眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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Re Lesson#31 閑話 その頃の皆さん

「キュータ君に会いたいなぁ」

 

 オリビアは大切なブックマークを手の中でくるりと回し、レオネは手元の本からそっと目を上げた。

「夏休みが明けるまでは出られないそうですものね」

「あぁーん!夏休みの間行くところたくさん考えてたのにー!」

 いつもの作戦会議の喫茶店で、オリビアは机に突っ伏した。

 直接外出できない旨を伝えられたレオネを除く三人の下に手紙が届いたので、今日もバイス組女子四人は集まっていた。

 手紙には「夏休みの間はしばらく訓練が続くから、皆良い夏休みを送ってね」と綴られていた。

 

「あたしも結構考えたのにさぁ。虹の大湖に泳ぎに行こうとか」

 鼻と唇の間に通称目印万年筆を挟んだイシューがいう。

 アナ=マリアなど、どっさりの観光案内パンフレットを取り出した。

「……私も行きたいところ、たくさんあった」

「アナ=マリア、あんたが一番ガチだね……」

「……そう?」

 三人は苦笑した。

 

「──ねぇ、もうわたくし達だけで虹の大湖行きませんこと?」

「……行きたい。夏だし」

「あたし休み取る!絶対行きたい!」

「新しい水着買ってー、おしゃれしてー、お弁当持って行きたい!」

 

 四人はいつ行こうと世界で一番自由な笑顔を寄せ合った。

 

+

 

 時は進み、神都、魔導学院。

 夏休み最終日の今日、魔導学院のパラダイン記念大講堂へは数えきれない人々が向かっていた。

 パラダイン記念大講堂は座席数千を越える施設であり、下手な劇場より余程広い。

 なんと言っても、今日はフールーダ・パラダインの老化を遅らせる魔法の改良版の発表式。

 国中、世界中からそれを聞くために名だたる魔法詠唱者(マジックキャスター)や神官達、権力者が列を成す。

 

 エ・ランテルから出張してきたイビルアイは仲間達と共にいくつも馬車や輿が進んでいく様を見渡した。

 

「──十年前に初めて発表があってからこれで三度目だな」

「あぁ。どうだ?顔ぶれは変わってそうか?」

 武器の持ち込みを禁じられているため、手荷物を預けて身軽になったガガーランが隣に並ぶ。

「馬車を見ただけじゃ分からん。だが、少なくとも十年前と五年前に来ていた奴らはお前達と同じように大して変わらないままで来てるんじゃないか」

 

 イビルアイが振り返ったところには、彼女とリグリットが協力して老化を遅らせてやっているラキュース、ガガーラン、ティア、ティナ──それから、リグリットもいた。

 今でも彼女達は冒険に出続けているが、以前ほど息つく間もない冒険ではない。

 今はどちらかと言うと、若い良い才能を探したり育てたりしている所で、近頃はリグリットと再び行動を共にすることも多い。

 リグリットも参加した新しい蒼の薔薇は、相当難度の高い依頼しか受けなくなってしまっているので日々に若干の退屈さをもたらしている。

 ちなみに、若い才能は主にアングラウス道場とヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファンのやっている剣道場で探している。

 

「少し道を開けた方が良さそうじゃな」

 リグリットが顎をしゃくると、ラキュースは振り返り、即座に道を開けて頭を下げた。

 一行の横を魂喰らい(ソウルイーター)の引く白い美しい馬車が行き、その後を州旗を掲げた聖騎士団が続く。

「──あそこは分かりやすいな」

「えぇ。聖知事が乗ってらっしゃるもの」

 神官としてラキュースが敬意を払う相手はかつて聖王女と呼ばれた者──カルカ・ベサーレス。そして、ケラルト・カストディオ。

 彼女達はあまり大声では言わないがかなりの高位階修得者であり、老化を遅らせるこの魔法も自分達で儀式を行い使っているらしい。

 窓からちらりと見えた二人は全く年齢が分からなかった。特にカルカの肌の美しさと言ったらラキュースも羨ましい限りだ。

 

「聖魔女のお通りだな。──ッ!」

 ガガーランが失礼なあだ名を漏らすと、左右から双子がクナイの輪状になっている後部を脇腹にドスンと入れた。

「バチが当たる」

「巻き添えは真っ平御免」

「鎧も着てないのに本気で武器で攻撃してくんな!それより、お前らさっさと荷物を預けて来いや!!入る時に探知されて回収されたらまた目を付けられるだろうが!!」

「ち。これは持っていたかった」

「仕方ない」

 双子が可愛げもなく手荷物預かりの方へ向かっていく。

 

 すると、クラゲのような輿が一台入ってきた。

 触腕のようなカーテンが靡くたびに、中に乗る二人の知事が見え隠れした。

 美しい二人は仲睦まじげに肩を寄せ合っている。

「あれはヒメロペーとテルクシノエと言ったか」

 イビルアイが言う。

「そうね。あの方達も一体何歳なのかしら……」

 やはり年齢不詳。

 

「あ、あのラクダが引いてる絨毯なんかスルターン小国のもんじゃねぇか。──ユーセンチ魔法神官とバーリヤ大司教達だ」

 蒼の薔薇にとっては少し苦々しい思い出になっている砂漠の面々は、蒼の薔薇に気が付くと、やはりあの凶暴そうな牙を向いて笑いかけた。

「は、はは」

 ラキュースが引き攣り笑顔を返す。

 あちらの大神殿からは神の降臨に立ち会った大切な友人だと、年に一度今でも砂漠の特産物がごっそりとコンドミニアムに送られて来ている。

 毎度、まさか太顎砂蜥蜴人(サンドリザードマン)の肉は入っていないよなと目を皿にして荷物をひっくり返している。もちろん、輸入が禁止されているのでそんなものは入っていない。

 こちらからお返しも送っているので、割と付き合いはある方だ。

 

 ティアとティナが戻ってくる頃、ドンッと胸の内から震わされるような太鼓の音が響いた。

「──陛下方か!!」

 イビルアイのテンションがいきなり上がり、面々は苦笑した。

 学院敷地内を進んでいた馬車達が一斉に道を開け、中に乗っていた者達が急ぎ下乗していく。

 蒼の薔薇もその場で膝をついた。

 

 学院の図書館を利用していたらしい学生達が何事かと集まり、教師達に礼を取るように促されているのが見えた。校門で学生証を見せなければ入ることはできないが、学院も別に封鎖されている訳ではない。

 権力者達も来るが、何より講演するフールーダ・パラダイン本人も含め、強者が揃うこの場所を襲えるような生き物は竜くらいしかいない。

 

 校門を潜って陽光聖典達が現れる。

 第三位階の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)と第四位階の安寧の権天使(プリンシパリティ・ピース)が引き連れられている。

 安寧の権天使(プリンシパリティ・ピース)を見たことがある学生は皆無と言ってもいいかも知れない。

 彼らは道を清めて進んだ。

 

「ルーイン様だ!!あそこ!!」「ニグン・グリッド・ルーイン様!!」「見て!!手を振って下さってる!!」「すげぇー!!"神を連れ帰った男"!!」「本物だよぉ!!」「こないだ、俺なんか講演聞きに行っちゃったよぉ!」「あぁ〜すごいなぁ!」

 

 図書館利用の生徒達が陽光聖典を引きつれるニグンに手を振る。

 ニグンは慈母の如き笑みで手を振り返していた。

 

