眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#20 閑話 ツアーのお見合い

 フラミーはツアーとアインズの話を聞いて決意した。

 

「ツアーさん…私にあなたの持ってるギルド武器を破壊させてくれませんか?」

「…フラミー、気持ちはわかるけれど、すまない。今はまだ我慢してくれるかな。」

「何でですか?私達こんなに平和的に過ごしてるのに…。」

「本当の意味で平和的に過ごしていたら考えるけれど、アインズは新しい力を行使せずにはいられなかったんだ。君もそうなってしまうかもしれない。今回たまたまそれが破壊に向かわなかっただけだ、と、解るね?」

 認めたくないが、フラミーは認めた。

「はい…。」

「力の行使には注意が必要だ。今回は飛竜(ワイバーン)と人間で済んだからよかったけれど、腹に収まったものが蘇って生きてる者の内臓を突き破って復活したり、死んだ虫達が一斉に飛び始めたり…そうなれば正直何が起こるかわからない。そうなってもおかしくない程の力だったんだ。」

「それは恐ろしいな…。」

「ドラウディロンの腕輪は想像より強力だ。普段抑制としてのみ使う事をもう一度強く勧める。」

 アインズは頷いた。

「プレイヤーに連なる者や竜王以外には使わないようにするよ。」

「わかってくれて嬉しいよ。力を持つ者はその力の使い方に注意を払い、責任を取る必要がある。」

 

「あ…あの…。」

 おずおずと再び口を開いたティトに、ツアーはさっきから煩い小姓だと睨みつけた。

「竜王様…でも、僕たちは、すごく陛下に感謝してるんです…。本当に良かったって…。」

「そう言う問題ではない。これは百年を、千年を超えるスパンの話なんだ。」

「でも…それじゃあ、皆死んだままで良かったって言うんですか…?」

 当然ツアーはそのままで良かったと思っている。

「ティト、やめなさい。これは加減を間違えた私の失態だ。ツアーの言うことは間違っていない。私も私なりに世界の先を考えている。それは千年ではなく――」数十年程度だけどな、と言いかけてアインズは千年王国というギルドを思い出した。

 ギルメンに聞いた話では、確か鶴は千年、亀は――「万年。」

「万年か…。アインズ、君は流石だ。ではこの復活の範囲は君なりに考えた結果だったのかな。」

 アインズは思わず口に出ていたそれに冷や汗をかいた。

「その時に僕はもういないかもしれないけれど、僕も子供を残して君の助けになるように努力する。その為にも力を落とさないよう純然たる竜を探さなくちゃいけないな。」

 コキュートスがティトを退出させる横で話は進んだ。

「あ…あぁ…。最悪ナザリックの竜を紹介しよう。」

「…それは…位階魔法を存分に扱える子供になるな…。始原の魔法(アレ)が無くなった今、それは魅力的かも知れない。」

 アインズは確かに竜王の力とユグドラシルの力を注ぐ子供は魅力的かもしれないと思った。

 それにナザリックとこの竜王の間に子供ができれば、この共犯関係もより強く結びつきが出来る気がする。

「うちのがいいと言えばだが、会ってみるか?」

 ツアーは悩んでいるようだった。

「いや、やっぱりユグドラシルとの混じり気は望むところじゃないから今はやめておくよ。でも、もしいい娘がどこにもいなかったら最悪頼むかもしれない。」

 

 大人しくなったツアーをフラミーが家に送ると、アインズは我が子達にたずねた。

「マーレの持っている茶釜さんの森林竜(ウッドランドドラゴン)、あれのどちらは確かメスだったと思うんだが……誰か知っているか?」

 コキュートスと顔を見合わせてから、パンドラズ・アクターが口を開いた。

「仰る通り一体はメスかと。」

「そうか。マーレに一応、最悪どこにも良い竜がいない場合は会わせる約束をしてしまった事を伝えておこう。ナザリックの軍需拡大にも繋がると思ってつい急いてしまった。」

 アインズはデミウルゴスの時の失態を思い出しながらマーレに伝言(メッセージ)を繋ぎ、転移門(ゲート)を開いた。

 

