眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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Re Lesson#44 社会勉強

「──マ。──カマ!──スカマ!!」

 

 体をゆすられ、スカマはハッと起き上がった。その顔には朝日がさしていた。

「っいっ……つぅ……」

「毒は治癒したけど、体はどう?」

「……最悪の気分だわ。リリネット、あなたは大丈夫だった?」

「平気。ただ、装備全部没収されてる。ムカつくー!!」

 リリネットがムキー!と声をあげる。

 硬く冷たい牢獄の床で、肌着と冒険者プレートだけの姿にされていた。しかも、腕を後ろ手に肘を触るようにして縛られている。

 同じ部屋には冒険者たちが何人もいて、先に目覚めていたらしい者達が寄り集まって何か話し合っているようだった。

 その中から「起きたか」と声をかけられると、スカマは顔を床について起き上がり、急いで輪に向かった。

 皆やはり肌着と冒険者プレートだけの姿だった。

 

「私は"二武器"のスカマ・エルベロ!私たち、どうなりそうなのかわかる!?」

「"二武器"──"白の捜索隊"だな。悪いが、分からないんだ。皆目が覚めた時にはこうだった。今鍵開けスキルがある者達で牢を開けられないか試してみようと言っていたところだ」

「か、鍵開け?でも、脱獄したら罪が重くなるんじゃ……」

「罪が重くなるも何も、俺たちは何もしちゃいない。情報収集に何人か出した方がいい」

「でも、誰から服を奪い取ったって言われたわ。盗んだものじゃなかったって分かったら、解放されるかも」

「それは楽観的すぎる。あれだけ容赦なく攻撃されている。何をされるか分からないぞ。万が一の脱出経路だけでも探しておいたほうが良い」

「それは……そうね。けれど、神聖魔導国の看板を背負っているのに脱獄なんて……」

 

 スカマが悩むところは全員が思っていることのようではあった。ただ、外の虐げられていた二眼種──つまり、同族──の様子や、帰ってこない冒険者達のこと、先程の容赦のない攻撃が不安感を大きくさせていた。

 この武器も鎧もない状況というのが一層だった。

 

「だがこのままではいられん……」

「……聞いていて思ったが、出た者が捕まって懲罰を受けるようなことがあれば()じゃないか?ここの情報は未だ何も手に入っていないんだ」

「俺とそっちのナーガの冒険者ならどうだ。俺は<溶け込み(カモフラージュ)>に近い特殊技術(スキル)を持っている」

 立候補したのはスラーシュという亜人だった。ナーガも頷く。

「確かに俺も<不可視化(インヴィジビリティ)>はある」

「おぉ、いいな!脱出経路の確認ができたら飛空艇に残ってる船を守る冒険者に連絡をつけよう」

「スラーシュの兄貴はともかく……俺はどうやって連れて来られたか分からないこの街を出るまで魔力が続くか……」

「では誰か<伝言(メッセージ)>を送って迎えにきてもらうというのは?」

「すでに送ったが、船が遠くてうまく交信できていない。やはり何人かだけでも牢を出てもらうのが良いかもしれん」

「では、二人は経路の確認が取れ次第船に」

「任せろ」「やってみるだけやってみる」

 話がひとつまとまると、ガン!ガン!ガン!と遠くから牢を叩く音が響き始め、スラーシュとナーガは手を繋いでからその身を消した。

 

 皆即座に身構える。

 警棒で牢を撫でるように叩きながら、四眼の人間が姿を現した。

 二眼種と同じ場所の目は開かれ、頬にある瞼は閉じられていた。

 

「誰が口をきいていいと言った。──今すぐ跪け!!」

 

 冒険者達は目を見合わせ、とりあえず膝を折った。

 

「身の程も弁えられんクズどもが。──ドーラー様、どうぞ」

 そう呼ばれて姿を見せた四眼種は美形だが、冷ややかな瞳で冒険者達を見下ろした。

 リリネットはその男の持つ魔力に目を剥いた。

 

「ふふ。素晴らしいですねえ。魔法が使える者達、お立ちなさい」

 リリネット達魔法詠唱者(マジックキャスター)が立ち上がるのに続き、スカマのように信仰系魔法を多少操るような魔法戦士達も立ち上がった。

「……あんたら、何なの。名乗りもしないなんて失礼にも程がある」

 リリネットが吐き捨てるとドーラーと呼ばれた男は手を檻の中に入れてリリネットを指差した。

「な、なに」

 閉じられていた残りの二眼がカッと開き、その二つは赤く光った。

 