 様子を見ていたイビルアイは鼻息を荒くした。

「また観劇の季節だな!"降臨する神々"を今年も見にいかなきゃならん!おい!お前達も当然行くだろう!」

「そろそろ"約束の日"だものね。後でラナーとクラリスちゃんも誘っていいかしら?」

「構わんぞ!"約束の日"当日と建国記念日には劇場が混むから、そこだけは避けるようにしてくれ!」

 全ての始まりの日を寿ぐあの日がまた近付いて来ていた。

 

「──む、紫黒聖典も来るようじゃ」

 リグリットの言葉にイビルアイはパッと口を噤んだ。

 紫黒聖典は蒼の薔薇と最も折り合いが悪い。別に喧嘩をしている訳ではないが、彼らの心象をこれ以上悪くすることはできない。

「あれは?」

「さぁ」

 ティナとティアが言うのは、蒼の薔薇のよく知る紫黒聖典四人の後を必死に追う小さな森妖精(エルフ)の少女。

 聖典の鎧を身に付けているわけでもないので、従者か何かだろうか。

 紫黒聖典は一瞬蒼の薔薇と目があったが、生徒達の「オシャシンのレイナース様!」「光神陛下の奇跡の方!」とざわめく学生達へ手を振りはじめた。

 

 そして、ドドン、ドドンと音が変わると、輿が二台入ってきた。

 

「陛下方じゃないの!!」「本当にあれに乗ってらっしゃるんだぁ……」「信じられないよ」「お声が聞けたら良いのに」「ねぇ、あの天使は何?」「あー!この距離なのになー!!」「あれって守護神様よね……綺麗……」

 生徒達がざわめくと、教師達がキツめに注意をし、皆黙って頭を下げた。

 

 輿のすぐ前を行くのは、守護神でありながら宰相としての立場も併せ持つアルベド。輿を担ぐのは獅子の頭をした天使達だ。

「ラキュース、あの天使は何だ。ものすごい力を感じるな……」

 こっそりとイビルアイが言う。

 ラキュースは天使達から放たれる力に頭を押さえつけられるようだった。

「わ、わからないわ……。難度二百は超えそうね……」

「そんなもんに輿担がせてるなんて、やっぱり陛下方はとんでもねぇな」

 ガガーランが呟く。

 

「前の輿と後ろの輿、どちらにどちらがお乗りなんだろうかな……」

「分からないわね」

 

 ふと、秋の空は徐々に湿り気を呼び、細かい雨がぽつりぽつりと降り出した。

 

 後ろの輿のカーテンに薄紫色の手がかかる。

 皆その様子にくぎづけになった。

 開いた輿の中には、骸の神と光の神がいた。

 光の神は杖を天へ掲げ──その身の回りには青白い魔法陣が生まれた。

 

「な、何をされるんだ?」

「しっ。静かにしろよ、イビルアイ」

 

 魔法陣が割れ、ドッと天に光が突き刺さる。

 次の瞬間、雲に覆われ始めていた空は輝きを取り戻した。

 

「……やはり……すごい」

 

 呟き、イビルアイは空を見上げた。

 輝く太陽の下に虹がかかり、あまりにも爽やかな風が吹き抜ける。

 輿のカーテンはゆっくりと再び引かれた。

 

 生徒達は半ばパニックになるような歓声を巻き起こした。

「──しかし、お二人で後ろの輿に乗ってらっしゃったと言う事は……前の輿は?」

「……殿下方か?」

「会場で分かるわね」

 輿が通り過ぎていくと、蒼の薔薇は立ち上がった。

 

 五年前の二度目の研究発表には当然殿下方はいなかった。まだ小学生だったので来ても仕方がなかったのだろう。

 大神殿で開かれる誕生祭に出席する度に大きくなったと感嘆したものだ。

 誕生祭は宗教行事として、神の子が出席しない神殿でも盛大に行われている。

 

 パラダイン記念大講堂の前には長蛇の列ができていた。

 皆最後の手荷物検査を受けて中へ進んでいく。

 

 蒼の薔薇が他に分かるのは、評議国の亜人議員、光の神の旗を掲げる妖精(シーオーク)達の群れ、最古の森のタリアト・アラ・アルバイヘーム、ブラックスケイル州のドラウディロン・オーリウクルス、バハルス州の神官団や三騎士とジルクニフ・ルーン・ファー・ロード・エル=ニクスと嫡男、ザイトルクワエ州の神官団とラナー・ティエールとその娘のクラリス、各地の権力者達だ。

 後は第四位階もの高みに上り詰めた弩級の冒険者達や魔術師組合の面々も揃っている。

 ──第五位階を扱える者は非常に少ない。それでも、学校の発展や魔法文化の発達で以前よりはそこに手のかかりそうな者が何とか増えてきている。

 

 美しいアーチの廊下を通り抜け、蒼の薔薇一行は比較的前の方の席を確保できた。

 席に着くと、リグリットは分厚い──もはや本と呼んだ方が正しいようなノートを取り出した。

「さてさて、今回はどれほどの成果が上がったかな」

「リグリット、お前も魔導省の研究に参加したらどうなんだ。お前の編み出したオリジナルスペルの方が十年前の時点では優秀だった。儀式も必要ない」

 フールーダはリグリットとほぼ同い年だが、かの魔法詠唱者(マジックキャスター)の方が幾分も老いていたことからもそれははっきりしている。

「だが、私のものは対象が自分自身じゃ。パラダインが分岐させた新たな魔法とは全く性質が異なる。大神殿やセイレーン州の水鏡の間に行って儀式をしなくちゃならなくても、他者に掛けられると言うことは大きい」

「それはそうか。この魔法のおかげでラキュースは未婚を嘆く時間が短くなったしな」

「ちょっと。うるさいわよ」

 イビルアイとリグリットが肩をすくめていると、一番前の誰も座っていない列に聖典達が座り始めた。

 そして──扉を潜って来たのは神々。

 

 以前は一番後ろの席から見ていたようで姿など見えもしなかったというのに、あまりにラッキーな状況にイビルアイはふんふん鼻息を飛ばした。

「み、見ろ!あんなにお近くに!!」

「分かった分かった。いいから座らんか」

「だ、だがご挨拶に行かなきゃ失礼かもしれん!!」

 相変わらずの神王熱にリグリットはお手上げという様子で、ガガーランと席を変わった。

「取り押さえておれ。こんな調子で本当に講義をまともに聞けるのか心配になるわい」

「ははは!任しといてくれ」

 イビルアイが興奮する中、ラキュースは目を凝らした。

「……やっぱり、殿下方もいらしてるみたいだわ」

 

 長い銀髪をひとまとめにくくり、太陽のような瞳を少し伏せた青年。それから、やはり銀髪をおだんご状にまとめた光の神の生き写しのような乙女。

「殿下方、初めてお顔をちゃんと見たわ……」

 表にほとんど姿を現さないアルメリアはナインズと違い子供の頃から姿をきちんと見たことがある者はごくわずかなことはもちろん、ナインズも表に出てくる時にはいつも仮面を着けていたので顔を見たことがある者はごくわずかだろう。

