守護者達はもうじき出口が見つかるかもしれないといそいそ出発して行ったが、フラミーは行こうとしなかった。
やはり一人で動くのは寂しかったのかもしれない。
「フラミーさん、一緒に行きますか?」
「あ、あの…アインズさん…。」
「ん?」
言いにくそうにするフラミーの顔は少し汚れているような気がして骨の指でゴシゴシ拭いていると、フラミーはアインズの肋骨にゆっくり縋った。
「あれ?どうしました?」
髪を切ってからお団子を下ろしたままの頭を撫でた。
「私、素敵なお家もお友達も持ってるのに…。もっと欲しいって…思っちゃいました…。」
ナザリックと
「何か欲しい物があるんですか?俺が何でも取ってきますし、何でもあげますよ。」
アインズは未だに装備の揃っていないフラミーに必要なものを考え始めた。
「本当になんでもくれる?」
見上げて揺れる瞳に、アインズは骨になっておいてよかったと思う。
こう言うねだり方をするこの悪魔はちょっと卑怯だ。
「ぁ…俺が手に入れられるものなら、なんでも。」
「…じゃあ、じゃあ……アインズさん、あなたの全部を私に下さい。」
早く新しいローブを作って贈ろうと軽く考えていたアインズは吹き出した。
「そ、それは強欲ですね?ははは。全部か。参ったな。」
フラミーは
「あ…ダメ…ですよね。」
アインズは悩む。これらは自分だけの力で手に入れた物ではないし、これをフラミーに渡したからと言ってフラミーが自分と同じだけの力を持てるわけでもない。
特にモモンガ玉はフラミーには扱えないし、フラミーと家を守る為にアインズにはどれも必要だ。
「うーん、なんでもあげるって言っておきながら、アレなんですけど、もう少しハードル下がりませんか?」
フラミーは心底残念そうにするとアインズから離れた。
「やっぱり…ちょっと欲張りすぎたみたいです。……あ、あれ…?」
涙が溢れるフラミーにアインズはギョッとした。
「ふ、フラミーさん!?」
「あぁ……。ダメなのに…そんな……。私、鬱陶しい女だぁ……。」
そのまま床に座り込んでめそめそ泣き出したフラミーにアインズはしゃがんで目線を合わせた。
「す、すみません!俺、やっぱり何でもあげますから。こ、これですか?これが欲しいんですか?」
アインズは
フラミーは涙をこぼして首を振った。
「あ、じゃあこれですか?それともこっち?あぁー違いますよね、わかりますよ?わかってますから。ほら、これですか?」
アインズは青いたぬきのように次々とあれこれアイテムを取り出して行き、その周りにはいつの間にかアイテムの山が出来始めていた。
「あ、今度こそ分かりましたよ。ギルドスタッフですよね?」
レプリカのスタッフを渡しても、フラミーは頷かなかった。
「あいんずさん…。」
「じゃあ、やっぱりこれですか!?」
アインズはついには自分の腹の中の玉を取り出すとその手に握らせた。
「あっ…はは…。」
「ふ、フラミーさん…?」
気付けばフラミーは泣きながら笑っていた。
「ははは、凄い。こんなにたくさん…。ありがとうございます…。」
アインズは冷や汗が止まらなかったが、ようやく目当ての物がフラミーに渡ったようで安堵した。
「い、いえ…、どれでも好きなの持ってって下さい…。」
「嬉しい……。でも、はは…全部…いりません。」
「フラミーさん、これでもダメなんですか…?」
アインズの持つ価値のある殆どの物を前にフラミーはダメだと頷いた。
「そんな…じゃあ何が欲しいって言うんですか?」
「私が欲しかったのはアインズさんだけでした。」
「アインズサンの全部ですよこれが。」
国や世界に匹敵するほどの価値を持つ品々をザラザラと持ち上げてフラミーを見た。
「ははは。よくわかりました。あなたの気持ち。」
「へ?」
フラミーは持たされたモモンガ玉に嬉しそうにオデコをつけた。