 そこからは双子とニ匹の愛らしい仔山羊達が出てきた。

「アインズ様!フラミー様!御身の前に!」

「お、御身の前に!」

 アインズは双子に立つように手で促してから本題に入った。

「よく来たな、お前達。それで、さっきの伝言(メッセージ)の件なんだが、マーレ。勝手な事を約束してしまってすまなかったな。恐らく起こり得ないとは思うのだが…。」

「い、いえ!アインズ様がお望みなら僕はちっとも構いません!」

「嫌なら嫌で断ってくれて良いんだからな。ただの見合いとは言えもしその時が来たら本人の意思確認もしよう。」

「か、かしこまりました!あの、その時は僕からカキンさんに伝えます!」

 

「「なんて?」」

 アインズとフラミーは思わず疑問が口から漏れた。

 

「マーレ、あの森林竜(ウッドランドドラゴン)って課金さんっていうの?」

「え?はい!昔ぶくぶく茶釜様が至高の御方々に、『私が命をかけて手に入れたカキン・ドラゴン』と仰っていたので、その、皆それがお名前なのかと…あの、違うんでしょうか…?」

 アインズとフラミーは吹き出した。

「なるほどな。確かにあれは課金ドラゴンで間違っていないとも。」

「ふふふ、おかしいなぁ。」

 フラミーは愉快そうにクスクス笑っていた。

 アインズは笑いを鎮静された後、他にも課金の名を冠している者がいる気がして唸った。

 ひとしきり笑うと、フラミーは満足して双子に尋ねた。

「カキンちゃんは好きな人とかいないのかな?」

 フラミーは二人と共に来た仔山羊に腰掛けた。

「アインズ様とフラミー様を心からお慕いしてると思いますよ!」

 アウラの元気一杯な声に、アインズはナザリックの者とは好きとか嫌いとか、そういう感情の話はあまり成り立たない物だと再認識した。

 

「フラミーさん、もしいつか見合いさせて、互いを気に入りあったらどう思いますか?」

「茶釜さんがどう思うかにもよりますけど、好き合えば素敵な事だと思います!」

「やっぱり茶釜さんが自分のドラゴンが子供を産む事をどう思うかがネックだな。」

 アインズとフラミーがどうだろうと唸っていると、マーレが嬉しそうに話し出した。

「あ、あの!僕はぶくぶく茶釜様は、その、子供を持つ事はとってもお喜びになると思います!だ、だって生命創造系のご職業にお就きになってますし!」

 どんな勘違いだとアインズは苦笑した。

「…あの人は声優だぞ。」

 アウラは座っているアインズの前に嬉しそうに駆け寄ると、骨の手に手を重ねた。

「わぁ!やっぱり!ぶくぶく茶釜様はセイユウなんですね!声を与えて生命(いのち)を吹き込むお仕事ですよね!」

 その瞳はマーレと揃ってキラキラ輝き、アインズは一瞬ポカンとしたのち、ふっと骨の顔を綻ばせた。

「はは、そうだな。その通りだ。聞かせてやりたいな。きっとあの人も喜ぶよ。プライドを持ってやっていたからな。」

 アインズは子犬のようなアウラの頭をたっぷり撫でて片方の細い太ももに内側を向かせて座らせた。

「あ、あの、アインズさま…。」

 マーレもアインズの側によるともじもじし始めた。

「ふふ、マーレも来なさい。」

 アインズは寄ってきたマーレも空いている方の太ももに乗せると、心底幸せそうに二人に話しかけた。

「ふふ。本当に可愛い子供達だ。茶釜さんにも渡したく無いと思うほどだぞ。」

 キャーと顔を擦り付けてくる子供達をアインズはよしよしと愛でた。

「子供を愛するとはこう言う気持ちなんだろうな。カキンやお前達もいつかこういう心が持てるだろうか。命令だから、とかではなく真実誰かを愛し抜いてほしいと思うよ。」

 誰よりも優しい声音でそういうと――「んぢぢうえ!!」

 アインズは鎮静された。

 

