眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#4 その頃の守護者

「す、すごかったね。お姉ちゃん!」

 マーレの言葉を皮切りに続々と守護者が立ち上がり、口々に支配者と主人の感想を言い合う。

 

 守護者たちにとって、最も大切なのは創造主だ。

 

 その次は絶対支配者たるモモンガ。

 ――もしかしたらいつか創造主と支配者の順位も変わるかもしれないが。

 そして、モモンガを支える至高の四十一柱の一柱、フラミー。

 フラミーは加入が遅かったこともあり、一人もNPCを創造してはいない。

 百レベルではあるが、純粋な戦闘能力だけで言えば守護者最弱のデミウルゴス程度か、それよりも下だろう。

 天使を経て悪魔の王へと育て上げた浪漫ビルドの彼女は、モモンガと同じくカルマは極悪。

 そしてユグドラシルでは神の敵対者(サタン)は早いうちから発見されていたが、殆ど天使の見た目だと言うのに人間の街に入れなかったり、様々な制限ばかりが無駄にかかる上に、なんとなく不気味な紫の肌が合わさり中々の不人気職だった。

 フラミーは銀色の髪に黄金の瞳、紫色の肌に、重なり合う天使然とした六枚三対の翼を生やしている。

 足首まである少し広がりのある白いローブ風ワンピースは羽を避けるようにざっくりと背中が空いているデザインだった。

 長い髪はおだんご状に巻き上げられ、後れ毛がかかる首元が紫の肌とは言え艶かしかった。

 

「それでは、私はお二人のお側にお仕えするべきだと思うので円卓の間へ向かいます」

 セバスは皆の感想を一通り聞き、自分は特に何も述べなかったが、とても満足した気持ちで守護者達へ挨拶すると、小走りで転移門の方へ向かっていった。

 

「ところで、随分静かだね?シャルティア、アルベド」

 未だ跪いたままの二人にデミウルゴスが声を掛けると、それに合わせるように視線が集まった。

「ドウシタ。二人トモ」

 掛けられた声にゆっくりと顔を上げたシャルティアの表情は、まるで夢見るように締まりなく、とろけきっていた。

「あ、あの凄まじい気配を受けて、少うし下着がまずいことになっておりんすの」

「あなた、ビッチね!!」

 突然立ち上がったアルベドが大きな声を出した。

「あの素晴らしい気配を受けて――」

「わかってるじゃないの!!」

 シャルティアに全てを言わせる前にアルベドが更に続けた。アルベドの設定文の最後には「ちなみにビッチである。」と言う言葉が鎮座していた。

 

「ああ、モモンガ様の何と素晴らしい気配!お力!フラミー様はお力を抑えられているのかあまり感じられなかったのが残念だわ!でもあの至高なる気配!くふぅー!」

 一呼吸で言い、手を前で組んで拝むようなスタイルで翼をバサバサと揺らしていた。

「モモンガ様の第一妃はフラミー様だとして、第二妃の座には立ちたいものでありんすね!」

「はぁ!?シャルティア、あんたフラミー様と殆ど同じ立場に立とうなんてちょっと不敬なんじゃないの!?」

 思わずアウラも口を挟んでしまった。

「それなら、側室を目指せば許されるんじゃないかしら!?」

「アルベドも何言ってんの!このバカがその気になるでしょ!」

「チビ助、女として間違っているのはおんしの方ではありんせんこと?あのモモンガ様に、側室でもいいから侍りたいと思うのは女に生まれたからには普通の思考じゃボケ!!」

 熱がこもり罵り始めるシャルティアに、アルベドは優しく語りかけた。

「シャルティア。やめましょう。そんな事を言ってアウラまで側室や第二妃の座を狙えばライバルが増えるだけよ。可哀想な子供は放っておきなさい」

「ちょ!こ、子供って……!」

 アウラは反駁しようとするもシャルティアとアルベドはもう二人でビッチドリームの中だった。

 不思議と二人の後ろに桃色のキラキラと輝くようなものが見える。

 

