪魔のやり取りを眺めながら、ついこの間あったことを思い出していた。
その日、アインズは久々にフラミーを連れて食堂へ向かった。たまには皆と食事をとるというのも悪くない。
食堂に着くと、当然のようにメイド達や男性使用人達が畏まってしまった。
が、いつも通り過ごすようにと告げ、メイド達に倣ってビュッフェ台に並んだ。
フラミーと共に食べたいものを選んで取っていると、ふと後ろから聞こえてきたのだ。
「今日も疲れたなぁ」
「イー!」
「お前、仕事中か?」
「あ、いや。俺も今は休憩中だ。癖でな」
「ははは。まぁ、なくはないけどなぁ」
イー!以外の言葉で喋っている男性使用人二名の存在にそれはそれは驚いた。
そして、遠くから「おーい!飯だぞー!」と呼ばれた瞬間――。
「イー!!」「イー!!」
二人揃っていつもの返事をした後、二人は目を見合わせた。
「……いや、癖で」
「……癖だな」
そう言い残し、二人は食堂の奥へ消えていった。
あの二人のことを思うと、悪魔も本当はギャギュギョ以外も話せるのだろうかと思ってしまう。
アインズが思考しているうちに、悪魔からフラミーへの全く分からない報告は終わった。
「殺生を禁じられているせいで回収できないアイテムがある?」
フラミーが確認すると、悪魔は申し訳なさそうに頷いた。
「ギャ!ギャギャ」
「さっさと殺して集めちゃおう?うーん、まずは一応現場の確認をしてからかなぁ。ねぇ、アインズさん」
「ですね」
一行は日が昇る前だと言うのに出発した。
悪魔の先導に従い、深い森を行く。
アインズは闇を見通す目を持つ骨の身に戻っているが、フラミーやパンドラズ・アクターなどはそうではないので、杖の先に
ツアーの鎧も一応付いてきているが、眠いのか一言も漏らさなかった。
夜の森は久々だった。
一番に思い出されるのは、漆黒の剣と行ったこの世界初めての冒険。
空を見上げれば、木々の間から天の川のように星空が見える。
木に阻まれ、月の光は届かない。
鬱蒼としていた。
アインズもフラミーも、この世界に来て身近になった夜の森の匂いを存分に楽しんだ。
森は夜でも決して静まり返ることなく、あちらこちらで爬虫類の声や、猛禽の鳴き声、虫達の合唱が聞こえてくる。
何者かが足元をすり抜ける音、葉が落ちる音、川のせせらぎ。
心地よい騒がしさだった。
悪魔は黙って飛んでいたが、夜明けも近くなる頃、羽ばたきをやめて倒木の上に降り立った。
闇の中で赤く妖しく光る瞳を空の方へ向け、指を刺す。
一行は示されたものと目があった。
鳥だ。妖怪のように大きな鳥だった。
赤と緑の羽を持ち、目玉のような模様のつく長い長いしだり尾をたらし、はっきりと睨み付けてきている。
不思議と八方全てを見渡しているように感じた。
「――こいつが隠し持っているのか?」
アインズが尋ねる。
悪魔が答えるより早く、パンドラズ・アクターが首を振った。悪魔の言葉はアインズには分からないためだ。
「違います」
早く持っている者のところへ連れて行け、と思っているとパンドラズ・アクターが言葉を続けた。
「――この者の体内にあります」
「何?」
アインズとフラミーは目を見合わせた。
「腹をひらけば出てくるのか?」
「なんとも言えません。この者、アイテムと癒着といいますか……結合といいますか……ともかく、一体化しているような気配があります。この鳥そのものがアイテムになりかけているのです」
鳥はふぅー…………と長く霧を吐いた。
「こ、これは」
デミウルゴスが霧の行方を目で追う。鳥は口を閉じ、再び一行を睨みつけた。
霧は少なかったせいか、ただの吐息だったのか、霧散して消えた。
「馬鹿鳥め。アイテムを飲み込んだか……」
さてどうしたものかと思っていると、夜が明け始めた。
「――アインズ様。じきにマチとナオ、トラ吉と約束している時間になります」
デミウルゴスの言にアインズは「む」と声を上げた。
アインズ達が現れなければ勝手に自分達で探しに行くだろうが、約束した手前、社会人として何の連絡もなしにキャンセルも憚られる。
