眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#49 動き出す邪神教団

 ほとんど丸一日かけて復活させられた山小人(ドワーフ)達は口々にアインズとフラミーに礼を言った。

 

「それで、我が国に来るかな?」

 もはやボロボロの街は食料も建物も、ドワーフの暮らせる要素を全て失っていた。

 摂政会の八人の長達は全員が移住に賛成した。当然渋々、と言う者もいたが。

 相手は強大なアンデッドだと思うと生き返らされたとは言えほのかに恐ろしさを感じる。

 しかしここではもう暮らせない。人と肩を並べて暮らすのは不安だが、飢え死によりは良いだろう。

 

 遠くからその様子を眺めるフラミーに、ゼンベルは近付いた。

「フラミー様、ありがとよ。俺の世話になったやつもちゃんと居たぜ。」

 ニヤリと笑うゼンベルの足に、フラミーはとりあえず回復魔法をかけた。

「…お安い御用ですって…。」

 フラミーはもうドワーフをしばらく見たくないと思いながら頭からデミウルゴスに貰った蕾を引き抜く。

 効果を使ってみると、蕾の中に生じた丸い輝きが先っぽに現れ、ポンと弾けた。

 フラミーは目を閉じてその光を浴びた。キラキラとした輝きが消える頃には、フラミーの体から疲労は消えていた。

 

「――よし!そしたらドラゴン狩りに行きますか!」

 ドワーフの今は遺棄されている王都には霜の竜(フロストドラゴン)と呼ばれるドラゴンが巣食っているらしい。

 以前、冒険者漆黒の剣と冒険をした時にニニャがそのドラゴンの存在を教えてくれていたが、まさかこんなところにいるとはとアインズとフラミーは期待に胸を膨らませた。

 

 ゴンドとゼンベルを含めたドワーフ達はアルベドと紫黒聖典の先導で先に歩いて山を下って行った。

 帰りがけ、ずっと女子達に魔導国の素晴らしさを聞かされた一行は自分達を復活させた王のその国を何だかんだ楽しみにしながら歩みを進めるのだった。

 

+

 

 アインズ達は溶岩地帯を抜け、天然のガスだまりを抜け、ドワーフの旧王都に来ていた。

「アインズ様!お言葉に従い、全て選別完了しんした!オスが四千、メスが四千、子供が二千でありんすえ!死体はまたデミウルゴスが持ち帰りんした!」

 軽快に声を上げるシャルティアに、アインズは優しく頭を撫でた。

 その後ろには十九匹の霜の竜(フロストドラゴン)が平伏している。ドラゴン達の父で、群れの長だったオラサーダルク=ヘイリリアルと言う者が大層不遜だったせいで、アインズは一瞬でドラゴンを一匹始末してしまった。が、他の者は従属を願ったためにこうして連れ帰ることにした。

「よくやったぞシャルティア。ペロロンチーノさんもお前の活躍を喜んでるはずだ。」

 シャルティアは素晴らしいその褒め言葉を絶対に忘れたくないと思いながら、撫でて来る優しいその手に頭を委ねた。

 次の夜はきっと語らうだけでは済ませないと胸に誓って。

「それで、王はどれかな?」

 アインズの問いにシャルティアは粗末な王を指差した。

 

 周りのクアゴアの恐れが伝わってくる中、アインズは王様らしく見えるように黒い後光を背負って、道中で練習した口上を王に述べる。

「私は慈悲深い王として知られている。お前は罪のないドワーフを皆殺しにしたな?しかしその罪はお前の同族が流した血によって償われたと考えている。今後お前達が私たちのために必死に働くのであれば、繁栄を約束しよう。」

 その時アインズはまさしく王だった。

 

「わーアインズさんカッコいいー!ぎるますー!」

「アインズ様ほんとにほんとにかっけぇでありんす!!」

 女子二人が台無しにしたが。

 

「んん。どうするかね。」

「ははぁ!!子々孫々に至るまで、御身に仕えさせて頂きます!!」

 いい返事にアインズは頷いた。

「お前達はドワーフとはあまり近くないところに住ませた方がいいな。日光の問題もある。一度ナザリックに行くのだ。」

 アインズはシャルティアの開く闇にクアゴア達を送り出した。

 こうしてナザリック鍛冶長の必死のサングラス製造の日々は幕を開けたのだった。

 

+

 