「──<白銀騎士槍(シルバーランス)>」

 指先から円錐形の槍が生まれ、リリネットへ飛ぶ。

 スカマはリリネットの腰にぶつかるように飛び込んだ。

「危ない!!」

「──ッ!?」

 槍は壁を突き抜けて消えた。今の魔法は確か──第四位階。ここにいるどの魔法詠唱者(マジックキャスター)よりも相手は強大な力を持っている。

「な、なんてことをするの!!当たっていたら──」

「いけませんねぇ。避けるようなことは許されませんよ。言葉を解する豚共が」

「ドーラー様、せっかくの()です」

「えぇ、もちろん分かっていますとも。貴重な()は大切にしなくてはいけません。ですが、手足が一つ無くなっても炉は困りませんよ?」

 ドーラーそう言いながら牢の中を見渡すと目つきを一層厳しくした。

「……二眼種との汚れた混ざり物もいると報告がありましたが、いないようですね。すでに移したのですか?」

 皆ドキリと心臓を跳ねさせた。

「いえ、そんなはずは。まさか逃げた?」

「……二眼種、呼び戻しなさい呼び戻さなければ()であっても殺します」

 冒険者達はどうするかとざわめき、番兵がバシンッと地面を鞭で打つと、スラーシュとナーガは姿を表した。

「お前達にはたっぷりお仕置きが必要なようですね。あの二人は先に連れて行きなさい」

「は!」

 何人もいる番兵はチームで分かれ、牢を開けると二人の亜人に<拘束(ホールド)>を掛けて引きずるように立ち去っていった。

「さて、それでは……外から来た豚のようなのであなた達には特別にもう一度だけ言いましょう。魔法が使える者、立ちなさい。一人づつ外へ出るのです」

 

 縛られた腕同士が繋がれていく。最後にスカマとリリネットも外に出ると、「歩け」と小突かれた。

「私達をどうするつもり。残らされる者達も!」

 ドーラーはスカマを見下ろすと冷徹に笑った。

「ここまで弁えない二眼種も珍しいですねぇ。こいつらも分からせてやる必要があるかもしれません。──闘技場へ()も一度連れていきましょう。見せてやるんですよ」

 四眼種達はおかしそうに笑った。

 辿り着いた門の閉じた場所で待たされていると、魔力がない者達は討議場の真ん中に集めさせられた。

「な、なにを……」

「まさか何かと戦わされるの?」

 リリネットとスカマは閉じられた門から日に照らされる闘技場を見た。

 客席には大人も子供も、たくさんの四眼種が楽しそうに見物に来ていた。

 

「──あ、あれ」

 リリネットが指差した先には冒険者達の武器が大量に載せられたワゴンがあった。

「私の剣!」

「私の杖もある……」

 あれを奪って二人で<飛行(フライ)>で逃げられればなどと思っていると、司会が話を始めた。

『これより、二眼種と野蛮なる獣人の殺し合いが始まります!!さぁ、誰が誰を殺し、殺されるのでしょう!!』

 司会の話に冒険者達の顔はどんどん青くなっていった。

 その内容は悍ましく、闘技場に出されている者達は「嘘だろ?」と目を見合わせた。

 スカマの心臓がバクバクと音を鳴らす。

「リ、リリネット。向こうに<次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)>で行って、一人でも二人でも連れて<飛行(フライ)>で逃げて」

「で、できない。繋がれてるから複数人同時転移ができるような魔法じゃないと……向こうにすら行けない……」

「で、でも、このままじゃ……皆が──」

 

『──最後に生き残った一人を名誉四眼種として迎え入れよう!!』

 

 司会の言葉が二人の会話を遮り、闘技場からは熱狂の歓声が上がった。

『それでは、名誉四眼種になりたい二眼種達の更なる投入です!!』

 向こう側の門が開くと、見窄らしい姿の者達が鼻息荒く闘技場に入った。

『武器は好きなものを使え!!──始め!!』

 掛け声と同時に、開始の合図の銅鑼が叩かれた。

 

 痩せ細った二眼種達は武器が乗るワゴンへ駆けた。

 冒険者達は何か相談をすると武器へ向かい、自らの武器を探した。

 自分の武器を見つけた冒険者達は<飛行(フライ)>で空にいた司会の四眼種を睨み、空へ向かって武技を放った。

「や、やった!」

 リリネットは歓声を、観客からはどよめきが上がる。

 司会は冒険者を見下ろすと指をさし、閉じていた魔眼を開いた。指先に魔法が籠ると、門の中にいた魔法詠唱者(マジックキャスター)から魔法への抵抗力を上げる魔法を飛ばした。

 戦士が感謝の瞳をこちらへ向けたその時、背にはこの国の二眼種の剣が突き立った。

「──っやめろー!!」

 門の中から戦士の仲間が叫ぶ。

 痩せた二眼種は狂喜の顔で剣を抜くと、戦士を絶命させた。

 それと同時に、魔法詠唱者(マジックキャスター)は四眼種達に意識をなくすまで警棒で殴られた。

「手を出してはいけませんよ。蛆虫では意図も理解できませんか?」

 皆がドーラーを睨み付けた。

「こ、こんな事をさせて、こんな事をして、あなた達は絶対に許されないわ!!」

「──この雌もですね」

 ドーラーがスカマを指差した瞬間、スカマの顔にも体にも警棒が振るわれた。

「やめて!分かったからやめて!!」

 リリネットが叫ぶと、スカマに降り注いでいた暴力は止まった。

「──<中傷治癒(ミドルキュアウーンズ)>。スカマ……大丈夫……?」

「……ありがとう……。許せない……」

「次口答えをすれば、この中から一人づつ腕をもぎます。殴られるだけでは済まないことを覚えておいて下さい」

 スカマはギュッと唇を噛んだ。

 

