イギリス・ヘリフォード。今日は保育園が休日なため、真田邸に里奈が訪れている。
「この前、ダーリンにお昼作ったら、ちょー喜んでくれたポヨ!とても美味しいよって、クールな感じに喋ってビリビリってきちゃった!」
「源太さんも素敵ですよ。ダンスの練習して終わると、いつも飲み物とタオルを手渡してくれます。素晴らしいダンスだったって、褒めてくれます」
「あ、その、私も混ざってもいいのでしょうか?」
自分の旦那談議に花を咲かせている二人を尻目に、現在独り者のあやめは話に入れないでいた。
「あやめっちも、恋とかしたことないの?」
「私も興味あります。アヤメ、教えてください」
「えっと、その・・・恥ずかしいですが、最近気になる殿方に、その・・・」
赤面になりながら小さくなる。
「なになに?」
「にゅ、入浴シーンを・・・ゴニョゴニョ・・・」
衝撃的なことを聞いて、思わずあきれ顔になる二人。
「あぁ~そりゃ責任取ってもらわないとダメポヨ。乙女の恥じらいを見ちゃったからにはねぇ~」
「大丈夫ですか?何かあったら相談乗りますよ?」
「え、えぇ大丈夫です。ヘリの中で責任取ると上司の前で宣言してくれたので」
数週間前のルーマニアでのことを思い出して恥ずかしそうに小刻みに身体を動かす。
「でも不思議ですね。異国の地で日本の方と出会って、恋をして・・・昔のくノ一も主に心を奪われたらこう思うものなのでしょうか」
「う、ウーンどうかな・・・まぁ、あやめっちが幸せそうならいっか」
ヘリフォード基地内。源太は自分のブース内で訓練で使った武器の手入れをしていた。休暇にもかかわらず、訓練に参加したのは身体が鈍るからである。
「隊長。いいっすか?」
寛二がラフな感じで感じがドア越しに話してきた。
「なんだよ急に、昼間から飲まねぇぞ」
「そうじゃなくって、アナスタシアさんと結婚した理由知りたいなって」
「あ?あぁそりゃもう俺も彼女も同じ思いで」
「えっと、間違えて覗きをしちゃって責任をー」
「おめぇと一緒にすんじゃねぇぞ!」
レイジングブルの銃口を寛二に向ける。
「す、すんません!」
「言っとくが、思ったより出会い自体はハードだったが交際は普通だったぜ。ODT事件の時に、人質だった彼女を救出したのが最初の出会いさ。あの時の指揮官だった俺の義父、ユーリ大佐の顔はそりゃもう悪鬼羅刹も裸足で逃げるほどおっかなかったぜ」
「そん時に顔覚えてってことです?」
「っで、大佐はお見合いみたいな感じでセッティングして、事件が終わってからこっそり交際してって感じだ。まぁ彼女の一部同級生にはバレたけどな」
「アイドルと秘密の交際。くぅ~ハラハラしますね」
「俺らの一件で346プロは活動に支障をきたさない限りは男女の交際はOKになったんだ。お前もテレビ見ただろ?」
「ま、まぁアレには驚きましたが」
レイジングブルをショルダーホルスターにしまうと、メンテナンスに戻る。
「チームシュバリエのジャンとカルロス以外が交際って感じになってんだけど、知ってたか?」
「えっと・・・松永涼とレイモンド隊長がラブラブで、五郎と首藤葵ちゃんが何となく良い感じってのは」
「まぁすごいよな。人生って奴はさ」
手入れを終え、ガンボックスにHK416カスタムをしまう。
「そう言えば隊長知ってます?346プロ内で隊長のファンクラブあるの」
「ただの噂だろ?俺なんか気にしても意味ないだろうに」
「あやめちゃんから聞いたんですが、神崎蘭子ちゃんが会長になってて、何かと妄想を語り合う場なのだとか」
「・・・そうか。元気そうで何よりだ」
「っで。会員は本田未央ちゃんに五十嵐響子ちゃん、大和亜季ちゃんに白菊ほたるちゃん。いや~モテますな~」
「俺、既婚者なんだけど・・・変に拗らせなきゃいいけどな」
額に大粒の汗をたらす源太。自分では気づかなかった変わった特徴を知り、今後彼女達とどう接すればいいのか頭を抱えてしまった。
「まぁ考え込んでもどうしようもない。お前も早く帰っていつでも備えておけ」
源太は家路を歩いていると、北陸を思わせるほどの大雪が降ってくる。ニット帽を深くかぶり、愛妻の待つ自宅へと足を進める。
(あの子は寒くないだろうか。北海道や北陸に匹敵するから、風邪を引いてなければいいが)
