地上では一人残らず復活が叶った様だった。
「すごいすごい!!アインズさんすごいですよ!!」
キャイキャイ喜ぶフラミーにアインズはサムズアップを作ると、グラリと視界が歪み――アインズは落下して行った。
地に激突するかと言うところで、パンドラズ・アクターがペロロンチーノに変身し、物凄い勢いで飛び立つとその身をキャッチした。
「父上!!」
「ペロさん…やっと…。」
アインズはそう言うと瞳の灯火を消した。
「アインズ様!!」「アインズさん!?」
コキュートスとフラミーが駆け寄って話しかけても何も言わない様子にフラミーは慌てて<
「フラミー様、アインズ様ハ…!」
その身の命は激しく燃えていた。
「大丈夫、大丈夫です。」
フラミーは落ち着かなければと首とネックレスに触れた。
陽光聖典も駆け寄ってきて、自分達の何よりも大切な慈悲深き神の安否を確認する。
「アインズさんは眠りました。ニグンさん、まずは傷付けられた隊員を回復します。」
ニグンは頭を下げてから叫ぶ。
「各員傾聴!!傷付けられた者は光神陛下に癒して頂く!!回復の済んだ者は引き続き怪我人の救助へ向かう!!」
陽光聖典が集まりだし足下に跪き始める。
フラミーは変身を解いたパンドラズ・アクターの腕の中で眠るアインズの顔を撫で、暫く見つめた。
「ズアちゃん…興奮した人々がここにたどり着く前にアインズさんをナザリックへ。私が呼ばない限り戻らなくて良いです。側にいてあげてください。…起きた時、一人ぼっちは寂しいでしょうから。」
「畏まりました。」
「コキュートス君は私とここで陽光聖典と事後処理を行います。」
「畏マリマシタ。」
フラミーはネックレスにぶら下がる石を握りしめると、自分に言い聞かせるように言った。
「アインズさんはすぐに目覚めます。大丈夫。行動を開始しなさい。」
気付かれてはいけない。
それが振り向く前に、早く。
早く起きなければ――――――。
耳鳴りの中アインズがゆっくりと目を開けると、それは見慣れた天蓋だった。
「ん…またやってしまったか…。」
そして眠る直前の光景を思い出した。
「あ!!ぺ、ペロさん!!」
慌てて布団をまくると、そこには見慣れた息子が帽子を脱いで頭を下げていた。
「アインズ様。申し訳ございませんでした。」
「あ……あぁ………。なんだ、そうか。はは。百年は来ないんだから当たり前か。」
いつも大切にしている帽子を握り締める手は震えているようだった。
「良い。お前の全てを許そう。来なさい。」
パンドラズ・アクターはアインズの足下に跪いた。
「はぁ。お前は私に似て我慢し過ぎだ。全く。創造主に似ると言うのも考えものだな。アインズではなく父上でいい。」
アインズは深く下げられるツルツルの頭を撫でた。
静かに行われるそれは何かの儀式のようだった。
「さて、どれ程私は眠ったかな。」
「はい。二日と十時間です。」
「十時間…夜明け前か…。」
アインズはフラミーの所に行くか悩んだ。
心配しているだろうが、眠っているならいつもの起きる時間まで待つ方が紳士的――いや、謝罪の言葉を考える時間を作りたいだけだ。
あれだけ寝ないと言い切った自分の犯した失態に目を覆った。
始原の魔法を使ったとしても、腕輪の力を全開にして魂の力を使用しなければ意識が落ちる事にはならなかったと言うことは自分の体故によくわかる。
完全にアインズの判断ミスだった。
「フラミー様をお呼びしますか?」
「いや、あの人はまだ寝ている時間だろう。起きてから謝るとしよう…。」
「父上、フラミー様はコキュートス様と召喚した天使達と共に寝ずの復旧復興作業にあたっております。」
「なんだと!?早く言わんか!!!」
アインズは布団から飛び出して、<
「くそ!お前は先にフラミーさんの所に行って手伝え!!インクリメント!!着替えだ!!」
息子と、空気のように立っていた一般メイドは頭を下げた。
「起きましたか!!」
フラミーは薄暗い世界に現れたパンドラズ・アクターから、すぐに事態を理解し駆け寄った。
「はい!お目覚めです!父上は着替えてからすぐにお戻りになるそうです。」
