元346プロのアイドル
黒埼ちとせを主と崇め共に生きていたが、彼女の死に疑問を持ち、独自で調査していた
海野五郎と自分の担当プロデューサーの顔が似ているらしい
15時頃、タイ・バンコクにある古いビル。源太達が来る2日前、そこで政府要人暗殺に成功したハイドラが立て籠もった。地元警察の初動部隊からの連絡がなく、周囲一帯は緊迫と恐怖に包まれていた。3階建てビルの壁は木製で薄く、拳銃弾でも貫通するほどだった。タイ政府からの要請でレインボー派遣が決定、源太は大通りを挟んで向かい側のビルでブリーフィングを行った。衛星の情報で屋上に狙撃兵がいるのもわかった。
「この道路にパトカーという遮蔽物があるが敵は上から狙ってくる。そこで、より高いこのビルの屋上からヨハンが敵を狙撃しプレッシャーを与え外からの脅威を削ぐ、中に籠城する敵を俺と寛二で倒す。質問は?」
「狙撃した後はどうする、まさか新人にドローン索敵をさせるのか?」
「研修中は決して悪くなかったらしい。無論、俺もする」
「言っとくが、ドローン壊されても泣くなよ。お前しょっちゅう壊されてるからな」
「うっせ。さっさと行け」
太陽の位置を確認しながら狙撃態勢に入る。無線で突入準備を聞くとMSG90A2を構え、隙だらけの敵の脳天に狙いを定め静かに引き金を引く。発砲音が聞こえたと同時にドローンを動かし、アパート内部を偵察する。内部構造は意外にもブラジルのファベーラに似ており、大勢の人間がプライベート空間無しで共同生活していたのがわかる。それは同時に多くの敵が隠れにくい状態であることを示していた。
「終わったぞ、俺は三階に降りて見える敵を撃つ」
「了解、突入を開始する。ちなみに敵は21人いる」
源太が先頭に立ち、足音に警戒してクリアリングする。HK416A5カスタムのアンダーバレルに装着したM320グレネードランチャーに炸裂弾を装填し、待ち伏せしているであろう箇所に撃ち込み大きな穴を空け、3人同時に仕留めてみせた。増援が来たが即座に反撃しあっという間に鎮圧した。
「面倒なことはこれに限る」
「これで下から一気に降りてきますよ」
「階段が1ヶ所しかないし、変に動くより待ち伏せした方が安牌だ。それに、スナイパーの存在で三階の敵は動きを制限される。次に俺達が行うべきはだ」
一度外に出たと思えば、ラペリングで壁を伝って二階の狙撃を受けた窓から再突入することにした。予想通り、狙撃を警戒して部屋の奥に隠れているのが見え、フラッシュバンで視覚と聴覚を奪ってから突入し三階の制圧に成功する。
「おい新人、ちゃんと見て・・・アレ?」
振り返ると寛二の姿がなかった。下の階から銃声と爆発音が聞こえる。源太はため息をつき、寛二の援護に向かった。
「ヨハン、新人が勝手に動いた。援護してくれ」
「もうしてる。コイツは何考えてんだ」
周囲が静かになったかと思えば、ロビーでUMP-9を手に立ち尽くす寛二がいた。足元には先ほどまで生きていたであろう、テロリスト達の死体が倒れていた。
「終わったか?」
「えぇまあ。被弾しましたがね」
複数個所から出血が確認できる。源太は落ち着いて傷を見る。
「安心しろ掠めただけだ、さっさと帰るぞ」
任務は完了したが、この新人をどう教育すればいいか頭を悩ませる。迎えのヘリの中で無茶をした寛二から理由を問いただす。
「俺はその、隊長の行動見てまねただけです。結果としてオーライじゃないですか」
「シックスから言われなかったか、せっかちだって。お前の行動がチームに、自身の身に危機を招いているって考えたことがあったか?スポーツじゃないんだ、チャンスは一度きりしかない」
「でもそのおかげで早く終わったじゃないですか」
「・・・お前が死んで泣いてくれる人がいるのか?」
真剣な顔をした上司からの一言に驚きを隠せない。
「いてもいなくてもだ、たった一度きりの人生を棒に振るう真似は許さん。俺達は確かに命を張る仕事に就いてる。だからこそ、どんな場面でも生きて帰って自分を思ってくれる人々を安心させなくてはいけない。そこまで考えて行動したことあるか?ないのなら今後、俺の指示を聞いて行動してくれ、いいな?」
「・・・はい、了解しました。フフッ」
「なんだよ、おかしい事言ったか?」
「いえそうではないっす。SITの指揮官はそんなこと言ってくれなかったし、話すら聞かなかったんすから」
「安心しろ、俺の元上司もそんなもんだ。マニュアル通りなんてそう上手くいかん、それを知らんからな」
