ビーストマンの駆逐が終わった竜王国は最早いつぶりかも分からない平和に浮かれていた。
多くの者が死んだが、それでも今目の前で生きている者たちと互いの生を喜び合った。
城へ続く大通りには神聖魔導国から届いた大量の美味な食事が並び、それは飢えた人々をその身ならず心も救うようだった。
シャルティアは多くの者に囲まれ、お酌されたり礼を言われたり、人間のために何かをする事もたまには悪くないと女性にセクハラしながら宴を楽しんでいた。
セクハラされる方もその美しい戦姫に愛でられ満更でもないようだった。
アインズは城門前の階段上――と言ってもたった四段だが――の少し広くなっているところでデミウルゴス謹製の玉座に座っていた。
飲食不要な鎧と、後で食べると言うデミウルゴスもその側に立っていた。
「アインズ様、これで竜王国にも大きな楔を打ち込みましたね」
隣で嬉しそうにする悪魔にアインズは何の話だろうと思う。
「……ふむ。デミウルゴスには既に看破されていたか」
はい、と薄い笑いを浮かべるデミウルゴスにアインズは心の中で尋ねる。
(何がおかしいんですか!)
「やれやれ、アインズは本当に世界征服のために余念がないね」
横から口出ししてきたツアーにアインズは嬉々として話をふる。
「お前にもわかるか!ふふふ。そろそろツアーにもテストが必要かな?私の狙いを全て挙げてみせるんだ」
「いや、僕が読み切れていないところもありそうで怖いよ。むしろ全てを教えてくれないかい」
想像より殊勝な雰囲気の竜にこれはまずいコースに入ったのではと思う。
「アインズ様、この竜に真の狙いを教える必要はないかと」
デミウルゴスからのナイスサーブにアインズはホッとしていると、食事を取っていたフラミーがドラウディロンと手を繋いでこちらへ向かってきていた。
「……あの二人はいつの間にあんなに仲良くなったんだ?」
アインズが首をかしげると、デミウルゴスが苦笑する。
「女性とは誠に強かですからね」
フラミーがアインズにいつものように手を振ると、それを見たドラウディロンも手を振りだした。
「ふぅ。フラミーさんの友達とあればよくしてやらねばな」
アインズは二人に手を振り返した。
「アインズさん、ドラウディロンさんったら本当可愛い人なんですよ!私びっくりしちゃいました!」
「いやいや、フラミー殿こそ実に素晴らしい女性だ!」
突然自分たちを褒め始めると、ねーと楽しげに目を合わせていた。
「フラミーさん、もしかして飲んでるんですか?」
「は!バレました?なんてね」
でへへと嬉しそうにするフラミーはどう見ても耐性を切っていた。
「リアルで酒弱いって言ってたんだから、程々にして下さいよ?泥酔女神なんて恥ずかしいですから」
フラミーはムッとするとドラウディロンの手を引いたままアインズに近付いていく。
「鈴木さんが飲めないのが悪いんですよ!一気しなさい!」
「ははは、村瀬さんアルハラで訴えますよー」
「わーもしかしてこの至高のフラミー様の酒が飲めんと言うんですか?」
「こぼれちゃいますから、ほら。ちゃんとして下さい」
アインズはそう言いながら楽しそうなフラミーの手と腰を引いて片方の膝に、内側へ向けて横乗りにさせた。
膝の上でぶーぶー言う女神の翼を撫でながらアインズも愉快な気分になっていた。
(場酔いってやつだなこれは。)
この世界なら酒の席も意外と楽しいかもしれないとアインズはナザリック大酒宴会を考えていた。もちろん自分は飲めないのだが。
「アインズさん、私子供じゃないですよ!」
「ふふ、でも俺の方がお兄さんなんでしょ?」
肘掛に頬杖をついてその羽を整えてやるように撫でていると、ドラウディロンはフラミーをツンツンつついた。
「フラミー殿。フラミー殿。代わって……いや、えーと、ほら、デミウルゴス殿が何か言いたげだぞ」
「あ、そっか!デミウルゴスさんは飲めるんだ!」
フラミーは翼を整えられる感覚に気持ちよさそうにしていたが、アインズの膝からパッと立ち上がるとタタタ……とデミウルゴスの下に駆け寄り、その手に酒を渡した。
「デミウルゴスさん!耐性なんて切って一晩飲み明かしましょうよ!」
「フラミーさーん、アルハラですよー」
アインズは声をかけながら苦笑した。手の中には未だフラミーの翼の感覚が残っていた。
「フ、フラミー様、お戯れを」
「デミウルゴスさんは私を甘やかしてくれるでしょ?一晩だけですから!」
怪しい言葉を吐きながらフラミーはすぐにデミウルゴスの瞳を覗こうとした。
「あ、ああー………………甘やかします……」
「ふふっ、本当に綺麗な瞳!ウルベルトさんってやっぱりセンスあります!はぁー懐かしいなぁ」
「あ、ありがとうございます……」
「……フラミーさん、俺だって充分甘やかしてるじゃないですかー……」
アインズが何言ってんだとデミウルゴスを見ると、悪魔は可哀想なほどに冷や汗をかきはじめた。
「なぁアインズ殿は肉体は出せないのか?出せれば物も食べられるだろう?」
ドラウディロンがアインズの肘掛に腰掛けると、目の高さに現れた柔らかそうな双丘にアインズは目のやり場に困った。
「あー…………難しいだろうなぁ。どう思う?ツアー」
アインズはそう言いながら、何故この世界の人々はただの骨の自分にこうも肉体が出せると思うんだろうかと逆に不思議に思っていた。