『ッキャアーー!!』

 叫び声に闘技場に視線を戻すと、客席にいる四眼種がそばで仕事をしていたらしい二眼種を地獄のリングに突き落とした。

 その行いは会場を沸かせ、四眼種達は次から次へとそばで働いている二眼種を中へ放り込み、戦えと叫んだ。

 そこからの事は、スカマもリリネットもとても見ていられなかった。獣人系の冒険者はいの一番に二眼種に取り囲まれ「獣がいる!人とのあいのこだ!」と躊躇いのうちに傷つけられ倒れた。やめさせるように両者の間に人間の冒険者が入り込んだり、戦わない姿勢を見せると、上空の司会から攻撃魔法が飛んでくる。

 良識のある冒険者ほど次々と二眼種達の手にかかり、このままではいけないと魔法詠唱者(マジックキャスター)達から「やるしかない!!」と叫び声が上がる。

「あの相手はうちのチームメイトなんだぞ!」と門の中でも諍いが起こる。

 冒険者達は同胞を手にかけ、痩せ細った二眼種を手にかけ──最後に生き残ってしまった冒険者は、目の前に生き残った若者と、門の中の魔法詠唱者(マジックキャスター)、自分が殺した冒険者を見比べた。

『み、皆……必ず逃げて……神々に……この地獄を伝えてくれ……』

 彼は確かにそう言った。

 次の瞬間自刎した。

 冒険者の血を浴び、そこに残った若者はウワァっと喜びの雄叫びを上げた。

 

 四眼種達は若者に拍手を送り、ドーラーも嬉しそうに手を叩いた。

 ドーラーは一人門の中へ向かい、若者の前で笑顔を作った。ゾッと背筋を寒からしめるような笑顔だった。

『ド、ドーラー様!』

 若者が呼ぶ。

『あなたは今日から名誉四眼種です。おめでとう!四眼種と同じ生活、同じ思想、同じ規律で生きられるのですよ』

 その言葉に若者は狂喜乱舞し、ドーラーは若者を指さすと『──<水晶騎士槍(クリスタルランス)>』その胸を第四位階の水晶でできた騎士槍が貫いた。

 開かれた四つの瞳が愉悦に歪められる。

『名誉四眼種なら、自分が二眼種であることを恥じて死にたくなるはずです。良かったですねぇ。本当に』

 ドーラーが嬉しそうに言うと、会場は一層盛り上がり、割れんばかりの拍手と共にドーラーは戻った。

 あまりの出来事にスカマもリリネットも言葉を失った。

 死体はゴミのように集められた。

 

 そして、魔法を使える者達は絶望だけを供に闘技場を後にした。

 ガタゴトと馬車が揺れ、塔のような場所に着くと部屋に入れられ椅子に手足を繋がれた。

 

 部屋はすり鉢状の形をしていて、何人かの見窄らしい二眼種と、冒険者プレートを着けた者達が痩せ細った顔をして繋がれていた。

 皆座らされ、腕も足も固定されていて、足の筋肉がほとんどなくなってしまったような有様だった。

「──そのプレート、雪解けね!?全員いるの!?」

「……ぼ、冒険者か?俺たちは全員揃ってる」

「そうよ!助けに来た──けれど、この有様。悪いけれど、捕まったわ」

「は、はは……。組合はちゃんと行方不明冒険者として探してくれてたんだ……。それが分かっただけでも……良かった……」

 遠くに行って帰って来ないだけなのか、行方不明になっているのかを見極めるのは難しい。捜索に出たらピンピンしていて「まだ帰らないよ?」とか言う冒険者もいる。

 

「……今回は人数も多いし、きっとすぐに次の冒険者が──ううん。国の人たちが来てくれるはず。もう少しの辛抱よ」

「ありがとう……。俺は"雪解け"のマラブレマ。向こうのほうに仲間達も繋がれてる」

「私は"二武器"のスカマ。こっちはリリネット」

「やっほー……。ねぇ、この部屋は一体なんなの?殺し合いさせられるって感じではないね。まだマシな所?」

「殺し合い……?……俺たちはもう三ヶ月もここで()()に魔力を吸い上げられ続けてる……」

 マラブレマが顎をしゃくった先、部屋の中心には巨大な青い魔石が浮かんでいた。大人が五人で手を繋いで輪になってようやく一周できるようなものすごい大きさの魔石だった。

 てっぺんはもはや天井にのめり込んでいた。

「あれって──」

 スカマが話そうとすると、「黙れ!!」と四眼種から怒号が響いた。

 鞭が床を叩く音に皆身を固くした。

 多くの冒険者達は仲間を失っている様子で、喋るのはスカマとリリネットくらいのものだった。

 ドーラーが魔石に触れる中、鞭を持った男達が部屋を見渡した。

「──貴様らには魔力蓄積石に魔力を注いでもらう。貴様らは今日から二眼種ですらない!炉だ!!」

 魔力蓄積石は魔法が付与される高級な杖にはよく付けられていて、少量だが魔力を一時的に貯めておくことができる。ただ、スカマでもここまでの大きさのものは初めて見た。魔力は徐々に放出されていってしまうので無限に貯め続ける事はできない。

