『──こうして神話の時代を生きる我々は、魔法を求めて豊かになる!国内の行き来はもちろん、我々は世界中に神話の時代を齎すのです!』
仮面を付けたナインズが言うと、観客達は熱狂の渦に叫んだ。
神官達から礼を言われて壇上から降りる。
「殿下、素晴らしいお話をありがとうございました」
「いやぁそうだと良いんですけど……」
「そうでございます。あの国民達の熱!素晴らしいです!夜には御身も携わった
鳴り止まない拍手の中、軽く挨拶をして父母の下へ向かう。
座って見ていた父はどことなく不服そうに骨の手をコツコツと叩いていた。
「……あんまり良くなかったですか?」
「まぁ……悪くないんだが……ちょっとなぁ……。分かるだろう?」
ナインズは一生懸命考えたが、正解が分からなかった。
「うーん……僕にはまだ難しいです。父様がされたら良かったのに。せめて
「……まぁ何事も経験だ。あれを見ろ」
アインズの顎をしゃくる先には泣きすぎて過呼吸になって倒れる信者達。
「あぁ、なるほど。分かりました」
あんまり興奮させるとパニックになって危ない。
「分かったなら良い。目を覆いたくなるな……全く……」
優しい父は心配症だ。一方母は意外とこう言う時いつも平然としている。
進行の声掛けで人々がカウントダウンを始める。
カウントがゼロになると、ゴオッと風が起こり、魚の鰭のようなオールと、船底に巨大な黒い魔石を孕んで飛空艇は浮かび上がり、ナインズはその様子を眩しそうに見上げた。
あれは今日から国内の都市同士を結ぶ全く新しい交通手段だ。
現在友好国にも停泊地の建造が急がれているが、今日同時に開通するのはスレイン州虹の大湖、ザイトルクワエ州エ・ランテル、ローブル州ホバンス、評議州ミッドモア、セイレーン州スァン・モーナ、最古の森最南端の巨大樹に限られる。
造船が急がれるが、この船の底に浮かぶ巨大な魔石はアインズの生み出したスケルトンを大量に砕いて圧縮したものだった。
幽霊船の理論が用いられて空に上がるので、近頃アインズは大忙しだった。
そして、夜には待ちに待った
金額としては丸一日かかる飛空艇の方が安く、
相変わらず海路では物品の運送が続けられるし、道楽としても生き残っていくだろう。
今日は国内の移動事情が一変する日だった。
ナインズは夜の挨拶は後で推敲し直そうと決めた。
なんと言っても、今はこの景色に心奪われて仕方なかった。
「──素晴らしいです、父様!本当に人々の造る船が空へ上がるなんて!」
飛空艇の中からはたくさんの乗客たちが手を振った。
ナインズも感極まってそれに手を振りかえし、船はあっという間に見上げるような高さに達すると行き先であるエ・ランテルに向かって鰭を動かし始めた。
上空は非常に寒く、風も強いので、あまり超高度までは上がらない。大体時計塔の高さ──百メートル程度が席の山か。建物の二十五階程度とも言う。
だが、これでエ・ランテルまではわずか三時間程度で着くようになるし、評議州までだって数日の宿泊を挟まず半日で行かれるようになる。国は一気に狭くなる。
「翼も<
仮面をつけた顔で骸の父を見下ろす。
父は驚いたようだった。
「お、お前でもそんなに感動するのか……?人は空くらい飛ぶだろう……?」
「すごいです!こんな景色を見る日が来るとは思いもしなかったですよ!!父様は人が空を制するとずっと思ってたんですか!」
「……って言ってますよ、フラミーさん。どう思います?」
「……う、うーん。そりゃ空路の開通くらい……ねぇ……?」
「でも母様!竜がカゴを担いで飛ぶのとは訳が違うじゃないですか!人が作ったんですよ!」
「そ、そうだねぇ〜?」
父も母もこうなる事が当たり前だと思っていたようで、全くナインズのような感動を覚えた様子ではなかった。
