眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#14 さようならの後に

 翌日。

 デミウルゴスは竜王国への政治介入のため、シャルティアは信仰心を高めるため、二人は残ることになった。

「じゃあ、パンドラズ・アクター。くれぐれも御方々を頼むよ。」

 パンドラズ・アクターは話のわかる仲間と握手を交わした。

「お任せ下さい。デミウルゴス様。」

 アインズは仲の良さそうな息子達を少し眺めると、腕時計を確認した。

「そろそろだな。シャルティア。」

「はい!<転移門(ゲート)>。」

 

 シャルティアの開いた巨大な転移門(ゲート)から、陽光聖典総勢二十名とニグンを連れたコキュートスが現れた。

「アインズ様、フラミー様。コキュートス、御身ノ前ニ。」

 コバルトブルーの武人は陽光聖典と揃って跪いた。

「よく来たなコキュートス、そして陽光聖典よ。これから行く先はミノタウロス、亜人の国だ。お前たちはこれまで多くの亜人をその下に従えてきた。今回も期待しているぞ。」

 隊員たちのやる気に満ちた声が響く。

 ニグンは目覚めて以来初めて拝謁する神の威光に歓喜から身を震わせていた。

「ルーインよ…お前も忠義に励め。」

「は!!神よ!!」

 直々に声を掛けられたことに更に歓喜し、深々と頭を下げてから任務引き継ぎのため漆黒聖典隊長の下へ行った。

 フラミーはふぃと視線を逸らしてあまり好きじゃなさそうにしていたが、ニグンは神を国に連れ帰った者として神聖魔導国では賞賛の的だった。

 最早その男を知らない者はいない程に。

 

 陽光聖典は漆黒聖典から、神と行った今回の旅と、神との過ごし方を引き継ぎ、必要な物資や知識を共有した。

 漆黒聖典がともに来る時は紫黒聖典より情報が共有されていた。

 その際、妹達が最も重視しなければいけない点として挙げたのは、なんと「神々はキャンプが好き」だった。

 もっと他にあるだろうと揉めたのは言うまでもない。

 特にクレマンティーヌとクアイエッセの争いは熾烈だったとか。

 しかし、いざその立場になると、漆黒聖典はやはり「神々はキャンプが好き」と陽光聖典に伝えたとか。

 ただし、今回特に大切なのは神が人の姿を手に入れたという事だった。

 

 アインズはなんだかんだと結構長居した竜王国をまじまじと眺めると、もう正式に別れを告げ終わったドラウディロンと目が合った。

 何か言いたそうにするその瞳は初めてこの国に来た晩も見た物だ。

 今回の功労者を手招く。

 もう一度感謝しても良いだろう。

「アインズ殿…。」

「ドラウディロン。今回は本当に世話になったな。」

「そんな…私こそ…。」

「ミノタウロスが落ち着いたら、支配者のお茶会をするからな。君も来ると良い。」

「あ、ああ!ああ!勿論だ!絶対に行くと約束する!!」

「ふふ。楽しみにしているよ。」

 ドラウディロンは胸を押さえた。

 

「あぁ、それから――」

 そう言うアインズにドラウディロンは祈った。

 一緒に来てくれと言ってくれ。

 頼む。

 

「これは、決して外さないからな。有効活用するよ。」

 アインズが上げた骨の腕には王同士の約束の腕輪があった。

 ドラウディロンはそれを目にしてポロポロと涙をこぼした。

「あぁ…そうしてくれ……。必ず、必ず私に返すその時まで、決して肌身離さず、その身に着けていてくれ…。」

 涙を拭いてくれる優しい骨の指に、アインズが骨でも人でも構わないとドラウディロンは再び思った。

「ははは。そうだな。代わりにこれをやろう。」

 アインズは闇からルーンの刻まれた見事な腕輪を取り出した。

「これは…。」

「素晴らしいだろう。我が国のルーン技術によって生み出された物だ。効果は魔力を僅かに高める。」

 ドラウディロンは受け取ると、大切そうにそれを腕に通して、腕ごと抱きしめた。

「…ありがとう。きっと、私は力を取り戻してみせるよ…。」

「ん?あぁ。そうだな。これの為にもな。」

 アインズは力が戻れば返すと約束した腕輪を見せて少し邪悪に笑った。

 ドラウディロンは涙に揺れる視界の中、その邪悪さに気付くことはなかった。

 

「ドラウさん、私また遊びに来ますね!」

「フラミー殿…毎日でも来てくれ。私のはじめての友達だ…。いや、本当は女神相手に友達なんて烏滸がましいと分かっている。それでも――」

 フラミーはドラウディロンの手を握った。

「私達、お友達ですよっ!」

「あぁ……。っく…。」

 何故自分は魔導国に生まれることができなかったんだろう。

 何故始原の魔法を失ってしまったんだろう。

 きっと全てはこの神々しか知らない。

「私は、ここでの役目を果たそう。どうか、いつでも訪ねてくれ。お茶会も、いつでも大歓迎だ!」

 ドラウディロンはせめて暫く離れる前にもう一度触れようと手を伸ばし掛けたが――愛する人は、自分ではなく愛しているであろう人の手を取った。

「じゃあ、行きましょうか。」

「はーい!」

 軽く上がった手は何も掴めずに降ろされた。

 