 

 部屋をぐるりと一周見渡すと、大人も子供もいて、皆魔力を取られているようだった。

 そして、扉がまた開き、ナーガとスラーシュの二人がボロボロの姿で引き摺り込まれた。

 

「──吸収(ドレイン)装置のスイッチを入れろ!!」

 

 四眼種達が部屋を出た瞬間──スカマとリリネットの力は一気に吸い上げられた。部屋の四方に配置されていた見た事もない魔道具が光る。

「無、無理……!これ以上とられたら……!ッキャアア!!」

「スカマ!!っく!──ッうわああ!!」

 リリネットの方が魔力は多い。だが、すぐに猛烈な倦怠感が体を襲った。

 それでも尚吸い上げようとする力に二人は叫んだ。

 

 疲れていても魔力がなくてもお構いなしに力は搾り取られ続けた。

 何週間かしてここには神聖魔導国の神官達と聖騎士達まで放り込まれた。

 国の使者として、ここに神聖魔導国の者が来ていれば返して欲しいと正式に書簡を運んできたのだ。

 聖典のような戦力では戦争になるのではと、分かりやすく平和の使者として訪れたらしいのに皆捕まった。

 神官達の疲労は深かった。

 

「……殺し合いよりは……まし……」

 スカマは痩せ細っていく体を見下ろした。

 

+

 

 春休みのある日、ナインズは城塞都市を見上げた。

 

(……冒険者も使者も帰ってこない国……か)

 

 眼前には聳える巨大な壁と、こちらとあちらを隔てるように横たわる深いお堀。幅は百メートル近くあり、底には申し訳程度の汚い川が流れている。

 

「行くよ、ナインズ」

 お構いなしという具合にツアーの鎧が粗末な橋を渡り始めると、ナインズは慌ててその後を追った。

「ツアーさん。ここってどんな国なんですか?父様に思うようにしてこいって言われたけど……」

「多分、君が失望するような国だと思うよ」

「そんなに酷い場所なの?ツアーさんは来た事がある場所?」

「ないよ」

 ツアーとの二人旅でいつでも魔法も使えるようにと腕輪もナザリックに置いていかされているし、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)もいない。少し不安だった。

 護衛はともかく、物心ついた時にはすでに着けていることが当たり前になったあの腕輪とこんなに遠く離れたことはない。

 アルメリアならこの腕輪のない状況を喜んで闊歩するのだろうが、ナインズはとにかく何かを破壊しないようにしようと思った。

 一方、ツアーはいつもフラミーが着けている光輪の善神(アフラマズダー)を鎧に下げていた。

 

「これは──ある意味君の社会勉強の旅だ」

「社会勉強かぁ。どう思うのが正解の場所なんだろう?なんだかテストみたいです。思うようにするっていうのがちゃんと父様の思う正解だと良いんだけど」

「まぁ、大概正解に辿り着ける場所を用意しているんじゃないかな」

「……答えが百点じゃなかったら、息子失格になる?」

「ならないと思うよ。アインズはそういうつもりで君を送り出したんじゃない」

「うーん、そうかなぁ。僕はどうもうまくやれてないみたいだから。月夜の転移門(ナイトゲート)の開通挨拶も父様はあんまり気に入らなかったみたいだし」

 

 興奮と熱狂では人が倒れるので、夕方からの式典ではどちらかと言うと静かな内容にしておいた。

 皆その場で感涙に咽んでいたが、父はもっとなかったのかと言った。

 半分父のような存在しかいない場所で、ナインズは子供のように頬を膨らませた。

 

「僕に頼むなら完璧な内容のものを先に出しておいてほしいのに」

「それが出てこないのは君が期待されているという事だよ。僕も君に世界を任せたい。今回の国のことは置いておいても、君は頑張って色々学ぶ事だね」

「はぁい。学生なら通用しても大人じゃ通用しないことってたくさんあるもんね。僕、少し自信無くす」

「自信をなくすほどじゃないだろう。君はよくやっている。無垢なままでいて欲しいと言う僕の希望からもそう外れていない」

 ツアーの鎧の手が赤ん坊にでもするようにナインズの頭を撫でる。

 ナインズは「もう子供じゃないし、無垢でもないよ」と笑った。

 