「あー。女性同士の問題は女性同士に任せよう」

 そう言って関わり合いたくないとばかりにデミウルゴスが少し離れると、コキュートスとマーレもそれに続いた。

「全ク。仕方ノナイ三人ダ」

「ちょっと!三人!?コキュートスー!!」

 アウラの叫ぶ声が背中に降り注ぐが三人は聞こえないとばかりに離れていった。

 

「あ、あの、で、でも、フラミー様がモモンガ様のお妃様になるのかは、ちょっと気になります」

「私もそう思うよ、マーレ。戦力の増強と言う意味でも、ナザリック地下大墳墓の将来と言う意味でもね」

「そ、それはどう言う意味ですか?デミウルゴスさん」

「なに、簡単なことさ。今はフラミー様はナザリックに居たいと仰って下さっているが、いつかまたリアルという世界に行かれる時、モモンガ様を伴って行かれる事があれば……。またはモモンガ様が我々に興味を失いフラミー様とリアルに行かれることがあれば……。その時、我々が忠義を尽くすべきお方を残していただきたいからね。その点ではお二人の間の御子ならば忠義を捧げるにこれ以上のお方はいない」

「ソレハ不敬ナ考エヤモシレンゾ。ソウナラヌヨウ忠義ヲ尽クスノガ我々ノ役目ダ」

 冷気を吐きながら横からコキュートスが口を挟んだ。

 

「ふむ。それは勿論理解しているとも。ただ、モモンガ様やフラミー様のご子息やご令嬢にも、忠義を尽くしたくはないかね?」

「ナニ……!?ムウ……ソレハ……憧レル……。オオ……オ坊ッチャマ……!爺ハ……爺ハ……!」

 コキュートスもトリップを始めた。やはりその背には星のような煌めきが見えた。

 

「それに、ナザリックの強化を考えれば、我々の子供はどれだけ役に立つかは知っておかねばならないからね。どうだろうマーレ。子供を作ってみないかね?」

「え?あ、あの、それは、デミウルゴスさんとですか?それともモモンガ様やフラミー様と?」

「ははは。私やモモンガ様とは難しいと思うけどね。ともかく、フラミー様とでなくても、どこかにいるかもしれない闇妖精(ダークエルフ)とかになるかもしれないかな」

「そ、それがモモンガ様達のお役に立つことなら、ぼ、ぼく頑張ります!」

「そうかい。時が来たらまず君に声をかけるとしよう」

 

 一息つき、まだ幼いマーレの事を下から上へとじっくりとデミウルゴスは眺めた。

 

「それにしてもマーレ。なぜ君は女性の格好をしているのかな?」

「ぶ、ぶくぶく茶釜様がお選びくださったものですから!オトコノコ、っておっしゃってましたから、間違いなくこれが僕の服なんです!」

 マーレは嬉しそうに声を張った。

 

「そうかい。ではナザリックにおいて少年はスカートを履くべきなのだろうかな。うん……?フラミー様は人間であるならば十八くらいにも二十五くらいにも見えますが……スカートを履かれているのはまさかオトコノコでは……ないですよね……?」

 

「「な、なんですって!?」」

 デミウルゴスの疑問に、今までトリップしていたはずのシャルティアとアルベドが遠くから耳ざとく食いついてきた。

 

 デミウルゴスの目には捉えきれないようなスピードで接近してきたアルベドとシャルティアがまくし立てる。

「ああ!!フラミー様が男性であったら、肉体がある分お情けを頂きやすいのではないかしら!?」

「で、デミウルゴス!!そ、そんな素晴らしいことがありんすの!?」

 興奮する二人にデミウルゴスはつい後ずさった。

 

「い、いえ……私はわかりません。滅多なことは言うもんじゃありませんね。きっと女性だと思いますよ」

 

 デミウルゴスは思い付きで余計な事を口にしたことを後悔した。

 この後、コキュートス、シャルティア、アルベドの三人を正気に戻し、落ち込むアウラを慰める仕事が彼を更に後悔させたのは言うまでもない。




2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用しました!

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