鬼滅の隻狼   作:たい焼き屋台

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隻狼二次創作増えそう……増えるよね?


鬼滅の隻狼

 長き夜が明け、朝日がすすき野原を照らす。内府と葦名の戦の音も気づけば止み、すすきを揺らす風が血の匂いを微かに運んでくる。

 

『踏みにじらせはせんぞ……!』

 

 葦名を守らんとせんとする、巴流の侍。

 

『儂はこの葦名を黄泉返らせねばならぬ……、ゆえに隻狼……お主を斬るぞ』

 

 国盗りの剣聖までも斃した狼は主の前で跪く。

 

 

 桜竜の涙、常桜の花を主に飲ませ、残す使命は不死断ちのみ。背から赤の不死斬り『拝涙』を抜き自らの首に押し当てる。

 

「最後の不死を、成敗いたす」

 

 主を含め、多くの人の人生を歪めた竜胤を断つ。

 

「人として、生きてくだされ」

 

 ――桜が、散る

 

 

 主も義父も、一度は全てを失った狼の忍は、約定に基づき不死断ちを為した。

 

 しかし、数奇な運命は狼の忍に新たな使命を与えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちりん

 

 ――鈴の音が聞こえる。

 

 ちりん

 

『そなたなど、まだまだ子犬よ』

 

 幻の使い手である師の声が聞こえる。訓練とは名ばかりの実戦で培われた実力に今は感謝している。最後には認めてもらえただろうか。

 

 ちりん

 

『しょせんは、野良犬だったか』

 

 義父の声。身の丈に合わぬ謀で己を滅ぼしたが、生きる道を与えてくれたのは義父であった。

 

 ……そうか。これが走馬燈というやつか。微睡みに身を任せ過去を思い出して見るも浮かんでくるのは血塗れの戦場だけであった。

 

 しかし、不意に思い出すのは口に広がる甘い味。

 

『狼よ、私のおはぎは、どうじゃった』

 

『旨う、ございました』

 

『で、あろう』

 

 あぁ、あのときのおはぎは旨かった。九郎様の嬉しそうなお顔を思い出す。今頃は竜胤から解き放たれて茶屋でも開いているであろうか。

 

 他愛ないことを思い出しているうちに意識は深く沈んでいく。――深く深く。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん。この人、腕が……」

 

「大変だ! 早く手当を……!」

 

 

 聞き覚えの無い声で目が覚める。凍てついた空気が体に突き刺さり、ぼんやりとした頭を徐々に覚醒させる。

 

(ここは……)

 

 霞む視界に映るのはまだ幼い兄妹であった。耳に特徴的な飾りと額に痣のある兄と、簡素な着物に身を包みながらも顔立ちが整っている妹。

 

 二人して雪の上で冷たくなっていた自分の体を引きずるように移動させる。声を出そうとしたが、かすれた呻き声しか口からは出てこず、気づいたときには意識はまた闇の中へと落ちていくのであった。

 

 

 

 

 

 次に目が覚めたときには見知らぬ家で寝かされていた。囲炉裏の火が冷え切った体を温めてくれたようで体も動けるようになっていた。

 

「……誰だ」

 

 襖の奥に声をかけるとビクッとした気配。そっと観察されていたようだが、忍である自分からすれば丸わかりであった。しかし、一切敵意を感じられない。葦名では戦が続いていたため不用心に他人を家に上げたりはしないはずだが。

 

「おじさん怪我大丈夫?」

 

「腕痛くないの?」

 

 ひょこっと顔を覗かせたのは朧気な記憶で見た兄妹よりもさらに幼い兄妹。その目にはこちらを心配する純粋な気持ちが真っ直ぐと伝わってきた。自身の腕を見るとそこにもはや見慣れた義手はなく、代わりに包帯が丁寧に巻かれていた。

 

「……やっぱりまだどっか痛いのかな?」

 

「……難しい顔してるもんね」

 

