眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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Re Lesson#33 カッツェ平野の凶兆

 金色に揺れる穂の中。一人の女学生が振り返った。

 

「修学旅行なんて最高ですよねぇ!」

 

 魔導学院の制服に身を包む彼女の耳は長く、お団子に結い上げられた黒い髪が印象的だった。

 彼女は半森妖精(ハーフエルフ)──にしか見えなかった。

「ふふふ、やっぱり青春は鏡越しよりその場にいてこそですね」

 同じく魔導学院の制服に身を包む彼は人間。黒い髪、黒い瞳の南方系だった。

 

「えへへ〜」

「えへへ〜」

 

 笑い合った二人は麦畑で肩を寄せた。

 遠くには友人に囲まれて笑う一年首席。

「いい眺めですねぇ、鈴木さん」

「本当ですねぇ、村瀬さん」

「じゃ、フールーダさんの所行きましょうか!」

「あんまりハッスルしないといいんですけど」

「探知阻害付けてるから大丈夫ですよ!多分」

 

 面白そうなことが大好きな保護者達は楽しげな一年次を尻目に三年次の輪へ向かった。

 エ・ランテル校と神都校の特進科と薬学科の生徒達が輪になって今年作られた新しい魔法道具の説明を受けていた。知らない者は他校の生徒と言う認識なので違和感なく潜入に成功した。

 

 フールーダが手にしているのはマンドラゴラの収穫時にあたりに叫び声が響かないようにするアイテムで、収穫する畝を囲むように何本もの杭を打つようだ。

 第二位階の<静寂(サイレンス)>が効き始めると、マンドラゴラ達の周りには青白いドーム状の光が満ちた。

 

「──これ、ピニスン達のために何セットか買っても良いんじゃないかなって思うんですけどどう思います?」

 ナザリックのマンドラゴラ達は抜くと「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」と叫ぶようにアウラが教育しているので不快な叫び声が上がるわけではない。

 だが、一匹抜くと全員が一斉にモリモリと土から体を揺らして飛び上がり、「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」の唱和を始める。

 その言葉を合図にいっぺんに収穫できて便利という話もあるが、まだ収穫が必要のないやつは土へ戻さないといけないし、うるさいし、結構面倒くさい畑があった。

 隣のガルゲンメンラインやアルルーナの畑はもう少し知能があるので静かだが。

「買い物リストに書いておきましょ!ハムスケのいびきと寝言対策にもなりますし!」

「ははは、そう言えば苦情来てましたね」

 ちなみにマンドラゴラの唱和を聴きすぎたハムスケが寝言でそれを言ったせいで夜中にマンドラゴラ達が抜けてしまったなんていう悲劇もあった。

 二人でこそこそ話していると、「しっ」と隣の学生に注意され、アインズは相変わらずまたやってしまったと口を噤んだ。

 

 その後ろをぞろぞろと一年達が通り過ぎて行く。

 どこへ向かっているのかなとアインズは首を長くした。

 行き先にはもう一つの一年の塊。あちらはエ・ランテル校の生徒のようだ。

「──そうなのさ。チェーザレは何を目指しているんだろうね」

「でも筋肉が付いてた方が荷物持ちにはいいだろ?」

 ふと、すれ違い様聞き覚えのある名前と声を耳にしてフラミーも振り返った。

 一郎太が目の前を歩いて行く。息子グループだった。

 息子の観察ばかりしていても仕方がないので、二人はナインズの友人の観察も楽しんでいるので皆のことはよくわかっている。

 

 その中でも特に、魔導学院に来てからできた新しい友達はアインズ達の覗き見の格好の餌食だ。

「──あ、ワルワラ君だ」

 フラミーが言うと、四人の足が止まり、フラミーを見下ろした。

「誰だ?あんた、三年だろ?」

 アインズはパッとフラミーの口を塞ぎ引き寄せた。

「はは、この人はちょっとしたワルワラ君のファン」

「黒髪か。砂漠からか?嬉しいですねぇ、先輩」

「ワルワラ、行こう。もう集まってる」

 ナインズが言ってワルワラが歩き出す。

 アインズとフラミーは「良かった〜」と息子の思わぬ助け舟に笑い合った。

 そこで二人の肩は組まれた。

 ん?と、振り返ると笑顔のナインズがいた。

「なぁにをやっていらっしゃるんですかァ?」

「……村瀬さん、なんか怖い人が──」

「怖い人じゃないですよ!こんな所で何やってるんですかって言ってるんです!」

 向こうで一郎太がカインとワルワラを押して進んで行く。ナインズを置いて行ってしまって良いのかと二人は振り返っていた。

 

 逆にナインズも父母の肩を組んだまま三年の迷惑にならなそうな場所へ離れて行く。

「ナイ君、皆いっちゃうよ〜?」

「その名前で呼ばないでください!母様も何やってんのか白状して!!」

「はいはい、九ちゃんね〜。視察ぅ。お母さんもお父さんも面白そうなことだぁいすき」

 フラミーが言うとナインズは頭を抱えた。

「視察って……分かったら皆パニックになりますよ……」

「えへへ。大丈夫大丈夫、分からないように来てるから!もう何回目か分からないくらい!ね、鈴木さん!」

「ね〜村瀬さん」

 二人が仲良く頭を寄せ合うとナインズの頭痛は強くなるようだった。

 

