フラミーによってドレヴァンの腕が直されると、捕獲魔法で動けなくして転がされているナツは一層吠えた。
理性的にアインズに礼を言う
パンドラズ・アクターはさて、と鳥を鑑定し始め、ツアーもそのそばに寄った。
「本当にこの鳥の中にリーダーの持ってきたアイテムはあるだろうか」
「お調べいたしますので、お待ちください」
二人が鳥に集中する隣でフラミーはデミウルゴスのいる場所目掛けて
デミウルゴスは今、森の中にいる。
「デミウルゴスさん、よろしくお願いします」
「は。お待ちしておりました。さぁ、君達も」
立ち上がったデミウルゴスが促す。トラ吉、マチとナオもよっこらせと腰を上げてから頭を下げた。
マチとナオは昨日に比べ、随分と多くの荷物を背負っていた。ただでさえ大きい背負子の他にもカバンをいくつも持っている。
「今日は大荷物ですね。持ち切れます?」
「なんとか!今日でもう解決して家に帰れるって、デミウルゴスさんに言われたんでね!宿の清算も済ましてきましたよ!」
マチが嬉しそうに荷物を背負い込み、ナオも重そうな荷物を嬉しそうに抱えた。
ふと、デミウルゴスの笑顔が深くなったのをフラミーは見逃さなかった。
(……ん?)
小さな違和感を抱いたが、多くのことは考えなかった。
「それで、お妃様。アイテムは見つかりましたかい?」
「あ、えぇ、無事に!ただ、雲を発生させる方法とかは今調べさせてますから少し時間がかかりそうです。すみませんね」
「ありがとうございます!いやー、王様達に会えてほんっとに良かった!なぁ、ナオ!」
「あぁ!マチ兄!」
ガヤガヤと
何のことか分からない。
フラミーはとりあえず笑顔を返しておいた。
すっかり
この場所はまだ血の海だ。
あまりにも濃密すぎる血の匂いは普通なら吐き気を催してもおかしくはない。
「こ、こ、これは……こんな……何が……」
「おぇえー!!おえぇーー!!」
「ひぃ、ひぃえー!!」
トラ吉が口をぱくぱくさせる横で、マチとナオが吐いたり叫んだりする。
すると、ナツが大声を上げた。
「ハ、
嬉しそうにナツが叫ぶと、デミウルゴスは蛆を見るような視線を向けた。
「……なんでしょう?あちらの下等な悪魔は」
「ちょっとうるさいですよね。少し前までは
「そうでしたか。それはそれはまた随分いい趣味をしています」
デミウルゴスの言葉に、怯え切ったマチとナオは「そ、そんな残酷な!?」「本当にいい趣味しやがって!」と怒りを露わにした。
話すマチとナオをかき分けるように、トラ吉は立ち上がった。
「君は……?」
「同胞!私は仇を取った!!だが、もっと殺さなくては!!私を助けろ!!私を逃がせ!!」
「似てる……」
よろよろとトラ吉が近付くと、ナツは一層叫んだ。
「私の拘束をやめさせろ!!あいつらに、私の復讐の邪魔をやめさせろ!!」
デミウルゴスが「本当にやかましいですね……」と呆れた声を出すのも、トラ吉には聞こえなかった。
肌の色は赤銅色だし、こんなにあの子は大きくなかった。
それでも、忘れもしない幼かった玄孫の顔と、目の前の生き物が重なって仕方がない。
声だって――。
「なんで説得しない!!早くしろー!!」
トラ吉は近付きながら、忘れたくても忘れられない、いなくなってしまった愛し子の声を鮮明に思い出す。そう、トラ吉は死んでしまった身内を一人も忘れてはいない。
『おじいちゃん!おじいちゃんは世界一のおじいちゃんよ!ナツ、おじいちゃんの玄孫でよかった!私もトラ吉おじいちゃんといつまでも生きてたいなぁ!』
『痛いよぉー!おじいちゃん、おじいちゃーぁん!!転んじゃったよぉー!!』
『なんで今食べちゃいけないの!!おやつ食べたい!!食べたい!食べたい!!食べたいー!!』
無垢に笑っていた顔と、泣いた時の顔、地団駄を踏んで怒った顔、どれも鮮明に思い出された。
「ナツ……」
動けなくなっている様子の顔の前にしゃがんで、頬を撫でると、ナツはぴたりと叫びを止めた。
「……だれ?」
トラ吉はもしや人違いかと思ったが、それでも語りかけた。
「わしだよ……。トラ吉だよ……」
「トラ……吉……おじい……ちゃん……」
ナツはこぼれるほどに目を見開き、トラ吉を頭からつま先までよく観察した。
たった五歳までそばにいた、誰よりも誰よりも尊敬していたトラ吉。顔も声も忘れてしまっていたトラ吉。