アインズは
「デミウルゴス、悪いがお前はトラ吉達の所に行ってうまく伝えてくれ。追ってまたこちらから連絡する」
デミウルゴスが静かにアインズを見詰めてくる。いつもの自分よりも遥かに高位の存在が放った婉曲な言い回しの真意を探っているときの顔だ。
違う、デミウルゴス。うまく伝えろとはただの遅刻を詫びるいい言葉という意味なんだ。遅れちゃうからごめんねと――ただ、そう伝えて欲しいだけだった。
「かしこまりました。そういう事でしたら、あちらのことはお任せください」
丁寧に頭を下げ、デミウルゴスは
アインズは自分の言葉って足りないのかな、そう思いながら
「――アインズ、鳥が動くようだよ」
ツアーは夢現から抜け出したようで、はっきりと伝えた。
「む、そうか。とりあえず捕縛するか……――いや、まだ泳がせた方がいいな」
「すぐに捕らえないのかい」
「あぁ。アイテムと同化しているんだから、あれを飼うことがアイテム回収に繋がるだろう。多少の生態――何を食べるのかくらい確認しておいた方がいい」
鳥は翼を大きく広げると、巨大な羽を何度も羽ばたかせてから飛び立った。
「先に行きます!」
フラミーも飛び上がり、鳥と同じ高度で飛んでいく。
アインズは飛ぶか悩み、パンドラズ・アクターとツアーが飛ぶ魔法を持っていない事を思い一歩出遅れた。
走って行けばいいと思っていたパンドラズ・アクターは、アインズが飛び上がらない様子から即座に獣王メコン川の姿を象った。
アインズの胸をドキンと懐かしさが打つ。
パンドラズ・アクターは獣王メコン川の持つ
アインズ、ツアー、パンドラズ・アクターの足元がもりもりと盛り上がり、土塊は三頭の大きなライオンの姿へと変わった。
立て髪はそこらへんの草でできていて、体も土でできている。
「お乗りください!」
「助かる」
三人がそれぞれ土のライオンに跨ると、ライオンは木々を避けて駆け出した。フェンリルの持つ土地渡りに似た機能を持つため、進路を塞ぐ枝や蔓に進行を阻害されない。ただ、フェンリルと違ってこのライオンは自分が生み出された土の上でしかその効果を発揮することはできないし、存在もできない。
例えば草原で使えば、近くの水場に寄ると土塊に戻ってしまうし、街道そばの土で生み出せば、一歩でも街道に触れると土塊に戻る。
これにはユグドラシル時代何度か跨ったが、皆いつも「なんでライオンなの?」と言っていた。
もっと足の早そうな生き物や、跨ることに向いている生き物がいるだろうと総ツッコミを受けていた。
アインズはゲーム時代に想像していたよりも、よほど乗り心地の悪いライオンに苦笑した。
そして、やっぱり「なんでライオンにしたんだろう……」と運営に疑問を抱いた。
夜明けを迎えた空から、フラミーの翼の煌めきが降り注ぐ。
「――アインズ!!」
ツアーから切羽詰まった声が響く。
「なんだ!」
「血だ!強烈な血の匂いがする!!」
「な、なんだって?」
メコン川の姿のままのパンドラズ・アクターも、スンスンと鼻を鳴らした。
「これは……肉食獣の食事とか、そう言う量の血の匂いではありません」
アインズも真似て辺りの匂いを嗅いでみるが、何も感じない。
「戦か……?」
「分からない。だが、恐怖の匂いがするぞ……!」
「鳥は真っ直ぐ血の匂いへ向かっています!」
それから何分も走らないうちに、アインズは強烈な死の匂いを感知した。
「これは――」
たどり着いた場所は、集落だった。
辺り一面が血に塗れ、銀色の二足歩行の狼達がまさしく今、首を刎ねられたところだった。
アイテム見つからないと思ってたら食べられちゃったんですねぇ。
って、ナツ……。
最後に引き留めてくれるはずの、
そして、挿絵をいただいて大喜びで早速載せた男爵ですw
【挿絵表示】
をっとっと様ありがとうございます!!
眠夢は常に挿絵を大募集してます( ´∀`)
しばらく貰えてなかったせいで、自分で描いたんだからね!!(?
次回#161 血の色
明日の予定です!!