「……良いですか。絶対に魔法は使わないでください。威力も範囲も狂ってるんですから」

「はーい!ちゃんと分かってるよぉ。大丈夫!」

「そうそう。何ならフールーダは私達のことを分かってるしな。ジーダとゾフィも」

 アインズが顎をしゃくった先では、一年が集まるのを待つジーダとゾフィがいて、慌てて頭を下げていた。

「……いつもの下界巡りってことですね。優秀そうな人がいたんですか?」

「別に。たまには良いだろう?お前ばっかりずるい」

「ずるいって子供みたいなこと仰って……。それに、名前は鈴木と村瀬なんですか?」

「お決まりだからな」

「同じ名前でその髪の毛と目の色じゃ父様とは血縁者だってすぐにバレますよ……。母様は半森妖精(ハーフエルフ)だからまだ良いですけど……」

「まぁまぁ。モモンって言うわけには行かないしな」

 

 ナインズは子供の頃、ナザリックにいるらしいと聞いていたはずが見かけないと思っていた英雄の名前に眉間を押さえた。ただの父だった。

 子供の頃二、三回会って握手して貰ったが、サンタクロースの正体にリアルの子供達が気がつくのと同じように、ナインズはモモンの正体に気が付いていた。

 

「ま、従兄弟とかなんとか言っておいてくれれば良いから。私達は基本的には三年の方で遊んでる──じゃなくて視察してるから」

「……今遊んでるって言いましたよ、しっかりと」

「何のことか分からん」

「何て白々しいんだ……」

「──あ、レオネちゃん」

 アインズが指さすと、ナインズはパッと振り返った。

 一年の信仰科のローブを探してキョロキョロしていると、アインズは嬉しそうに笑った。

「ははは、なんちゃって。いなかったな。いいなぁ、青春」

「……父様、殴って良いですか」

「嫌だ。流石にそろそろお前のパンチは痛いだろうから。──さて、おふざけはこの辺にしてお前はいい加減勉強に行きなさい」

「行きたいけど、お二人残して行けませんよ……。外のルール分からないでしょう……。父様と母様が誰だかバレて僕まで巻き添えなんて困ります」

「大丈夫だって。早く行かなきゃジーダが授業始められなくて悪いだろ。お前こそ外のルールが分かっているのならちゃんとしなさい」

 ナインズは渋々二人から離れると、ビッと指をさした。

「絶対に魔法使わないで下さいよ!後、外でキスや抱っこはしないこと!学生はそんな事しないんですからね!!」

「はいはい、分かってるって。そんなに所構わずベタベタするわけがないだろうに」

「行ってらっしゃーい」

 二人について来ている八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達も手を振る。

 

 心配でたまらんとナインズは心の中で言いながら友人三人の輪に戻った。

 

「おい、なんだよ。お前兄貴がいたのか?学院じゃ見なかったよな?エ・ランテル校ってことか?」

 ワルワラに言われると何と言うべきか眉間を揉む。カインは「ま、まさか……」と言うような雰囲気があった。

「……あの人は兄じゃない。同じ母から生まれてない兄は一人いるけど」

「なんかお前んちって複雑だよなぁ。あっちは前妻の子?」

「いや、父は妻は一人しか持ってない……」

「じゃあ妾か。ま、神聖魔導国でもバハルスの方じゃよく聞く話か。な、カイン」

「そうだね。だけど……いいんですか?」

 カインは心配そうにあの二人の方を見た。

「……僕も良いのか分からない」

 振り返ると、あんなに外でくっ付くなと言ったのに二人はぺったりと寄り添って話を聞いていた。父はちゃっかり母の頬にキスをした。

 思わず拳を握ってしまう。ナインズは笑顔だと言うのに拳に血管が浮きそうだった。

「まぁまぁ、キュー様」

「お前と血が繋がってるってのに、兄貴は割と大胆だな。少しはお前もあれを分けてもらえてりゃあな」

 

 そうしていると、「そこ!!」とエ・ランテル校の教員に怒られた。

 渋々前を向く時、ナインズは「やれやれ」と肩をすくめる父が見えた。

 

 ジーダはそろりそろりとナインズに近付いて来ると、ナインズの肩を叩いた。

「えーと……スズキ君、少しいいかな?」

「あ、はい……。すみません……うるさくて。それに、あの二人本当お気楽で……」

「いやいや、それは良いんだけど、ちょっと予め紹介しておきたいエ・ランテルの先生がいるんだよ」

 ナインズは首を傾げると、そっと皆の輪を離れた。その後を一郎太が一応ついてくる。

 