ナツはその懐かしく優しい声に、まるで全てを思い出すかのように大粒の涙をボロボロと落とした。
「お、おじい……ちゃん……」
「あぁ、そうだよ。わしだよ。トラ吉じいちゃんじゃ」
「お……おじいちゃん、私、私ね」
「うん……うん……」
「ずっと……ずっと待ってたの……」
「そうかい……」
「いつまで経っても来てくれなくて、本当に怖かった……」
「すまなかったね……」
「でも、トラ吉おじいちゃんは助けに来てくれるって、分かってたよぉ」
ナツが泣きながら笑うと、トラ吉は引き起こしたナツを抱きしめて慟哭した。
集落中を付き抜けるほどの声をあげて泣き、ナツは嬉しそうにトラ吉に身を任せた。
「なるほど、そういう事ですか」
デミウルゴスはふんふん感心したように頷いていた。
そして、デミウルゴスの到着に気が付いたアインズはドレヴァンとの話を切り上げた。
軽い挨拶を交わし、血の海を平気で踏み締めたアインズは膝をつこうとするデミウルゴスをすぐに押し留めた。
「あぁ、良い。ここはお前が膝をつくに相応しい場所じゃない」
「恐れ入ります」
腰から頭を下げる。アインズは「それで……」とマチとナオをちらりと見た。
マチとナオはナツとトラ吉の再会に感激して二人で泣いている。
デミウルゴスは眼鏡をスッと押し上げた。
「
「……そう」
アインズはやっぱり自分の言葉は足りないのかもしれないと気弱な声を出した。
だが――今はそれで
「……んん。処分は待て。お前には一つ大きな仕事を頼みたい」
デミウルゴスは即座に膝をつき、頭を下げた。せっかく付かなくてもいいと言った膝は血の海にパシャリと落とされた。
「は!このデミウルゴス、どのような命であっても成し遂げることを誓います」
「期待しているからな。あちらの悪魔だが、つい数時間前まではただの
「は、フラミー様より伺いました」
「そうか。これも聞いたかもしれないが念の為言っておく。あれは殺戮を重ねて
「実験されますか」
「あぁ、誰にも勘付かれないようにな。
「長年の幽閉、同種喰い、苦悶と絶望……ございますね。かしこまりました。それでは――実験してみましょう」
デミウルゴスはこの世にこれほど邪悪な笑みがあるのかと思わされるほどに、悍ましい笑顔を作った。
そして――
「アインズ様、マチとナオにはその役目を?」
「――ちょうどいい、とお前も思っただろう。ナザリックに楯突いていない者をどうこうするのは趣味ではないが……糧になってもらおう」
「かしこまりました」
その後、
信じられない惨状を前に、聖典達とは言え気分を悪くした。
死体の片付けは、本来ならば大量にスケルトンを導入すると感情もなく早いのだが、これだけの死の直前の感情が充満した場所ではアンデッド化が危ぶまれ、たった二体のスケルトンが手伝いに入れられた。
片付けは難航したが、数日もすれば集落はある程度の落ち着きを取り戻した。
ドレヴァンとサイオーバは、ツアーに何度も釘を刺され、仲間達が死んだことを悲観しすぎないようにした。
何の意味もない死だったと落ち込みそうになっては、お互いを励まし合った。
「神聖魔導国が繁栄を約束してくれた。彼らがここに辿り着くためには、必要な犠牲だったんだ」
この言葉は二人の心を大いに癒した。
集落は確かにこの後発展していけるという確信があった。
ドレヴァンとサイオーバは一週間ほど旅に出たのだ。
エ・ランテルや地下都市のパクパヴィル、トロール市や夏草海原、沈黙都市周辺に無数に存在する亜人や異形達の集落をコキュートスに連れられて見てきたのだ。
伝統を守ったありのままの姿で繁栄の時を迎える種族達、それを離れて新たな生活に馴染む者達、皆が幸福そうだった。
良き神であると話も聞かせてもらった。
集落には誰も住まない寂しい家がいくつも並んでしまったが、いつかはそれも埋められるだろう。
ドレヴァン達は前を向く力を集落にもたらした。
そして、集落には大きな冷蔵庫がさらに一台用意された。
パンドラズ・アクターが綺麗にしてくれた冷蔵庫の他に、「食材を無駄にしないその精神を神王陛下は大いに評価されています」と言って、神直々に下賜されたものらしい。
それには冷凍機能もついていて、子供達はよく氷を作っては舐めて喜んだ。
いなくなってしまった人の分も生きなければ。
