「…私のドラウディロン…お前はこれと結ばれるために始原の魔法について聞きに来たのか…?」
「そうです!!私達は将来を約束しあったんだ!!それもあってこの腕輪を渡しました!!」
キラキラとした瞳はどんな困難でも乗り越えてみせると言わんばかりだった。
何の嘘偽りもないその様子に
まるで自分の若い頃のようで辛かった。
突然魔法が失われてからは人の身になる事も出来ず、殆ど食事以外では外に出ない生活を送っていたが、(――まさかこんな事になっているとは。)
しかもツァインドルクス=ヴァイシオンの様子から言って、目の前のもう一人の竜王は力を失ってはいないようだった。
「…人の身を持てばドラウディロンとの間に子が持てるというのは解るが、そもそもそのアンデッドは始原の魔法を使えるのか?」
「ひいお祖父様、この方はぷれいやーだから使えて当然です!」
ドラウディロンは自信満々にそれを宣言した。
アインズとツアーはそんな馬鹿なと顔を見合わせた。
「ぷれいやー…。位階魔法のみしか使えないと聞いていたが…始原の魔法の使い方を知らなかっただけという事か?しかし、何故人化以外の魔法についても聞きたがる。」
すっかり威厳を失ったように見えるアンデッドに問いかけた。
このアンデッドはドラウディロンに骨抜きなようだった。
「あ…いや…なぁ?」
アンデッドの煮え切らない様子に苛々する。
「それは私がもっと強くなるためだ!!アインズ殿に私が相応しくなるために必要なんだ!!頼む、ひいお祖父様!!」
使い方を聞いてくるあたりドラウディロンの力も健在だろう。
しかし――もう本当に自分の血筋ってなんでこうなんだと己を恨む。
ツアーは少しだけ面白そうにその様子を見ていた。
「…ツァインドルクス=ヴァイシオン。そのアンデッドは信用できるんだろうな…。」
「まぁ、僕が一応身元引受け人かな。」
ツアーの言葉に、全然信用できないと思った。しかし知ってる者がいるだけましだろう。
「…ドラウディロン、若いうちというのは選択を誤るものだ。考え直し――」
「直しません!!私達は愛し合っているんだ!!来る時もアインズ殿はそう言ってくれた!!」
アインズは冷や汗が止まらなかった。
援軍は有難いが、他にもっと良い嘘は無いのかと思う。
ちらりと後ろを確認すると、デミウルゴスが今度はカメラを手にするシャルティアの耳を塞いでいた。
(よくやったぞ…デミウルゴス…。)
感じる必要もないはずの罪悪感から、フラミーの表情の確認もできずに視線を前に戻し、腕に纏わりつく柔らかな感触にドギマギしながら尋ねた。
「…それで、教えてくれるかな…。」
竜王は唸り最後にもう一度愛する曾孫を見た。
「ドラウディロン、本当にアンデッドが良いのか?何が生まれるかも私には解らない。」
「はい!ひいお祖父様!!私は強くなったら嫁ぐと約束しておりますので――もしかしたら今すぐではないかもしれませんが…それでも、アインズ殿の子を持ちたい!」
アインズは鎮静されていた。
「はぁ。もう本当に…私も早まっただろうか…。」
今も尚愛し続けている妻と、子供、孫に問いかける。
皆先に逝ってしまった。
この曾孫も後百年もすればそうなるだろう。
――しかし、玄孫は死なない身かもしれない。
それはそれで悪くないのか。
「わかった。わかったよ。謎のアンデッド、お前の名を再び聞こう。」
「…アインズ・ウール・ゴウンだ。」
「アインズ・ウール・ゴウン、力の使い方を教える。ドラウディロンも来なさい。」
竜王は背を向けて穴の奥へ進んでいく。
アインズとドラウディロンはその背を追った。
それを見送ると面白そうにしながらツアーはデミウルゴスに小声で話しかけた。
「何度考えても何故あの時アインズが断ったのか分からなかったけど、こういう事だった訳だね。」
「そうですね。アインズ様程のお方ともなれば、如何なる者であっても思い通りに動かしてしまうのでしょう…。全く恐ろしいお方ですよ。」
「…本当に。ちゃんと竜王を殺さないで済むようにアインズは考えてくれていたんだな。腕輪も着けているし。」
ツアーはアインズの評価を上げてから続けた。
「でも、少し残酷かもしれないね。ドラウディロンは力を取り戻したらナザリックに嫁いでしまう。あの警戒心の強いアインズの事だ。ナザリックに入れたくない一心で力を与えはしないだろう。全く。心配するなと散々言われたけれど、こんな形に収めるとはね。」
耳を塞がれていたシャルティアが撮った、竜王とアインズが会談する写真をフラミーはじっくりと見ていた。
余計な事を考えたくないとでも言うように。
「映画のポスターみたい!すごいよシャルティア!!」
「ふふふ、アインズ様の美しさを最大限に引き出し、尚且つ神話の始まりの如きダイナミックな一枚ができんした!」
エイガの意味は分からないが褒められていることだけはわかる。
ドラウディロンをアインズの陰に入れ、まるでいなかったかのようになっているその写真への執念は見事だった。
シャルティアは漆黒聖典に来い来いと手を振る。
二枚あるうちの一枚を隊長に渡した。
「やりんすぇ。またこれもナザリックの為に税金にしなんし!」
シャルティアは今回大活躍だったため上機嫌だ。
人間に崇拝され、自分の像が建ち、アインズに口付けする事を許され、はっきり言って――(わたしこそ守護者ナンバーワンの働き!)
