眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#17 始原の実験

 コキュートスの指示のもと、陽光聖典が急ぎ天幕を張った中でフラミーはこそこそと死亡した隊員を生き返らせ、重軽傷者を回復した。

「だるい人はここにいて下さい。場合によっては一度神都に送りますよ。」

 フラミーの言葉に聖典は頭を下げたが、帰る事は皆が断った。

「フラミー様、アリガトウゴザイマシタ。オ前達、アインズ様トフラミー様ノ御前ダ。決シテ手ヲ抜カヌヨウニシロ。行クゾ。」

 コキュートスの言葉に十分なやる気を見せると全隊員が立ち上がった。

 この一年コキュートスは多くの時間を陽光聖典と共に過ごしてきた。

 優しく不器用な将軍を皆が慕っているのを言外の雰囲気で感じる。

 フラミーは息子の成長を嬉しく思いながら、皆が出て行った方へ向かった。

 

 外ではアインズとパンドラズ・アクター、そしていつ来たのかデミウルゴスが何かを話し合っていた。

 

 仕事が終わった事に気がついたアインズがフラミーに来い来いと手招きを始める。

 フラミーは駆け寄ると軽くデミウルゴスと挨拶を交わした。

「フラミーさん。あの揺れは極局所的に発生しているようです。しかも、ティトはまただ、と言っていましたし、あまりにも怪しいです。」

「あの揺れが局所的?まさか竜王国は揺れなかったんですか?」

 フラミーの問いにデミウルゴスは頷いた。

「はい。向こうは少しも。急ぎ国境付近で聞き取りを行いましたがやはり揺れを感知した者はおりませんでした。」

「この距離感、ここが震度五ならどんなに震源が浅いって言ったってそっちも少なくとも震度三くらいは出ておかしくないのに…。」

「しんど五の強さは分かりかねますが、アインズ様も同じようにおっしゃっておりました。」

 後ろでは陽光聖典が被害のない場所に神聖魔導国の旗をさし、移動時にテントとして使っていた布を広げて負傷者を並べていっていた。

 熟練した隊の様子に街の人々が感謝している様が見える。

 

「フラミーさん、ここには何かがいます。」

「…竜の谷の竜神ですか…?」

 アインズは頷いた。

「おそらく、そうでしょう。」

「私…私、谷を見に行こうかしら。」

「フラミー様!!」

 デミウルゴスの大きな声に皆が注目すると、デミウルゴスは右手の手袋を外しながら一歩フラミーに近付き――その首を手の平で包むように触った。

 まるで戒めにするかのように残っていたあの日の傷痕はフラミーの首からすっかりなくなった。

 この主人は今すぐにでもこの事態の確認に行きたいと思っているだろうが、あの夜の熱がまだこの首に残っていれば――。

 

「…デミウルゴスよ。」

 支配者の低い声に手を引き頭を下げた。

 フラミーは何かを確かめるように触れられた場所を撫でると、デミウルゴスに頷いた。

 悪魔も、己の言いたい事が通じた事に安堵し頷き返した。

「アインズさん。やっぱり行きません。すみませんでした。」

「…そうして下さい。デミウルゴス、お前少しおかしいぞ。」

「は。申し訳ございません。」

 アインズは二人の秘密めいた行動に目を閉じて精神抑制を使った。

 表情の出る体に鬱陶しさを感じる。

 パンドラズ・アクターも腕を組むとオーバーに"不愉快ですよ"と表現した。

「デミウルゴス様、それは不敬なのでは?」

「あぁ、そうだね。分かっているとも。」

(分かっているなら――。)

 アインズは軽く頭を振って余計な思考を捨てる。

「…まだ帰らせて数日だが…今夜にでもあいつ(・・・)を呼ぶぞ。」

 知恵者二人とフラミーは頷いた。

 

 アインズはデミウルゴスを労い竜王国へ戻らせると、広場の惨状に視線を向けた。

 そちらからはコキュートスが聖典の指揮を一時的にやめて戻ってくる姿があった。

「アインズ様。アノ倒壊シタ建物ハ破壊シテモ宜シイデショウカ。」

「そうだな。――あ、いや。待て、下手に触るな。折角の大量の死者だ。実験してみたい事がある。」

 コキュートスは勿論だと頭を下げた。

 

+

 

