眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#44 閑話 その後の仔山羊達

 魂を媒介に召喚された十匹もの可愛らしい仔山羊は消えず、今日も第六階層を元気に駆け回っていた。

 

「あたしもアインズ様とフラミー様の生み出された仔山羊を預かれるのはとっても光栄なんですけど……あの無礼な蜥蜴人(リザードマン)達とドライアードが嫌だって言うんですよ」

 アウラはそのくらい我慢しろー!と憤慨しているが――口ではそう言いながら、何だかんだと自分の階層の者が仲良く幸せに暮らせるように気を配っている様子がアインズには伝わってきていた。

 いかんせん仔山羊は触手まで含めると十メートル近くある。三階建ての建物に相当するサイズだ。巨大すぎた。

「苦労をかけたな、アウラ。他にも広い階層はあるのだから今から受け入れ先を探してくるとしよう」

「ありがとうございます、アインズ様!でも御許可を頂けるならあたしが皆に聞いてきますよ!」

 お任せくださいと胸を張るアウラの頭をくしゃりと撫で付けると、可愛い娘はくすぐったそうに笑った。

「いや、久し振りに各階層を見て回る良い機会だからな。私が行くとも。えーとフラミーさんは……――」

 

 

+

 

 フラミーは畑を一部踏み抜かれたピッキーとピニスン、そして現地産トレント達に頭を下げていた。

「すみません、本当うちの子達が……。ほら、ちゃんと謝らないと」

 フラミーは足にトマトの残骸を貼り付ける自分の生み出した不出来な仔山羊の足を手のひらでパンと叩いた。

 

 メエェェェェェ………………

 

 申し訳なさそうにする巨大な仔山羊にピニスンとトレント達は顔をヒクつかせていた。

「それじゃあ、私ザリュースさん達の所にも謝りに行かなきゃいけないんでこれで。本当すみませんでした」

 ペコペコと頭を下げながら立ち去るフラミーを最敬礼でピッキーは見送った。

 

 フラミーは蜥蜴人(リザードマン)の宿泊施設を直すマーレの下についた。

「マーレ、本当にごめんね」

「え!あ、ふ、フラミー様!僕は全然構いません!」

 マーレが施設を破壊されたことを心底何とも思っていない様子で応えるのがむしろ怖い。

「ザリュースさん達は?」

「あ、あちらで仔山羊対策会議を開くそうです!」

 

 礼を言いマーレの言った方へ向かえば、すぐに湖と林の間に目的の人物達を見つけた。

 そこからは仔山羊に罠を張るとか、むしろ訓練になるかもしれないとか物騒な事を話している声が聞こえてくる。

 緑爪(グリーンクロー)族のザリュースと目が会うとフラミーは手を振った。

「ザリュースさーん!シャーしゅーリューしゃーーー……っく、しゃーしゅーりゅー……しゃー。すー。りゅー……。しゃーすーるー……ああ!」

 フラミーは頭を抱えてザリュースの兄をいつまで経っても呼べないことに苦悩した。

「こ、これはフラミー様!シャシャとお呼びいただければ良いと言いましたのに!」

 シャースーリューが駆け寄るが、フラミーは頭をブンブン左右に振った。

「折角ですけど、シャシャさんじゃザリュースさんもクルシュさんも、奥さんも皆シャシャしゃんじゃな…………くっ…………皆シャシャさんじゃないですか!」

 ただ折衷案もうまく言えないだけだということを露呈させながらフラミーは申し出を断った。

 竜牙(ドラゴンタスク)族のゼンベル・ググーがグヮハハハとワイルドな笑い声を上げると、フラミーの後ろについて来ていた可愛らしい仔山羊の一体からビッと目にも留まらぬ速さで触手が振るわれ、会議時に地面に書いていた図が抉り消された。

 当たっていたらゼンベルは煎餅になっていただろう。

「は…………は…………ははは……。いや……失礼しました。俺はフラミー様を笑ったんじゃねーんですよ。ただ、ほら、この言いにくい名前の兄弟を笑っただけで、なぁ……?」