 アインズとフラミーはドワーフの城にある宝物殿を訪れていた。

「アインズさん!これみーんな持って帰りましょうね!税金!税金!」

 フラミーはリアルで納める税金の多さに日々嘆いていた為か、税金になる金銭には目がないようだった。

「大したものは無さそうですけど、とりあえず全部持って帰りますか?ドワーフは二度とここには来ないでしょうし、来たとしても誰かが盗掘したと思いますよね。」

 そうしようと興奮するフラミーに笑い、アインズは少し躊躇ってからこめかみに手を当てる。

「――パンドラズ・アクターか。悪いが宝物殿に持ち帰りたいものがあるのだ。うむ。……うむ。そうしてくれ。頼む。こちらから転移門(ゲート)を開こう。」

 アインズが開いた闇から出てきたパンドラズ・アクターは華麗に跪いた。

「パンドラズ・アクター、御身の前に。」

「よく来たな、パンドラズ・アクターよ。フラミーさんが残さず全部これらを持ち帰りたいそうだ。できるか?」

 その言葉にパンドラズアクターはパッと顔を上げ、それまで胸に当てていた手を顔に当てると、ゆっくりと丸い顔に沿わせていく。

「御身に生み出されたこの身に不可能はございません。」

 キラリと光る黒い目を見るとアインズは沈静化された。

「……では頼んだぞ。貨幣は使うとドワーフにバレるな。対策を考えておけ。」

「では、貨幣は全て潰して、新たな神聖魔導国硬貨に鋳造し直すと言うのはいかがでしょうか。」

 アインズは鷹揚に頷く。

「名案だ。話が早くて助かるぞ、パンドラズ・アクターよ。」

 褒められた事に嬉しそうに頭を下げると、くるりと回ってアインズの姿になりパンドラズ・アクターは転移門(ゲート)を開き直した。

「それでは回収を始めさせて頂きます。」

 

 親子の話が終わるとフラミーは深遠の下位軍勢の召喚(サモン・アビサル・レッサーアーミー)を発動させた。

 

 ギャギャギャギャギャギャギャ!

 

 黒い穴から、愉快そうに笑うライトフィンガード・デーモンが大量に出てくると、フラミーの前に並んだ。

 

「皆さん、これみーんな持って帰ります!ズアちゃんの言う事をちゃんと聞いて運ぶんですよー!」

 フラミーの楽しそうな声にギャーイ!と声を上げる悍ましくも愛らしい悪魔達はアインズの姿を模したパンドラズアクターの言う事をよく聞いて、せっせと宝を運んだ。

 宝を盗む性質を持つ悪魔達は今日の仕事が終わる頃、ほくほく顔だったらしい。

 

+

 

 バハルス帝国のとある墓地の霊廟の地下に、邪悪な空間が広がっていた。

 地下階段を降りた先には奇怪なタペストリーが掛けられ、その下には真っ赤な蝋燭が幾本も立てられ、ボンヤリとした明かりを放っている。踊るように揺れる灯りが、無数の陰影を作る。微かに漂うのは血の臭いだ。

 

 そんな場所に男女交えて、総数二十名ほどがいた。

 顔は骸骨を思わせる覆面を被っており、うかがい知ることは出来ない。その集団がおかしな存在だと言うのは誰が見ても一目瞭然だろう。覆面はまだしも、問題はその下だ。上半身、下半身共に裸であった。

 怪しい集団は肩身を寄せ合い、ひそひそと会話をしていた。

 

 彼らは邪神を祀る教団だった。

「近頃はクレマン様もすっかりそのお姿を現さない。やはり、神のおそばに侍っていらっしゃるのだろうか。」

「しかし以前クレマン様が仰っていたのは本当だったようですね。」

「全くですな。何せ、旧法国が王国の数々の村を焼き討ちにしていたら降臨されたとか。」

「たった数名の生贄や鳥では足りなかったと言う事ですね。」

「旧法国が一体何人を生贄にし、村を焼き討ちへ処したか知りたいものですな…。」

 

 しばらく思い思いに生贄の有用性について語り合っていると、これまで黙っていた男が躊躇いがちに口を開いた。

「…実はフールーダ様が神聖魔導国で魔導学院の設立を目指してらっしゃるそうなのだ。そこでノウハウのある者の引き抜きを行ってらっしゃる…。」

 語る声は枯れ木を揺らすようだった。体は皺だらけの老人のものであり、弛んだぶよぶよとした皮だ。

 周りの者もそう大差ない姿だ。どれも干し柿のようだった。

 何を言いたいのか干し柿達は理解を始めた。

 全員それぞれが何者なのかは知らない体でいたが、この老人だけは別格なため皆が何者なのか察している。

 

「行かれるのですか。」

 その言葉に頷く。

 

「ああ。私は、神王陛下のご降臨を心待ちにしていたのだ。向こうで成果を上げ…そしてフールーダ様のような不老不死を願おうと思う。」

 皆の心の中に嫉妬の炎が渦巻くが、誰も老人に手は出さなかった。

 神の役に立とうとする男に手を出すのは不信心者のする事だ。

「今日限りで私はここを出る。すまない。」

 

 しばしの沈黙が訪れると、ドタドタと無作法に誰かが教団の階段を下りてくる音がした。

 

「た、大変だ……!!大変だぞ!!神が、神が大量のドワーフを連れて帝国のすぐ側を通ってらっしゃるそうだ!!しかも、その隊列の中にはクレマン様らしき女性が!!」

 

「なんだって!?」

 男の絶叫に全員が立ち上がり、階段を駆け上ろうとする。

「待つんだ皆!!神は旧法国の生贄を捧げた男を裸にしたと聞きおよぶ。やはり生贄を捧げるにはこれが本来の正装だとは思うのだが…だが…生贄を捧げない時我々はどんな格好で神の前に参ずれば良いのだ!?」

 当然表に出れば服を着ている者しかいない。このままで出掛ければ神にまみえる前に御用だ。

「この覆面はいつも通り持って行って、クレマン様にお聞きするのが一番じゃないのか!?」

 違う男の意見に全員がソレだ!と瞳を輝かせた。

 頭のおかしな邪神教団は無駄にピタリとハマってしまったピースに歓喜し、服を着こみ――初めて魔法学院の学院長以外の者が何者だったのかを知った。




次回 #50 知られざる戦争

や、やばいやつら来ちゃった(//∇//)

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