「ん?わからないね。僕は元から肉体があるから。試した事もない」
「はぁ、貴君が始原の魔法を使えていたらできるのになぁ」
「「「は!!??」」」
二人の声が同時に響く。
「ど、どらうでぃろんさん!それはどんな魔法で……!?」
アインズよりも先に悪魔を弄ぶ悪魔が女王に食いついた。
あまりの鬼気迫る様子にドラウディロンは新しい友人に少し引く。
「あ?いや、特に名前はない魔法なんだが……私は子供の身と大人の身を行き来していたし、私の曾祖父も竜と人の身を行き来してきたから……できるかな……と……」
「……ドラウディロン、詳しく聞かせてくれるか」
アインズはドラウディロンを見上げた。
「あ!ああ!もちろん!もちろんだとも!」
それを聞くと、斜め前に魔法で椅子を生み出した。
「<
「あ……ひ、膝がいい……」
「は?」
アインズは殆ど自分と年の変わらなそうなその女性の言い分に数度瞬いた。
「膝がいいんだ!!フラミー殿がいいんだから私だっていいだろ!!」
考えてみたらずっと幼女の姿で過ごしていたと聞くし仕方のない事なのかもしれない。
「はぁ、仕方ないな。座りなさい。代わりに魔法について聞かせてくれるな」
「ああ!じゃあ……ふふっ!失礼するぞ!」
ちらりとフラミーを見ると何を考えているのかよくわからない表情でじっとこちらを見ていた。
「あ、アインズ様……仕返しなど……」
デミウルゴスはフラミーとアインズを交互に見ていた。
「飲めるようになるためだ、仕方あるまい。なぁドラウディロン」
「ああ!これは不可抗力だ!」
ドラウディロンはうっとりと骨を見た。
「ふーむ、そうか」
ドラウディロンは始原の魔法を失ったことを結局誰にも話していないため、アインズの膝に横乗りになると、こそこそと耳に顔を近づけ魔法について語った。
最初ドラウディロンは竜の血を引かないであろうこの王が、何故始原の魔法を使えるような口振りで会話をするのだろうかと思っていたが、途中で気がついた。
位階魔法ですら、竜王たちがぷれいやーと呼ぶ神が持ってきたと言うくらいだから、やはり始原の魔法も神がもたらしたものなのだろうと。
「なぁ、貴君はぷれいやーなのか?」
「ん?そうだとも」
今更何ですかと言わんばかりの雰囲気に、やはりこの王は神だったと再認識する。
ならば新たに始原の魔法を与えてもらえれば全ては済むと閃いた。
「なぁ!アインズ殿、私にくれないか?新しい魔法を!」
ドラウディロンがうきうきとアインズに話しかけると、ツアーは劔をスラリと抜き、その喉元に当てた。
「なっ!?」
「ドラウディロン。それを望むなら僕は君をここで殺す」
「やめないかツアー。全く大人気ない。すまないな、ドラウディロン」
「しかしアインズ。君がこういう馬鹿らしい願いから再び世界の理を書き換えるような真似をしたら困るだろう」
「するかそんな事」
アインズは剣を掴むとそれをドラウディロンの首から離させ、ツアーは渋々という具合に劔を収めた。
アインズの腕には昨日渡した約束の腕輪が輝いていた。
「あ……ははっ。アインズ殿は王子様だなっ。邪悪な竜を討ち倒すんだ!」
「アインズにそういうつもりがなくて助かるよ」
ツアーが文句を垂れるのを無視して女王は、キャッキャと喜んでアインズの胸元に顔を埋めた。
アインズは想像以上に幼い様子の女王の頭をやれやれと眺めると、始原の魔法についてもう一度よく考え出した。
ドラウディロンの話では始原の魔法は自分の中で調合し組み合わせて使う魔法のようだった。
醤油とみりんと酒を混ぜるとめんつゆが出来るように、自分で自分の使いたいものを組み合わせて生み出しながら利用する、謂わばレシピ集めの必要な魔法だと思った。
そしてこの女王の話はまるで要領を得なかったためそれ以上の情報はなかった。
楽しげに肋骨を触るドラウディロンを無視して考え事をしていると、遠くから自分に向かって何かが飛んでくるのが見えた。
「ん?なんだ?」
ドラウディロンの頭の前で飛来物をキャッチすると、それはカメラだった。
「この年増ーー!!」
シャルティアが投げたようで、もし壊れたらパンドラズ・アクターが可哀想だとアインズは思った。
「全く嫉妬に狂うとは情けないもんだのう」
ひひひひと嬉しそうにするドラウディロンに、立つように促す。
「さ、そろそろ降りなさい」
「まだ魔法の話しかできてないじゃないか」
名残惜しそうにそう言うドラウディロンに、他に何の話があるんだとアインズは思う。
(あ、いや。ここの竜王の事は聞かなきゃいけなかったか。)
「アインズ様が退けと仰ってるんだから早く退きなんし!!」
アインズはそういえばフラミーはどうしたんだろうかと姦しい二人を一度無視して辺りを見渡すと、デミウルゴスに解毒させられたのかすっかりいつも通りの様子で二人で何か食べていた。
「はは、本当に損な男だな」
アインズは自分から決して仲間を取ろうとしない男も愛しく思った。
視線に気付いたのか女神が少し照れ臭そうに手を振る様にアインズは笑いながら手を振り返した。
忠臣が深々と頭を下げる姿に、何も気にするなと頷きながら。
ボツにした奴がアインズ様とフラミーさんメッチャいちゃついててお見せしたかったのですが、抑えました
次回はドラウディロンのひいじーちゃんに会いに行きますよ!
どんな竜なのかなぁ。
次回 #9 分からず屋
(察し