フラミーは治療を受けると装備を全て脱ぎ捨て、お団子も崩してベッドに入った。
「私、本当に役立たずだ。」
苦々しげに漏らしたその声に、控えて立っていたシャルティアはおろおろしていた。
「フラミー様…そのようなことは決してありんせん。どうか御身を一番大切にお考えいただきます様に心よりお願い申し上げんす…。」
フラミーはそれを無視して布団に潜り続け考える。
本当にアインズは自分の持っている砂時計の数を知っていただろうかと。
そして、すぐにそんな訳が無い事に思い至って笑った。
「ふ、策士ですね。」
アインズの部屋にはシャルティアを除く守護者達が来ていた。
「お前達もあの人から目を離すな。」
アウラとマーレは不安げに顔を上げた。
「フラミー様は…何をされようとしたんですか…?」
「し、始原の魔法って一体なんなんですか?」
アインズは二人に頷くと、逃げるためではなくデミウルゴスに顎をしゃくって説明しろと伝える。
デミウルゴスは立ち上がり守護者を見渡して聞く用意ができている事を確認した。
「君達は従属神を覚えているかな?」
皆が頷く。
「あれの記憶の中からアインズ様はツァインドルクス=ヴァイシオンの持つ力の一端を発見されました。それが始原の魔法です。八欲王と呼ばれたプレイヤーがこの世界に我々も行使する位階魔法をもたらす前には竜のみがその魔法を使い、世界を席巻していました。が、どうやら漆黒聖典の話によるとそれはもう殆ど穴蔵から出てこない竜王たちと、竜王国のドラウディロン・オーリウクルス女王、そしてあの真なる竜王くらいしか行使できるものはいないようです。」
「そ、その魔法はそんなに強力なんですか?」
マーレの疑問にデミウルゴスは頭を振った。
「わかりません。ただ、以前いたプレイヤーやエヌピーシー達はそれによって殺されているということだけは確かです。そして聖典によれば、ドラウディロン・オーリウクルスの使うそれは何百万人もの命を糧に繰り出される魔法だとか。あの竜王が生贄を必要とするかはわかりませんが、アインズ様とフラミー様の
しんと部屋が静まったのを見て、アウラは再び最初に問いかけた質問を投げる。
「だからフラミー様はその魔法を竜王から奪って、アインズ様に捧げようとしたんですよね…?それってダメなことなんですか?」
アインズは静かに口を開いた。
「人…その友のために命を捨てる事にこれより大いなる愛はない。マルコの福音書だったかな。あの人は自分の力と引き換えにそれを行おうとしたんだ。しかもどれ程の力を失うか分からない中で…。もしそんな事をしてあの人が生まれたての赤ん坊のようになったらどうなる。」
守護者が絶句し、アインズは己が行動の理由に思い至ったのを確認した。
「そうだ。いつ何者に殺されるかも分からん。しかし、例え自分が死んでも力を持つ私がいればナザリックとお前達は護られると思ったんだろう。」
「そんな…。」
アウラは自分の愚かな発言を悔いた。
「申し訳ありませんでした…。少しでもそれをいい考えだなんて思ったあたしは…大馬鹿ものだ…。」
「良い、アウラ。皆わかったな。シャルティアにも伝えておけ。それを食い止めることの重要性を。」
守護者が静かに頭を下げるのを見ると、何処かと線が繋がる感覚にアインズはこめかみに手を当てた。
「私だ。――パンドラズ・アクターか。あぁ。いや、いらん。数の報告はいらんと言った。ああ言えば全てを出すと思ったに過ぎない。よくやった。」
静かに手を下ろすと、今後どうするかと目をつぶった。
「とりあえず、皆で見舞いに行くか…。腕は治っただろうが…あの人のことだ。落ち込んでいるだろう。」
シャルティアが守護者とアインズの来訪を伝えると、フラミーはフラミー当番に楽な服を持って来させた。
その黒い半袖のワンピースはかぶるだけで着られる、冷気耐性しか付かない趣味の収集品だ。
「あ、フラミーさん…。」
「アインズさん……。」
下ろした髪は蕾と共に耳にかけられ、膝丈のワンピースを着ただけのフラミーは裸足でぺたぺたと寝室を出てきた。
「腕、傷跡残ってないですよね。」
アインズはフラミーに近付き、血を流していた腕を軽く掴むと親指で撫でた。
「治される気満々だったので綺麗に治りましたよ。」
そう言うとフラミーは苦笑した。
「それは良かったです。本当にすみませんでした。痛かったですよね…。」
「全然。何ともありませんでしたとも。」
あれほど苦痛に声を上げていたフラミーはふふんと鼻を鳴らした。
「あの、フラミー様。」
アウラの心配そうな声がかかると、フラミーはいつも通りの笑顔を作った。