「紹介しておきたい先生ですか?」

「そうなんだよ」ある程度輪から離れると、ジーダは一度深々と頭を下げた。「──授業も始まると言うのに申し訳ありません、殿下」

「いや、そんな。よして下さい」

「いえ……私がちゃんとやれてるか陛下方はご心配なんでしょうか」

「あの二人は視察だとか言って遊びに来てただけです……」

 とか何とか言っているこの瞬間にも、両親は遠くからナインズの写真を撮って嬉しそうにしていた。ナインズは赤ちゃんか。

 ちなみに、モノクロだがカメラもついに世の中に出回り始めた。だが、大変高価な魔法道具なので写真館に行かなくては写真は撮れないことが殆どだ。

 

「陛下方はいつもそう言って、本当の目的は仰らないんですよ。全てが終わってから、"ああ、そうだったのか"と分かることばかりです。多分今回も"ああ、そうだったのか"となるかと……」

 苦笑しながら、ジーダはそっと振り返り、離れたところにいた女性教員を手招いた。

「──あれは私のいわゆる同期です。帝国魔法学院からの付き合いになります。彼女は天才だと呼ばれていました」

 

 女性教員はすぐ側にくると深々と頭を下げた。

「は、初めまして。私はアルシェ・イーブ・リイル・フルトです!エ・ランテル魔導省に勤めるパラダイン様の高弟です。今は魔導学院のエ・ランテル校に出向しています」

「あ、初めまして。僕はキュータ・スズキです」

「お噂はかねがね。素晴らしい才能に話を伺うたびにエ・ランテル校の職員達もいつも感嘆しておりました。──殿下!」

 ナインズは思わず眉を顰め、ジーダを見た。

「クレント先生、これはどう言う?」

「申し訳ありません。彼女にだけはどうしても予め伝えておく必要があると思いまして。恐らく、この校外授業の間にも腕輪を外して魔法を使われることもあるかと……」

「それはあるつもりですけど……なんなんですか?」

「彼女は看破の魔眼を持ちます」

 

 アルシェは深々と頭を下げた。

 

「えっと、恐れながら、今は第一位階から第二位階をご使用になると見えます」

「そう言うことですか」

「はい。殿下が第何位階までお使いになるのかは存じ上げませんが、何も知らないままの彼女が殿下を目撃でもしたら騒ぎになるかと……」

「ありがとうございます。ちょっとクレント先生を疑っちゃいました」

「はは、それは仕方のないことです」

 ナインズはそっと腕を持ち上げ、腕輪を外す。そして一郎太に渡すと──

 

「──おげぇぇぇぇ!」

 嘔吐する音。ほとんど液体の吐瀉物がバチャバチャと大地を叩き、酸っぱい匂いが辺りに漂う。

 

「え、えぇ?大丈夫ですか?」

「ち、ちょっと。フルト君、どうしたの。体調悪いなら先に言ってよ。──殿下、すみません。えーと、どうしたもんかな。ミズ・ケラーか誰か近くにいないかな」

「あの、僕が回復かけますよ」

 ナインズは腰に下がる短杖(ワンド)を取ろうとして、そこに下げるようになった剣にカツンと手が触れた。夏休みの間はナザリックでずっと二つを下げっぱなしだったが、外では慣れておらず、真っ直ぐ短杖(ワンド)へ向かえなかった。

 

「す、すみませ──おえぇええ!」

 再び耐えきれないようにアルシェが吐く中、ジーダはようやく理解した。

 殿下に会うという緊張と、ナインズの持つ膨大な魔力に耐えきれずアルシェは吐き出したのだ。

 ナインズが杖を持ち、どの回復を掛けようかと迷っているのをよそに、ジーダも慌てて杖を抜いた。

「こ、これでなんとか。<獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)>」

 ジーダの魔法により畏怖に包まれきっていたアルシェはハッと顔を上げた。

 

「あ……す、すみませんでした。こ、この距離でこれほどのお力に触れたのは初めてで……。昔、エ・ランテルで陛下方を看破させていただいた事はあったんですが……」

 

 周りの生徒や教師が何事かとアルシェを遠巻きに見ていた。アルシェはダラダラと流れる汗を吸わせるように額をハンカチで押さえた。

 

「そ、そうですか」

 一郎太から腕輪を受け取り、この注目をどうするんだろうと思ってしまった。

 それにはジーダも思い至っているらしく、コホンと咳払いをした。

「殿下、兎に角ありがとうございました。先に紹介できて良かったです。えーと、皆には夜の交流会の挨拶を頼まれたとでも言って置いて下さい」

「それ、本当にやるやつですか?」

「えぇ、お願いします」

「あっちの二人の方がいいんじゃ……」

 ナインズが見る先では心配そうにこちらを見ている両親。

 だが、ジーダは首を振った。

「それぞれの学年ごとに交流会は開かれるので、一年の神都校の生徒挨拶をお願いしたいんです。──いいね、スズキ君」

 いつもの様子になったジーダが背を叩くと、ナインズはもう「分かりました」としか言えず、一郎太と皆の輪の中に戻って行った。

 