家の中に入るとコートやニット帽についた雪を払い落し、玄関のハンガーにかける。
「帰ったよ」
「おかえりなさい、大丈夫でした?」
「あぁ平気さ。それよりも風邪とか引いてない?何か心配事は?」
「心配さんですね、源太さんは。アーニャは元気ですよ」
いつもと変わらない笑顔を振りまく愛する妻を見て、源太は自身の疲労を忘れていく。
「よかった。仕事で君に会えなくって、ちょっと辛い時があってさ、こうやって会えてよかったよ」
「フフ、アーニャもです。・・・あ、そうだ、今日はアヤメが夕ご飯を作ってくれました。早く行きましょう」
「あぁ」
そのやり取りの十数分後、何故か寛二が夕飯を食いに来る。誘った覚えがないとあやめに尋ねると、彼女が彼を呼んだらしい。ルーマニアでちょっとした事件があったが、意外にも上手くやっているようなので少し安心する。食卓にはアイドル時代の話やプライベートの話、出身地や昔話で盛り上がる。
「町内の夏祭りでな、未央の奴、はしゃぎすぎて迷子になりやがって、親御さんと俺とで散々探し回ったんだ。アイツくじ引き屋で水鉄砲を物欲しそうに見てて、当ててくれないとヤダって駄々こねて大変だったんだ。1回100円だったんだが、10回やってようやく当てたんだ。とんだ散財だったぜ」
「あー学生時代でそれはデカイっすよね。俺も1000円落として飯抜きになったことがあって仲間達に分けてもらったことがありましたよ」
「アーニャも、迷子になって泣いたことがありました。そうしたら、パパとママがいつも駆けつけてくれて、あやしてくれていました」
「ムムム、私は迷子ついでに忍者ごっこしていましたよ。大人達がなかなか見つけてくれなくって、怖くて大泣きしたことがありました。あとでわかったことですが、わざと探さなかったって知った時は思わず頬を膨らませてました」
迷子の話をして、ふと何か思い出した顔をする源太。
「そうだ、迷子でちょっとしたこと思い出した。俺が14の頃、見慣れない子が夏祭りで迷子になっていたのを見つけたんだ、ピンクに髪を染めて非常に目立ってた女の子。祭りの警備の手伝いをしていた俺は少ない小遣いでたこ焼きとか、かき氷とか買って宥めて迷子センターにまで一緒に行ったんだ、少しして親御さん達が来て、何て言ったと思う?」
「無事でよかったとか、心配したぞ、とか?」
「りあむ、どこ歩いていたんだ、この馬鹿が。ってな。頬を平手打ちしようとしたのを俺はとっさに止めて、親父さんを睨んだんだ。お父さん、娘に掛ける言葉を間違えていませんか?って言ってな」
アナスタシアとあやめは、驚いた表情で話を聞いていた。
「隊長、この頃から鱗片が見えていたんですね・・・」
「すると親父さんは教育方針を他人に言われる筋合いはないって反論してきた。だが、迷子センターのじいさんばあさん連中がな、お父さんや、その行動が子供の成長を阻むんじゃ。何故素直に心配してあげないんじゃって声を上げたんだ。さすがの親父さんも反省したのか、俯いたままその子を連れてその場を去って行ったよ」
お気に入りの湯呑に入っていた玄米茶を啜る。
「あれ以降、その子が来たことは無かった。今どうしてるんだろうな」
アナスタシアがその疑問に回答する。
「リアムなら、346プロにいますよ。見てください」
スマホでりあむの自己紹介ビデオを見せてくれた。あの時の少女が、誤解を招かねない言い方をしながら自己紹介している。
「間違いない、この子だ。そっか、元気そうだな」
「この子のツイスター見てるんですけど、意外な人がフォローしてますよ」
フォロワーに見覚えのあるバラクバラをつけたノルウェー人がいる。ハバード・ホーグランド、通称エースと名乗っている彼は、ナイトヘイブンのメンバーで、SNSで炎上したことがないだけでなく、世界中で注目される救助のプロだ。ハイドラ事件でも駆り出されており、彼は今でも元気に活躍している。
「彼がフォロワーになってから、りあむちゃんのツイストにも変化が現れて、炎上することがなくなったみたいですね。すっごいなぁ」
「しかし、何時知り合ったんだ?まぁどうでもいいか」
その後も思い出話で盛り上がり、とても有意義な時間を過ごしたのだった。
エースのうわさ
SNSで炎上しない方法を記した本を自費出版しているらしい