「なぁに?」
アウラは少し拳を握り下を見て何かを考えると、許可なく立ち上がりフラミーに抱きついた。
「フラミー様、あたし、あたし嫌です!フラミー様が危険な状態になるようなこと!絶対嫌です!!」
その声は、どんどん大きくなって、フラミーの胸の中で泣き出した。
「フラミー様。我々デハゴ不安モアルデショウガ、キット御身モアインズ様モオ守リシマス。」
「そ、そうです!だから、だから…」
泣きそうなマーレとコキュートスを手で招き寄せ、マーレがフラミーの元にたどり着くとフラミーは床に座った。
上から見下ろすことは不敬だと思いアウラとマーレも床に座ると、フラミーにピタリとくっついた。
「ごめんね…。でも、皆には本当は分かって欲しいの。アインズさんと皆を守るためなんだから。」
跪いた大きなコキュートスの頭に手を伸ばし優しく触れると、その体はヒヤリとしていて、先程までのアインズとの苛烈なやり取りを行なった頭を芯から冷やす様だった。
知恵者二人はシャルティアに先程の会話を伝えながら、その様子を見守った。
シャルティアの目が驚愕に染まると、絶対に自分が止めて見せると胸に手をあてたのだった。
気付けば皆で円になって床に座っていた。
アルベド、アインズ、アウラ、フラミー、マーレ、デミウルゴス、コキュートス、シャルティア……アルベド。
その円は、かつて円卓の間で開かれていたギルド集会のようで、アインズは少し懐かしい気持ちになった。
アウラとマーレはフラミーに寄り添って、フラミーの膝に頭を預けていた。
「フラミーさん。まだ諦めてないんですか…?」
双子の髪をサラサラと撫でるフラミーは幸せそうだった。
「そう、ですね。何にも脅かされない強いアインズさんがいてくれたら、やっぱりそれが一番で…。もし私が死んでも――。」
「おやめください!!」
デミウルゴスは叫んでいた。
「アインズ様もフラミー様も我々がお守りいたします!あんなトカゲ一匹、このナザリックの脅威でも何でもありません!」
「そうでありんす。フラミー様は安心して世界征服だけお考えいただければ良いでありんす。」
縋る瞳にフラミーは耐えられなくなり天井を見上げた。不安そうな顔をする
「皆に守られる私じゃなくて、アインズさんみたいに皆が安心して背中を預けられるような私だったら良かったのに。もっとユグドラシルやってれば良かったかな?」
「はは、そうですよ。ちゃんと一生懸命インしないから。」
支配者達はいつもの不思議な言い回しで前世界の事を話して笑った。
穏やかな雰囲気に守護者は安心すると、アルベドはアインズ当番とフラミー当番を呼んだ。
「フラミー様とアインズ様にお飲み物をお出ししてちょうだい。」
それを聞いた二人は頭を下げ、ハチミツがたっぷり入ったホットミルクを八杯持ってきて、それぞれに渡した。
アインズも飲めないがその甘い香りと温もりを感じた。
「アウラ、マーレ。ソロソロ起キ上ガッタラドウダ。フラミー様ノオ邪魔ダ。」
コキュートスの声に二人は嫌々起き上がり、ミルクの入ったマグを手に取った。
「あったかい。皆でこんな風にゆっくりするの初めてかもしれないですね。」
フラミーの声に皆頷いた。
「フラミーさんが望むなら、国も世界も放っておいて、いつまでもこうして皆で過ごしても良いんですよ。」
「ふふ、ダメですよ。ちゃんと、世界中どこにいても私たちの存在がわかるくらいにその名を轟かせなくっちゃ。それに、この綺麗な空を守らないと。」
膝を抱えてミルクから熱を奪おうとふーふーとそれを吹くアウラの頭上を通り越して、アインズが髪をさらりと撫でるとフラミーはくすぐったそうに笑った。
「ふふ、私子供じゃないですよ?」
「…知ってます。でも俺の方が少しお兄さんです。」
支配者たちは笑い合った。
心地いい沈黙が訪れるとフラミーはデミウルゴスへ顔を向けた。
「ねぇデミウルゴスさん。」
「はい、フラミー様。」
少しフラミーはなにかを考える姿は苦笑まじりだった。
「ナザリックの為に子供作りましょっか。」
「はい………は?」
デミウルゴスは言われた意味が分からずにマーレの向こうのその人の顔と、自分の渡した耳にかかる蕾を交互に見た。
「は?フラミーさん?」
アインズと守護者達の視線を感じる。
フラミーは正座を崩してぺたりと床に座り直すと、マグを手の中で弄んだ。
「今、何も役に立てないなら、やっぱり前に二人が言ってたように繁殖が一番ナザリックの為なのかなって思って。」
「ちょっと、忘れて下さいって言ったじゃないですか。」
デミウルゴスは否定する支配者を尻目に黙ってマグをおくと、ジャケットを脱いで腕にかけ――フラミーの前に移動し胡座をかいた。
