鬼滅の隻狼   作:たい焼き屋台

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第2話

ゴホッ……ゴホッ……

 

 竜胤の力を持つ者が死を重ねると、竜咳と呼ばれる病が世に振りまかれる。病に罹る者は狼と関わった者であり、竜咳に罹ると話すことさえ難しくなる。

 

 大いなる力には必ず代償があるものだ。果たすべき使命のため、何度も命を落とした狼は竜咳を世に広めていった。

 

 やがて、薬師であるエマが竜胤の雫を用いた治し方を見つけてくれたため、命を落とす者は現れなかったのが幸いか。

 

 

 

 

 

 目の前で炭治郎が鬼に喰われそうになっている。赤く染まる視界の中、狼は自分の体に竜胤の力が残っているのを感じていた。

 

(御子様…)

 

 狼は再び因果に巻き込まれる。

 

 

 

 ――回生

 

 

 

 禰豆子を背後に庇いながら、炭治郎の頭は高速で回転していた。

 

(狼さんが俺を庇って死んでしまった! 家の中からも血の匂いが溢れて止まらない! 禰豆子は呼吸しているみたいだけど早く医者に診せないと……!)

 

 目の前の鬼を油断無く見ながら次の一手を思考する。眼前の鬼の姿が消えた。

 

「っ!?」

 

 反応出来たのは奇跡だった。咄嗟に体を転がすとさっきまで自分の体があった場所には鬼の足が深々と突き刺さっていた。

 

「手間をかけさせるな」

 

 一瞬の攻防で炭治郎は己が絶対この鬼に勝てないことを悟ってしまう。力の強さも、動きの速さも全てにおいて桁違い。

 

(勝てない……! でも諦めない……!)

 

 狼に救われた命を無駄にしないため、家族の命を守るため、炭治郎の心は決して生きることを諦めなかった。

 

「……忌々しい」

 

 圧倒的な力の差を分かっていながらも、炭治郎の目の奥には希望の炎が燃えているのを見た鬼が憎々しげに呟く。日の出が近いのも鬼をいらつかせる原因の一助となった。

 

 鬼が炭治郎を物言わぬ肉塊に変えようと腕を振り上げた瞬間、

 

ドックン

 

 狼の心臓が動き出した。

 

 

 

 

(体は、問題ない……)

 

 信じられないものを見る目でこちらを見る炭治郎と鬼。無理もあるまい、体には穴が空き、血は池を作る勢いで流れ出ていた。

 

 しかし、竜胤の力は一度では死なぬ。己が諦めなければ一度でも、二度でも、何度でも立ち上がることが出来る。

 

「貴様……。鬼か……」

 

「……参る」

 

 鬼の問いには答えず、楔丸を構える。

 

 先手を取ったのは鬼であった。人間離れした早さの拳が狼に迫る。しかし、狼はその場から動くことはしない。楔丸を構えたまま、刃を拳に添える。

 

 ――弾く、弾く、弾く

 

 まるで、剣で打ち合うかのような甲高い音が森に響く。炭治郎には戦いの様子がはっきりとは見えなかった。

 

 一撃が必殺の拳をいなす。自分より遙かに大きな獅子猿や、長大な得物を振り回していた破戒僧と戦った経験から力だけの攻撃は恐れるものでは無い。

 

 弾きとは攻守一体。敵の攻撃を防ぎながら、相手の体幹を削っていく。最初は押していたはずの鬼の顔に焦りが浮かぶ。

 

(攻めているのはこちらのはず、ならばなぜこんなにも体が重い……!)

