この作品では元346プロのアイドルにして、主人公の一人である、ヨハン・シーボルトの妻
元来の明るさと優しさでイギリスに早くも馴染んだ。しかし英語はまだわからないため、ヨハンがいない間は、近所に住むアナスタシアに助けてもらっている
シーボルト家ではちょっとした事件が起きていた。里奈のアイドル仲間達が家に遊びに来ており、ヨハンが気を使って自室に籠ってしまったのだ。仲間の一人である、クセ毛で背中を追覆うほど長い金髪のアイドル、大槻唯が彼を部屋から出して一緒に遊ぼうとするが、気にするなの一点張りでなかなか出てこないのである。無論、蔑ろにしているわけではなく自分の妻が慣れない異国での気苦労を察し、少しでも気楽に遊んでほしいと思ってのことだ。
「ヨハンちゃんも一緒に遊ぼうよ~!」
「俺は今現在、気にするなって言ったの数えてんだ。もう7回も言ってんだけど」
「リナちゃんも心配してるよ~、ダーリンとしてちょっとマジヤバだよ?」
「・・・ちっ、仕方ない。今回だけだからな」
渋々ドアを開けリビングに向かおうとすると、唯が小さく悲鳴を上げる。彼の右手にP99が握られていたからだ。
「すまん、しまってくる」
リビングで里奈と彼女の友人達が楽しそうに会話したりジュースを飲んだりしているところを、ヨハンは温かい目で少し離れた場所から見守っている。元々自分から積極的に環に入る人間ではなかったうえに、かつていたドイツ警察及びGSG-9では里奈のような人間がひとりもいなかった。そのため、彼女一人だけならともかく、似たような人物が複数いると接し方に戸惑いを感じ、どうすればいいのかわからなかった。
「思ったんだけどさ、いつも怒った顔してるの?」
「誤解されがちなんだけど、考え事してる顔ポヨ。たぶん何か面白いこと考えてる系?」
考え事をしているのはあっているが、どうやったら客人を快く帰し夫婦の時間を作れるかを考えていた。
(・・・これって答えないんじゃ)
ヨハンにとって高速で蛇行するバイクの排気口を狙う以上に難しい課題。どうにかしてこの場をやり過ごそうとするが。
「ね~どこか行かない?」
「俺昨日まで働き詰めで休みたいんだが・・・君らだけではダメか?」
「英語わかんないポヨ」
「・・・ヘリフォードは東京とは違うから、そこは理解しておいてね」
街並みを歩くギャル二人と落ち着いた雰囲気のドイツ人男性。あまりに対照的な組み合わせに、街の住人も注目してしまう。
(恥ずかしい・・・だが、これも里奈のためだ、我慢せねば)
ヘリフォードに初めて来た唯にとって、そこは未曽有の地だった。都市とは聞いていたが東京や横浜、大宮とは違い、テーマパークでしか見たことないレンガの家や大空市場、養鶏場も住宅地に近くにあることに驚きを隠せていない。見どころをほぼ全て案内する頃には日が暮れ始めていた。楽しそうな妻たちの顔を見て安堵の表情を見せる。
(さてと、この子をホテルに送ってから話でもするかな)
ホテルに着くと玄関前に人だかりが見える。有名人が泊まりに来たのが知れ渡ったための野次馬かと思えば、視線の先に、右手にサバイバルナイフを持った男が子供を人質に取っているようだった。その子供の姿を見た里奈が驚く。
「あの子確か保育園の!ダーリンどうにかしてポヨ!」
「わかった。君らはここにいろ」
野次馬を割って男と対峙する。ショルダーホルスターにあったP99を抜き狙いをつける。
「光物を捨てろ、さもなくば風穴を開ける」
「てめぇ警官だな!俺の足元にいる蛇をどうにかしろ!」
足元を確認してみるが蛇はおろかひも状のものすら見当たらない。薬物による幻覚によって見境がなくなっているのがわかった。恐らく人質の子供がイタズラをしたとして、とばっちりを受けたのだろう。
「早くしろ!右肩にも這ってきたぞ!」
それに応えるかのように右肩に発砲、怯んで右手のナイフが少年と被らない位置までズレたのを確認すると、今度はナイフに数発撃ち刃を折る。子供が自力で脱出したと同時に接近しグリップで脳天を殴って気絶させた。遅れてやってきた警官に事情を話し、犯人を引き渡した。その手際の良さに野次馬達から歓喜の声が響いた。
(えっリナちゃんのダーリンって、すっごいカッコイイ・・・!?)
「さっすがダーリン、愛してる~!」
「よせって、恥ずかしいだろ」
これほどの事件があったにもかかわらず新聞の片隅に小さく載っただけで済んだ。しかし、シックスに口頭注意を受けたのは言うまでもない。帰国した唯は心の奥底で決める、タフガイで二枚目な男性を見つけると。
「ねぇダーリン、ちょっといい?」
「どうした、かしこまって」
「休み終わったら、また戦いに行くじゃん?絶対に帰ってくるって約束できるポヨ?」
「絶対とは言えないな。でも、君を残して死ぬつもりはない」
久しぶりの同じ寝床で向かい合う二人。どこか怯えた表情は、彼の心に強く印象付ける。
「君を妻にしてよかったと思う。いつも明るい君は疲れ果てた俺を癒してくれる」
「リナリナも、ダーリンがダーリンで嬉しい。だっていっつもアタシのこと思ってくれてるもん」
「周りからは冷血漢扱いされてるけどね。ドイツの知り合いに言わせれば月と太陽だってさ」
「???」
「月が光ってるのは太陽の光を反射してるから。俺が異国で戦えるのは、里奈が家を守ってくれてるからってことだよ」
「!!!」
里奈が顔を真っ赤にしてヨハンの唇を奪う。素早く離したと思えば顔まで布団を被る。
「・・・はずかしいポヨ・・・寝る」
「おやすみなさい里奈。必ず、生き抜いてやるからな」
キャッスルのうわさ
アーマーパネルは手作りらしい