両親はやはり全知全能だ。
ナインズは小さくなっていく船を見送り、清々しい気持ちになった。
ルシオは今日も爆竹を設置するための穴を掘り進めていた。
掘るたびに天井が崩落してくるのではないかと恐ろしかった。
『音が鈍いぞ!!ちゃんと掘ってるのか!!』
四眼種の監督に怒鳴られ、泣きながら思い切り岩壁を突く。
掘ってはそれを紐がつけられたカゴに載せ、くんくんとロープを引く。カゴは穴の外へ引っ張り出されていき、自分が入山させられた当時程度の体の大きさの子供が空のカゴを持って戻る。
おおよそ定められた深さに穴が達すると、一度穴を引き返した。
監督は冷めた目でルシオを見下ろすと、パンッとその頬を叩いた。
「遅い」
「も、申し訳ありません」
魔法爆竹をギュッと押し付けられると、ルシオは今日の朝自分を抱かせた二眼種のこの班のリーダーの男をチラリと見た。
リーダーはへこへこと卑屈そうに監督に寄って行った。
「──こいつの方が体も小さく動くのも早いので、こいつに」
リーダーはカゴ運びをしていた子供の背をドンっと押した。
「ぼ、ぼ、ぼく、ぼく──」
「誰でも構わん。──早く行け!!」
子供の背に鞭が弾ける。
「ッキャアアア!!」
ルシオは悲鳴から目を背け、子供は泣きながら魔法爆竹を抱えて穴へ入って行った。
這いずるたびに背が穴に擦れて痛むのか、ズリズリ……という音のたびに悲鳴と泣き声が聞こえた。
妹と変わらない程度の年の子供にそれを押し付けた罪悪感はあるが、ルシオもやりたくない。それに、この報酬に見合うだけの辱めは十分に受けている。
二眼種の中でも階級は存在し、他者を心配していればキリがなく、生き残れない。
──だが、戻るのが遅い。
「急ぎなよ!!」
ルシオが声を掛ける。穴の中からは『痛くて、痛くて……!!』と悶えるような声がした。
「足が見えたら引っ張ってやる!!」
またズリズリと音が聞こえてくると、ルシオは穴を覗き込み──不意に首根っこを掴まれて後ろに放り捨てられた。
それと同時にドガンッと地が揺れ、前方からパラパラと石や土が飛んできた。
「バカが。お前も巻き添え喰らうぞ」
リーダーが見下ろし、ルシオはサッと背が寒くなった。
「おい、ゴミを片付けろ」
監督が言うと、リーダーはすぐさま瓦礫へ向かった。
岩壁に小さな穴が空いていたはずの場所は崩れ去り、瓦礫の中からかろうじて子供の足が見えていた。
リーダーはそれを引き摺り出し──ルシオは思わず「はは」と笑い声を上げた。
腰から上がなかった。
子供の下半身がゴミ袋に入れられる中、誰も何も気にしないようでぞろぞろと大人達がショベルを担いで瓦礫に向かった。皆ゴホゴホと胸を悪くしている音を鳴らしている。
リーダーは子供の足が入ったゴミ袋をルシオに差し出した。
「土砂を積んでる間にお前が捨ててこい」
黙って受け取り、駆け出そうとすると、「おっと」と手を取られた。
「片付けが終わったらすぐに戻れ。命の礼はたっぷりな」
ルシオは「ありがとうございます」と言い、足の入った袋を担いだ。
その背には監督の「使い物にもならんゴミ共が!!飯を恵んでもらえるだけありがたく思え!!」という怒声と、鞭の炸裂する音が響いた。
あの鞭を食らわないで済む。
下半身だけにならないで済む。
ルシオは今日ついている。
良い日だ。
名前も知らない子の下半身を担ぎ、ルシオは「へ……へへ……へへへ…………」と笑い声を漏らし、広い中継地に出た。
そこからは何本ものトロッコ線が地上へ向かって伸びていて、トロッコが行き来している。
やはり皆ゴホゴホと胸の悪くなる咳をし、顔を真っ黒にしてトロッコを押していた。
そこを監督している四眼種を見つけると、ルシオはそちらへ駆けた。
「──今日のゴミです」