 それに手を振って見送ると、ジーダはため息を吐いた。

「……フルト君、いくらなんでも頼むよ。師が興奮するだけのお力があると先に言っておいたのに」

「ご、ごめん。ティアレフ君……。でも……あんなにすごいなんて……」

 そこまで言われるとジーダはナインズの本気がどれほどのものか気になってしまった。

「……ちなみに、殿下は何位階程度を使いそうなの?」

「……第八位階はお使いになると思う……。陛下方は第十……ううん、第十一位階や第十二位階にも達するようなお力だったけど……。でも、殿下も……やっぱり、化け物……」

 その言葉を理解するとジーダは思わずごくりと喉を鳴らした。

 それだけの力を持ちながら、秋からは剣まで腰に下げていて、あれも多少は使うのかと。

「……ティアレフ君、すごいね」

「何が……」

「私なら殿下──スズキ君にものを教えろって言われたら逃げ出す……。<飛行(フライ)>で目一杯遠くまで」

「今逃げ出したい気持ちだよ……」

 大人になった二人は苦笑を交わした。

 

+

 

 ブリタはこの秋の実りの中を、空からの魔物を警戒して巡回していた。

「全く平和な世の中になっちゃってね」

 あちらこちらで授業を聞く学生達が笑い合っている。

 

 すぐそこの女子四人組の様子を見る。

 

「──ルイディナ、この土はどう?」

 黒髪の女の子が土をすくい、獣人がそれを覗き込んだ。

「そこも掛けてあるねぇ。いやぁ〜すごいよ。守護神様のお力ってはちゃめちゃだね。これが昨日今日魔法をかけられた土じゃないなんて」

「そんなにすごいのね。私には分からないわ」

 

 ブリタにも分からない。

 あの獣人は森司祭(ドルイド)なのだろうか。

 

「ヨァナ、あなた調子悪いんですの?」

「……レオネ、私どうしよう」

「どうしようって何がですの?」

「……ミノさんの顔が見れないの」

「まさか、本当に一郎太さんに本気ですの?」

「そうみたい……。どうしよう」

「……どうしましょうね」

 

 ヨァナと呼ばれた子は真っ赤な顔を覆っていた。

 

(……青春ねぇ)

 

 そういう事とは縁遠かったブリタにはよく分からない感覚だ。

 あの男子が素敵、この男子が好き。それはそんなに楽しい事だろうか。

 ふと、空から陰がチラついた。

 肩にかけていた弓を下ろして見上げる。

(しゅ)だ。──そこの四人!頭を低くして!!」

 四人はハッと頭を下げ、ブリタはギリギリと矢を引き絞った。

 (しゅ)は人の手を持つ怪鳥で、凶兆の前によく現れる。例えば虫が大量に出るとか、この冬が冷え込みすぎるとか。

 なので全くいなくなると備えに困る魔物だが──やつらは人の手を持つだけあって作物をどっさりと盗む。

 それに、容赦なく人も襲う。

 ビュッと矢が放たれていくと、(しゅ)の首に刺さり畑の中に落ちた。

 (しゅ)はシュー!シュー!と鳴き声を上げて暴れていた。この鳴き声にちなんで(しゅ)と名付けられている。

 

「──助かりましたわ。ありがとうございます」

「いいえ。若い女の子達が無事で何よりよ」

 女子が礼を言いにくると、ブリタは笑った。

 弓を肩に掛け直し、腰に下げる小さなナイフを抜き取る。

「……殺しますの?」

「そう。こいつの嘴は<警戒(アラーム)>の魔法道具の素材になる」

 首を押さえつけてナイフを振り上げ、下ろす。

 (しゅ)は絶命した。

「よしと。──ん」

 顔を上げると女子の目を塞いで見下ろす男子がいた。一つに結かれた黒髪が風にそよぐ。一瞬女かと思うほどに美しい顔立ちだった。

「こんにちは、助かりました」

「いいえ、これが私の仕事よ」

「いい腕ですね。すごく正確で。──レオネ、君は血なんて見ない方がいいよ」

 耳元で囁く様子に、何故か見ているこちらが顔を赤くしてしまいそうだった。

「だ、大丈夫ですわよ。わたくしなりに色んな事、覚悟して生きてますもの。それより、キュータさんは授業はどうなさったの?」

「うーん、レオネ達の上に変なのがたくさんいると思ってきてみた」

「平気でしてよ。良いから授業に戻られて」

 女子は男子の背をそっと押したが、ブリタは「たくさんいる」という言葉に疑問を覚えて空を仰いだ。(しゅ)は別に群れる生き物ではない。

 だが、再び見上げた空にはたくさんの(しゅ)が飛び交っていた。今にも空を埋め尽くそうな数だ。

 

「な、なんで?」

 