 アルメリアはどことなく儚げな表情で、無性に庇護欲を掻き立てられた。

 ナインズが丁寧に椅子に座らせてやると、花のように笑った。

「……ありゃすげぇ()()の二人だな。両陛下のミックスは伊達じゃねぇ」

 イビルアイを膝に抱えたガガーランが呟き、ラキュースは頷いた。

 アルメリアはナインズが開いた分厚いノートを覗き込み、その耳に口を寄せてひそひそと何かを話すと二人おかしそうに笑った。

「……なんだか甘い雰囲気の兄妹ね。はぁ……私はもうああいう空気を吸わないまま老いていくのかしら……」

「老いにくいようにしてる内にまた冒険者組合にふらりと遊びに来るモモンに話しかけるしかねぇな。それとも諦めたか?そろそろモモンなんかはいい年したおっさんだろ?」

「私達みたいに老化を止めてればおっさんじゃないわよ。私はまだまだ諦めないんだから」

「やれやれ、イビルアイもラキュースもよく飽きないもんだな。……はー、俺もまたそろそろ童貞でも食わないと枯れちまうなぁ……。殿下が童貞なら俺が筆おろししてやるってのに」

「……ちょっと、頼むから変なこと言わないで」

「うまそうだよなぁ。あの綺麗な顔でひいひい言いながら搾られる所が想像できる。それともああ見えて──」

 ガガーランの顔にラキュースのグーパンチが炸裂する頃、フールーダ・パラダインと高弟達が登場し、講義は始まった。

 

+

 

 フールーダの講義が終わると、アルメリアはまたナインズのノートを覗き込んだ。

 

「──お兄ちゃま、面白かったですか?」

「うん。面白かったよ。リアちゃんも面白かった?」

 ナインズは引きずる長さのローブを払って足を組み、ノートをアルメリアに差し出した。

「私はあんまりよく分かりませんでした。これは、一郎太のためにやってるんですよね?」

「そうだね。僕がこれを使えれば、一太がいつか想うかもしれない人が考える時間を伸ばしてあげられる。それに、不老の術や父様の逆行魔法が完成するまでの時間稼ぎにもなるからね」

 

 ノートをペラペラとめくっていくアルメリアの様子を見ながら、ナインズは頬杖をついた。

(ただ、お金も稼がなきゃな……)

 

 全部で五つの儀式を組み合わせた凄まじい魔法で、用いる二つ目の儀式には第五位階の<死者復活(レイズデッド)>の理論の転用のフールーダオリジナルスペルがあった。

 転用元が転用元なので、儀式には大量の金貨が必要となる。

 ナインズは自分が小遣いをもらって生活する子供ということに苦笑した。

(……公務を増やしてもらうか……依頼バイトしてみるかなぁ)

 少し前に、生徒が麻薬を運ぶようなことがあったと全校集会が開かれ、教員達が大変怒っていたのを思い出す。

 

 周りでは大人達が続々と席を立ち、今回の改良術式の素晴らしさを讃えていた。これ程複雑だと言うのに、随分簡略化されているようだ。

 父母に挨拶に来る多くの人々がナインズとアルメリアにも挨拶をしてくる。

 アルメリアは頷くことでそれに応え、ナインズも軽く手を挙げて応えた。

 その中に、馴染みの二人を見つけ、アルメリアはナインズと立ち上がった。

 

「──サラ!」

「アルメリア様!」

 

 二人が駆け寄り合う横で、クラリスがゆっくりとナインズの下へ歩み寄った。

 ナインズの耳にはミシリ、と骨の軋む音が届いた。

「ナインズ様。ご機嫌麗しゅう存じます」

「──あ、あぁ。クラリスも来てたんだね。あの後ナザリックに呼んだりもできずに悪かったね」

「いえ、とんでもありません。お体の方はもう?何か、祈りがうるさくてかなわないとか……」

「よく知ってるね。もうすっかりいいよ」

「アルメリア様から伺っておりましたので。でも、もうよろしいなら何よりでございました。顔色も良さそうです。そういえば、本日は仮面は?」

「うん。ここには学院の子達含め、一般の人はこないからね。行き帰りも輿だしさ」

「ふふ、そのお顔を見られるなんて今日は付いていましたわ。本当に美しいです」

「ははは、君ほどじゃないよ」

 ナインズの隣に並び、幸せそうに微笑んだクラリスは共にアルメリアとサラトニクを眺めた。

 

「──アルメリア様、お元気そうで何よりです。いかがお過ごしでしたか」

「私は変わらず元気です。もう少しで空も飛べそうなくらい。だと言うのにお前の手紙はいつも忙しい忙しいとそればかりで。もう私のことなど忘れたかと思いました」

「ご冗談を。一日たりとも忘れた日などございません。私の瞳が紫でいるうちはあなたを写し続けている証拠です」

 選ばれた皇帝が持つアメジストの瞳を細め、サラトニクは微笑んだ。父ジルクニフよりも垂れた目元は優しげで、裏も表もない絵に描いたような好青年に見えた。

「では、お前の目が白くならないようにしなくちゃいけません。今日の話もよく分からないなどと言っている場合ではありませんね」

 二人の両手が触れ合うと、メキメキと音が鳴り、ナインズは流石に苦笑してそちらを見た。

 

「──父様、落ち着いてください」

「──何のことだ?」

 

 挨拶に代わる代わる人が訪れていたが、人並みを掻き分けるように慌ててジルクニフがアインズに駆け寄った。その後を執事のエンデカと三騎士も続く。

「神王陛下、光神陛下。いつもサラトニクが大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」

 十年前から老化を遅らせるジルクニフは父や州知事としての貫禄はあるものの、くたびれた感じはしない。

 そっと、その隣にラナーも並ぶ。こちらはもはや、クラリスと姉妹と言われても疑問を抱かないような様子だ。

 

「神王陛下、光神陛下。うちのクラリスも随分ナインズ殿下にお世話になっているようで。本当にありがとうございます」

 ラナーも頭を下げると、フラミーは嬉しそうに頷いた。

「こちらこそ、皆がそばにいてくれてうちの子達は幸せです。おかげでナインズもアルメリアも少しづつ大人になって来たように思います」

 

 大人達が大人達だけで話を始め、アインズは彫像のようになり話に耳を傾けているようだった。

 

「──神王陛下はサラトニク様では不服のご様子です」

 クラリスが微笑んだ顔のままで言うと、サラトニクも負けじと微笑み返した。

「万が一そうだとしても、いつかご理解いただきます」

「あらあら、うふふ。怖いですわね。神を説き伏せようとでも仰るのかしら」

「クラリス様は誤解されているご様子。私は何も説き伏せるなど。見ていていただければ、ご理解いただけるはずですので。クラリス様こそ、その場にそのように収まってらっしゃいますが……いささか不敬では?」

 

 この二人、笑顔のままだと言うのにたまに仲が悪かった。

 ナインズの隣に当然のように並んでいたクラリスは「あら、つい」と頬を赤らめた。

「……魔女ですね。ナインズ兄様、それは魔女ですよ」

「あらあら、うふふ」

 パチリと二人の間に火花が散った。

 その間にアルメリアがそっと身を置いた。

「クラリス、サラ。あまり喧嘩をするんじゃありません。二人とも私には必要です」

「失礼いたしました。ただ、たった十四の賢いばかりのおぼっちゃまよりも、御身には良い人がいるのではないか、と思ってしまいまして。うふふ」

 

 クラリスの様子を見ているラナーは「あらぁ〜」と困り顔を作っていた。その隣のジルクニフはさも胡散臭いものを見るようにしていて、サラトニクもそれに連動するようだった。

 