「ゴミがゴミを持って来たようだな。見せろ」
いつの間にか血の滴っていた袋を開き、中を見せる。
ハサミでザクザクとズボンを切っていくと、そこの監督は気だるげにペンを持った。
「──九四三七八一番だな。もう良いぞ」
二眼種の太ももと二の腕、胸には番号が振られている。
メモも終わりしっしと手を振られる。
ゴミを地上へ運ぶトロッコに乗せると、ルシオはまた穴に戻っていった。
散々男達から弄ばれ、ルシオは家に帰り着いた。
しかし、命があって、働いたおかげでお腹がいっぱいなのは嬉しいことだ。今夜と明日の朝の分の配給チケットももらえた。
「ただいま」
がたがたと荒屋の引き戸を開けて中に入る。
「ル、ルシオ!ジェーリが!」
「お父さん?」
部屋など分かれていない家の中で寝転んだままの父が手招き、──ジェーリが部屋の隅でうずくまっているのを見つけた。
「──ジェーリ?どうしたの?」
「ル、ルシオお兄ちゃん……。私……私……ッウ!」
ジェーリは体を硬くしたと思った次の瞬間に吐いた。
今日仕事先で食べたであろう物がビシャビシャと落ちていく。
「ジェーリ!?体調が悪いの!?」
「ルシオ、ち、違う。──これは……」
「……私……どうしよう……」
ジェーリは泣き出すと、自分の吐瀉物の臭いに耐えきれずにまた吐いた。
「──ジェーリは妊娠してる……」
父の言葉にルシオはひらりと配給チケットを二枚落とした。
二眼種と四眼種は交配しても生まれてくるのはほとんどの場合二眼種だ。ごく稀に四眼種を出産する事もあるが、それを四眼種達に知られると「穢れた血が管理者の子供を攫った。穢れた二眼種から四眼種は生まれない」と言って子供を奪われ、
見つかるはずもなく、最後はずたずたになって、傷口にはウジが湧いて永遠泣き虫になって死ぬ。
だから、罷り間違って四眼種を生みでもすれば、皆迷わずそれを殺した。頭蓋骨は丁寧に砕かれてお堀に捨てられる。万が一四眼種の頭蓋骨など見つかりでもすれば、一帯の二眼種は処分されるからだ。
この作業を悲しむ親もいれば、四眼種への怨みから悲しまない親もいた。
ルシオは、ただただ最悪の事態にだけはなるなと神に祈りながら、ジェーリの吐瀉物の掃除をした。
ゴウンゴウンゴウンゴウン……と鰭を動かし、飛空艇が飛んでいく。
春の風を切って、海を越え、山を越え、谷を越える。
ミスリル級冒険者チーム、"二武器"のスカマ・エルベロは白く美しい髪を抑えて船の遥か下に広がる美しい大地を見下ろした。
「──確か、金級冒険者チーム"雪解け"が最後に確認されたのはこの辺りよね?」
「おーやだやだ。一体何があるって言うんだか」
隣で軽口を叩いたのは匂い立つような色気のある女だ。ローブを押し上げる巨大な胸に首から下げる光神の聖印を挟んでいる姿はいっそ冒涜的と言っても差し支えなかった。
彼女──リリネット・ピアニは歴とした"二武器"の神官で、決して客の嗜好に合わせて聖職者の姿をした娼婦などではない。
"二武器"は十年前までは"四武器"だったが、年上だった盗賊と
若々しかった二人の冒険者は今や二人とも色気むんむんの女性になっていた。
二人はもっぱらマッピングに出て戻って来ない冒険者の捜索依頼ばかり受けていて、人によっては二武器を白の捜索隊と呼ぶ者もいる。
「全くマッピングも進んでない場所だし、流石の私たちも心して行かなくちゃね。ミイラ取りがミイラになったら困るわ」
「その髪の毛の色がぴったりになっちゃうもんね」
スカマは華麗にスルーした。リリネットに何かがあった時助けたくないと思いながら。
スカマの白い髪は金髪をわざわざ染めているのだ。ずっとどうやってチーム名を売ろうかと思っていたが、"白の捜索隊"の二つ名が自動的についたほどに今やこの白い髪は"二武器"を象徴する物だと言うのに。
