フラミーは湖にぼーっと浮かびながら考えていた。
「私って日焼けしたら何色になるんだろう……」
「焼くか?フラミー殿。私も少し焼こうかな、近頃は城に篭りっぱなしだったから不健康に白くなってしまったし」
ドラウディロンはスカートを太腿で結んで浅いところに足をひたしながら、服のまま浮かぶ友人を眺めていた。
「真っ黒になるまで焼いたら、また――」
「また……?」
「何でもない!焼きましょ!ドラウさん」
フラミーは
シャルティアは既に水遊びに飽きてアインズの足下で寛いでいる。
そこは謎の空間だった。
クアイエッセが嬉しそうにアインズを扇ぎ、第四席次の神聖呪歌が美しい歌を歌って、隊長はシャルティアの前に跪きながら写真のなんたるかを語られている。
漆黒聖典の隊員達はよほど暑いのか可哀想な事に皆汗だくだ。
アインズは字を読むモノクルを着けていて、ノートにペンを走らせるツアーの話を真剣に聞き、一緒に座って話を聞くデミウルゴスはジャケットだけを脱いでいる。ただ、デミウルゴスは汗ひとつかかずにいて、袖を纏っていた。
「……漆黒聖典の皆さん、楽な格好になって良いですよ、それに泳いだっていいんですからね。あ、全裸以外で」
フラミーのその声に漆黒聖典達は頭を下げ喜んで鎧を脱ぐと、手持ち無沙汰だった隊員たちは泳ぎに行った。
前述の三人は相変わらず鎧を脱いでも同じように謎の職務に就いたが。
「アインズ殿は真剣だな。フフフ」
ドラウディロンは嬉しそうだ。
周りの様子も無視して勉強に没頭するアインズをフラミーはぼうっと眺めた。
「それで――……ん?フラミーさんどうしました?」
顔を上げたアインズにフラミーはぷるぷると首を振ると、手の空いていそうな漆黒聖典の女子、占星千里を手招きした。
「アインズ、集中しろ」
「あ?ああ、すまないな」
ツアーのお叱りの声にアインズは再びノートに視線を落とした。
ノートにはツアーが様々なことを書き加えて行き、デミウルゴスも話の中で気になった事をアインズに与えられたノートに書き込んでいた。
当然そのノートは後で回収される。
「光神陛下!如何なさいましたか?」
占星千里が駆け寄って来ると、フラミーはじーっと胸を見た。
「あの、良かったら一緒に焼きません?」
フラミーは焼くときに豊満な王女の隣に一人で寝転ぶのが嫌だった。
「肌ですか?」
「はい!勿論嫌だったら、断ってもらって全然いいんですけど」
「いえ!ご一緒させていただきます!!」
元気いっぱいに応えた占星千里は日焼けするために必要だと思われる物を取りに走って行った。
「フラミー殿、本気だな?」
ニヤリとドラウディロンが笑うと、フラミーもニヤリと笑い返した。
「本気です。私は自分を変える!」
フラミーの謎の闘志にドラウディロンはキャー!と喜んだ。
「私も自分を変えるぞー!!」
占星千里がテントの下に敷く布を手に戻り、いそいそとそれを敷いていく。
フラミーは砂浜に直接寝転ばればいいと思っていたが、占星千里もドラウディロンも当然のように地面以外で焼くと思っていたようだ。
確かにここには女王もいるし、何より神様を地面に転がらせるようなことはあり得ない。
フラミーはそれならば、と――
「<
占星千里とドラウディロンを第九階層の自室に引きずり込んだ。
「おかえりなさいませ、フラミー様」
部屋に詰めていたフラミー当番が頭を下げる。
「な、なんだ……ここは……」
「すごい…………」
ドラウディロンと占星千里は惚けたように辺りを渡した。
「私の部屋ですよ。せっかくですし、お着替えしましょ!」
リアルでは日焼けは空気の綺麗なアーコロジー内で肌を出して過ごせる超特権階級のみが得られるセレブの象徴だ。
日焼けサロンも庶民では手が出せない。
フラミーは何故か燃えに燃えていた。
「こ、光神陛下のお召し物をお借りするわけには!」
「いいからいいから。せっかくなんですから楽しまなくっちゃ!」
「フラミー殿、私もいいのか……?」
「もちろんですよ!」
軽い押し問答の後、国宝を超えるような装備を二人は着せられた。
着替えを済ませた女子達は湖畔に戻ると、三人でどさりと寝転んだ。いや、どさりと行けたのはフラミーだけで、後の二人は着ているものが汚れたり傷ついたりしないように恐々寝転がった。
フラミーはそれまで着ていたチューブトップに――茶釜が生えているため短パン姿でセクシーさは皆無だが、他の二人はフラミーが昔集めたビキニアーマーで中々サマになっている。
フラミーは仰向けに寝転がってみたが、羽が邪魔だった。
ずっと横向きかうつ伏せで一年寝ていた為、久し振りのゴワゴワする感触に転移した最初の頃を少し思い出した。
懐かしいなぁと呟きながら、フラミーはさて、どうやって焼こうかと考えた。"焼く"と言う行為が一種の火傷だと言うことは分かっているため、何かしらの異常状態に該当するだろうと当たりを付けた。
そうとなれば、この身を守るあらゆる耐性が邪魔をするかもしれない。
が、考えても焼く為に切らなければいけない耐性がどれだかよく分からず――殆どの耐性を切ることをら決めた。指輪やピアスを外す事で耐性を手放し、その瞬間モワッとした暑さに包まれクラクラした。
「……わぁ……皆こんなに暑かったんだ……」
隣で一緒に転がる女王と占星千里が笑う。
「ははは。フラミー殿は暑さも寒さも感じないようにしていると言っていたもんな。良いだろう?暑さもたまには」
ドラウディロンの声に「本当ですね」とフラミーは頷いた。
「光神陛下、暑くなりすぎたらいつでも水をお掛けしますので仰って下さい」
「はーい!ありがとうございます」