「クラリス様、では誰ならよろしいんでしょうか?一度教えを乞いに行きたいところです」

「私もサラトニク様がナインズ様に勧められるのはどんな方なのかじっくりお聞きしたいものです。どなたならよろしい?」

「あなたみたいな、魔女が聖衣を纏った様な女でなければどなたでも安心できるとも言えます。ナインズ兄様の清廉さにあなたは付いていけないでしょう」

「両殿下の崇高なお考えに至ることができないご様子だと言うのに。うふふ、以前アルメリア様がスルターン小国にお出かけになった時に見た家畜の話を聞いたとき、お顔が青くいらしたように思いますわ」

「陛下方の定めた法の外にいる生き物の存在を哀れに思う事がそんなにおかしいかな。あなたは全ての生き物を役にも立たない虫けらのように思われているようですが」

「まぁ、そんなことはありませんわ。でも──もしそうだったとしたら、ナインズ様、アルメリア様、いけませんか?」

 

 ナインズはクラリスから伸びる祈りの糸に少しだけ興味を持ったが、友人の祈りは二度と聞かないと決めている。

 それを聞くのは父母に任せればいい。

 

「生き物としての役割を果たす者と愚かでない者は私は好きです。お兄ちゃまは?」

「いけなくないけど、神にはただ黙って教えを信じる教徒が必要だろう。他者の事を祈る事や、教えを守る事で維持される幸福は事実たくさんある。……なんて言ったら、君達は怒るかな」

 

 サラトニクとクラリスは一瞬呆け、二人してよくあった呼吸でパチクリと瞬きをした。

「い、いえ。私もナインズ兄様と同じように思います。私の父は皇帝を受け入れなかった者達を粛清した──鮮血帝とも呼ばれた男です。この世を綺麗事の内に収めるために必要な事はごまんとあると思っていますが……」

「私もナインズ様と同じように。ですが……御身は少し変わられましたか?」

「どうかな。──リアちゃん、僕は変わったかな」

「いいえ?お兄ちゃまの本質は昔から絶対者です。まぁ変わっていたとしても、私はお兄ちゃまが一番好きです!」

 アルメリアはナインズの胸に飛び込むと、顔を擦り付け猫のように目を細めた。

「はは、ありがとう。僕も君を愛しているよ」

 ナインズがアルメリアの髪を掬って口付けると、クラリスとサラトニクはそれぞれ最強のライバルの存在に互いを見合わせ、先ほどまでの犬猿の仲を忘れさせる面持ちで互いの肩を叩き合った。

 

 この兄妹、相変わらずいささか仲が良すぎるらしい。

 

「──へ、へ、陛下!!」

 ふと興奮した少女の声に四人の視線が集まる。

 それは誕生祭にもよく顔を出してくれていた冒険者──蒼の薔薇だった。

「イビルアイ、変わりないようだな」

「は、はい!今度仲間達やラナー、クラリスと一緒に"降臨する神々"を見に行きます!!御身の活躍は何度見ても素晴らしいです!!」

「……そうか。それは、あの劇だな。……建国記念日には毎年私達もあれを見る事が恒例になっている……」

 父は一瞬遠い日を思い出すような目をしたが、すぐにハッとナインズへ振り返った。

「──ナインズ、毎年の建国記念日の式典は覚えているか?」

「はい、父王陛下」

 子供の頃初めて見に行って以来、毎年建国記念日にはあの劇を見ている。よほど懐かしく思うのか、両親はいつも目元を抑え、自分を抑えるように感動している。

 

「では今年の建国記念日の観劇と祭典はお前が取り仕切れ。挨拶も任せる。──良いですよね、フラミーさん」

「それはもうもちろん!でも、大丈夫?」

 

 フラミーは心配そうにナインズを見ていた。ナインズには明日からまた学院生活もある。

 ナインズは守護者達がするように父母の前へ向かい、跪いて頭を下げた。

「完璧に成し遂げます──とは言い切れませんが、お任せください」

「……お前はそんな真似をしなくて良いと言っているのに。だが、信用しているぞ。困ったことがあれば神官や守護者に相談すると良い」

「はい」

 

+

 

 アインズとフラミーは半分スキップしながら部屋に帰った。

「──やった!やりました!!」

「やりましたねー!!」

 あの地獄の羞恥劇から解放されると思うだけでアインズは小躍りしたい気分になっていた。挨拶も毎年記録が取られていて昔のものからの使い回しはできないので大変辛かった。

 帰ってきてから、ナインズはパンドラズ・アクターと共に一生懸命それまでの式典の記録に目を通し初めていたし、何の心配もいらない。

 

 何ならアインズがやるより良いんじゃなかろうか。

 いつも立派すぎる祭典に、こんなに神殿の予算を使って良いのかなと不安になっていたし。

 ナインズなら流されずにちゃんとやってくれそうだ。──が、ナインズが自ら率先して大変豪華に立派すぎる祭典を開くのはまた別のお話。

 

「──さぁ、一つ仕事も無くなったし、休みの時間を満喫しなくちゃなぁ」

 鼻歌混じりでフラミーを抱えて頬擦りをする。

 新婚の頃と何も変わらない様子でついばみ、メイドやら八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達にしっしと手を振る。

 背のリボンを引っ張ろうとするとフラミーはアインズを見上げた。支配者は大変ハッピーそうだった。

「あ、あのぅ、多分ナイ君相談にきますよぅ」

「ふふふ、平気平気。パンドラズ・アクターがいれば大丈──」

 

 しっかり部屋にはノックが響いた。

 

 支配者はいつもタイミングが悪い。

 ギギギ、とブリキの人形のような動きで扉へ振り返った。

「……誰だ」

 扉が開くと、ひょいと顔を見せたのはナインズだった。

「父様、ご相談いいですか?」

「……五秒待ってから入りなさい」

 フラミーは「ね」とこてりと首を傾げた。

「……くそー……」

 すぐさま骨になり、全ての欲求が失われる。

 余裕を持ったのか、三十秒程度でナインズは再び扉を開いた。

「失礼します」

「どうした……。パンドラズ・アクターでは足りないか……」

「いえ、兄上は色々教えてくれて助かってます!──それより、僕、もしかして今お邪魔でした?」

 ナインズもこてりと首を傾げる。あまりにもフラミーに似た動きだった。

 アインズはふと子供の頃を思い出した。

 

 

『アインズさん!ばんざーいして、ばんざーい!』

『はい?万歳』

『えーい!』

 万歳をしたアインズの両手から服がスポンと抜かれる。

 フラミーは大笑いをすると、アインズにぶつかるように抱きついて目を閉じた。

『ふふ、良い子の二人はもうねんねです』

『大人はねんねしなくていいんですか?』

『しませーん!』

 アインズが笑ってフラミーからも服を脱がせると、ガチャリと扉が開いた。

『僕、夜だと……おしっこできない……』

 目をうるませたナインズはわざわざフラミーの寝室から必死にアインズの寝室まで歩いて来たらしい。手を繋ぐメイドが焦って汗を飛ばしていた。

『お、おしっこだな!うんうん!おいで、九太』

 慌てて布団をフラミーに被せて、メイドに謝られながらナインズが用を足すのに付き合う。

 フラミーは苦笑し、アインズが戻るのを待った。

 しばらくすると、『……ね、ねんねしました』とアインズは転移門(ゲート)をくぐって来た。

『油断も隙もない……』

『ですねぇ』

 そろりとアインズがベッドに膝をつく。

『もう大人もねんねかなぁ』

『それは少し悩みます』

 翼の間に口付けをすると、フラミーは顔を赤くし──扉がガチャリと開いた。

『お母ちゃま……?』

『は、は〜い』

『羽がないのです……。にぃにしかいないのです……』

 アルメリアが言うと、二人は目を見合わせて苦笑した。布団に乗るローブを羽織る。

『<転移門(ゲート)>』

『おいで。皆でねんねしようね』

 頷くアルメリアを連れて、フラミーの寝室に戻る。

 ナインズが寝ているベッドに上がり、アルメリアは翼に包まれてすぐに寝た。

 翌朝、ナインズは『僕、お父様のお部屋までおしっこ我慢した夢見たよ!』と嬉しそうで、アインズはうんうんと何度も頷いた。

 