 他の畑の上にも(しゅ)はたくさんいた。

 周りの畑でも弓の衆がせっせと(しゅ)を撃ち落としていた。

「あれ、有害なんですよね」

 男子生徒に聞かれる。

「そうよ。あなた達、一度避難したほうがいいわ。こんなに(しゅ)が出るなんて初めて。全部落とすには時間がかかるわ」

 何かよほど悪いことでも起こるのだろうか。

「──ワルワラ!全部落としていいらしいよ!!」

 振り返り男子が言う。

 向こうで笑った男子は杖を抜き、空へ魔法を放った。

 それを皮切りにあちこちの生徒達が空へ魔法を放っていく。

 これが魔導学院の生徒かとブリタは妙に感心してしまった。

 

「お姉さん、落ちてくる鳥に気をつけてください」

「お、おね……。んん、私も落とすわよ」

 そんな風に呼ばれたのはいつぶりだろう。ませた青年に苦笑してしまう。

「一太ー!腕輪放るよー!」

「へーい!」

 青い星のような指輪が着けられた手で高そうな腕輪を外すと、それを振りかぶってミノタウロスへ投げた。

 そして、腰に下げている剣の縛めを解き、剣を抜く。その剣は馬鹿みたいに装飾がたくさんついた、王族が儀式時に使うような代物だった。

「──繰り返しの(ダガズ)、与える(ギューフ)と満たす(イング)(ガー)

 刀身を指が撫でていく。その指には何もついていないのに、青白い文字が刻まれていった。

「これでうまくいくかな。<魔法蓄積(マジックアキュムレート) 電撃球(エレクトロ・スフィア)>」

「だ、第三位階……」

 バチバチと剣の周りを雷撃の波紋が満ちていく。こんなに明るい昼間だと言うのに、光はまばゆくブリタは目を細めた。

「ッそら!パラダイン様考案だ!!」

 思い切り空に向かって剣が振るわれる。

 空気を切り裂く音が響くと同時にチカッと空を雷が駆け抜け、「ジュ──!!」と言う唸り声が響く。次の瞬間、大量の(しゅ)がボトボトと落ちた。

 

 ブリタが降ってくる怪鳥を肘で弾き飛ばす横で、青年も女子達の上に落ちて来た鳥を刀身の面を使って弾いた。

「一太!これ使っていいよ!!あと二回くらいは使える!!」

 一通り鳥の落下が終わると、まだ雷の力を纏う剣がミノタウロスへ向かってヒュッと投げられる。

 代わりに腕輪が投げ返されてくると青年はそれを腕に戻した。

 

 ミノタウロスは数え切れない(しゅ)を落とした。

 ブリタは冒険者だったらこの学生達は一体どれほどの(クラス)に立つのかと呆然と眺めた。

 

「──レオネ、大丈夫だった?」

「大丈夫に決まってますわよ」

「良かった。君に何かがあったら僕は困る」

 

 甘すぎる顔で笑い、今度は杖を抜いた。

「じゃ、皆の上はもう平気だろうから僕は行くね」

「もう。早く行ってらして」

「ははは。怪我したら呼ぶんだよ。──あ、と、父さ──ちょっと!!魔法使わないで!!村瀬様!止めて下さーい!!」

 

 落ち着いていた雰囲気だった青年は大慌てで上級生の中へ駆けていった。

「「「何者よ……」」」

 そのつぶやきは座り込む女子二人と重なり、三人で苦笑した。

「あの子、本当に何なの?すごいわね」

「えーと、特進科の首席です。学院創設以来の天才だって先生達は言ってます」

「……そうよね。いくら魔導学院って言ったって、あんなのごろごろはいないわよね」

 いたら困る。もはや魔導学院生だけで冒険者組合が作れる。

 教師達が空へ放つ範囲魔法も第四位階や第三位階、所々に天使が出ていたりとすごい光景だった。

「……(しゅ)を可哀想に思う日がくるとはね。私は行くわ。あなた達、一応気をつけるのよ。って言ったって、魔導学院の子達ならそんな事言う必要もなさそうね」

「いえ、ありがとうございます」

 ブリタは魔物を入れておくための皮嚢を開けると、あちこちに落ちている(しゅ)を集めた。

 

 あの生徒が雷で焼いた(しゅ)からは出血がなかったが、他の場所で絶命している(しゅ)からは血も滴っていた。

「──血なんて見ないほうがいい、ねぇ」

 青年が女生徒に言った言葉に苦笑してしまう。

 この世は血で溢れている。ここの大地だってどれほどの血を吸ったか知れない。

 それに、毎日食べているもの達だって血を流しているのだ。

「綺麗事を言ってられるのも、若さだわね」

 

 (しゅ)の回収を終え、弓の衆と合流すると魔導学院の教師達の方へ向かった。

「先生方、ご無事でしたか?」

 若い女の教師──これはフルト先生だ。<飛行(フライ)>を駆使しながら第四位階の魔法を身長ほどもある杖から繰り出していた。

 彼女はエ・ランテル近郊出身冒険者なら誰でも知る冒険者チーム、フォーサイトで引退まで活躍していた。

 確か、剣士と弓士は家庭を持ち、神官は国営小学校(プライマリースクール)の回復室に勤めはじめたんだったか。

 まだ若かった彼女が次はどのチームに入るんだと組合は沸いたが、行き先は魔導省だった。

 惜しまれての早期引退。我らがたぬき親父アインザックは優秀な冒険者を魔導省に取られたとしばらく怒っていた。

 