 二人は橋を渡りきった。

 ──臭う。

 ナインズは思わず眉を顰めた。臭いからではなく、そうなってしまう状況に。

「……壁の外はスラム街なのかな?」

「そういう雰囲気だね」

「僕、こう言うの初めて見た……。これは確かに社会勉強だ……」

 大人は見当たらず、あちらこちらで粗末な焚き火を子供達が囲んでいた。

 皆ナインズとツアーを見ると、ワッと一斉に駆け寄った。

「また二眼種の旅人たちだあ!」「ねえ、神様はまだなの?」「いつ来るの!」「前に来た旅人が来るって言ってたよ!!」

 ナインズは一瞬呆気に取られたが、すぐに小さく痩せた子供達の前にしゃがんだ。

「謂わば神様達が来るために、先に私が来たんだよ。皆よく待っていてくれたね」

「お姉さんが神様を呼びに行く人なの!」

「はは、僕は男だよ。けれど、神様を呼びに行く人っていうのは多分正解」

 と話しながらナインズは子供達の頭にポンと触れ──その祈りに微笑んだ。

 

 ──お腹いっぱい食べたい。

 ──早くお母さんが帰って来てくれますように。

 ──大きくなりたい。

 

 無垢な祈り達だった。

「皆、お腹が空いているんだね。少し待ってね」

 ナインズは落ちている石を拾うと、ひょいと一度空に向かって投げてから石を両手で包んだ。

「──何が食べたい?」

 子供達は首を傾げ、互いを見合わせた。

「袋一杯のナッツ」「前に旅人が作ってくれたうさぎのシチュー!」「乾いてないパン!」「美味しいパン!」「ビリヤニ!」「バナナ!」

「はは、シチューは私には難しいな。でも、当たりがあって良かった。皆、よく見てて」

 

 ナインズは子供達が手を覗き込むと、近頃手に入れた何の役にも立たないとナザリックで大変笑い話になった特殊技術(スキル)を発動させた。

「── <秘蹟の聖体(ユーカリスト・サクラメント)>」

 ナインズの手の中からもわりと焼き立てのパンが出た。

「あち……。これしか出せないけど、食べるといいよ」

 二つに割り、パンを食べたいと言った子と、近くにいた子に渡した。

 拳サイズのパンは狐色で外側がカリッと出来上がっていて、中は白くふんわりと甘い香りがした。

「これ、なあに?」

「パンだよ?乾いてないパン」

「パンなのに柔らかい!」

 私も、僕も、と群がる子供に石も持って来てと頼み、ナインズはそこでせっせと石をパンに変えた。

 休みの期間中にレベルが上がって行く中で、母から「そろそろ石もパンにできちゃうんじゃないの?なんてね〜」と唆され、やってみようと思った時にはもうできていた。

 それを見た父は頭を抱えて「成熟してる」とこぼし、母と真剣な顔をし話し合っていた。

 

 子供達は満腹になると友達も呼んでくると散っていき、皆たくさんの友達を連れてそこに戻った。

 自分もパンを咥え、せっせとパンを作る。

 もっとアンパンやカレーパン、ガーリックトーストなんかが出たらいいのにと思うが、まぁ贅沢は言えない。

 

 昼間だったと言うのに夕暮れが近付いてくると、ナインズは疲労の見える顔で、満足そうにする子供達を見渡した。

「──さて、そろそろ行こうかな」

 それを聞いた子供達の顔は暗くなり、お腹はいっぱいそうだと言うのに、子供達はまだ食べている子達に掴み掛かった。

「ぼ、ぼくに寄越せ!!」

「お前もう一個食べたじゃん!!」

「お前だって二個目だろ!!」

「──あなた食べないならわたしに譲ってよ!!」

「これはお母ちゃんに渡すんだ!!」

「大人は子供に食べ物渡すべきなんだから寄越せ!!」

「──お前は最近両親死んだだろ!!」

「ボクはボクの為に取っておくんだよ!!」

 途端に始まった壮絶な喧嘩に呆然とした。ツアーはやれやれと興味なさげに息を吐いた。

 正直言うと、こう言う光景も生まれて初めて見た。

 

「わ、分かったから皆喧嘩しないで。最後、一人一つづつね。受け取ったら喧嘩しないで皆もうお帰り」

 皆一斉に石を探しに駆け出し、我先にと石を握りしめて戻った。

 また一つ一つパンを与え、受け取った子供はどんどん家に帰って行った。

 そして、最後の一人は石を二つ持った女の子だった。

「──ごめんね、一人一つだよ」

 女の子は俯くと呟くように言った。

「……友達の妹が妊娠してるの……。あげたいの……」

「それなら──」

 とナインズが手を翳そうとした所を、ツアーが遮った。

「ナインズ、あまり口出しはしない事にしているけれど、やめておいた方が良い」

 見渡すと、帰りかけていた子供達はぴたりと足を止め、「ああ言えばもっと貰えるのか?」とハイエナのように耳を澄ませていた。

 本当にあまりにもキリがなかった。

「──それじゃあ、お友達のところに一緒に行こうね」

「ありがとう。私、メルタ」

「僕はナインズだよ」

 ツアーは名乗らなかった。

 日が暮れて行く中、三人でスラムを行った。

 ナインズ達が渡った橋とはまた別の橋が見えてくる頃、メルタはボロ屋の戸を叩いた。

「ジェーリ、ルシオ。どっちか帰ってる?」

 小屋の中からすぐに顔を出した少年は一瞬目を丸くした。ナインズに見惚れるように爪先からてっぺんまで見ると、ごくりと喉を鳴らして口を開いた。

「た、旅人?神様?」

「神様を呼びに行く人だって。パンくれるから連れて来た。ジェーリに食べさせてやってね」

 メルタは石をいくつもナインズに渡すと、「じゃ」と言って帰って行ってしまった。

 