 仲睦まじい離れ行く背中にドラウディロンは呼びかける。

「フラミー殿!!」

 自分を呼ぶ声にフラミーは振り返った。

 何を言いたかったかなんて、わからない。

 ドラウディロンは一瞬の間に多くのことを考えたが、口から出た言葉は言いたかったことではなかった。

「アインズ殿を…頼むぞ!!」

 フラミーはアインズと目を合わせて嬉しそうに笑った。

「はい!」

「…バカ…。」

 ドラウディロンは涙を拭って、残る守護神と漆黒聖典とともに神々を見送った。

 きっとあの女神はもうじき気が付く頃だろう。

 あの目がただの友達や仲間を見つめる目だとしたら、この世はほとんど他人しかいない地獄だ。

 でも、もう、それでも良い。

 美しい全てを守るために、きっとあの人には女神の力が必要だ。

(フラミー殿…私はもう愛しいと言ってもらったぞ…。一緒にはいられないが………まだ私の方が一歩リードだな……。)

 そんな筈はないと自分の中の誰かが囁く。

 

 馬車とゴーレムの馬が見えなくなるとドラウディロンは再び涙をこぼした。

「陛下、力を取り戻せるようにお手伝いしますよ。」

 宰相のその声にドラウディロンはハッと振り返った。

「…お前…気付いて…。」

「当然です。さぁ、働きますよ!!ここはまだ、あなたの国です!!」

 

+

 

 一行は竜王国から山と山の間を縫って北上していた。

「さて、ミノタウロスの奴らだが、どんな街を作っているかな。」

 アインズの声は真剣そのものだった。

 その馬車にはアインズ、フラミー、パンドラズ・アクター、コキュートスが乗っていた。

「場合ニヨッテハ殲滅ト聞イテオリマス。」

「その通りだ。気持ちとしては降らせたいがな。だが、降りたいと向こうが言っても万が一、大量の石炭や石油を用いた生活をしていれば殲滅だ。文明とは一度手にすれば決して手放す事はできない。それは巡り巡って大気汚染、水質汚染、土壌汚染につながる。ないとは思うがな。」

「「セキタン…セキユ…。」」

 パンドラズ・アクターとコキュートスが初めて聞く言葉を復唱する。

 

 コキュートスは今回の案件で果たして自分が役に立てるのか不安になりはじめていた。

 本当はパンドラズ・アクターとデミウルゴスが行けるのが一番だと思うが、友人は後処理に忙しいし、何よりこれまで亜人を支配下に置いてきた実績を買われては出来ませんとも言えない。

 

「子を生んで多くなり、地に満ちてそれを従わせよ。そして、海の魚と、天を飛ぶ生き物と、地上のあらゆる生き物を服従させよ。」

 アインズと守護者が突然話したフラミーを見た。

 

「ソレハ…。」

「今の私達であり、リアルの人々でもあります。」

 フラミーはそれだけ言ってまた外を眺めだした。

 

 リアルは一部のヒトと呼ばれる神しか生きることが許されない過酷な世界だったと聞く。

 コキュートスは神と戦争をして堕天したという目の前の悪魔が何故そうしたのかを理解した。

 あとでデミウルゴスにこの言葉を教えてあげようと心のメモに書き留めた。

 

「…タブラさんが言ってた奴…旧約聖書ですか?」

 外を見たままフラミーはアインズの声に頷いた。

「大丈夫ですよ。俺たちはリアルを汚した人達と同じようにはなりません。同じ言葉で表現できる行為かも知れないですけど。」

「ふふ、私達がミノタウロスを殺そうとするように、いつか私達を誰かが殺しに来るかも知れませんね。」

 フラミーはもしかしたら、リアルと同じ轍を踏み始めているかも知れないその道の先を見つめ続けた。

 

 休憩地点で陽光聖典と食事を取るたびにアインズとフラミーはどの状態なら殲滅かを詳しく語り合った。

「電気はどうしますか?」

 フラミーからの問いにアインズは悩む。

「発電方法によっては見逃してもいいかと思ったんですけど…。でも、発電施設はいつか大規模化しますよね。」

「そう思います。それに電球が生まれた一八七九年から転げるように二一三八年にはあれですからね。」

 二人は頷きあった。

「「殲滅で。」」

 

 それからーと考えるフラミーにアインズはぼやいた。

「エ・ランテル、永続光(コンティニュアルライト)付けすぎたかなぁ。」

「ん?なんでですか?」

「考えてみたら星が綺麗なのは地上が暗いおかげもあるなって。」

「あ…。じゃあ、これからはちょっと抑えめに与えましょう。」

「そうですね。パンドラズ・アクター。永続光(コンティニュアルライト)については今聞いた通りだ。共有事項として覚えておけ。」

 息子は深々と頭を下げた。

 

 パンドラズ・アクターも陽光聖典達も、それの前にしていた「万が一」の話の意味は分からなかった。

 聞いたこともない言葉で語られるそれは、メモを取ること、今後その言葉達を口にすること――そして記憶しておくことを固く禁じられた。

 後に忌むべき歴史としてアインズとフラミーは忌み言葉達をまとめた、絶対禁書を生み出す。

 しかし特別な魔法で綴じられたそれは、ついぞ誰にも――いや、後に現れるプレイヤー以外開けるものはいなかった。

 そこにはリアルを確かに生きた二人からの強い訴えと、理解を求める悲痛な叫びが記されていたという。

 そして、最後には旧約聖書・創世記より引用された言葉が載せられた。

 それを見たプレイヤー達がどうしたかは――まだまだ先のお話。




次回 #15 立つ鳥

うぅ…ドラウディロン、退場です……。
つらいよぉ。
でも、安心してください。
彼女はまたガッカリするためにでてきますから…orz

いつかこのプレイヤーの事はちゃんと書きます!多分!may be!

また一つ国が手に入ったのでユズリハ様謹製マップで勢力図を確認だ!

【挿絵表示】

いつもありがとうございます!
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