 ティトとマッティが遅れて外に出てくると、陽光聖典とコキュートスが石塔をわずかに破壊し、下敷きになっていた死体を退けていくところだった。

「なんで死者から…?」

 マッティの呟きにティトも首を傾げた。

 建物の穴から瀕死の人々が部族の者達と竜によって担ぎ出されていくが、陽光聖典のその様子は不可解だった。

 皆そう思っているのか、中には陽光聖典に最初のように生きているものの救助を手伝ってほしいと訴えている者が大勢いた。

 ティトは生まれ故郷の惨状に、放心していた。

「あの旗は…まさか…帝国でみた魔導国の……。」

 兄の呟きにティトはハッと我に返った。

「兄さん!!ゴウン様は本当は魔導国の王様なんだよ!手伝ってって摂政会の人達から正式にお願いしてもらわないと!!」

 国外の事に要請されてもいない状態で勝手に救助活動を始める事は難しいのだという事にティトはすぐに思い至った。

「なんだって!?じゃあ、じゃああの人が死の神だって言うのか…!?」

 ティトは死の神とはあの悪戯好きの王にはまるで似合わない二つ名だと思った。

 しかし、帝国皇帝も鮮血帝と呼ばれているのだから、王達は自分を強く見せる二つ名を持つのかもしれない。

 

「ティト!!逃げるぞ!!」

「なんで!もう揺れは収まったんだから早く摂政会の誰かを呼ばないと!!」

「良いから!!魔導国の死の神は邪悪で知恵の回る危険なアンデッドだって!バルコニーで話す皇帝の声を聞いた奴が――っ!!」

 ティトは兄ではなく、その肩の向こうに視線を送っていた。

「ふむ。エルニクス殿がそう言ったのかね?」

 マッティが顔を青くして振り返ると、どう見ても邪悪じゃない麗しいその王はいた。

 ティトは兄の妄言に申し訳なくなる。

「陛下申し訳ありません!兄さんは外があんまり好きじゃないし、混乱してるんです!」

「ふぅ。仕方ないな。残念だよ。」

「ティ、ティト……。ゴウン……さん……。」

 兄は噂の情報と目の前の王の様子の違いに戸惑っているようだった。

 

 するとコバルトブルーの将軍が走ってきた。

「アインズ様。下敷キニナッタ者の回収ガ終ワリマシタ。恐ラクコレデ全テデゴザイマス。」

「そうか。では、試すか。…この身を保持したままでは制御を誤りそうだからな。仕方あるまい。」

 

 王はボフンと煙を出すと、アンデッドの姿をした。

 

「な!!ティト!!だから言ったのに!!早く!!」

 兄の絶叫と腕を引っ張る様子に、うんざりする。

「兄さん落ち着いてよ!!飛竜(ワイバーン)乗りはいつも冷静じゃなきゃいけないんだろ!!」

 周りからは人々が逃げ出し始めていた。

 ティトが動かないと分かったのか、マッティは冷や汗をかきながら王を見た。

「ばかティト!!死の神のアンデッドがここに何の用があって…まさか揺れを!?」

「マッティさん、ここに来た理由は最初に言った通りですよ。それにあの揺れは私じゃない。」

 変わらず落ち着いた様子で丁寧に話す王にティトは罪悪感が募っていく。

「信じられるわけ――」

「兄さん!!いい加減にしてよ!陛下は――

 

陛下はただの人間なんだよ!!」

 

その言葉に、王はバッとこっちを見た。

 

「っそうだとも!!私は、私はただの人間だとも!」

 ティトは自分の手を握ってブンブンと上下に振る王に、こんな状況だと言うのに少し笑いがこみ上げた。

 

+

 

 最初アインズは準備が済むまで最後の"人間"としての世間話を楽しもうと思ったというのに、予想外の噂話を聞いてしまった。

 気楽な会話のできる外の人間だった筈のマッティはもう自分を人間だとは認めていなかった。

 しかし、アインズはアンデッドだと知っていて自分を人だと認めた初めての存在にウキウキと胸を躍らせた。

 最初にアンデッドの姿で出会っていたというのに不思議なこともあるものだと心の中で笑った。

 

 が、ジルクニフの評価は著しく下がった。

 法国と王国の平和的統治を見て、自ら属国化を申し込んできた筈の皇帝が、たった数分顔を合わせただけの自分を何故悪く言うのか分からなかった。

(逆に帝国は放っておきすぎか…?もう少しアンデッドの支援を手厚くしてやるか。)

