アインズはフラミーに聖典と女王、ツアーを連れて
人の身でいるとパンツも履いていない今の格好は犯罪的なので着替えを行うのだ。
メイドの出す服はやはりどれも派手だったため、アインズはなるべく派手じゃなさそうな物を指差した――はずだった。
足首まであるオフホワイトのローブに過装飾すぎるベルトが腰で止まっている。
襟元で輝くイカつ過ぎるネックレスはファラオの首飾りと呼ばれる期間限定アイテムだ。
複雑怪奇なサンダルを履かされながらアインズは一応尋ねた。
「…これは…派手じゃないか?」
骨の時は割と慣れてきていた日々の着替えだが、肉体があるとそれだけで恥ずかしかった上にキンキラな自分が辛い。
指輪も大量に着けているし、腕輪もしているのだから、ベルトやネックレスはこんなに派手じゃなくてもというのが正直な感想だった。
「そのような事はございません!あの帝国皇帝ですらもっと派手でございます!」
メイドは瞳を輝かせて、もっと派手にしたいとでも言いたげだった。
アインズは一度だけ数分顔を合わせた皇帝を思い浮かべ、確かにこのくらいならセーフか?と思った。
竜王国の城に戻ると、夕暮れ時の広間には出張してきていた神官長達と、現地の文官、そして宰相がいた。
見慣れた面々がこちらを繁々と眺めてくる様子に、やっぱり派手ですよねと一瞬セーフかと思ったその思考を破棄し、心の中で泣きながら声をかける。
「お前達。任せっきりで悪いな。」
そう言うアインズに頭を下げたのは行政に携わらせている
神官達が顔を見合わせて気まずそうにしているその様子にアインズは首を傾げた。
その身の近くに、二人の
「ああ、すまんな。よっこらせ。それで、フラミーさんはちゃんとドラウディロンと聖典を連れて戻ってきただろうな?」
アンデッド達が甲斐甲斐しく世話をし、女神をさん付け、さらに女王を呼び捨てにするその様子に神官長達は驚きに顔を見合わせた。
「まさか…神王陛下…?」
その様子にアインズはハッとした。
ナザリックでは誰にあってもすぐにバレていたため、余程骨格とこの顔がピタリと合っていて、どこからどう見てもアインズ丸出しなのだと思っていた。
いや、事実骨格と顔はピタリと合っていたが。
「……いや、違う。違います。」
アインズは職務を放棄した。
立ち上がり部屋を去ろうとしたが、神官長達が扉の前に駆け寄りそれを止めた。
「陛下、その身であればお子を成せるのでは?」
「何でもオーリウクルス女王を娶ると聞きましたが。」
「竜王国は属国でよろしいのですか?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、アインズは感情抑制をつけているというのにしっかり冷や汗をかいた。
「な!ち、違う。私はそんなものじゃない。どう見ても私は人だろう。いいか、私をそう呼ぶんじゃないぞ!」
「「「お戯れを!」」」
アインズは暑苦しいおじさん達から目を話すとこめかみに手を当てた。
「パンドラズ・アクター!お前の望んだ出番だ、<
アインズは闇に駆け込んでいってしまった。
神官長達は神とはかくも偉大なものだと、今日も平然と奇跡を起こすその身に取り敢えず祈りを捧げた。
しばらくすると、落ち着いた様子で神王は戻ってきた。
「陛下…。それで、オーリウクルス女王より直々に嫁入りすると聞いたのですが…。」
「それは今すぐの話ではない。あれがいつか魔導国に相応しくなったと私が思えたら、だ。全く仕方のない娘だな。」
やれやれと首を振ると、妙に美しい動きでソファに腰掛けた。
「さて、それでは私が戻ったらすると言っていた属国化記念式典について話し合おうじゃないか。」