「な、なんだパンドラズ・アクターよ…。」

「私は御身の子供!!それも、直属の子供です!!!」

 直属の子供という聞いたこともない言葉にアインズは沈静された。

「そ、そうだな。」

「父上!!子供を愛でたい時は!!このパンドラズ・アクターを愛でて頂ければ宜しいのです!!!」

「あ、あの、アインズ様。僕はもういいですから、その、パンドラズアクターさんを座らせてあげて下さい。」

 マーレが遠慮がちに膝から降りて、フラミーの隣に並ぶとアインズはこれを膝に乗せるの!?と再び沈静された。

「これはマーレ様。素晴らしいご提案をありがとうございます。」

「うーん、それじゃこっちはコキュートスに変わってあげるよ!」

 アウラもぴょんと立ち上がるとフラミーの下へ行った。

「イ、イイノカ…。」

「待て、コキュートス。お前は物理的に無理だろう。」

 上に立つ者としてえこ贔屓するべきではない。しかし、アインズはデミウルゴスの作ったこの玉座が砕け散る姿を思い浮かべた。

(そ、それは…それで…。)

 アインズが一人思考に没頭しかけていると、その脇でフラミーがパンドラズ・アクターとコキュートスを手招きしていた。

 

「ズアちゃん今日スモールライト持ってます?」

「んフラミー様!もちろんでございます!!」

「じゃあ私が二人に当てますから、はい。貸して。」

 パンドラズ・アクターがもう辛抱たまらんという様子で子山羊達を縮めたアイテムをフラミーに渡すと、フラミーはスモールライトを二人に当て――二人は二歳児程度のサイズになった。

 

「…か、可愛い!!可愛すぎます!!」

 フラミーは仔山羊から立ち上がると床にぺたりと座って小さな守護者二人を抱き締めた。

 小さなパンドラズ・アクターはフラミーに触れる事をわずかに躊躇したが、幸せそうに微笑むフラミーを見ると、静かに身を任せてフラミーの顔の横に顔を収めて首に手を回した。

「…フラミー様…。」

 コキュートスもオォ…といつもよりずっと高い声音と息を漏らしながら四つの小さな手でフラミーの服を掴んでいた。

 背中には仔山羊がスリスリと体をなすりつけている。

「アインズさんアインズさん!見てぇ。」

 フラミーが興奮気味にアインズを呼ぶと、小さな守護者達も愛らしく振り返った。

 アインズは無言で近付いていくと、膝をついて掻き抱くように三人いっぺんに抱きしめた。

「こ、この光景は…確かに可愛すぎる…。」

「コキュートスもパンドラズアクターもずるーい!」

「ぼ、僕たちだってお膝に乗せてもらっただけなのに…。」

 アインズはフラミーの首から顔を離すと不満げな双子を手招いた。

 双子は顔をパッと輝かせて、アインズとフラミーに引っ付いた。

 

「はぁ、お前達はほんっとうに可愛いな!!」

 

 アインズはひと時の幸せに浸ったが、ビッグライトが未だ製造されていない事に気が付くと愛らしい息子を抱き上げて慌てて宝物殿にすっ飛んで行った。

 パンドラズアクターは父の膝の上でアイテム製作を行いながら、いつまでもアイテムが完成しなければいいのにとふくふくのほっぺを膨らませた。




次回 #21 跡を濁さず

ミニ守護者かわいいよぉ!!
タイトル詐欺になってしまいましたが、
ツアー、ナザリックとの間に子供を作ってお父さんになったら家庭から孤立しそうですね!笑

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