 アインズはミノタウロスが片付いたら向かう先を決めると、コキュートスが待っている気配に、一先ずは実験に行くことにした。

 

「私は行わなければいけない事がある。ティト、お前は人々を正しく導くんだ。」

「は…はい!!陛下!!」

 その瞳は見覚えがあった。

(…バラハ嬢…。)

「行くぞ、コキュートス。フラミーさんもこれを見たら始原の魔法を手に入れたことを心底喜ぶぞ。ふふふ。」

 アインズは上機嫌にコキュートスと共にフラミーとパンドラズ・アクターの下へ戻った。

「お待たせしました、フラミーさん。」

「早かったですね。お話しできました?」

 陽光聖典達は自主的に天使を召喚し、これから起こる事を信じて、中には泣きながら――もう助からなそうな瀕死の者達の介錯を始めていた。

 村人達に殴られたり押さえつけられたりしながらも、陽光聖典はこれこそが正義だと天使と共に懸命に介錯を続ける。

「マッティはダメでした。あー、あいつら、確かに瀕死の人間は殺した方が良いな。二十名であれだけの数の瀕死の人間を殺す事は難しいだろうに。コキュートス、後であいつらをよく褒めてやれ。」

「カシコマリマシタ。隊員モ喜ビマス。」

「じゃあフラミーさんお願いします。」

 フラミーは頷くと、黒いローブを脱いで翼を自由にすると浮かび上がり、拡声の魔法を使った。

 

『全員、塔から離れなさい。』

 

 支配の力を持つ声は塔の周りにいた全ての者達に聞こえ、村人に傷付けられた陽光聖典も例に漏れずに全ての動けるものが塔を離れ出した。

 アインズはその様子に満足すると、フラミーの隣に浮かび上がった。

 単純故に強大さが体内から伝わってくるその魔法は、誰に教えられなくても使えると確信できていた。

 数万人くらいは余裕なはずだ。

 しかし、陽光聖典が介錯した以上失敗は良くない。

 

 アインズは腕輪の能力を切り替え、最大ブースト状態で自分の中の力を鷲掴みにし、思い切り引っ張り出した。

 

「神話には……これだ!!!」

 

+

 

 全員がそのあまりに神々しい光景に呼吸を忘れた。

 死の姿をした化け物――違う。

 邪悪で知恵の回る危険なアンデッド――違う。

 強大な力を持つ魔法詠唱者(マジックキャスター)――違う。

 それは竜神のみが使えるはずの、真なる復活の奇跡。

 

 陽光聖典が死体を引きずり出すのをやめたかと思いきや、今度は瀕死の人々の最後の命の灯火を奪い始めるというあまりの事態に、マッティはティトが死の神を連れてきたことを激しく叱責していたが、その光景を前にドサリと地に膝をついた。

 いや、マッティだけではなく、多くのものがその、死の形をした者を前に膝を折った。

 陽光聖典を殴りつけたものは泣いて悔やんだ。

 

「陛下…ただの人間だって…そう言ったのに……。」

 ティトは喘ぐようにひとり言を続けた。

「こんなの…こんなの……いくらなんでも…ご冗談が過ぎますよ…………。」

 

 陽光聖典がしつこく石柱の下から運び出していたぐちゃぐちゃになった死体も、隊員と天使が命を奪った者も、皆がケロっとした顔で起き上がった。

 ついには石柱の出入り口から死んでしまったはずの数万人も慌てた様子でワッと出てきた。

 ただ、隊員によって命を奪われなかったものは瀕死の状態で苦しみ続けていた。

 

「ティト…ごめん………ありがとう……。」

 兄の声に弟は開いた口をそのままに首を振った。

 

 すると、神は歓声に答えるように一瞬手を挙げたかと思うと――地に落ちていった。

 




???「な!?この世界を揺らす程の激しい力は……まさか……アインズ!!!おい!!アインズに、神王に手紙を出せ!!今すぐだ!!!」

次回 #18 告解
ドラちゃんがちょぴっと出ます!

人ンズ様をご所望頂いたので煩悩と戦いながら描きました。
https://twitter.com/dreamnemri/status/1141142724277497858?s=21

こちらは煩悩に負けた方です。
https://twitter.com/dreamnemri/status/1141150168303063040?s=21

どこにも使えない挿絵なので、twtrでのみ公開です…( ̄▽ ̄)
ダークシュナイダーより優しそうで安心します!(え
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