本名:サイフ・アル・ハディド
寡黙で非常に威圧的な見た目だが、根は常識人なヨルダン出身オペレーター
その類まれな身体能力を生かした技術、レマダッシュで任務を達成する
ヨルダン・某所。砂漠を走るトラックの荷台に乗るアルファチーム一同は、それぞれの得物を手に取り、目的地までじっと大きな揺れを我慢していた。今回はヨルダン出身の大男、サイフ・アル・ハディトが同行する。彼は寡黙で筋肉質なため、多くの人間が彼に恐怖する。しかし
「ハディトさんもどうです?」
寛二はポケットからガムを取り出す。
「えっと・・・名前を忘れた、教えてくれ」
「寛二です、望月寛二」
「おぉそうだった。礼をいう」
意外にもガムを受け取り、それをポケットにしまう。
「以前なら、そうはいかなかったのに」
「人は少し変われる・・・いや、柔軟になるもんだぞヨハン。お前も嫁さんもらって丸くなったろ?」
「・・・一理ある」
源太も少し笑う。アナスタシアと結婚してから、冷たい目をすることが減り、仲間との会話も弾むように努力するようになった。入隊直後は教官のジョーダンとも仕事の時以外は必要最小限の会話に留め、最初に仲良くなったヨハンとさえ、プライベートでもあまり会話をしなかった。
「そこの色男もそうだ、ユーリの娘を娶って鼻を伸ばしているのを見たことあるぞ」
「な!?」
ホワイトマスク事件を機に、ハディトは態度を軟化させた。多くの仲間達と戦っていくうち、自分のことを全部見せなくとも、それを気にせず接してくれる存在がいつの間にか彼の心をほぐしてくれたのだ。
「お、オリックスだってDVD屋で世界の絶景百選買ってニヤニヤしながら帰ってるの見たことありますよ」
「好きなモノ買って笑わない奴はいない」
オリックスはハディトのコードネーム。彼の十八番の突進から、雄々しいアフリカの草食獣の名前が付けられたのだが、15を越えた時からの経歴に多くの謎があり、今なお全く明かされていない。しかし、彼の体験した非人道的な出来事があっても生きていられたのは、彼が非常に優秀だと裏付けている。
「ところで、ヨルダンは初めてか若人共?」
「えぇ。途中で難民キャンプが見えまして、その・・・俺達って、無力かもかな~って」
「おい寛二、下手な情けは悪い方向にしか進まんぞ」
源太が厳しい口調で注意する。
「ゲンの言う通りだ、変に憐れむ時間があったら目の前の任務のことを考えとけ」
静かに聞いていたオリックスが口を開いた。
「若造。かわいそうとかどうとかはどんな馬鹿でも思うことができる。だがな、様々な事情でキャンプにいる連中にそんな言葉を投げかけんじゃねぇぞ」
静かだが迫力のあるオリックスの言葉に、寛二は思わず萎縮する。
「・・・反省ありだな、よろしい。いつでも出れるようにしておけ」
途端、運転していた雇われドライバーが急ブレーキをかけ、荷台に乗っていた四人が大きくバランスを崩した。それぞれの得物を手に荷台から降り、トラックの前にいる何かを確認する。そこにはアスリートのような走りやすい薄着の青年がフラフラとこちらに向かって歩いてくるのだ。周囲に敵がいないか確認すると、青年を荷台に乗せ、積んでいた水と岩塩を与えた。
「おい、生きてるか?」
「ぷはぁ。生き返った~・・・あ、俺、大河タケルです」
「どうしてあんな格好で砂漠を歩いていた?」
「えっと、助けを呼ぼうと思って、監視の目をごまかしたのはいいのですが・・・昼夜歩いてたら死にかけて」
「監視?」
「実は、ずっと前にイスタンブールで別の事務所の女の子とロケに参加してたのですが、その子と一緒に捕まっちゃって・・・あぁ、オッサンらが進もうとしてる方向に、3階建ての家があるんすけど、そこで監禁されてたんです。無断で抜け出したから、たぶん警戒してるかと」
眉間に皺を寄せたオリックスが静かに怒りを表す。
「・・・坊主、その女の子が死んだら責任とれるか?」
「え?」
「お前が逃げ出したおかげで彼女の人質としての価値がなくなり、その場で殺されたら、家族はおろか慕っていた人間全員を敵に回すことになる。それを知ってて動いたのか?」