「シャルちゃん偉いねー!」
フラミーに撫でくり回されながらシャルティアはふふふと上機嫌に笑った。
漆黒聖典が新しい素晴らしきオシャシンに歓喜していると、竜王と二人が戻ってきた。
「じゃあゴウン君。うちの子をくれぐれも頼むよ。」
「あ…あぁ…。」
「そんな気弱でどうする!!何が何でも幸せにしてみせると言ってみせたらどうだ!!」
すっかり婿養子のようになって戻ってきた様子に不敬警察がゆらりと動き掛けたが、アインズに多大なる貢献をした竜を今は許してやることにした。
「ツァインドルクス=ヴァイシオン。確かにこの者はその身から溢れさせる邪悪さに似合わず思ったよりも優しい男のようだ。しかしちゃんと監督してくれ。私は今事情があってここを出られない。」
「わかったよ。僕の責任でもあるからね。任せてくれ。」
頷く鎧に
「ドラウディロン。力を今より蓄えたら嫁ぐと言うなら、もう力を蓄えなくったっていいんだと覚えておきなさい。」
心配そうな曾祖父にドラウディロンは明るい笑顔を向けた。
「ひいお祖父様!私は絶対アインズ殿の認める強き女になって嫁ぎます!」
「……不安だからたまに顔を出しなさい。いいね。」
「はい!」
いつの間にか大人になっていた曾孫と、その夫になるであろうアンデッドの背中を見送る竜の目は新しい明日を期待しながらもやはり不安そうだった。
アインズは地上に出ると、あまりの世界の眩しさにげんなりする。
「…疲れた……。」
「何を言っているんだアインズ殿!これからが本番だろう!」
ドラウディロンに励まされ、確かに…と慌ててとったノートをちらりと開く。
戦勝祝いの会で聞いたものとはやはり随分違うようだった。
体を大きくしたり、小さくしたりするだけではない――、一から体を作り変える始原の魔法は複雑だ。
アインズはフールーダを呼ぶ必要があるかと脳裏によぎる。
魔法を感覚でしか使ってきていないアインズに、知識も必要とする始原の魔法の細かな操作は実に難解だった。
アイテム作成はとくに複雑極まりないもので、何年も時間をかけてようやく一つのアイテムができるという――ゲームでは有り得ない使い勝手の悪さに辟易する。
「兎に角…まずは人化の練習でもするか…。」
気付けばフラミーとシャルティアが楽しそうに湖に足を浸して遊び始めていた。
「私も絶対なんとしても!力を取り戻すぞ!一から魔法を勉強してアインズ殿の認める女になるとも!!」
ふふっと笑うとドラウディロンもフラミーとシャルティアの下へ走っていった。
まだその設定続いてたの?とアインズが思っているとツアーとデミウルゴスがウキウキと話しかけてくる。
「アインズ様、このデミウルゴス、驚きに言葉も出ませんでした!」
「一本取られたよ。アインズ。」
「…そうだろ…俺もびっくりだよ…。」
すっかり疲れた様子で支配者は呟くと、アインズは魔法で椅子を三つ出した。
その様子を見た漆黒聖典たちが荷馬車からタープを取り出し、いそいそと張り始める。
「はぁ、お前たちも座れ。私はしばらくこれをもう一度読む…。」
「アインズ、感覚を教えてあげるよ。わからない事はなんでも聞いてくれ。」
「助かるよ。本当…お前が仲間になってくれてよかった…。」
アインズの心の底からの声と、その腕にちゃんと光る腕輪にツアーは嬉しそうに頷いた。
次回 #11 閑話 水遊び
12:00更新です!
きゃっきゃうふふの水着回ですよ。水着回!!
ドラウディロンが子供持たずに死んだらおじいさん可哀想…。
五十年くらいするとアインズ様が割とうろうろ出入りするようになってて…
百年後のお葬式で――
「頼むって言ったじゃないか…。なんで…なんで…。」
「…すまんな。私も気付いていたが…。しかし、あれは良い女王だった。」
――とか話してたらもうやだ( ; ; )情緒がジェットコースター。