「はい!怪我人は一人も。生徒達に魔物を見せる良い機会でした。エ・ランテルや神都ではほとんど見られませんし、今の子達って皆平和な世しか知りませんから」

「はは、違いないです。(しゅ)の遺体はこちらで組合に提出して、売却益を分け合う形でよろしいですか?」

「薬学科の解剖のために遺体をいくらか分けていただけたら、残りはそちらでどのようにしていただいても構いません。お気遣いありがとうございます」

「討伐を手伝ってもらったのに何だか悪いですね……」

「いえ。ブリタさん達なら生徒なんかいなくてもあっという間でしたよ」

 ブリタは瞬いた。

「わ、私の名前」

「知ってます。はは、懐かしいですね!」

「──本当に!」

 

 二人はかつての仲間に向けるべき笑顔で笑い合った。

 

 その後、取りこぼした死体はないかとブリタはもう一回りし、持ち場に戻った。

「──よう、ご活躍だったな」

「ダニー、私を雇ってて良かったでしょ。と言いたい所だけれど、魔導学院の子供達は並じゃないわね」

「ははは!本当に。死体を集めるなら俺でもできる」

「じゃあ行って来い!」

 ブリタがゲシっと尻を蹴ると、ダニエルはおっさんくさい笑いを残して薬学科の実習へ行った。

 

 その後一日歩哨として畑を見て回ると、あの首席だと言う子が似た顔の生徒の世話をせっせと焼いている姿が見えた。

(……お兄さんもいるわけね。エリート一家か)

 首席は兄といる同郷らしい女生徒へバッタが行こうとするのを見ればへなちょこ魔法でバッタを弾き飛ばしたり、栄養を与えた土の具合を見るために泥だらけになれば<清潔(クリーン)>をかけに行ったりと忙しそうにしていた。

 

 兄は苦笑して「まぁまぁ。大丈夫だから。真面目に授業を受けてきなさい」と疲れた顔をする首席の肩を叩いていた。

(なるほど、兄が好きすぎる優秀な弟と、その背を見守る兄と彼女ってわけね)

 首席はよほど兄が気になるのか何度も振り返りながらまた一年の枠へ帰って行った。

 

 次の畑では薬学科が何かの根を繁々と眺めていた。

 後ろの方ではこそこそと顔を寄せる女子。

「──アガート。旦那、すごかったっすね」

「うん、かっこよかった。三年よりすごかったよね?」

「うんうん。剣まで使って人間かいって感じだったっす。エ・ランテル校の女子共が沸き立ってたっすよ」

「やばい。可愛い子いた?」

「あんたよりゃ可愛い子たくさんっすね」

「……レイ、あんた私の味方なのか敵なのかはっきりして」

「そりゃ味方。あんたが一番って言うのは実は敵だから気をつけたほうがいいっすよ。ちなみに、薬学科で一番可愛いのは自分っす」

「それはない。ミルリルの方が顔だけなら可愛い」

「えぇ?──ロラン氏、どう思うっすか?」

「う、う〜ん……。可愛いんじゃないのぉ?」

「やったぜ」

 

 なんとも下らなく微笑ましかった。

 夕暮れが訪れると、生徒達はぞろぞろと畑を出て行った。

 ブリタも明日の連絡と必要事項の共有を歩哨の衆と終えると家路に着いた。

 

「──少し血の匂いがするな」

 

 本当にすごい量の(しゅ)だった。

 凶兆の知らせだったとしたらとんでもないことが起こりそうだ。それとも、住処でも変えるのだろうか。

 家の前の階段に足をかけると、ふとブリタの目の端には見たこともない植物が生えているのが写った。

「なんだ?」

 朝まではこんな所に草なんて生えていなかったと思ったのに。

 まるで今日の大地の血を吸い上げたような赤黒い花を咲かせていた。

 綺麗だが、こう言うのは放っておくとすぐに増えてあっという間に家の周りを取り囲んでしまう。それに、花の季節が終わればどうせ綺麗でもない雑草になるのだ。

 ブリタはそれを根から引き抜くと玄関ポーチを上り家に入った。

 キッチンのゴミ箱へ放って風呂に向かう。

 

 久しぶりに体に血の匂いがまとわりついているような気がした。

 ポイポイと服を脱いで行き、あっという間に裸になると湯に身を沈めて泡でよく体を洗った。

 小さめの湯船だがあまり大きな湯船だと湯を張るのが大変だし、ブリタとしては気に入っている。

「っはぁー!」

 足を湯から出してバスの縁にかけ極楽の声を上げた。

 今日これだけ血の匂いがすると明日も何か魔物が出てもおかしくない。ブリタは少し楽しみになった。

 ふふ、と声を上げると、ふと部屋の方からガタリと音が聞こえた。

 途端にバスから身を起こし、泡もついたまま風呂の扉を少し開けた。

「……ダニー?」

 声を掛けるが返事はない。

 