 

 思わず鬼が体を引くと、眼前には刀があった。

 

 寄鷹斬り

 

 体を大きく捻り、相手の懐に瞬時に入り込む。仏師から受け取った忍び義手の流派技。

 

「ぐぅ!?」

 

 体幹を大きく崩し、地に膝をつく。ハッと顔を上げると視界が真っ黒に染まった。刃が目に突き刺さる。

 

「がっ!?」

 

 目を潰したところで鬼の傷はすぐに癒える。狼を突き飛ばし、その隙に傷を癒やす。わずか数秒で視界が戻った鬼は、”死”を感じた。

 

 奥義・不死斬り

 

 ――赤い剣閃が夜の闇を斬り裂いた

 

 

 

 

(逃げられたか……)

 

 手応えはあったが、浅かったようだ。奥義を放った後の一瞬の隙に鬼に逃げられてしまった。

 

(不死斬りが抜けた……。やはりこの身には竜胤の力が残っているのか)

 

 常人には抜けぬ不死斬りを抜けたことで、竜胤がこの世に残っていることは分かった。ならば、為すべき事は一つ。今度こそ、不死断ちを果たす。

 

「母ちゃん、花子、竹雄、茂、六太」

 

 思考を現実に引き戻したのは炭治郎の力なき声。家の中に生きているものは誰も居ない。昨日まで騒がしかった家の無音が炭治郎の心を抉る。

 

 台所には作りかけのおはぎがあった。

 

「禰豆子だけは死なせない……」

 

 唯一、息があった禰豆子を背負い炭治郎は駆け出す。……しかし、あの出血量では。後で弔いに来ることを心で固く誓い、狼も炭治郎の後を追う。

 

 先ほど登ってきたばかりの山を全速力で駆け下りる。荒い呼吸の炭治郎に比べ、禰豆子の呼吸は小さくなるばかりであった。

 

 やがて、背負うのを交代しようと言い出そうとしたときだった。炭治郎の背の禰豆子が吼えた。

 

「グオオオオオ!!!!」

 

「!?」

 

 慌てた炭治郎が禰豆子と共に崖下へと落ちていく。すぐさま義手の鍵縄で二人の後を追う。

 

「無事か?」

 

「へ? あ、大丈夫です……。そうだ、禰豆子は!?」

 

 辺りを見回す。禰豆子はすぐ近くに()()()()()

 

「よかった! 禰豆子、すぐ町まで連れてってやるから……。狼さん?」

 

 炭治郎の肩を掴んで下がらせる。手はすでに楔丸を掴んでいた。

 

「禰豆子……?」

 

 炭治郎の問いかけに伏せていた顔が上がる。そこに、いつもの優しい顔をした禰豆子はいなかった。

 

 目は血走り、牙が生えた禰豆子は、鬼であった。

 

「炭治郎……下がれ」

 

「狼さん!? 違う! 禰豆子は鬼なんかじゃない。生まれも育ちも人間なんだ!」

 

 刀を抜いた自分を見て、必死に引き留める炭治郎。だが、もはや常人では生きていられぬ程、血を流した禰豆子が人間であるとは思えなかった。

 

「狼さん! 止めてくれ! 禰豆子は最後の家族なんだ! きっと鬼から戻る方法だってあるはずだ!」

 

 炭治郎の言葉に迷いが生まれる。確かに、自分は鬼について詳しくない。もしかしたら、鬼になってしまった禰豆子も心優しい少女に戻せるかもしれない。

 

 迷えば、破れる。

 

 一心様の言葉が頭をよぎる。こちらの迷いを見透かすように、禰豆子がこちらに襲いかかってくると同時、もう一つ接近してくる影があることに気づく。

 

 その影の殺気が禰豆子に向いていることを感じ、狼は決めた。

 

「炭治郎……禰豆子は任せる」

 

「っ! 任せて!」

 

 禰豆子に背を向け駆ける。炭治郎ならば、機転が利くあの子ならば状況を変えてくれるかもしれない。

 

 自分はそこに邪魔が入らぬようにしよう。

 

 立ち止まり、楔丸を構える。

 

「お前は誰だ? なぜ、鬼をかばう」

 

 現れたのは、まだ年若い青年。しかし、その若さとは裏腹に練り上げられた剣気は並のものではない。

 

 言葉の代わりに構えをとる。

 

「何が目的かは知らんが……、そこをどいてもらう」

 

 青年が剣を抜く。波紋が一つも無いような穏やかな水面の如く。戦いは静かに始まった。

 




感想がいっぱい…
うおおおお(モチベ爆発)
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