眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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皆の大好きなレメディオスさんの脱走物語だよ!!


#68 閑話 祝福の日

 神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王が目覚めたその頃。

 

 バハルス帝国アーウィンタール――。

「……ほらな。やはりだ。私はそうだと思っていたとも」

 城に配備されるようになった死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が神王の目覚めを伝えて立ち去った部屋で、ジルクニフは愛妾のロクシーと、友人である土堀獣人(クアゴア)の王――だった――リユロに向かって吐き捨てた。

「しかし陛下。最初のあの書記官D氏の様子は普通ではなかったと思いますが」

「その通りだ。皆意気消沈していたようだったぞ?」

 ジルクニフはふ……と笑った。

「何せ相手は稀代の謀略家……。この眠りにも絶対何か理由があったはずだ。見てろ。きっと近いうちにどこかの国に神々は向かうはずだ」

 そんなまさかと話を聞く二人は思うが、否定しきれない。

「……また何処かで同胞が生まれるのか……」

 リユロは遠い目をした。

 それを見ていたロクシーが横から口を挟む。

「それにしても、近々支配者のお茶会なるものがあると言っていましたね?陛下」

 ジルクニフはソファにぱたりと倒れた。

 そこにはロクシーの太ももがあった。

「そうだ……近々とはいつなんだろうな……。とても共通の話題があるとは思えない……」

「そ、そんなものがあるのか……俺は呼ばれていない。ジルクニフ、頑張ってくれ……」

「な、リユロ!お前は呼ばれていないのか……!?」

 ジルクニフは起き上がると「うおおおお」と頭を掻き毟り出し、ロクシーは苦笑した。

「陛下、お気を確かに。折角のハンサムがそれでは台無しです」

「く…………。ロクシー。私はもう帝国皇帝と言ってもただのお飾り皇帝に成り下がった。そろそろ子でも作るか?」

「ご冗談を」

「はぁ……。全くお前の美しい姫の条件に合う女はどれもこれも最悪だ。あの若作りババアに黄金の姫、いや、黄金の知事か。どちらも全く頂けない」

 ロクシーは顎に手を当て少し考えると、恐ろしい事を口にした。

「……では、神王陛下にお願いして光神陛下と婚姻を結ばせて頂くのはいかがでしょう。女神は大変な美しさだとか――」

「「バカ!!!」」

 男二人の絶叫が響く。

「ロクシー!お前は身分を弁えろ!!」

「そうだ!!それにあの方達は並々ならぬ関係だ!!」

「……陛下方が並々ならぬ関係というのは噂されておりましたが、聖王国で何故あれ程までに常にご一緒なのかが解ったそうですがその話は?」

 ロクシーの方を見る二人は何も知らないというような目をしていた。

「なんでも、闇の神は単体で存在できるそうですが光の神は闇の神が存在しなければ消滅するとか」

「………………何故逆じゃないんだ……」

「世の中間違ってる!!」

 リユロは興奮のあまり立ち上がってウロウロし始めた。

「……まぁ、なので別に愛し合っているわけでは無いなら陛下が関係強化の為に女神を迎えては――」

「無理だ!!どんなに美しく善良であっても!!絶対無理だ!!」

「では早く美しい神ではなく姫を娶ってくださいませ」

 ふと立ち止まったリユロは思い出したくない記憶を呼び覚ますと、小さな声で告げた。

「……女神はああ見えて罪を犯した者には非情だ……。俺の氏族の多くが殺されていくのをニコニコ見守っていたのだからな……これで罪は赦されると言わんばかりに……」

 ジルクニフは背筋をぞっと何かが這い上がるような感覚を覚えた。

 

 

+

 

 リ・エスティーゼ王国王都――。

「そうか、よかった。かの御仁に何かあればと心配していたところです。くれぐれもご自愛をとお伝えください。ボウロロープ侯」

 サラサラとした灰色の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)に当たり前のように頭を下げた男はガゼフ・ストロノーフ、戦士長だ。

「我々もこれでようやく一息つけるというものです。本当にアインズ様がお目覚めになってよかった。フラミー様のご心労もこれで和らぐでしょう」

「全くです。王よ、何かゴウン陛下に見舞いの品をお贈りしてはいかがでしょうか」

「そうだな、戦士長。リットン侯をお呼びして手配してもらおう」

「では私が帰りしなリットン侯にお声をお掛けしましょう。それでは失礼します」

 王とガゼフは礼儀正しいその背を見送った。

 それが歩いた後はほんの少し灰が落ちていた。

 