 人の気配はなかった。適当に置いた剣や矢筒が倒れたのかもしれない。

 気のせいかと扉を閉めようとした。その時──

 扉をギッと何者かが抑えた。

「っな、何!?」

 目を凝らすと、湯気の中に透明のゆらめくような人影が見えた。

 ブリタの目の前で扉を押さえ、こじ開けようとしている。

 

「ッ魔物!?それとも<不可視化(インヴィジビリティ)>!?くそ!!」

 ここに籠城しても仕方ない。

 相手の力をそのまま使って扉を開け放つと猪のように透ける体へ猛進した。

 <不可視化(インヴィジビリティ)>を使う者なら体を打ち当てて転ばせることもできるはず。

 だが、ブリタは透明の謎の存在をすり抜けた。

 その瞬間『ああ、羨ましい。ああ、嫉ましい』と声がした気がした。

 倒れるように廊下に出ると、裸のまま剣を手にして抜いた。

 

「──どこ!?」

 

 湯気の散った部屋の中では透明の存在は完全に見えなくなってしまった。

 風呂場へ戻った方がいい。

 ブリタは壁に背をすり、剣を構えたまま今きた道を戻った。

 そして、不自然にあの捨てたはずの赤い花が浮くのを見つけた。あれが魔物だったかと初めて見る種類の魔物に舌打ちをする。

「──そこ!!」

 花はふわりと剣を避け──次の瞬間にはブリタの肩を何者かがつかんだ。

「何!?」

 鼻の前に赤黒い花が差し出され、スンと一息吸った瞬間、ブリタの頭に霧がかかる。

 ガランと音を立てて剣が落ちる。

「──か、かいじゃだめだ……」

 自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐと、ブリタの目の前の透明だったものはゆらりと人の姿になりはじめ──

「──か、かいじゃだめだ……」

 ブリタの言った言葉を復唱した。

 

 そのまま、ブリタの頭の中は霧でいっぱいになった。

 

 ここはどこだったか。

 なぜここにいるんだったか。

 よく分からない。

 ぼうっと座っていると、扉がノックされた。

「──誰?」

 ゆっくりと扉を開くとギョッとした男がいた。

 

「ブ、ブリタ!いくら何でも服を着てから出ろ!!」

 

 男が扉を閉めようとする、扉には手がかかりさらに開いた。

 

「──あんた、誰?」

 

「は……?」

「ブリタって、私?それとも──」

 ブリタは赤髪の女に振り返った。

「──それとも私?」

 家の中にはブリタが二人いた。

 

 ダニエルは二人を見比べ、同じ場所にあるホクロや、全く同じに縮れる鳥の巣のような髪に瞬いた。

 

「──あんた、誰なの?」

「ねぇ、ここはどこなの?」

 二人のブリタは不安そうにダニエルを見上げていた。

 

+

 

「神殿はもうとっくに閉まってる!とにかく、魔導学院の先生方に見ていただくしかない!!」

 二人に服を着せると、ダニエルは二人を引っ張って二校交流会へ向かった。

 魔導学院の信仰科の教師達なら何とかしてくれるはず。

 二人のブリタは全く見分けがつかなかった。

「お前ら、本当に双子じゃないんだろうな!?」

 ダニエルが言うと、二人は目を見合わせて苦笑した。

「違うと思うんだけど。それとも、双子で揃って記憶喪失かね?」

「うーん、困ったことになったねぇ」

「お前ら自分たちのことなのに人ごとか!」

 

 一番近かった一年の会場の扉をそっと開く。

 中では交流のダンスが始まっていた。

「……お前らはここにいろ」

「はいよ、ダニエル。──だっけ?」

「ダニーでいい。今先生方に話してくる」

「頼んだよー、おっちゃん」

「自分だっていい年して」

「うるさい。余計なお世話よ。ねぇ」

「ほんとに。なんでこいつが私らの雇い主なんだろうね?」

 ダニエルは舌打ちをしてから扉をくぐり、踊っていない教師を探した。

 壁に背を預けて話す二人の教員を見つけるとそちらへ向かう。

 

「──先生方、先生方!」

 神都校のクレント教諭とエ・ランテル校のフルト教諭だった。

「あ、オルノさん!今年は例年より一層良い授業をありがとうございました」

「い、いえ。あの魔物は予想外──」と言いかけたところで、まさか(しゅ)の今回知らせた凶兆はこれかとゾッと背を寒くした。

「オルノさん?」

「──あ、すみません。実はハンターの一人が……何と言いますか……分裂しまして……。記憶もなくなって困っているんです……。多分双子じゃないとは思うんですけど……。今日は凶兆を知らせる(しゅ)もあれだけ出たので、明日の神殿が開くまで待たない方がいいかと思って……」

 