 薬師殿には眉間の皺が薄くなったと言われたはずだが……。しかし、そもそもなぜ自分は生きているのだろうか。もしや不死断ちに失敗してしまったのだろうか。思考の海に沈みかけていると新たな気配が近づいてきた。

 

「花子ー、茂ーご飯だぞーって、起きてる!! ちょっと待ってくださいね! 母ちゃん-! ご飯の用意一人分増やしといてー!」

 

 自分をここまで運んでくれたであろう痣の少年が元気に駆けていく。……ひとまず情報を手に入れよう。

 

 

 騒がしい食卓に混ざるのはなんとも慣れぬものであった。

 

「あ、自己紹介もまだでしたね。俺は竈門炭治郎といいます。こっちが妹の禰豆子で……」

 

 六人の子供と一人の母親のこの家族は炭を売って生活しているようだ。長男の炭治郎は父親がいないことで苦労しているはずだがそんな様子を微塵も感じさせない明るさであった。

 

「そういえば、あなたの名前はなんと言うんですか?」

 

「……狼」

 

「すごい! かっこいい名前ですね!」

 

 炭治郎は素直すぎて逆にこちらが心配になってしまう。葦名に戻ろうと場所を聞いてみたが、近くはともかく遠くの地名は分からないとのこと。閉鎖的な暮らしをしていれば仕方の無いことであろう。

 

「狼さんは刀を持ってたのでお侍様なんですか?」

 

 どうやら倒れていたとき義手も不死斬りも身につけていたままのようだ。道具袋まできちんと保管してくれていた炭治郎には感謝をしなければ。

 

「……侍ではない」

 

「じゃあ義手の中に手裏剣があったんですけど忍者なんですか?」

 

「……言えぬ」

 

 仕える主ももはやいないのについつい誤魔化してしまう。忍の掟は未だに己の中に染みついているようだ。

 

「炭治郎殿は……」

 

「炭治郎でいいですよ」

 

「……炭治郎は死人返りというものを聞いたことがあるか?」

 

 葦名の存亡が分からぬ今、自身がすべきことは竜胤の有無を知ること。竜胤がもとの場所に帰っていないのであれば、世は必ず乱れるであろう。……御子様もそんなことは望まぬはずだ。

 

「死人……? いえ、聞いたことないですね。人食い鬼の話なら婆ちゃんから聞いたことありますけど……」

 

「鬼か」

 

 鬼といって自分が真っ先に思い浮かべるのは赤く燃える怨嗟の炎だが……。戦無き地で怨嗟の炎が積もることは考えにくい。赤目のような変若水を飲んだものの成れの果てであろうか。

 

「鬼といっても実際に見たこと無いですし、ただの噂ですよ」

 

「そうか……」

 

 竜胤による乱れが無い、それは喜ばしいことである。ならば、自分はどうして生きているのであろうか。これから何をすればいいのか。戦場で佇んでいた幼子のときの自分とは違う。御子様のように歩むべく道は己で定めなければならない。

 

「炭治郎」

 

「はい?」

 

「……酒だ」

 

「まだ子供ですっ!!」

 

 感謝の印に最高級の酒を振る舞おうと思ったのだが……。一心様や仏師殿のように大人にしか喜んでもらえないらしい。

 

 

 

 

 それからしばらくは炭治郎の家で世話になった。薪を割るのを手伝ったり、山に入って熊を狩ったり、子供達とかくれんぼをして圧勝したりと穏やかな日常を過ごした。

 

「炭を売りに行くのか」

 

「うん。狼さんのおかげで食べ物には困らなくなったから、今度は禰豆子に新しい着物を買ってやりたいんだ。禰豆子にはいつも我慢させてばっかりだからなぁ」

 

 雪が降り積もり足場が悪い日にも関わらず、炭を売りに行くという炭治郎は嬉しそうに話す。

 

「手伝おう」

 

「私も!」

 

「狼! かくれんぼしよ!」

 

「えぇ! 兄ちゃん薪割り一緒にやるんじゃないの」

 

 大騒ぎになってしまった所を母上がまとめて自分だけがついていくことになった。雪が積もっていては歩くだけで重労働である。

 