 王国は死者の大魔法使い(エルダーリッチ)達が王城に入った日、かなりの混乱が起こった。

 それもそのはずだ。

 

 どの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)もどことなく見覚えのある面々ばかりだったのだから。

 それはかつて王国でのさばっていた貴族達だった。

 王城で働くメイド達などは有力な貴族の娘である場合が多く、当然のように顔見知りであり、その余りの出来事に皆が腰を抜かした。

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)達は皆かつての名前でそのまま呼ばれているが、中身は全くの別人だった。

 皆それぞれの領地をそのまま持ち、神王の要請通り非常にクリーンな統治を行なっている。

 

 村人達からの評判はかなり良く、たまに自分の領地に帰ると皆が祝福されたおぞましい領主を喜んで迎え入れた。

 戦争の日、そのまま吹き晒されて地に帰るだけかと思われた貴族達の灰は慈悲深き王の配下の者達の手によって一度は地獄の門に吸い込まれた。

 しかし貴族は悪政によって人々を苦しめた罪を灑ぐチャンスをもらい、こうして現世に戻ったのだ。

 ガゼフはもう一人の自分の王への好感度をまた上げた。

 

 幼い日に誰も助けてはくれないと思った時のことを思い出す。

(ゴウン殿……貴方が目覚めなければ世界はまた弱者の泣く厳しく悲しい場所になっただろう。本当に良かった。)

 戦士長は窓の外を清々しい笑顔で見つめた。

 

 

+

 

 ザイトルクワエ州エ・ランテル市――。

 セバスは州知事の下に訪れていた。

 

「セバス様!それはおめでとうございます!!」

 

 相変わらずキャンキャンと可愛らしい子犬が、真っ直ぐな瞳でセバスをとらえていた。

「はい。必ずアインズ様はお目覚めになると思っておりましたが、それでもやはり安堵せずにはいられません」

 セバスは見たこともないような優しい笑顔をしていた。

「本当に良かったです!そうだわ、クライム。今朝摘んだお花を一足先にセバス様に届けて頂きましょう!」

 ラナーは美しい笑顔で笑い、自分の胸の前で手を合わせた。

「それは素晴らしい案ですね!セバス様、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 セバスは善良な二人に優しい笑顔を見せた。

「もちろんでございます。アインズ様もフラミー様もきっとお喜びになるでしょう」

 クライムが花瓶の下へ歩き出すと、ちょうど部屋の扉がノックされた。

 

 腰を浮かしかけたラナーを手で押しとどめ、クライムは外に取り次ぐ。

「ブレインさんとペテルさんです」

「まぁ素敵!入れて差し上げて」

 ブレインは最近冒険者育成場で熱心に育てている漆黒の剣のペテル・モークと共に現れた。

「ようクライム君、姫さん。あ!それにセバス様!」

「え、守護神様もいらっしゃるんですか……?流石に私は場違いなんじゃ……」

 ペテルは帰ろうかな?と視線で自分の師範に訴えると、ブレインは肩を組んで部屋の中に引きずり込んだ。

「セバス様?このお二人にも神王陛下の嬉しいお知らせを教えてもいいでしょうか?」

「もちろんですよ。さぁ、モーク君も遠慮なくどうぞ」

 

 恐縮するペテルは一人がけソファに座ったブレインの横に立った。

「あのね、ブレインさん、ペテルさん。神王陛下がつい先程お目覚めになったんですって!セバス様は神殿にご報告に行かれてそのままここにお寄りくださったの!このタイミングで来られるなんて、二人はすごい幸運ですよっ」

 嬉しそうに語るラナーの下に花瓶から出した花を清潔な紙に包んだクライムが戻ってくる。

「さぁラナー様。こちらをどうぞ」

「まぁありがとうクライム。リボンでここを結べば可愛いかしら?」

 人差し指でここ、と茎の真ん中あたりを指差して小首を傾げるその愛らしさにクライムはドキリとする。

「は、はい!素晴らしいかと思います!!」

「良かった!じゃあリボンを取りに行かなくっちゃ」

 ラナーはぴょこんと立ち上がるとタタタと小走りで飾り棚の引き出しを開けに行った。

 

「はぁ、全くお前らは本当にな。それで、クライム君。そろそろヤったか?」

 ブレインの歯に衣着せぬ発言にクライムはドキりとする。

「ちょ!ちょっとブレインさん!!なんてことを言うんですか!ラナー様に聞こえてしまいます!!」

 あわあわと手をバタバタ振るクライムはかつてと違い、鎧ではなく平服だ。

「ちっ、その様子じゃまだか。ペテルも早くニニャちゃんに告白しろよ」

「ちょっと!守護神様の前でなんてこと言うんですか!」

 あぁあと身の回りの色恋沙汰を少し羨ましく思いながら、ブレインは背もたれに思い切り寄りかかった。

 