 

 アインズは一ミリも憎めない息子にソファの席を勧めた。

 一人でおしっこもできるようになったと言うのに、息子よ、なぜなんだ。

「……お前が邪魔だったことは一度もない。多分。──で?何だ」

 パンドラズ・アクターに答えられないことに自分が答えられるだろうか。

「ちょっと現金な話なんですけど…………今回のこれ、お小遣いもらえるかなぁって」

 アインズは骨の身で瞬いた。

 彼の意図がいまいちよく分からない。

「九太は金が欲しいのか?」

「すみません。任されたのはそれが全てなわけじゃないんですけど……」

「あ、いや。そう言う意味じゃない。お前がこれをやるなら、夏草海原や最古の森に公務に出る時と同じようにちゃんと給料は払うつもりでいるが」

 いわゆる王太子なんかが年間に自由にして良い金を参考にして時給を渡しているのでかなりの額だ。

 アインズとフラミーも月三十万程度のサラリーマンの平均的な給料を形状自分たちに出しているが、ブラック対策なだけで子供達に小遣いをやるくらいしか使っていない。あとはたまの放浪じみた旅行か。

 

「ありがとうございます!良かった。僕頑張ります!」

「うむ。ナザリックはホワイトだからな。それより、何か欲しい物があるのか?公務の分も合わせれば結構金はあるんだろう?」

 ナインズは莫大になりつつある宝物殿貯金にほとんど手を付けていない。放埒の旅で少しは消費したようだが。

「思ったより儀式に使うお金が高くて。もっとお金貯めないと、一太が使いたい時に間に合わないかなって思ったんです」

「あぁ、一郎太に使う分か。そんなものナザリックから出すから気にしなくて良いぞ。ねぇ、フラミーさん」

「ですね。いっくんの不死はお母さん達からもお願いしたいくらいだからいいよ」

「はは、ありがとうございます。あとは一太に好きな人ができた時のためなんで、僕の小遣いからもやっぱり出します。気にしないで下さい」

 

 アインズとフラミーは目を見合わせ、二人して頬をかいた。一郎と花子のためにわざわざナザリックの財を投げ打つことはない。一郎太の相手は立場的にはそれに当たるだろう。

 ただ、息子がせっせと働いた金の使い道が友達や友達の恋人に消えるというのは何とも親としては複雑だった。

 

「──それから、もう一つ質問なんですけど……今日の話の中に第五位階の<死者復活(レイズデッド)>の転用魔法がありましたけど、第七位階の<蘇生(リザレクション)>から転用するんじゃダメなんでしょうか?少しでもお金減りそうだなと思うんですけど」

 アインズとフラミーに儀式はできない。名前と使用魔力を変えた弱体化しただけの生活魔法と違い、フールーダオリジナルスペルは新たな魔法習得にカウントされる。

 しかも儀式で魔法を使うというものもよくわからない。

 

「できるんじゃないのか?お前は第九位階の<真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)>を使うようにもなるだろうし、そうしたら金は必要ないはずだ。お前の金はお前が使える。焦って全部一郎太達のために使おうなんて考えなくていいぞ」

「何だ、良かったぁ。依頼バイトもしなきゃいけないかなって少し考えてたんですけど」

「やれやれ、人が良すぎるな。悪い人間に騙されないようにしろよ」

「はは、多分大丈夫。ちなみに<死者復活(レイズデッド)> から<真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)>のスペル組み替えのやり方って……」

「……詳細はフールーダのところに行って質問して来なさい」

「はぁい。やっぱり低い位階の話だし、父様と母様じゃ興味もないですよね」

「……いや、父ちゃんは儀式とかしないから分からないだけだって」

「お母さんもそうだよぉ」

「父様達にはそんな物必要ないですもんね。老いても赤ちゃんに戻せば良いですし」

「そうじゃなくて──」

「大丈夫、分かってます。じゃあ、お小遣いはまた兄上のところに貯金しておいてください!また使い道なくなっちゃったけど」

 ナインズは「失礼しまーす」と軽やかに立ち去っていった。

 

「……フラミーさぁん。息子のやつ、自分が立派すぎて親まで立派だと思ってますよぉ……」

「立派の反対の親二人揃ってるのにねぇ。リアちゃんも立派な親二人だと思ってるし」

 

 アインズはフッと瞳の灯火を消した。

「……花ちゃんにはそう思われてて良いです。父を超える男じゃないとお嫁には行かせないって言うんで」

「サラ君なら良い気もしますけどねえ」

「まだ十四ですよ!?サラトニクに決めるには早すぎますし、決まったとも限りません!!」

 妙な迫力だった。

「まぁ、そうですね。でも、サラ君でもない変な子連れてきたら嫌だなあ」

「く……サラトニクも九太くらい立派になったら考えます……。でもあの極地に至れるやつなんかそうそう居ないですからね……」

「ははは、多方面に親バカぁ」

 

+

 

「──っクシ。……何だろう。悪寒がします」

 サラトニクは鼻の下をかいた。

「良いから早く乗ってしめろ。それより、サラトニク。お前はアルメリア様に馴れ馴れしすぎるといつも言っているだろうが。手なんか触ったりするんじゃない」

 馬車の中からジルクニフが小言を言う。サラトニクが乗り込むと、エンデカがそっと扉を閉めた。

 

「父上、私は本当ならナインズ兄様がされるように抱きしめてどこかに口付けたいくらいです。よくやっていると褒めてください」

「……聞かれたらお前の首も私の首も飛ぶ。間違っても許可を得たからと言っておかしな真似は起こすなよ」

「大丈夫です。大人になるまで我慢できないほど子供じゃあありません」

 ジルクニフは爽やかな笑みを浮かべたままのサラトニクの胸ぐらを掴むと、よく似た顔でサラトニクを睨んだ。

「大人になってもに決まってるだろうが……!どこかでちょうど良い娘を見つけて来てやるからやめろ……!」

「そんな娘はいませんよ。見つけて来ていただいたところで父上の後宮に入りっぱなしの女達と同じになってしまいます」

 この父にしてこの子。

 鮮血帝見習いは動き出した馬車の中でも笑みを絶やすことはなかった。

 

 そして、一瞬隣り合った馬車を見るとジルクニフは呟いた。

「まぁいい。……少なくとも、ああ言う女に引っかからないだけはましだ」

「……ああ言うとは?」

 くん、と顎をしゃくる。サラトニクは外を確認すると笑った顔のまま、どこか冷めたように「あぁ」と声を上げた。

「──ドラウディロン・オーリウクルス。嫉妬に狂い女神を消そうとした元女王、ですね」

「悪魔召喚なんか絶対にされるなよ。超優等生のバハルス州の名に傷を付けるな。神都、エ・ランテル、アーウィンタールと言ったら別格の都市だ」

「同感です。それにしても、クラリス様が手強くて参りますよ」

「あれは母親が……あれだからな」

 男は二人で苦笑した。

 