女子は黙ってそのまま三十分転がり続けた。
「フラミー様、フラミー様」
まどろみの中自分を呼ぶ声にフラミーが目を開けると、シャルティアが真上から顔を覗き込んでいた。
宝玉のように赤く美しい瞳が魅力的だった。
「ん……シャルティア?どうしたの?」
シャルティアはニヤリと笑って写真を見せてきた。
「フラミー様が大地と光を感じているお写真でありんす」
差し出される写真をまじまじと見ると、貧弱な自分と豊満な女王、健康的で美しい占星千里が写っていた。
「…………そんなもん撮ってどーすんの!」
フラミーはガバッと起き上がると、慣れない本物の太陽と、初めての脱水症状に目が眩んだ。
そのままぐらりと横向きにドラウディロンの胸に突っ込むとそれの柔らかさに心の中で驚愕した。
「フラミー殿大丈夫か?おい、水を頼む」
占星千里がパッと起き上がって無限の水袋を取りに行った。
「ふ、フラミー様、失礼いたしんした。大丈夫でありんすか?」
「あ、ちょっと待って、ダメだチカチカする……」
目の前を白黒の火花が散っているのを見ていると、あたりから騒めきが聞こえた。
すると、すぐに額を冷たい物が覆い、水の入った何かが口に当てられ、フラミーは夢中で水を飲んだ。
「はぁー…………ありがとうございます……占星――」
「ん?先生?」
見上げた先にいたのは骨だった。
横から片手でフラミーの頭を抱いて、
「はれ?……あいんずさん……」
「ははは、お母さんのこと先生って呼んじゃう奴ですね」
占星千里が走って戻って来ると頭を下げていた。
「申し訳ございません!最初からちゃんとご用意していれば良かったです」
「この人はあまり外に慣れていない。手間を掛けて悪いが気を付けてやってくれ」
「畏まりました。本当に申し訳ございませんでした」
アインズは
「全部私が悪かったのに……ごめんなさい……。はー冷たい……」
「はは、よく冷やしてください。」
「はひ……デミウルゴスさんの手はあんなに熱かったのに……」
「――……デミウルゴス?」
アインズは早く戻れと言わんばかりの雰囲気でこちらを見ているツアーと、その隣の悪魔をチラリと見た。
「デミウルゴスさんの両手……熱過ぎて……ネックレス溶けちゃうって思って……とっても怖かったの……」
「どんな状況ですか一体」
アインズはフラミーをそのまま横抱きにすると湖に向かって進んだ。
「ひっ!!つっっっめたい!!!!」
フラミーはどんどん自分が水に入っていく感触に我に返った。
「あ、アインズさん!冷えました!!」
そのままアインズはズンズン進んで沈んでいく。
フラミーが顎まで水に浸かると、アインズはようやく進むのをやめてフラミーの首を少し擦るように撫でた。何の意味もない行為だ。
「あの、私、まさか百レベルでも脱水するなんて思いもしなくて……。その……怒ってます?」
フラミーは不安そうにアインズを見上げた。
「怒ってます。なんでデミウルゴスがフラミーさんの首なんかに触るんですか?」
「へ?あっ、それは私……全部私のせいだったんです……」
少し思いつめたような顔をするフラミーに、アインズは何故そんな顔をするような事を相談してくれないんだと思う。
「フラミーさん、聞かせてくれませんか……?」
「あの……そのぅ……」
言葉を選んでいるのか、話すことを躊躇っているのか。
水がチャプンチャプンと二人にぶつかる音だけが聞こえた。
「はぁ。キツイなぁ。ウルベルトさんとフラミーさんて、いつも結構仲良くしてましたよね。綺麗なもん見に行こうって……」
「仲良くというか、もっと悪魔らしいかっこしろって怒られてました」
へへと笑うフラミーのおでこにアインズは頬を付けるとしばらく何かを考えた。
「アインズさん、私もう大丈夫です。下ろしてください」
「俺のためにこうしてるんです……」
「アインズさんの為?」
アインズはデミウルゴスに"触れ合いは人の心を動かす"何て言わなければ良かったと少し後悔した。
「静かに」
「は……はひ……」
フラミーの顔を覗くと日焼けのせいか、体が冷め切らないのか、顔を真っ赤にしていた。
「まだ暑そうですね」
「だ、だいじょぶです!兎に角日が高い内に背中も焼かねば」
フラミーはジタバタするとアインズから降りた。
「――あ、フラミーさん!」
泳ぐように戻り始めた背中を呼び止めると、振り返った女神はやっぱり赤かった。
「まだ無理ですよ。全く世話がやけるな。第一何で突然日焼けなんですか」
アインズはザブザブと水を掻き分けて近付き、フラミーをもう一度持ち上げると、フラミーはすっかり小さくなっていた。
「だって……」
「だってなんですか……」
「変わったら……また……可愛いって言ってもらえるかと思って……」
自分の腕の中で両手をグーにして口の前に当て、顔を真っ赤にするフラミーを見るとアインズは胸が苦しくなった。
「……もー!あんたって人は本当に!!!」
湖の中で上げたアインズの謎の叫びに、ドラウディロンは複雑な視線を二人から離せなかった。
っく……!!あまずっぺぇ!!
じれってぇな!!
俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!
次回 0時、#12 閑話 やらしい雰囲気
いや、違う違う。
次回 #12 閑話 人の身
明日は0時に閑話なので12時にストーリーも貼ります(*゚∀゚*)
12:10 間に合いませんでした!!
https://twitter.com/dreamnemri/status/1139731870298431490?s=21