近頃はリリネットから
なんと忌々しい──と思っていると、いくつか森を挟んだ遠くにぼんやりと要塞のような都市があるのが見え、船は高度を下げ始めた。
「……あれ、怪しいわね」
「怪しすぎる!もはやあそこに船寄せてくれないかな?」
しばらく様子を見ていたが、船はあの城塞都市に近付く様子はなかった。
「やっぱり予定の場所に降りるみたいね。知り合ってもない国や都市に神聖魔導国の飛空艇入れる事も近づける事もできないってことか」
余計な争いを生まないよう、冒険者たちの乗る飛空艇はマッピングが終わり、確実に誰のものでもない様子の開けた土地だけだ。
同様の理由から知らない国の上を飛ぶこともない。撃ち落とされでもすれば飛空艇もダメになってしまうし、乗っている冒険者達の命も危ない。
「──もう飛び降りる?それとも予定の停泊地で降りる?」
他にも船に乗る捜索依頼を受けた冒険者達はたくさんいる。顔見知りの
リリネットは白い杖をギュッと握りしめると──
「レッツラゴー!!」
大地を指さした。
捜索は対象者を最初に見つけて回復した方が報酬は多い。
スカマは知り合いの
「っひゅうーー!!」
「っひぃーーいやっほーーう!!」
落下の前に数度、ふわりふわりと魔法の力がかかり二人は無事に地に降りた。
「ひゅー!サイッコー!!飛空艇、帰りも楽しみー!」
「ふふふ、本当ね!」
スカマは船が遠くに降り立りていく様子をしかと確認した。
救助対象者を帰りの船にちゃんと案内できないなんてことがないように。
リリネットはもうできかけの簡易地図を広げて一人歩き始めていた。
「えーっと、さっき要塞が見えてたのは向こうだから──やっぱり、マッピングできてない方だね」
「良い国があって、王との謁見の順番が回ってくるのを永遠に待たされてるとかだと良いんだけど」
「歓迎されすぎて帰りたくなくなったとかも!」
「良いわねぇ」
二人は胸踊る冒険に向かった。
森にはゴブリンやオーガがかなりの数住み着いていて、船から見たときはすぐだと思ったはずの要塞は中々見えて来なかった。
だが、夕暮れが訪れる頃には二人は大きな堀の前にたどり着いた。
「うひゃ〜……こりゃ立派な城壁というか市壁というか。なんか懐かしい」
「懐かしい?──あぁ、エ・ランテルも昔はこういう壁で囲まれてたものね。でも、旧エ・ランテルよりよっぽど物々しい雰囲気だわ」
堀の内側にはいくつもの小屋が立ち並び、その先には見上げるような壁が聳えていた。
橋があちらこちらにかかっているが、魔物も多い森が近いと言うのに特別衛士や番人が立っているようではなかった。
「勝手に入って良いと思う?」
「入るしかないんじゃない?もう疲れたわ」
「同感」
二人は肩をすくめ合うと、橋を渡った。
チリンチリンチリンと歩くたびに端にかかる鈴が鳴る。
「これで一応魔物が来るとか知らせてるのかしら?」
「入っていきなり襲われないようにしなきゃねぇ」
「白旗でも振る?」
「どうやって」
スカマはリリネットの身長ほどもある杖にハンカチを結んだ。
「こうやって」
「あー…………。──敵じゃありませーん!!」
「はははは」
「はははは」
お気楽に橋を渡り切る。
あちらこちらに何とも言えない──汚らしい家がいくつも建っているが、誰も人は出て来なかった。
気配は十分。と言うより、立てかけてあるだけのような引き戸の隙間からたくさんの人がこちらを見ていた。
スカマはンンッと一度咳払いをすると口を開いた。
「──私たちは神の国、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国よりきた冒険者です!三ヶ月ほど前に私達の仲間がここに来ませんでしたか!!私達は仲間を探しています!!」