+

 

「……また大して話せなかったな。挨拶くらいで」

 ドラウディロンは帰りの馬車の中でため息を吐き、向かいに座る宰相は呆れたような目をしていた。

「結局、陛──オーリウクルス様は講義はちゃんと聞いてたんですか?出席も三回目ですけど」

「聞いていたが全く分からん。まぁ、老いを遅らせなくても私はもとから老いるのが遅い。時間はまだまだある。位階魔法も得意になってきているしな。また勉強していくさ」

 ドラウディロンはフンスと鼻息を吐いた。

「陛下目的で来ているようにしか見えないんですが……」

「う、うるさい。──そうだ、お前!あれは誰にも言っていないだろうな!?」

「……何をですか」

「あの時のことだ!口にするのも悍ましい!!」

「……言いませんよ。悍ましいはこっちのセリフです。私はこの歳だっていうのにみっともない……」

 

 宰相とドラウディロンは酒の勢いで過ちを犯した。度々酔っ払う二人だったし、若い頃にはそう言う間柄ではないかと噂されることもあったが、これには流石に参った。

 宰相もドラウディロンも自分への落胆で数日寝込んだらしい。

 ドラウディロンは全てが敏感すぎる祖父の七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)に情事を嗅ぎ取られ、相手がアインズでないと分かった瞬間大変怒られていた。

 祖父は相手をナインズに変えても良いと言うが、十六のおぼっちゃん相手にそれは難しい話しだ。

「く……お前といると吐き気がする」

「こちらのセリフなので、好きに言っててください」

 二人はフンと顔を背け合った。

 

+

 

「はぁ〜!嬉しいわぁ〜!」

 一方、パラダイン記念大講堂でいつまでもケラルトと共に美容ノートを突き合わせていたカルカは幸せの吐息を漏らした。

「むっふっふ。これでまた美しいままでいられますね」

「素敵なお婿さんを見つけるまでは絶対に老いれないわ!ケラルト、ここが難しそうだから儀式の時にはあなたに任せるわね!」

「お任せください!カルカ様も私の時にはよろしくお願いします!」

 肩を寄せ合いきゃあきゃあ言っていると、いくつか前の席を立った上位森妖精(ハイエルフ)と目が合った。

 

「──あ」

 カルカは途端にぴんと背を伸ばして頭を深々と下げた。

 彼は全てが真っ白で、半分上げられている髪からは長い耳が見え隠れしていた。

(……あの肌艶、羨ましい限りだわね。タリアト・アラ・アルバイヘーム様)

 普段は大陸が違うのであまり話す機会もないが、旧エルサリオン王国は旧聖王国を襲撃した過去がある。

 二人は当然顔見知りだ。

 タリアトはわざわざ席を避け、カルカの前まで来ると深々と頭を下げた。力関係が窺われる行動だった。

「ベサーレス州知事殿。ご無沙汰しております」

「こちらこそ。アルバイヘーム閣下もお元気そうで何よりですわ」

 二人の間に若干気まずい雰囲気が流れる。

「……ベサーレス州知事殿も老いの堰き止めに?」

「あ、はい。少しでも長くお仕えできればと。アルバイヘーム閣下も?」

「えぇ。私は元から老いを遅めておりますが、学びもあるかと。パラダイン老のものは私の使う魔法とは全く異なるので」

「お肌、美しいですものねぇ」

「いえ、ローブルの至宝ほどでは」

 

 カルカはパッと顔を明るくすると聖女の笑みを浮かべた。鬼気迫る美容家としては嬉しい限りの言葉だ。

 

「まぁ、嬉しい。もし、今度良かったらお茶にでもいらしてください。閣下の魔法の力があればきっと一層素晴らしい美容魔法も作れますわ!」

「ふふふ、そうですね。では、近々是非。予定を確認して手紙を送りましょう。──ジークワット、行くぞ」

「は」

「ナインズ殿下ともゆっくり話せたし、良い時間だった」

「えぇ、本当に。ジェンナ・ベヘリスカも連れてきてやるべきでした」

「気にされていたね」

 

 女性にも見えるほど美しい元王は近衛と共に大講堂を後にして行った。

「むっふっふ。ナンパ、成功じゃないですか」

 ケラルトからいやらしい笑いが上がる。

「え、えぇ?今のはそう言うんじゃ……」

「良いじゃないですか、相手として不足はありませんよ」

「うーん……そう……?でも、上位森妖精(ハイエルフ)は血の混ざりを嫌うわよ?」

「それを乗り越えてこそです!デミウルゴス様より余程芽はあります!春を目指しましょう!!」

 カルカはそんな簡単に、と苦笑した。

 

+

 

「ただいま帰りましたわ、お父様」

「クライム、クライム!帰りましたよ!」

 

 二人の黄金が家に着くと、クライムは幸せの顔を上げた。

「おかえりなさいませ、ラナー様。おかえり、クラリス」

「よう、姫さん、嬢ちゃん」

「あ、お邪魔してます。おかえりなさいませ」

 家にはブレイン・アングラウスとペテル・モーク。

 三人とも良い年をしたおじさんだ。

「いいなぁ、クライム。姫さんは老いない黄金だ。お前もじいさんになる前に老いなくしてもらった方がいいんじゃねぇか?」

「うふふ、ブレインさん、老いない──ではなく、老いを遅くしているだけですけれどね。もっと言ってやってください。クライムったらお金もかかるし良いって聞かないんです。絶対に離れないと誓ってくれたのにおかしいですよね」

 エ・ランテルにはこの儀式が使えるほどの──第五位階まで納めているような──超高位神官はいないので、儀式に消える金と、魔導省に払う金と、大神殿に払う金と、術を掛けるフールーダ──乃至は蒼の薔薇に払う金を用意しなくてはいけない。文字通り莫大な富が必要だ。

 すっかりおじさんになり始めているクライムにラナーが寄り添う。

 クラリスもクライムにぴたりと寄り添うと目を閉じた。

「お父様がいない未来など嫌ですわ」

「ク、クラリスまで……。私はラナー様の剣であって、二人のように特別な人間なわけでは……」

「私が特別なら、お父様も特別ですわ」

 

 十七の娘にこんなに懐かれる父親も珍しい。

 クラリスは可愛い子犬のような父が大好きだ。

 ペテルは「いいなぁ」と呟いた。

「──何だよ、お前だって娘はいるだろ。ニニャさんもいるし」

「……エルミーニャももう十三ですし、段々距離を取られてきてますよ」

「はー。育ちが出ちまったな、そりゃ。義姉さん──ツアレさんのとこのはどうなんだ?あんまりセバス様にそういう話は聞かないが」

「あぁ、クリスちゃん?そりゃセバス様と何の変哲もなく普通に過ごしてますよ。従姉妹だしたまにエルミーニャに会いにきてくれますけどね。一つしか違わないのにあっぱれですよ」

「はははは!それも育ちが出てんなぁ!」

「余計なお世話ですよ……。ニニャの育て方は間違ってるはずないんだから」

 

 ペテルはぶっすりと頬杖をついた。

 

