眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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試される飛竜騎兵部族
#15 立つ鳥


 アインズ達は山間部の移動を始めて二日目、これまでとまるで違う景色に口を開けていた。

 周りの山々はこれまではなだらかに天に向かって三角を作っていたと言うのに、そこはまるで誰かが山を無理やり削ったかのように、一直線の深い谷になっていた。

 断崖絶壁に囲まれた谷はわずかにカーブしていて終わりが見える様子はない。

 谷底にはちらほらと植物が生えているが、赤茶けた土と、切り取られてしまった山の絶壁はまるで大地の傷跡のようだった。

 

 アインズとフラミーは移動を続ける馬車の屋根に上がって寝転び、谷底から空を飛び交う鳥達を眺めていた。

 視界の左右に反り立つ赤土と、真っ青な空のコントラストは目に痛い程だ。

「本当にすごい景色……」

 フラミーの声にアインズが顔を向けると、二人の視線はピタリとあった。

「──これってミノタウロスがやったんでしょうか?」

 

 アインズは放り出されているフラミーの手を骨の手で握った。

 人の身は疲労無効にしていても人間だった頃の名残からつい寝てしまう事がわかった為、結局あれ以来アインズはアンデッドの姿のまま過ごしていた。

「分かりません。でも……誰かがやらなきゃこうはならないですよね……」

「ですよねぇ、嫌だなぁ」

 フラミーが苦々しげに笑ってから目を閉じると、アインズは再び空を眺めた。

 ミノタウロスが絶対強者の場合を想定しながらあれこれ脳内でシミュレーションする。

 思考とは裏腹に流れ続ける風は優しく実に心地よかった。

「昔オープンカーってものが流行ったのも分かる気がする……」

 アインズが呟くと、これまで見た鳥達の何倍も大きな鳥が列をなして飛んで行くのが見えた。

 激しい羽音にフラミーも目を開け、二人は揃って体を起こして空を見上げた。

 ──それは鳥ではなく、飛竜(ワイバーン)だった。

 陽光聖典もその音に天を仰いだ。

 

「何だ何だ……?」

 アインズが呟くと空高く往く一匹の飛竜(ワイバーン)が遠吠えのような鳴き声をあげた。

 それを合図に飛竜(ワイバーン)達はひらりと体の角度を変えて、谷底に向かって急降下して来た。

 窓から顔をのぞかせていたパンドラズ・アクターとコキュートスが慌てて馬車を下りて身構えると、明るい声がかかった。

「こんな所に馬車なんて珍しいなぁ!」

 一番大きな飛竜(ワイバーン)の上。空から見下ろす少年は、ブロッコリーのようにもしゃもしゃの金髪をバンドでとめていて、大量の飛竜(ワイバーン)を従えていた。

「騎乗シタママ、ソレモ空カラ御身ニ話掛ケル等無礼ダゾ。少年」

 コキュートスとパンドラズ・アクターはカルマ値が善性と中立の為、これまでの守護者と違い、無礼だとは言ってもすぐに切り捨てようとはしなかった。──だと言うのに、過激な"守護者"は別にいた。

「こら!早く竜を下ろさないか!!陛下方の前で不敬だぞ!!場合によっては天使を召喚し斬り伏せる!!」

 ニグンの声に、十四歳程度に見える少年は慌てて飛竜(ワイバーン)達に手で合図を出し着地させると、背から軽やかに地へ下りて膝をついた。

「まさか!エルニクス皇帝陛下!?」

 少年は王らしき人物を探しているのかキョロキョロと見渡した。

「エルニクス殿を知っているのか」

 アインズは馬車の屋根の縁に腰掛け、軽くローブの乱れを直してから胸を張った。

「私は神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王である」

「しんせい……あいんず・うーる・ごうんまどうおう……」

 少年の呟きにニグンが「陛下をつけろ!!」と叫ぶ。

 穏やかな二人の守護者と来ているはずなのに、とアインズは心の中で苦笑し過激派の上げる声を聞き流した。

 フラミーはヒョイと馬車の屋根から下りて少年に近づいて行った。

「あなた、どこから来たんですか?お名前は?」

 その問いはかつて一年前にニグンが掛けられたものと同じだった。

 感慨深げにニグンは少し目を閉じて懐かしい洗礼の儀式を思い出した。

「わぁ……」

 少年はそう言ってフラミーをぼーっと見つめた。

「フラミー様の問いに早くお答えした方がいいですよ」

 パンドラズ・アクターの穏やかな声に少年はハッと我に返った。

「あ!すみません。あの、僕はバハルス帝国の南西……ここから北東にある飛竜騎兵(ワイバーンライダー)の部族の者で、ティトと言います」

 ぺこりと頭を下げながら、少年は上目遣いにフラミーを眺め続けた。

「そうか。騎兵(ライダー)の部族といっても他には誰も騎乗していないな。ティト、お前は一人なのか?」

 ティトはフラミーから視線を剥がすと、死の化身を見た。

「は、はい。僕は飛竜(ワイバーン)飼いなので、こうして早朝に竜を散歩させて回るんです」

「なるほど、羊飼いのようなものか。バハルス帝国の方角はあちらのはずだが、お前はこれから帰るところだったのか?」

 ティトはそうですと頷くと、もう行きたいのかソワソワしはじめていた。

 一方アインズは冒険の匂いに敏感だった。

「──フラミーさん、寄り道しましょうよ!」

 馬車の屋根から誘ってくる骨をフラミーは見上げて笑った。

「良いですよ!面白そうですもんね!」

 仲間の了解を得ると、アインズは活き活きと馬車の屋根から下り、パンドラズ・アクターに尋ねた。

「パンドラズ・アクター、どれくらいの滞在なら執務に影響が出ないと思う」

「そうですね。ミノタウロスの国にどれ程居るかにも寄りますが……一日二時間ナザリックにお戻り頂ければ一週間は可能かと」

「よし。──ティトと言ったな。私は君達の街を見てみたいんだが、一緒に行ってもいいかな?」

 ティトは妙に熱い視線をアインズに送りながら頷いた。

「ご案内いたします!」

 