「いえ、その」
「異国の地で一人は心細いだろうよ。側にいて励ましていれば、少しは平静でいられたろうに・・・彼女は俺らが救い出す、トラックの中で隠れてろ」
トラックは目的地より100メートルほど離れた場所で停まり、アルファチームとオリックスは荷台から降りた。影の向きと監視の目に気をつけながら建物に近寄り、開いている窓からドローンを投げ入れ、スマホで操作して敵の位置と数、人質の位置を掴む。
「敵は30人と2階のロビーに人質がいる。寛二とオリックスは1階から、俺とヨハンは屋上からアタックします。自爆兵もいますので、ご注意を」
「ふん。行くぞ若造」
寛二は得物のUMP-9を構え、開いている窓から入り、オリックスはスパス12を背負ったまま彼の後ろに続く。違和感を覚え聞こうとしたが、そこにはハンマーナックルの構えをした彼が何やらタイミングを計っている。
「な、何を・・・」
「サポートは任せたぞ」
正面を避けるように移動すると、それを待っていたかのように壁に向かって突っ込んで行き、そのまま壁に人間一人分ぐらいの穴を空けた。壁の向こうにいた敵は文字通り吹き飛び、態勢を立て直そうとするが、スパス12を構えたオリックスに倒され、音で寄ってきた増援に対し、寛二はグレネードと銃撃で撤退する時間を稼ぎ、狭い勝手口から外に出る。敵も彼らを追いかけるが、追いつくことはなかった。予め用意していた跳躍地雷に引っ掛かり走っていた連中は一斉に転び、そのまま鉛玉とグレネードを浴びることになったのだから。
「映画じゃあるまいし、こんな派手なことさせやがって」
「こっちのセリフですよ。体当たりで土壁破壊って狂ってる」
「うっせ、これで飯食ってんだ。さっさと行くぞ」
オリックスの特技、レマダッシュは自分が傷つく代わりに補強されていない壁を破壊することができる。それだけではない。
「確かこの上が人質のいるロビーに通じてんだろ?」
「まさか、よじ登るんじゃ・・・落とし戸が開いてるだけですし梯子でもないと」
「今ゲン達が上で暴れている。音に紛れて奇襲をかけるしかない」
有言実行、勢いをつけて落とし戸へジャンプし、様子を探った後よじ登った。数秒後に奇襲は成功。人質の少女を連れて落とし戸から降りてきた。
「まだまだ若いのには負けんさ」
(いや、俺には真似できませんって・・・)
源太達は人質救出及び敵の殲滅を確認し、成功の報告を入れた。しかし、その空気は決して良いものではなかった。荷台で一緒に乗っている少年少女が互いに向き合い、気まずそうにしている。
「・・・」
「・・・」
呆れた顔で源太が助け舟を出す。
「タケル、こういった場合は男から頭を下げるんだ」
「・・・その、ごめん。勝手に行動しちゃって君を一人にさせて」
「い、いいよタケル君。あずきのこと、助けようとしたんだよね?」
「でも、却って危ない目にあったんだから、俺をもっと攻めても」
あずきと自分のことを呼んだ少女は、タケルに顔を上げさせ、そっと頬にキスをする。タケルはてんやわんやで驚き、端から見ていたレインボー達は彼女の行動に思わず目を丸くする。
「あ、あ、あずきちゃん!?」
「タケル君を元気づける大作戦成功!あずき、信じてたよ、ちゃんと助けてくれるって」
「・・・」
青春独特の甘酸っぱい空気に耐えかねたオリックスは、少し困った顔で割りいる。
「あー青春ドラマやってる最中に悪いが、そろそろ軍のキャンプに着く。そこで輸送機に乗り換えて日本に帰るように。イチャコラは自分達の家でしなさい、一人だけ独り身で寂しい奴がいるんでな」
「な!?い、いつか俺にも春が来ますって!」
最後に青春ドラマを間近で見せられるというアクシデントに遭遇したが、この任務で貴重な情報を入手できた。黒埼ちとせのもう一つの故郷、ルーマニアに彼女の秘密が隠されていることだ。オリックスとはヨルダンで別れ、アルファチームはブカレストへ向かった。
オリックスのうわさ
ゴリラと呼ぶと機嫌が悪くなるらしい