 セバスはその様子に苦笑し、自分の身のことを思い出す。

「ブレイン君。私の友人にも早く手を繋げや子供を作れと言う者がいますが、皆それぞれのペースで良いんですよ」

「は、これはセバス様。失礼しました。自分は、その……なんと言いますか……身の回りの皆の幸せが嬉しくてつい。きっとセバス様のご友人もそういうお気持ちなんだと思いますよ」

 ブレインはへへへと照れ臭そうに鼻の下をかいた。

「ブレインさん……」

 

「……そうですね。ブレイン君。そうだと良いのですが……。いや、しかしあれはそういう男ではありませんね」

 セバスは腕を組み顎のヒゲを軽く触って天井を眺め、続けた。「――しかし、私もデミウルゴス様に言ってみましょうか。アインズ様に怒られてでも自分からフラミー様を抱きしめるくらいしてみせろ、と」

 エッと男子三人がセバスに注目する。

「セバス様、光神陛下は神王陛下とそういうご関係なんですか?」

「デミウルゴス様って言や、あの時王都に現れた守護神様ですよね?」

「守護神様達も陛下方に恋したりするのですか?」

 それぞれが一気に話したいことを話したせいで、一つもセバスは上手く聞き取れなかった。

「ははははは。まぁ、私も彼をおちょくりたいだけですよ。彼がそうするように」

 きっと守護神達は皆仲が良いんだろうなと三人は微笑ましく思った。

 

 

+

 

 ローブル聖王国尖塔――。

 レメディオスは牢屋の隅で膝を抱えて丸くなっていた。

 そこには聖王女が日課の語り掛けにやって来ていた。

「レメディオス。神王陛下が目を覚まされたそうよ」

 罪を犯した女はピクリとその名に反応する。

「ああ……知ってるさ…………。ここの悪魔に教えられたからな…………」

 聖王女は少し遅れてやってきたケラルトと目を合わせた。

「それは、いつ教えてもらったの?」

「昨日さ。悪魔共は大喜びだ……へ……へへへへ」

 その姿はいつも通り嘘をついているようにも、本当に知っていたようにも見える。

 ケラルトはじっと姉を見つめ、慎重に話しかけた。

「姉さん……本当にここに悪魔が出て、そう教えたの……?」

「だーかーらーぁ………………そうだって言ってんだろうが!!!」

 ここ二週間、落ち窪んだ瞳は光を灯すこともなかったが、その目は獣のように爛々と危険な色に輝いていた。

「お、落ち着いてレメディオス!それが本当なら、私達は……私達は立ち向かわないといけないわ!!」

 レメディオスは自分に向けられた瞳がこれまでと違う(・・・・・・・)ものになっている事に気がついた。

「あ……あぁ!あぁ!!そうなんだよ!!立ち向かうんだ!!私達はまた三人で一丸となって……!!」

 今こそその時だと立ち上がり牢の格子に近付く。

 格子に掴まり、二人を交互に見る瞳はようやく悪夢から覚めたと希望に満ち始めていた。

「兎に角、あなたを出すわ!」

 聖王女はそう言うと、錠前をガチリと外した。

 レメディオスは久しぶりの外に胸を躍らせて転がるように出ると、聖王女とケラルトを抱きしめた。

「ああ…………やっと、やっと分かってくれたんだな…………お前たち…………私は……私は…………」

 ポロポロと温かい涙が溢れてくる。

 優しく背中を摩る二人の手の感触にレメディオスは浸った。

 そしてふと、何も言わない二人にレメディオスは奇妙な感覚を覚える。

「二人とも……どうしたんだ……?」

 レメディオスが二人の肩から顔を離すと――そこには黄色いつるりとした卵型の頭をした見たこともない化け物が二人、レメディオスを抱いていた。

「な!な!?うわぁぁあぁああぁぁあ!!」

 レメディオスは異形を突き飛ばし駆け出した。

 後ろからはよく知る愛する二人の笑い声がゲタゲタと響いた。

 

 牢を出て階段を駆け下りていくと、牢番が槍を持って立っていた。

「お、おおおお!おまえぇ!!そ、その槍を貸せ!!!団長命令だ!!!」

「な!?レメディオス・カストディオ!!どうやって外に……!!」

 レメディオスは早くあの化け物を殺さなければいけないと牢番を突き飛ばし槍を奪い取った。

 そして再び階段を駆け上がっていく。

 頭の中で今なら自由になれると警笛が鳴るが、あれを放ってはいけない。

 レメディオスは正義の人だった。

 階段の下からはゴーンゴーンとその脱走を告げる音がけたたましく鳴り響いている。

 にわかに騒がしくなり始める塔内でレメディオスは孤独だった。

 しかし、あんな化け物がいつの間に――レメディオスは閃いた。

 

(まさかあれが王兄殿を騙っていた……?)