+

 

 夕暮れ時、分けてもらった神都土産を手にペテルは帰路についた。

「ただいまー」

「おかえり、ペテル。──うわ!お酒くさいなぁ」

「へへ、飲みすぎた。ニニャ、ラナー様とクラリスちゃんが神都に行ったって土産をくれたよ。エルミーニャは?」

「クリスちゃんと部屋にいるよ」

「あ、クリスちゃん来てるんだ」

 

 ニニャは長い栗色の髪を一つに結くと、ペテルの持って帰ってきた包みを開いた。

「──すごい!ケーキと焼き菓子だよ!エルミーニャとクリスちゃん呼んでもらって良い?」

「ほいほい」

 ペテルは自分の身なりが守護神の娘に対して失礼に当たらないかを十分に確認した。

 彼女はエルミーニャの従姉だが、ただの小娘とは言えない。

 昔はコンドミニアムに暮らしていたが、今はアングラウス道場でもらえる給料を貯めて手に入れたマイホームだ。

 二階に上がり、扉を叩く。

『はーい、どうぞー』

 エルミーニャの返事を聞くと、ペテルはそっと扉を開いた。

 おかっぱの茶色い髪が揺れる。エルミーニャは明らかに落胆したような雰囲気だった。

「なんだ、お父さんか」

「──ペテルさん。こんばんは!」

「クリスちゃん、いらっしゃいませ。さっきクラリスちゃんの所で神都のお土産を分けてもらって来たんだけど、一緒にどうかな?クリスちゃんには神都のものなんて珍しくもないと思うけど」

「ありがとうございます。いただきます。ミニャ、行きましょう!」

「そだね」

 

 エルミーニャがうんと伸びる横で、クリスはてきぱきと部屋の片付けを進め、空のグラスをお盆に乗せて立ち上がった。

「え、エルミーニャぁ。自分でやりなよぉ。クリスちゃんにやらせないでさぁ……」

「いえ、気にされないでください!」

「えへへ、クリス姉様ありがとぉ」

 

 二人が仲良く部屋を出てくると、ペテルは空気になる前に尋ねた。

「今日は二人は何してたの?」

蓄音機(グラモフォン)と言う魔法道具を最近お父様にいただいたので持ってきて一緒に音楽を聞いていました!」

 それは近頃出た大変流行りの魔法道具だ。

 大きなラッパのようなものがついていて、音楽の込められた魔法石を設置するとラッパから音楽が流れる。

 高価だが、家に一つあるだけで劇場に行ったようだと手に入れている人は多い。たまに窓から音楽が漏れ聞こえて来たりすると何となく胸がキュッと熱くなる。

 割と大きい代物だろうが、ドワーフの皮袋などに入れて持ってきてくれたのだろう。

 

「おしゃれな事してるねぇ〜」

「ふふ、殿下方なんてよく二人で踊ってらっしゃいますよ!」

 そりゃますます洒落てるな、なんて苦笑する。

 ペテルからしたら、クリスやラナー、クラリスの存在すら別世界だ。よく自分がそこの集いにちゃっかり身を置いているものだ。

 平凡な冒険者だった自分がこうして物語の主人公のような立ち位置にいられるのは全てこの二人のおかげ──。

 廊下には冒険仲間だったはずの女神の写真と、モモンからの手紙が貼られていた。

 

「──エルミーニャにも蓄音機(グラモフォン)買ってやろうか」

「ほんと?」

 半分無視を決め込んでいた娘が期待いっぱいの顔を上げる。

「今度見に行ってみよう。あんまりたくさん蓄音石(レコード)は買ってやれないと思うけど」

「う、うん!一個だって良いよ!嬉しい!!」

「良かったですね、ミニャ!」

「クリス姉様のおかげ!ありがとう!」

 

 一階に着くと、晩御飯の前だと言うのにニニャがお茶の用意をしてくれていた。

「──蓄音機(グラモフォン)買うって聞こえてたよぉ」

「お母さん、だめぇ?」

「良いよ。その代わり、お父さんとお母さんは三日くらい冒険に行って臨時収入を稼いでこなきゃいけないから、一人でちゃんと暮らしてね」

「分かった!ふふ、ニニャ・ザ・術士(スペルキャスター)の再来だね!」

「そんな良いもんじゃないよ。さ、皆どうぞ」

「失礼します!」

 クリスはちょこりと席につくと、ケーキとクッキーを見て年相応の笑顔を見せた。

「このお店!マスコンパスですか!」

「え?うん、有名なお店?」

「はい、私たちの中では有名なお店です!ナインズ様がよく行くお気に入りだって一郎太くんが言ってました!きっとクラリス様が選んだんですね!」

 

 殿下のお気に入り。

 三人は会った事のない雲の上の人が好きなものと聞くと目を見合わせ、ごくりと喉を鳴らした。

 

「いっただきまーす!帰ったら一郎太くんとじろちゃんに自慢します!──あ、ナインズ様の話はご内密に願います」

 

 クリスはパクパクと念願のカフェのケーキを口に運んだ。

 

 一家はその話は当然誰にもしなかったが、神都の方へ旅行に行った際には必ずマスコンパスに立ち寄ったらしい。

 

+

 

 同日、真夏の太陽の下。

「……それで、なんで僕たちまで荷物持ちなのさ」

 カインは湖に着くとどっさりと荷物を置いた。

「カイン様、大丈夫ですか?」

 年々ムキムキになってきているチェーザレに見下ろされる。

 ロランとリュカもそれぞれ荷物を抱え苦笑していた。

 エルミナスと女子達はほとんど手ぶらで、着替えると言って立ち去って行った。

 

「明日から学校だってのに……」

 皆が神都にいる今日にしようと言われたのでほいほいと出てきてしまった。

 カインがぶつぶつと文句を言うのを尻目に、ロランとリュカがせっせと湖畔に生える木に布を結びつけて日陰を作ってくれた。その下にチェーザレがピクニックシートを引いて荷物を乗せ直していく。

 カインはのそのそと日陰のシートの上に移動した。

 

「カイン、お前少し白すぎるから明日までに焼けてちょうど良かったじゃんか。日陰出て泳いでこいって」

「……リュカはイシューの水着見られるからって張り切りすぎ」

「そ、そんなんじゃない!!大体それを言ったらロランだってそうだろ!!」

「うわ、そこで僕に振らないでよ〜」

 ロランも膝を抱えて木陰に入ると、苦笑した。

「皆水着水着って……青春だねぇ」

 女子の着替えの周りに警報(アラーム)の魔法をかけに行っていたエルミナスが言う。

「エル君おかえり」

「ただいま。魔導学院生、一緒に魔法掛けてくれたら良かったのに」

「僕は残念ながら<警報(アラーム)>は使えないのさ」

「ふぅ、こんな時殿下がいたらなぁ」

「うわぁ、エル君、キュータ様に<警報(アラーム)>なんて掛けさせるの?」

「違う違う。乙女らもあんまりあれやってこれやってって言わないでしょ」

「……なるほど。言ったら一郎太君にお前らなーって言われるしね」

「それを言わないと思うと、俺たち結構優しいじゃん。それにしても、キュータも一郎太も、夏休みの間結局会えなかったな」

「訓練だってね。殿下も大変でらっしゃる。しかも今日は魔導省主催でパラダイン様の特別講義が魔導学院であるらしいんだけど、それにご出席なさるとか」

 