その様子をアインズが瞳で追っていると、悪魔は己の両膝に手をつき、深々と頭を下げた。
「フラミー様、是非よろしくお願いいたします。」
「おい!お前――」
「と、言いたいところですが、そういうお気持ちでのお誘いはお断り致します。あなたがこのデミウルゴスと子供を持ちたいと心からお望みになるまでその言葉はどうぞお仕舞い下さい。」
そう言うと悪魔は抱えていたジャケットをフラミーの露わになっている膝の上にかけた。
アインズは愛のないそれを受け入れる事は許さないと思ったが、いざ頭を下げるそれを目にすると、デミウルゴスを心底損な男だと思った。
「デミウルゴスさんの望んだ実験なのに…。」
「違います。最初からそんな実験は望んでおりません。お断り申し上げます。」
フラミーの揺れる視線から目を離さずに、キッパリそう告げるとデミウルゴスは右手薬指から指輪を引き抜き、左手の薬指に入れ直した。
話は以上とばかりに頭を下げると悪魔はマーレとコキュートスの間に戻って行った。
「イイノカ。」
「煩いですね。良いも悪いもありませんよ。」
コキュートスの問いにぶっきらぼうに応えると、片膝を立てて再びマグを手に取りそこに視線を落とした。
「…フラミーさん、仕返しですか?」
「仕返し……。ふふ、そうですね。全裸の人間見せてきた仕返しです。」
デミウルゴスは頭を下げた時に落ちてきた前髪を鬱陶しそうに後ろに送った。
支配者たちは守護者たちとそのまま床で円になって眠った。
いや、アインズは眠れないので暗い天井と
(フラミーさんは俺の指輪はまだ使いどころじゃないって言ってたけど、指輪でその願いを求めるのが一番平和な気がする…。)
ちらりとフラミーの方を見ると、こちらに背を向けて眠っていた。
アウラがアインズのローブの
アルベドがすがろうとしたのを狸寝入りのシャルティアが止めたのは言うまでもない。
「フラミー様。」
自分を呼ぶ声にフラミーは金色の瞳をのぞかせると、デミウルゴスが自身の曲げた腕を枕にして美しい宝石の目でこちらを見ていた。
その胸あたりでマーレがすやすやと眠っている。
「デミウルゴスさん…。」
デミウルゴスはフラミーの顔にそっと手を伸ばし、指の背で頬を軽く撫でるとその耳から蕾を引き抜いた。
そして蕾の先をフラミーに向け――小さな光が蕾から生まれてサラサラと降り注いだ。
「元気のおまじないでございます。」
「ふふ、アインズさんもそう言ってました。」
男の子揃って同じ事を言う姿を可愛らしく感じ、フラミーは笑った。
「そうでございましたか。ふふ。さ、どうぞ。」
フラミーの顔の前で半端に開かれている手の中に蕾を置くと、悪魔は再び目を閉じた。
フラミーはいつでも優しいその悪魔は本当に悪魔なんだろうかと疑った。
「あったかい…。」
そう呟くと、蕾を大切そうに両手で抱いてフラミーも目を閉じ優しい眠りに落ちた。
そして、こそこそと話し声が――。
(はぁ?デミウルゴス何のつもりよ。)
(全くでありんす。自分ばっかりお情けをかけて頂いておいて断る。しかも断ったくせにあの態度。信じられんせん。)
(あの男ははっきり言って私たちの敵よ。私がフラミー様にお情けを頂こうとした時も邪魔してきたのよ。いい加減にして貰いたいところね。)
(全く本当不届きな男でありんす。フラミー様が妾をお誘いになったら今すぐでも寝室へ行きんすのに。)
(私もそうするわ。今度女子三人という事でお誘いしましょう。)
(良い提案でありんすね。当然あの男には秘密で。)
フラミーの秘密を共有した
次回 #64 世界の選択
00:00更新です!
デミちゃん弄ばれてる(にっこり
今までコメントで誰もアインズ様応援してなかったのに!!
ダブルスコア決めてるアインズ様の底力よ……!!
明日6/3 12時でアンケートは締め切ります!
フラミーさんの運命やいかに…!!
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アインズ様とプレイヤー同士愛し合え!!
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デミデミの恋を成就してくれ!!
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二人の間をのらりくらりで決着つけるな!
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ハーレムこそ正義!二人をくっつけ!