「お兄ちゃん。狼さん」

 

「禰豆子。六太を寝かしてくれたのか」

 

「うん。大騒ぎしちゃうからね。狼さん、いつも手伝ってくれてありがとう。またおはぎ用意して帰りを待ってますね」

 

「かたじけない」

 

 以前好物を聞かれたときにおはぎと答えてから、禰豆子はおはぎをよく作ってくれる。御子様のおはぎより甘みがすくないおはぎが自分は好きであった。

 

 家族に見送られ山を下りる。最近は炭治郎も狩りに興味を持ったらしく、自分に色々と聞いてくるので気配の消し方などを教えている。ただ、教え方など分からないので全て実戦形式だ。炭治郎は真面目で飲み込みが早いので、数ヶ月の間でめきめきと実力をつけた。

 

「はぁ~……。狼さんみたいにウサギに気づかれずに回り込める気がしない……」

 

「鼻に頼りすぎだ」

 

 炭治郎は鼻がいいので感覚で動きがちだ。そこさえ直せば忍の動きももっと板につくであろう。

 

 

 

 

「思ったより時間がかかりましたね……」

 

「あぁ」

 

 炭は売れたが時間がかかってしまい、辺りは暗闇に包まれている。道中泊まっていけと声をかけられたが、忍は暗闇でもまったく問題がないのでそのまま帰ることにした。

 

「それにしても三郎爺さんよっぽど寂しいのかなぁ。人食い鬼なんているわけがないのに」

 

 先ほど声をかけてきた老人。曰く、夜になると人食い鬼がうろつき出す。なので、夜は家にこもっているべきだと。

 

 冗談にしてはあまりにも真剣な顔つきだった。首なしや七面武者といった怨霊の類いとも斬り合ったことのある自分にとって鬼がいてもなんの不思議でも無い。腰の楔丸に自然と手が伸びた。

 

 家に着く直前、先に変化を感じ取ったのは炭治郎であった。

 

「血の……匂い?」

 

 瞬間、自分は駆け出していた。楔丸を抜き、家と同時に目に入ったのは末っ子の六太を庇い、何かに斬られる禰豆子の姿であった。

 

ガシャン!

 

 義手に仕込まれた瑠璃の手裏剣が光の筋を描く。禰豆子を斬ったナニかは手裏剣を躱すこともせずその身で受け止める。

 

ガシャン!

 

 投擲が効かないと悟るやいなや、仕込まれた忍具を変える。義手の見た目からは想像できないようなリーチをもった仕込み槍が胴体を貫こうとするが易々と手で止められる。

 

 狼は止められるもそのまま槍を思い切り引く。敵が急速に迫る中、首を落とさんと刀を振るう――

 

「!?」

 

「そんな刃ではこの首は落ちぬ」

 

 眼前に現れたのは口は血に染まり、筋肉が膨張し、額に角があるまさしく鬼であった。楔丸の刃は首の皮一枚も斬ることが出来なかった。

 

「狼さん! 一体なにが……禰豆子!?」

 

 遅れてきた炭治郎が惨劇を目にしてしまい固まる。鬼はその隙を見逃さず炭治郎に襲いかかる。

 

「くっ……」

 

 ぶつかるように炭治郎と鬼の間に入る。

 

 ぞぶり、と肉の抉れる音が頭に響いた。

 

「……狼さん?」

 

 瓢箪……丸薬……お米、全て家の中だ。腹が灼けるように熱い。真っ白な雪が赤く染まっていく。……炭治郎せめてお主だけでも逃げてくれ。声を出そうとも口から出るのは血反吐しかない。

 

 また、守れないのか。重くなる瞼に必死で抗っていると微かに見えたのは鬼に立ち向かおうとする炭治郎の姿。

 

 ――まだ、死ねない

 

 意志とは裏腹に暗くなる視界の中、声が聞こえた。

 

 

 

 

 

『狼よ、我が血とともに生きてくれ』

 

 





禰豆子の漢字どうやって変換すればいいですか……?(小声)

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