 同意を求められる鋭き尻尾(レイザーテール)族のキュクー・ズーズーはふぃと無視した。

 キュクーは知恵を奪う代わりに絶大なる防御力を発揮する鎧を身に付けていたが、復活後呪いが解け知恵が戻ってからはゼンベルを脳足りんだと評していた。

「フラミー様、このスーキュ・ジュジュ良い案を思いつきました」

 小さき牙(スモールファング)族の黄色い族長にフラミーは視線で続きを促した。

「我々は敬称は不要ですので、シャースーリューさんではなくシャースーリューとお呼び下されば良いのです。なぁ、そうだろう皆」

 それはそうだとうんうん頷く可愛い爬虫類達にフラミーは唸った。

 

「フラミーさん、何の話ですか?ザリュース、シャースーリュー、キュクー、スーキュ、ゼンベル。皆今回は悪かったな」

 アインズからかかる声にフラミーは振り返ると複雑そうな顔をした。

「く……至高の支配者は噛まないとでも言うんですか?」

「え……?まぁあんまり噛みませんね」

「じゃあ、『シャシャさんちの、クルシュさんが、シャー、スー、リューさんと、散歩した』って早口で十回言ってください」

 後ろで仔山羊達がウネウネと触手を動かしながらメメメェェェ……メェエェメエェェェェェと各々早口言葉を言っている気になっているのが実に愛らしい。

 

「シャシャさんちのクルシュさんがシャースーリューさんと散歩した。シャシャさんちのクルシュさんがシャースーリューしゃんとしゃんぽした…………」

 フラミーはにやりと笑った。

「うふふ、噛みましたね」

「噛んでませんとも…………」

「噛みました!」

「噛んでないです!」

『噛んだって認めて下さい!』

「あ、ずるい!でも俺にそんな卑怯な手は効かな――」

「「「「「噛みました」」」」」

 悪魔のスキルである支配の呪言に誘われ、レベルの低い族長達が声を揃えて噛んだと口にした。

 至高の支配者に生意気にも噛んだと指摘してしまった族長達は慌てて口を押さえるが、支配者達は心底おかしそうに笑った。アインズは鎮静と笑いを繰り返したが。

 

 

+

 

 アインズとフラミーはシャルティアの下に来ていた。

 

「というわけで少しでも第六階層から他所の階層に引っ越させたいのだ」

 一体だけ連れてきた仔山羊はとてもシャルティアの住まいには入れず、外で吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)に見張らせている。

「仰ることはわかりんすが、妾の階層では天井を擦ったりしそうなので出来ればもう少し広いところを当たったあとの最終手段にしていただきたいでありんす……」

 外からズンズン……という足音が聞こえ出すと――

「それに、あれの体重では罠として敢えて脆く作られた床が抜けるかもしれんせん」

 バギィという床を踏み抜く音と、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)達の「キャー!!ハヤクハヤク!!」という悲鳴が聞こえてきた。

 外から聞こえる恐ろしい音に三人は顔を見合わせると慌てて外に出た。

 

「うわ!こら、こいつ、あんまり動くなって言ったのに!」

 ふよんふよんと触手を動かす仔山羊はどこか申し訳なさそうだった。

「すまなかったな。シャルティア、お前は自分の階層の性質をよく掴んでいる素晴らしい守護者だ!<転移門(ゲート)>!」

 アインズは転移門(ゲート)に仔山羊を蹴り入れた。

「すぐに金貨で直すようにズアちゃんに連絡しておくから、少しだけ待ってね!ごめんね!」

 二人はそそくさと闇に身を投じると去っていった。

 

「あ……アインズ様……フラミー様……。もう行ってしまわれんした……。お写真を一緒に撮って頂きたかったのに……」

 

 

+

 