フラミーはツアーを家に帰して、与えられた部屋で一人うだうだしながら自分のノートに目を通していた。
ドラウディロンとシャルティアは記念式典で述べる話を覚えると言って珍しく働いていた。
何処かと線の繋がる感覚にフラミーは受話器形にした手の親指をこめかみに当てる。
「はい、私です。はーいお世話になってまーす。お部屋ですよー。どうぞどうぞ。はい。はーい。失礼しまーす。」
すると闇が開き、そこから骸骨がゆっくりと出てきた。
「お疲れ様でーす、あれ?人間やめたんですか?」
「お疲れ様です…なんかその言い方怖いですね。はは。」
妙に疲れた様子で笑うアインズに、フラミーもクスリと笑った。
「その格好の方がアインズさんらしいですよ。」
「…フラミーさんは自分が人見知りするからそう言うんでしょ。」
「バレました?」
「全くもう。ふぅ、少し練習しようかな。」
アインズはフラミーの前のソファに座ると身を沈めて力の取捨選択をする。
すると少し光り、人になった。
一応鏡を出してまるで見慣れない自分の顔を眺めた。
「この顔本当に大丈夫なんですかね…。」
フラミーは居心地悪そうに笑ってノートに視線を落とすと言った。
「造形はバッチリ大丈夫ですよ。」
見た目が違うだけで別人に感じるのは人の性だろう。
アインズはノートを読むフラミーを暫く眺めてから、立ち上がりフラミーの隣に座った。
嫌だと言わんばかりにフラミーはアインズのいない方にノートで顔を隠したままパタリと倒れた。
「ははは。まぁ、ゆっくりならしていくか。」
アインズは笑うと自分もノートを取り出して読み始め――いつの間にか眠りに落ちた。
遠くで巨竜が身をよじらせているのが見えた――――。
「アインズさん!!アインズさん!!」
目を開けると、フラミーが泣きそうな顔で自分を揺すりながら呼んでいた。
外はもうすっかり夜になっていた。
「あれ?あ、そうか。人だから寝るのか…。」
薄暗くなった部屋でだらしなくなり始めていた姿勢を戻すと、へへへと笑った。
「お…起きた……。」
「すみません。まさか自分でも寝るとは思いもしなくて。ははは。」
フラミーは首を振ると溜まりかけていた涙をギュッと拭いて笑った。
「良かった。」
苦しい。
精神抑制も付けているのにこんなに苦しいなんておかしい。
人の身はだめだ。
アインズは骨でいた時には感じなかった欲求や感情に突き動かされるようにフラミーの腕を握ると引き寄せ、抱き締めた。
「寝ないって約束したのに俺…すみませんでした…。」
「あ、あいんずさん。」
「なんか変な夢見た気がするし…俺もう本当寝たくない。」
「怖い夢だったんですか?」
フラミーは翼でアインズを包みながらその背に手を回した。
「大丈夫ですよ。次寝たら叩き起こしてあげます。」
「はは、俺やっぱり人間やめようかな。」
薄暗い部屋の中、無言で互いの背中をポン、ポン、とゆっくり叩き合って慰め合う。
翼の殻の中でアインズは少し離れると潤む瞳でこちらを見ているフラミーの唇を親指でツツ…と撫でた。
潤むような唇はやわらかかった。
「なるほど。父上の体を作り変えているのが始原の魔法故にユグドラシルのアンデッドとしての睡眠不可が切れるわけですね。」
思い掛けもしない声にフラミーは翼を開き、バッと二人は離れた。
「な、な、な!?お前なんでノックもなしに!?」
「いえ、宝物殿に戻ったら父上の
黄色い卵頭の指差す方には開きっぱなしの
「な…な…!!嘘だーーーー!!!」
アインズは鎮静された。
数日後、竜王国では盛大な式典が開かれていた。
当然のように全ては魔導国持ちだ。
城の一番低い所にあるバルコニーには三つ玉座が出されていた。
祝いの日だというのに、ドラウディロンは落ち込んでいた。