 会話を聞いていたニグンは指示される前に隊員達に進行方向の変更を伝達し始め、準備を始めた。

 その間、アインズとフラミーは「隠しイベントって感じしますよね」とユグドラシル以来の突発イベントに胸を躍らせていた。

 そしてふと、フラミーは思った。

 知らないおじさんが大量に家に着いてこようとするこの光景。ティトは嫌ではなかろうかと。

 かつてフラミー自身含め、アルベドもあれだけ嫌がっていたのだから、この少年が嫌がらない保証はない。と言うか、普通は嫌だろう。

「……大勢で付いて行こうとしちゃってごめんなさいね?」

「あ、いえ!その、気にしないでください!」

 それが社交辞令なのか、本当に気にしなくて良いと言っているのかフラミーには分からなかった。

 ティトの視線は妙に熱かった。

 そして、パンドラズ・アクターも「そうです。お気になさらず」と、まるで家主のように応えていた。

 

+

 

 陽光聖典達は神より与えられた動物の像・戦闘馬(スタチューオブアニマルホース)をしまい、ティトの連れていた竜に跨った。

 アインズは乗ってきた馬車を一度転移門(ゲート)でナザリックに送ると──

「最悪私は乗れなくても……飛べるからな」

 アインズはコキュートスすら乗れた竜に拒絶されていた。

 言葉の通じる生き物と違って"理知的だからこのアンデッドは平気"という判断ができない飛竜(ワイバーン)達は、アインズが近付くだけでその身をよじらせて嫌がっていた。

「竜ヨ。アインズ様ハ慈悲深キオ方ダ」

 コキュートスの声に竜は何故か嬉しそうに鳴き声を上げているが、当然言葉の意味は理解していない。

「コキュートス将軍閣下はどことなく竜の匂いがしますが、竜を飼っているんですか?」

 おじさん達が付いてくる事を受け入れた様子のティトは手綱をギュッと引き締めながら尋ねた。

「竜ハ居ナイ。──イヤ、ソウカ。ロロロヤザリュース達トソウ遠クナイ種ダロウカ。私ニハ蜥蜴人(リザードマン)ノ知リ合イガ多クイル」

「あぁ、なるほど!そうなんですね!」

 現地交流まで含め、楽しげな様子にアインズはしっかり羨ましくなった。

「アインズさん、アインズさん」

 フラミーは一度飛竜(ワイバーン)から降り、アインズに駆け寄った。

「フラミーさん、気を使わないで乗っていいんですからね」

 アインズの反応に首をぷるぷると左右に振る。ピアスが揺れ、輝きが弾けるようだった。

「アインズさんも人になれば乗れるんじゃないですか?」

 

+

 

「いやー!ファンタジーですねぇ!」

 アインズは人化すると一時ナザリックに戻り、パンツと()()()を履いて飛竜(ワイバーン)に乗った。

 最悪魅了すると言い出したフラミーに、人のペットにそれはマズイと慌てて人化した。

 ハムスケにそんな事をされては恐らくアインズは怒るだろう。

 絶対にあり得ないだろうが支配される者がナザリックの者なら──アインズは何があっても相手を殺すに違いなかった。

 そんな事は起こり得ないが。

 

 自分の前でワァーと地表を見渡していたフラミーが嬉しそうに頷いた。二人は会話ができるように一頭の飛竜(ワイバーン)に乗っていた。

「本当!飛行(フライ)とはまた一味違います!」

 激しい羽音の中、二人は大声で会話した。

 フラミーは可愛いと言われたアラジンパンツスタイルを手を変え品を変えしつこく毎日続けてたが、今日は本当にパンツスタイルで大正解だったと思っていた。

 髪の毛はお団子にしている為前髪だけが風に流されて行った。

 

 手綱を握るフラミーに掴まりながら、アインズはその細い腰を見ていた。

(ローブの上から触ってると分からなかったが、こうして見ると細い腰だな)

 じゃれる時にフラミーを触る以外女性を知らないアインズは興味心から、持ち物でもチェックするように腰をポンポンと叩いた。

 そのまま手を上に滑らせて翼の間の背中も撫でる──と、フラミーは跳ね上がる勢いで振り返った。

「ひゃっ!な、なんですか!?」

 紫色の顔は真っ赤だった。

「あ、いえ。細い腰だと思いまして。ちゃんと食べてます?」

「た、食べてますよぉ。知ってるじゃないですかぁ」

 背が小さいとは言え恐らく成体の悪魔なので、成長のための栄養は不要だろうが、疲労無効を付けたがらないその身が心配だった。

「しっかり食べて飲んで下さいね。こないだみたいに倒れると危ないですよ」

 フラミーは片手を口に当てて少し思考すると、ゆっくりと口を開いた。

「……あの、そしたら、また迎えにきてくれます……?」

 恥ずかしそうに見上げて来るフラミーの瞳に、エッとアインズは声を上げた。

「あの……だみですか?」

「だ、だみじゃないです……」

 アインズはオンにしてある精神抑制の効果をさらに自分の手で使った。

 

 すぐにイチャつく父を見守る息子はできれば弟が良いと心の中で呟いた。




次回 #16 遠くへの憧れ

アインズ様!!それは!!
アウラ相手でもギリギリですが成人女性相手にやったらセクハラ防止委員会に通報ですよ!!!(原作

ミノタウロス篇?何それおいしいの?
えへへ(//∇//)すぐに行きますって!!

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