狂ってしまったナツの分も生きなければ。
ナツの檻がなくなった広場はもの寂しかった。
今でも、その場所にはナツの人形が置かれ、人々は夜寝る前に花を手向けたらしい。
彼らなりの愛は確かに存在していた。
皆「寝ている時に誰かが見守ってくれている」という安心感を、いつまでもいつまでも、懐かしく思ったらしい。
皆の大切な大切なペットは、罪を償うために神に連れて行かれた。
マチとナオは再び
辺りは見たこともない草原だ。綺麗なところだが――不思議と背筋が薄ら寒くなる。
この王達の魔法があれば、きっと里までもすぐに帰れるに違いない。
帰り道は楽ちんだと思い、つい土産を買い込みすぎた。
あの辺りでよく採れる山菜は香りも歯応えもよく、里の近くでは採れない。
病気の父もきっと喜ぶだろう。
二人はお互いが買った物を「これがな」「あれがな」と見せ合っては嬉しそうに笑った。
「しかし、ここはどの辺りだろうなぁ」
「森を通らないで帰る道かね?」
帰りに食べようと思って買っておいたおにぎりを一つ取り出して齧り付く。
うまい、うまい。
そして、もう一度
目立ちすぎる赤いスーツのデミウルゴスと、なんとも目のやり場に困るカラス頭の女、それから大きな本を大切そうに抱いた少女。
「デミウルゴスさん、待ってましたよ」
「それで、不老不死の雲は?」
デミウルゴスは「やあやあ」と二人のそばに寄って来ると、大きな葛篭を見せてきた。
「お待たせしました。こちらがお約束の雲です。今回はアインズ様とフラミー様にお手伝いいただきありがとうございました。お二人ともとても感謝されております。特に、アインズ様はこれからの事も深く感謝されておりましたよ」
二人は嬉しそうに背負子の蓋を開け、雲をもらう準備をした。
「いやいや、こちらこそ!親父が悪くなる前に持って帰ってやれそうだ!」
雲はまだかまだかと期待していると、デミウルゴスは場所を譲った。
「雲を。
「はい」
大きな大きな葛篭が差し出され、それは開けるともうもうと霧が流れ出した。
霧がある程度流れ、中が見れるようになってから、二人は慎重に雲を掴んだ。
「そっとそっと」
「消えちゃ大変だ」
丁寧に丁寧に背負子にうつし、静かに蓋をする。
それだけの作業だが、二人は汗を拭った。
「助かったよ。それじゃ、帰ろうかね」
「マチ兄、気をつけて持てよ」
ナオはマチが背負子を背負うのを助け、自らの支度も済ませる。
「さあ、帰り道はこちらです」
デミウルゴスは手の中で
二人は意気揚々とそれを潜った。
その後、二人はデミウルゴスと本を抱いた少女を伴って無事に里に帰り着いた。
父親の病気は随分と進行していたようだが、雲を見せるとやつれ切った顔で笑った。
早速雲を、と食べる前に本を抱いた少女が本をバラバラと開き、ぴたりと一つのページで手を止めた。
ボウっと本が光り、聞いたことのない作り物じみた音声が流れる。
そして、少女は告げた。
「…………
もう良いだろうかと三人は目を見合わせ、父親は雲を一飲みにした。
父親の顔色は途端に良くなった。
そして、再び少女は本に触れた。
「…………仙人、レベル三」
デミウルゴスと少女は頷き合い、「それでは」と短い挨拶を交わして帰って行った。
王達ともあまりしっかりと別れは言えなかったが、あちらとこちらでは身分が違いすぎる。
別れを言う事すら烏滸がましいのかもしれない。
父親はすっかり良くなった体で、その日から里のために再び働き始めた。
田は増やされず、里は現状の幸福を維持した。
これからも幸せは続いていく。
誰もがそう思った。
だが、父親は再び病にふせた。
以前罹っていたものが再発したのか、はたまた新たな病なのか、マチとナオには分からなかった。
確か、
何かいい薬を持っているかもしれない。
マチとナオは再び旅に出た。
しかし、行けども行けども、里の近くの森を越えることはできなかった。
その異常事態に気が付いたのはマチとナオだけではなかった。
誰が里を出ようとしても、近くの森までしか出る事はできず、気がつくと元の場所に戻ってきてしまう。
何かが起こっている。
だが、解決方法が分からない。
里の者達は混乱したが、出ようとしなければこれまで通り暮らせるし、田も元気に育っていると、いつしか皆が里の脱出を諦め、「この悪さをしている狐の寿命が尽きるのを待とう」と言うことで議論は打ち切られた。