 二人は目を見合わせた。

「ぶ、分裂ですか?記憶もなく?フルト君、知ってる?私は冒険者だったことは無いからあんまりそう言うことは詳しくないんだけど……」

 フルト教諭はム、と数秒悩むと頷いた。

「──シェイプシフターかもしれません。だとすれば分裂ではなく、どちらか一人は魔物です。姿を真似る人間に時忘れの草を嗅がせて記憶を奪う。人の生活を羨んで、人の生活に組み込まれようとします。そして、最後は人を争わせようとします」

 

「ま、魔物。大変だ、廊下に残してきた!二人にしたらブリタが殺される!!」

 ダニエルが慌てて踵を返そうとするとフルト教諭はその手を取って止めた。

 

「大丈夫、シェイプシフターは宿主の人間を殺せば自分がシェイプシフターだとバレると分かっているから宿主には手を出さない。それに、人が多すぎる所で一気に時忘れの草を嗅がせて大繁殖されると大変。廊下にいるならそれが一番いい」

「わ、分かりました……」

 

「ティアレフ君、神官の先生達にシェイプシフターが出たことを伝えて。多分、第三位階以上の<混乱への抗体(コンフュージョン・リカバリー)>を使える先生がいればすぐに対応できると思う。二回使えれば、二人に掛けて記憶を取り戻した方が本物。ただ、シェイプシフターに掛けて記憶が戻らないと、バレると踏んだシェイプシフターが暴れるから教員は皆杖を持つように」

「わかった。そう手配する。生徒にも外に出ないように言っておくよ」

「お願い」

 クレント教諭が踊る生徒達を避けて消えていく。

 

 フルト教諭は「では」とダニエルの背を押した。

「とりあえず、記憶を奪われて繁殖されないように一緒に行きましょう」

「はい。ありがとうございます……。でも、俺はここまで来るのになんともなかったんですけど……」

「おそらく、あなたがもっと地位の高い人間や、利用価値の高い人間の下へ自分達を連れていくと理解しているからでしょう。昔シェイプシフターの出た小国の遺跡に行ったことがあります。上り詰めたシェイプシフターは王の記憶を奪い、王と同じ姿を持った偽物は派閥を二分させ、大きな内乱を呼びました。どちらの派閥も自らが戴く王こそ本物であると主張していたそうです。本当にどちらもそう信じていたのか、それとも傀儡として偽物の王を使えると思ったのかは分かりませんが」

 

 ダニエルは優雅な音楽の中、ごくりと喉を鳴らした。

「そ、そのあとは……?もちろん、本物の王の派閥が勝ったんですよね?」

 

「いえ、シェイプシフターの勝利です。シェイプシフターの本質は生を憎むアンデッドです。だから──遺跡になってしまった。時忘れの草で忘れさせることができるのはその人の生きてきた記憶だけで、字を書いたり言葉を話したり、培ってきたルールや性格などは残ります。シェイプシフターは最初こそ完璧に宿主を演じますが、時が流れると普通なら羞恥心や罪悪感で宿主がやらないような事すらして周りの人間を懐柔し始めるんです。こうなると手に負えない」

 

「ほ、本質はアンデッドなのに、人を懐柔するんですね」

 

「はい。その方が効率が良いと分かっているんでしょうね。生を貶めるのに。それに、彼らは人を羨み人の生活もしたがります。そして、彼らが姿をもった時にはその身は時忘れの草の根がぎっしりと埋まっていて、アンデッド特有の反応もないそうです。人によっては植物系モンスターだと言う人もいますが、多分シェイプシフターと時忘れの草はお互いの共存のために協力し合っています。生き物の感覚を時忘れの草からも得ているんだと私は思う」

 

 扉の前につくと、フルト教諭は杖を持ち直した。

「──ハンター二名から目を背けないようにしましょう。一瞬目を離した隙に時忘れの草を嗅がされて、分身を作られると厄介です。オルノさんはここにシェイプシフターを連れてきたことで、シェイプシフターの中の利用価値は分身へと変わっているはずです」

「わ、分かりました」

 二人でゆっくり扉を押し開ける。

 静寂の廊下に明るい音楽が流れ出ていく。

 

 そこには誰もいなかった。

 

「い、いない!?どこに行った!?」

「……ハンターは待っているように言った言葉を無視してどこかへ行ってしまうこともあるような人?」

 確かにブリタがここで大人しく過ごしている気はしなかった。

「そ、そうかもしれません。昔冒険者だった跳ねっ返り女なんで」

「──冒険者だった?もしかして、ブリタさん?」

「え?そうです。フルト先生、ご存知で?」

「そりゃあ知ってる。でも、ブリタさんを模したシェイプシフターだとすると厄介かもしれない」

「──というと?」

「人間性の根っこが失われるわけじゃない。自分に何が起きてるんだろうとワクワクして飛び出されても違和感がないと言うことをシェイプシフターは最大限活用するはず」

 

 ダニエルの背にはたらりと汗が流れた。




御方々まさかのガッツリ顔出し修学旅行参戦!!
これにはナイ君の心疲労が心配されます!
でも癒しのレオネがいて良かったね!

次回明後日!
Re Lesson#34 瞬間、交流深めて
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