「ヤハリオ目覚メニナルト解ッテイテモ、ゾットスルモノダ。」
「本当ですね。取り敢えず私は神都に行って神官長達を起こして目覚めを伝えて来ます!」
フラミーが
「お、お待ちください、フラミー様!すぐに父上は来られるそうですから!」
「じゃあ、安心して任せられますね!」
フラミーは笑うと闇を潜っていった。
「…怒られますねこれは…。」
「…私モ共ニオ叱リヲ受ケヨウ。」
二人がガックリ肩を落としていると次の闇が開き支配者が顔を出した。
「アインズ様、オハヨウゴザイマス。」
「ああ、コキュートス、悪かったな。まさか私も寝ることになるとは思わなかった。それで、フラミーさんはどこだ?」
キョロキョロする支配者に二人は気まずそうに顔を見合わせた。
「フラミー様は今お目覚めを伝えに神都へ行かれました。」
「な、お前すぐに私が来ると言ったんだろうな!?」
「は、はぁ…。しかし、安心してここを任せられると…。」
「…あの人が言いそうな事だ。私は神都へ行く。もしここに先に戻って来たらなんとしてもここで待たせておけ。いいな、スキルを使う事を許す!!」
支配者は再び闇を開いて潜った。
倒壊した塔が、フラミーの召喚した天使達によって、切られては折れた根元に運ばれ金で継がれて行く様子を二人は見上げた。
徐々に建物は金色の線が入り上に伸びて行っている。
「…スキルを使う事を許すと仰られても…私は嫌ですよ。」
「………私モ嫌ダ……。」
「じゃんけんします?」
「三回勝負ニシヨウ…。」
頷きあうと二人は手を出し合った。
神都大神殿に着くとアインズは慌ててフラミーの姿を探し、見慣れた破天荒娘を見つけた。
「ん!?番外席次!!」
「あ!神王陛下!!お目覚めおめでとうございます!!」
駆け寄るその姿に頭を撫でるとアインズは挨拶もそこそこに本題に入る。
「フラミーさんはどこだ?」
「フラミー様は先程セバス様に会いに行くと仰ってここを離れられました。」
「くそ!遅かった!」
「あ、へ、陛下!人の身を手に入れたと神官長達に聞きました!!良ければ私にもお情けを――」
と言い切る前に神はあっという間に闇を潜ってしまった。
「…もう!!いつになったら私はあの存在の子を持てると言うの!!」
番外席次は憤慨しながら再び寝室に戻って行った。
エ・ランテル闇の聖堂に着くとアインズは誰もいないことに舌打ちをした。
「ここじゃないのか。セバス、セバスのいそうな所…あの娘の所か!」
アインズは登り始めた日の中、西二区のコンドミニアムへ飛んだ。
(もうフラミーさんに
オートロック機能も付けたゴーレムに退くように命令すると共用廊下をズンズン進んで行き、一階の目当ての部屋をノックした。
「セバス。セバス私だ。」
いつもの身なりのセバスが出てくると恭しく頭を下げた。
「これはアインズ様。つい今しがたお目覚めをフラミー様にお聞きしました。このセバ――」
「それでここにはいないんだな。どこに行った。」
「は、はぁ。竜王国のオーリウクルス様に御報告をと。」
「解った、私は行く。」
アインズは
「お前子供ができたら一番に知らせろよ。後、ニニャさんによろしくとモモンから伝えておけ。それからペテルさんはいい奴だともな。」
「か、かしこまりました。」
顔を赤くするセバスに少し笑うとアインズは今度こそ
フラミーは眠っていた友人の下を訪れていた。
その後ろにはニコニコと上機嫌なシャルティアとデミウルゴスが控えていた。
「そうか…アインズ殿は目覚めたか…。」
露出のない寝巻きにガウンを肩にかけたドラウディロンは安堵からソファに沈んだ。
「はい。本当安心しましたよ〜。」
「あぁ、本当にな。良かったよ…。こんな事が前には一週間もあったかと思うとゾッとするな。」
ドラウディロンはあの時の漆黒聖典の尋常ならざるスピードの撤退を思い出し、それを心から許した。
「それで?調子は良さそうだったか?」
「ん…まだ私は会ってないです。でもきっと元気一杯ですよ!」