「えっと、こんばんは!僕はルシオです。旅人さん達、入ってください!」

「ありがとう、僕はナインズ。少しだけお邪魔するね」

 ルシオは立て掛けてある扉をガタガタ開けて中を進めてくれ、これ以上外でパンを出しているとまた囲まれかねないので遠慮なく家に入った。

「こっちは妹のジェーリ!──ジェーリ、神様の使いの人がパンをくれるって」

 ナインズはツアーと家に入ると、その粗末さに動揺した。

 土が剥き出しの部分もあるような床と、服などがいれられた箱がいくつか。椅子や机は見当たらず、やはり箱が置かれていて、それの上に何か汚い麻袋が乗っている。

 部屋の隅には大量のボロ布が集められ、そこの中で少女がぼんやりと目を開いた。

「……お腹すいた……」

 

 この子が妊婦なのかと、この場所の過酷さを思い知らされるようだった。確かに腹だけは少し大きいようだった。

「……お食べ」

 ナインズが受け取った石を全部パンに変えると、手の中からぼろぼろパンがこぼれ落ちた。

 ジェーリはのっそりと起き上がるとパンを一口食べ、「お、おいしい!」と言うとあとは必死で食べた。

「ルシオ、君も食べると良いよ」

「あ、ありがとうございます。こんなにたくさん!」

 兄妹が夢中でパンを食べる様子をナインズは複雑な気持ちで眺めた。

「君達、ご両親は?」

「お母さんはもう死にました。お父さんは一昨日殺しました」

「こ──え?な、何て……?」

 ルシオはナインズを虚な灰色がかった青暗い瞳で見上げると、笑った。

 

「ジェーリがうまく働けなくて、お父さんも働けない永遠泣き虫だったし、お父さんがもう食べていけないから殺してくれって」

 絶句してしまった。ルシオが眺める場所には確かに致死量の固まった血痕がドス黒く染み付いていた。

「自分で殺してって言ったのに、お父さん、最期はやっぱり死にたくないって言って死んでいった。僕、神様なんていないって思ったんです。でも、旅人さんが神様の使いなら、きっと僕たち助かるんだ」

「──た、助かる。助けるからね。大丈夫だよ」

 ナインズは痩せ細っているルシオの手を握った。

「ジェーリ、もう僕たち大丈夫だよ!」

 ジェーリは必死にパンを口に詰め込みながら笑った。

 そうしていると、外からカンカンカンカンカン!と甲高い音が聞こえてきた。

「あ、配給だ!配給ももらってきたら豪華な晩ごはんになるなぁ!貰ってくるから待っててください!」

「あ、僕の分はいらないからね」

「はーい!」

 ルシオは見窄らしい箱の上に置かれていた深皿を一枚手に家を飛び出して行った。

 

「ジェーリ、配給は誰がしてるの?」

「四眼種の優しい管理者様達」

「優しい管理者……か。ジェーリ、いつもご飯は足りてない?配給があるのにお父さんとは食べていかれなかった?」

「お兄ちゃんが働いてもらえる配給チケットは一人分の朝ご飯と晩ご飯の二食だから、三人だと足りない……」

「……ここは三人家族だったのに、優しい管理者でも一人分しかくれないの?」

「もらえない……。でも、たまにお兄ちゃんが一晩中体を売ってチケットを分けてもらえることもあるよ」

 ナインズは目を覆った。ここは地獄かと。

 

「──……待って。朝晩の二食だと、昼は?」

「お昼はお兄ちゃんは鉱山で食べるの。私とお父さんは家で朝のお兄ちゃんの配給チケットでもらったご飯分け合ったりしてた」

「……それじゃあ足りるわけがない。お金は?少し分けてあげようか。重さで測って使えるかも」

「ものを買えるのは四眼種だけだよ?それに、おかねって数がわからないと使えないんでしょ?私、いち、に、さん、よん……。ろく?」

「ご、ろく、だね。この指は五本目」

 ナインズはジェーリが自分の手を見る間「……四眼種か……」と呟いていると、外からルシオが皿一杯のどろどろした粥のようなものと、硬そうなパンを持って戻った。

「お待たせ!旅人さんのパンと食べよう!!ジェーリ、今日はお腹いっぱいになれるね!」

「うん!旅人さんもお兄ちゃんもありがとう!」

 二人が仲睦まじく粥を食べるのを、ナインズはパンを齧って眺めた。ツアーも腕を組んでじっとナインズを見守った。

 