 

 だとすれば、王兄は最初からもう――その閃きはレメディオスの脳内をバチバチと駆け巡り、激しい憤怒に視界が赤く染まる。

「殺す!!絶対に殺してやる!!アインズ・ウール・ゴウン!!うぅうぉぉおおぁぁああぁ!!」

 駆け上がり切ると、そこには何もおらず、破壊された錠前が落ちていた。

「どこだ!!どこに行った!!!」

 レメディオスが探し回っていると、不意に後ろから声がかかった。

「レメディオス!!」「姉さん!!!」

 そいつらはいた。

 グスターボや聖騎士、衛士を連れて上がってきた。

「ふふふふ、貴様ら私はもう騙されんぞ!!殺してくれる!!」

 

 最初からずっとおかしかったんだ。

 

 あの神聖魔導国から戻ってきたときから、皆あのアンデッドを崇拝し、神だと言っていた。

 

 そもそも自分が聖王国を離れたのが間違いだった。

 

 きっとそのタイミングで皆殺され、あの黄色い化け物に入れ替わってしまったんだろう。

 

 しかし、神王の邪悪な計略もここまでだ。

 

 ――ああ、カルカ。ケラルト。早く本当のお前たちに会いたい。

 

「死ねえええぇぇぇえええ!!」

 

 レメディオスは二人に向かって奪い取った槍を振りかぶった。

 しかし、槍は偽物の二人に届くことなく金属のぶつかり合う激しい音が響き、止められた。

 そこには見たこともない男が立っていた。

「おやおや、危ないですよ。聖王女殿にケラルト殿」

 その男は赤い南方の衣装に身を包み、耳はツンと尖り尾が生えていた。

 亜人だ。

「デ、デミウルゴス様…………申し訳ありません……」

「いえいえ。昨日はアインズ様がお目覚めになった素晴らしい日です。貴女たちが傷付けられてはアインズ様も嘆かれますからね」

 デミウルゴスと呼ばれた男は優しげにカルカの形をした者に微笑むと、レメディオスにコツリコツリと靴音を鳴らしながら近付いてくる。

「な、なんだ!!貴様は何者だ!!そこを退け!!私はそいつらを何としても殺さねばならない!!」

 

 ヒッとケラルトを真似た異形が声を上げる。

「く……どこまでも似せおって忌々しい……!」

「私はデミウルゴスと申します。この聖王国を神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下より守護を仰せつかっている者です。さぁ、あなたは牢に戻りなさい。これ以上罪を犯してはフラミー様のお顔にも泥を塗ることになります」

 レメディオスはこいつも共犯かと更に視線を強める。

「貴様もか……!!貴様も殺してくれる!!」

 デミウルゴスは繰り出された槍を避け、レメディオスの両腕を掴んで牢にバンとその身を打ち立てた。

 そして、レメディオスの耳元で甘い甘い言葉を囁く。

 

「王兄なんて最初から死んでたんですよ。よく気付きましたね。ご褒美をあげましょうか」

 

 レメディオスは目の前が真っ白になった。

 バチバチと白い電流が弾けたような気がする。

「うわぁぁああ!!殺す!殺す!!殺してやる!!」

 暴れるレメディオスを、デミウルゴスは押さえつけながら後ろに叫んだ。

「み、皆さんカストディオ殿は興奮状態です!!早く何か拘束具を!!ここは私が押さえておきますから早く!!」

 

 聖王女とケラルトは目にいっぱいの涙を溜めて頷くと、グスターボと共に聖騎士達に拘束具を取りに行くよう指示を飛ばし始めた。

 

「ふふふ。貴女は至高の二柱に無礼を働いた罪を償うんですよ。もし貴女が自死するような事があればこの国の残る人間は皆殺しです。いいですね」

 

 デミウルゴスの優しい忠告にレメディオスは咆哮した。

 聖騎士達の駆け回る影が松明に揺れて塔の壁を怪しく踊っていた。




ふーこれでちゃんとレメディオスを外に出してあげられました〜〜(すっとぼけ

次回 #69 閑話 私の名前
70まで閑話したら竜王国行きます!
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