あちらこちらのボロ屋の中からひそひそと声がしてくる。
「神の国だって」「神の国?」「冒険者って」「前に旅人が言ってた」「神様が救うって」
神の国の旅人──。
スカマとリリネットは間違いないと頷いた。
「──旅人がどこに行ったかご存知の方はいませんか!」
どうする、という話し声の後、ぎしりと引き戸がひとつ開き、青年──と言うにはまだ少し若いような男が顔を出した。
「……壁ノ内に行ったって聞きました。それからは……分かりません」
「そう、ありがとう。壁ノ内って、どこから入れるの?」
男の子はすっと指さした。
「ここから真っ直ぐ言って、壁に突き当たったら右に。そしたら……壁ノ内に入れる……。お姉さん達は……二眼種なの?」
「二眼種?」
「目が四つない」
「ん、えぇ。私達は二つ目の種族よ。人間。あなた達と同じね」
「……同じなの……?」
「同じでしょ?ねぇ、リリネット」
振り返った先にいるリリネットは口の端から涎が垂れていた。
「え?うん、うんうん。同じ。全く同じ」
「……あんたねぇ。初めましてのお国でみっともない顔しないでよ……」
「ばっか!まだ熟れてない果実とか涎もんだろ!」
「……ごめんなさいね、悪気はないの。バカなだけで」
青年は何も感じていないようで首を振った。
「……二眼種なのに、お姉さん達は管理者みたいな格好だね。それとも──お姉さん達は二眼種を救いに来た神様なの?」
二人は目を見合わせた。
「私達は神じゃないわ。そっちは一応神に仕える身だけど」
「まぁねぇ!うふふ!」
リリネットがくねくねして言うと、青年は目を輝かせ、出てきた家へ向かって叫んだ。
「ジェーリ!ジェーリ!!神様が僕達を導いて救い出してくれるよ!!この人たちは神様に仕えているんだって!!」
家からは調子の悪そうな少女が顔を出した。少女の顔は殴られたような痕がたくさんあり、真っ青だった。
「……本当に?」
「た、大変。リリネット、お願い」
「分かってる!── <
ジェーリと呼ばれた少女の体を魔法の力が包むと、周りからどよめきが上がった。
そして、傷があらかたなくなるとジェーリは目を剥きながら自分の顔に触った。
「す、すごい。二眼種なのに……!本当に神様の遣いなのね!」
「ん、ははは!まぁね!私は神官だからね!」
リリネットが得意になってる横で、スカマはどんどん家から顔を出してきた人々の様子に眉を顰めた。
落ちかけた夕暮れに照らされる人々は、よく見ると皆見窄らしく痩せ細っていて、大なり小なり傷を負っているようだった。
「……ここは一体……。ジェーリちゃん──だったかしら」
「は、はい!」
「あなたの傷も、皆の傷も一体何がどうしたっていうの?ゴブリンやオーガが入ってくるせい?」
ジェーリと青年は首を振った。
「私は管理者の皆様から懲罰を受けただけ。勝手に妊娠したせいで仕事にならないって。臭いがどうしてもダメなの。吐いちゃって、仕事にならないの。昨日はご奉仕の途中で吐いちゃって、殴られた。でも、仕事しないとご飯がない……」
「か、勝手に妊娠って……奉仕って……あなたいくつ?妊娠しているの?」
「年は……よく分からないけど……多分、十二。管理者の皆様が十二の穴って言ってるから」
スカマとリリネットは信じられないものを見る目をした。旧王国時代の違法な娼館でもこれほど幼い子をそんな風に扱っていただろうか。
「あなた……そんな仕事はやめなさい。せめて、今お腹の中にいる子が生まれてくるまでは……何か他の仕事はないの……?」
「分からない。管理者の皆様が振り分けるから。ねぇ、ルシオお兄ちゃん」
青年──ルシオは頷いた。
「うん、それに、仕事を変えたいなんて言ったら鞭打ちじゃ済まないよ……」
「し、信じられない……。まさか……ここにいる人達は皆そうなの……?」