「ねえ、旅人さん。神様の国ってどんな所ですか?」

「……皆がお腹いっぱい食べて、明日への希望に満ちているんだよ。どこもかしこも輝いて、神の下にあらゆる人々は平等で、誰もが自由なんだ。何かを強いられることも、害されることもない」

「それって天国?」

「じゃあ、死んだら行ける所?」

「天国みたいだけど、死なないでもいけるからね」

「僕とジェーリも行けるのかなぁ」

「行けるよ。僕が乗って来た船が少し離れた所にあるから、それに乗って一緒に行こうね」

「いいの!一緒に行っていいの!」

「良いよ。もちろん」

「わぁ、メルタが旅人さんを連れてきてくれて良かったなぁ!」

「僕も君たちに会えて良かったよ。ルシオ、ジェーリ、先に中で四眼種と話だけしたら、すぐに君たちを迎えにくるから待っててくれるね」

 食事を終えたジェーリは嬉しそうに頷いた。

「約束!必ず戻ってきてね!──あ、赤ちゃんも嬉しいってね、今お腹蹴ったよ!」

「良かった。赤ちゃんも、きっと迎えにくるからね」

 ナインズは痩せているのに膨らんでいる腹に手を当て、中から確かにトン、トン、と腹が動くほどの衝撃を感じると撫でた。薄皮一枚の下に赤ん坊が入っているようだった。

 そして、彼女の祈りを聞いた。

 

 ──赤ちゃんとお兄ちゃんと幸せになりたい。

 ──お腹いっぱいになりたい。

 ──最後は楽に死にたい。

 

 切実すぎる祈りに唇を噛む。

 ルシオは少し不安そうな顔をした。

「旅人さん、壁ノ内に行くんだね。他の旅人さん達は壁ノ内で名誉四眼種になって幸せに暮らしてるんだって。だから神様の国に神様を呼びに行くのをやめちゃったって大人が皆言ってるの。旅人さんは、中で名誉四眼種になれるって言われても、迎えにきて一緒に神様呼びに行ってくれる?」

「僕は必ずここに戻ってくるよ。──そうだな。今日はもう遅いから、明日の朝の炊き出しに一緒に行って、優しい四眼種の人達にお願いして中に入る。それで、できるだけ早く戻ってくるね」

「分かった!待ってるね!旅人さん、今日は泊まって行く?」

「そうさせて貰えると嬉しいな。──<清潔(クリーン)>」

 

 せめて彼らの夢見が良いように血の跡を消すと、ルシオは喜んだ。毎晩お父さんの悲鳴が聞こえてくるようだったと。

 ナインズは薄暗く、外の月の明かりだけが頼りの家の中で子供達と抱き合って横になった。

 ツアーは適当な場所で腰を下ろして見守った。

 二人はあの鎧の人は何なの?と尋ね、「ゴーレムみたいなものだよ」と答えた。中に人は入ってないと言うと驚いていた。

 ルシオとジェーリを抱えて転がりながら、板切れをいくつも重ねて作ったような天井を眺める。

 ジェーリは「いい匂い」とナインズに縋った。

「旅人さん、もう神様も呼びに行かないで僕たちと一緒にここでパンを食べて暮らさない?」

「──それは少し難しいね。一緒に僕の国に行く方がきっと君達も安全だから、そうしようよ」

「……僕、できる仕事多くないけど大丈夫かな」

「大丈夫。十八の成人までは皆守られるべき子供だからね」

「僕、多分十五歳!十八まで何年?」

「え?十五なの?十八までは三年あるけど……僕と二つしか違わないのか」

 眠るジェーリの横で起き上がって見下ろしたルシオは無垢そうに首を傾げた。体は小さく痩せ細り、てっきり十二やそこらだと思った。

「多分十五。来年には僕も旅人さんみたいに大きくなれる?」

「……なれるよ。私の国に行けばなれる。大丈夫。君も数を数えられるようになるし、背も伸びる。大丈夫だよ」

 ルシオは嬉しそうに笑った。

 十五の自分はナザリック学園で一郎太とはしゃぎ回っていた。この世の境遇の差に言葉もない。

(……早く、早く父様達に世界征服していただかないと……)

 絶対なる存在が上に立てば、四眼種だろうと何だろうと、どれだけの種族がいても、その尊さに皆自然と頭を垂れるというもの。

(絶対なる支配者であらせられる父王陛下と母王陛下によって、世界の全ての生き物が支配されなくちゃ……こんなことが起こる……)

 生み出されているものは真なる平和だ。

 平和を求めるのであれば、至高なる存在の支配を受け入れるべきなのだとデミウルゴスは言っていた。

 