皆、マチとナオが雲を持ち帰ったせいではないかと思ったが、口にした者はいなかった。
次第に、里には子が増えて行った。
――食うものが足りない。
物乞いに里を出る事もできない今、田を増やさなければ誰かが死ぬ。
里長であるマチとナオの父は未だ病に伏せ、生きながらえている。
手も足も自分では動かせない地獄の日々に、「もう死にたい……不死なんて嫌だ……」とよく泣いていた。
マチとナオは悩んだ。
殺してやった方が良いのか、それともこのまま生きていてもらった方が良いのか。
結局、身内を殺める決断はできなかった。
代わりに、マチとナオは必死で里長を介護した。
里長はいつしか死にたいとは言わなくなった。子供も作らず、ただただ自分のために身を捧げてくれる我が子達に日々感謝し、愛を深めた。
これほどやってくれる者が他にいようか。
決して容易な道ではないことは誰の目にも明らかだった。
親子仲は元々悪くなかったが、さらに家族の愛は深まった。
ただ、里長は生きていたが、もはや滝の約束を守っていられる状況ではなくなり、里の者達は新たな田を一枚、二枚と増やして行った。
最初の頃は良かった。
実りも良く、もっと早く田をつくれば良かったと皆が笑った。
だが、水が安定しなかった。
いつしかどの田にも水が回らなくなり、里は飢饉に襲われた。
たくさんの大人も子供も倒れ、その頃にはマチとナオももう随分と老いていた。
力が残る者で新しい田は潰されたが、古い田畑だけになっても昔のようには戻らなかった。
一度変えられた水路は、気がつくと行き先を変え、新たな沼や沢へと流れ込んでいった。
里では毎日「新しい田なんか作らなければ良かった」「やっぱり里長の言うことに従うべきだった」と田を増やすことを前から推薦してきた者達への恨み言が聞こえ続けた。
もういよいよ食べる物がない。
若い者たちに、老いたマチとナオは告げた。
「わしらはもう長くない。せめて、わしらを食ろうてくれ」
二人は里長の世話を皆にくれぐれも頼み、そして、父親である里長に別れを告げた。
体が動かない里長は「だめじゃ……だめじゃ……」とか細く言ったが、里長が苦悶と絶望に陥る中、マチとナオはスープにされた。
里長だった父親をせめて不老不死にできて良かったと、自分たちの存在した意味に一つの安堵を持って旅立った。
郷から出ることはできなくなってしまったが、元から旅好きの種族というわけでもなく、二人は愛する父親、兄弟に恵まれた、そう悪くはない人生に幕を閉じた。
ただ、自分たちのせいで里から出られなくなったのでは、という罪悪感は最後まで消えることはなかった。
兄弟のスープは、里長にも与えられた。
それを飲んだ日から、里長には力が戻り始めた。
里長だけでなく、仲間たちも皆力を取り戻し始めた。
マチとナオを皮切りに、老いた者達は何人も殺され、何人も食われた。
それで蓄えた力で、再び田は整備され、少しづつ里はあるべき姿を取り戻し始めた。
そして、里長がまた歩けるようになった日――。
「よくも……よくもわしの大事な子供達を……。よくもわしの大事な友人を……。よくも食わせたな……。よくも食ったな……。よくも殺したな……!!」
里長は大きな鍬を担ぎ、里の中を回ったらしい。
旅人がふと立ち寄った滝のある場所、そこには信じられない血の海ができていたらしい。
そして、鍬を担いだ一人の男。
その男は全身を赤く染め、目の下には涙のこぼれた跡が白く何本も線になっていたらしい。
これはまだ、今より三十年も後の話である。
「牧場に収容しなくて良かったのですか?」
デミウルゴスは廊下を行きながら口を開いた。
「牧場に入れて適当に痛ぶって憎悪を増やし、最後にあの二人にシモベ達を殺させる。それで夜叉になるかどうか調べる。それが正解に感じるんですか」
「はい。再現性もあります。せっかく兄弟揃っていたので、不老不死にして互いの肉を食わせて生かせば良かったように思います」
「やれやれ。君も悪魔だというのに、分かっていないね」
「……と、言いますと?」
「単に憎い者を大量に殺すだけなら、世界中至る所で発生している。戦争がいい例でしょう。ところが憎き敵兵を殺しても誰も夜叉なんてものにはならない。今回ナツを夜叉たらしめた最後のトリガーについてよく考えてみたまえ」