横で見てたヨハンが鼻で笑った。
「すっかりいい上司になったな」
「ヨハンまで何言ってんだ、隊長なんだから勤めを果たそうとだな」
「わかってる。見ていて思ったが最初期のお前も似たようなもんだろうが」
雑談しているとハリーから連絡がくる。一度ヘリフォードに帰還せよとのことだった。彼のことだから何かあるのだろうと思い、タイを後にした。
ところかわってヘリフォード。珍しくほとんどのメンバーが出払っており非常に静かになっている。ハリーのいる司令室に入ると、五郎とレイモンド、カルロスが先に来ていた。
「任務お疲れ様、役者が揃ったようだし本題に入りたい。チームシュバリエをアルファとブラボー分けて行動させたいけど、ゲンはどう思う?」
「その前に、何故分けるのです?」
「6人で踏ん切りがいいのと、実戦部隊と捜査部隊に分けることで敵の警戒を分散させる。アルファは普段通り人質の救出及びテロリストハント、ブラボーは市民や観光客等に化けて現地捜査を主にしてもらう。アルファのリーダーはゲンにやってもらうとして、ブラボーのリーダーは誰がやりたい?」
レイモンドが静かに手を挙げた。
「自分がやります。ブラボーに五郎を加えたいのですが」
「ゴロか。オッケー、任せるよ」
「ちょっといいっすかハリー、俺ブラボーに行きたいっす!」
思わぬカルロスのブラボー志望にハリーも驚いた。
「もちろんいいけど理由はあるの?」
「アイツら若いし内向的だ。俺のような陽キャラいると思うんすよ、ね?」
「・・・そう、ねぇ。僕から条件があるんだけどいいかな?まず騒ぎを大きくしないこと、不必要に物を破壊しないこと、ナンパは厳禁、レイモンドの指示には従うこと、勝手な行動は控えること。それを飲むなら行ってもいい。一つでも聞けないなら、別の新兵を派遣し君は訓練生に戻ってもらう」
口調は相変わらずだが、目線がシックスを経験しただけあって恐ろしく鋭い。さすがのカルロスも額に脂汗をかいた。
「の、飲むっすよ・・・」
「よろしい。君達の指揮官、アルファにはサーマイト、ブラボーにはユーリを置く。無論、彼らが現場に出る場合は彼らの指示に従って動いてくれ。寛二以外は解散して、いつでも動けるようにしてくれ」
マンツーマンになったことを確認すると、ハリーはリラックスした顔で寛二を見る。
「さて、ゲンに早速叱られたみたいだね」
ハリーは源太から送られてきた電子報告書とそれぞれの動きをまとめた3Dデータを拝見しているため、なにがあったのか知っていた。
「隊長の真似をしたら傷が増えました」
「なるほどね。逆に何故ゲンが負傷せずに制圧できたか考えてみたかい?」
「え?いや・・・」
「ゲンが三階から攻めたのはヨハンの狙撃を警戒して、狭い奥の部屋に隠れていたことを知っていたからさ。動きを制限させれば相手をコントロールできる。ゲンのグレネードランチャーなら生半可な遮蔽物を破壊して更に圧力を与えられるしね。君のガジェットはどちらかと言えば敵の遊撃を防ぐ役割だ。ゲンが刀なら君は盾の仕事をするべき」
「・・・ありがとうございます、ハリー」
「君はこれから多くの仕事に携わっていく。正面からじゃダメなら側面、背面といった多方向から仕掛けていくのがいい。僕からは以上だ」
話が終わり寛二が部屋を出たところでハリーのスマホが鳴る。愛妻からだった。
「もしもしどうしたの・・・え、千夜が頭を抱えて蹲ったまま部屋の隅から動かない?わかった、今から帰る」
千夜はオックスフォードにあるハリーの家で居候していた。普段から家事を手伝い、近所からの評判も概ねよく、馴染んでいたかに見えた。実は、幼少期の経験から炎を極端に恐れている。一度でも見れば発狂や恐怖が襲い掛かり不能に陥ってしまう。このことは夫婦で消防士のドラマを見ていた時、偶然発見したことだった。
「ただいま。どうだい彼女は?」
「ようやく落ち着いて寝室で寝てるわ。でも、何があの子をこんな状態にさせたのか」
「うーん・・・彼女のことは調べるとして、明日、カウンセラーと医者に診てもらおうと思う。今までチヨには主人という支えがあった。しかし、主人が亡くなった今、突発的に起こりうるだろうね。僕も立ち直るよう協力するよ」
「ハリー、昔より多忙なのに大丈夫?」
「なあに平気さ。それよりも、若いのに笑顔を作れず苦しんでいる人を見る方が辛いし」
マーベリックのうわさ
馬に乗る競技なら何でもできるらしい