意図した事はうまく伝わらなかったが、大切にしていた全てをくれようとしたアインズの事をフラミーは心から大切にしたいと思った。
今はまだ告白なんかするわけも無いと思われている妹のような存在でも、そばに居られる事には違いない。
「私、いつかアインズさんに…これだけが有れば良いって言って貰えるように頑張ります。」
フラミーはモモンガ玉を手にゆっくり立ち上がると、アインズの手を引っ張って立たせた。
「そ、それって…どう言う…。」
「えへへ。」
フラミーは笑うとアインズの手を引いて宝の山から抜け出し椅子を生み出した。
「さ、座って下さい。」
「は、はぁ…。」
アインズが座ると、フラミーはアインズの足の間に膝立ちになって大切そうに持っていたモモンガ玉を腹に収め直した。
「ありがとうございました。」
「あ、あの、フラミーさん?」
腹の玉を見つめる顔は少し名残惜しそうだった。
「本当は…本当はこれが欲しかったんですよね…?」
フラミーはぷるぷる顔を振ると、下ろしたままの髪の毛を耳にかけた。
アインズは欲しいなら欲しいでいいのにと思っていると――フラミーはアインズの太ももに手を着き骨を避けるように顔を斜めにすると、腹のなかに浮かぶモモンガ玉に口付けた。
「ちょ!!ちょーーーっと待った!!!」
アインズはフラミーの肩を持って自分の玉から引き離すといくら鎮静されても鎮静しきれない感覚に生えてもいない物がどうにかなる姿が見え、流れもしない汗で自分がビショビショになる気がした。
「は、はへ?」
「それは!!!ダメだ!!!」
慌ててアインズは椅子を後ろに引いてバタバタと立ち上がり、自分の前で跪くフラミーを乗り越えるように離れていくと秘宝たちを自分の闇に放り込み始めた。
キョトンとフラミーがその様子を眺めていると、アインズは物を放り込みながら背中越しに声を掛けた。
「フラミーさん!!今の絶対、誰にもやるなよ!!!」
妙に乱れた口調でガンガン物をしまう支配者にフラミーは笑った。
「はは。やっても全部くれようとする人なんて、アインズさんくらいしかいませんよ。」
おかしそうにするフラミーに、そっちじゃねーよと心の中で悪態をついた。
そしてこの人はペロロンチーノよりやばいんだと思い出した。
守護者二名は今回、どのくらいで戻るようにと言われなかった為たっぷり歩き回ってから戻ってきた。
「父上?」
アインズはあまりの精神疲労に自分で作ったベッドに倒れ伏していた。
最早何回抑制したかわからない。
「お前たち、戻ったか。」
「ハ。アインズ様。出口ガ見ツカリマシタ。」
「そうか、良くやったな。」
行こうと言わない支配者に違和感を感じると守護者は目を見合わせた。
「父上行かないので?」
アインズはゴロンと二人に背中を向けてから返事をした。
「もう少し休憩したらな…。」
守護者達は首を傾げると、椅子で足をぶらぶらしているフラミーを見た。
「父上に一体何があったんですか?」
「ん、ちょっと色々。」
苦笑するフラミーに、いちゃつき足りないだけかとパンドラズ・アクターは納得した。
「父上。次に来る時は宝物殿に直行するでしょうが、こうなったらマップをコンプリートしたいですし、行って来てもよろしいでしょうか。」
アインズは片手を上げて許可を出した。
「私モ行コウ。イクラ下手ナ地図デモ二人デ手分ケシタ方ガ早イダロウ。」
二人は再び立ち去って行った。
「フラミーさん。」
「はい。」
「次は何が欲しいのかちゃんと言ってください。」
全く人のこと弄んで、と不機嫌そうに言う背中に、ちゃんと言ったのにとフラミーは苦笑した。
次回 #28 それのありか
キャーーー!!!!!
フラミーさん、あんた頑張ったよ!!!!
あれ?でも何も進展してないじゃん!?
なぁに、しかし、来週中には本当の本当の本当にくっつけて見せますよ!!!(来週…