 目を閉じると、ふと腹を手が撫でた。

「──ルシオ?」

「旅人さん、必ず戻ってきてくれるよね?」

「うん、大丈夫だよ。不安なんだね、こっちにおいで」

 ルシオはジェーリの隣からナインズの隣に移動すると寄り添った。

「僕、旅人さんの役に立てるからね?」

「君が生きていると言うことだけで十分だよ。ありがとう」

「僕とジェーリを忘れて帰らないでね?」

「うん、絶対に忘れないよ」

 悩んだような顔をすると、ルシオがナインズの下半身を撫で、ナインズは飛び上がった。

「な、なに!?」

「僕役に立てるから。せめて」

「いい!そんな事やめろ!」

「ご、ごめんなさい……」

 ルシオが困惑する中、ジェーリが目を覚ました。

「……どしたのぉ?」

「な、なんでもないよ。なんでもない。ジェーリはお休み。もう少ししたら柔らかい布団で眠れるからね」

 撫でてやると、ジェーリはほっと息を吐いた。

「旅人さん、お父さんみたい」

「……ありがとう」

 またジェーリが眠りにつくと、肩を落とすルシオを抱き寄せた。

「もうルシオも眠りな」

「旅人さん、ごめんなさい……。男じゃ嫌な人だった?」

「……そう言うんじゃなくて。君は僕の友達だよ。友達にはそんなことしないでいいんだからね」

「友達になってくれるの?」

「うん、旅人じゃなくて、ナインズって呼んで」

「わぁ。ナインズお兄さん」

 ルシオは嬉しそうに笑い、眠った。

 聞けば彼の祈りも切実だった。

 ──楽に死ねますように。

 ──お腹いっぱい食べたい。

 ──ジェーリが長生きしますように。

 ナインズもため息を吐いて両脇の兄妹の額にそれぞれ口付けてやると眠りに落ちた。

 

 深夜。

「──ナインズ」

 ツアーの声に目を覚ました。

「……ん……はぁい」

「敵意が向かってくるよ」

「……敵意?四眼種とか言う種族かなぁ」

 体を起こすと同時に、ドンドンドン!と無遠慮に扉が叩かれた。

 ルシオとジェーリも眠そうに目を擦り起き上がった。

「こんな時間に誰だろぉ?」

「メルタかなぁ?」

 などと言っていると──途端に扉は蹴破られた。

「っわ!!な、なに!?」

 二人がナインズに抱き付くと、ナインズは二人を抱き寄せて扉を失った出入り口を睨んだ。

 外からは痩せこけた大人が鍬や棒切れを手にぞろぞろと入ってきた。

 

「あんたが石をパンにする旅人かい」

「……そうですけど、あなた達、彼らの家をこんな風にしてどう言うつもりですか」

「一緒に来てもらう。パンを出し続けろ」

「……断る。今日はもう眠って、明日の朝には私は壁の向こうに行って話をしなくては。もしくは、帰って父に話をする」

「行かせるわけがないだろう。来い!!」

 ドタドタとたくさんの足音が鳴り、ナインズは腕を引っ張られると軽く振り解いた。

 

「私が話を付けてくればこんな生活は終わる!私一人にパンを出させるより余程良いはずだ!」

「抵抗するな!そう言って壁ノ内に行った旅人は誰も戻らなかった!!身なりも良かったし、魔法も使えたからどうせ名誉四眼種になれて良い暮らしをしているんだ!!同じ二眼種のくせに許さないぞ!!」

 狭い家の中でワッと一斉に大人が群がると、ナインズは兄妹に危害が加えられないように二人を手放した。

 ツアーにも男達は寄ってたかり、粗末なロープを目の前でビンッと張って見せつけた。

「あんたにも来てもらうぞ!!」

 

 押し除けることも、吹き飛ばすことも、拘束魔法で捉えることも容易だが、彼らの貧しい心と昼に見た子供達のあの喧嘩を思い出すとどうしてもできなかった。

 抵抗しない様子のツアーはただ手を縛られていたが、NOと言うナインズは床にドンっと顔を押し付けられ銀色の髪を散らした。

 

「やめろ!私は話を付けられる!!」

 ルシオとジェーリもナインズを抑えつける大人達の腕を引っ張った。

「や、やめて下さい!皆!」

「ナインズお兄さんは──この旅人さんは神様を呼びに行けるのに!僕達を神様の国に連れて行ってくれるのに!!」

「うるさい!!神なんか存在するはずがない!!いれば俺は片目を抉り取られてない!!」

 首謀者らしい男は長い前髪を払い、その下の眼窩を見せた。空洞には目玉は存在せず、黒々と広がる恨みの穴があった。

「退け!!お前達にだってパンはやるんだから!!」

 ドンっと大人達にジェーリが払われ、箱に倒れ込む。うぅ……と呻き声をあげると、ナインズは「分かった!!」と叫んだ。

「分かったからやめろ!!子供にまで手をあげて恥ずかしくないのか!!」

 

「最初からそう言っていれば良かったんだ!来い!!」

 

 睨み上げるナインズの目には布が掛けれ、引き立たされるとどこかへ連れ出された。




ナイくん、本当にツアーと二人のお出かけなんだなぁ…。
ちなみにイエスはサタンにパンを作れば?wと40日の絶食後に唆されてNOと言ったみたいですね!

次回明後日!Re Lesson#45 燃え盛る炉
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