電撃同時結婚式から2週間後、基礎訓練課程を終えた、175センチほどの背丈に無精髭を生やした日本の新人隊員がシックスに修了の報告した。
「望月寛二、本日を持ちまして基礎訓練課程修了の報告を終わります」
「ごくろうだった。ところで成績なんだが・・・射撃は平均だが体術は評価できる。特技のキックボクシングが良いように響いたようだな、これからも精進したまえ。それから、君はせっかちなところがあるみたいだ」
「はい。ガキの頃から」
「おかげで被弾率は高いぞ。焦りは自滅に繋がるからコントロールするように。私からは以上だ」
「失礼します」
寛二は少し変わった経緯で入隊している。元は山梨県警SITだったのだが、仲間達が倒れていくなか撤退命令を聞かずに一人でODTに立ち向かい全滅、人質を救出して帰還したが命令違反を理由に解雇されている。夢だった東京に上京し友人の伝手で広告会社の平社員として穏やかな日々を送っていたある日、ドミンゴ・シャベスとその側近にスカウトされレインボーに入隊した。この時、源太は新婚休暇により基地に顔を出していないため、二人はまだ出会っていない。
「真田源太・・・山梨でも有名だったなぁ。多くの若手から尊敬を集め、ベテランも唸らせる腕。俺も彼みたいにリーダーシップとって戦いたい」
「カンジ、ちょっといいか?」
「あ、ジャンさんどうもっす」
左足を引きずるように歩くフランスGIGN出身のジャン・カンテ。元々実戦部隊だった彼はODT事件の最中に足を負傷し技術班に異動した経歴を持つメカニックだ。
「お前に良いものをやろう。俺が本当は使いたかったがもう実戦には出れないからな」
渡されたのは円盤状の地雷みたいななにか。
「ゲームやってて作ってみようと思ったんだ。こいつはセンサーで敵を感知し15センチほど跳ね上がり爆発する地雷だ。クレイモアと違って破片数が少ないため殺傷力は劣るが壁に張り付けて使えるのが特徴だ、壁にも床にも設置できるから考えて使ってくれ」
「ありがとうございます。しかしどのくらいかかったんです?」
「地元のジャンク屋で入手したり廃材をもらって作ったから安いよ。あぁ心配いらん、150回テストしてちゃんと全部正常に動いたから信頼性は高いはずだ」
「おぉ・・・」
フランス・パリ。真田夫妻がここを新婚旅行先に決めたのには理由がある、料理が美味いのと妻であるアナスタシアがロケ先として行った際気に入ったからである。夫の源太は喜んでアナスタシアが買った商品の荷物持ちを引き受け、笑顔の彼女を優しく見守る。
「こっちに行きませんか?ミナミのポスターが売ってます!」
「あぁわかったから置いていかないでよ、迷ったら大変だぞ」
18歳相応の無邪気さを見せる銀のショートカットの美少女、アナスタシア。元々日本でアイドルをやっていた彼女は、日本を震撼させたODT事件に巻き込まれた際、救出部隊として行動していた源太と出会い、彼に一目惚れした。様々な葛藤があったが猛烈なアタックが実を結び、ついに夫婦となったのだ。
「だから待ってって・・・!?」
背後からトラックのエンジン音が聞こえたと思えば、自分達のいる車1台ギリギリの狭い道に突っ込み人や物を跳ね飛ばしながら暴走しているのが見えた。源太はとっさに荷物を捨てアナスタシアを店の中に引き入れた。幸い無傷で済み、大事には至らなかったが荷物は無事では済まされなかった。
「大丈夫?」
「ダー・・・」
「荷物はアレだけど、無事でよかった。しかし、あのトラックはいったい」
見た目が70超えた店の店主が教えてくれた。
「ここ最近、自爆テロじゃないけどああいったテロが増えてるんだ。知り合いの警官によるとさ、運転手には共通点があるって話だぜ」
「共通点?」
「体の一部に多頭の蛇ハイドラのタトゥーがあるんだ。襲う相手は無差別らしいからおっかないったらありゃしないぜ」
「警官が捜査情報を教えてくれるのか?」
「これでも刑事課のトップだった男なんだ。かつての部下が事件解決に手伝ってほしいって言うからその条件で得た情報だ」
胡散臭いがひとまず信じることにした。
「・・・これじゃ新婚旅行って気分じゃないな。邪魔したな」
アナスタシアの手を握り、店を後にする。
「しかしあんなおっかない顔した日本人は初めてだぜ」
「私が北海道で会った時は、もうちょっと険しいと思ったけど?」
「人が悪いよミスター・クラーク」
店の奥から実年齢以上に茶目っ気がある返事をする男、ジョン・クラークがそこにいた。
「アンタには世話になってるよ、このストリートの治安向上に一役買ってんだからさ」
「ならいいじゃないか。もしかしたらトラックテロがなくなるかもしれないよ」
「だったら、クラークさんの一案で」
「確かにそれならこのストリートにおけるテロはなくなるかもしれない。だが、ハイドラの暗躍はフランスだけじゃなくなってる。パリはおろか、ヨーロッパ全体はもちろん、アジアにも巣食っている。この年寄りの知恵だけじゃどうにもならないだろうね」
「・・・アンタはいったい何者?」
「次世代に自分の知恵とアイディアを伝えるただのジジイさ」
ホテルに戻った源太とアナスタシアは、今後のことを話し合うことにした。彼女は先ほどのテロで怯えており、悠長に楽しむ余裕がなさそうである。
「新婚旅行がこんな形になってしまってすまない。ヘリフォードに帰ってまた別の日に旅行に行こう、それならいいだろ?」
「・・・」
頭を縦に振る。
「今日は帰国の準備して、もうホテルから出ないようにするしかない。今夜は添い寝ぐらいはしてあげる」
彼女の細い身体を抱きしめようとした途端、スマホが鳴り響く。
「ごめんちょっといい?・・・こちら源太」
「すまない新婚旅行中に。明後日、基地に来てほしい。君に紹介したいメンバーが入ったんだ」
「それだけですかハリー、何か言いたいことがあるのでは?」
このハリーという男、レインボー再建に大きく携わった女性シックスの後任に選ばれた優秀な指揮官で、若いながらも賢明な判断力と観察眼の持ち主。頭もキレるため若手隊員の相談役になっている。ドミンゴが復帰してからは彼のサポーター兼リクルーターとして動いている。
「ボクが探した人材なんだけど、すごいところにいたんだ。どこだと思う?日本の小さな広告会社だ」
「ウチは広報部なんていらないんじゃ」
「彼の経歴に興味があった。山梨のSIT内で優秀であったにもかかわらずクビになって広告会社に転職して才能を生かせずに埋もれていたんだ。まるで原石を掘り出した気分だったよ」
「っで、その原石を俺が実戦で磨けと」
「基本的訓練はエリアスに任せて既に終わってる。ジャンが彼のためにガジェットをプレゼントしたって話もあるんだ」
「話が見えないですな」
「実践経験を別のオペレーターの近くで学ばせたいと思ってる。だから、君達チームシュバリエの一員にするって決めたんだ。エリアスだと型破りなことが多いからね」
「・・・了解ハリー。また明後日」
電話を切り、アナスタシアに視線を戻す。
「次の旅行予定が未定になりそうだけどいいかな?」
「アーニャは大丈夫です。いつまでも、待ってますから」
「わかった。それじゃ今日はゆっくり休もうか」
ブリッツのうわさ
顎の事を言うと笑いながら怒るらしい