 エルミナスが言うと、「えっ!?」と後ろからオリビアの声がした。

 

 女子らがやっと戻ったかと振り返り、男子は皆顔を赤くした。

 オリビアは髪を結ぶリボンと揃いの水色のギンガムチェックの水着を着ていた。

「知らなかったー。エル様、いつから知ってたの?キュータ君教えてくれたら良かったのに……」

「……えーと、私は省内の噂話で知ったからね。ご公務の一環だろうから、そう言うことはおいそれとは書けないと思うよ」

「そう言うものなんだねぇ。──ねー、皆ぁ。今日キュータ君魔導学院行ってるって」

「……キュータ君としてじゃないなら、多分今日は神都に来てても会えない」

「ま、明日から学院も始まるんだもんね。レオネはまた明日から会えるから良いなぁ」

「って言ったって、登校する数分でしてよ」

 

 アナ=マリアはワンピースタイプのレモン柄の水着だった。

 レオネは真っ黒なタンクトップとビキニを組み合わせたタンキニスタイル。

 イシューは茶色い水着に透けたシャツを羽織って、たわわな胸の前で結んでいる。

 

「どうせ会えないなら、せっかく来たし楽しまなきゃ損だね!」

 オリビアは爛漫に笑うとアナ=マリアの手を取って湖へ走って行った。

 その後をイシューもレオネを引っ張って夏の空の下へ行く。

 

「……思ったよりいいもんらしい」

 カインはあぐらをかいた膝に頬杖をつくと頬を赤くしてつぶやいた。スルターン小国で見放題だったが、こう言う下世話なことはキュータの前ではとても言えなかった。

「カイン様、鼻血出さないでくださいね」

「誰が出すかっ。でも、なんか皆もう子供じゃないね」

 しみじみと一人頷く。

「……イシューなんて──」

 と言ったところで後ろからリュカの腕が回った。

「み、見るな!!このスケベ野郎!!」

「い、いたたた。僕もお年頃なの。大きい胸に目を奪われるのは仕方がないことさ、なぁロラン」

「……僕は別にそう言う目で皆を見てないし。幼児塾から一緒だし」

「嘘ついて……。君、レオネの黒いひらひらを追って目が垂れてるよ」

「ち、違うよ!だいたい、僕は別にリュカと違ってレオネを好きとか一回も言ってない!」

「俺も別にイシューがどうこうなんて言ってない!」

 

 やいのやいのとお年頃が盛り上がる中、エルミナスは眉間を押さえた。

「皆、青春はいいけどいつか聞かれて叩かれるよ」

「エル君は興味がないのか!」

「なくはないけど、私は我が殿下にぞっこんだからね」

「エル様は大人なのか、精通がまだなのか、こっち(・・・)なのか……」

 リュカが呟くと、エルミナスはリュカを指差した。中学生サイズの、まだ大人の手とは言えない小さな手だ。

「<水創造(クリエイトウォーター)>」

「──っブ!そ、そんなことで魔法使うな!」

 頭からバシャンと水をかぶったリュカがぷるぷる顔を振ると、皆「飛ばすなー!!」と悪態をついた。

 

「はー、キュータ様がいたら確かにこうはなってない気がしますねぇ」

 チェーザレがタオルを出してリュカの頭に乗せる。皆の世話係になりかけていた。

「どうする?キュータ様が意外と誰それの胸の大きさが一番良いとか言ったら」

 皆目を見合わせ、ロランがコホンとひとつ息を吐いた。

「んん。──僕は皆いいと思うよ。それより、水着似合ってるね。可愛いよ。──とか?」

「……下心ゼロで言うかもしれない。あの方は超常現象だ」

「はは、本当超常現象だよね、キュータ君って。あんな人がそばにいちゃあさ、そりゃ皆キュータ君好きになるよ。僕たちだってそうだけど、女の子なんか特にさ。勝てるはずないもんね」

 女子を眺めるロランの目は少し寂しげで、カインは肩を抱くと揺らした。

「ロラン、悲しくなるようなこと言わないでさぁ。リュカを見習って頑張りな」

「ん……僕見たんだよね」

「何を?」

「期末考査の日に、久しぶりに登校してきたキュータ君がレオネを抱きしめてキスしたの」

 

 皆が中腰になる。どこに行こうと言うのか、聞いていた男子は全員何故か立ち上がり掛けてしまった。

 

「な、な、な!?」

「……まぁ、キスって言ったってさ、口じゃないよ。おでこにね。キュータ君が調子悪かった時、レオネがずっと祈ってたらしくて、それがすごく助かったみたいでさ。僕の神官だって言って、レオネは祝福に感謝しますって」

「な、なんだ。そう言うことか……。祝福のキスくらい、そりゃ神官相手になら……するんじゃないの……?」

 カインには分からない。

 周りに同意を求めて見渡すが、誰も分からない。

 

「……はぁ〜〜。その後、僕キュータ君に謝られちゃったよぉ〜〜」

「うーん、ダメージはでかそうだね」

 確かにスルターン小国に行く時も、二人だけ何かをわかり合っているような感じがして大変ニヤニヤしたものだ。

「でも、あの二人別に普通だけどなぁ?」

「普通だとしても、僕にはあんな真似は絶対にできない。レオネになんて言ったら振り向いてもらえるのかわからない」

「あ、やっぱり好きなんだ」

「……あぁ〜〜」

 

 ロランの呻き声が湖畔に満ちる。

 ボールで遊び始めていた四人娘はタープの下へ振り返った。

 

「なんか言ってるよ」

「……嫌な感じですわね」

「……えっちな感じがする」

「やっぱり男の子はいらなかったかなぁ?」

 

 言いたい放題だった。

 

 その後、男子も湖で遊び、お昼には女子が作ってきた弁当を皆で食べた。荷物運び代、ボディーガード代として男子は喜んで受け取ったようだ。

 各々、今日のことを帰り道の乗合馬車(バス)で二通の手紙に認めた。

 明日からはまた会えるが、帰りに大神殿に寄って手紙を神官に任せる。

 

 手紙は即日死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の手によって第九階層へ運ばれた。

 

 祭典の事に目を通していたナインズはそれを受け取ると、第六階層へ駆けた。

 

 昔はただのログハウスだったが、すっかり邸宅じみた一郎邸に行き、一郎太の分を渡した。

 

 二人は<永続光(コンティニュアルライト)>の下で顔を寄せ合い、それぞれに宛てられた手紙を読んだ。

 胸の話ばかりだったと苦言を書くエルの様子に思わず笑ってしまう。

 イシューの手紙からは皆のことを描いた絵が入れられていた。

 オリビアの手紙には、一緒に行きたかったなと優しい言葉が。

 アナ=マリアの手紙には、女子四人で遊んでいたらナンパされてリュカとロランが珍しく活躍したなんて。

 レオネの手紙には、今日の公務の労いと、あなたがいないと男子がバカで困るとかなんとか。それから──湖のそばで摘んだ花びらが一枚入っていたらしい。

 

 ナインズは花びらを耳に寄せると、目を閉じた。




皆さん大変元気そうで何よりです!
不老の術はまだ完成したわけではなさそうですが、遅らせる程度にはうまく運用されてるんですね〜!

次回、明後日だす!
Re Lesson#32 幕間 秋の日常

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リクエストのあったドラ子と宰相の情事ができました(白目
https://syosetu.org/novel/195580/40.html
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