闇の神の消滅と共に光の神は消滅すると聖王国から来た亜人の噂を聞いた事を思い出し、この女神がアインズに一番に顔を合わせない理由が分からずドラウディロンは首を傾げた。
「なんでだ?早く会った方がいいぞ。」
「解ってはいるんですけど…私…会ったら…。」
「ん?聞かせてみろ。」
ドラウディロンは悩むような雰囲気のフラミーの隣に移動して手を握った。
その手の上から空いてる手を重ねるとフラミーはドラウディロンをジッと見た。
「ドラウさん。私…私もうダメだぁ。」
「なんだ?女神ともあろう者がどうしたと言うんだ?」
「私、私――」
守護者が何事かと目を合わせると、ノックもなしにバン!と扉が開いた。
「い…いた!!フラミーさん!!なんで待ってくれないんですか!!いくら怒ってるからって!!」
アインズはドラウディロンと手を重ねるフラミーにズンズン進んで行くと、その少し前で立ち止まった。
「寝ないって約束、また破って本当にすみませんでした。」
「アインズさん…もう、その約束やめましょう。」
「いや、次は――」
「やめましょう。」
心配そうに全員が二人のやり取りを眺めていると、アインズはしゃがみ込んで目に手のひらを当てて懺悔した。
「俺もまさかフルブーストすると保たないなんて思いもしなかったんです。でも、普通に使う分には意識は落ちないって解ってますから。本当に。もう加減を間違えませんから。」
見たこともない神の姿にドラウディロンも守護者も目を見合わせた。
フラミーは逡巡してから立ち上がりアインズの前に一歩進むと、視線の高さを合わせるようにしゃがみ込んだ。
四対の翼を大きく広げて後ろの三人からの視線を遮り、フラミーはアインズの手を目から剥がしてフラミー自身の顔に当てさせた。
アインズは目を開いて、両手の親指でフラミーの頬を撫でながら再び懺悔する。
「フラミーさん、本当にもう寝ませんから。怒らないで下さい。」
フラミーはアインズの言葉を無視して自分の顔に沿わせた手に手を重ねて、しばらくアインズを眺めると静かに目を閉じた。
「ん。」
「今度こそ絶対に――えっ!?」
フラミーは目を閉じたまま何も言わなかった。
アインズは背中を汗が大量に流れる感覚に襲われながら、翼の向こうをつい伺おうとしてしまう。
「あ、あの…フラミーさん…?」
フラミーの顔は赤かった。
(こ…これはそう言うことか!?いいのか…!?本当にいいのか!?)
アインズは焦る。
これで想像した事が違ったら、それこそ絶交だろう。
フラミーの顔が少し悲し気になると、アインズは汗が流れる忌々しい肉体を呼び出した。
アインズは本当に良いのかと自分に再度尋ね、これまで隠すようにしてきた心に触れると覚悟を決めた。
躊躇いがちにゆっくり顔を寄せると、息が重なったところでフラミーの手が一瞬ピクリと動いたが、叱責されることはなかった。
ゆっくりと唇を重ねると、想像以上に柔らかい感触に驚愕した。
アインズはその柔らかい感触に、これは一体何で出来ているんだと思いながら数度はむ。柔らかさを確かめる静かなキスはアインズがフラミーをついばむようにして行われ、フラミーも一度だけアインズの唇をはんだ。
ゆっくり温もりが離れると、フラミーはハァ…と切なげな――溜息なのか何なのか解らない吐息を漏らして、潤む瞳を開いた。
「許しました。 」
フラミーは顔を真っ赤にしてそう言うと照れ臭そうに自分の唇に触れて笑った。
「あ、あの…フラミーさん、俺、あなたを――」
同じく顔を赤くするアインズの前から、何も言わせないとばかりにさっと立ち上がり翼を畳んだ。
何が起こったのか察した守護者は少し照れ臭そうにそれぞれ宙に視線を彷徨わせ、ドラウディロンは目を閉じ、手を握りしめていた。
「でも、もう寝ないって約束はやっぱり取り消しです。私毎日寝てますもん。」
フラミーは笑ったが、アインズはその約束を継続したまま毎日寝てもいいと思った。
次回 #19 夢の人
ああああああああああああ!!!
やった!!!!やったよーーー!!!!
でも君達告白しあってからそう言うことしなさい!!!(歓喜
ドラちゃんorz