「というわけで少しでも第六階層から他所の階層に引っ越させたいのだが、流石に第一から第三階層は無理だったわけだ」

「ナルホド。ソウイウ事デシタラ我ガ階層デ全テ引キ取リマショウ」

 コキュートスは広がる雪原に仔山羊が居ることに何の不都合も感じないだろうと結論付けた。

「そうか!預かってくれるか!よし、では早速外に転移門(ゲート) を開こう」

「畏マリマシタ。タダ、氷ノ湖ニ死体ヲ保存シテイルタメソコダケ行カナイヨウニ言ッテオイテ頂ケルト……――ン?」

 コキュートスと共にスノードームを出ると、そこには寒さ故か小さくクシュクシュになって震える哀れな仔山羊がいた。

「パトラッシュ!パトラッシュ目を覚まして!」

 パンドラズ・アクターに連絡してから後で入ると言っていたフラミーが仔山羊の巨大な足をすりすりと暖めていた。

「メエェェェ………………メェ…………」

 仔山羊は冷気への耐性を持っていなかった。

「……コキュートス、せっかく預かってくれるという事だったが……」

「ハイ。コレデ死ンデシマッテハ元モ子モアリマセンノデ……」

 

 

+

 

「というわけで流石に第一から第五階層は無理だったわけだ」

「なるほど。そういうことですか」

「全くどうしたらいいもんか」

 目を離すと意外と何が起こるか分からないため、赤熱神殿の前で三人は仔山羊を見ていた。

「ふむ、私にいい考えがあります」

 デミウルゴスの声に二人はさすが知恵者!と目を輝かせる。

「いっそ、殺してしまえば――」

「なんだとデミウルゴス?」

「デミウルゴスさん……パトラッシュ達殺しちゃうんですか……?」

 支配者二人は二度とこれだけの数は出せないだろうと思うと、重度の勿体無い病を患っているため悲しそうな顔をした。

「失礼いたしました。愚かな提案をした私をお許しください」

 仔山羊に自由にするようにアインズが言ったため、暖かくて気持ちがいいのか火山の麓に湧く温泉に腹を沈め、極楽といったような顔をしている。

 が、冷気耐性を持たない仔山羊が熱耐性を持つはずもなく、段々黒い体は赤くなっていった。

 

【挿絵表示】

 

「ふふ。本当可愛い。あの子アインズさんの子ですよね?」

「そうですよ。俺と繋がりがあります」

「あの子、パトラッシュって名前付けてもいいですか?」

「ははは。どうぞ。でも実は俺も名前考えてたんですよね。フラミーさん所の子に付けようかな」

「なんて名前ですか?」

「おにぎり君ですよ」

「あはっ!可愛い!」

 

 デミウルゴスは二人を見て思う。

 何とかしてこの慈悲深い支配者達の為にパトラッシュとおにぎり君達を生かす術を考えねばならないと。

 

「アインズ様、フラミー様。このデミウルゴス、良き方法を考えますので数日お時間を頂けないでしょうか」

「ほう、考えてくれるか。デミウルゴス」

「勿論でございます」

 支配者達は頷きあった。

「じゃあ、デミウルゴスさんお願いします。すみませんね、聖王国に悪魔送るのに忙しいって言うのに」

「いえ、滅相もございません。慈悲深き御方々のお役に立てるようこのデミウルゴス、精一杯努めさせて頂きます」

「あ!そしたら明日貪食の魔将(イビルロードグラトニー)を呼ぶ時は私のスキルで召喚しますよ!」

「おぉ、なんと優しきお言葉。是非よろしくお願い致します」

 

 デミウルゴスはナザリックにいる憤怒、強欲、嫉妬ではない魔将を一日に一回召喚し、知識を共有してから聖王国に送り込んでいる。

 支配者達がパトラッシュを連れて立ち去ると、忙しくなるぞとデミウルゴスは肩を回した。




ナザリック生活スーパーエンジョイ!

ジッキンゲンの脳内仔山羊です。
https://twitter.com/dreamnemri/status/1130354447979241472?s=21


次回 #45 閑話 だって男の子だもん
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