「そりゃそうだよ。だって、僕達は二眼種だもん。壁ノ内の四眼種の管理者とは違う」
スカマとリリネットは城壁を見上げると頷きあった。
そして、そこにはいつの間にか他の冒険者達もたどり着いていて、あちこちで回復をしていた。
「──私達、行ってくるわ。必ずあなた達を助けてあげる。その四眼種の管理者って人達に掛け合うわ」
ルシオとジェーリは「わぁ!」と声を上げた。
「と、その前に。あなた達には炊き出しをしなくちゃね」
スカマとリリネットが言うと、他の冒険者達もそれに続いた。
皆で鍋の用意をし、森で取れたうさぎや野鳥、採れた食べられる草をいっぺんに煮て配った。
「りょうりって自分でできるんだね」という子供がいて絶句した。
ジェーリは十二だと言っていたが、正直に言えば八つくらいにしか見えなかった。
痩せ細り、栄養もなく、背も全然伸びていないのだろう。
ルシオこそ十二くらいに見えたが、彼は幾つなんだろうか。
渦巻く不快感に蓋をすることもなく冒険者達は食事を配った。清潔な水も乏しいようで、<
穴を掘り、<
すっかり陽が落ちると、壁の方からカンカンカンカン!と甲高い音が響いた。
「あ!夜の配給も始まった!」
「配給ももらいに行こう!!」
人々が大切にチケットを握りしめていく後をスカマとリリネットは追った。
壁には大扉がついていて、開放された大扉の向こうから幾つもの鍋が出てくる。
中を覗くと、壁の外のどこか吐き気すら覚えるような不潔な臭いは一切なさそうで、夕闇に落ちた穏やかな美しい街が広がっていた。
「……外とは大違いね」
「こりゃ胡散臭い」
チケットを持った者達が配給を貰おうと並ぶ。
「誰か偉い人と話をさせてもらえないか聞きましょう。中で宿も取りたいし」
「そうだね。申し訳ないけど泊まるのは中がいいや。さくっと解決するといいねー」
二人が列を外れて前へ行こうとすると、バシンっと鞭が炸裂した。
「貴様ら!!配給が欲しければ並べ!!──あぁ?」
鞭を打ったのは普通の人間達──いや、二つ目を開いているが、頬にさらにまぶたがある。頬の目は二つ閉じられていた。
四つ目だ。本国にも四眼種はいるので彼らが四眼種と呼ばれる種族だと言うことはすぐさま分かった。
四眼種はスカマ達を取り囲んだ。
「──二眼種の豚共が!誰から服を奪い取った!!」
門番達が怒鳴ったと思うと、四眼種達はカッと閉じていた頬の目を開き、一斉に<
「っち、違う!!我々は神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国の冒険者!!中へ入れて上の人と話をさせて!!」
「このゴミ共が!!二度と生意気な口をきけなくしてやる!!」
「なに!?私達はこの国の人間じゃないって言ってんだよ!?話し合いをしにきているってのに!!」
「や、やめて!!私達はあなたたちを傷付けない!!だから──」
ひゅっと吹き矢の飛ぶ音がしたと思った瞬間スカマの首にドッと吹き矢が突き立った。
「スカマ!!今抵抗を──」
リリネットの声がする。
スカマの背を悪寒が駆け抜けていく。猛烈な眠気と共に体をめぐるこれは毒だ。
スカマはその場に崩れた。
「……わ、わたしが……リリネットを……」
守らなくては。前衛として。
周りで他の冒険者達が慌てて自分たちの事の説明をしようとしているが、聞く耳を持ってもらえない。
壁の中からたくさんの四眼種が出てくる。炊き出しや温泉をしてやっていた者達まで縛り上げられていく。
スカマはリリネットが倒れる瞬間を目の当たりにすると同時に意識を闇へ手放した。
穏やかな国じゃなさそうで安心しますよ!(?
うぉんみ、息子の挨拶に納得いかない模様
次回明後日!
Re Lesson#44 社会勉強