「はぁ…これで竜王国を離れてしまうんだな…。アインズ殿…。」
その視線の先には骸骨と、その奥にはフラミーがいた。
「あぁ。しかし、ここのリッチ達と文官をちゃんと育てたから何も心配する事はないとも。」
もちろん神官達と行政経験を積んだリッチ達が教育を行なった。
パンドラズ・アクターとデミウルゴスが作った台本をきちんと丸暗記したシャルティアが国民に向かって深くて良い話を聞かせている。
「…それは…そうだがな…。」
ドラウディロンは辛そうに下を見た。
人間の身を手に入れた日から上機嫌のアインズはドラウディロンの頭をワシワシと撫でた。
「なんだ?何か困ってる事があるのか?」
アインズはアイテムをくれ、さらに魔法の使い方を知る機会を齎した女王を気に入っていた。
「なぁ……まだ、まだ資格は充分じゃないって分かってるけれど――」シャルティアの話が終わったのか大歓声と拍手が上がり――「貴君と共に生きたいんだ。私は貴君の子を持ちたいんだ。」――ドラウディロンの言葉は拍手をするアインズには届かなかった。
拍手がおさまると、アインズは優しく聞き直した。
「すまない、もう一度いいか?」
「だから――」
「アインズ様!フラミー様!妾の挨拶はいかがでありんしたか?」
戻ってきたシャルティアをアインズは手招きして頭を撫でた。
「よくやったぞ、お前は本当にペロロンチーノさんの自慢の娘だ。ペロロンチーノさんに見せてやりたいな。」
「とってもいいお話でしたよ!よく覚えましたね!」
二人に褒められ、キャーと喜ぶシャルティアをドラウディロンは辛そうに少し眺めた。
「それで、なんだっけか?」
アインズが振り返ると、そこに女王はいなかった。
女王は間の悪い自分を恨んでとぼとぼ歩いていた。
「今すぐにでも子供を作って一緒に魔導国に行かせてほしい。嫁いでも努力して必ず始原の魔法を取り戻すから。」
そう伝えたいだけなのに。
玉座の後方離れた所に立っているデミウルゴスと、数日前から入城したアインズの息子の下へ向かった。
「如何なさいましたか?お嬢さん。」
「お嬢……いや、アインズ殿は、私をすぐにでも娶ってくれないだろうか…。」
パンドラズ・アクターはまじまじとドラウディロンを見た。
「父上は恐らく、力無き者を一人でも迎え入れれば示しがつかないと仰るでしょう。」
「…ふふ、言うだろうな。彼なら。」
守護神達はその強さ故かドラウディロンに力がない事に気が付いているようだった。
「私が一緒に行きたいと言ったら…嫁じゃなくても連れて行ってはくれないだろうか…。」
嘘でもあり得ると言ってほしかった。
卵頭は帽子を脱ぐと小脇に抱え、頭を下げた。
「申し訳ありませんが、私ではお答え出来かねます。」
「…君も父に似て誠実なんだな。」
ドラウディロンが玉座を眺めていると、ハナビが上がった。
「…すごい魔法だ。」
体を芯から震わせる低い音は、まるで自分を慰めるようだとドラウディロンは目を少し閉じた。
「デミウルゴス殿…。」
「なんでしょう。」
「貴君も辛いな。"仲間です"…か…。」
三人の視線の先には楽しそうに笑い合う二人の支配者がいた。
あの女神は嘘はついてはいないだろう。
しかし――――。
「強くならなければな…。」
ドラウディロンの言葉に守護者は深く頷いた。
前半のフラミーさんとのことを書いて奇妙な笑いを上げた後、
ドラウディロンのことを書いて頭を抱えました。
っく…ドラウディロンに感情移入しすぎて辛いです。
連れてってあげてぇ……。
アインズさん、<クラス難聴>と<クラスがっかりタイミング>を取得!!
いや、元から持ってたか!
次回 #14 さようならの後に