「……仙人のクラスでは?」
「全く分かっていませんね。ナツの詳細な状況をあなたも聞いたはずでしょう」
デミウルゴスは残念そうに、かつ苛立たしげに息を吐いた。
「仙人なんてクラスは我々の誰も持っていませんし、悪魔化するために必須だとも思えません。そんなものよりも、最後のトリガーである殺戮の対象が"一度は心から大切に思った者達"、"心を通わせあった仲"と言うことが何よりも重要だとは思えませんか。憎悪と仲間意識、思い出と憤怒の中、自分の心をめちゃくちゃに破壊しながら、一人一人を手にかける。そして、殺される相手からも形容し難い複雑な感情を向けられる。それはこの牧場では絶対に叶いません。マチとナオと、それだけの関係を築き、二人の精神を破壊せずに痛ぶる。どれだけ手間とコストがかかるか想像もつきません」
心を通わせるなど低位の者達にはできないし、高位の者であっても長きにわたって演技を続けて信頼関係を築くことは容易ではない。
それに「何故この人が」という気持ちで貫かれることなど不可能だろう。
「ご教示いただきありがとうございました。では――里の封鎖はいかがなさいますか」
「普段は監視を何人か立たせておけば良いです。常に魔法をかけておく必要はありません。出られないと里の者達に諦めさせるだけでいいんです。入りそうな者と出そうな者がきた時に適当に煙に巻いてください。適宜出られない、と噂を流しておけばすぐに諦めるでしょう」
二人は誰も何も入っていない檻を横目にどんどん地下へ進んでいった。マーレのおかげで
常闇のおかげで
畜肉用は品種改良が終われば、国へ流せば勝手に農家が増やしてくれる。
決してなくなったわけではないが、牧場は以前ほどの盛況ぶりではなくなっていた。
「――今回の実験はある意味一種の芸術だね」
機嫌良く左右に尾を振るデミウルゴス。
二人がたどり着いた部屋では、はっとナツが振り返った。
「対象を殺さず、心を完膚なきまでに打ち砕くには高度なテクニックを必要とする。技術を追求することは、私にとっては趣味にも等しい行為だ」
「こちらはこちらで、腕が鳴りますね」
檻の中では「ナツ!」「よくも仲間を!!」そう叫ぶ、復活したてで足腰も立たない
ナツは慣れない動きで膝と両手を地面についた。
「デミウルゴス様、
「素直になったものだ。フラミー様にきちんとお礼を言いましたか」
「もちろん!!」
心底嬉しそうにナツが頷く。
ナツはこれから始まる、復讐の日々に胸を躍らせた。
未来、彼らに殺され夜叉化するかどうかの実験の一部に組み込まれていることも知らず。
一方、ナザリック地下第五階層。
トラ吉はピニスン達と畑の世話をした。
里の者達はトラ吉が里を出ることを寂しがったが、異形になってしまったナツはもう里には戻れないこと、そんなナツを一人には出来ないことを話すと、皆が快く送り出してくれた。
宿屋の主人とコスケも、手紙を出すと言う約束を胸に大切な祖父を送り出した。
――そう、ナツは戻れなかった。
私を差し置いてこんなに幸せに、そういう思いを抱いてしまうことが目に見えていたから。
トラ吉は里と距離を置いたことで、心も少しづつ安定して行った。
手紙で愛する者の悲しい報せを読む日もあったが、目の前で繰り広げられる生死の痛みより遥かに楽だった。
次に子供が生まれたとか、そう言う報せも来たが、いつしか手紙は減って行った。
トラ吉を見たことも会ったこともない子孫達は決してトラ吉に執着しなかったから。
トラ吉は里の伝説のように語られた。
トラ吉意外にも不老不死の者はいたが、皆病気や怪我で次第に減り、いつしか不老不死の里はただの里になったらしい。
トラ吉とナツは第五階層で暮らし、ナツは毎日牧場へ出勤して行った。
誰もいなくならない日々。故に、どれだけの年月を超えたかもわからない日々。
トラ吉は初めて不老不死で良かったと笑った。
ナツ、実験の一部としてもし殺されても復活させてもらえるよね?(´・ω・`)頼みますよ〜!!
やっぱりこの親子(?)はナザリックに吸収されましたね!
わしゃ何もしてないマチとナオが牧場送りになるんじゃないかずっとヒヤヒヤしてましたよ!!
最終的にはスープにされちゃったけど、まあまあ幸せだったみたいで何よりです!
それで……鳥は?笑
次回は鳥の話かな!?